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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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アレイク王国にて世界議会開催ですか?

世界議会が間もなく開催されるアレイク王国では、沢山の旅人が訪れていた。その多くが女性である。彼女達の目的は、世界議会翌日に行われる。コンテスタ世界大会を見学するためだった。その裏でシンクの天敵。ホーネリア、ぐいぐいシンクに迫っていたアムール。懐かしい面々も王都カウレーンに集結する。

プロローグ




恒例の世界議会開催が、数日と迫るなか……、

アレイク王国・王都カウレーンでは━━例年にない賑わいを見せていた。



東の諸島群から留学生として、アレイ学園に通うフタバ、キヌエの二人は、楽しげな喧騒に耳を傾けつつ。劇場に急いでいた。



夏休みに。別段予定がなかった二人に。シンク先生が、ちょっとしたアルバイトを紹介してくれて、みんなと同じく。お祭り騒ぎを楽しんでいた。

「今日も頑張って練習しないとね~。私頑張るから!」

気合い満点のキヌエに。思わずフタバがクスクス笑っていた。

「キヌエ応援してるからさ!」

フタバは和のわのくに。キヌエは呉のくれのくにの生まれである。二人は幼なじみであると同時に、武芸者としてのライバル関係にあった。当初二人は、英雄と呼ばれてるシンクを倒そうと、意気込んで来たのだが……、衝撃の事実を知ることになる。




自分たちの実力が……、実はさほどではなかった衝撃は、言葉に出来ないほどだった。それと同時に。新たな友達との出会いや。自分たちよりも遥かな高見にいる先輩達と。朝練を通じ知り合い。新たなライバル達と。凌ぎを削る日々に喜びを知って……、二人の心境に変化が生まれていた。いや新たな目標が出来たと言うべきか。フタバは魔導兵の技術を学び。何時しか和の国で近い技術が、出来るのではないか、考え初めていた、目標は魔法と府術の融合である。


一番心境の変化があったのがキヌエで、元々踊りが大好きであった。今回演劇場でアルバイトがきっかけで、若き女優の卵プラナと知り合ってから。変わり始めた。

「フタバから聞いたけど、キヌエちゃん踊れるんだって」

「うん、わたしの国では、武芸として踊りを取り入れてるので」

「あっそうなんだ。キヌエちゃんさえ良かったら。踊り見せてくれないかな?。わたしね~。色々な踊りをみるのが大好きなの♪」

キラキラした瞳に、本当に好きな仕事をしてるからか、とても生き生きした顔をしてるプラナ。彼女の女優に対する姿勢が、かっこいいと思った、

「プラナさんのために。少しだけですよ~」

快諾して、野外舞台で踊った。

「うわ~キヌエちゃんの踊り、躍動感があって素敵ね♪」

彼女に認められた時。周りからも褒められた瞬間。これだと感じていた。

「やっぱりシンク先生って。凄い人だよね~」

しみじみキヌエが言えば、確かにとフタバも頷いていた。

「僕も。シンク先生程の力があれば、炎の魔王と戦うのに~、はあ~……」

唇を噛み締めて、強く思うこと。いや悲願と言って過言でない。鎖国している諸島群六ヶ国の内。三ヶ国は魔族と呼ばれる者達が住む国である。中でも火の国魔王ジャック・オーラタン。その妻シターニアは。

普段は……、わりと尊敬出来る人物であった、

━━しかし……。困ったことに。時々他国の子供達を浚ってきては、からかって遊ぶ趣味があって。悪いことに王妃様にも、似た性癖があるから、フタバは五度、キヌエは二度拐われた経験があった。何故かフタバは、魔王ジャックに気に入られてるらしく。何かにつけてからかわれていた。いい加減頭に来たフタバは、ジャックに啖呵を切ったのだ。

「ジャック。僕がお前を僕が倒してやる!」

「ほほ~う、お前ごときに倒せるものなら。倒してみるがよい」

猿顔の魔王は、ふてぶてしく笑っていた。自分はそれなりに戦える……、自惚れていたのだ。最近になって猛省していた。今思えば……、鎖国を解くよう。和の国の王様に言ってくれたのは、誰であろうジャックであった……。悪戯好きな魔王達は、ただ子供好きなだけで、何も喧嘩腰にならなくても良かった。かも……。最近考えてしまう。「ジャックさん。悪い人じゃないよね~」

キヌエも同じこと考えていたようだ。

「うん、でも勝負はするさ!」

もう1つコウ達と知り合ってから。考え直す出来事があった。最初こそ……、無様に避けたり。凡庸な攻撃ばかりしていたレンタの生き方を馬鹿にしていた。しかし今は……、

彼の不恰好でも。みっともなくても。自分らしく勝てばいい。そんな風に考えられることが、とても面白いと思えるようになっていた。

「そうだね~。ジャクさん。きっと喜ぶよ!」

にこやかに同意されて、フタバは少しだけ心が軽くなっていた。二人が語る炎の魔王とは果たして、

そうこうしてる内に。二人は劇場に到着していた。

「フタバ、キヌエおはよう~♪」

すっかり顔馴染みの大道具さん、音響の楽団のみんな、こんなに早い時間なのに、暗どんや、背景の準備したり忙しく働いていた。二人は主に野外公演の手伝いをしていた。



劇場の敷地内には、大小合わせて4つの劇場があって。野外劇場は、若手女優、若手俳優の登竜門と呼ばれていて。毎週無料公演が行われていた。主な演者は、アレイ学園の卒業生が働きながら。将来はオペラ歌手。作曲家。演出家。裏方をする。アルバイト学生も多い。

「じゃ、また後でね」

「おう、がんばれよ」

二人は小さな劇場の前で別れた。キヌエは先日。演出家の目に止まり。演者として、バックダンサーに抜擢され。出演することになっていた。本番まで10日もないけど。あんなにイキイキしたキヌエを見たのは、随分と久しぶりかもしれない。

「よし!。ぼくも頑張るか」

キヌエに負けていられない思いから。元気に裏方の仕事に取り組むフタバでした。



中央公園・カフェブルー本店。世界議会開催に合わせて。急遽仮説テントを増やしていた、隣にB&Mの支店が出展予定である。急ピッチで下準備に奔走するパティシエ達に混じり。バイトのコウ、レンタ、マイトの三人も駆り出され。夏休み返上で、バイトに勤しんでいた。

「コウ聞いたか?、なんでも劇場で、コンテスタ姉妹が、凱旋ライヴやるらしいぜ!」

レンタが、仕官らしい制服組と何やら話していたかと思ったら。得意の情報収集していたらしい。

「ほ~う、通りでな。それよりあそこ見てみろよ」

小豆色の制服姿の一団がいた。女の子達は背に小ぶりのマント、男はタリスマンと呼ばれる腕輪を着けていた。

「あれ確か軍国ローレン学院の制服……。なあレンタ。あれランディスじゃないか?」

言われて見れば、確かに見覚えのあるぽっちゃり体型。愛嬌のある横顔。ランディスだった。

「やあ~マイトはん、コウはん、レンタはん儲かりまっか?」

『ぼちぼちでんな~』

三人が揃って言うと。ランディスともう一人。明るい赤髪を後ろでまとめ。前髪に不思議な光沢ある銀色の髪止めをしている。綺麗な女の子が、クスクス笑っていた。

「ランデーの友達。ノリがエエナ~」

にこやかに笑う少女は、アノンと名乗った。

「あっ、もしかしてジエモンの?」

「そうそうそうなんよ~、ランデーとは幼なじみでな~。待ち合わせしててん」

後ろの生徒達をマイトが気を利かせて、空いてるテーブルに案内していた。

「そうかランデーの友達なら。ご馳走しなきゃな!」

コウが気前の良いこと言うや。

「ほんま!、うちなカフェブルーのファンやねん。おおきに~」

それを聞いたコウの父ゴンザブロウは、嬉しそうな顔をして、

「コウ、あれ出してやれ」

「あっ、うん分かった」

早速、大型冷蔵庫から。ミルフィーユと名付けた新作ケーキを。アノン達に出していた、夏限定の冷たい夏みかん茶と供に。

「うわ~なにこれ。めちゃくちゃ口どけ爽やかやな~」

「ミルフィーユって言う、うちの新作のケーキだよ。横から見ると分かるが、クレープ生地の間に。今回は期間限定の夏みかんのジュレが使われてる。こいつは季節ごとに味が変わるから。まだ本店でしか出せないらしい」

「うわあ~ほんま!?。それやったら明日来るアム。リーザとお茶するのにエエナ~」

「アノン、アムってジータ学園のだよね?」

ランディスが註釈で聞くと。ノリ良く相槌を打って、

「うんそうやで~、ランデー。リーザは知ってるやろ?。この間アレイ学園の三年。観察官になったらしいから」

友達のこと自慢気に語るアノン。三人はリーザさんと知り合いだと知り。少し驚いていた。

「アノンさんもしかして、シンク先生のこと知ってたりします?」

察しのよいレンタが訪ねると。今度はアノンが目を丸くしていた。

「知ってるも何も~。シンクさん私達の恩人だよ~」

なんてこと言うから。三人は顔を見合せていた、代表してコウが、

「俺達シン兄さんのクラスなんですよ」当たり障りなく説明していた。

「まあ~そんなんや、世の中狭いわ~♪」

大層驚き。それから話は二年前の中央大陸事件のことや。昨年のリドラニア公国で巻き起こった。シセリア女王懐妊騒ぎ。諸島群と和の国、呉の国の王と会見エピソードなど。三人が知らない話を聞かせてくれた。瞬く間に時間が過ぎていった。

「アノンさん。魔法討論会・本選見に行きますね」

「マイトはんおおきに。嬉しいわ♪」

はにかむ素顔も可愛らしいアノンさんを見送り。三人は再び仕事に戻っていた。



━━翌日。



くすんだ赤髪。頬にそばかすのある。元気少女アムール・ステファンは、一年振りに。思い人シンクに会える喜びに輝いていた。

「さあ~て、今年も頑張るわよ~」

残念ながら。婚約者に選ばれなかったアムだが……。

実は本人━━まだまだ諦めていないのだ。

シンクは知らないが、密かに婚約者達全員とお友達になっていて。周りの皆からは、お友達になりたい女の子。そんな位置付けを獲得していた。

「アム。馬車が来たぞ~」

「はあ~いお父さん。いま行くね~」

声をかけてきたのは、アムの父ハリファであった。彼はシンク王子様事件の後。大いに反省して、真面目に働き。ジータ学園の教頭に就任したばかりである。学生達の引率として今回同行していた。「いざ王都カウレーンに行かん!」

芝居掛かった口調であるが、偽りないアムールの本心であった。こうしてグイグイ攻め込む気満々の娘に、もはや無の境地に達していて、諦めたハリファであった。



アムール襲来の一報が、シンクに届いたのが今朝がた。リーザからだった。

「……アムとは、久しぶりに会うね」

「そうだね~、昨日アノンちゃんも到着したって、父さん言ってたから。私これから会いにいくつもりよ。シンクはどうするの?」

来月の試験準備も終わっている。しかし魔法討論会・本選は、シンクが総合司会役になっているので、各学校の教員と会合しなければならない。

「ゴメン明日、各学校の代表と会談があるから。その後に会えたらいいな~。久しぶりに顔をみたいし~。あっそうだリーザ、君たちさえ良かったら。アノンとアムを連れて、明日リーブル酒家に行ってみないかい?。僕からのプレゼントってことで、話しとくからさ」

「ええ!、シンク良いの?。あのリーブル酒家だよ」

驚いたリーザには、言ってなかったこと思い出していた。

「うん、気にしないでいいよ。明日はゆっくり楽しんできなよ、あまり時間とれないから、ごめんなさいとだけ伝えてくれたら。嬉しいかな~」

「うん♪それくらいお安い御用だよ。じゃ私そろそろ出るね。お先に」

リーザを見送ったあと、気合い入れて顔を叩く、

近日中に祖父、祖父母がアレイク王国に住むので、家宅の用意が済むまで。仮住まいを用意するシンクは、1人密かに準備を行っていた。こればかりは……、他人に任せる訳にはいかない。そうなると教員の肩書きは、よいカモフラージュとなっていた。

問題は竜の厩舎だったが、コロッセオの中に作り。二人でしばらく暮らせるログハウスを厩舎の近くに造り上げていた。正式にララばあちゃんが、大司教に就任したら。大聖堂で暮らすことになるし。竜達は、ガイロン重騎士団の陣地で、竜舎が作られることになっていた。

「少しでも暮らしやすく、しなきゃね~」

それより問題は、あの女のことである。永遠のライバル、シンクの天敵。ホーネリア(アホウネ)がやってくる。しかも馬鹿げたことに。最優秀生として表彰されたとか……、冗談ではない。あの狂暴女に会ったら、どれだけ自慢されるか分かったもんじゃない。壮絶な罵りあいなることが、火を見るよりも明らかである。不安と期待相反する。不思議な気持ちを抱き。それで気合いを入れていた。



王都の西にある。交易の港町ドマーニ。金の美しい髪をなびかせ。豊かな胸で、紺のローブを内側から押し上げる女生徒は、自信に満ちた笑顔を浮かべていた。

「アレンザ先輩!、馬車が来ましたよ~」

トテトテ走ってきた少女は、なにもないところでつまづき、 「あわあわあわ~!」

倒れる直前。素早く手助けした男子生徒がいた。

「あっ、ありがとうプロム君」

「ん」一つ頷き、レモーネ・ソランは赤い顔をして、蚊の鳴くような声でお礼を言っていた。

「大丈夫ですか、レモーネ?」

「あっ、はい!。大丈夫です」

女の子座りしたままだったこと思い出し、あわてて立ち上がると。元気に頷いていた。



レモーヌは可愛らしく健気な風貌のため。下級生から守ってあげたい同級生と呼ばれていた、しかし彼女は、見た目と違いホーネリアが打ち立てた。最年少記録を。次々と塗り替えたのが……、なんの冗談か彼女レモーネである。



レモーネはホーネリアの二歳年下で、プロム同様。魔法討論会・本選に出場する優秀な生徒であるが。普段のレモーネがどじっ子なので、少し心配なのだ、でもホーネリアをお姉様と慕ってくれる可愛い後輩である。

「レモーネ、慌てずにね。さあ~皆さん行きますわよ」

「はい、ネリア先輩」

目をウルウル潤ませ。健気に一生懸命頷く様子は、まるで小動物か……、愛玩動物である。もう一人の生徒を見ると。浅黒い肌。黒髪、少し耳が尖ってること覗けば、目立たない風貌の青年である。実は彼も新入生なのだが、年齢がホーネリアより3つ年上という経歴で。辺境に居たため入学が遅れたらしい。普段から無口のため。何を考えてるのか。掴み所のない。実に扱いにくい生徒である。しかしさっきのように。だけか危険な時は……、そっと手を差し伸べる優しさを発揮する姿に。どう評価すべきか今もって、迷う後輩である。ここにいない騒がしい後輩の補欠と合わせた四人と。学院長ロネリア・ホルデン嬢が、引率として同行していた。

今年北からの参加学生はいないと聞く。未だ内乱の予兆があるめだと噂されていた。

「今年の世界議会は、特別な物になるわね~」

下手をすれば、天敵シンクが、魔人の王を討ち取った年に匹敵するだろう予感がしていた。



王都カウレーンでは。例年になく大いに賑わっていた。それは世界議会に合わせて、各地から多くの旅人も訪れていたからだ。旅人の多くは、若い女性が多い、それは今年……世界議会の翌日に。

コンテスター世界大会が行われるため。姉妹のファンが来日していた。一部の生徒。魔法関連の職に着くものには、もうひとつの魔法討論会・本選に。注目が集まっていた。アレイク王国は、各国の学生達の宿泊施設として、世界議会開催期間中。学生寮の一つを解放しており、朝晩栄養の管理がされた食事が出される予定であった、昼食等は、中央公園に行けば、様々な物が格安で、または無料で食べれるため。学生達もお祭りを楽しみにしていた。アレイク王国は治安も良く。学生達も羽を伸ばしていた。




問題の魔法討論会・本選は、アレイ学園第二演舞場で開催される。学生寮が宿泊施設に選ばれたのが、利便性を重視した結果である。こうした準備を任せられたシンクの気遣いが、大いに見え隠れしていた。



王宮では、臨時の使用人を雇い入れて、急ピッチに。各国の王族が泊まられるための。準備がなされていた。

━━しかしアレイク王国に巣食う貴族達は、少しでも他国の王族に近付こうと。屋敷を提供したい胸を。国王レヴァにあの手この手と仕掛けてくる。薄汚い貴族達に頭を悩ませていた。



今国王がいるのは、王族の庭園と呼ばれる。季節の花を愛でれる。美しい庭園に。テーブルが置かれていて。先ほどまで各省庁のトップと会談を済ませていた。最大の議題は、大司教の退任式を。世界議会の場で、執り行う準備がどうなっているか、また貴族に対してどうするかと。これから重鎮を集め。話し合いが行われる。



アレイク王国はこの数年。目覚まし発展を遂げていた。人口増加に伴い。王都の東に広がる土地。第1師団が使っていない広大な土地に。新たな街を建設中である。その街に東通りの商家と、西の職人通りに暮らす者を、そちらに移す計画を立てていた。一方で、それに合わせて、貧困者の住まう裏通りを開発するため。職人通りを区画整理したら。移り住まわせる予定である。



それから裏通りを開発して、国営の商業施設を作らせる予定だ。10年もの長い時間を掛けての大事業、民の雇用を増やす政策であった。それだけに貴族には知られぬよう。内密に進めていて、貴族連中に。国営事業に口出しされたり。裏金を出してくれる商人をごり押しさせて、捩じ込ませないため、敢えてまだ決めていないのだ、しかし内心ではカフェブルーが、自社で作る紅茶の技術を買い取り。輸出出来るように。様々なフレーバーの茶葉を作ったり。経済動物の加工施設としても考えていた。

「おはようございます陛下」

まず財務のトップ。カレン・ダレス=シルビアが訪れてから、次々と多忙のなかアレイク王国の重鎮が集まっていた。最後にフロスト騎士団長シデンが席に座り。一同を見てから。

「シデン、オーラルはいつ頃来ると?」

「はい明日にも。訪れると連絡がありました」

それに一つ頷き。隣の空いてる席を寂しげに見つめながら、

「カール准将。大司教様はお元気ですかな?」

視線で気が付いたか、自嘲気味に微笑み。

「娘と毎日遊んでますよ~、陛下」

暗にいつも通りと伝えていた。エレーナ様の優しい笑顔が、どれ程助けになっていたか……、最近は強く意識してしまう。

「カール、エレーナ様にお伝え下さい。友人として、娘のこと相談したいと」

素直な胸のうちを伝えると。曲者の顔から子煩悩な親の顔を覗かせ。

「母は喜んで、お茶をしに来ますよ陛下」

「それは好都合。妻とその友人のためにも」

王の言葉に。親友の近衛隊長ヴァレ、王が言った。その友人の親友であるクエナ・ガイロン、シルビアは思わず笑っていた。




数日前━━、中央大陸の南東にある輝きの都プロキシス。

朝日を受けて、燦然と輝く白銀の城。民の多くが、1日の始まりを美しい景観の朝夕。白銀の城を見てから。民は仕事に向かう者が多いと言われていた。



━━王座の間。1人佇む英雄王の前に。赤い髪を後ろに撫で付けた、青年が佇んでいた。彼の名をレンク・ホートリア。

━━半年前。オーラルが、プロキシス学園長に任じた人物である。

「オーラル王、なんとお礼を言ってよいか……」

悲しみと怒り、深い絶望を乗り越えた者だけが醸し出す。陰りのある横顔。眼差しは強く。精悍な顔立ちをしていた。

「レンク、生徒達のこと。宜しく頼む」労るようでいて、長年の友に対する口振りであった。

「はい、おまかせ下さい」

毅然と意思の強い片鱗を見せ、まるで王者のごとく輝きを内包した、強い存在感を発していた。

「彼方の名をロネリア・ホルデンと言います」

「ロネリア……」

何度も名前を繰り返し。覚えながら、ようやく笑みが広がっていた。

「俺もいますから、何かあれば……」

「心使い。重ね重ね痛み入ります陛下」別れの挨拶が済んで間もなく。レンクはオーラルの知覚を持って、音もなく消え去り。まるで存在自体が幻だったように感じてしまう。しばらくレンクの魔力を追走していたが、都の南西にある学園に到着したのを確認して、意識を戻した。王座の間に通じる扉が開き、儀状兵と談笑しながら。つるりとしたスキンヘッドの武人が入る。彼は強面であるが、子供好きの一面があり。オーラルと長年苦楽を供にした。信頼する忠臣である。

「よく来たジン」

「おはようございます陛下」

オーラルと妻のリーザは、明日密かにアレイク王国に向かう。それも『瞬きの扉』を用いてだ。

「済まないが、しばらく頼む」

深く一礼したオーラルに。ジンは男臭い笑みを浮かべ。

「お任せ下さい!」力強く頷いていた。



ホーネリア、レモーヌ、プロムの三人が、馬車に乗り込むと。緩やかに馬車が走り出していた。

馬車は、八人乗りの大きな物で、学生達もゆったり座れた。窓枠に手をかけた白銀の美しい髪の少女は。窓を少し開けて、風に髪を遊ばせながら。柔らかな笑みを浮かべる。

「ロネリア先生、一度聞きたかったんですが、ハロン先生と。どこで知り合ったんですか?」

見た目が、少女にしか見えないロネリアだが、年齢不詳の女性である。実際ホーネリアの母より年上と言われた時は、それはもう驚いた。興味を抱いたホーネリアは、彼女の経歴を調べた事があった、それはあの魔王様直々にスカウトされたと聞いたからだ。実際目にした実力は、帝国屈指と認められた凄腕の魔法使いである、なにより学生達が驚いたのが、彼女が既婚者であったこと。しかも夫のハロン先生は、黒髪。優しい顔立ちのハンサムだったから。女生徒から絶大に人気があった。これで奥さんにぞっこんってところが……、色々と噂になっていた。

「アレイク王国よ」

噂では、王妃様の遠縁ではないかと言われてる。髪は勿論のこと。顔立ちがとても似てらっしゃるからだ。

「そうだったんですね~」

「ええあの人って、兄の友人だったんだけど。いつの間にか好きになってたのよね~」

謎多き女性であるが、秘密を抱える一方で、学生達との交流が好きらしく。わりと色々教えてくれたりした。レモーヌに自分のことやんわり答えていた。だから先ほどから、懐かしそうな顔をしていたのか。ホーネリアは思った。

「確か、ホーネリアさん、出身は輝きの都のでしたわよね?」

「……ええそうです」

またか……顔が曇る。レモーネの問いが、思わぬ余波を招いたのか……、一瞬残念な気持ちを抱く。ホーネリアもロネリア先生が、大好きな先生だったから……。しかし意外な話につながっていった。

「……実を言うとホーネリアさん。私の兄レンクが、プロキシス学院長をやっててね……、今回引率で同行することになったのよ。……兄と会うのは、本当に久しぶりで……」

弾んだ声音。本当に嬉しそうな顔をしていた。

「あっ、そうだったんですね……。知りませんでした」勘違いでロネリアを嫌うところだった。あわてて相づちを打った。それよりも意外な話だったのもあり、半分は素直な驚きであった。

「兄は、オーラル様に見込まれて、最近就任したそうですが、とても感謝してましたよ~」

かいつまみロネリア先生の話を聞いたホーネリアは、兄妹揃って凄い人に見込まれた物だと。素直に感心していると。クスリ可愛らしく微笑み。悪戯ぽい眼差しでホーネリアを見てたから。気付いた。(私が出身のことで、嫌な思いを知ってて、敢えて黙っててくれた。さすが魔王様が見込まれた方だ。

「申し訳ないんだけど……。皆さんにお願いがあります」

ちょっとしたお願い話を聞き終えた四人は、優しい笑みを浮かべ。みな快く快諾していた。

━━この時まだ。アレイク王国側が、どのように宿分けをするのかも、わかっていなかったので、兄と会う時間を作りたいと言われたら。協力したいと思った。

「…本当に皆さん、ありがとう」

目のはしに涙を浮かべ。ちょっと照れた顔が、あまりにもあどけなく。自分たちと変わらない歳に見えた。

(まさかロネリア先生が、そんな苦労をしてるとは知らなかった。10年も世界中を放浪していたとは……、)

つい最近まで、音信不通だったと聞くと。久しぶりに兄と会える機会があると言われたら。私だって会いたい気持ちはわかる。



馬車は、途中の宿場で、馬を替えて。再び走り出した。



それから馬車が、王都カウレーンに到着したのが、夕方頃で。馬車は城門を抜けたところで止まり、ホーネリア達が降りたところで、懐かしい顔が出迎えてくれた。

「リルムちゃん♪」

「ネリア!、お久しぶりね~」

抱き付いてきた幼なじみを。力強く抱き留めて、艶やかに微笑んでいた。傍らには男装の麗人エルマが、ロネリアに一礼していた、

「私はエルマ・ロドラ皆様の案内人を勤めます」

「そうでしたか、わざわざご苦労様です」

ホーネリアが話し込んでいたので、ロネリアが答えた。

「私は、リルム様の側近ですが、父ギラムと魔王様は友人でして、身の上のこと聞いております。皆様のことは私とリルム様にお任せ下さいロネリア様」

ハッと驚いた顔をしたが、緑の髪と耳を見て確信した。

「よろしくお願いします♪」

色々な思いを含めて頭を下げると。凛々しい笑みを浮かべ、毅然と一礼していた。

「お任せを」

「……かっこいい」 うっとりした顔で、レモーヌが呟くと。補欠のリーク・リーク・ホーンがゲッと仰け反る。我関せずのプロムは、ちらりリルムを見て、軽く黙礼しただけであった。



改めてリルム、エルマの案内で、今日から7日間暮らす。学生寮に案内された一行は、

「……ボロちいな。おい……」リークが眉間に皺を寄せて、顔をひきつらせながら言えば。同じく寮を見て、呆然としていたリルムも。意外だと思って、言い訳を口にしていた。

「エルマ……、シンクが用意したんですわよね?」

「はいリルム様。シンクの話では、今年の学生が退寮した後。アレイ学園が魔法討論会・本選用に中を改築したと聞いてますが……」

どうみても壊して、新しい建物を建てた方が……、みんながそう思ったほど。見た目かなりボロい建物。どう見ても小さなあばら屋にしか見えない。とても学生寮とは……を見て、自信無さげにリルムが説明。

「とっ、とりあえず入ってみましょうか」

顔をひきつらせながら。ロネリアが言うと。本気ですの?、眉を潜めたホーネリアであった。誰も入ろうとしないので、仕方なくホーネリアが、扉に手をかけて、中を見るや唖然としていた……、



目の前に広がった光景に。思わず固まり見入ったホーネリアは、広々とした輝くような玄関。外の外観とのギャップに。思わず目をこすり。慌てて外に出てから、外見を再び確かめて、中に戻り。

「これは多分。魔法を用いた。建物ですわね~、実に面白いですわ」

感嘆の声を上げていた。同じく中に入った皆。感心しながら周りを見て回っていると……。

「皆さん。ようこそいらっしゃいました!」皆がハッとして、声の主を見ると。おしとやかな佇まい。髪をアップにした女性が佇んでいた。ちょっと仕草が妙な色気を醸し出すので、同性からみてもドキリとしていた。

「あっ、フィルさん。どうしてここに?」

エルマが驚いたように訪ねると。ほんのり分かる程度の笑みを張り付け。

「……サラに頼まれて、皆で手伝いに駆り出されてる」

素っ気ない物言い。でも嫌みに感じないのは、彼女の魅力だろう。

「ああ~なるほど。ではサラさんが、皆さんの料理番ですのね?」

リルムが聞くと素直に応じていた、多分サラ・ローガンは、厨房にいるのだろう、彼女の実家は王族御用達の名店、リーブル酒家である。元々料理好きで、実家で修行していたサラの腕前は、リーブル酒家でも祖父ログ・リーブルに次ぐ者と言われていた。

「ええ。サラと私でちょうど夕飯の仕込みをしていた」

「ええと~、リルムちゃん、その人友達かな?」

話が見えないので、随時と打ち解けた様子であるから。なので気安く聞いていた。ゾワリ寒気を感じて、リークが腕を擦りながら。不思議そうな顔をした。

「……ネリア。何を言ってるの?、フィルが友達ですって……、クスクス」

さも楽しいことを聞いたわ。リルムは満面の笑顔で笑うが、急激に温度が下がったような錯覚を。この場にいた皆が感じていた。氷の女神が降臨してしまったようだ。

「りっ、リルムちゃん?」何故かリルムに対して。生物的危険を感じて、慌てて幼なじみに声をかけていた。

「クス……」

ゾワリ背後からも強いプレッシャーを感じて、ホーネリアが振り返ると。そこには不敵な笑みを浮かべたフィルさんがいて……、

「残念です。私達が参加したら。リルムさんをまた打ち負かしてあげるのに……」

幼なじみであるホーネリアにとって、衝撃的な言葉を聞いて、

「はっ……、リルムちゃんを負かした?」

とても信じられない言葉を耳に。顔をひきつらせていると。

「へえ~この私に。また勝てるつもりかしらフィル?」

リルムが認め。それどころかグッとにらみ合いながら。お互い満面の笑顔という怖い状況である。そんな時ロネリア先生が、楽しそうにクスクス笑いだしていて、何故か皆意識を。先生に向けられていた。

「あらあらリルムさん。フィルさんは、強力なライバル関係なんですね~♪」

的確な表現に。周りがおお~と声がした。リルム、フィルが我に返って。気が付けば、いつの間にか……、各国の学生達が戻ってきていた。

「さあ~皆さん。私達の部屋に荷物を置いたら、美味しいご飯を頂きましょうね♪」

ロネリアが皆を促すと。何故か各国の学生達までもが、素直に従っていて、普通なら疑問を抱いた筈だ。




1人だなけ、ロネリア先生の力を知るリルム意外は……、そっと近付き。『おいたはダメだからね』

優しい声音で、やんわりと言われた瞬間、リルムは猛烈な恥ずかしさを覚えて、俯きながらも、素直に頷いていた。もしもエルマやフィルが残ってたら、さぞかし驚いたことだろう。柔らかく微笑むロネリアと、リルムの女神の笑顔はとても似ていた。まるで親戚と言われたら納得してしまう、そんなレベルの話。

二人はニッコリ笑いあい。それぞれの役割をこなしに。動き出した。



一夜明けて、プロキシス学院の生徒を連れた赤髪の青年が学生寮に到着していた。

「兄さん!」

「よお~レじゃなくロネリア」

いきなりロネリアは、とんと兄の胸に飛び込み。ようやく事件の終わりを。二人は噛み締めていた。「良かったです~」ほろり涙を拭うレモーヌ、ホーネリアもちょっと目をこすり。優しい笑みを浮かべていた。




一方その頃。オーラルは密かにアレイク王国に前乗りしていて。旧友シデンの元に身を寄せていた。

「おじちゃ~ん。ご飯できたよ~♪」

シアの勉強を見ていたオーラルに、ソアラが腰に抱き着いて、甘えた声で言っていた。

「そうか……、もうそんな時間かい?、今日は何かなソアラちゃん」

優しく頭を撫でながら訪ねると。

「今日は~、お母さんとおばちゃんが、麺料理だって言ってたよ~。ソアラもね~。手伝ったんだからね~♪」

「おお~そうか、だったら沢山食べなきゃね」とても驚いた顔で、大仰に驚く仕草にソアラは益々得意になっていた。姉妹には特別な力があった。魔力の流れを見れる才能である。人間は異質な才能を忌避する歴史を持っていた。それだけにシアは、自分たち姉妹の能力を隠すことに決めていた。




━━そんなある日。強大な魔力の柱を三本も持った少年と出会った。



人間は誰しも魔力を持っている。強弱はあるが、魔力の柱を作れる存外は、生まれもっての優秀な魔法使いである。それを三本も持っていて、自分の力として御せる存外を。シンク兄さん以外に知らない。そこで姉妹は母におねだりして、シンクの元で、自分たちの力を制御する方法と。応用を学んだ。そこで知り合ったのが、コウ、レンタ、マイトの元悪ガキ三人。シンク兄さんの姪にあたるリナちゃん、リナちゃんの恋人であるタイチ君と出会い。少しならず交流を経て、姉シアはアレイ学園に早期入学を決めた。当初反対していた父もシンク兄さんが、先輩になると分かるや、あっさり認めてくれた。



シアが驚いたのは、両親が、シンク兄さんの両親と友人だったことである。今年新入生としてアレイ学園に入学して、忙しくも楽しい学生ライフ。夏休み前に行われる野外授業に参加して、メルディス先輩と知り合って、『オールラウンダー』試練の一つを乗り越えていた。



意気揚々と翌朝。シアが帰宅したその日、母から衝撃的なお願いをされて、それはそれは驚いたものだ。



姉妹が、オーラルさんと初めて出会った日、流石に緊張した……、



でも気さくで、子供好きな一面を敏感に感じて、こんなにも早く。他人に心を開いたのは、オーラルさんが初めてだった。

「ソアラね~おじちゃんの側にいると。安心するの~」

屈託なく笑う妹が、羨ましいけれど。その気持ちも分かる気がした。だってオーラルさんの魔力は、都を覆うほど巨大で……、姉妹は突然温かな優しい魔力に包まれて、驚いた物だ。

「そうかソアラちゃんとシアは、この魔力が見えるんだったね。それは驚かせたか済まない、でも安心するといい。これは太陽神アセードラの浄化の力だから。害意は無いよ」

内緒だよって断り。オーラルさんと。中央大陸にある白銀の城と繋がっていることや。浄化の魔力で、王都の犯罪が少なくなるなど。驚きの内容を聞いて、姉妹は目を丸くしていた。

『ここだけの話でね』

「うん!、内緒だよね~」

ソアラはすっかりオーラルさんが、大好きになったようだ。

「遅くなると。おじさんの奥さんに怒られるから。そろそろ行こうか」

「はあ~い。お姉ちゃん行こ」

「そうね」

こうした他愛ない話をしているが、オーラルさんは、アレイク王国どころか世界を救った。英雄なのに、私達にも優しくしてくれる。素敵なおじさんだった。


「リーラお土産のケープなんだけど。あれ手染めよね?」

昔よりも顔立ちがほっそりした親友と。こうしてと並んで料理するのも随分久しぶりである。

「そうよ~、以前お義兄さんが染め物のことで、悩んでいたことがあってね、当時プロキシスでは、草木染めではなく。鉱石を砕いて煮出した。染め物だったんだけど……。最近花が育つようになったから。草木染めもやることになってね、時間があるときに自分で染めてみたの」

「うそー!、あれリーラが染めたの?、淡い黄色が綺麗だな~って、思ってたんだから!」

感心した口調である。ただ手染めをやるとしばらく手に色が残ってしまうのが、難点であったが。「喜んでもらえて良かったわ♪」

柔らかく微笑むリーラに。だんだん昔を思い出していた。

「そうそううちの人から聞いたんだけどね~、なんとエレーナ母さんが、明日こっそりお茶しに来てくれるそうよ」

それを聞いてパッと顔を輝かせて。それはそれは嬉しそうにはにかむリーラに。同じように喜ぶマノア。こうして普通の生活ができるのも後数日だけ……。

(少しでも休日をリーラが楽しんでくれたら嬉しいのだけど……。)

無邪気に笑う姿を見てると。次々と記憶が蘇る。

中でもこうして二人が、我が家に滞在するきっかけを思い出していた。



━━そもそもマノアも、夫シデンも。本当に知らなかったのだけども。オーラルが時々アレイク王国を訪れていたことを。あの日に知った━━。



……あの日。我が国だけじゃなく。帝国、中央大陸をも襲った事件━━。

あの日は、夫から無事終息の報せを聞いて、安堵していた。ソアラは友達のリナちゃん家に出かけ。久しぶりに休みになった夫と。お茶を楽しんでいた時に。来客があった。

「はあ~い、どな……」

扉を開けて、驚くマノア、オーラルはにこやかに笑いかけ、静かに指を唇に付けていた。

「どどどどどど、どうぞ……」

ようやくそれだけ言って、旧知の知り合いであるオーラルを招いた。

「マノア、だれだった~?、まさかフィリップの奴がなんかやらかし……」居間に入ってきたオーラルを見て、目を剥いていた。

「よお~久しぶりだなシデン」

とても英雄王とは思えぬ気さくさで、嬉しそうに笑うオーラル。夫は驚きと同時に。破顔していた、それはそれは嬉しそうに。



落ち着いた夫妻は、オーラルからとんでもない願いを聞かされて。戸惑っていた。

「シデン!、これはお前たち夫婦にしか頼めないことだ。妻に……。すこしだけ普通の生活をおくらせたい。頼む!」

オーラルの願いは、この数年様々なことがありすぎて、心労で気落ちする妻リーラに。休みを与えたいと強い思いやりからだ。それも王妃として静養するのではなく。普通の女性リーラとしてである。そんな願いを叶える方法を実現するのに。他に頼める相手がいなかった。

「いいぜ!、ただしそんときは、お前たち夫婦でこいよ」 夫は真剣な顔をして、胸を叩いた。

「……シデン、ありがとう……」

「ばっ、馬鹿泣く奴があるか」

涙ぐむオーラル、彼もすこしだけ休んでもいい筈だ。だから私は夫の男気に。また惚れ直していた。それから私と夫は、オーラル、リーラのため根回しを始めた。まず最初に話を持ちかけたのがエレーナ母さんで、すぐに子息のカール准将、奥さんのエル筆頭が、内密に手を貸して下さることになって、遂には王様まで……、着実に準備を整えていた。そして……最大の障害であった。娘達の了承を得たのである。でも誤算だったのが……、

(ソアラったら。すっかりオーラルになついちゃって)

何かとおねだりする姿に。すこしだけ夫が羨ましい顔をしていたっけね~。思い出してクスクス笑っていると。

「マノア幸せそうで良かった……」

「あらやだ~見てたの。恥ずかしいじゃない!」

赤くなって頬に手をやる。こんなやりとりが素直に楽しかった。

「女の子もいいわね~」

そっと呟くと。楽しげに笑うソアラの声に。眥を下げた。

「リーラ、そろそろいいんじゃない?」 「えっ?」

きょとんとした親友に、

「もう一人。お願いしたら?」

私の言葉を理解して、みるみる間に顔を真っ赤にして、恥ずがるリーラ、

(ん~こういうところは、昔と変わらないんだから。)多分オーラルに遠慮してしまうのが、原因なのだろう。



次の日の昼、エレーナ母さんが、孫娘のジルちゃんと、タイチ君を連れて我が家を訪ねてくれた。

「エレーナ母様!」 「まあまあまあリーラ。ちゃんと顔を見せてちょうだいね。あらあら少し痩せたかしら?」

コロコロ楽しそうに笑う、エレーナ母さん。少し背が小さくなった気がした。

「はい!、私は元気でした」

うっすら涙ぐむリーラ。積る話があるからとオーラルが気を利かせて、タイチ君とジルちゃんの面倒を見てくれていた。 「やあ~君がタイチ君だね。シンクから聞いているよ」やや警戒していたタイチ、じっと様子を観察していたジルは、眼をぱちくりしばたいていた。

『おじさん……知ってる』

「ジル?」

『タイチにいに。ママとパパが一番信頼してる人。シン兄ちゃんのお父さん!』 「!」

タイチは、強気な面立ちに驚きの顔を浮かべていた。

「なるほど……。君はエルの素晴らしい才能を受け継いだようだね。カールは別にして、エルに似れば綺麗になるよ~」

『あっ、凄い凄い!、おじさん読ませたい意識だけ分けてるのね♪』

驚いた感じの思念。聞こえないマノア、エレーナ、リーラには、きゃきゃとはしゃぐ赤子が、アウアウいいながらオーラルに手を伸ばす様子である。

「タイチ君、抱かせて貰えないかな?」

少し迷ったが、コクリ素直に頷いたタイチは、大切そうに抱えていたジルを、オーラルに預けていた。

「あらあらあのタイチが、ジルちゃんを誰かに抱かせるなんて、珍しいわね~」

クスクス楽しそうに笑うエレーナ母さん、タイチはただ頷き。シン兄の父オーラルを。じっと見ていた。幼くても庇護者を守る意識は高く。ただジルの安全に意識を集中していた。

「ジルちゃん、『その力をあまり使うと』オネムかな~。疲れてるのかな?、『長く眠ってしまう危険がある』君は大きくなったら綺麗になるよ~、『力を押さえとこうか?』」普通に話しているように思えたが、どうも違う気がする。タイチの眉がひそまる。

『これだけ力が強いと。エルでは押さえ切れないね。だから大好きなタイチ君だけに、思念が聞こえるようにして、他の能力は使いこなせるまで、封じとこうかジル?』

『そんなこと出来るの?』

『ああ可能だ』

「ソアラちゃん。あれ持ってきてもらえるかな?」

「うんいいよ♪」

それを見送ると素早く。魔方陣をタイチの足元に作り出して起動させる。

『聞こえるかなタイチ君?』



突然頭に声が聞こえるから驚いた、でもジルのこともあり落ち着いて頷く。

『ジルちゃんの力はかなり強い。このまま放置しておくと。力が影響して喋れなくなったり。目が見えなくなったり。耳が聞こえなくなる危険性がある』

ビクリ身を震わせ。戦くタイチ、強くオーラルを睨む。

『エルの力では無理だ、でも太陽神アセードラの力を使える俺ならば……、彼女が力を使える年になるまで、その力を封印出来る』

まっすぐ強い眼差しで睨んでいたタイチ。━━やがて……。オーラルの真剣な眼差しから。嘘を付いていないと気付き。困惑の表情を浮かべた。

『これから、今使ってる術式を、大地の竜王の力を借りて行う。今触媒か来るからタイチ、君はジルを守る覚悟があるかね?』

一切の迷いはなかった。だからただ素直に頷いていた。

『ジルちゃん』

『うん!、タイチにいにわたしね、リナお姉ちゃんや、ソアラちゃんとももっとお話したいよ。ママの顔も見ていたいし~。タイチにいにのわたしを呼ぶ声が大好きだから……』

不安で不安で仕方ない。でも大好きなタイチに心配させたくない思いやりを感じて、優しい笑みを浮かべたオーラルは、ジルの頭を撫でていた。それをみてリーラはある決意をしていた。

「おじちゃん、はいこれね♪」

『うわ~凄い。とっても強い力を感じるよ』

オーラルは布をはがして。中に入っていた手甲をタイチに見せた。子供の頃父の土竜暴君が、オーラルに与えてくれた護符である。素早く手を走らせると赤い手甲が、濃いブルーに変化していた、それを見たソアラ、タイチ、ジルは驚いていた。

素早く三人に『内緒』と囁くと揃って頷いていた。

「タイチこれを君にあげよう、『右腕に着けるんだ』」

コクコク素直に従って、袖をめくり着けたとたん。まるで長年使い込んだ防具のようにしっくりと馴染んだ。

『にいに痛くない?』

ジルの心配そうな思念をはっきりと感じて、息を飲んでいた。今までジルの思念を聞くとき。タイチは極限まで魔力を高める必要があった。それは子供には大変なことで……、

「ありがとうございます。オーラルさん……」

これで無理なく妹と話せる。それが素直に嬉しかった。オーラルはジルをあやすふりをしながら、左手で、複雑な魔方陣を描き。あっという間に完成させ。ジルの力を封印していた。

「タイチ君、もう一度みてるんだよ」

その左手で、青い手甲に触れた瞬間。腕の部分にクリスタルが現れて。しかも淡いピンク色にほんのりと光る。

「ん~これでいい。そうだな~」

少し考えてから。ぱちり指を鳴らした。すると次の瞬間。同じ色に光るクリスタルのペンダントが3つ。開いた手のひらにあって驚いた、

「タイチ一つはリナに、この2つはソアラ、シアに」

内緒のプレゼントを受け取った二人に、悪戯ぽく笑うオーラルさん。

あまりにも一瞬だったが、オーラルさんの力の片鱗を見て、すっかり三人は、憧れを抱いていた。

「どうかなジルちゃん、『気持ちが安定したかな?』」

『はい、オーラルおじさんありがとう!、頭がピリピリするのが消えたよ』

「かわいいな~」 頭をなでるときゃきゃと喜ぶジル。そんな妹を見て、タイチはもっと強くなろう決意していた。




エピローグ




人見知りのあるタイチまで、オーラルは瞬く間になつかせた、そんな様子を見ていた三人は、目尻を下げて、懐かしさに微笑んでいた。その日いつまでもジルの楽しげな笑い声が響き、終始和やかな空気が流れていた。



そして……、短い休日が終わる朝。オーラルおじさんとリーラおばさんは、中央大陸からきた王様と王妃として戻り、ひっそりお城に向かっていた。



私達はいつかまた、オーラルおじさんと。リーラおばさんに会いたい……、そう思ったのでした。

妻のため英雄王は。平凡な休日を獲るため。シデン夫妻の力を借りて、どうにか楽しい数日を過ごすことが出来た。次回世界議会開催であるが……、

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