表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

  * * *



「全く」と雷乱(らいらん)は怒りながら、与えられた部屋の中で呟いた。


「雷乱が怒りっぽいのは知ってたけど、今日は一段といらだってるね」


 雷乱のつぶやきを聞いた大斗(だいと)が、挑発するように口のはしを上げる。


「オレ達が住む場所とは別の世界。こんなふざけた話があるか。帰ることすらできないんだぞ」


「それは、まぁね。困るけど……」


 大斗はわずかに笑みをひっこめて、肩をすくめてみせた。


 雷乱はいらだったようにあたりを見回す。

 部屋の作り、置いてあるものの細工――。どれをとっても、良く見るつくりだ。

 文化も気候も良く知る世界のものと変わらない。ただ違うのは、この世界には「物の怪」がいて、それに対抗できる「摩訶不思議な力」があることだ。


「……小娘は?」


 見慣れた少女がいないことに気づいて、雷乱は隣にいる辰海(たつみ)に聞いた。

 彼は地図とにらめっこしていたが、雷乱の言葉に顔をあげた。


「……あぁ、与羽なら」



  * * *



 その与羽は、月の部屋にいた。


「こざっぱりした部屋じゃな」


 与羽は、月の部屋をそう評した。

 机と数冊の書物、巻物。それに筆や硯等が置いてある他は何もない。しかし、それがいかにも月らしいように、与羽には見えた。


 その与羽の目に一枚の紙が留まった。

 物の少ない上に良く片付けられた部屋の中で、机の下に隠すように置かれているそれだけが、異質な空気を放っていたのだ。


「これは――?」


 月はハッとしたが、その時には既に与羽の手に渡っていた。


「へぇ、月ちゃん。もしかして恋文?」


 どうやら手紙らしいと言うことが分かって、与羽はいたずらっぽく笑った。


「それは……」


 若干慌てた様子の月が奪い返そうとするが、与羽はすでにその内容を見てしまっている。悪戯好きな笑顔が与羽の顔から消えた。


「ふ~ん……」


 なにか考え事をするように声を漏らした与羽の手から、月が文を奪い取った。そして、慌てて、傍にあった書物にそれを突っ込む。


「それ」


 与羽が聞いた。


「……外行こう」


 しかし月は、与羽の背中を押し、部屋から出て行った。


 ――寂しきや 月もなく歩く 闇の道


「恋文……。あの詩。月ちゃんの事を詠ったもんよな……」と与羽は聞いた。屋敷の外の森で、話を聞く者はいない。


 月はそうとも違うとも答えなかった。


「与羽さんは――……」と月は言葉を切ってから考え込む。


「ああ、もうええ。さんづけでどうぞ、月"さん"」


「与羽は……」


 与羽が不快そうに吐き捨てるのを聞き、言い直した。


「一人になると寂しい?」


 なぜそんなことを聞くとは言わなかった。そして、"一人になる"がどういう意味かも薄々わかっていた。


「う~ん、そうじゃな。もう二度と、辰海とか大斗先輩とか、雷乱とか、中州の皆に会えんとなったら――」


 あまり、実感が湧かない。この無口な少女が、求めるような答えを与羽は答えられるか自信がなかった、が。


「けど……」と答えようとしたその時だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ