九
「物の怪か!!」
海馬、火龍、がほとんど同時にそう叫び、森へと飛び出して行った。
同じく飛び出して行こうとしたキリマロの腕を雷乱がつかんだ。
「おい、小娘はどこにいる」
「え?あなた達と一緒じゃ……」
「外、かな」
辰海が言った。
「全く、御転婆与羽にも困ったもんだね」と大斗は手に刀を握り、キリマロの横を通り過ぎる。
「え、ちょっと、危ないっすよ!!」
キリマロが叫んだ。
大斗は顔だけキリマロに向けてこう言った。
「危ないのが怖くて、中州の武官は務まらないよ」
「そういうこった」
雷乱が後に続き、辰海がキリマロの肩に手を置いた。
「ごめんね」
「あぁ、全く。怒られるのは俺なんだぜ」
そう言うと同時に、キリマロの腕が光り次の瞬間には弓が握られていた。
「何してんだ。辰海! 行くぞ!!」
キリマロはそう言いながら、走っていった。辰海も後に続く。
「……大丈夫」
そう自分に言い聞かせて。
「……下がってください。彼らは人の太刀では斬れません」
月がそう言いながら怪物――もとい、物の怪から与羽を庇うようにして太刀を構える。
――さっきの見とらんかったんかな?
ちらっと与羽はそう思いながら、月を見た。
「へえ、そういうもんなん、――かっ!!」
与羽は刀を抜き打ちざまに、物の怪へと斬りかかった。
物の怪が頭を斬られ、どっと地面に倒れる。生き物の形をしたものを切るのはひどく気分が悪いが、今はそうも言っていられない。
「は! 面白ぇ」と、そう言ったのは月ではない。
火龍がその横で刀を物の怪の頭へと横殴りに叩きつけていた。
「なんとか、いけそうじゃな……」と与羽は、月の顔を見た。明らかに驚いているようだったが、表情は変えていない。
「驚いてくれたみたいじゃな」
「なんで」分かるそう聞こうとして、月は横へと跳んだ。そこに狼の形をした物の怪が飛び込んでくる。
「しかし、まあこう数が多いと」と言いながら現れたのは、海馬だ。
その背後から、物の怪が迫る。海馬が振り向きながら前に飛ぶと、その物の怪は突然、後ろからの攻撃に倒れた。
「へぇ、意外と弱腰だね。俺らならこの程度の数、まだまだ余裕だけど?」
大斗だ。そして、雷乱。
「九鬼先輩、競わないで下さい」
辰海とキリマロがその後ろに続く。
「弱いのは、助け合いながら、戦ってな」と大斗が駆ける。
「そういうこった!!!」と火龍も駆ける。
たちまち乱闘になった。
大斗と火龍は競うように物の怪に斬りかかっていく。お互い呼吸をはかろうともしないし、はからせようともしない。