影の王、白銀竜騎士の王子様
ヒナエ達とシンクは、ラノバ王国にある中立の三國同盟の話をしていた頃。ファルバス公国は、未曾有の危機を迎えていた。突如国境に現れた下級精霊の群れに襲われ。小さな村が滅んだと知らせが届いた。いち早く白銀竜ミリアーナが気付き、単身下級精霊を滅ぼし。事なきを得ていたが……………。多大なる不安を抱くファルバスの民に与える。暗くなる空気。重い雰囲気の中。白銀竜が飛来してきたのだ。あまりなことに呆然とする民の中で、ただ一度若い白銀竜を見知っていたソニア・マレストは、柔和に見える糸眼を。瞑ったような眼を珍しく喜びで丸く開いていた。
「あらあらこんなときに来てくれるなんて、ミネラちゃんは良いとこに嫁に行ってくれたわね♪」
クスクス楽しげに微笑み茫然自失の夫に活を入れて、軽やかな足取りで城に向かうことにした。
久しぶりに会う、あの賢しい王子様と会えると思うと、不思議なことにここ数日の鬱くつした気分が晴れて行くから。歩いてく足取りも軽くなって行った。
「そっソニア、あっあの白銀竜ってまっ、まさか!?」
歩いてく内に我を取り戻した夫に、ニイって笑みを深め。
「そうよ。ミネラちゃんの義理の弟ってことになるかしら、あらあらそうなると私達の義理の息子じゃない!、あらあらやだわあんな優秀な子が息子なんて、なんて素晴らしい気分かしら」
よくよく考えてソニアは気付く、通りで救援に来てくれたかと。あの王子様のフットワークの軽さに驚きつつ、悪い気持ちにはならなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「陛下!」
部屋の外に待たせる側近から、声が掛かる。
「どうした」
錆びのある声の問いかけを発したのは、ファルバスの王、ダレーク・ファルバス・アソートは、この数日心労により妻アメリアの体調が思わしくなく見舞っていたタイミングであった。
「シンク王子様が白銀竜に乗って参りました」
「……………………そうか」
「あなた?」
「いや俺ではない」
「それからシンク様は、婚約者の皆様をお連れでした」
さすがに婚約者達を連れて来ていると聞いて、端正な顔立ちの眉をひそめる。その昔魔王の六将の一人。闇と呼ばれていた。最強の暗殺者。その面影は既になかった。
「姫様も一緒か?」
「もちろん魔王の愛娘様もいらっしゃってますよ」
ファルバスの戦士達。ダレークの側近は、ダレークの過去を知っている。それを知った上で、族長、長老、何より妻であるアメリアが、王にしてしまった。元々ダレークは、前魔王ヒザンの甥にあたる。現在の魔王ピアンザにとっては、年の近い叔父という血統で、ファルバス族から見ると遥か昔だが、遠縁に当たるのは確かで、それは古代種族の混血が多い北大陸特有の秘密であった。現在では、神代の時代から脈々と伝えてるのは、族長筋だけが知る秘密である。残念ながらダレークは知らない。それゆえに王に任じられ戸惑いすら当初は覚えていた。今では族長の娘婿との認識が強く。実力もあって、部族の戦士からも認められる勇者の一人であった。
最初こそ驚きはあった。しかし穏やかな眼差しの男は、影のある笑みを深めた。




