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「は……、月に――?」


 女は答えを求めて月を見た。月が頷く。


「なんや、それならそうと早く言いなさい」


 彼女は穏やかな温かみのある口調で言った。先ほどまでと、人が変わってしまったようだ。


「おいおい、月ならいいんかい」


 青年が肩を落とした。


「お黙り! あんたが連れてくんのは、バラガキか、酒飲み仲間やろ」


「この人は、与羽(よう)さんで――」と言うと、与羽は見る見るうちに不快そうな顔になり、月は黙った。


「私、さん付けは嫌いなんじゃけど……」


 月は少し考えこんだ。そしてまた口を開く。


「与羽様です」


 その瞬間、大斗(だいと)が吹き出した。


「そういうことじゃなくって――!」


 与羽も少しムキになって言う。

 そのやり取りの後ろで、大斗はいまだに笑みを抑えられずにいる。


「与羽"ちゃん"ね。俺は海馬や。んで、この人達どうしたん?」


 そう名乗った海馬は月に聞いた。


「……迷子」


 月はそう答えた。



  * * *



「中州国? そんなところ聞いたことないよ」


 机の上の地図を見ながら、キリマロという名の少年が言った。


「そんなバカな」


 いくら小国とはいえ、知られてない筈がない。


「いや、地図にすら……」と言いかけたキリマロに雷乱(らいらん)が怒りの声をぶつける。


「ない? そう言いたいのか、小僧」


「そうです。ないんですよ」


 キリマロは臆せずに答えた。


「確かに。見たことのない地形だ」


 地図を覗き込んで、頭に叩き込んである中州とその周辺国の地図と比較していた辰海(たつみ)もつぶやく。


「与羽、心当たりは――?」


 そう言って目当ての少女を振り返ろうとした。しかし――。


「あれ? 与羽は?」


 与羽がいない。


「ここじゃよ! ここ!」


 しかし、辰海の問いに答える与羽の声がして、隣の襖が開いた。


 ガタッと雷乱が立ち上がる。


「なんて格好してやがる」


「ええじゃろ?」


 与羽は雷乱のすごみにひるむことなく無邪気にほほえんだ。


 そこに立っていたのは与羽と月。しかし、見慣れた姿ではない。与羽が月の狩衣を、月が与羽の小袖を着ていたのだ。


「いやさ、ちょっと着せてもらったんじゃ。狩衣自体めったに着んし、こういう色合いは珍しいかなって」


「……すみません」


 雷乱の剣幕に頭を下げつつも、月は自身が着ている物を眺め続けている。


「月ちゃん、気にいった?」


 与羽は聞いた。月は返答に困り黙り込んだ。


「冗談じゃない、さっさと戻せ!」


「雷乱、少し落ち着きって」


 与羽は言いながら、机の前に座った。

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