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ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第二章 魔族編
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019 デザートウルフ

 ここはディストゥークの南門前である。北門と違い、入って来る人の数は少なく、出ていく人の数が多い。

 そしてここには、王都と北門の間にはなかったものが存在する。いや、なかったわけではないが、王都を襲った事件のせいで、機能していないだけだ。


 それは乗り合い馬車である。


 俺としては歩く気満々だったのだが、馬車というものに惹かれるものがあった。

 それは、この世界での乗り物に初遭遇だからである。

 馬車だぜ、馬車!

 馬に引かれて移動するなんて、前世でもなかったことだ。この異世界でも馬という動物はいるらしいが、少なくとも見た目は馬と変わりはないようだった。


「アフィーちゃん、何だかテンション高いね」


「そう?」


 はしゃいでいるのが態度に出てしまったのだろうか。


「この際だし、馬車に乗ろうか。どうも道中は物騒になってるようだし……」


 南門前に集まる人達の話によると、どうも例の事件から、魔物の出没数が増えているそうな。被害はまだそれほどでもないが、腕に覚えがないのであれば馬車代をケチって歩くのはオススメできないとのこと。

 冒険者ギルドでも、護衛の仕事が出ているようである。


「そういえばティアは護衛の仕事は受けないの?」


 目的地にも着いてお金も貰えて一石二鳥だと思うのだが。


「うん。知らなかったしねえ。

 昨日冒険者ギルドに顔は出したけど、換金だけで依頼はスルーしてたから。今から戻って受けるのも面倒だしね!」


 なぜか誇らしげに胸を張るティア。


「あ、そう」


「というわけで馬車ね」


 移動方法が決定したところで、乗り場に目を向ける。そこは馬車に乗ろうという人が並んでいる。

 乗り込み待ちの馬車はあと二台あるのだが、明らかに並んでいる人の数のほうが多い。今現在ここにいる馬車二台が出て行ってしまうと、次にいつ馬車に乗れるかはわからないということだ。


「うーん。乗れるかなあ……?」


「乗れるんじゃない?」


 乗れるかどうか甚だ疑問ではあるが、ティアは疑ってはいないようだ。とりあえず自分たちも列に並ぶことにする。

 並びながらも馬車に次々と人が乗っていく。ひたすら乗っていく。席が埋まっても乗っていく。果ては屋根の上にまで乗るヤツが現れる。

 ああ……、そういうことか。海外の電車などで、閉まらない扉からはみ出るようにして人が乗る映像を思い出した。

 要は詰めればいいのだ。重量オーバーとかそういう考えはない。


 引きつった顔で一台目の馬車を見送ると、二台目の馬車への乗車が始まった。

 こちらにも次々と人が乗っていく。果たして自分が乗れるスペースはできるのだろうか。

 とうとう座席が埋まり、立ち乗り客がほどよく詰まったところでティアの番がきた。

 ポーチから大銅貨を一枚出すと、御者の男に「二人分」と言って渡している。

 どこに乗るのかと思っていると、中に詰めるのではなく、車体の後ろに張り付くように飛び乗った。少しだけ床板がはみ出していて、足を乗せられるようだ。


「ほら、アフィーちゃんもおいで」


「う、うん」


 恐る恐る同じ場所へ乗る。まるでここも乗れる場所だと言わんばかりに、手近なところに手すりがついている。


 ――なんということだ。


 優雅とは言えずとも、風情のある馬車旅ができると思っていたのに想像していたのと違う!

 がっくりと項垂れながら落ちないようにしっかりと手すりを握るのだった。




 ガコガコと激しく揺れながら馬車が進む。しっかりと口を閉じておかないと舌を噛みそうだ。

 乗り心地も想像とは異なり、ひどいものだった。こんなにも揺れるのか。座れなくて残念とか思っていたけど、それはそれでお尻が痛くなりそうだ。立ち乗りでよかった。


 そんな馬車を囲むようにして、護衛が左右にそれぞれ一人ずつと後ろに一人の合計三人、それぞれ馬に乗って併走している。

 ここから左右を併走する護衛たちの様子は見えないが、後ろの護衛は振り向けばよく見える。

 皮鎧で全身を覆っており、腰に剣を提げた中肉中背のくすんだ赤い髪を後ろに垂らした男だ。そして背中にはまるで甲羅を背負うように大きい盾が鎮座している。それほどがっしりとした体格には見えないが、盾を扱うようだ。

 前衛が後ろにいていいのかとかちょっと思ったが、ここら辺にそこまで強い魔物が出るわけでもないので気にしないことにする。


 順調に行けば、夕方日が暮れる前に次の町に到着するとのことだ。今の時間はちょうど昼ごろだろうか。そろそろ休憩かと思ったところでちょうど馬車が停止する。

 周囲よりも岩場が少なく平らな場所がほどよくある、休憩にはちょうどよさそうな場所だ。


「さあ、昼の休憩だ! 昼飯はそれぞれで勝手にしろよ!」


 御者をしているおっちゃんが大声で告げると、馬車の中の乗客も一旦外へわらわらと出てくる。

 ティアも馬車の後方から飛び降り、俺もそれに続く。

 降りてから初めて気が付いたが、先に出ていた一台目の馬車も前方に止まっており、乗客も降りて休憩しているのが見える。


「あ~、疲れた……」


 思わずおっさん臭い呟きが漏れる。


「あはは、アフィーちゃんて馬車は初めて乗るのね?」


「うん。こんなに乗り心地が悪いとは思わなかったよ」


 最初あれだけテンションが高かったのにこの落ち込みようである。ティアの表情も何か気の毒な者を見るかのようになっている。


「まあまあ、形はどうあれ、憧れの? 馬車に乗れたんだからよかったんじゃないの?」


 変なところが疑問系なのはなんでだろうか。別に憧れてなんかいないし!

 というかそんな(あわ)れみの表情をしないで欲しい。


「うーん」


 馬車から少し離れたところで昼食の準備を進めるティア。

 と言っても簡易的なものだ。干し肉と野菜をパンに挟んでサンドイッチの出来上がりだ。


「ほい」


「ありがと」


 もしゃもしゃとパンを齧っては水で流し込むように食べる。

 外ではどんな危険があるかわからないので、何事も手早くだ。

 護衛の皆様は、まだお昼を取らずに周囲の警戒に勤めている。俺たちと交代ということだろうか。


 乗客のほとんどが昼食を終えたところで、護衛の昼食が始まった。


「ああ、またあの揺れる馬車に乗ると思うと萎える……」


「そんなにあの馬車が嫌なの……?」


「想像してたのと違ったから、余計に……かな」


「それはまあ、しょうがないね」


 ――ん?


 取り留めのない会話をしているときに、ふと何かの気配を感じ取り、その場で立ち上がる。


「どうしたの? アフィーちゃん?」


 ティアは気づいていないのか、俺の様子が変わったことに対して尋ねる。


「魔物が近づいてきた」


「――えっ?」


 同じくティアも立ち上がり周囲を見回す。


「魔物だっ! ばらけずに皆馬車の近くに集まれ!」


 ちょうどそこで護衛の切羽詰った怒声が聞こえてきた。

 おう、そういうことなら余計なことはせずに集まりますか。


 護衛の言葉でそれぞれ休憩していた乗客が、馬車の方へ集まってくる。

 乗客たちも割りと落ち着いているように見える。


「ちっ、こんなところで襲われるとか、ついてねえな」


「ほら、お嬢ちゃんたちも早くこっちにおいで!」


「あーーーーん! ママーーーーー!」


 なんか変なのもいるがアレは放置が一番だな。俺たちを心配してくれる人もいるようなので素直に従いマザコンの反対側へと歩いていく。ちょうど魔物が近づいてくる方向だ。


「アフィーちゃん、よくわかったね」


 ティアは感心しているようだ。

 馬車の周囲三メートル以内に乗客全員が集まってきた。そこから前方十メートルほど離れたところで、三人の護衛たちが守りを固めている。

 一台目の馬車周辺も同様に、三人の護衛が前方を守る陣形だ。


「うーん。ちょっと数が多いみたいだけど、護衛の人たち大丈夫かな?」


「えっ?」


 ちょうどそこへ前方の岩場の影から魔物が姿を現す。守護する護衛たちから百メートルほどの場所だ。全身を灰色の毛に覆われた狼のように見える。それが五体。


「げっ、デザートウルフだ……」


 馬車の周囲に集まっていた一人の男が小さく呟く。

 これ大丈夫かな……。隣を見やると、ティアが腰から杖を取り出して構えている。特に焦った様子はない。


「アフィーちゃん、前に出てきちゃダメよ」


「……わかった」


 と言いつつもすぐに腰のナイフを抜けるように見構える。。

 ティアはそのまま五メートルほど前に出て、俺たちと護衛の真ん中あたりで待機したので、俺もこっそりと馬車集団の一番前を陣取る。


「援護します!」


 そしてティアは右手に持った杖を掲げて護衛たちにアピールする。


「助かる!」


 ちょうどその時、魔物がすべてこちらに向かって、時間差をつけて走り出した。

 護衛の一人が盾を構えて腰を据える。向こう側にいる護衛は、二人を乗客の護衛に残し、一人がこちらに駆けつける。


「先制攻撃で魔法を撃ちます!」


 そこへティアの声がかかる。杖の先端に魔力が集まっているのがわかる。


「――、『ファイアボール』!」


 真名(・・)を叫ぶと共に杖を振り下ろすと、バレーボールほどの炎の塊が護衛の傍を通り抜けてデザートウルフ集団の先頭へと突き刺さる。


 ドン!


 腹に響く爆発音と共に爆風が巻き起こる。

 おおー、ティアってすげー。そういえば初めてティアの魔法を見たかもしれない。


 爆発に巻き込まれなかった残り四体が爆風をすり抜けて護衛たちに肉薄する。

 盾を構えた一人が狼の突撃を防いだかと思うと、そこにもう一人の剣が突き刺さる。

 三人目はそれをカバーするように次に迫るデザートウルフを牽制している。


「うおおおおおおお!」


 そこへ隣の集団から駆けつけた一人が、雄叫びと共に三体目のデザートウルフへと踊りかかる。

 魔力を練り終えたティアは、四体目のデザートウルフにまたもや魔法を放った。


「――、『グレイブ』!」


 四体目のデザートウルフの足元から土の槍が飛び出し、その喉元を貫く。これは即死だろう。

 護衛たちのほうを見ると、一体のデザートウルフはすでに行動不能になっており、四人で二体を相手している。

 こちらももう大丈夫そうだ。


 最初にファイアボールをぶつけられたほうはまだ息があるようだ。回り込むようにして岩陰の裏からこちらに近づいているのが気配でわかる。

 ティアはというと、護衛たちと一緒になってデザートウルフの相手をしていた。


 仕方がないので回りこんでいるデザートウルフのほうへ三歩ほど前に出る。そろそろ来るか?

 と思ったところで、岩陰の裏からこちらに来ていたデザートウルフが飛び出してきた。

サブタイトルから「前編」を削除。

後編を書きながら、これって前後編じゃなくてもよくね?って内容になってしまった・・・。

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