捕食者と討伐者悲しみの邂逅
シンクの代役として、善王ファラゼル・ラノバ・プライゼンと謁見を終えてから、改めてヒナエ、フィル、ノノフレイミを交えて、別室にて会談を持ったプライゼンは、若き賢者ナルク・バード、リオナ王妃、王妃の弟であるカノア将軍、若き重鎮達の指導者たる老賢者フォルク・バードが、この場に集まっていた。
「ヒナエ様、フレイミ様、フィル様、初めてお会いします。わたくしはファラゼルの妻、リオナと申します。この度は貴重な情報を感謝致します」
瑞々しい輝くような青み掛かった髪が、ふわりと風もないのに流れた。きびきびした所在から、洗練された礼節と武人らしい佇まいが伺えた。
「いいえ此方こそ。すぐに謁見してもらい感謝致します。婚約者であるシンクは、本日貴国に訪れないことを。非情に残念に思っていました、しかし現実として我がシンクの忠臣セナ・ホウリの妻で、シンクの義姉ミネラ・マネストの生まれた国。ファルバスが危ないので、そちらを優先致しましたこと、誠に申し訳なく思います」
本来ならば婚約者の順位から。ヒナエがこうした向上を述べなければならないが、フィルの方が政治的折衝である役目に向いていたので、フィルが口を開いた。
「うん、僕としても親友が同じ大陸にいて会えないのは残念だけど。今の情勢は知ってるからね。じゃあ今頃ファルバス王と会ってる頃かな」
温厚そうな穏やかな眼差し。ラノバ族らしい日焼けした浅黒い肌、ヒナエなんかは修行中に出会ったラノバ・ハルを思い出していた。
「そうそうヒナエさんには感謝を」
突然、ファラゼルが茶目っ気ある柔らかな笑みと浮かべ、お礼を述べた。
それにキョトンとしたヒナエに、小さな笑みを浮かべ、種明かしをする。
「以前僕の親戚ハルのこと助けてもらったでしょ」
それが解り成る程と納得した。
「ハル最近アレイクの王都に来ませんが元気ですか?」
「ええ元気ですよ。去年リドラニアで世界議会が行われた折に触れ。新しい商会を作りまして、ハルには商会長を任せているので」
「あっ、成る程、だったら今度シンクにお願いしようかな」
すぐさま会いに行く算段をたて始めたヒナエに。フレイミはため息混じりの吐息を吐いた。
「それはそうと、ゼン君私たちも動かないと」
「それもそうなんだが…………………………………」
苦い笑みを浮かべてしまう、
そもそもの問題点として、精霊と言う存在を、人間が倒せるかが問題である。
「精霊だったら不可能に近いけど、精霊獣ならば、人間が倒すことも不可能じゃないわ」
そもそもの話。バード族の長『バル』から聞いた話になるが、下位の精霊獣ならば、ちょっと特殊性ある金属の武器を用いれば倒すことが可能である。 ヒナエ達はそれを伝えるために訪れたのだ。
「精霊獣とは、精霊とはある意味別物の存在と言われておる。本来はバードの中でも賢者と呼ばれとる。一部の知識を受け継ぐ者しか知らされていない知識なのじゃが………………、『バル』が必要としたのじゃろ」
一人眉間に。深い皺を寄せていたフォルク老が、豊かな白い髭を扱きながら。ため息混じりに口を開いた。
「先生!。僕。その話初めて知りましたが」
「当然じゃろ、お前は賢者と呼ばれとるが、所詮この国の若者から呼ばれとるだけの~、なんちゃってな称号だからの」
「ええ!!?、そっ、そっ、そうだったんですか」
「当たり前じゃろ、バード族から見れば、お前のようなひよっ子は、まだまだ賢者見習いじゃな」
最近鼻を高くしていた弟子の傲慢な鼻をへし折りつつ、意地悪そうに鼻で笑っているフォルク老に、ガーンとショックが隠せない若き賢者は、ガックリと肩を落とした。
「老師様は、どうやら本当の賢者様の様子。もしや聖別した銀なども用いた武器を用意なさってましたか?」
「うむ、あれは高いでな剣と槍が100づつに、矢じりが1万ほど念のためにのう」
「そうでしたか、ノン」
「ええ」
フィルに促され。謁見前に贈り物として、儀礼兵に鑑定させていた長剣と弓を運ぶように、外に控えていた護衛に頼む。贈り物のことを聞いていないプライゼン王達は、思わず首を傾げ、フォルク老に目線を送るが、フォルクとて知らぬはなしである。だから「さてな」と呟き、癖で自慢の髭をしごいていた。
◆◆◆◆◆◆◆
しばらくして、儀礼兵が緊張した様子を見せながら、美しく染めた高貴な紫の生地に。金糸銀糸が縫われた土竜と竜の紋様。この場でプロキシス王家の紋章を知るのは、プライゼンとフォルク老だけである。公式以外で、この紋章を直接見ることが出来る者は少ない。各国の重鎮だけであるが、そもそもの話。金糸銀糸があしらった紫の生地に包まれた品など。聞いたことがない。
「プライゼン王、お納めください。御守りにはなるかと」
凛とした美しさ、何者も彼女を汚すことが出来ないと思わせる。涼やかな眼差しを受けて、気圧されたように。フォルク老ですら緊張していく。
「王よ。まず吾が見よう」
フォルク老のなんとも好奇心疼かせた。子供のようなキラキラした眼差しに。またかとプライゼン達はため息を吐いた。
「どれどれ、ん……………、こっ、これは」
驚愕が浮かんでいた。なにやら言い知れぬ緊張すら浮かべながら、指先が震えていた。
「如何したフォルク老?」
恐らく静止した時間は僅かだったとフォルクは思っていただろうが、実際には数分もの活動停止と。再起動に。時間が必要だった。
「陛下、陛下は以前。国宝があれば箔が付くと申してましたな」
「確かに言ってたが、藪から棒にどうした」
再起動した途端に、訳のわからぬ過去の戯れ事を持ち出してきたので、早くも何かいたずらでも思い付いたか、懐疑的な考えすら浮かべてしまう、
「陛下もこれを見たら納得しますじゃろ」
そういやれたしぶしぶ従うことにして、ぐるりソファーを回り込み、ピシリ、それを見てあまりの美しさに息を飲み、吸い込まれるように起動停止していた。フォルク老の呟き、その気持ちが理解出来てしまう、
ひとつは刀身が抜かれた状態のショットソードである、刀身は白乳色に輝き、まるで刀身自体から不可思議な暖かみがあった光を放ち。武骨な造りの鞘とは対照的である。柄には純度の高い魔石が輝き、特別な魔方陣が魔石を中心に描かれていた。
「魔方陣に描かれていてるのはそれぞれ切れ味アップ。自動修復。鞘に剣を入れて魔力を込めれば自動修復は発動するわ。弓の方は魔力を込めると無限に矢が湧く魔方陣よ。どちらも白銀竜シンクレアの鱗から造られた物だから、精霊獣に絶大な効果がありますわ」
一応。プライゼンはフィルの話を聞いていたが、その目は親友から贈られた贈り物に向いたままである。よっぽど白銀竜の剣を気に入った様子である。これにはフォルク老も。リオナ王妃も苦笑した。
「どのように運用するかは貴国におまかせ致します。我々は明日にもファルバス王国に向かう所存でございます」
「これは素晴らしい贈り物。感謝致します。今宵は我が国にて、長旅の疲れを癒してください」
こうして謁見は無事に終わり、翌朝ヒナエ、ノノフレイミ、フィルの三人は、愛するシンクのいるファルバス公国へと向かう。




