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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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英雄ですが何か?

ラトワニア神国を救った二人の『オールラウンダー』、ケレル殿下の右腕カレイラ・バレス、

リドラニア王(吸血鬼)を倒したオーラル・ハウチューデン、二人の『オールラウンダー』の明暗が別れる時。世界は真の英雄を求めた。

プロローグ




━━━聖アレイク王国、大聖堂━━、




深夜━━━、

エレーナ大司教に招かれた。フロスト騎士団長ブラレール・ロワイ、

ガイロン重騎士団長ギルバート・ガイロン准将が、宴を抜け出しての会談である。



今日未明、ケレル殿下から、一報が入る。ラトワニア神国の勝利と━━。


改めてレゾン王から、国の重鎮が集められ、ケレル殿下から、詳しい内情が知らされた………、事実を知り。二人も驚愕していた。まさかリドラニア公王が、


実は……、


死者の王吸血鬼だったと、初めて知らされたからだ………。

「我が国が誇る二人の『オールラウンダー』オーラル・ハウチューデン、邪悪なる吸血鬼を滅しました、カレイラ准将は、魔導師部隊を、師団に編成して、多大な戦果をもたらしました、二人は紛れもなく英雄でしょう、よって我が国は、カレイラ准将に、軍席でありながら、貴族として認め、男爵の地位を、

オーラルを少佐として、二人の功績に、応えようと、考えます。父上いかがですか?」

二人の為したことを考えれば、低い褒賞だが………、他の貴族達の軋轢や、他国で行われた戦果である。妥当と他の重鎮は考え、レイダ王の採決を待っていた、

「ふむ……、二人の為したことを考えれば妥当だな……、オーラル中尉に関して、大尉の昇進に留めたい」ざわざわ……、何か気に障ったかと辺りが、ざわめいた、

「先に言っておく、別段オーラルを嫌っての裁定ではないことを発言する。彼等第1分隊は、本来我が娘、ミレーヌの護衛が任務である。よって少佐になると、ミレーヌの護衛が、手薄になろう?」

可愛い、愛娘のミレーヌを思う、父親の顔を見せた国王の言い分は、もっともであった、

「心得ました、ではオーラルには別に、褒賞金を出すことで、宜しいですか?」

淀みなく、父王が、そう言うことを見越してたようだ。

「続きまして、ファレイナ公国ミザイナ女王からの同盟申し込み、慎んでお受けして、宜しいですね?」最近は、白い物の混じる。髭を触る癖がある。

「継続で、問題あるまい」

ホッと、安堵した空気が、流れる。

「では、使者に誰を送りますか?」

南大陸を結ぶ海路は、謎の嵐に沈静化が見られ、近日より。航路による交易が、再開されている。順番から考えれば、ケレル殿下の訪問が良いのだが……、

「父上……、ここはミレーヌを向かわせては?」

「なっ本気か、ケレルよ?」

驚くより、不安になる父王に静かに頷き、

「好都合ではありませんか、オーラルを護衛に付けられます」

あっ……。重鎮は気付いた、好都合と言う殿下の思惑に、何せオーラルは、ミザイナ女王と学園時代、同じ部隊にいて、ミレーヌ姫と面識があり、姫の信頼も厚い。なるほど━━殿下の言う通りである。

「うむ……考えればそなたが、言う通りだが……」

渋い顔をしたのは、再び。嵐が起こる場合……、父王の不安を感じ安心させるよう、

「王よ。お忘れか? オーラルは土竜騎士でもあるのですよ」

にっこり微笑して、父王の不安を先読みして答えた。

「おお~そうであった……、いささか父親として、眼に、雲がかかっておったようだ……」

しばし熟考して、舌の上で、ワインの味を確かめるように転がして、この場にいる。エレーナ大司教、ギルバート・ガイロン将軍を、気遣わしく見ていた。王の考えに気付いた、

「我が王よ。子カールのこと案じ下さりありがとうございます。なれど我が子。件のオーラルのおかげか。すっかり逞しくなりました」

慈愛に満ちる。エレーナ大司教の優しい笑みを受け、ギルバート・ガイロンの父として娘を心配する。しこりを僅かに解した、

「王よ……、不肖の娘……姫を守る。盾になるでしょう」

不器用な武人らしい、辛辣な言い方だが、噂では、娘との会話が増えたと目尻を下げてたと王は耳にしていた、

「王よ。追従として、フロスト騎士団所属の我が娘。姫様の不安を少しでも癒す役目として、同行を申し出ます」

ざわざわ……、エレーナ大司教の愛娘、次代の大司教候補と言われるリーラ・エスベリアのことか、彼女は、聖アレイク王国を襲った、伝染病から、民を救った聖女と……知られていた。

「カレイラが戻り次第。人選は任せる。 統括をケレルに、必ずわしに伝えよ」

これにて方針が決まり、会議室から、王は退出する。これより王は執務室で、膨大な、書類に目を通すことで、しばらく忙しい……。

「エレーナ大司教、リーラ侍祭を同行させることは、こちらからお願いしたいことでした、発言感謝いたします」

ケレルの礼を、笑みを称え受け入れた。

「今宵……主役がおりませぬが、二人の英雄の功績を称え、ささやかな宴が、用意してあります。皆さんいかがでしょうか?」ケレル殿下は、貴族達も呼んでるので、根回しのお手伝いをと暗に伝えていた、それに気付きエレーナは快諾の笑みを、ギルバートは顔をひきつらせていた。


夜会になって、華やかな場を苦手としたエレーナ大司教は、おいとまを告げると、ギルバート将軍とフロスト騎士団長ブラレールが、護衛を申し出た、二人も華やかな場は苦手としている。

「ギルバート様、ブラレール良ければ、私に付き合って下さいませんか?」

珍しい、エレーナ大司教のお誘いを、二人は快諾した、



━━執務室にお邪魔して、味わい深い、素朴なつまみは、エレーナ大司教自らの手による物。有り難く食する。豪華な宴は、所詮、貴族達のため。気が抜けないのだ……、ホッと息が抜けた、改めてギルバートは気付く。同じく此度の戦に、我が子を送ってたことを、エレーナ大司教の優しい気遣いに、感謝した、


エレーナから見れば、自分を見せるのが苦手で、不器用な武人らしいギルバート、軍務で、苛烈な印象ばかり、表沙汰になるが、エレーナ大司教が見受ける印象は、子煩悩な父親と認識している。

「ちょうどよかったエレーナ様、お伺いしたいことがある。何故リーラ侍祭の同行を求めたのですか?」

それはギルバートも気になったこと、強い生酒を一息に飲み干し、眼差しで、問うた、


エレーナ大司教は、アレイ教団の要。リーラ侍祭は、アレイ教信者が認める。次期大司教候補の最右力。わざわざ危険に、さらす意味はあるまい……、

「そうですね……、あの子は、自分で気付かないのですが、とてもモテるんですよ」

いまいち解りかねない、エレーナ大司教の言い回しで、ギルバートは首を傾げたが、

「オーラル君ですね?」

ブラレールが気付いた。エレーナ大司教はとて嬉しそうに笑い、我が子を自慢する母のようで、可愛らしい。

「私も若ければと、思いましたから」

「なっ……」酢を飲んだように、毒気を抜かれたギルバートに向けて、コロコロ笑い声を上げたので、からかわれたと知り、憮然と酒を継ぎ足した。

「半分冗談として、オーラル君が、あれだけの活躍したんです。貴族の方々の覚えも宜しいですから……」

「大司教……半分ですか?」

女心の吉備に疎い、ブラレールの鋭い突っ込みを、エレーナ大司教はわざとらしく空咳して、誤魔化しながら、

「リドラニア公国の二人の姫君が、興味をお持ちと噂が流れてます。大切な義娘の為に、動いただけですわ」

素知らぬ素振りで、吐露した、それは初耳だが、強ち嘘ではあるまい……、二人は見合い納得する。ラトワニア神国ナターシャ女王と。件のオーラルは、友人関係と知られていた。此度のことで救国の英雄となれば、親国である。リドラニア公国の若き女王候補の二人の姫、婿候補に話が上がるのも仕方あるまい。外交を考えれば、妙手である。

「それでは、あの子が可哀想ですから」

強かな女の顔を覗かせていた。

「後は、二人次第ですが」

悪戯ぽく笑うエレーナ大司教に二人の男は、オーラルの平穏を祈った。




━━━━━。



ラトワニア神国。王宮━━。カレイラとオーラル二人の『オールラウンダー』は、外交を理由に、ナターシャ女王に請われ、連日夜会に引っ張り出されていた。一代限りの末席だが、オーラルはラトワニア神国の貴族であると。認められた立場である。戦時中の急りょな取り決めを、上手く使われてしまい。憮然と憔悴するオーラル、苦笑しながら諦めろとカレイラが慰めた、改めて腰に差す剣に手を触れた。そんな理由で、これ程の武具を手放すのかと……、流石に呆れたが、カレイラの手にしっくり馴染んでいた。ありがたく貰うことにして、名は無いが今までカレイラが大切に使ってた、丈夫な剣をオーラルに与えた。それに満足そうに頷き、一礼して二人の姫君の呼ばれて、華やかな場を、仕方なさそうに混じる。

「変わった男だ……」

人間誰しも欲がある。オーラルには、そうした欲が希薄である。

「だから好かれるか……」

カレイラには無い部分。真似は出来ないが、使うことは出来る。

「こちらでしたかカレイラ准将」

アロを見た貴族は、些か失礼な反応をした、顔色は青く、息も絶え絶えな様子は、生きてるアンデットと表現出来た。カレイラには無い部分。真似は出来ないが、使うことは出来る。

「こちらでしたかカレイラ准将」

アロを見た貴族は、些か失礼な反応をした、顔色は青く、息も絶え絶えな様子は、生きてるアンデットと表現出来る。苦笑すら滲ませ。アロ補佐官のため水を頼む。落ち着いたアロは、

「レゾン王より命がありました━━」

アロからあらましを聞き終えたカレイラは、南大陸の情勢に、考えを飛ばす。確か……ファレイナ公国には。王弟エドワルド公爵がいたはず……。

「荒れなければ良いが……」




━━━南大陸、ファレイナ公国、北西の大河セルドールの河川の両側に、一つの街がある。国境の街セドである。

大河から取れる魚で、魚醤、日持ちする干物の街と知られている。広大な屋敷から、河川の向こう側まで、一望出来る高台。ファレイナ公国第2位の権限を持つエドワルド・アルベルト。エドワルド公爵の屋敷はあった、剣の国でありながら、槍を得意とする。アルベルト家、門下は、主にセドの街に住んでいる。兄である国王の崩御をきっかけに、不穏な空気が満ちて、住民は、ピリピリしていた、

「あの小娘……」

噛み締めた歯軋りの音に、アルベルト流の門下、槍の一門は戦々恐々する。ファレイナ公国の王は、剣の技に優れた者だけと決まっていた、アルベルト家は代々公爵を勤めた名門で、外交の要と言われる。外務省のトップ。第2位の重職にある。エドワルド公爵だが……、前王弟にあたる。長年ファレイナ公国を支えた。アルベルト家に男子が産まれず。エドワルドは養子として、入った形になった。よって王になることは敵わない。


ミザイナは、それを理解した上で、エドワルドに挨拶に来いと言うのか?、それでは、……飼い犬ではないか……、

━━━ファレイナに飼われた憐れな飼い犬……、


エドワルドは、兄が崩御して、野望を胸に抱く、今なら……可能ではないのか?と……、



━━━数日後。ファレイナ公国王座。聖アレイク王国の使者が訪れた。


今月の半ば、安全を考慮して、土竜馬車の旅で、ミレーヌ王女が、同盟の使者として詣られる。使者の話を聞き、ファレイナ公国としては、ミザイナ女王との懇意を示す方法を取ったと。王宮に使わす重鎮から、安堵の空気が流れる。

「つきましては護衛は少数ですが、我が国が誇る『オールランウダー』オーラル・ハウチューデン大尉と第1分隊が勤めます」


ざわざわ……、


驚きと好奇が滲み出た。何せ件の者は、伝説の吸血鬼を滅した、英雄と名高い『オールランウダー』が訪問すると言う……、剣の国ファレイナの若き剣将達は、口元を綻ばせていた。


今や先の戦争で半数が、戦死して、代替わりした剣将達ばかりであるが、傍らを伺うと、ぼくとつとするジンベイは、泰然自若に頷いていた、擁するに楽しみにしてるらしい、結局……、オーラルと帰国する前は会えなかったが、これもまた楽しみではある。

最近人々が何かと噂していた。ミザイナ陛下は困難が与えられればそれだけ、美しさが増してるのではないかと、民は軽口ではなく、信じるからこそ噂する。



━━━カレイラ師団が、帰還して、数日後……、

第1分隊舎に、ミレーヌ王女と侍女ジーナが、労を労いに慰問しにきていた。

「皆さん、ご機嫌ようですの~」

愛らしい風貌のミレーヌ王女、ふわふわの癖毛あるブロンドを、苦労して、リボンで飾り付けた、可愛らしい姫の慰問に、驚きより懐かしさが勝る。

「おっ……、ひっ姫様」

しゃっくりあげるクエナ、驚きを隠せない理由は。顔馴染みと言うより。歳が近く。幼馴染みと表現した方が早いからだ。クエナは国の重鎮ガイロン家の令嬢である。

「あっ、クエナちゃんですの♪」

トテトテと表現が、恐ろしく似合うミレーヌ王女は、無邪気に笑いクエナに抱き付いた、

「ひっ姫様……」

普段堅物の印象高い、クエナの狼狽える姿に、小さく笑いが起こる。益々赤くなり、アワアワ動揺しまくりのクエナを他所に、嬉しそうな姫様を引き離すのは、忍びない……オーラル達では、不可能である。

「姫様、まだ公務が終わってません。ケレル殿下に叱られますよ?」あっと口を開き、慌て押さえ、空咳をして誤魔化しながら、

「オーラル。護衛よろしくお願いしますですの~ミレーヌはとっても~、土竜を見るのが楽しみですの~」

公務と本音が混同した、愛らしい姫姿に、殺伐とした戦争の後と言うのに、ほのぼのと、癒される。

━━今回、姫の護衛に付くのは、第1分隊。小隊長の5人と追従するリーラ侍祭、侍女ジーナの7人である。不安の残る海上より、日数掛かるが、比較的安全な、土竜馬車の旅が選ばれた、


王族が、南大陸間の地下迷宮を使うのは、建国以来となる。それだけの大事、一介の土竜馬車には、頼めない話だが……、



オーラル・ハウチューデン、彼は、優秀な土竜騎士でもある。半年以上前……、大惨事の伝染病事件、治療薬があるのは、南大陸のみと解ったが、往復どんなに急いでも半月は掛かる。その間に多くの市民を失うところを……、僅かな日数で走破してみせた実績がある。

さらに聖アレイク王国が誇る6人目の『オールランウダー』ジーナから見て、一月前とあまり変わらない様子に。安堵していた、


あれからオーラルと話す機会は無いが、レイナ様から、秘密利に届く手紙━━。特別なルートを、オーラルが作ったことを聞いていた、数多の功績は、過去の偉大な英雄達に。比肩するとジーナはみている。



━━━3日後。王宮から、王族が使う。白を貴重した、美しい馬車の手綱を、オーラルが握る。流石は土竜騎士。土竜が馬に代わっても見事な腕前である。かなりのスピードで、走らせてるのは、窓の景色を見れば解る。

それなのに僅かな振動しか、伝わって来ない、

「……ですの…」

いつの間にか、夕べ興奮して寝れなかったミレーヌ様は、気持ちよさそうに寝息を立てていた、外はだいぶ肌寒くなっているが、仄かに、室内は温かく保たれていた、先程彼女エルと名乗ったか、少女の魔法である。

依然は、どこか警戒する子猫のようだったが、同じ隊士の顔の整った彼を、気にしてるのがバレバレである。

一瞬……睨まれた気がしたが、まさかね……内心苦笑する。


━━━ターミナルに、王族が来た~!。ソワソワしてたターミナルに住む住人は、上の街に集まっていた、

すると間もなく。可愛らしく、可憐な少女ミレーヌ様の笑みを目にして、土竜馬車ギルドに在籍する。古参の土竜乗りは、静かに涙した、


建国以来━━土竜乗りは、騎士として扱われている。

南大陸間しか、現在開通していない。大洞━━━。無数に広がる。迷宮には、地上に住まない、狂暴な生物すらいた。そんな危険な迷宮を旅する土竜乗りは、冒険者とも呼ばれた。



━━土竜乗りの多くは、未開の迷宮を開拓、新しい村を作り、子や弟子に譲り、礎を築く。厳しい生き方しかない。地下迷宮には亜人も多く住み。そうした亜人の村や集落と交流があるのは、東と南のターミナルの街だけである。その為、珍しい種族を稀に見掛けることもあった。

物珍しいターミナルの街。一貫性のない様々な様式の建物が一見乱雑に、立ち並ぶ上の街で、今日は宿を取った。

土竜騎士として、明日の準備があるので、姫様の護衛をミラに任せ、オーラルは相棒暴君Jr.の元に向かう……。

━━懐かしき下の街。大洞の入り口に、作られた、地下の街、多くは、土竜関係者の住まいがある。

「キュイーキュイー♪」

見ない間に、一回り育ったJr.が、厩舎に響く鳴き声をあげた。見覚えのある見習い、厩務員が笑顔で、出迎えてくれる。

「久しぶりだな小僧」

ガッシリした体躯、ズングリ小柄なオリベ老、かくしゃくとした精力的な面差しは、変わらない、ドワーフににていた。

「御無沙汰してます」

オーラルの右手だけにある。だいぶくすんだ色になった、赤い手甲を認め。眼を細めた。

「王女の護衛だそうだなオーラル?」

「はい」

相も変わらずやる気の見えぬ眠そうな顔。いい意味で自然体。ようやく顔を綻ばせる。

「土竜乗りの悲願だ、やり遂げろ……」

初代土竜騎士だったギルドマスターと、初代クラウベリア王と友人だった。臨終の間際友人にクラウベリアは手紙を残していた。再び地下迷宮の旅がしたいと……、土竜ギルドに伝えられていた。



それ以来━━、

土竜乗りは、旅人を乗せ。土竜ギルドの主な仕事には、迷宮内の大きな村、開拓の集落を定期便が出来た。

地上の商人の一部は、地下迷宮の住人の為に定期便を用いて商いをする。地下迷宮の住人にとって、定期便は必要不可欠であった。

「駅舎に連結土竜車の用意がしてある。後で、ギルドに顔をだしとけ」

親愛を込めて、オーラルの背を叩いた。



━━━ギルドのある駅舎、顔をだすと、沢山の土竜乗りで賑あう、

大洞に入るには。書類の提出が、ギルドで義務づけられてる。万が一の場合。保険を掛けたり、遺族に報せるためである。

「南大陸までの通行ですね……、乗員は7人。目的…王女の護衛………て、エェエエエー」

大きな声を上げて慌てる女性事務員。 あわあわしながら、眼鏡を治して、「貴方があのオーラル・ハウチューデンさん?」

驚いたり、騒いだり、忙しい事務員だ半分呆れてると、

「アオイちゃん、彼は間違いなく、オーラル君だよ、オリベ老から話は聞いてる。明日の朝。連結土竜馬車を出しとく。良い旅をね」

初老の老人は、にこやかに、奥の部屋に消えた、

「まっマスター~」

泣きそうな顔をした事務員を残して、周りは何時ものように喧騒に包まれた。土竜乗りは肩書きではない、命を掛け走り抜ける。プライド高い、冒険者である。

「みんな良い旅を」

「良い旅を……」

何人かが、酒を掲げ、笑いあう、



━━━オリベ老の土竜舎に戻り。

久しぶりにオーラルはJr.の世話をしながら、明日の話をした、終始ご機嫌のJr.と夜遅くまで過ごし━━翌朝、ターミナルを出発した。


初めて触る土竜に、終始ご満悦のミレーヌ姫は、地下迷宮の外を、飽きもせず眺めていた。

「意外と広いんですね中♪」

連結車の二列目は、食糧庫と簡単なキッチンがあり、3列目に、個室が3部屋ある。

ベッドが2つある大きめの二人部屋を、ミレーヌ姫とジーナが使うことになっている。


━━迷宮はとてつもなく広い、近くの村に簡単に寄れない程の長旅……。

土竜は休まず。半月以上もの期間。眠ることなく、走り抜ける事が可能である。ただし……土竜騎士と土竜は、お互いの魔力で、体力を回復する事が可能だ。旅を安全に行くには、土竜騎士自身の魔力切れに注意が必要である。

知らない人は、オーラルが先ほど仮眠しに行った時、大丈夫なのか?、不安そうなクエナに、

「土竜は人間以上の知力がある。Jr.に任せれば、平気なんだよ」

簡単に土竜と土竜騎士の関係に説明すれば、なるほどと興味深そうに頷いた。クエナは仕方なく、ミレーヌ姫の相手をしながら、カール、ミラと交代で、見張りに出た。

客車車両には、御者台と見張り台に上がれる構造になっていて。クエナは御者に座り。前方を見て、大洞のあまりに馬鹿馬鹿しいほど……、巨大な洞窟を見上げ、クエナは自然の作り出した、雄大さに身震いする。


━━━駅舎から、大洞に入るとき、深く、地下に落ちてく、イメージだったが、数時間もの長さを、かなりのスピードで降りて行くときは、それは怖かった……、今思い出すと小さな笑みが浮かんだ、



━━広大な広さを誇る。巨大な通路に出た、オーラルは、わざと土竜車を停めて、

あまりに美しい光景を皆に見せてくれた……、クエナは息を飲んで、あの光景は忘れない一生の思い出である。


大洞と街の入り口は、水晶を含む美しい鍾乳石が、巨大な柱を形成して、魔法の明かりを反射するように、磨きあげられており。幻想的な光景が広がっていた。誰しもが、息を飲んだ、ミレーヌ姫を客車の屋根にある。見張り台に上げて、姫様は飽きることなく、しばらく見とれて……、そっと吐息を付いていた。

洞窟内は土竜馬車が、四台ならんでも余裕ある。広大な広さの大洞、クエナは光の届かない。闇を予想してたが、予想に反して煌めく夜空のように、水晶の仄かな光が、辺りを照らしていた。

「オーラル質問です!、この先の大洞の中は、暗闇なのですか?」

ミレーヌ姫は真面目に、問いかける。

「場所によります姫。大洞の交易路は、旅人が、迷宮内を、ある程度、安全に通れるよう整備されてます。またモンスターの巣に近付かなければ、ある程度の視界はあります。そうですね……晴れた日の夜空のような」

なるほどと感心して、さっきまで、エルと侍女ジーナと三人は、ひんやりする地下の冷たい、風を感じながら、見張り台にいたのである。


「オーラルお腹が空きましたの~」

眼を覚ましたオーラルを見つけるや空腹を訴えた姫に、

「出来てますよ。姫」

軽い軽食と温かいミルクをプレートに持って渡した。早速一口、愉しげに笑う姫に、クエナもホッと胸を撫で下ろす。

「そろそろ交代しようかクエナ♪」

カールが、外套を羽織り。やや狭い見張りに上がってきた。仕方なくクエナは明け渡して。下に行くとジーナが気を利かせ、温かいミルクを入れてくれた。一口飲むとかなり身体が冷えていたことに驚いた。

「あ゛━━サブイ」ガタガタ小刻みに、震えながら、ミラが御台から戻った、

「オ~ラル、よ゛んでぐる」

鼻声で、外套をしっかり身体を包み、身体を抱くように、仮眠室に向かった。



━━━遠くに、人工的な明かりが見えてきたのは、3日目のこと、広い場所に出たのはそれから半日過ぎた所だ。


しばらくしてオーラルが、見張り台に上がり、戻ると、

「中継の街に、間もなく到着します。今日は、宿に泊まるので、身の回りの物だけ手にしてくださいね」

不審な表情をする一同に、肩を竦めながら、

「迷宮内で、犯罪はほとんどありません」

「それはどういうことなんだ~い?」代表してカールが聞いてきた。

「それは……、助け合うしか、生きていけない場所だからですよ」

戸惑う一行を連れて、オーラルは中継駅舎にある。土竜舎にJr.を預け。栄養価の高いワームの餌を注文して、連結車を、造船と機械の国から来ていると言う技術者レノンに、点検をお願いして、一同を中継の街に案内した。



街並みは、美しい鍾乳石を巧みに使い、家の柱にしたり、露店のテントには、変わった料理が並ぶ、オーラルの案内で、大通りから、少し離れた、とても可愛らしい宿屋兼食堂に入る。

「いらっしゃいました」

入るなりおかしな言葉使いが、どこらともなく聞こえて来た。皆キョロキョロしている。

「おオ~いこっち、こっち!」

ピョンピョン何か跳ねてる。思わず視線を下げて、目が丸くなっていた。

「カメ……、エ~~~」

思わず。驚きの声を上げていた、

「お久しぶりですカメベーさん」

ニッコリと懐かしそうな顔で挨拶するリーラに、しばしカメベーは首を傾げ身体を一回転。背の甲羅を使って再び立ち上がる亜人。姿は海に住むカメだが、尻尾と足の3足歩行で。宿屋の主人である。

「オ~貴女はリーラさんではないで~すか」

その間、二度も甲羅を使い一回転する。呆気にとられる一同を余所に、軽やかに踊り。世間話をしてる亜人とリーラ侍祭に、みな毒気を抜かれる。

「おっおいオーラル……、」ミラが戸惑いながら、答えを求めたい顔である。

「こちらはカメベーさん、トリトン族の族長ですよ」

「おお!これはオーラル様ではありませんか、その節は、一族を救って下さりありがとうございました」

ピョンピョン飛びはねながら、首だけ器用に下げる。

「こちらこそお世話になりました」

和やかな会話が交わされてるが、一同カメベーの動きに魅入る。

エルだけは、持参した図鑑を手に、感心した顔をしてたが、気にするだけ、無駄である。



落ち着いた所で、カメベーに、地下迷宮で、流通する貨幣とは別に、小さな革袋を渡すと、大変喜んでいた、気になったので、訪ねるジーナに、

「海藻ですよ」怪訝な面差しで、首を傾げる。

「海藻って、よく海辺の海岸にうち上がったりしてる?」

「はい、彼等トリトルン族は見た通り、元海に住んでたそうです……」

前置きして、トリトン族について説明していた。彼等は人間と違い、産卵で個体を増やすが、雌雄同体という珍しい種であった。

「しかも彼等は突然、雌になたり、雄になたりしする不思議な生態を持ってました」

彼等がどうして……地下迷宮の住人になったか、それにより困ったことが起った。



当初こそ貯蔵してた海藻があって大丈夫だったが、それも底を着いたのだ。トリトン族にとって海藻は大切な薬を作り出す材料だった。雌雄同体の彼等を、ある期間変化しないように、留める薬の材料が……海藻に含まれる。ミネラルだそうだ、僅かに、塩にもふくまれ誤魔化していたが、それも限界を迎えた、そこをたまたま逗留したオーラルが、気付いた、

「ああ~もしかして藻塩ですね」

「正解、藻塩はまだ広く、知られてませんが、海辺の街なら簡単に手に入る調味料です」

「なるほど……それで一族を救ったと」

料理好きにしか解らない会話で、ミレーヌ姫は、カメベーさんの子供達に夢中でかまい、エルはずっと観察を続けていた、ちょっと怖い……、ジーナが思うと軽く睨まれた。


その夜━━。カメベーさんの料理は、どれも驚くほど絶品だった、大変満足して、


翌朝━━トリトン族総出のお見送りに、みんな感動してしまう。




━━━南大陸…ファレイナ公国。

ミレーヌ姫一行が無事、大洞に入ったと連絡があった、早ければ10日ほどで、南大陸のターミナルに、到着するだろう、問題は……、

「叔父上、エドワルド公からの返答はいかに?」

なぜ?、今朝になるまで、返答が遅れたのか……。

「叔父上の考えが解らない……、今は、国がひとつにならなければならないときなのに」

らしくないく焦っていた、

「ミザイナ女王様が、直接訪れるようの一点張りでした」困惑する使者を勤めた騎士の労を労い、唇を噛み締めていた、件の御仁はミザイナの叔父にあたるエドワルド公爵。まるで考えが解らないため、みな困惑していた。まだ父がいれば違っていたかも知れないが……、ようやく体調が、安定した父に、心配はかけたくなかった……、



━━━地下迷宮6日目。

「変な匂いがしないか?」

鼻の効くミラが、眉間に皺を寄せる。

「言われて見れば確かに……」

リーラも同意した、

「ぉ~くさっ。なんだこの匂いは」

御者台から。カールの悲鳴混じりの慌てる声がして、客車に逃げ込んで来た、どうしたのか?迷ったが、好奇心が勝り、見張り台に、三人が上がり、玉子の腐ったような刺激臭に、鼻と口を押さえ慌てて、中に戻る。「なっ何ですかあの匂い」

信じられないとジーナ、

「鼻の中に、まだ匂いが残って……」

真っ青になって。自分の髪をつまみ匂いを嗅いで、絶望的にうちしがれたミラ、

「ミラさん、オーラルさんを」

「わっ、わかった!」

土竜がスピードを下げないので、人体に害はないでしょうが、他の理由なら、土竜騎士のオーラルに、聞く方が確かである。

程なく、オーラルを引きずりミラが戻る。ついでに眼を覚ました姫様も一緒である。寝ておられたようだ。

「ああ~温泉の村が、近いからかも」一同首を傾げる。オーラルの話では、この辺りは、海底火山の下にあるらしく硫黄臭が、岩に染み込んでいると聞いたが………、理解出来ない。

「この先に着く村には、天然のお風呂があり、旅の疲れを取れる娯楽施設があります」

風呂の単語に、女性陣は食い付いて、

「いつかな?オーラルお風呂は」

ミシミシ凄まじい怪力で、ミラに肩を捕まれた。なんとなく身の危険を感じて、

「間もなくですよミラ先輩……」

それを聞いて、安堵した三人は、あわてて仮眠室に向かう、

「うっうわ~何を」

ドスン、パタリ、凄まじい打撃音……、閉められた扉の音……、カールが当て身を喰らい、部屋から追い出されたようだ、一応今まで、水が豊富な村で、水の補給を済ませたついでに、身体を拭いたり、水で髪を拭く程度である。

「Jr.ありがとう」

気を利かせたJr.が、予定の村を変えて、温泉の村に向かってくれたようだ、赤い手甲を優しく撫でると、オーラルの意思を手甲から受け取り、Jr.は嬉しそうに鳴いた、



━━程なく━━村が見えて来て、村に到着する。


温泉の村の外には、小さな駅があって。大きな連結土竜車を見つけた、村の子供達……に混じり、ドワーフが興味深そうに、連結車両を見ている。彼等は、優秀な職人が多く、珍しい物好きで、偏屈だが、優しい亜人である。

駅舎の職員なのか、腰の曲がった老人に言われて、駅舎に暴君Jr.を連れて行き、労を労い、栄養価の高い、ワームの餌と牛が飼われてると聞き、ミルクをついでに頼む。少し多目に料金を払いお願いすると、しわくちゃの顔を破顔して、枯れ枝のような腕を捲り孫を連れて、支度を始めた。外では何か言いたそうな女性陣の眼差しを受けて、苦笑しながら、連結車両を好奇の眼で見る子供達に声をかける。

「済まないが、共同浴場に、お姉さん達を案内してくれないかな?」

三人子供の内。女の子が一人いる。村の子供達はオーラルに声を掛けられて、みんな驚いてたが、案内料を渡して、

「後で、土竜に触らせてあげるから、頼むね」

「うん!任せて」

眼をきらきらさせて、子供達は、急くよう、女性陣を引き連れていく。

「やれやれ、ひどい目にあった……」

顔に、青アザをこさえたカールを、気の毒に思いながら、集まるドワーフの職人に、声を掛けた、「あの少しいいかな?」偏屈そうな顔を見てると誰かを思い出す。にこやかにある車両のことをはなした。当初は驚いたドワーフ逹も話し合い不可能ではないと言ってくれたので、まとまった金を渡して、追加車両制作を依頼する。驚いてたドワーフ達だが、眼を輝かせ任せろと厚い胸を叩いた。


オーラルが考えたのは帰りのこと。ミレーヌ様の公務予定では、早くても半月以上掛かる。なら今から改善策を準備しておくことが望ましいしい。これが上手く行けば、女性客、旅人も増えるだろう。


カールを連れて。村に居を構える。太陽神に支える神官に頼み、目立つ青アザを癒してもらい、二人は村にひとつだけの食堂で、人数分の料理を頼んでおく、訝しむ女将に女性陣が、温泉に行ってるのでと説明すると、恰幅の良い女将は、なるほどと豪快に笑い。

「準備しとくから任せときな!」

請け負ってくれ、一安心。

「お兄さん!、連れてったよ」

走ってきた子供が元気にオーラルを見つけて案内を済ませたと言うので、「ありがとうな、じゃ約束通りに……」

カールに留守番を頼み、駅舎に連れてくと。

「キュイ?」

目敏く、オーラルにくっついていた、三人の子供を認め首を傾げた。

「Jr.済まないが、彼等と約束してね。君を触りたいそうだ、頼めるかい?」

「キュ~~イ!」

構わないよ。子供達に身体を擦り寄せる。

「うわ~ゴワゴワするね」

おっかなびっくり女の子が優しく触る。男の子達は、しきりにお腹に触れ、感心していた、

しばらくJr.とじゃれあってた三人を、親がちょっと心配して、見に来たようだ、 一瞬三人の親の1人が、驚いた顔をして、

「オーラルじゃないか!」

がっちりした、細面の男に、見覚えがあった、

「もしかして……ボルド先輩ですか?」

「おう!、覚えててくれたか」

にかり笑う顔は確かに見覚えがあった。色々と懐かしい思い出が蘇る。

「先輩……もしかして?」

照れ臭そうに、くすんだ色の手甲を見せる。他の二人も右腕の手甲を見せ、笑い会う、地下迷宮の村に住み。開拓をする土竜騎士がいる。ボルド先輩達チームは、この温泉の村を拠点にして、モンスターの巣や、危険な生物を狩って、生計を経てていると聞いた。

「それは大変な仕事を……」

「まあな色々大変ではあるが……。村人に感謝されると遣り甲斐はあるさ……、不安は子供達だ」ほろ苦く娘ともう一人顔立ちの似た男の子の頭を優しく撫でる。くすぐったそうに目を細める。しかしとオーラルの表情は固い。これが今の土竜騎士の現状なのかと考えてしまう。自分にどうにか出来ないか、ついオーラルは考え悩む。



昔話で、時間はあっという間に無くなり、

「またなオーラル!」

再会を約束して、ボルドは子供の手を握り、家路に着いた。



━━━温泉にご満悦の女性陣と合流して、食堂で、温泉の村の名産、鳥料理に舌鼓打って、お茶を頂きながらみんな大満足である。食堂の女将さんに、宿を紹介してもらい、今夜は、温泉の村で一泊することに決めた、

「オーラルいいかな?」

『また温泉に行きますの~』と、温泉が気に入った姫と、ジーナに付き合い、クエナが同行する。カールはエルに引きずられ、ドワーフの工房に向かった、

「うん、俺も話がしたいと考えてたんだ」

朗らかに笑いながら、さらりと嬉しいこと言われて。リーラは赤面する。二人は軽食を出す屋台を見つけて、テーブルに相対で座り、飲み物と軽い食べ物を頼んだ。

「こうして二人で、話すの……、夏至祭以来ですね」

リーラもオーラルと同じく、思い出してたようだ。

「兄さん……、変わりました」

ゆっくりと……、色々な思いが溢れて、胸が一杯になってか、リーラの眼から、涙が流れた。

「ありがとうオーラル」

本当に感謝していた……、母も思い悩む姿がなくなった、

何より……自分が……、でもと考えてしまう。オーラルは誰よりも頑張って、先を歩き苦難をかけ上る人だ。今では知らない人はいない、英雄なんて呼ばれてる。本人は、気にもしないけど、

でも私……、怖い……、誰かに……、オーラル…、

「リーラこの仕事終われば、しばらく休暇になるんだが、君さえ良かったら俺とデートしないか?」

「へっ……、わっ私とですか?」

「ああ~嫌なら諦めるよ」

「いっ行きます!」

慌てて、力一杯言ってしまい。真っ赤になっていた。

「じゃ、休みが決まったら、大聖堂に顔出すよ」

「はい!」いつの間にか不安が、リーラの中から消えていた。今度こそ、幸せそうに笑っていた。



━━南大陸、軍国ローレン、将軍の執務室に、アルマン・ソゲルがやってきた。軍国の財政を一手に引き受ける。アルマン商会の若き当主であり、軍国の財務省トップを兼任している。参謀である。

「久しぶりだなソゲル」

「はいバローナ閣下」表面上は、敬うようにしたアルマンだが、実質この国の支配者は、アルマンである。

建国したと言っても軍国国内。小さな反乱があったりと情勢はまだ不安定ある。最近元ダーレン軍のグレビー・アシュビ率いる少数の兵が、ラノビー砦を占拠。苦戦を強いられていた。

「ラノビー砦の事だな?」

久しぶりに現れた理由は、遅々と進まぬ。反乱の鎮圧について、あまり長引くと、軍国ローレンの統治力を疑われかねないからだ。

「何故早急に。駆逐してしまわれないのですか、閣下?」

不満があるのだろう、バローナがわざわざ手抜きして、泳がせてる理由が解らない。そう見当を付けたかの口調である。そう言われても文句は言えないが、バローナとて早々に決着をつけたくない理由もあった、商人のアルマンには解るまい……、

「聞くが、あれが本当にただの反乱だと思ってるのか?」

「……閣下?、それはどういうことです……」

訝しげなアルマンが問い掛ける途中。ノックがなされ、軍師デーアが入室してきて、会話が中座した、


「閣下、予測通り、グレビー・アスナルから、会談の申し出がありました」

一つ頷き、戸惑うアルマンを見て、小さく笑っていた。



━━━元ダーレン国、国境防衛将軍グレビー・アスナル、肩書きだけの昼行灯と蔑まれた中年男は、ダーレン国の動乱のなか、精々とした気持ちで、将軍職を投げ出していた。


元々、親が地方領主で、裕福だが名誉が無かった親が、金を積んで、手に入れた地位など、惜しくもなかった。



アスナルとしては、どこかの片田舎の村で、細々と畑いじりでもして、のんびり生きてくつもりだったが、生真面目な部下に見つかってしまい。仕方なく、神輿に担がれた訳だが……、まるでやる気もく。自分から動かないアスナルに嫌気さして、騎士逹は突撃、簡単に戦死ししていた。たまたま神輿に担がれて、再び押し付けらた将軍と呼ばれてはいるが、その胸中。理想を囁かれ、訳も解らず武器を手にした新兵を守らなければ、死んでも死にきれん、やる気などないが……、

バローナ将軍は、公平な男、此方の意向に気付けば、乗ってくれる可能性がある。それにいちるの望みを賭けていた。



━━━バローナは部下からの報告を聞き、

砦を占拠する反乱側が、変わったと感じたのは、それから間もなくである。

当初無謀な突撃ばかり繰り返していた反乱側が、戦術を使いはじめたので驚いた。それとなく手を読むようになると。まるでゲームの仕手戦を挑まれてるような感じがして、バローナ自身訳もく面白いと感じた。そして直ぐにグレビー・アスナルの目的に気付いた。

「成る程……、気付いて、今まで動かず。わざわざ愚鈍を演じるか」

密かに、楽しみが出来たとバローナは、乗ることにした、わざわざ新任の部下を向かわせたり。そこそこ頭の切れる士官を向かわせたりと。色々試してみたが、

相手は明らかに。軍国ローレンの支配者を引っ張り出すため……、ギリギリの綱渡りを繰り広げ。これを追い返していた。


「成る程……、それほどの知将がいたとは……」会談の申し出を。受ける。返答したバローナを非難する眼差しだったアルマンは、バローナの先見性に、すっかり感心ししていた。もしもアルマンなら気付かす。攻め続け殺していただけであろう……、こと戦略、軍務において、自分が素人とだと改めて理解した。

「バローナ将軍、貴方に彼等の処遇。お任せします」

ようやくアルマンにも理解出来た気がした。何故今まで動かなかったか、アルマンが訪れたのを見計らい。商人だからこそ解るように、利で説く、これ程の才が、惜しいと……、強く思い始めていた。



━━━ファレイナ公国、セドの街、


千にも及ぶ、槍の名門アルベルト流門下生は、

武装して整然と整列していた。エドワルド公爵は長巻きと呼ばれる。槍の穂先に、片刃の幅広い刃が付いた槍を手にして、

「今こそ、剣の国から、我らが槍を国技にし。覇権を得る!」

「うぉおおおおおおおおおー!」

長年槍の名門と呼ばれたアルベルト家、門弟も剣の国では、長年苦汁を舐めてきた……。先の戦にすらアルベルト公は呼ばれることもなく……、国王崩御の時ですら。使者が報せて来ただけである。誰もが……、馬鹿にしたかのように、侮ってるなら……、今こそ好機!、蜂起する。



豪風一閃。長巻きの一刃で、広場にあった初代剣王の像を、台座ごと、真っ二つにしていた、




━━エドワルド公爵、謀反を計り蜂起!、

ファレイナ公国を揺るがす。大事件の一報が入ったのは、早朝未明である。あまりの事にミザイナは言葉を失った。

「申し上げます!、エドワルド公率いる。反乱軍およそ千。セドの街を北上して、間もなくライト剣将率いる駐屯兵と、激突すると一報あり」

「何だと!、叔父上は何を考えてるんだ……」

怒りのあまり、立ち上がる。

「ミザイナ」ぼくとつと、自然体を崩さないジンベイ諭され。ハッと我に帰る。深く深く呼吸して、冷静になろうと、精神集中した、愛剣を手にして、ようやく落ち着きを取り戻した。

「ジンベイ済まないが……、ターミナルに向かってほしい……、万一のため王女の警護を、私は叔父上を迎え撃つ、いかにライトでも、叔父上の相手は荷が重い」

「承知」

朗らかに、ミザイナの考えを尊重してくれるジンベイ。彼の優しい瞳で見詰められると。胸が熱くなる。深い信頼をミザイナに寄せてくれる。それだけでいつも救われるのだ。




━━━地下迷宮、中継の街南。


オーラル一行は、何も知らず。長旅の終わりを寂しく感じながら、南大陸、タミナルの街に向かっていた。


「後2日程で、南タミナルの街に到着しますが、ここから先は、急激に気温が代わります。南大陸は今は真夏です。エル体魔法を切り替えといてくれ、皆は、涼しい格好をしとくように」

「解りました、姫様、御目し替えしましょうね」

「はいですの~到着が、とっても楽しみですの♪」

ジーナと姫様は和やかな会話を楽しみながら部屋に戻る。入れ替わりに、見張り台に出てたカールが、袖を捲り、胸元開けながら、戻ってきた、

「いや~、外暑いよ、サウナの中にいる気分」

素早くエルが、空調を調整して、瞬く間に客車が、涼しくなった、

「ふぅ~助かる。ありがとうエル」

「ふん、べっ別に、カールのためじゃにい」

お礼言われたのが、照れくさかったのだろう、ちょっと噛んでいた。からかうようなオーラルの思考を読み。赤くなり、拗ねたように睨んできた。


今回は護衛任務のため、エルを面倒みてくれる。ジン・ゲルマンがいない、凶相のジンは、見た目に反して、子供好きで、動物好きの気の優しい、気遣いの男。顔のせいで悲しい思いすることが多いが、エルはジンに、すぐ心を開いた。そうしたジンの悲しみを感じて、喜んで側にいるように思われる。エルはとても優しいから……おっと、意識を読まれたか、

「大丈夫かエル?、顔真っ赤だぞ」

心配そうなカールは、熱を計るように、額に手を乗せてきたから、エルは固まっていた。

「だっ大丈夫……あっ」

離れる手を、残念そうに、見ていた、

「エル~お前も、着替えなよ」

カールと見張りを代わるため、先に着替えてたミラ先輩に促されて、エルは少しだけ安堵混じりに、後ろの車両に向かう、

「あの子変わったわね……、まあ~趣味悪いけど」

嘆息しながら、見張り台に上がってくミラに。オーラルは小さく笑っていた。



━━━南大陸、南ターミナルの街、


大洞の通路から、駅のある。入り口まで、急坂を物凄いスピードで、かけ上がる。土竜馬車はゆっくりスピードを落として、駅舎に到着する。



駅舎で荷物を降ろしてた一行に、童顔の青年が近付いてきたのを、オーラルが気付いた、

「ミレーヌ姫と護衛とお見受けします」

青年は小柄な体躯。栗色の髪にクリクリッとした目が印象的で、凛々しいと言うよりも失礼だが可愛らしいと。印象を与えるが、よく見れば、背に大剣がある。足の運びもバランスが秀逸で、かなりの使い手と認識したが、青年のぼくとつとした、朗らかな人柄は、隠しようがない、信頼出来る人物と判断した、

「ん……」

そう言えば……、ケレル殿下から聞いてた、要人の風貌に酷似している。

「失礼ですが……、剣聖のジンベイさんでは、ありませんか?」

やや面食らいながら、人好きのする笑みを見せる。

「はい、では君が?」

「ええオーラルです陛下。この場で、わざわざ陛下が来たは、何か理由があると思います。ひとまず落ち着ける場所を用意しましょう、しばしお待ちください」

そう言われてジンベイは戸惑いながら、よくよく考えてみれば、身一つで来てしまい、そうした考えが及んでなかったことに、今更ながら気が付いた、

「助かります」

破顔して、照れくさそうに笑うと、童顔なジンベイは、少年のように見えた。



駅舎にあるギルドの受付で、事務員に、書類をだして、

「特別室を」

やや多目の金を、テーブルに乗せていた。


幾つか、交易品として、余分に積んでいた、塩、果物、香辛料、鉱石の売買の仲介依頼を済ませる。

「オーラル様、助かります」

事務員は、素直に喜び、荷下ろしの人数が集められ、にわかに活気づいた、

「オーラル~自分たちの荷物だけでいいんだろ?」

「ああ、後はギルドでやってくれる。姫様をこっちに呼んでくれ、ではジンベイ殿。先に特別室でお待ちを」

事務員の案内で、ジンベイが奥の部屋に入ったのを見計らって、駅舎の隣にある。土竜舎で、くつろぐJr.の様子を伺い、世話を頼んでから、駅舎に戻る。

交易品が届いたと、耳の早い商人が、品物を見に集まっていた、

「値は、あまり上げずに。売買で構いませんから」迷ってる事務員が、驚きながら、嬉しそうに、笑う、オーラルの背から歓声が、聞こえてきた、

「さて……、ミザイナはどこと戦ってる?」

自問自答したが、答えはでなかった、




━━━剣将ライト率いる。800の駐屯兵は、苛烈な槍技を使う、エドワルド公1人に、壊滅寸前まで追い込まれていた━━、


アルベルト流派の門弟は、剣士クラスばかりで、駐屯兵と力差は無いのだが……、

エドワルド公の相手をしていたライトの刀が、数合受けただけで、簡単に折れた、まさに絶体絶命の中、

「はっ」神速一閃、二人の女性が加勢に入る。

「助かったルルフ、エフィ」感謝を述べ、部下が投げて寄越した、予備の刀を抜刀した、

「ふん!、たかが剣将が何人いようと、相手ではない」


新しく八剣将に加わった、三人は、ミザイナ女王の側近だったもの逹である。それを知るエドワルド公は忌々しいと言わんばかりに睨み付ける。

━━豪風一陣、逆巻く風を巻き込みながら。周囲全てを切り裂く豪撃。

強烈な一撃を、三人は咄嗟に獲物で防いだが、身体の軽いルルフは、衝撃を逃がせず肋骨が折れた、ライトの予備刀の刃にひびが入り、エフィの双剣が砕けていた、彼女の剣は、刃を極限まで薄く鍛えた剃刀のように薄いため、防御には向いてない、砕けたのは仕方ないが……、あまりにも技量が違いすぎる………、ルルフは二人を促し退却を始めていた。

「ふん!所詮はこんなものか……」

アルベルト流派の門弟は、剣将が逃げたと、歓声を上げた。

「弱い……弱すぎるわ!、所詮は剣など、非力な武器に過ぎぬ」

覇を唱えるエドワルド公の豪気に、門弟は酔う、



━━━その日の夜。夫ジンベイから、姫一行と合流が伝えられ、安堵したのもつかの間。


姫様一行が、エドワルド公爵との会談を申し出たと聞いて、我が耳を疑った。


さらに夫ジンベイも会談に賛成したというではないか……、もう訳が解らなかった━━。


………一夜明けて。エドワルド公は突然と公式な会談が申し込まれ。戸惑っていた。しかも相手は同盟国の王族である。ミレーヌ姫様。昨夜の先勝ムードが無くなり、戸惑うばかり………、

「ぬうっう」

了承して応対したエドワルドは、わが眼を疑っていた。何せミレーヌ姫と一緒に現れたのが、姪の夫で、アルタイル家の養子になった、国王ジンベイであった。幼少期に何度か言葉もかわしていたはずだ……。



さらにテントに入ってきたミレーヌ姫、問題は護衛にいたもの達で。いずれも聖アレイク王国の重鎮の子息、子女だと紹介を受け、冷や汗を流した。

「貴殿が、あの……」

一際、異彩を放つ経歴をもつ男からは、今まで感じたことかない覇気と。凄まじい魔力を感じて、思わず総毛立つ。

『底が見えぬ………』

じっとり手汗をかいた手を拭っていた、それに……、改めて見たアルベルト公は、眼をしばたかせ1人1人注意深く眼を配る。無論未熟な者もいる。が、いずれ……と思わせる人材を前に、覇を唱えていた、エドワルド公は何をしてたんだと、我に返った、

「エル?」

「間違い無いのだ、呪いが掛けられてる」




━━━時間は少し戻り。南ターミナルの街。



土竜ギルドの特別部屋に入ったミレーヌ姫に、改めて。

「ミレーヌ姫。護衛の皆様。長旅お疲れ様でした」

頭を下げるジンベイを前に、クエナは怪訝な顔を、ジーナ、ミレーヌ姫は首を傾げ。リーラは問うようにオーラルを見つめ。ミラは肩をすくめていた。察しがついたのは、カールと意識を読む能力者エルだけだ。

「姫様。こちらはファレイナ公国の剣聖ジンベイ殿」

やっぱりかとカールは頷き、クエナは驚きが隠せず。リーラとジーナは顔を見合せ。エルは飽きたのか本を広げた。

「まあ~そうでしたの、初めましてジンベイ王」驚いたのはオーラルを含め皆である。朗らかに笑いながら、悪戯ぽくチロリ舌を出して。

「ミザイナ様とは、お友達ですの~、手紙でやり取りしてましたから、ジンベイ様のこと知ってましたの~」

成る程……、妙な感心しながら、思わずオーラルは笑っていた。



皆を見ながらジンベイ王は、何故自らミレーヌ姫を出迎えたか、ぼくとつと話始めた………。

話を聞いてく内に。エルが本を閉じて、興味深く耳を傾けたので。

違和感を覚えていた。そしてミザイナから聞いたバローナの国。軍国の黒幕を思い出す。チラリエルを見ると、真っ直ぐオーラルの目を見ていて、小さく頷いていた、可能性は高いか……、そうなると……、

「ミレーヌ姫、お願いがあります」

「なんですのオーラル?」

オーラルはファレイナ公国を救う。妙案のため。エドワルド公爵に、正式の会談申し込みをするようお願いする。

「おっ……、おいオーラル、流石にそれは……」クエナの言いたいことは分かるが、ジンベイを見ると、やや驚きを隠せぬ顔に。ゆっくり理解の笑みが広がり了承に頷いた。



━━━時は戻る。

エルの能力を事前に聞いていたが、驚きと同時にジンベイは安堵した、

訳も判らず困惑浮かべるエドワルド公爵に、リーラと名乗った侍祭が、公爵の手を優しく包み、癒しの魔法が唱えられた、━━光が、エドワルド公爵を中心に、身体に吸い込まれて行く。

「何を………………」

エドワルド公爵は、全てを思い出した、

『姪の苦労は解るが、槍の名門アルベルト家の面目を思いやること。忘れておるな、一度言わなくては…………』

肩を竦めた。

「クスクス……それでいいの?」

「せっかく力が、あるのにさ~」

書斎が突然、闇に閉ざされ………、エドワルド公に気付かれることなく魔法が使われたこと、驚きよりも、警戒した、

「無駄だよ~」「無駄なんだよ~」

眼前にいつの間にか現れたのか……、同じ顔をした……双子?。

「ほらね?身体が動かない」

「ほらね?心を失った」

双子は、悪戯をする子供のように無邪気で、虫に、人形に対するよう残酷に笑う。

「欲望のままに♪」

「欲望のままに♪」

言葉が、エドワルド公爵の心を蝕み。大切な良心を失わせた。

「どうなるかな?」

「楽しいといいな」

二人の笑い声が、呪いの残し香として……消え失せた、


「わっ、私は、一体何を……」

呆然と立ち上がり、顔を真っ青にして立ち尽くした、




━━━夕刻。オーラルから、会談をセドの街で行うので、ミザイナ女王にはご足労願う旨、エドワルド公爵から書簡が届き、狐につままれた気分のまま、八剣将で側近の三人を連れ、セドの街に着いたのは、

━━翌日の明け方近く。


戸惑うセドの人々は、女王の到着を喜んでいた。ミザイナ、三人の剣将も歓声を上げて出迎えてくれた民に、訝しい気持ちを抱いた、そもそも何故夫とミレーヌ姫様は、先に叔父上と会われたか、意味が分からなかったからだ。だが……謀反を起こしたと聞いた時……。ハッと眼を見開き。気付いてしまった。

「私は……、なんて傲慢な………」

叔父のエドワルド公が、発起した意味と原因に気が付き、己の不徳を恥じた。

━━セドの民は、ようやく陛下が我等のことを考えてくだされたと。笑顔が浮かんでいた。民の顔を見て、自国のことがようやく考られた。

何故叔父が固辞してたのかをも理解したのだ……、

「ジンベイ……」

急に不安になって。早く、夫に会いたいと切に思った。




━━セドの街を一望出来る。エドワルド公爵の屋敷、大きな会議室。一堂会していた。



まだミレーヌ姫は、お休みとのこと、オーラルからあらましを、エドワルド公爵=叔父上から、謝罪の言葉を聞き、

「叔父上……わたくしこそ、申し訳ありませんでした………、自分だけ、重責にあるものと、思い上がるあまり、大切なこと見落としてました」

「赦してくれるか?、この体たらくを」

「それは……、お互い様です叔父上!」二人は、わだかまりを捨て、照れ臭そうに握手を交わした。

宴席は、夜ということになり、疲れていたミザイナは、夫の腕の中で、短い至福を味わった。



━━昼が過ぎた頃か、オーラルはエドワルド公爵に呼ばれ、裏庭にある。訓練所やってきた、

「しばし……我に付き合ってくれぬか?」

「喜んで」

快諾して、様々な武器から、一般的な槍を手に、対峙した、

「ほう……槍を、それもかなり修練を積んでるようですな」

嬉しそうに笑い。感心した顔のエドワルド公だが、ただの手合わせとは思えぬ。凄まじい気を放出、オーラルは手加減不可能と判断して、魔法で、身体強化を一瞬で済ませせた。エドワルド公は獰猛に笑う。「行くぞ!『オールラウンダー』」


エドワルド公が、いくら呪いに屈したとはいえ……、謀反を起こしたのは事実。自分の中にある闇を見て、一度は覇を唱えたのだ、武人として落とし処を求めた。

━━そこに伝説の吸血鬼を滅した武人が現れた。エドワルド公は本気の手合わせをすることで、己の教示を、一門に示すためあえて戦いを挑んだ、「豪刃一閃!」

凄まじい破気の込められた、長巻きは、周囲を切り払う━━━、



オーラルは咄嗟に、槍で受けず。身体を独楽のように回転させて、勢いを殺してあっさりかわした、

「なっ……に……」

周囲に、驚きの声が響く、二人の闘気に気付いた、アルベルト流の門人、中にはミザイナの側近が混じっていた、



実際戦ってアルベルト公は気づいた。オーラルの技は基本に忠実で、派手さはないが、数合のせめぎあいは、見応えのあるものである。

端から見ると槍のエドワルド公と呼ばれる達人と遜色ない、実力を見せてるオーラルに俄然興味を抱く者が増えた、

「やるな!、これはどうだ?」

エドワルド公は、払うと見せて、オーラルが受けに来た瞬間槍を巻き込む引き技で、体制を崩させた。


次いで、凄まじい必殺の斬撃に。 オーラルは、体制を崩されたまま無理に受ける事となり、槍を折られながらなんとか、後ろに飛んで、ダメージを逃がして、回避していた、


━━━既に勝負は見えた、誰もが感じた瞬間、気を抜いた、エドワルド公に無手でありながらで、オーラルは烈火の勢いで肉薄した、驚いたエドワルド公だが、素早く体制を整え、オーラルの拳打、上下の連蹴、足を刈る。技に、舌を巻きながらこれをいなした。流石に冷や汗が頬を伝う、まさか体術すら使うとは、 「アルベルト公。次は剣でやりますか?」

正しくエドワルド公の教示を知りながら、手の内を惜しげなく晒すオーラル。アルベルト公はすっかり気に入っていた。

「そうだな……、さすがに一息付きたい、まだ余裕あるなら、どうたろう?、門下に一手教授願いたい」公爵にそこまで言われたら、やるしかくなった………、

オーラルの怨めしげな眼差しを心地よい疲れと、汗を流しながら、門下の試合を眺めることにした、中には、剣将の三人が嬉々として、参加してるのは、ご愛敬━━である。



ミザイナは、夫と久しぶりに二人で過ごす喜びを噛みしめてから。使用人に訪ね。叔父上が何処にいるかと訪ねると。

中庭にいると聞いて足を運んでいた。



此度のこと……、色々と考えさせられた。いくら自分はわかってと思い上がっていて、自分の若さと経験不足を痛感していた、これからは叔父上に相談していこうと考え、自分の気持ちを話そうと中庭に出たら………、

「なんと……」

余りの光景に、口を半開きにして、笑ってしまっていた、

中庭の真ん中でオーラルと叔父上が仲良く背を預け、座ったまま眠り込み、辺りには、数十人もの門下、呆れたことに、剣将の三人まで、中庭で眠り込んでいたのだ、

「皆よい顔をしているな……」

眠り込む一同の顔は、ただ剣に打ち込んでた、子供の頃を思い出させた。

「風邪をひくなよ」

オーラルの計らいに、感謝しながら、久しぶりにジンベイの腕ぎゅっと、甘えるように抱き付いた、照れ臭そうに、はにかむ愛する夫と二人。きっと大丈夫、そう思うと、肩が軽くなっていた、




━━━軍国ローレン、砦の一室、



冴えない中年男、グレビー・アスナル将軍は、バーロナと対面して、困惑の顔を浮かべていた、

「私を……、雇いたいと?」

アスナルの戸惑いが抜けぬ顔を、破顔一笑して、

「気付いてるようだな?」

バーロナの言わんとしてることに、嫌そうに頭を掻きながら、首肯した、

「魔王の六将がいるのですよね?」

諦めた顔で、嫌そうな表情を隠さない正直さに、可笑しそうに見ながら、

「ならあんたは、俺のことは知ってるか?」

何が聞きたいのか解らず。周りの評価と、噂をまとめた内容を告げる。

「まあ~そうだろうな、俺は……」

バローナは自分の隠された過去を、デーア以外に始めて話して聞かせる。「なっ、何故私にそのことを?」知られれば、ただでは済まない……、危険を育むのに、

「お前とデーアだけが知った、どうするか決めるのはお前だが、どうせなら手伝えよ~、裏方にいるより愉しいぞ!」

不敵に笑うバーロナ、呆然と見てた、アスナルは自らの腕を抱き締め、身震いした。

「……将軍。私で良ければ………」

固く誓いを立てた、




━━━フィレイナ公国、王都━━、


無事、聖アレイク王国と同盟が締結されて、エドワルド公爵の謀反騒ぎが、ミザイナ女王の考えを諌めるための芝居であったこと、ミレーヌ姫が、その事に気付き、エドワルド公爵と女王に会談場所を提供して下さり。和解したこと等。ミレーヌ姫の見識の高さを、民は褒め称えた━━━、



━━━王宮内にある道場━━、


ミラとミザイナ、二人の友は、久しぶりに顔を合わせ、無言のまま道場に来て、示し合わせたように、手合わせを開始した。



最初の激突……、お互いに成長したのが分かるや。久しぶりと言う感覚はなくなっていた。まるで何年も手合わせしたような気分にさせるから……、友とは不思議だとミザイナは思うのだ。学園を卒業してからは一度だけオーラルと手合わせたときも感じた、

沢山の言葉よりも数合のしのぎ合いの方が、わかり会えるのだと、つい嬉しくなり、唇が綻ぶ。

「相変わらずだ……」

ミラの体術は、相手の動きを僅かな、筋肉の動きで、判別する。先読みである。

「さすがだミザイナ!」対してミザイナの剣技は、神速の斬撃を主体とする。歩方にある。

凄まじい修練で、僅かな歩幅の動きから軽やかにかわしてく、ミラの先見を持ってしてさえ、追い込まれていたった。



だがミラには、黒衣独特の呼吸法を使った奥の手がある。とったとミザイナが思った瞬間。ミラのスピードがあがる。

「なに!?」

それにより、ミラの劣勢は五分まで持ち込む事が出来た。さらにミラの動きまで変化していた、昔ならば自分が優勢になれば、手を抜く甘さがあった。その隙を突くつもりが、あわやの一撃を剣のみねで受け。驚きより嬉しさが勝る。

「うぉおおおおおお!」

ミザイナが、強引にミラを引き離して、後方に飛びすさり。

「奥義、閃一刃」(おうぎ、せんいちじん)

引き絞った弓の如く。全身の筋肉に極限まで力を溜め込み。一気に自分を解き放った、



フィレイナ公国には、独自の風の強化魔法がある。騎士以上の者は、必ず身に付けている魔法は、ファレイナ公国を剣の国と言わしめている。



ミザイナは、アレイ学園在籍時代にこの独特の溜めを磨き、独自の技として昇華、剣姫と認められた、まず自身の前に、風の防風壁を作り、風の抵抗を無くしていき自身を刃として、爆風を自分の後ろで、発生させ、風すら置き去りに、衝撃波を剣で生み出し放つ絶技は、回避不可、前に避ければ、風の防風で弾かれ全身の骨を砕く、左右に避ければ、爆風の刃にさらされ、後ろに下がれば、衝撃波を喰らう、三位一体の必殺技である。


「くっ……」全身を襲う激痛、ミラはやや前傾の体制から、最小限のダメージで受けきっていた、必殺技をギリギリ受けながされ、ミザイナの体制が崩れた、



ミラは僅かに身体に残る。全ての力をこの技にかけた、まるで猫がパンチしたような仕草が、徐々に早くなり、視認出来ないスピードを生み出した、

「拳技、豪雨」

魔力を、放った拳の軌道を残して、糸のように、千本の拳打は、一つの掌のような形に見え。最後の一撃が━━━、



引き金となり、無数の拳打が、雨のようにミザイナを襲う。長剣を正眼に構え、残った魔力全てを風の壁を作り、豪雨のごとく凄まじい打撃に、剣を持った手が痺れ。意識が遠退きかける直前……、フッと………音が、圧力が消えてることに、ようやく気付いた、

ミラが立ったまま気を失っていて、辛くもミザイナが勝ったことを知ったのだ、

「ミラ……、疲れたよ……、貴様……強くなったな」

駆け寄るルルフに支えられ、満足感に心が包まれた。




━━━国境の街、ローン━━━、

グレビー・アスナルは、バーロナ将軍に忠誠を誓い。街の警備を任されていた。少佐の地位に着いて、最初の任務が、ある男を待っていた、何者か知らないが、手紙を渡すよう頼まれたのだ。

「グレビー?」

昔砦だった古い建物は既に壊され、亡くなった人の冥福を慰める石碑が、造られていた。

今日非番のアスナルは、待ち合わせとしてこの場所を選んでいた。、仮にもアスナルは、ダーレンで将軍の地位にいたので、石碑を見舞う事を、見咎められようと、理由付けになるからだ、

「君が、オーラルかい?」

目印の赤い手甲は、確かに土竜騎士の物で、待ち合わせの人物が、土竜騎士であることを聞いていた、

「確かに預かった……、バーロナに伝えとけ、いずれ会おうと」いささか困惑気味のアスナルに、

「土竜ギルドには話はしてある。俺の名を言えば、手紙は届くようにな……、これは貸しだ、伝えれば解る」

オーラルと名乗った男が何者か、後日知ることになるが、また別の話。



━━━オーラルが1人ローンの街に来たのは、ミザイナに頼まれたからだ、


「オーラル、バーロナを覚えているか?」

忘れる筈がない……、オーラルが、学園を追われる原因になった男である。ミザイナから何度彼奴が変わったと言われても、しこりが消えることはない、

「彼奴は、軍国ローレンの将軍をしている」

何の冗談かと思ったが、ミザイナは真剣だった……、軍国ローレンとファレイナ公国との戦は、聞いていた、軍国ローレンの成り立ちも、情報で知っている。将軍の人柄と、オーラルが知ってるバーロナの人柄は、一致しない……、それは認める。苛烈だが、公平な人物、ギリギリ信用出来ると判断出来た。



ミザイナは言った、バーロナは傀儡の将軍でしかなく、本当の支配者は商人だと 、さらにその商人は、魔王の配下である。裏に六将の双子が、関わっていると聞かされ、信じられないが……、

何故バーロナがとどまっているかは理解出来た。「オーラル黒衣を信じるな!、彼奴は、王家の犬だ、バーロナは、ケレル殿下に暗殺されかけていた」

「何だと?、あのケレル殿下が……」ショックが………隠せない、だが……、オーラルの動向を探ってた節を感じてはいた、

「なるほど……、でいつ知ったミザイナ?」

内密に北大陸、東大陸、南大陸をつなぐ情報ネットワークを確立してたことを、

「お前は優秀だ、それゆえ吉備にさとい、カレイラやケレルが疎んじる可能性を考えてた筈だ、それに情に厚く、仲間を見捨てられない性格なのも解る。オーラルわかってるな?」

ミザイナの警告、静かに頷く。旅の同行者に、何故リーラ侍祭がいたのか……、

エレーナ大司教の警告でもあったのだ、

━━もう1人の母の。オーラルは気遣いに、感謝しながら、聖アレイク王国の闇を、感じていた、矛盾する理。出来すぎた英雄など、国には不要で、使い捨てにすればよい、意に沿わなければ……、やがて消されるのは、オーラルの方である。



━━ミレーヌ姫は、健気に公務をこなされ、帰郷の徒に着かれる日━━。


ファレイナ公国、剣将ルルフが、ターミナルまで護衛に付いた。見送る数多の民、剣に生きる。剣士は可憐な笑みの王女を忘れない、精一杯手を振り、惜しむ民は笑みで見送った、




━━━東大陸、リドラニア公国━━、


国交の正常化を望む民のため。ラトワニア神国から将軍スイデンが駆り出され、雑務を押し付けられていた、憤りながらも、国に巣くうアンデットの殲滅を行っていたのだ、

「忌々しい、何が『オールラウンダー』だ……」

しかし自分がこんな雑務をやらなければならないのも。元を正せば自分の過ちのせいであった。敵前逃亡したスイデンは、後々問題となりとりなした太陽神アセードラ、大僧正の伯父に、激しく叱責されたのだ。いつしか抱いた妬みは、強い恨みに変わり、王室でぬくぬく住まう、二人の姫の為など、やってられない愚考だ、これもすべてあの二人のせいだ!、そう考えていた。

「申し上げます!敵が……、我が軍を襲って、凄まじい勢いでこちらに向かっております」

「何だと!まだ残党がいたのか」

激しい怒りのあまり、伝令兵は畏縮する。

「して、アンデットはどのくらいだ」

血走る眼差しに、射抜かれる伝令兵は、

「そっそれが……」

言い淀む様が、スイデンの怒りを煽る。

「はっきりせぬか!……」

凄まじい爆音が、スイデンの言葉、怒りすら刈り取る。

「なっ、何事だ!」

爆音がしたのは、スイデンの主力。配下が陣営を張る。陣地である。

「ギャァー!」

「グォ……」

数多の悲鳴、肉を断つ音……戦場に生きる。スイデンには、何か化け物が現れたのではないか、戦々恐々と蒼白になっていた。みるみる音は近づき、白銀の鎧が眼に入る。そして……胸元にある紋章……、

「まっ…まさか聖帝の…」

伝説を目にした畏怖……、獅子が竜を刈る紋章こそ、聖帝の騎士団、聖騎士の証。


そして……、聖騎士の紋章を持つものは、この世にただ1人、

「騎士団長……ナタク……ぷつ」

全て言い終わる前に、銀光が、スイデンの首筋に現れ、首が落ちた、

「脆弱な……、『オールラウンダー』がいなければ、こんなものか……」実につまらなそうに殺戮を終えて、眼下の跡をみやる。

「つまらんが……、魔王との……、嫌。あやつとの約束。この国を我の物とする」

手にした、聖王の剣を、大地に突き刺した。



━━大地が、ナタクの言葉を体現したように、聖王の剣は、おのがもうひとつの姿を、大地に顕現させていた━━。


それは、西大陸にかつてあって、一夜にして消えた城……、美しい白銀の城。聖帝城が、リドラニア公国内に現れた……、



そして……、城の中から、ナタクと同じ紋章を着けた、千の騎兵、千の歩兵、千の弓兵が、整列した、

「この地を聖帝国とする」

ガチャン、ただ1人で、一国の軍勢である。聖王の剣……、この剣の主は、絶対死なず、疲弊しない軍勢を手にする。



神々の祝福を与えられた伝説の武器が一つ『聖王の剣━━。

この世界の守り手であるナタク、世界の門番たる闇の民。魔王ピアンザは、来たるべき決戦を前に。世界を統べる決意をしていた、この世界の全て……全力をもって、挑み。勝率は僅かである。

「見せてみろ。貴様らの力を……」

既にオーラルの力は知っていた、未熟ながら、あれは俺を超える力を秘めている。問題はもう1人……、

「カレイラとケレルを消す……、聞いてるな?」ナタクの背後、闇が濃くなり、凝縮して、

「ああ、ケレルはまかせろ」

ケレンな錆のある声が、全身を黒装束に身を包み。闇の魔法で、視覚を狂わせる。暗殺技術は帝国一。闇の民と人間のハーフである。六将が1人は、闇に溶けた。

「聖アレイク王国へ!」ざっ、聖騎士団は、ナタクの号令、烈風の如くスピードで進軍していく。



━━━二日後深夜。城塞都市ベセルから、急を知らせる報告が上がった、国境を無理やり突破した、国籍不明の軍勢が現れたと……、未明には重鎮が集められた、「陛下。このギルバート・ガイロンにお任せください」

苛烈と知られるギルバート将軍は、数多の戦を経験した猛将である。

「うむ、ギルバート行ってくれるか?」

レゾン王の信ある眼差しに、身を引き締め。

「はっ!直ちに」

退出するギルバートを見送りながら、宮廷魔導師筆頭ケイタは、嫌な予感を拭えず。不安な顔が隠せない。

「如何したケイタ?」

ハッと我に戻ると、自分の考えをまとめ、吟味する様子を重鎮は辛抱強く待った。

「陛下……、情報を分析してたのですが、まさか……とは思いますが、聖騎士団ではないかと………」

「何だと!?」顔色を無くす王。ざわめく会議室。ケレルは、カレイラを見ると静かに首肯した、ケイタ筆頭の言葉が事実ならば、ことは急を要する。

「申し上げます!、国境が突破され、ベセルに向かったと」

「早い……、速すぎる」

ジリジリ苛立ちを隠せず。王は城塞都市ベセルにいる。ブラレールの無事を祈った。



国境に駐屯していた、千の駐屯軍が敗れ、ベセルに、軍勢が迫ると急報が入る。ブラレールは直ちに、在中する。フロスト騎士団を集め、3000近い騎兵、5000の歩兵、後方に癒しの見習い侍祭を待機させる。ブラレール自身が、兵を率いて、迎え撃つため出撃した。

「フロスト騎士と交戦、紋章は獅子が竜を刈る。我、聖騎士団と認める」


ブラレールからの報告にやはり生きていたのか、レゾン王は、苦虫を噛み砕いた顔をしていた。先ほど救援に向かったカレイラ、間もなく到着するギルバートが、生きて帰るのか……、不安を覚えた。



レゾン王は、海上移動国ダナイで、一度だけ会った、粗野な王よりも。騎士団長ナタクの苛烈な印象がを思い出しハッとした……、

「今思えば……、あのとき助けてくれた若者は……」

ミレーヌが、オーラルと共にあることが救いである。

「王妃を呼んでくれ……」

近衛連隊の見習いである。王の従者をしてる若者は、直ちにと部屋を出ていった。



━━━フロスト騎士団の歩兵は勇猛果敢に、突撃する。既に半数は帰らぬ人となり、ブラレール自身、馬にすがり付いてると言う有り様、敵はあまりに強く、強固な意思を見せる聖騎士団は、一切の恐れも疲れを見せず……、

「何だ……これは?。あれは何だ?、人間じゃない……」


最初は拮抗していた、戦端も徐々に、劣勢に陥る。未だ……、ただ1人、顔を晒す男に届かない…。

「申し上げます!、

西より、ガイロン重騎士団が到着、直ちに、下がられよとのこと」

「なんと……、ギルバート殿が………」

「ブラレール様!」

あわや落馬の危機を、見習い騎士が受け止めた、

「だれか癒しの使い手を!」血を流しすぎた、ブラレールは気を失っていた、


━━━ブラレールが重傷を負ったと知り、驚きよりも怒りを覚えた。

「侵略者を赦すな!全軍突撃!」

「うぉおおおおお」

号令を受け、ニビ色に輝く、厚手鎧を着た、騎士が分厚い盾を身構え、ランスを手に、轟音凄まじく、突撃を開始する。その数一万。聖騎士の優に三倍、一方的な殲滅で終わる筈である。



━━━━カレイラは、ブラレール団長が重傷と聞いて、あまり驚かなかった、相手はあの聖騎士団である。ならばギルバート殿とて危ない。焦りを感じながら、精錬されたカレイラ師団は、足を速めた。



二度に渡る波状突撃。3000づつの編成で、三度の突撃を、あの聖騎士団……、僅か1000の歩兵に、穴を開けることすら、敵わない……、目の前の光景を、信じられない思いで見ていた、魔法で強化した鎧と盾は人1人の重さがある。ガイロン師団の重騎兵は、鎧の重さを無くす魔法を、身に付けていた、

「強力な魔法ですら耐えられる我が、重歩兵が……」

強化された盾ごと、紙のように……、聖騎士の弓兵の矢を受けて、倒れ行く……、呆然と見ていた、次々と報告される負傷者の数々。

僅か二度の突撃で、半数近い損害が報告された、あまりのことに、ギルバートの補佐官は、協議すら忘れ、ギルバート程の猛将ですら、退却を考えていた。

「も、申し上げます。カレイラ師団が、東の窪地に陣営を整えました」

訝しげな補佐官が、ギルバートに意見を求める。

「続けろ……」

鋭い眼差しにさらされ、直立不動になった、

「我が、魔法部隊を最大限に使う陣形を形成した、我が方に、引き込んで頂きたいとのこと」

「なっ……、あの若僧…、我々ガイロン重騎士団を愚弄するのか」

憤りを発する。補佐官を制して、カレイラの力を持って、準備しなくば勝てない。そう言うことか……、

「全軍に伝えよ。敵を引き付けながら、後退する!」

「はっ!」

数名の伝令が、戦場に散ったのを見計らい、

「突撃を開始する!」ギルバート将軍自ら先頭に立ち、普通の馬の三倍はある巨馬に股がると、自分の身体より巨大な盾、長さ3m以上あるランスを手に、面を下げる。

ガイロン重騎士団の中でも、エリートと呼ばれる千の騎兵は、ギルバート将軍を先頭に、轟音を立てながら、突撃した、特別に誂えた、赤みがかった鎧に、無数の白銀の矢がギルバートの盾に突き立つ、だが今までと違い、貫くことは敵わないとわかると、すぐさま中央をわり、騎兵が出てきた、

「馬まで、白銀に輝いてる?」

訝しげな顔も一瞬、今は、戦いに専念するときである。聖騎兵は、1人1人が、恐ろしく精強で、ギルバートですら、苦戦する。普通の騎兵では、敵う筈がないと痛感した。ここは……カレイラの策に乗るしか活路は無い!、ギルバートは獅子奮迅の活躍で、配下を鼓舞した。



「なるほど……かなりの使い手だ、が……足りん…、表舞台から消えてもらおう」

凄惨な笑みを浮かべ、ナタクの手に剣が現れる。聖王の剣は、未だリトラニア公国で、城となっている。あちらでは、ラドワニア神国の軍勢が来たが、所詮紙くずと変わらない雑兵、瞬く間に殲滅した、それを剣は知らせてきた、


ただ1人で軍勢。国王であり、この世でただ1人の聖騎士。それがナタク・レブロ━━、


凄まじい殺気━━、咄嗟に、盾を手放し、ランスを捨て、大剣を両手で構え。豪剣を、受け止めた。

「ほう……、我が剣を受け止めるか」ナタクは意外な結果に、満足そうに笑いながら、

「殺すには惜しいな……、しばし眠れ勇敢な戦士よ」

顎を素手で殴られ、昏倒するギルバート、蒼然となる重騎兵を、駆逐しながら、カレイラの待つ窪地に向かう、



「ギルバート将軍重傷、ガイロン重騎士団壊滅……」

予想以上の結果、さしものカレイラも言葉を失った。

「カレイラ准将!来ます」

白銀の騎士団が、まっすぐ、罠を張った場所にわざわざやって来ることに、違和感を覚えた。

「全軍用意、構えよ!」


━━━カレイラは、大きな間違いを犯した。

カレイラ師団はラドワニア神国で、大勝してしまった。だから過信する。 カレイラ准将がいれば、大丈夫だと━━。凄まじい数々の炎玉が、波状となり、凄まじい高温を作り出した。

ケイタ筆頭の考えが予想通りなら……、

砂塵が消え、視界が戻り、大歓声が上がる。騎兵が、高温に溶かされ、融解して、辺りが白銀の水溜まりと貸してる。

「よし……、これで……」

カレイラが勝てると、確信した━━━、




まるでそれを嘲笑うかの如く、白銀の水溜まりは徐々に隆起して、騎兵が、さらに歩兵、弓兵が現れたではないか、

「そんな馬鹿な……」

通常では、考えられないスピードで迫り、魔法の使い手を……、兵士達が次々と命を落としてく……、悪夢である。


━━ザシュ、ザシュ、ザシュ、音が瞬く間に迫る。

「お前は、不要だカレイラ、消えろ、弱き者よ」突然、剣を振りかぶる。男が眼前に現れた。咄嗟に長剣で受けた。

「ほう……曲がりなりに、聖騎士の剣━━、力を引き出せるか、代用品よ」

「なっ、何を言ってる」戸惑いながら、オーラルから譲られた剣の力が、カレイラの力を何倍にもしてること、理解する。

「勝てる?、そう思ったか、仮初めの『オールラウンダー』よ。貴様のそれは、所詮借り物の力、貴様は、表舞台の脇役だった━……、

「何を……、視界がぶれ…」

「だから……さ、弱き者よ。既に斬られた毎にすら。気が付かないのだから……」

カレイラの頭と右腕、胴体が切り刻まれ、全身バラバラにされていた。亡骸を見下ろしナタクは、『聖騎士の剣』以前自分が使っていた剣を掴もうとして、顔をしかめ、剣を捨てた、ナタクの手が焼きただれ、異臭が漂う。

「主を決めたか、『聖騎士の剣』よ」

白銀に輝く、聖なる輝きは。かつての主に答えるよう明滅した、

「ふん……、良かろう、いずれ剣を合わすこともあろう」



━━━聖アレイク王国、

母である王妃に呼ばれて、戦場のいく末を不安に感じていたケレルは、宮廷魔導師筆頭ケイタの元に伺うべく、身支度を整えていた。何時もなら、身の回りの世話をする。数人の侍女が、いるはずなのだが……、



朝からバタバタしていて、自分で支度を済ませるしかなかった、ふっとあまりに静かな気がして、違和感を覚えた、

「誰か、誰かいないか!」

可笑しい……、人の気配がまるでしない。廊下に出るべく、ノブを回すが、びくとも動かない、

「これは……」

何かがケレルを襲っている。直感した、護身用のナイフを取り出して、辺りを伺う、

『無駄です…………』

耳元で、囁かれる声に、驚きの声を、

「なっ……がっ…ひゅー」

喉を切り裂かれ、血を溢れさせながら、喉元を押さえ、何が起こったか理解した、

「助からんよ、お前は、表舞台から消えな……」それだけを告げ。闇となり、気配が消え失せた……、


やがて……、


人の気配が戻り…、

悲鳴が、上がった、




エピローグ




━━━南中継の街から、温泉の村に寄り、真新しい連結車を繋げてから地下迷宮を走り出した。

帰り道は、やや遠回りになるが、デスホール、



━━世界の穴……滝を、見てから聖アレイク王国に帰る。毎になっていた、



新しい車両、お風呂は、女性陣に好評である。温泉の村で、お湯を分けてもらって来たから、しばらくそれで楽しめた。御者台に座るオーラルは、言い知れぬ不安を……、手紙を入れた懐を触り、感じていた、

「ピアンザ……」寡黙な友人が、どうして魔王等に……、オーラルの知らぬ世界がある。そうとしか説明がつかない、

「母さんに、お土産買ったし部隊の皆にも……」

カレイラ師団が、第1分隊を残し壊滅したことを知るのは、もう少し━━後の話である。

カレイラ師団壊滅。カレイラ准将討ち死に、ギルバート・ガイロン将軍重体、ブラレール・ロワイ騎士団長重体、アレイク王国が誇る三人の一報を受けて、激震が走った。しかし……本当の悲しみが、既に国内で起きていた……、ケレル殿下暗殺。


また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。

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