表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第二章 魔族編
17/37

017 お風呂で魔法

 ティアが冒険者ギルドで聞いたと言う、公衆浴場に来ている。

 宿からは街の大通りを挟んだ反対側にあり、十分ほど歩いた距離になるだろうか。


 どちらかと言えば大衆浴場のようで、入浴料もリーズナブルだ。混んでいるかと思いきや、王都での事件のせいか人はまばらだった。のんびり風呂入ってる場合じゃないんだろう。

 相変わらず俺は無一文なのでティアにお任せだ。一人銅貨五枚だ。二人分で大銅貨一枚をティアが払う。


 もう一年以上経つので、男女で分けられたところの『女』の方へ進むのにも慣れた。

 慣れたのだが……。

 入った先に人がたくさんいる場所は初めてだ。お風呂とか今までずっと一人だったし。

 目のやり場に困る……? ん? なんで困ってんだ?


「どうしたのアフィーちゃん? 顔が赤いよ?」


「えっ?」


「大丈夫? 気分悪いなら帰ろうか?」


「あ、いや、大丈夫。なんだかドキドキしちゃって……」


 と、声を掛けられたティアのほうを振り向けばそこには下着姿があった。

 全体的にほっそりとしているが、出るところはしっかり出ている、理想のプロポーションだ。

 ドキドキするのは本当だが、眼福である。しっかり目に焼き付けておこう。


「あらそう? 恥ずかしがってちゃダメよ~」


 ニヤニヤしながら俺を脱がしにかかるティア。恥ずかしい理由はおそらく違うと思うのだが気にしない。


「ぎゃあーーーー!」


 と逃げようとしたが、よくよく考えると逃げる必要ないよな。俺、幼女だし。

 後ろを向くだけにして留まっておくか。


 と思って後ろを振り返った直後、目の前にあるものを見た瞬間固まった。


「――っ!」


 そこにはゴリラがいた。


「あら、かわいいお嬢ちゃんね」


 微笑ましいものを見るかのような雰囲気だが、とっても顔が怖い。茶色い毛で覆われているが、それは腕と肩から上の部分のようだ。

 ゴリラの獣人だろうか。正直よくわからない。筋肉はムッキムキだ。腕の太さだけで俺の胴回りより太いんじゃないだろうか。

 ただし、その胸に鎮座する双丘は爆発的な破壊力を持っていた。


「えへへ~、つっかまえた~」


 一人で固まっているとティアに捕まった。そしてそのまま上から順に脱がされていく。


「お姉さんと来たのー? いいわねえ」


 なおもゴリラ姐さんが話しかけてくる。上の肌着をスポンと脱がされ、上半身が(あらわ)になったところで我に返った。


「あ、ハイ」


「あっはっはっは、何緊張してんのよ」


 ゴリラ姐さんは笑うと、俺の頭をポンポンと叩いて脱衣所から浴場の方へ先に行ってしまった。


「そうよ、何緊張してるのよ」


 すでに俺は何も身に纏っていない。全て脱がされて全裸であった。

 ティアも下着を脱いでいる。


「ほら、行くわよ」


「ふぁい」


 なんだかわけのわからないうちに、ティアに手を引かれて浴場へ向かうのだった。




「はあ~、気持ちいい」


 ティアに頭を洗われながら、ぼへーっとする。なんか幸せ。


「誰かに洗ってもらうって、気持ちいいでしょう」


 洗ってるティア本人も機嫌がよさそうだ。うむ、あとで洗ってあげよう。

 ざばーっと頭にお湯をかけてもらって泡を洗い流す。


「はいおしまい!」


「ありがとう、お姉ちゃん。次はお姉ちゃんの番ね」


「ええっ! 洗ってくれるの?」


「うん」


 次はティアを椅子に座らせて交代する。ふははは、叩き込まれたメイド術の全てを発揮してやろうではないか。


 なんやかんやで全力で洗っていると、よだれをたらしながら恍惚の表情をするティアができあがってしまう。

 どうしてこうなった。


「アフィーちゃん、しゅごい」


 今は二人でゆっくり湯船に浸かっている。隣でティアはひたすら「しゅごい」と呟くだけであるが。

 あー、久々に風呂入った気がするなあ。んー、よく考えると一週間以上入ってなかったか。

 隣を見ると、ティアはまだこちら側に戻ってこない。うーむ、全力は出さないほうがいいのか。


 しょうがない、魔法の練習でもするか。

 せっかくお湯があるから、お湯を使った何かを……。今度は魔力を込めないように……。


 イメージは水鉄砲だ。右手を銃の形にしてお湯の中で構え、人差し指を斜め上方へ向ける。チョロチョロと水面からお湯が放射線を描いて十センチ先に着水するイメージだ。

 頭の中でひたすら思い描く。水鉄砲は空気圧だが、水中に空気はないので水圧で押し出すイメージだ。地面から温泉が湧き出すように。

 そして心の中で『発射!』と念じる。


 湯船の表面は何も変化が起きない。うーん、失敗かな?

 右手を徐々に水面に近づけるように持ち上げる。そしてもう一度『発射!』と念じる。


 ――お?


 ちょっと水面が盛り上がった気がするぞ。今度は人差し指をぎりぎりお湯から出ない位置まで持ってくる。

 よし、『発射!』


 ちょろちょろ。といった感じで水面にお湯の放物線が出来上がる。


 おおー、成功だ!

 うーん、これちょっと面白いな。


「アフィーちゃん、すごい」


 まだ言ってる。

 今度は人差し指をティアに向けて発射する。


「うわっぷ」


 突然顔にお湯をかけられたティアが驚いて、お湯が飛んできた元を凝視する。


「やっぱりアフィーちゃんすごい。それ魔法使ってるよね?」


「うん」


「はあ、やっぱり」


「ん? 何がすごいの?」


 お遊び程度の魔法と思ってたが、何かすごいところがあるんだろうか。

 ティアを見ると(あき)れた表情をしている。この子何言ってるの、もしかして自覚なし? とでも言いたげだ。


「えーっとね。アフィーちゃんの魔法、予備動作なしで発動してるように感じるのね。普通は発動前に魔力が集まってるのが感じられるんだけど……」


「だって魔力集めてないもん」


 正直に白状する。集めると火柱が立つと言われたのだ。風呂場でそんなことをしたら水圧で切るウォーターカッターみたいなものが飛び出すに違いない。

 あれって確かコンクリートも切断できるんだっけ?


「ええー! 普通そんなんじゃ発動しないよ。意識して集める必要がないほど魔力量が多いってことなのかなあ?」


「さあ?」


 会話をしながら水鉄砲を続ける。今度は飛距離を伸ばすイメージをすると、その通りに飛距離が伸びていく。が、それも一メートル程で限界が来た。

 これ以上は魔力を込めないとダメなのかもしれない。けど風呂場ではやめておこうか。俺は自重ができるのだ。

 代わりに水鉄砲を細くイメージして飛距離が伸びないか試してみる。おお、これも成功だ。段々と飛距離が伸びていく。調子に乗って飛距離を伸ばしていると、誰かに直撃した。自重できてなかった。


「冷た!」


 振り返ってこちらを睨み付けるように見つめるのは、あのゴリラ姐さんだった。

 相変わらず怖い。ティアの後ろに隠れようとしたが、生憎と二人とも壁際で湯船に浸かっていたので無理だった。


「ご、ごめんなさい」


 観念して謝罪する。目を逸らさず正直になった方がいい気がした。

 それが功を奏したのか、姐さんの表情が緩んだ……気がした。


「あっはっは、お嬢ちゃんだったのかい。どうやったんだい?」


 姐さんが興味深そうに聞いてきた。

 良かった、怒ってなさそうだ。ちょっぴり安心する。怖い顔はもともとなのかもしれない。


「ええと、魔法で水を飛ばしてました」


「へえ、なるほどね。でも危ないから練習は人のいないところでしないようにね」


「はーい」

「はーい」


 なぜかティアと声がハモった。お前もか。


「あら、お姉さんもかい。でも正直者は嫌いじゃないよ」


 はっはっはと笑いながらこちらに近づいて湯船に入ると俺の隣にくる。


「あたしは魔法が使えないからねえ。羨ましい限りだよ」


「そうなんだ。でもお姐さんも強そうだね」


 その太い腕をペタペタと触りながら感想を述べる。湯船に浸かる前にチラッと見えたが、腹筋も見事に割れていた。惚れ惚れするほどである。

 筋肉質の女性は胸はないと勝手に思い込んでいたのだが、どうもそうでもないのか。姐さんは素晴らしいものをお持ちであった。


「ああ、そこらの男どもには負けないよ!」


 俺が触っている反対側の腕を曲げて上腕二頭筋を強調する姐さん。すばらしい筋肉である。怖がってごめんなさい。


「お嬢ちゃんらは、もしかして王都から逃げてきたのかい?」


「うん。そうだよ」


「お姐さんも?」


「いや、あたしはこの街を拠点に活動してる冒険者さ。王都であんな事があっただろ? 拠点を変えようかどうか悩んでてね……」


「ふーん」


 というところでティアが王都の様子について()(つま)んで説明する。

 王都の状況って、まだ周囲に詳細まで伝わってないのかな? 数日は経つと思うけど。これが前世の世界なら一瞬なんだろうと思うと不便と思わざるを得ない。


「はあ、王城が壊滅……ねえ」


「へー」


 ある程度は聞いていたが、ティアの説明の中にも聞いたことがなかったところがあったので、思わず初耳かのような声が漏れてしまった。


「あれ? お嬢ちゃんも王都から来たんじゃないのかい?」


「この子はずっと意識がなかったからね……。王都の様子は見てないのよ」


 そう言ってティアは包み込むような笑顔で俺の頭を撫でる。

 自分が負った大怪我の原因はティアには告げていないのだが、なんとなく予想はついているのだろうとは思う。


「そうなのかい。それはそれで……、いや、なんでもない」


 ティアの、俺に対する態度を感じ取ったのか言葉を止める姐さん。空気の読める姐さんだ。

 しかしあれだ。そろそろ湯船に浸かってるのも限界だ。のぼせそう。


「あら、アフィーちゃん、顔が赤いわよ。のぼせちゃったかな? そろそろ出ましょうか」


「うん」


 これ幸いとティアに同意する。


「ああ、長湯させて悪かったね。話聞かせてくれてありがとう」


「お姐さんばいばーい」


 ティアに手を引かれて湯船を出る。反対側の手でお姐さんに手を振って風呂から上がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
↑クリックで投票できます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ