四
与羽は頭から真っ二つに斬られた黒い怪物を見た。血が出でいない。本当に生き物とは違う「何か」なのだ。
それを確認した後、与羽はゆっくりと視線をあげ、自身を救ってくれた少女を見た。
少女も、与羽を見た。
少女は白の和服の上に黒の狩衣を着込んでいる。狩衣の胸の辺りには白黒の陰陽が交差した奇妙な印がされていた。
「…………」
「…………」
二人とも無言のまま見つめあった。与羽はわずかに首を傾げて、急にあらわれた少女は無表情で。
先に口を開いたのは与羽だった。
「……えと――」
「お前、何者だ?」
しかし、すぐに大柄な護衛官に遮られる。
「雷乱、口を慎め。一応、助けてくれた恩人じゃ」
しかし、雷乱は怯むどころかさらに口調を荒げた。
「あんなバケモン見て、顔色ひとつ変えねぇんだ。ただもんじゃねぇだろ?」
少女は眉さえ動かさずに雷乱を見た。
「ふふん? まぁ、怒った雷乱を見て、顔色一つ変えない程度にはただものじゃないのかもね」
「大斗先輩も軽口は少し遠慮してください」
与羽は凛とした口調で言い、自分と少女の間に半身を割り込ませて、与羽を守るように立っていた辰海に並んだ。
「先ほどはありがとうございました」
外交用の丁寧なしぐさで頭を下げる。国を治める城主一族の姫という育ちの良さがここでやっと垣間見えた。
「このあたりの方でしょうか……? 少し道をお伺いできませんか?
私は、与羽。隣が辰海。向こうの大柄で怒っているのが雷乱で、あちらの皮肉屋が大斗と申します」
「至極丁寧な紹介ありがとよ」
口調は丁寧なものの、言葉の端々に与羽らしさが見える紹介に雷乱は皮肉った。しかし、与羽は全く意に介してないように、少女を見つめた。
少女は重たそうな口を開いた。
「……私は」
女性らしい澄んだ高音の声でそう言ったその時だった。
「月ーーどこーー??」
少女と同じ声だが、調子の違う声がどこからともなく聞こえた。
「……ここ」
少女が言うと同時に、声の主は、月の横に現れた。
「お……!?」
これには流石に与羽も驚いた。
「ん?? あ、見られちゃったかー」とその少女は、困ったような――しかし、全く困っているようには見えない表情と口調でそう言った。