六
「は……、月に――?」
女は答えを求めて月を見た。月が頷く。
「なんや、それならそうと早く言いなさい」
彼女は穏やかな温かみのある口調で言った。先ほどまでと、人が変わってしまったようだ。
「おいおい、月ならいいんかい」
青年が肩を落とした。
「お黙り! あんたが連れてくんのは、バラガキか、酒飲み仲間やろ」
「この人は、与羽さんで――」と言うと、与羽は見る見るうちに不快そうな顔になり、月は黙った。
「私、さん付けは嫌いなんじゃけど……」
月は少し考えこんだ。そしてまた口を開く。
「与羽様です」
その瞬間、大斗が吹き出した。
「そういうことじゃなくって――!」
与羽も少しムキになって言う。
そのやり取りの後ろで、大斗はいまだに笑みを抑えられずにいる。
「与羽"ちゃん"ね。俺は海馬や。んで、この人達どうしたん?」
そう名乗った海馬は月に聞いた。
「……迷子」
月はそう答えた。
* * *
「中州国? そんなところ聞いたことないよ」
机の上の地図を見ながら、キリマロという名の少年が言った。
「そんなバカな」
いくら小国とはいえ、知られてない筈がない。
「いや、地図にすら……」と言いかけたキリマロに雷乱が怒りの声をぶつける。
「ない? そう言いたいのか、小僧」
「そうです。ないんですよ」
キリマロは臆せずに答えた。
「確かに。見たことのない地形だ」
地図を覗き込んで、頭に叩き込んである中州とその周辺国の地図と比較していた辰海もつぶやく。
「与羽、心当たりは――?」
そう言って目当ての少女を振り返ろうとした。しかし――。
「あれ? 与羽は?」
与羽がいない。
「ここじゃよ! ここ!」
しかし、辰海の問いに答える与羽の声がして、隣の襖が開いた。
ガタッと雷乱が立ち上がる。
「なんて格好してやがる」
「ええじゃろ?」
与羽は雷乱のすごみにひるむことなく無邪気にほほえんだ。
そこに立っていたのは与羽と月。しかし、見慣れた姿ではない。与羽が月の狩衣を、月が与羽の小袖を着ていたのだ。
「いやさ、ちょっと着せてもらったんじゃ。狩衣自体めったに着んし、こういう色合いは珍しいかなって」
「……すみません」
雷乱の剣幕に頭を下げつつも、月は自身が着ている物を眺め続けている。
「月ちゃん、気にいった?」
与羽は聞いた。月は返答に困り黙り込んだ。
「冗談じゃない、さっさと戻せ!」
「雷乱、少し落ち着きって」
与羽は言いながら、机の前に座った。