遂に覇王の野望ですか?
世界議会がアレイク王国で開催されてる頃。北大陸で新たな物語は始まっていた……、
プロローグ
━━砂塵が舞っていた。
無数の剣撃。
飛び散る血飛沫。上がる断末魔。生きたまま踏み潰される狼。矢で射抜かれた半身半蛇の女。巨大な蝙蝠が、下半身馬のケンタウルスを襲い。命を奪い……。奪われる異形の戦い。どこにも戦士の教示はない。むしろ消えていた。
あるのはただ命を奪い。奪われる蛮行。
戦場を一瞥しながら。長身の偉丈夫が、鋭い眼光を眇。手を上げ合図する。
右手から黒ありの如く。地面を塗り潰すように3万を越える軍勢が、ケンタウルス軍を飲み込むように迫る。相手は僅か3000である。虎の子の若き戦士達を投入することになろうとは、歯噛みしたいほど忌々しいことである。
「サザノーラ将軍。どうやら決したようですな」
同じく戦況を見ていた。貧相な顔立ちの男が、下卑た笑いを浮かべていた。
「ザノバ、多くの命で、ようやくケンタウルス王の首を落としたに過ぎぬ。些か兵を失い過ぎではないか?」鋭い眼光で、バード族の軍師を撥ね付ける。
「確かにそうですな~、ですが無冠連合?、北大陸の王は1人で良いと思いますが……」
あくまでも国が興せれば、血を流すこと問わないようだ。
「ふん。せいぜい気付かれるなよ。後が煩い」「承知しております陛下」
ザノバにとって、同盟者やその配下やがどうなろうが構わないようだ。サザノーラさえいれば、大陸統一の偉業をなせる。そう考えていた。
ケンタウルスのラグ・ジュアリー『討ち死にしす』凶報が入ったのは、世界議会最終日のことだった……。
重苦しい会議室。各国の王が一堂に言葉を無くした。
「そうか……、皆様にお伝えする」
重苦しい空気を切り裂くように。英雄王オーラル・ハウチューデンが注目を集めた。
「ケンタウルスの王子ラグアードを、我が国に避難なさっている」
「おお~なんとまことですかオーラル殿」
参加者最高齢である。ドヴィア王に向かって力強く頷き。
「皆様もご存知の通り。我が国に、ケンタウルスの町を建設しておりました。王子の後見人にダノ将軍、ミモラ司祭をお迎えして、未だ強大な魔物が住む。西の地域を平定した後。ケンタウルスの王国を中央大陸に再建するつもりです」
どよどよどよ、信じられぬ報告を受けて、ざわめきが駆け抜けていた。
「オーラル殿そなた……、まさかザウスの世界議会参入は、そこまで考えておったのだな?」
浅黒い肌、鋭い眼光。普通の男なら震え上がり。前に立つことも出来ず逃げ帰っていたろう。圧倒的な存在感。
「ああ、俺の代で叶わぬかと思っていたのだがな……」
「なるほどな」魔王ピアンザは小さく微笑みを浮かべていた。二人は眼差しだけで、簡単な意志疎通が図れる。それほど信頼しあっていた。
(オーラル……、お前が思った以上に。レイナの老いが早かったのだな?)
(……うむ、だが種はシンクが蒔いていた。あの大陸には、あのサザノーラに抗する人物がいると聞いている。)
「オーラル、我々世界議会は北大陸の紛争に介入しない。その方向でまとめてよいのだな?」魔王の問いに。力強く頷いた。当面ケンタウルスの王子が存命ならば、各国が北大陸の動乱に入り込み。要らぬ混乱を増やす必要はない。魔王ピアンザは判断したようだ。「ああ。下手に利権を獲に介入すれば、取り返しのつかないことになる。よって俺は決着がつくまで、なにもせず見てることを提案する」
「兄さん、じゃなかった……オーラル王、リドラニアは世界議会の決定に従います」誰よりも早く賛同を示したブライアンに。優しい眼差しを向け一つ頷いた。
「オーラルすみません。我がラトワニアは中立を保たせて頂きます」
眉間に深い苦悩を宿しながら。ナターシャ女王が、宣言した。「ギル・ジータも中立を保つよ」
「おっ、お父様……」
父エバーソンの決定に。ライラ王女が難色を示した。
「アレイク王国は、オーラル王の言葉に賛同するよ。た・だ・し・為政者の決定を民に押し付け。経済を滞らせ。商人に苦労かけるのは違う、だから商人の流通だけは、今までと変わらぬこととしたい」
若きレヴァ王の申し出に。ようやくライラ王女がハッとした。周りの王達もナターシャ様の苦悩が伝わっていた。ラトワニアは東大陸有数の貿易港がある。未だに王家より12神殿の力は強い。そうなると今までレオール連合との交易で、莫大な利益をあげていたラトワニアは、国交を閉ざす訳にはならない事情があった。それはギル・ジータとて同じである。
「承知した。では世界議会は軍事介入しないと言うことで、どうだろうか?」おおそれなら、そんな声が各国の陣営から聞こえていた。
(このような茶番をやらねば、納得出来ぬとはな……)
(仕方ないさ、王達だけ納得しても。下は付いてこないからな)
英雄王、魔王、誰もが認める傑物とて、何でも思い通りになるほどの力はない。あくまでも世論と家臣、重鎮、有力貴族、地方豪族が少しでも納得しなくば、国の政治は成り立たない。各国の落とし処を示すことで、ようやく賛同は得られるのだ。それが茶番と分かっていても。実際に公式の場で発して、または自国の考えを王が述べたと言う実績を作っておくのが味噌である。民は王の発言によって、英雄王が考えを変えたこと知り。また王達が民のこと考え。話を通してくれたと分かれば、商人も力を貸してくれる物だ。
難儀なことだが、貴族とは自分の物語を好むエゴイストが多い。もし少しでも自分の考えが通ったと錯覚させることで、下手な動きを牽制する役割を担っていた。
「━━では、決議を取りたい」
全員が了承を示しことで。この案件は終わり。次の事案をレヴァ王が口にした「さてゴウェン殿。あなたからダナイの昨年の状況と。今年見込める利益について説明願いたい。何やらお話もあるとか」
最終日まで、無言を貫いた無骨な王が、目を開き武人らしく小さく低頭した。
「皆様━━このような場にて、まことに申し訳ござらぬ、我が国の現状は昨年より幾分ましになりましたが、外貨を得る産業が育たず。民に未だに貧しい生活を強いております。誠に申し訳ないが、再び支援の要請を願いたい」ゴウェンは後ろに控えていた。キサラ王子に合図を送る。
分かっていたことだが、ダナイの窮状はそう簡単に回復するはずもない。あの地は、疑似神によって、不毛の土地に変えられていた。生命力が枯渇した土地に。植物は育ち難いのが難点であった。しかしそこはプロキシスの技術が使われた。
初年度は。プロキシスの技術を取り入れた畑が試験的に作られ。出荷量こそ大したことはなかったが、大麦が実った。それから年々収穫量増え、今年は大麦粉で作るパン制作を試すと聞いた。経済が安定するまで。まだまだ時間は掛かるだろう。だが世界議会という公式な場で各国がダナイの現状を把握したという実績と。ダナイの頑張りを確認しましたと言い訳が必要で、それを得て初めて支援が可能である。
「プロキシスが提供してくれた。乾燥地でも栽培できる大麦は、来年には輸出出来る量まで見込めそうですね」
「はい。あの大麦は我が荒れ地でも良く育ちます。今年度はトマトの水溶栽培に着手しておりまして、あのハウスとは便利な物ですな」
「ええあれなら、寒暖の影響を受けず。栄養価の高い野菜が栽培出来ます。しかしトマト、きゅうりなどは国内で消費させる野菜ですね」
「そこはエドナからも聞いております。ですから我が国では缶詰めなる保存方法を考案しまして……」奥にいる使用人に合図をすると。
ワゴンを押して使用人が入ってきて。王達の前にプレゼン用の缶詰めを置いていた。
「皆様、用意されています缶切りで、缶詰めを開けて下さい。使い方は今からキサラが見せますので、よーくご覧ください」
あまり見たことがない。小型の金属ナイフのような物を。金属で作られたマグカップのような円形の筒。表面は光沢のある金属の蓋が、しっかりされていた。これが保存方法?。この場にいた皆が眉を潜めながら、キサラ王子に注目していた。カチリ歯の部分がはまり、さほど力は入れないのに、金属の蓋がプシュと穴が空いて、キコキコ上下に動かしてくと。円形状にパカリと金属の蓋が外れた。中を見せると中から赤いドロリとしたものが入っていて、用意されてるスープ皿に流し込む。
「今回用意したのは、トマトを潰して煮詰めたピューレ。木の実の塩ゆで、魚の塩漬けでだ。全て、我々がダナイに要るときに作らせたものだ」
「ゴウェン……、それでは10日以上前に作ったと言うのか、そんなもの……本当に食えるのか?」
隣国で、軍国ローレンの将軍バローナが、懐疑的な顔をしていた。
「無論だバローナ将軍。我が配下の話では、数ヶ月前に作った物も。問題なく食べられたそうだ。実際子息と供にエドナに喰わされ。問題なかったことは実証済みだ」
当時を思い出してか、眉間に皺を寄せていた。
「なるほど……エドナさんの差し金を受けて」王達の中にも、エドナ元学園長と関わりがある者もいるので、ゴウェンの気持ちが理解出来た。
「では味見させて頂こう」
一同を代表して、ミザイナが苦笑混じりに呟いていた。
恐々トマトソースをパクり……、何度か咀嚼してゴクリ……。
「うむ……、思ったより不味くない。いや美味しいくらいだぞ」
驚いたような顔である。それを聞いて、各国の王は、缶詰めを缶切りで開けてから、早速試した。
「あら魚の塩漬けも問題ありませんね~」
ナターシャ女王の評価に。ゴウェンの顔にも安堵が浮かぶ。
「最近分かったのだが、疑似神は鉱石は好まなかったらしく。鉄の鉱山は無事でした。またダナイの鍛冶師は、金属を薄く加工する技術がありましてな。それを保存加工食品の輸出用に作らせてみました。いかがでしょうか?」
会議の結果。ギル・ジータ。リドラニアが資金を提供を申し出て。帝国から魔砲の技術者と工員の派遣を打診していた。ダナイに缶詰め工場を作り。日持ちしないものを実際保存出来るか研究が重ねられる。その為の研究機関も作られる事と。例年通り足りない食料は、残った国が分担して支援することが決まった。
「以上を持って、本年度の世界議会閉会を宣言する」
レヴァ王が、開催国議長として宣言し。恙無く世界議会は閉会した。後は各国の王次第になるが、例年通りならば、魔法討論会・本選を見て。自国に戻られることになっていた。
━━北大陸・ラノバ王国ラノバリゾート
南国特有の温かな気候。小さな漁村だったが、今や高級リゾートの街へと変貌していた。家々はまるで巻き貝のような螺旋を描く町並み。海岸から見ると巨大な巻き貝に見えることから。やっかんでる10長老会ギネスは。執拗に宿借りと揶揄していた。
そこには色々な思惑もあるが、最大の理由は、ラノバが有する潤沢な資金が狙いであろう。だからではないが、国土だけはやたら広いギネス、7ヵ国最大を誇っていた。ただし欲の皮が突っ張った長老が集まった国である。お互いの足を引っ張りまくってることはいうまでもない……。
「ゼン!、聞きましたか?」
かつかつ怒りを含んだ足音をさせながら。すっかり頭髪が金髪に変色している。妙齢の女性レイナ・ホルトが、幼子アッシュを抱えながら、会議室に入ってきた。
「レイナ様、お加減はよろしいのですか?」
正式にプレイゼンの妻になった。リオナが使用人に椅子を持って来るよう命じた。
運ばれた椅子に座り、厳しい眼差しをプレイゼンに向けていた。
「既に聞いておりますよレイナさん」
「だったら……」
「無理ですよ。何せ無冠連合アジラダとの間には。3つの国が隔たれてますから」
「くっ……、どうしてアメリアは……」
歯噛みして、我慢出来ず項垂れていた。
レイナさんが口にしたアメリアとは、一回り年の離れた実の妹である。しかもリブラ将軍の弟子であり。竜王種の白銀竜に選ばれた竜騎士であった。まさか長老となっていた父ばかりか、ファルバスの有力者を率いて、新たな国を興した男がいた。妹の夫ダレーク・アソートである。あの父を説き伏せて国を興させたかレイナは知らない。ただ中立を掲げていた。同じく中立国が南にあるため。必然的に10長老会ギネスが邪魔で、ケンタウルス族をみすみす見殺しすることになっていた。
(レイナさんは、後悔してるようだな…)
「なあ~ゼン、俺思うんだが、俺達ってアメリアさんから、貴重な時間もらったんじゃないかな~」
重鎮が集まる会議室。場にそぐわない惚けた顔の青年。ずっと黙り込んでたかと思ったら。すっとんきょうなこと言い出した。
「……それは、どういう意味かしらナルク?」敢えて押し殺した声を出していた。レイナが知るナルク・バードとは、プライゼン、リオナ、カノア姉弟と幼なじみであり。現ラノバ王国軍師フォルク・バードの弟子で。一応宮廷魔導師の地位が与えられた青年。いまいち把握していなかった。
「何か、気付いたのかナルク?」普段フォルクの影に隠れていて、自分から発言する機会など見たことがなく。こうして言葉を重ねたこともなかった。考えてみれば気概が見えない、空気のようなゼンの付録、そう思っていた。
ゼン達幼なじみには見慣れた姿であった。フォルクが居ないとき。時折素養の片鱗を見せる。気まぐれなナルクだが、信頼出来るので、改めて聞くと、軽く肩をすくめながら。
「だってさ、グラビデ傾国とファルバス公国が中立国としてあるから。無冠連合もおいそれと手が出せない状況になっているだろ」
言われてみれば確かにその通りである。
「第一に。戦力が足りない俺達に時間を用意してくれたと考えたら。リブラ将軍が北大陸を去り。アメリアさんの夫ダレークさんを王と据えた理由が見えて来るよな?」
逆に問われて、カノア将軍とプレイゼンは顔を見合せていた。「多分フォルクス様だけは、無冠連合の動きに気が付いていたようだね。今西大陸に行かれたのもその為だろ」
「ええ~とそれ、どういうことだ?」
頭を使うのが苦手なカノアが、頭痛を堪えた顔をしていた。
「レイナさんは聞いてるよね?、仮にも妹の夫なんだから。ダレークさんが元六将が1人。闇と呼ばれた暗殺者だっことを」
ハッと表情が強張る。
「ナルク貴方……」「レイナさんぼくは今の今まで知りませんでしたよ。ええ知りません。ただ情報のパーツが集まったので、組み合わせしたらそんな答えが浮かびました。」
飄々とした顔をしていた。確かに彼の言う事が真実なら。アメリアの性格からしても。もしも私の異変に気が付いてたら。十分にあり得た……、
「そんな……言ってくれたら」
「あのね~、レイナさんあんた馬鹿でしょ、アメリアさんが言うわけ無いし、その為のフォルクス様なんですから」
「なっ……おいナルク、いくらなんでも」
カノアが血の気を失った顔でたしなめた。
「何言ってやがる?、少なくとも英雄王から打診された時。こうなることは分かってた筈だぜ、それに英雄王は分かってた上で、行動しているじゃないか」一瞬言われてる意味が分からなかった。しかし理解した途端。顔を張られたような衝撃を受けた。
「それからゼン。お前に知らせたかのは、商隊頭の1人ハルが知らせてくれたんだが……、ケンタウルスの王子ラグアート様は、中央大陸に無事逃げられてるそうだぜ」
「それは本当なの?」
「ああフォルクス様からも同様の報せがあったから。間違いない」
本当に間にオーラルが動いていた。
「なあそれはわかったけどさ、なぜハルが?」
今初めて聞いた報告に目を丸くしたゼン。ハルはプライゼンの遠縁にあたる。リオナ、カノアとも顔見知りだ。
「なんでもシンク王子の婚約者と。懇意になってたらしいよ」あのハルがと驚いたが、本人の話が本当なら。アレイク王家の姫と知り合いになってるようだ。実際シンク王子からハル経由で、手紙が届いてる以上は、嘘ではないだろう。
「多分ダレークさんは、密かにフォルクス様と通じていたんだろうな、それで自分と繋がりがある帝国と同盟を結ぶつもりなのさ。でだもし上手くいけばレイナさんなら理由はわかるよな?」
「ええ……、間違いなく時間稼ぎだわ」
サザノーラ達にとって、この機に領土を増やしたかった筈だ。しかし首都アージンで国を興した竜の国シルバはまだしも。無冠連合には経済的下地がない。(それでケンタウルスの国を手にいれたと言うところかしら)
現在ラノバ王国に隣接する。10長老会ギネスを相手に戦争をするのも難しい状況だ。無冠連合にとってもファルバス公国と竜の国シルバが邪魔になるから。双方にとって時間が稼げることになった。「もしかして?」
レイナの言葉に一つ頷いていた。
「そう……」
「ゼン、俺達は急いで国の内政と軍事両方を整えなければならない。ただし無冠連合とは違い色々有利な点はある」
「そうだな……、カノア将軍、軍の編成はどうなっている」
いきなり自分にお鉢が周り、あたふたしながら。どうにか説明することができた。
「各軍団長と後程面談ください」
と締めくくった。
「うん分かったよ」
「ナルク、内官の選出はどうなってる?」「財務は今まで通りラノバの商人が勤めていく。そのなかから何人か内外の大臣候補がいるから、早急に決めようか」
「それはそうとナルクは先ほど。ハルのこと。わざわざ上げていたね?、でも彼女は有能だけど若い。君は何かしらのポストを与えることに。何か考えがあるんじゃないのかな?」
「うん~彼女はどんな形にしても人脈があるし。アレイク王国、プロキシスに対しての窓口になってもらうつもりだよ」
「ああなるほどね。大使にか、では任命のこと任せていいかな?」
面倒そうな顔はするが、肩を竦めて了承していた。
リオナに後を頼み。レイナ様の様子を見てもらうため。屋敷に返した。それから雑務を終わらせたプライゼンは、
午後からカノアを連れて、新しく作られた第1~7軍団長が集まる会議室に顔を出すことになっていた。
国を興したばかりのラノバ王国の陣容は、ルドラ族、ウージン族、カイ族、ラノバ族の四部族が主になっていた、しかし軍属の二割以上は、他部族有志の若者である。
会議室に二人が入ると。何故か険悪なムードが漂っていた。
「オーガてめえ!、てめえのような性格破綻者が、一ノ軍だとふざけるな、よっぽど俺様の方が相応しいだろ」
「ふん、弱いやつほどよく吠える。とはよく言ったな~」
二人は、自然と大柄な男に目を向けていた。日に焼けて赤銅色に染まる肌、腕は太くゼンの太ももくらいあった。ちらり此方に気が付いて、目だけで黙礼していた。小さく驚きながら改めてオーガと呼ばれた青年を見ていた。一見粗野に思われる顔立ち、されど下品にならず。口調こそ下品であるが、
「あの兄弟は。アレイ学園の卒業生です。兄のオーガは『院』に進んで、魔法建造物の博士号を与えられた人物。弟のハートルは、『武芸大会』ニ連覇した豪の者です」
ナルクに説明を受けたのだが、今一つしっくり来ない。どちらかと言えば、どう見てもオーガの方が強いと感じていた。
「おいおい二人ともその編にしとけよ。俺達の王様があきれて見てるぜ」
中背だが、ずいぶんずんぐりした体型の男が、二人の仲裁に入った。
「タイラ、ウージン、彼はレオール学院で優秀な成績を納めていて。皆から好かれる人格ですね」
なるほど、それぞれ一軍2000の兵を預けてる軍団長は、面白い人材の宝庫のようだ。
「相変わらずだな~あの二人は、よろしくな王様、俺はクラム、カイ族長の息子だが、三男って気楽な立場でな、死んでも問題ないから軍属した口だ。まさか団長なんて面倒ごと押し付けられるたあ~思わなかったがな」
痩身の青年は、意味ありげにナルクを睨んだ。
「クラムはぼくと同級生でね。一時期フォルクス様の弟子をしていた。バード族のなりそこないさ。やる気さえあれば、今の立ち位置は変わってた筈だぜ」
皮肉気な笑みをナルクは浮かべていた。
「珍しいねナルクがそんな風に。人を評するなんて」
多少なりクラムのこと気にかかる。
「おっ抜け駆けかいいね!。おいらはゲルム。族長一族とは遠縁だから気楽な立場さ」
屈託なく。少年の笑みを浮かべた青年は。よろしくと手を出していた。
「彼はロイドラ・セラの弟だよ」
これには素直に驚いた。
「おいら兄貴みたく。竜には選ばれなかったし。兄貴が危険なシルバよりこっちの方が、生き残れる可能性があるからって言うから、ラノバ王国に参じたのさ」実に明け透けな口調で、辛い内情を気楽に呟いていた。
「なるほどね。ゲルムよろしく頼むよ」
固く握手していたら。隣に無表情の若者が立っていた。
「…………ん」「相変わらず。だんまりかよビル。こいつはビル・アンドロ。こう見えて土竜騎士でな、シルバに身を寄せてる勇者セナ・ホウリ様の弟子さね。俺の相談役だったんだが……、面倒だから軍属しろっておいらが入れたら、こうなった」あっけらかんと説明する。なんとも親しみやすい青年である。
「そうなんだ。ビルよろしくね」
手を差し出すと。しっかり握手してくれた。
「あっ……あの~」
しっとりした声が聞こえていた。訝しげに後ろを見ると。恐ろしく影の薄そうな女の子が、立っていた。
「うわぁ!、いつの間に」
驚き仰け反るプライゼン。少し申し訳なさそうな女の子は、
「こほこほ、すみません、すみません、影が薄くてすみません」
妙に顔色が悪い。何か病を抱えてるのだろうか?、
「彼女レイナさんの遠縁なんですが、不治の病に掛かってまして……」
「いやいやナルク、不治の病で軍属とか無理じゃ……」
何やら悪寒を感じて。ハッとエムスを見ると。何やら人形のような物を持っていた。なぜか妙にプライゼンにとても似てるような気がした。
「ゼン君。あのねあのね聞いて、私の身体が弱いからって。王様が私をクビにしたらどうしよう……。もしそうなったら呪うしかないわ……こほこほ」
「なっなんか怖!」
うろたえながらナルクに助けを求めた。
「ちなみにフォルクス様が面白がって、エムスは幼少から呪術を教えてたよ。なんかそれで不治の病が押さえられてな~、定期的に呪いの人形で、呪うと体調がいいらしいんだわ」
「こわ。めちゃくちゃ怖いからナルク」
「こほこほこほこほ、王様が、私のこと怖いって苛めるのゼン君、良いよね~呪いを掛けても良いよね」
『……クフフ』ゾワリ肌が粟立っていた。今間違いなく人形が笑ったような……。
静まる会議室。何故かオーガ、ハートルの二人が、青い顔をして、ずざざざって下がる。
「あっあの王様、彼女の呪術。マジ物だから気をつけてね」
ゲルム、ビルまでも避難していた。
「じゃ~そんなわけで。頑張れ~」避難したナルクをやや呆然と見送り。
「こほこほフフフ。ゼン君、ゼン君━━」
「あひゃひゃひゃひゃ、あひゃひゃひゃ」
笑い声がいつまでも聞こえたと言う。
腹筋がひきつる痛みに。顔をしかめながら。翌日の午後。視察で、各軍団の訓練風景を見回っていた。
最初は一ノ軍である。
2000人の兵が、次々に陣形を変えて。集まる訓練を重ねていた。
一ノ軍は魔砲部隊である。200づつの中隊を5つに分けて、連続砲撃、十字砲撃、クロス砲撃、5段砲撃と陣形を繰り返し組み換えていた。基本ラノバ王国の魔砲部隊が装備してるバレットは二種類。爆撃と火炎弾である。一ノ軍の役割は、牽制と。ここぞって時の一撃特化である。これからの戦争は、魔砲兵の練度が、重要になるため。練度は重要であった。
「プライゼン様。これだけの魔砲よく集つめましたな」
「まあね~。多少強引な取り引きでも。買っといて良かったよ。それよりもエムスの呪い人形部隊。本当に大丈夫なのだろうか?」
まさかバード族の呪術には、魔導兵に似た技術があることに驚いていた。
「マジな呪いの人形だったなあれは……。正直な話。エムスは不気味だぜ」
赤銅色の日焼けした顔が、引きつっていた。確かにと昨日経験した身では、頷かずにはいられない。
「それより王様、バレットを爆撃と火炎弾に限ったのは悪くない考えだったな」
「うん、あんまり種類増やしても利点がないしね。現状の戦術では使えないからさ」
ゼンの説明は分からない話ではなかった。それに利点もある。魔砲の弾に魔法を込めるのは、魔導師である。ずっと同じ魔法を詰めるなら。魔力の節約になるし精神的疲労も少ないと帝国の研究機関が発表している。しかし色々な魔法を込めるのは、魔力が限られた魔導師にはきつい作業だ。爆撃の魔法は破壊が加わるわりに。魔力の消費とレベルが意外と低い。火炎弾の魔法は初級の魔法である。貫通力に特化していて、地面に落ちた場合は燃焼を起こす追加まであったお得な魔砲撃である。数が増えれば十分に脅威になりえた。きちんと考えて扱えば新兵器も使い方次第ということだ。
「オーガ今の半分で陣形が組めるよう。訓練は頼んだよ」
「おう、おまかせを!。それはそうと……」
言い淀む。
「ああ~ハートルなら大丈夫ろ。彼は精神的に弱いとこはあるが、自分が重要な役目にあると分かれば、逆に喜ぶタイプのようだしね」
確かにそうだとオーガは赤銅色の顔に静かな笑みを浮かべ、低頭していた。
国を興した各国は、インフラ整備に苦心していた。レオール連合が瓦解して、部族、町で当面7ヵ国とは遠巻きにするコミュニティもあったが。
━━南東の辺境、荒れ地に住むバード族、厳格な戒律を掲げる東の山岳地帯で暮らす。バザート、エウロサ、カムサイの三部族は、今も昔も様子を見て、結果に従うだけのようだ。
16部族にとって聖地は大切な場所である。しかしそこには自分たちが暮らす以前より国があった。一度は消え失せ。再び現れたケンタウルスの国ザウス。それがレオール連合が瓦解して、6つの国が生まれ。無冠連合アジラダによって、他国に先駆けザウスを陥落。ラグ・ジュアリー王の首を上げていた。
平原は危険な地帯ではあったが、都は堅牢な外壁で囲まれた。理想的な城塞都市であった。首都アージンを望めない限り。アジラダには強固な本拠地と経済的媒体が必要だったのだ。
エピローグ
━━王座の間。豪奢な4つの椅子が用意されていた。四人の指導者が横並びに座るように。王がいない代わり。四人の若長が同列の権限を持って、敵に当たる。無冠連合には上下の貴賤はない。表向きは……、
此度の戦で狼に変化出来るダラノフ。蝙蝠に変化出来るジブロサの戦士が大打撃を被っていた。それは戦争経験のない若者が多かったことと。獣に変化して気性を押さえられなかった若長の若さ故に起こる驕り。過ちである。
「くそ!、フナタが死んだ」
カナタの片腕で、弟フナタは、ラグ・ジュアリーに挑み殺されたと聞いていた。
「ブザノアの具合はどうだ?」ラタノーラの美しい顔に。痛ましい色が浮かんでいた。カナタは唇を噛み締め。俯いていた。未だに予断は許せないが、一命を取り止めていた。
「そうか……」ラタノーラとて腹心のルカリが大怪我をして、戦線を離脱していた。予想以上に兵にダメージがあった。
「済まない遅くなった。アレイ教の司祭に頼み込み。どうにか怪我人の治療が頼めた。多くが助かるだろう」
疲れが隠せないサザノーラの登場で、言い知れぬホッとした空気が流れた。
今までサザノーラは中立のアロンド王と会談していて、ターミナルで、危険な状態の者に治療を受けれる手配をしていた。
「ブザノアは、至急アロンドのアレイ教会に運ばれることになった」「そっそうか良かった……、でもよく引き受けてくれたね」
カナタの問いに小さく苦笑しながら。
「裏でセナ・ホウリが動いてやかった。彼奴が怪我人は国に関係なく12教会で、受けれるよう説得していたからな」
「セナが……」熱い吐息のような呟きである。カナタがセナに惚れていたのは、わりと有名な話である。本当なら中央大陸に帰ってもおかしくない状況が、何故か未だに竜の国シルバ、首都アージンにいるらしい。
「ふん、物好きなと言いたいが……」
ありがたいことだった。無冠連合の支配領域に。残念ながら12教会はなかった。どこか四人も戦争を甘く見ていた。戦えば怪我をするし。兵糧も必要になる。無冠連合の支配領域に。目立った経済的媒体がなかったため。自国で外貨を稼ぐ方法が乏しかった。しかし人手はあった無冠連合。近くに良質な穀物を育てていて、経済的媒体がしっかり備えていたザウスの入手は切実だった。これでようやく城と拠点が手に入ったが……。
大陸統一を目指すには、今しばらく時間を要する難問があった。何よりも今は死者が出たことに。カナタはショックを覚えたようだ。
『まあ~いい。愚かな父をこの手で殺せぬは残念だが……』 お互い業を背負い。やがて……対峙する未来を見たような。不思議な予感をサザノーラは感じた。
この時ようやく。レイナの慧眼に気付き、そして自分が酷く羨ましいと思うことに苦笑する。
覇王として立ち上がった以上。北大陸の覇者として、獰猛に眼を細めるサザノーラ。食い入るようにラタノーラだけが、背を見つめていた。
北大陸統一を図るサザノーラは、ケンタウルスの都ザウスを手にいれた。覇王は茨の道を歩き出していた。
一方善王と呼ばれるラノバ王国のプライゼン王にも多くの苦難があった。色々問題ある軍団長の登場で、混迷は増してるきはしたが。気のせいだと思うことにした。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。




