死すべき定めの狼と呪われた蝙蝠封じられた精霊王
動きだし隠されていた闇。サザノーラは自分たちの隠された物を知り。生涯の友を得る。
プロローグ
再び戦乱の地となった北大陸。
統一を目指す覇王サザノーラ・アブストは、4つの部族が同盟を組んだ。無冠連合なる連合国を建国した。
━━16部族の中で。優れた戦士を排出する部族があった。戦士の部族と呼ばれた。今は五つの部族。
大陸中央━━。聖地とされる平原を守るのが、戦士の部族の宿命であった。五部族の中で、最強と呼ばれるファルバス族だけは、北の気候が穏やかな、山々の麓に巨大な都市群を築き、才ある子供に凄まじい修練を課す。一大流派のような国を作っていたが……。
平原の四方に。聖地から魔獣が逃げ出さぬよう。城塞都市を築き守りを固めていた戦士の部族。その内月の女神ラトアから祝福を与えられた。クラブラ、ダラノフ、ジブロサの三部族は、平原の魔獣と戦う内に。手強い魔獣の力に魅せられ。やがて欲するようになっていった。特にダラノフ族の執着は凄まじく。自ら変じて狼の姿こそ。自慢とする。高いプライドを持っていた。
そこは━━ジブロサが抱いた劣等感とは、対極にあった感情である。
ジブロサの多くは、普通の人間であった。しかし月の女神に祝福された者は、7歳を境に。醜い蝙蝠の姿に変身する能力を得る。それ故戦士は、祝福された者こそ……、自身の姿を見せるを恥とした。唯一の救いは、クラブラ族ほど変身能力が不安定ではないことだが……、あまりにも醜い姿に。祝福された女は自害する。それからしばらくは、男ばかりが祝福されていた。だからブサノアは知らなかった。見目麗しい青年だった。繊細で優しい性格で、恋人で、婚約者のブレナを愛していた。
それでも……。祝福された戦士の多くが、月の女神ラトアに恨みを抱く理由を知ることになった。
その日若長ブサノアは、初めて月の女神ラトアに祝福を受け。━━変身した。その時。運悪く側にブレナがいた。
「ヒィー!?、ばっ、化け物!。ブサノアが化け物になった」突然のこと。半狂乱になって叫んでいた、ブザノアが近付こうとすると、
「来ないで!、この化け物」
ブレナも知らなかった。ジブロサ族に与えられた祝福が、どのような物か……、普通15になるまでに。祝福されなかったら。変身能力は受け継がれないのが慣例である。しかしブサノアは成人する16歳で祝福された。
━━以降。能力者は現れていない。ブサノアが最後の変身能力者とされたのだ。
この時━━ただ、逃げて行った恋人を。呆然と見送ることしか出来なかった。
何故逃げ出したのか……、戸惑いながら。水面に映る自分の姿を見たとき……、あまりの不気味さにおぞけりを覚えた。黄色く血走った目。耳は巨大で、鼠のようは風貌。裂けた口から出るのは、言葉を発する機能がなく。ほほ袋から高周波を放つキイキイ声。あまりに突然の変身である。惑い。一生このままではないかと恐怖に震えて。半狂乱になっていた。どれくらいそこに佇んでいただろうか……、
━━父が数名の戦士を連れて現れた。
ブレナが泣きながら。化け物が現れたと叫び。ブサノアが祝福を受けたことを知った父は。真実を語った。自分たちが呪われた部族であると……。ブレナはそれを知らなかったからこそ。深い絶望の中で聞いていた。
「ブレナは、お前には相応しくない……。あの子は首都アージンに行かせる」察してしまった。元来頭の回転が良かったブザノアは、ブレナが真実を知って拒絶したことを理解した。
「くっ……、ウワァアアアアア!」何度も叫び。父の胸を叩き、そして……吐いた。
それはジブロサ族が、月の女神ラトアから祝福された戦士が抱える。トラウマである。
━━月の女神ラトアを崇めた。奉る三部族の変化能力者の多くは、戦士として優れた者ほど。女神ラトアに愛され。祝福されていた。
━━結果。この10年。ジブロサ以外の三部族では、変化能力者が増えていた。
何故かこの時ジブロサ族だけ……、祝福受けたのはブサノアが最後となっていた。
この間のケンタウルスとの戦争で、ダラノフ族の戦士、勇者の多くが、自分を見失っていた、それは長年。聖地を守っていた一族の誇りを失う事件を経験したからだ。
中央大陸事件の時。突然現れたケンタウルス族に、聖地を無断で占拠された。それだけでも許せないのに……、彼奴らに国を作らせただけでなく。多くの部族が、それを認めたこと……、全てが許せなかった。狼とは気高く。縄張り意識が強い生き物である。だから我を忘れ。ジブロサ族と並び。ケンタウルスに襲いかかり。多くの命が散っていた。特に大打撃を被ったのが、ジブロサ族である。変身能力者が少なく。変身したままの戦いに不馴れな結果。若長含めほとんどの変身能力者が、生死をさ迷うことになった。ダラノフはまだしも。ジブロサ族にとって壊滅的な被害であった……。
これによりジブロサ族は、無冠連合に名を連ねながら、実質。発言力を失っていた。「カナタ、動ける戦士を集めてくれ。グラビデ傾国に負傷者を移送する」
「わかったわ!」
そもそも今度の戦は、自分たちが先陣を切ってしまい、迂闊なことにカナタ含め多くのダラノフの変身能力者が、闇雲に突っ込んでしまった。それでも生き残ったカナタは、生死をさ迷うブサノアのこと思えば。この程度の仕事。何てことない。
「俺は、エウロサの族長と会談を設けている。そちらに向かう、だが同盟は無理でも。交易が出来るよう促すつもりだ」
大陸に覇を為したレオール連合は。女傑と名高いレイナ宰相がいたから実現出来た物だ。
連合の破棄を受けて、中立の3部族。バード族を含めた4部族だけが、全ての結果を見て、決めると声明を上げたこと。この一点だけはサザノーラにとって大きな誤算であった。少なくともアブストと縁戚にある。エウロサならば同調すると思っていたのだ。何よりもこれほど連合が割れてしまうとは……、
しかし今なら。エウロサ族長を口説き落とせる材料が出来た。「サザノーラ……」
留守居を任せるラタノーラの濡れた眼差しに。静かに頷き、16部族で、唯一山城に居を構える。賢人エウロサ族の群都を目指した。
エウロサ族が納める郡都は、中央平原からほぼ東の端にあって。そこから南に南下した荒れ地に。バード族が集落を築き、北の森を挟み、ハザード族が、谷を挟みカムサイ族の領地である。そもそも16部族それぞれが、小さな国を形成していた土地である。レオール連合のような特殊な状況下が、消えた場合どうなるかなど。例え抱えるザノバ程の知恵者にしても。解らなかったのが現状である。ようやくサザノーラたち無冠連合は城と、大きな町、何よりも聖地と呼ばれる。16部族にとって、精神的支柱を手に入れた。これは古き時代を好む中立の三部族と交渉する。手段を得たことになる。気勢も上がろう。
問題の傍観を決め込む三部族の一つ、賢人の名が与えられてるエウロサ族は、山あいに堅牢な城塞都市を築いていた。領内に。大きな川と海が連なり、漁を生業にしていた一族であった。
元々潤沢な資金を背景に。族長は、領地にある小さな島に。ラトワニア神国と交易をする。貿易港を持っていた。ラノバ族ほどではないが……、その昔から交易で財と信頼を稼いでいた。さらに近隣部族とエウロサは、外貨を稼ぐ窓口としての側面を持っていて、多くの有力者と繋がりを持っていたため。傍観の三部族。その中でも他部族に対して発言力が強いのだ。
今や、無冠連合はラノバと国交を断裂していた。この先幾度となく他勢力と戦っていかなくてはならないサザノーラ達にとって。外貨を稼ぎ、兵糧だけでなく。様々な物質を必要としていた。特に武器不足には悩まされていた。そこで目を付けていたのが、ラトワニア神国が秘密理に作っていた武器であった、それは新しく新設した聖騎士団が装備する。聖魔力付与武器をエウロサは輸入してると聞いていた。
アルティマウエポンとは、12神の司祭が、ギル・ジータの海中船で使った。聖別して素材に付与する技術から。武器を作る技術に転用した結果。恐るべき効果があることが解ったのだ。その効果とは……12神が起こした奇跡を。断片的にだが、使える物。これがもしアブストを守護する。炎の神フレイムの神官が、聖別した武器を手にしていたら。クラブラ、ダラノフ、ジブロサが月の女神ラトアの神官が、聖別した武器を装備していたら。凄まじい効果を発するに違いない……。それにはどうしてもエウロサと同盟を結ぶか、国交を開く必要があった。
「全ては、覇王となるため!」
サザノーラの野望は、まだ始まったばかりである。
━━暗く。陰り消える光。星を見上げ、目を細めた青年は、赤と青の瞳を煌めかせ。凡庸な表情を浮かべていた。かれは世にも珍しいオッドアイの持ち主である。世界に精霊と呼ばれる存在がいた。いわゆる四大属性地水火風を司り、魔法とは異なる方法で、世界にほんの少しだけ影響を与える力。それを精霊魔法と呼んでいた。魔法使いと違い、ある種の素質を必要とするため。精霊魔法の使い手は、世界にも数える程度と少ない。フォルティーナ・バル・バード新しく。バード族長となった青年である。バード族の名に。バルと付けられた者は、精霊に愛された王と特別な意味が込められていた。
「此方でしたか、我らが王よ」
赤髪の日に焼けた青年は、白い歯を煌めかせ声をかけていた。
「うん?、どうしたセルゲ、そんなに急いで?」
「はい……、無冠連合が、ケンタウルスを攻め滅ぼし。ザウスの都を手にいたしました」
エウロサの族長であるセルゲは、苦々しく報告をしていた。 「そうか……」
「サザノーラが明日にも。俺に会いに来ると思われます」
その昔。中立の四部族、そう呼ばる古い盟約を密にする一族がいた。ハザード(地)、エウロサ(水)、カムサイ(光)族とは、バード族に産まれる王に仕える一族であった。本来ならばアブスト(火)を含めた四部族が、バルに仕えていた。
しかし……アブストは、野望に焦がれた。だから火の精霊を封印してしまい。炎の神フレイムを崇めた。だから火の精霊王は、世界から消えて100年も経ってしまっていた……。
本来バルとは、闇以外の精霊王に愛され。人間として地上に。現れた存在と考えられていた、「そうだね。アブストから封印された精霊を解放するなら。話を聞くと言う方向がいいかな」
物静かなバルの言葉に頷き、覇王を自認するサザノーラが、アブストの秘密を知る者か……、それは分からないが、北大陸の安寧を考えれば、精霊王の解放は行わなければならない偉業である。フォルティーナはそう考える。
現在精霊王は1人だけ、新たな大地の精霊王となった。竜騎士王リブラ・ハウチューデンの元騎土竜が、新たな精霊王になってくれたため。後4柱の精霊王が解放されれば、それでようやくバルの役目が終わる。
今のところ唯一その存在が分かっていたのが、火の精霊王(イフレーン、イフリータ、イフリート)と呼ばれていた存在である。
「大陸の繁栄は僕たちの悲願だ。誰が、仮初めの王になろうと。僕たちにはどうでも良いことだからね」
「はいバルよ。全ての精霊王を解き放てば、南大陸の精霊王達も目覚めるかもしれませんな」「そうだね。本当はシンク王子の協力を得たが、流石だよ……僕たちが働きかける前に。ケンタウルスを引き受けてくれた」
彼等は、森の神シュルーフウのケンゾクであった。森の精霊と呼んで差し支えない能力を持つ種族。それを戦士達は忘れてしまたようだ。
「愚かな覇王よ……。お前は何も知らない」
静かに呟き……、オッドアイを再び星に向けていた。
数日後……、エウロサの山城にサザノーラの姿はあった。
「セルゲ!」
にやり不敵に笑う姿に感嘆の声を飲み込んでいた。しばらく見ない内に。サザノーラの雰囲気が一変していたからだ。どこか世を舐めていた空気を纏う男だった。それが眼光鋭く。王者の風格を醸し出していた。
「久しいなサザノーラ、半年振りか」
「ああ、早速で済まない。俺達無冠連合と同盟を結ばないか」
やはりそれか、何の感情も浮かべず。サザノーラの目を見ていた。
「聞いてるな?」
何がとは言わない。本当にサザノーラは、知らなかったようだ…。
「お前たちはやってはならない。禁忌を犯した話なら聞いている」
バッサリ切って落としたところから、セルゲは話を始めた。戦士の部族の役目が、ケンタウルスを守る一族であること。森の神シュルーフウの子供を虐殺した。裏切り者である無冠連合の所業は、重大な裏切り行為であると伝えていた。
「なっ……何だと!、ケンタウルスが神のケンゾク?」「愚かなサザノーラ、そんな重要なこともアブストは忘れたのだな……、お前たちは全部族の敵となったのだ」
セルゲの語る内容は、寝耳に水な話であった。戦士の部族なら成人した時に。語られる話であったのだが……、
「恐らくお前たちの代から。敢えて知らされていなかったか、こうなるよう長老達が考えていたか、どちらにしてもお前たちは、最大の禁忌を犯した。いずれ全ての部族から攻め滅ぼされるでろうな」
見る見る血の気を失い。蒼白になっていた。
「唯一の救いは、シンク王子が、ケンタウルスの一部を中央大陸に。住まわせてくれたことだ。感謝するがいい」
ひやりとした冷たい声音。冷水をぶちまけられたように。打ちのめされていた。
「……馬鹿な…、そんな馬鹿な……」
流石は狡猾な長老達だ、こうなることも計算だったのだろう……。所詮は外交と無関係な身であった。情報戦に脆いのは仕方ないのだろう。だからチャンスを示さなければならない。
「だが……もし、お前達アブストが、あるお方の封印を解くと言うなら。力を貸そうではないか」
仕方なさそうに手を差し伸べた。ハッと顔を上げていた。
セルゲは語る。信じられない物語を━━。
「精霊王……」
「そうだ。アブストは、そもそも火の精霊王を崇めていた種族だった。しかし二代前の族長は、戦士の部族になって、大陸を統一する欲望を抱いた」
まだ分かっていないが、複数の族長が精霊王を封印し。戦乱を望んだ者がいた。しかし彼等に予想外だったのは、魔王ピアンザの暗躍である。1人の英傑によってレオール連合の復活、16部族統一が成されてしまったこと。これによって北大陸の内乱は防がれた形である。
戸惑いを浮かべたサザノーラに。やっはりなと苦笑していた。
「お前達は知らな過ぎる。だからチャンスを与えようと思った。親族として、友人としてね」
ようやくセルゲが何かを求めてるとことが察せれた。
「……何が欲しいセルゲ」
眼光鋭く。恥じ入る心を噛み砕き。平然とした顔をしていた。「アブストが封印した。精霊王を解放しろ、そうすれば我々三部族が、金銭的に支援しよう。その代わり探せ。お前達の力で」
セルゲの言葉が、琴線に引っ掛かることがあった。アブストの町にある屋敷、地下にあった。古い石碑……。真っ赤な宝石のような物が、備えられていた。最近何度か訪れていた。確か不思議な……、
「覚えがあるものを知っている。それが精霊王を封印したものかわからない。それを確かめる方法が分かるなら。案内しようただし……」
最低限の交易許可と。外貨を得るため穀物の買い取りを頼んだ。
「良いだろう、我らが主に頼み。真贋を見て頂こう、正比に関わらず。精霊王を探すと約束するならば、支援も考えよう」(主だと……)
サザノーラはセルゲの話全てを信じた訳ではないが、アブスト族が三代前から戦士の一族とよばれるようになったことは、知っていた。
「では、その主とやらの準備が整い次第。アブストの我が屋敷に来て欲しい」
「承知した。ただし護衛を付けることは了承してくれ」
「無論だ」
こうして無冠連合は、エウロサとの交易許可が降りて、少しならず安堵していた。
━━その日の夜。訃報が届いた。ブザノアが死んだと……。
「ブザノア……」
泣き崩れたカナタを、ラタノーラが抱き止めた。無言で唇を噛みしめながら、軍師ザノバを一瞥した。
昨夜━━戻ったサザノーラは、ザノバを呼び出して、問い正していた。「サザノーラ様、無論私は知っておりました。その程度のこと、どうでもいいではありませんか」
冴えない風貌の中年男は、あっさり認めていた。
「すくなくともバル様は気にしません、ケンタウルスは所詮。一度は消えた種族です。ただ精霊王の封印さえ解いて下されば、エウロサ含めた中立の三部族は、我々に力を貸してくれるでしょう」
「では、我の屋敷にある祠は……」
冷笑を浮かべながら頷いた。
ザノバは、バード族の中でも。片手に数えられる知恵者である。フォルクが人道的な知恵者ならば、ザノバは手段を選ばない。現実的で、効率よく目的を達する非情な軍師であった。ただ自らの知謀によって、王と認めたサザノーラを、大陸の覇者にすること。それだけに心血を注いでいた。
ようやく自在に知謀を振るえるのだ。サザノーラ以外の三人が死のうが、関係ない。
「……そうか……」
怒りを飲み込んだサザノーラは、ようやくザノバの思いに気が付いて。
「ふっ……フハハハハハハ。確かにな」
不敵に笑っていた。
(それでこそ我が王よ……)
満足そうに頷いた。
━━翌日。セルゲから連絡があり。3日後の夕方、バルと呼ばれる青年を連れて、バード族の一団が現れた。流石に驚きを隠せないザノバに、銀髪痩身の青年が口を開いた。
「久しいなザノバ叔父上、壮健なご様子安堵いたしましたぞ」「お前……ナードラか、大きくなったな」
珍しくも相好を崩す様子から、近親の者と分かる。
「姉は、元気なのか?」
「はい。巫女様のお世話で今日は来れませんでしたが、近々ザノバ叔父上の顔を見に来ると息巻いてました」
朗らかに笑う甥に。
「それは大変だ」
顔をひきつらせながら呻いた。色々気になるが、泰然自若と佇み。美しい顔立ちをした青年にサザノーラは目を向けていた。
「あっ話し込んでしまい申し訳ありません、私はナードラ、バル様の側近をさせてもらっております」
「そうか……」「彼方におられますのが、フォルティーナ・バル・バード族長、精霊王を解放する者様です」ようやく自分の話題になって、朗らかに笑うと、
「待ったよナード」
「すみません叔父上とは久しぶりだったので」
ちろり舌を出した。子供ぽい風貌もあって、可愛らしく思えた。
「サザノーラ、初めて会うなね。でもセルゲからは聞いていたよ」
「そうか、俺も自分の部族のこと初めて知った、それでチャラでどうだ」
なぜそんなこと言ったのか、未だに分からなかったが、バルと呼ばれた少年の意表を突くことには成功したようだ。ぽかんとサザノーラを見上げていたかと思えば、次の瞬間クスクス笑っていた。
「うん、やっぱりいいね~、セルゲが気に入る訳だ」
「フッ誉められたとて、俺の対応は変わらんぞ」
満更でも無さそうに笑っていた。まるで何年も寝食を供にしていたような気安さを。二人は感じていた。
「それはそうとバル様、この地に(精霊王)感じますか?」
ナードラがそれが大事と、口を挟んだ。
「あっそうだったね。うんこの町から火の精霊王の力を感じるよ」
おお~っ、喜びに似た感嘆の声が流れた。
「早速ですみませんが、確認だけさせてください。それがすみ次第。商談に入りますので」
「分かった。付いてこい」
サザノーラ自ら案内するようで、多少なり驚いた」
「仕方あるまい。今のところ俺にしか開けられない扉があるのでな」
問う眼差しに、答えた。
「なるほどそれはもしや、炎の神フレイムの封印ですね?」「ああ、俺と祖父、それに息子のザノーラだけが、フレイムの祝福を得ている」
「なるほどね~そうすると。サザノーラからセルゲに、話が無ければ、僕達は隠されたアブストの祠に。入ることすらできなかったことになるね」
ちらりザノバに目をやってから、楽しげに笑っていた。
サザノーラの案内で屋敷に入り。玄関から右手にある階段。その下に。余剰スペースがあって、扉を開けるとガランとした空間だけがあった。床下に触れたサザノーラは第1の封印を解放すると。内側にぱたりと開き、隠されていた。地下に降りる階段が現れた。
「ほほ~う、炎の神フレイムの祝福を用いた。封印術ですか?」興味深そうに。バルが聞いていた。
「ああ祖父が、いや祖父だけが炎の神フレイムの祝福を与えられていた。この仕掛けはフレイムによる神託で作っていたようだ」
「なるほど。神の命令で精霊をね……」
何か訳を知るのか、苦笑を浮かべたバルに。多少の興味を覚えたが、まあいいと先に立って。地下洞窟を使った祠に降りていく。
炎の神フレイムと、火の精霊王は、兄弟ではないかと仮説があって、方や神、方や精霊王、見目、姿、能力はほぼ同じだと言い伝えがあった。神と神に等しい精霊王。似て非なる地位にあるものが、争いを起こっても不思議ではない。
サザノーラに続いて、一番したまで降りてから。壁に設置されていたランタンに触れた。すると壁に設置されていたランタン全てに炎が灯る。かなり先。通路の奥まで続いているようだ。途中重厚な扉で閉ざされていたが、
「まさか屋敷にこれほど大きな地下があったとは……」
ザノバも同行していた。この男が感嘆を上げるとは珍しい、薄く笑みを浮かべながら。
「封印の祠の存在は、俺とザノーラしか知らない」
「なるほどね。間違いない。ここの先に精霊王がいるね」
一度目を閉じてから再び目を開くと。右目の色が青く輝いた。普段魔力を高めるか、夜で無ければオッドアイだと気付かれることはない。しかしランタンの明かりがあるとはいえ。暗がりはあるし。魔力を高めれば精霊王に祝福された目は青く煌めく。
「その目は……」
初めて目にした異相に。驚き目を見張るサザノーラ。
「この目は、遺伝的な物でね。バード族。その中でも族長一族にしか現れない。『精霊王の加護』そう呼ばれている」
初めて聞く能力だが、バルを見てると嘘を付いてる気がしない。
「そうか……勝手な邪推だが、恐らく精霊を見る力と思うが……」
「惜しいね。サザノーラは頭の回転が早く。柔軟だな、感覚的には合っている。この目は精霊が発する色を見せてくれる。今見えてるのは真っ赤なオーラ、火の精霊が放つ魔力だ。その中でも精霊王と呼ばれている存在は強力だ。膨大な魔力だから。見間違いようがないのさ」おどけたように肩をすくめるバル。小さくだがサザノーラは、軽口を言いながら気さくに話をしてくれる青年を。すっかり気に入っていた。
重厚な扉にサザノーラが触れると。ゴゴゴ……、軋む音を響かせながら扉が開いた。
ちょっとした広さがある部屋。奥に祭壇があって、黒い石を加工した台座に。炎の神フレイムの碑石が置かれていた。よく見ると見たことのない神聖文字で描かれた。ターペスタリーが部屋中に広がっていた。
「炎の神フレイムの封印式みたいだね」
呟いたバルは、12神のアルティマ武器が、神のターペスタリーを用いた物だと聞いて、ハッとしていた。
「バル答えろ、お前達は同じ物が作れるのではないか?」クスクス悪戯ぽく笑う顔は、まるで邪気のない子猫のようだが、口にしたのは恐ろしく危険な物だった。
「出来なくはないよ~、もしも僕達の手伝いをしてくれるなら。優先的に武器を回すことを考えてもいい」
見るからに人が良さそうな笑顔。だけど目的の為なら手段を選ばない非情さを持ち合わせた。そんな顔をしていた。サザノーラ好みな性格そのままである。
「良いだろう、北大陸統一を目指す途中。どの部族が精霊王を封印したか、調べてやろうその代わり……」
にっこりと我が意を得たり。子供のような笑顔を浮かべ。
「やっぱり最初のイメージは大切だね♪」嬉しそうに言っていた。
祭壇に置かれた。真っ赤な水晶をバルに渡した。それこそが精霊王を封印した物だと笑う。
「精霊王の封印石は、全部で5つあるんだ。失われた大地の精霊王の封印石含めて5つ、正確には後4つ見つかれば、精霊王達が解放されます。この大陸の繁栄のためには。精霊王の解放は急務なんだ。サザノーラ、君が精霊王の解放を成せば、僕達は無条件で君を王と認め。生涯かしずくこと誓うよ」
「……バル、俺が統一王になった暁には、俺の友になってくれ、お前にはかしずかれるよりも。生涯の友となって欲しい」
真剣な眼差しを受けたバルは、一瞬きょとんと素の表情を浮かべたが、すぐさま破顔していた。「そんなこと僕からお願いします!」
こうして覇王サザノーラは、生涯の友にして、最大の理解者を得た。
━━世は戦国。北大陸は、新たな火種を含んでいた。サザノーラはこの時まだ気付いていなかった。精霊王達を封印した種族は、後四部族いることに……。
無冠連合新たな拠点、アジラダ。元ケンタウルスの国にある。小高い丘。戦士の墓にその姿はあった。彼女こそ無冠連合を束ねる四人の若長の1人で、活発な風貌、明るい髪をボーイシュに短くしているカナタは、女性としては慎ましい身体をしていた。背は四人の中でも小柄で、部族の中でも小さいが、月の女神ラトアから祝福を与えられ。巨大な狼へと変身する力を与えられていた。部族の中でもカナタは特別で、回復力は群を抜いていた。喩え手足や心臓を抉られても。カナタだけは瞬く間に回復してしまう。特別な力を与えられていた。それが四人の中で唯一族長となれた理由である。
「ブザノア……、あんたの変身した姿は嫌いだったけど。あんたと妹の子供は何としても守るから安心してね……、時が来たらあんたの父に告げからさ……」
まさかフナタが、身籠っていたとは知らなかった。妹からブザノアの子と聞いた時は驚いたが、そう言われれば二人は何時も一緒だったと思い出していた。
ブザノアは人間の時。見目麗しい青年だった。聡明な一面と。戦士としても尊敬出来る男だった。だからもしもカナタが二人のことを知っていれば、また違った未来があったのではないかと。少しならず後悔していた。カナタはこの時忘れていた。同じ月の女神ラトアから祝福された一族同士の婚姻が、一切認められなかった理由を……、
そして……子供は生まれながら呪いを受けることを。この時誰も考えなかったのだ。
エピローグ
━━翌年。1人の女の子をフナタは産んだ。北大陸に闇の国を作り出す。呪われた福音。白の民によって作り出された。ある呪われた種族が、再び世に放たれてしまった。
北大陸で起きる戦乱は、別の側面を持って、新たな戦いが始まろうとしていた。今のところ夏に向けて新しい作品を書いてます。また同じ物語か別の物語で背徳の魔王でした。




