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ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第三章 キングバルズ王国編
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026 次の街へ

 何事も起こることなく無事に冒険者ギルドまで戻ってきた。あまりにも何も起きなくて呆気ないほどだ。

 まあしかし、グレイターズには感謝しておこう。人喰い狼について教えてくれたしね。


「本日はありがとうございました」


 ギルドの前でペコリとお辞儀をする。


「いいよいいよ。ディスクードが変な事言ったお詫びとでも思っておいて下さい」


 ゼイベルが苦笑しながら漏らす。当の本人は後ろで不貞腐れているような表情だ。ここまで戻ってくるまでには誤解も完全に解けたのに、何を蒸し返してるんだとでも言いたげだ。


「さーて、お互い戦利品の換金に行きましょうか!」


 ルメリアはお金にご執心のようだ。エルフのサリルはというと、元々無口なのか道中でもほとんどしゃべっていない。

 ぞろぞろと六人揃ってギルドに入る。まだ依頼完了報告には少し早い時間帯だろうか、人の姿はまばらだ。

 カウンターのほうを見ると、俺たちに忠告をくれた黄色い髪の職員がいた。

 朝からご苦労様です。

 特に並んでいる人はいないようだが、その前に依頼の品以外の薬草採集の依頼票がないか確認しないとね。


「他にも採集したから、それの依頼がないか探そうか」


 ティアは見ても判別がつかないが、ちょっとくらい手伝ってもらおうかな。そんなに種類は多くないけど。確か集めたのは……。


「ティアも、フレイリーの花とドグルロ草の採集依頼があったら探してみて」


「りょーかい」


 あとひとつあるけど名前を忘れた。依頼票に書いてあれば思い出すかな?

 そんなわけで下から順に依頼票を眺める。

 うーん……、ないなあ。


「あ、ドグルロ草あったよー」


 ティアがひとつ見つけてくれた。


「じゃあそれも持って行こうか」


 結局他には依頼票は見つからなかった。集めた草の名前もわからず仕舞いだ。まあいいか、持っててもしょうがないし、売れるならここで売ってしまおう。

 ドグルロ草の依頼票をはがしてカウンターへ持っていく。


「あ、ティアリスさんにアフィシアさん! よかった。森の中には入らなかったんですね」


 俺たちを見つけた途端に安堵の息を吐いているが、残念だったな。


「危険なところには行きませんよ」


 自分にとっては。だけどな。


「追加でこの依頼の品も集めてきたんですけど、大丈夫ですか?」


 さっき剥がしたばかりのドグルロ草採集依頼を出す。


「ええ、大丈夫ですよ」


「じゃあお願いします」


 背中の籠からリフレ草とシブギ草とドグルロ草の束を取り出してカウンターに置いた。

 ドグルロ草は真っ白い肉厚の葉っぱだ。葉の形はまん丸で周囲はつるつるしており、ど真ん中に太い葉脈が走っている。多少の毒を持っているが、これが逆に解毒にも使われる。


「ええと、……多いですね。依頼としては十本で達成なので、どれも問題ないようですね」


 と言いながら薬草の数を数えていく。

 どうやらリフレ草が三十八本、シブギ草が三十二本、ドグルロ草が十三本あったようだ。


「買い取り価格は……、リフレ草が銅貨五枚でシブギ草が大銅貨一枚、ドグルロ草が銅貨八枚なので、合計で銀貨六枚と大銅貨一枚と銅貨四枚ですね」


 ほほー、値段なんて気にしてなかったけど、そこそこ稼げたかな。


「これに依頼達成報酬を合わせて銀貨六枚と大銅貨七枚と銅貨四枚です。どうぞ確認してください」


「ありがとうございます」


 ランクEの採集依頼達成報酬は、大銅貨二枚固定だそうだ。

 お金を受け取り確認する。問題なし。

 隣を確認すると、グレイターズの面々が裏の倉庫に行くところだった。さすがにカウンターに狼二匹分は出せないかな。


「ついでに他の植物も採集してきたんですけど、買取ってしてもらえますか?」


「はい、物によりますけど大丈夫ですよ」


 この際だ、籠から全部出すか。次々と出していく。

 フレイリーの花はしびれ薬として使われる。花びらは真っ赤で六枚ある花弁が折り重なるように螺旋を描いて伸びている花だ。

 もうひとつは名前は忘れたけど気付け薬だな。文字通り青い葉っぱはちょっと毒々しいが、眠気覚ましには抜群だ。

 そして最後に舞茸もどき。ちょっと採りすぎたから、余りは売ってしまおう。


「えーと、フレイリーの花が八個と、ブルーウェイが十個に、あー、これは……」


 あぁ、ブルーウェイだった。葉っぱなのになんとか草って言わないんだよな。


「このキノコがどうかしましたか?」


「ああ、このキノコは買取できませんね」


「えっ?」


「毒キノコですから。食べすぎたら死にますよ?」


 な、なんだってー! そんな馬鹿な!


「……あ、そうなんですか。……じゃあ処分しておいてください」


 持って帰って食べようと思ってた分も全部カウンターに出す。


「あはははは!」


 隣でティアが笑い転げている。いやいや、笑い事じゃないって……。

 先生、俺に何食わしてんだよ……。しかも死ぬって……。いや確かに最初は一口だけって、言ってたけど。

 ああ、あれだな。実は似たようなキノコがあるんだよな? 間違えただけだよな?


 うん、そうだ。きっとそうだ。

 俺はある予感を考えないようにして、見間違い説を押し通す。


「えーっと、ではフレイリーの花が銅貨四枚、ブルーウェイが銅貨四枚なので、合計で大銅貨七枚と銅貨二枚ですね」


 なんにしろ、キノコをティアに食べさせなくてよかった。というか何も言わずに集めたやつでよかった……。

 あれだ、見間違いかそうでないかは関係ないな。少なくとも先生に食わされたやつは今後食わないようにしよう。


 まだ笑ってるティアを尻目に、嫌な予感が拭えないアフィシアであった。




□■□■□■




 あれから一週間が経とうとしている。無難にも依頼をこなし、俺の冒険者ギルドランクもめでたくEになった。そしてティアと二人合わせてランクDのパーティとなった。割り切れないときは四捨五入されるらしい。

 そしてちょうど一週間ということで宿も期限がきたので、そろそろこの街を出ようかという話をティアとしているところだった。


 ――というのも、なんとなく良くない噂を耳にしたからだ。


 どうもこのキングバルズ王国が、軍を率いてカロン王国へ進軍するらしいのだ。いや、偵察とも言っていたのだが、真偽のほどは定かではない。

 実際にこのストラウド砦にも兵士が集まっているようで、このところ街エリアでも兵士の姿を多く見かけている。

 今すぐどうこうなるわけではないが、一応カロン王国の軍関係者だった俺としては、厄介の元からは離れたいわけで。

 ティア自身も故郷を出て、特に当てもなくぶらぶらしているだけなので特に異論はなかったし。


 それにもうひとつ理由も出てきた。

 着替えでたまにメイド服を着るんだが、これがなんとしっくりくる。いやー慣れた服っていうのもあるけど、支給品ぱねえっす。機能性は抜群だ。

 で、もう一着……、と思ったんだけど、この街にメイドギルドがなかったのだ。

 さすがマイナーなギルドといったところか。

 そして今俺が着ているのはメイド服だったりする。


 そうそう、俺もマジックポーチが欲しくて魔道具屋さんなんて巡ってみたんだが、どこにも売ってなかった。

 ティアに聞いたら「実家から勝手に持ってきた」とか言うもんだから、どこで売っているのかもわからない。たぶん魔道具屋かなぁということで、見に行ってみたのだが残念な結果になった。

 置いてはなかったのだが、値段は聞けたのだ。容量の違いで値段もピンきりだそうだが、一番小さい容量のティアのポーチ程度でも金貨五枚程度ときたもんだ。


 現在の所持金じゃとてもじゃないが買えない代物だった。うーん、今のところ他に欲しいものはないし、ちょっと目標にしてみようかな。

 いや、欲しいものあるにはあるんだが、ちょっと嵩張るものだからね。ティアのマジックポーチに入れてもらうわけにもいかないし、自分のマジックポーチが優先だ。


「じゃあ次の街へ行きますかー!」


 ティアが元気よく声を上げる。


「おー!」


 まずは街の南側へ向かう。ストラウド砦にある街は王都だそうな。ここから乗合馬車で二日の距離にあるとのこと。……近いな。

 しかしこの国の王都も近かったんだな。そりゃ隣の国があんなものに襲われたら安全確認もしたくなるってか?


 南門の乗合馬車乗り場まで来た。それほど人はいないようだが、すでに乗り込んでいる人がいる。前回と違って定員オーバーになるなんてことはなく、ちょうど二人分の座席の空きがある。

 ティアに続いて俺も乗り込み椅子に座る。今回の乗合馬車の料金は一人銅貨七枚だ。俺はもう無一文じゃないので自分で出すぞ。

 さすがに王都との往復で使われる馬車だからか、至るところに痛みが出てはいるが、それなりに広くて立派な馬車だった。

 車内は向かい合わせの席になっており、入り口奥に五人の座席、真ん中が入り口となっている側は、両端に二席ずつある。そんな入り口右側に俺たちは腰掛けている。


「今日は座れたねー」


「だねえ。前回は散々だったから……」


 馬車の後ろにしがみついているのも一苦労だったのだ。腕はだんだんしびれてくるしガクガク揺れる馬車じゃ会話もできないし……。

 幸いこの席にはぼろぼろになっているが、座布団のような編まれた藁が敷かれている。役に立つかどうかはわからないが。


「おいおい、従者が主人と一緒に座ってていいのかよ」


 座布団の確認をしていると、向かいの席から不意に声がかかる。

 見ると身なりの良い服を着た、二十代前半の青年だ。肩くらいまで伸びた紫の髪を適当に纏め上げただけなのか、ちらほらと横に跳ねた髪が見える。

 座っているからか身長は窺えないが、中肉中背の普通の体型のように思う。


「えっ?」


 ティアがきょとんとした顔で青年を見る。誰のこと? とでも言いたげだ。


「あ、これ私服です。わたしはただの冒険者ですので」


「はあ?」


 青年が怪訝な顔で俺を見る。メイド服を私服として着る冒険者がそんなに珍しいのか。

 ……自分で言っててそんなやついねーだろとか思えてきてしまった。これ普通いないわ。


「ホントです。二人でパーティ組んでるただの冒険者ですよ」


 ティアも何のことを言ってるのか察したのかフォローしてくれる。


「ああ、そうなのか……。勘違いして済まない……」


 うーむ。動きやすい服なんだが、こういう弊害もあるのか。

 しかしなんだ、メイドの所作というものをわかっていらっしゃる。この身なりからするといいところの商人などだろうか?

 たまに自前の馬車も持てない貧乏貴族も乗合馬車を利用するとも聞くが、従者を連れているようには見えないし。


 何やら青年は思案顔になっている。勘違いさせておいてなんだが、そんなにメイド服はダメなのだろうか。

 まあいい、考えてもわからん。ついこの間までも私服だったのだ。相当不便なことにでもならない限りは着ていようと思う。


 そんなこんなで座席が全部埋まったからか、乗合馬車が出発するのだった。

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