七
「で? 地図上に中州って国はないんじゃな? キリマロ」
「はい、そうです」
「そして、月ちゃんが使っとったような、摩訶不思議な術……、あれは中州にはない……」
「つまり」と言いかけた与羽の言葉を別の男が引き継ぎこう言った。
「つまり、全く別の世界から来た。そう言いたいんだろう、お前ぇは」
襖の向こうから声が聞こえ、雷乱が刀の鯉口を切った。
「誰?」
片手で雷乱を制止しながら与羽が聞き、襖が音もなく開いた。
「火龍」
月が呟いた。それが彼の名前らしい。
「なんや、お前聞いてたんか。人が悪い」と海馬がにやっと笑ってそう言った。
「物の怪が大挙して襲ってくるっていうこの忙しい時に、迷子の面倒を見るとは――」
火龍が言うと、雷乱がむっとしたように立ち上がった。
「おい、小娘。もう行くぞ。これ以上ここの連中とは付き合ってられねぇ」
ちなみに、小娘とは与羽のことだ。雷乱はめったに与羽の名前を呼ばない。
「まぁ、待ちって」と与羽は雷乱をなだめつつ、火龍に聞いた。
「さっき、言っとったこと、本当ですか? うちらが、別の世界から来たって――」
「さてね。しかし、『中州』って国も『与羽』って名のお姫様もこの辺りじゃ全く聞かないんでね」
与羽は、少し黙ってからこう聞いた。
「あの、物の怪って?」
海馬が顎に手を当てながら答える。
「あいつらのこと知ってんのは、この世界でもほんの一握りやな。一言で言うなら、あれは"悪いもん"だな」
与羽はその適当な説明にあまり驚かなかった。
初めてあの怪物に出くわした時に、これは倒さなければならないと思ったからだ。理由はない。直感だった。
「それが今、世界で大暴れしてんのさ。それを退治すんのが、俺達陰陽師の仕事」と海馬が補足する。
「中州……じゃなぁな」
自分達の住んでいる場所と根本的に異なった世界だと、与羽だけでなく、辰海達も感じてはいたが、今の海馬の言葉でそれは確信に変わった。
「じゃあ、問題は……」と与羽は月を見た。特に意味はない。
「どうやって帰るか、じゃな」