閑話姉妹弟子珍道中4
プロローグ
━━ドヴィア国・温泉施設。
四人の少女達は、パンフレット片手に、山一つアトラクションにした施設の中を、興味深く見ながら、簡単に挨拶を交わしながら、自己紹介していた。
「こちらの方。アネスさんのご友人でしたか」
固い口調であはあるが、ハルはそう言うしか許されていない。アネスがそう誘導したからだ。それよりも気になるのが、覆面から現れた素顔が、あまりに美しいことである。いかにも両家のお姫様アネス、目の前の美少女セレナが、あんな巨大剣を軽々扱っていたのが、未だに信じられない思いだが、凄まじい力量の戦士だと分かる。またドヴィア騎士団のお偉いさんが、アネスに恭しい態度とっていたのも気になっていた。
「それはそうとアネスちゃん。どうしてこの国に?」
詳しい話をしていないのを思いだし。
「ああ~私達は彼女、ハルの護衛で、リドラニアまで━━」
そう口火を切ってから。これまでの経緯をかいつまんで説明していた。
「なるほど、不思議な縁ですね……。それでヒナエ様は、アネスちゃんの姉妹弟子でしたか」
「あっあの~セレナさん。私の方が年下です。ヒナエと呼んでください」
生真面目に言われてしまい。やや戸惑っていると。
「ヒナエって、誤解されるけど。純情、生真面目、奥手な女の子だったりするのよね~」にこやかに驚くこと言われてしまい。思わず二度見していたセレナでした。
「あうっ……、恥ずかしいです。褒めないでください」
真っ赤になりながらもじもじ。
『いやいや誉めてないから』
三人同時に突っ込んでいた。その瞬間、三人に奇妙な一体感が生まれていた。思わずクスクスアネスが笑いだして、つられて三人も笑いだし。しばらく笑いが止まらなくなり、ヒナエを膨れさせたのはご愛敬である。
リドラニア側の宿場街に抜けたのは、お昼が過ぎてからだ。三人が思ってた以上に、リドラニア側に行くのは簡単であった。
それは温泉施設に設置されてる。エレベーターがあって。それを使えば、宿場街まではあっという間に降りれた。確かにこれはリドラニアに行くなら。ドヴィア経由がおすすめであった。
宿場街から、リドラニア王宮のある都まで、日に何本も乗り合い馬車が出ていて、四人は時間を確認してから。お茶屋で簡単な昼食を取ることにした。
「ハルさんは、ラノバ族の商人なんですね」
「あっ、はいそうらんれす」
モゴモゴ温泉饅頭を食べながら返事を返す。
「するとまた南大陸にいかれたりしますか?」「ええ来月には、行く予定ですけど、戻るのは2ヶ月後ですよ?」
一応断りをいれていた。何となく何か頼まれる気がしたからだ。リドラニア産の緑茶をずず~とすすりながら、簡単にキャラバンの予定を提示してくれた。「少し難しいお願いかも知れませんが、軍国ローレンのビーナ姫に手紙を届けていただけないでしょうか?」
「ぶふぉ。」
意外な名がだされて。思わずむせていた。
「あっ、ハルさん大丈夫ですか」
ヒナエが甲斐甲斐しく背をさすり。ハンカチを取り出して渡していた。
「あっありがとうございます。びっくりしました」
何度か手早く息を吸いながら。どうにか落ち着きを取り戻す。それから改めて、セレナと向き直り。
「詳しいお話、聞かせて下さいますか」
仕事の話となれば、流石は商人。佇まいを只した。
「私の名前はセレナ・レダ。ドヴィア騎士団長イブロ・レダの娘です」
意外な事実を聞かされ。一瞬固まるハルだが、ヒナエ、アネスの様子を見ることを忘れない。なるほど……、お二人もそれなりの家柄だと見抜いた。ならばお近づきになって損はない。多少の危険ならば望むところであった。ハルの打算的な面差しに、アネスは思わず唇を綻ばせていた。
セレナの願いは、2割り増し料金で仕事を受けて貰え。いくばかりか安堵の顔をしたセレナと、三人は乗り合い馬車に乗り。一路リドラニア王宮に向かっていた。
宿場街のある山の麓は、15年前の事件で、聖騎士ナタク・レブロが、聖王の剣で白銀の王宮を作り出した地であった。また東に見える深い森は、リドラニア王の影と英雄王となるオーラルが、一騎討ちをした場所であって。ちょっとした観光名称として、石碑と慰霊碑が作られていた。また森の入り口に。太陽神アセードラの神殿が建てられていて。沢山の人出が、馬車からも見てとれた。なぜ詳しく知ったかというと……、乗り合い馬車に。観光案内の人員が1人追従していて、簡単な観光案内や。乗り合い馬車の乗り継ぎなど親切に。説明をしてくれたのだ。
「あちらに見えます。太陽神アセードラの神殿は、オーラル陛下と供に戦った。二人の神官がお住まいになっております、方や現リドラニア大司教リーヌ様と。夫の海神プラトーン司祭ハイル様です」吟遊詩人顔負けの語り口調で、まるで今見てきたように朗々と語るから、四人は無言で耳を傾けていた。
「来春は是非また我が国にお越しくださいね。我が国が誇る双女王様。アミ・キラオク陛下、シセリア・キラオク陛下の婚礼が、大々的に行われるそうでして、パレードが予定されておりますので」
それは是非見たいと、ヒナエ達も思った。
「それにお相手であるブライアン様は、あの英雄王の弟君でして、オーラル陛下も出席くださるそうですよ」なるほど旅人の関心を引いていた。
「まあ~そんな訳で、現在のリドラニアは、ブライアン様の提案を受け、一大観光事業を立ち上げ。私も実は騎士だったりしますが、これオフレコで」
内緒ですよ~って、お茶目に言われてしまい、思わず同乗していた観光客は笑っていた。軽快なトークショーがついてなおかつ。わりとリーズナブルな観光案内。ハルは目を輝かせていた。
「ブライアン・ハウチューデン様か、なかなか商才がおありのようですね♪、ミザイナ陛下に感謝しなくては」
そんな商人あるあるを呟くハルは置いといて、確かにと。アネスも関心を寄せていた。と言うのもリドラニアは、中央大陸事件前から。一度は滅亡した国である。何年も財政難で大変だったとは聞いていただけに。この変わりようは意外だった。
「次の宿場で、馬を変えますから、良かったらお土産屋もありますので、ご利用くださいませ♪」
俗に言う営業スマイルが出来る騎士を。初めて見て、四人は苦笑していた。
━━間もなく観光案内騎士の説明通り。宿場が見えてきて、乗り換える旅人は、太陽神アセードラの神殿行き。海岸のある海の街にと。それぞれ向かって行った。四人は休憩がてらに。トイレを済ませ。お土産屋さんを冷やかしに見て回ることにした、
「せっ、聖王の剣レプリカ」
「おいおいこっちは聖騎士の剣のペンダントもあるな」
「いらっしゃいませ~!。リドラニア銘菓、竜饅頭はいかがですか~」
「お兄さん一つちょうだい」
「あっ私は、こっちの聖騎士の剣ペンダントを」
なんと人気のようである。因みに竜饅頭とは、ブライアン様の率いる。機械竜騎士団のエンブレム、Zに∨を合わせたかなりかっこいい紋章を。焼き印に押したお饅頭である。
リドラニア国内の子供にも。なんだかカッコいいと大人気で、エンブレムの刻印つき、胸に付けるワッペンなどが流行ってるとのこと。
「なかなかやりますね……」
違う視線からハルの中で、ブライアンの株は上がっているようだ。
結局ヒナエは、友人達に話のお土産にと。エンブレムワッペン、聖騎士の剣ペンダントを買っていた。
「こう言うのフィアが、大好きなんですよ~」呆れた顔のアネスに、嬉しそうに説明する。
「ヒナエ、フィアってもしかして、ガイロン家の?」
「はい」なるほどあの家系ならば納得である。
休憩時間も終わり。再び軽快なトークショーを聞きながら。馬車は瞬く間に、都に到着していた。
━━王都・アミリア。新王都の名は、二人の女王様の愛称から頂いていた。
また女王が納める都だからではないが、女性ならではの美しさ、可愛らしさ、華やかさ、艶やかさをコンセプトに、都は作られていて。玄関口になる西城門は、色とりどりの花が、旅人の目を楽しませていた。
「リドラニアは、私初めてなんですがアネスさんは?」ハルに向けて、小さく首を振っていた、
「残念ながら。今回が初めてね」
「あっあの~私はありますよ」おずおずヒナエは、小さく手を上げた。意外な気がしてると、
「アネス、ほらあそこ見てください」
ヒナエが指したのは、カフェブルー、リドラニア支店であった。
「ああ~。なるほどね~」
納得である。意味が分からないセレナ、何を話してるのか興味はあるが、商人として聞かない気遣いだ。
「あっお父さんだ♪。お父さん!」
ちょうどお店から出てきた。中年男性は、聞き覚えのある声に、やや訝しげな面を上げ。娘を見つけ驚いていた。
四人は、カフェブルーのオーナー、ブルー・ファイユの好意によって、奥の個室に案内されていた。
「ヒナエどうしてリドラニアにいるんだ?」
アネスに気が付いたが、ここは先に娘話を聞いて、判断するつもりであろうか、
「あっ、私とアネスさんはバウスタン流の訓練で、それから……」
「はっ初めまして、ラノバの商人ハルと申します」
慌ててハルが名を告げた。ついでセレナ、
「お久しぶりですファミイユ様」
「はっ、姫様が、まさか元妻の弟子だったとは知りませんでしたな」
二人の関係を知り思わず苦笑していたが、ハルは、
「へ?。お姫様」
と絶句していた。そんなハルの様子に苦笑を深め。ショックを与えない程度に、アネスの身分を話していた。
「まっ、まままさかアレイク王国の姫様だったなんて、大変申し訳ありませんでした!」
慌てて頭を下げたハルに対して、少しだけ悲しそうな顔を隠さないアネス。
「顔を上げてくださいハル」
「そっそんな。滅相もないことです」
完全に血の気を失っていた。そんな四人の様子を見ていたファイユは、ハーブの茎をピコピコさせながら。何かを思い出そうとして、パチリ柏手を打って皆を驚かせた。
「おっと俺としたことが一つ。いい忘れていたな。ラノバの姓を名乗ることが許されてるのは、確か族長の一族だけでしたよねハルさん」場違いにもほどがあるほど。不敵に笑うアレイク王国きっての曲者。ブルー・ファミイユがそこにいた。彼の面立ちから、何か考えがあるのだと思って、あえてその場を任せる毎にした。
顔色は優れないもののファイユが醸し出す。独特の口調に。背を押されて、顔を上げたハルは、おずおずではあるが、コクリ頷いていた。
「やはりそうか。ならば君は家の娘と仲良くしなきゃいけない立場だね」
「へっ?」
唐突過ぎる宣言に。意表突かれ過ぎて目が点になった。
「お父さん、それはどういうこと?」
ヒナエまで首を傾げていた。
「君はこちらに来てから間もないようだから。知らないだろうが、オーラル陛下の子息シンク王子と、家の娘ヒナエは婚約者でね」
更なる爆撃を受けて、瀕死の状態に追い込まれたハル。
「シンク王子は、先だって北のラノバ族長プライゼンと。盟友になったと。正式に発表されたのは知ってたかい?」
一瞬。何を言われたか理解出来なかったが、ファミイユの言った事実が、段々と……心に入ってきて、
「あっ……」
「商人であるラノバ族は、族長の盟友となった親族とは、友好を示さなければならない。それが一族の決まりだったね」
「はい……、えーとそれはつまり」
まだ自分の頭で、こじつけと結び付かないようだ。だからヒナエの背を押して、
「友達の手伝いをしていた。そうだねヒナエ?」ここにきてようやくファミイユの狙いに気が付いた。少々強引だからこそ。商人であるハルには身に染みた。
「はい!、そうだよお父さん」きっぱり言った我が娘の実直な性格を。誇らしく思う反面。ほんのり寂しく感じたファミイユでした。
「アネスさん。ヒナエさんこの恩義……、忘れませんから」
商人にとって、最大の確約を。二人にしていた。
「セレナ様まで一緒とは……、これは神のイタズラか?」
仕事があるからと。四人を送り出して、1人ごちる、
「好都合ですね」
いきなり現れた気配は、薄く微笑み。ファミイユの気持ちを代弁していた。
忌々しく思いながら。確かにと内心同意していた。彼女は元部下であり、黒衣ながら。貴族の地位を与えられてる。レイカを睨み付けつつ。鼻を鳴らしていた。
━━四人は王宮に入り。ハルの身分を明かして用向きを兵に伝えた、間もなく文官が現れて、すぐに謁見の許可が降りた。
また文官に。同席した三人が、それぞれ身分を明かすと。
「少々お待ち下さい」
同席した親衛隊長を名乗る男が、慌てて、
「ハン将軍閣下!」
声高に。奥に駆けて行った。
「なんだ騒々しい!」
ビリビリ。城を声だけで震わせる人物は、面倒そうに親衛隊長の話を聞いていたかと思えば、
「なに!、イブロの所の娘と、シンク王子の婚約者、さらにアネス姫様だと」会話がまる聞こえである。ほどなく恐ろしく強面、長身でがたいがよい老人が、かくしゃく足早に歩いてきた、かつかつ音がするから、四人は顔を見合せ改めて近付いて来た老人を伺い見れば、右目には眼帯をしていて、右足は失っているのか、木の義足である。しかし親衛隊長が、小走りでないと追い付けない。見事な健脚スピードであった。現れた老人は将軍というよりも。どうみても荒事が得意な海賊のようなイメージを与えていた。
「おお~セレナ久しいな、父上は息災か?」
一瞬同じ人物かと訝しむほど。笑うと優しい顔になって、四人をほっとさせた。
「はい、ハン将軍。あの通りの人ですから」
「うんうんあやつは、変わってないようだな、がはがはかははは!」
高らかに笑い出せば、城の壁がビリビリしていた。
「こらジジイ!、そんな大声で笑うな、城の壁が崩れたらどうする」
ドタバタ凄い勢いで走ってきた、ドレス姿の女性が、ビシリ怒鳴り返した。
「ちっ!、うるせい馬鹿孫が、男が出来たからって、浮かれおって」
言い返していた。すると見る見る見た目上品な美しい女性は、真っ赤になって、
「なっなな」
もじもじしだしたかと思えば、「うっうるさいな、くそジジイ…」
真っ赤になって毒ずいた。驚いたのは理由を知らない四人である。
「フン、それよりシセリア、お前さん達に客だぞ。アミにもしらせてやれ」やや目元を和らげつつ。四人を顎でさしていた、
「お客?」
ようやく四人の存在に気が付いて、ヒクリ顔を歪ませ。次の瞬間。
「わっ私……、なんてこと」
真っ赤になって、走り去っていた。
「あれがリドラニア女王の1人、シセリアじゃ」
意地悪く呟き、悪びれる様子もなく。紹介していた。
衝撃の対面から間もなく。謁見の間に通されて、双女王のもう1人。アミ女王にお目通りが叶う。
「皆様よくおいてくださりました。リアのこと許して下さいね」
ニッコリ微笑む黒髪の女王は、確かに顔立ちがシセリア女王と瓜二つで、双子と見まごうほど、違いはお髪と、まとう雰囲気だけである。
「セレナ、久しぶりですね」「はいアミ様。シセリア様は相変わらずですね」
訳知りのセレナは、苦笑ぎみに彼女を称した。
「ええ~私としては、ハン将軍との掛け合い。好きなんですが、ブライアン君が来てから。すっかり女の子になっちゃたわ」
クスクス楽しそうにおちゃらける。なかなか面白い方のようである。
「ところで……、どちらがシンク様の?」
ヒナエとアネス交互に伺う。
「初めてお目にかかります。ヒナエ・バウスタンと申します」ヒナエが慌てて頭を下げた。
「はいヒナエさん。こちらこそよろしくお願いいたしますね。では、貴女がアネス姫様でしたか、お噂は聞いております。アネス様」
「此方こそ。お目通り感謝いたしますわ。アミ女王陛下」そして四人目の控えてる商人に目を向けて。
「ハルさん、間もなくブライアン君がまいりますから。直接ミザイナ様からのの約束の品。渡してあげて下さいね♪」
気さくなお言葉に、ハルは顔を赤らめ。
「はいありがとうございます。アミ女王陛下」素直に礼をのべていた。こうした商人の態度。実は珍しいことではない。二人の女王と対すると、いつの間にか好意を抱かせる。不思議な魅力を持った女王達であった。
アミ女王との歓談中、黒髪の少年が王座の間に現れて、気さくに笑い四人を出迎えた。
「やあ~皆さんいらっしゃい。話はリアから聞いてるよ」
気さくに微笑むブライアンは、なるほどシンクに似ていた。
「ブライアン様、此方がミザイナ女王陛下から頼まれた。真金です」
革袋一杯に入った、合金を受け取り、中身を確認してニッコリ、
「うんうんこれこれ♪。これこそぼくの求めてた物だ」
改めて四人を見回してから。ヒナエとアネスを見てから、ちょこんと首を傾げ。
「ヒナエさんとアネスさん、これから大変だと思うけど、海では気を付けてね」
おいとまを告げた後、ブライアン様から。妙なこと言われてしまい、多少なり気になったが……、とりあえずハルの仕事は終わりで、
「では皆様、ハルはこれで失礼しますね」
「はい。ハルさんお元気で、王都に来ることがあれば、道場に顔を出して下さい」
「ええその時は、必ずお伺いしますね。ではセレナ様も、また戻りましたら」
「はい、お手紙お願いいたします」
三人を残して、ハルは自分の仕事に戻って行った。
エピローグ
ハルを見送った三人は、一度ヒナエの父が待つ。カフェブルーに戻ることになっていた。それがまさか……、母の仕事に巻き込まれることになるとは……、この時。思いもよらなかった。




