閑話姉妹弟子珍道中3
プロローグ
ひょんなことで、山賊に襲われたキャラバンを助けた二人は、1人の商人と出会った、彼女はラノバ族の商人で名をハルといい。城塞都市ベゼルまでの護衛を頼まれた。
ハルが言うには、護衛が逃げてしまったと言う。新たな護衛を雇うには城塞都市ベゼルまでいく必要があった。詳しく話を聞いた二人は、ハルの目的が、リドラニア公国に行き、ブライアン・ハウチューデンに、ファレイナ公国女王ミザイナ様から頼まれた品を届けるのが、仕事だと聞いた。
ならばアネスは、リドラニアまでの護衛をすると確約していた。そこにはアネスのある思惑があったのだ……、
━━翌朝。朝靄立ち込めるなか。バチリメークまで済ませ。美しい金髪をタテロールにした。戦うお姫様アネス・レイ・アレイク、
彼女の隣で、眠そうな欠伸を噛み砕き。妖艶な魅力を醸し出すヒナエ・バウスタンが顔を出した瞬間から、キャラバンの男達に、凄まじい破壊力をもたらせて、二人によいところ見せようと。張り切っていた。そんな仲間に呆れた顔を隠さず。ハルは丹念に巻いたターバン姿で、特長的な髪をかくしていた。
「お二人は、馬に乗れるんですか?」
それを聞くのを忘れていたハルは、失礼とは思いつつ尋ねた。「ええ。馬車の扱いにも慣れてますわ」
いかにも貴族の子女に見えるアネス。食事での洗練された所作から、見えないが凄まじい力量の拳士であることは、昨日助けられ知ってはいた。
「私も子供の頃から、フィアと馬上訓練していたから大丈夫です」
見るからにホッとしたハルは、改めて二人に説明した。
「ドヴィア経由で、リドラニアに向かうので。どうしても山岳地域を通ります。馬に乗れないと厳しいので……」
済まなそうな顔をしていた。
ドヴィア国は、山岳の合間にある。東平原の小さな国である。別名戦士の国と呼ばれていて。騎士団長イブロ・レダは、あの英雄王の友人であった。また奥方のセシル様の妹は、現ラトワニア神国の女王ナターシャ様でる。
「ドヴィアか、セレナと、メルディス様はお元気かしら?」何気なくアネスが呟き、ヒナエなちょこんと首を傾げた。
ハルとしては二人の会話は、非常に気になった、でも今は馬に乗れることが重要で、安堵したため。その時はそれで終わりにしていた。
━━ハルの率いてるキャラバンは、全部で四台の馬車と16頭の馬。5人の仲間達。内1人は初老の老人、四台の内二台は幌馬車であり。1人一台手綱を握っていた。
アネス、ヒナエの二人は予備の馬と供に。ハルと馬車の周囲を走りながら。交代で見回りをして。城塞都市ベゼルまで何事もなく。夜には到着していた、
━━翌朝。
一行はドヴィア国に向け。出発した。
━━ドヴィア国、15年前の中央大陸事件で、巨大ワームによる襲撃を受けた。都市は半壊。民の多くは家宅を失っていた……。
━━中央大陸事件後……。世界の銀行ギル・ジータ王国から援助を受けて。見事国は復興していた。
なだらかな山間の道。ここ数年の間に整備された。交易路である。事件後のことだが副産物的な。出来事を民は知ることになった。
ドヴィア=リドラニア国境にある古い鉱山は、50年前まで金が取れていた。未だに古い坑道があって。モンスターが住み。長年放置していたのだが、中央大陸事件時。巨大ワームが堀抜いた岩盤から。温泉が湧き出たのだ、
もっとも地下からは、さらなるモンスターも現れたため。おいそれ坑道を降りて、温泉に入ることは出来なかった、そこで次期女王メルディス・オーザ・ドヴィアと。幼馴染みのセレナ・レダが、坑道に殴り込みを仕掛。なんと坑道内のモンスターを駆逐してしまったと言う、
「私、ドヴィアは初めてなんですが、意外と大きな国なんですね」
ハルの率直なコメントは、もっともである。ドヴィア国は小国と知られていたからだ。
「確かに小国ですが、リドラニアまで抜ける坑道に。温泉が出たことで、リドラニア国境まで抜ける坑道を使って。まるごとレジャー施設にしたので、近年は財政も向上しているからね。それにリドラニア方面からも、噂では、温泉施設に入ることが可能だと聞いていますわよ」「あっそうなんですね。だからミザイナ様は、ドヴィアからならば、簡単にリドラニアに向かえると言っておられたのか」
アネスの説明で、なるほどと納得していた。
程なく……。山間に、大きな城門が見えてきた。
この辺り山岳地域に含まれるため。夜になると狂暴なモンスターが、増えるため時間になると固く城門が閉じられるが、閉門まで時間的余裕あるり、キャラバンは無事城門をくぐれて、ハルは安堵の笑みを浮かべていた。
一行はひとまず。ラノバ族が営む小さな商会に顔をだして、頼まれていた砂糖を納品していた。
「はい確かに。期日より早く到着するとは、良い商人に仕事を依頼でき。感謝するよハル」
「はいありがとうございました。またお願いしますね」
にこやかに笑いあいながら、来月また砂糖の輸入を依頼され。それについて色々話をしてるようだ。
キャラバンの仕事の多くは、大きな商会所属ではない。個人商人の場合のほうが、意外と商会からの仕事を受けることが多く。こうした実入りが少ない輸入品の輸送も。他国から買い付けに出る個人商人には、商いをする上で、大切なカードの一つである。
「お待たせしました。次は……」
二人に沢山の荷物が渡されたので。戸惑っていると。
「申し訳ありませんが、個人商いでは、依頼された品を納品するとき、ある程度の見映えが必要なんですよ。また若い女性の護衛ならば、話題にしやすいですから」
などと説明されて、思わずアネスはハルの強かさに、舌を巻いていた。流石は若くても商人である。処世術に長けていた。
「これ結構重いですが、中身はなんですか?」苦労して、持ち手を変えたヒナエが尋ねた。
「中身は、ファレイナ染めの反物ですよ」
「反物ですか?」
いまいちピンと来てないヒナエのため。ドヴィア国の習わしをハルが教えてくれていた。
ドヴィアの女の子は数え年で3歳、7歳になった時に、反物から着物をあつらえるという。そして子供達が無事に育つよう。無病息災をお願いするお祭りが、毎年夏に行われること。商人ならではの話である。「そのため今の時期から。来年の春までの間。私達商人に依頼があるんですよ」
「へえ~随分人気なんですわね」
「はい。何せファレイナ染めは、あの英雄王オーラル様が、中央大陸事件の時。友人であるこの国の騎士団長様のため。手に入れてくれたと。逸話がありまして。英雄王のご加護があるからと、大変人気なんですよ!」
「それは知りませんでしたわ」頻りに感心して、にこやかに笑う良家のお嬢様ぽいアネス、妖艶な魅力のヒナエ。二人を従えてる若きラノバ族の商人の噂は、瞬く間に。1人の少女の耳に入っていた。
「ねえ~セレナ、聞いたかしら?」小柄な体躯。赤茶けた髪、目を引くほどきらきらした好奇心旺盛な瞳。元気が有り余ってると言わんばかりに。ニコニコ笑っていた。彼女こそ次代のドヴィア女王メルディス・オーザ・ドヴィアであった。
「メル様。何をですか?」
小首を傾げた顔は、どこかぼんやりした表情が浮かんでいた、美しい柔らかな金の髪、顔に掛かる様はハッとするほど美しく。スラリとした美少女セレナ・レダである。
セレナは今年16になる。騎士見習いで、幼なじみのメルディスの護衛を任せられていた。
「都に。変わった商人が来ていると噂になっているわ。その商人は何でも美しい護衛を。二人も連れてると。女官達が騒いでたのよ」「はあ~……、そうなんですか?」
気のない返事をするセレナ。やや世情に疎いところはあると思ってたが……、ここまでとは流石に呆れていた、しかし彼女は戦士として、我が国では、彼女の父イブロにつぐ。凄まじい力量を持った戦士である。
でも……、悔しいことに彼女は女であった。ドヴィア国の軍部は、いかんせん男社会である。その為実力があるセレナが、未だに見習い騎士でしかない。自分より年下の見習いが、騎士に選出されたことがあった。苛立つメルディスに対して、
「まだまだ私に。実力が足りないからですよメル」
実直に言える性格は、凄いと思う反面。彼女にはもっと貪欲になって欲しいと思っていた。自分に力があれば、セレナをすぐにでも。正騎士に認めるのに……、
しかし周りは……、セレナが見習いでいることを。当然と考える。とても悔しいとメルディスは反発を抱いていた。
本当は、数年前━━坑道に巣くうモンスターの殲滅も。セレナのためだったのだが……、その功績は、あくまでもメルディスの物にされてしまった。本当に悔しかった……、セレナは自分のために怪我を受けたのにだ、セレナは優しいから。気にした様子がない。だからそれが余計に歯がゆく。悲しかった。
「早速だけどセレナ。噂の二人組。視察するわよ♪」この半年。ドヴィア国内で、ある事件が起きていた。腕に覚えのある護衛兵が、次々と覆面姿の二人組に。試合を申し込まれ。倒されると言う。そんな些細な事件が……、
━━その頃。ハルとアネス、ヒナエの三人は仕事を終えて。旅宿に戻っていた。
「今日は、ご苦労様でした、明日温泉施設を通ってリドラニアに渡れるか、調べに行きましょう」
残るハルの仕事は、ブライアン・ハウチューデン次期国王に、ファレイナ産の真金を届ければ、終わりとなる。その為か、今は商人が普段着。だぶっとした旅服から、可愛らしチェニクに着替えていた。ハルの仲間達は、早くもハルを残して、飲みに出ていると。苦笑していた。「お二人のお陰で、なんとか仕事を無事におえそうです」
改めて二人にお礼をしようと、多少多めに入れた。革袋を差し出したのだが……、
「ええ~と。本当にお礼要らないのですか?」
「ええ私達は修行ついでに、貴女を助けただけですし。それにリドラニアのブライアン殿とは、ヒナエも無関係ではありません、ブライアン殿のお手伝いをしてくれたのがヒナエだと、わかれば私達にとっても、願ってもないことですので」
アネスの説明は、いまいち要領が得ないが、そこまで言われるのなら、お言葉に甘えることにした。
━━翌朝。
昨夜はハルの気持ちで、お礼に美味しい夕飯をご馳走になっていて。軽くお酒も飲んだため。三人はやや日が高くってから、噂の温泉施設のある。元鉱山に向かっていた、
施設の場所は。宮殿の東側、街中を走る。水路の支流である川を挟んだ反対側。大きな橋が掛けられており。そこからまっすぐ歩いてくと鉱山の入り口は、温泉施設の入り口となっていた。
「いらっしゃいませ~。三名様ですか?」
威勢よくハッピ姿の従業員が、声を掛けてきた。これは丁度いいと。
「リドラニア方面に抜けたいのだが、可能なのかな?」
「はい可能ですよ。少し税が掛かりますが、反対側の宿場街に出れますので」なるほどミザイナ女王陛下が、言われた通りである。これならばわざわざ遠回りしないで、リドラニアに抜けて行けると言うわけだ。
「では聞くが、再びあちらから。こちらに戻りたい場合は、割引とかあるのかな?」
「ああ~でしたら。往復の優待券を買われては如何ですか、それでしたら無料の施設も使えますし」
従業員はパンフレットをハルに渡して。リドラニアの首都までは、宿場街から半日であること。さらに無料休憩施設を使えば、一泊しても大丈夫なこと。さらに施設の中でお食事も出来ると聞いて、
「じゃ荷物を持って、早速リドラニアに向かいましょうかね」
ハルの提案に、二人は頷いていた。
「あっいましたわ。彼女達が、噂の商人と護衛達……」
いきなり押し黙ったメルディス。訝しげに首を傾げたセレナだったが、メルディスが注視する女性を見て、とても見覚えのあることに気が付いた。「……アネスちゃん?」
ピクリ眉間に深い皺を寄せたメルディスは、忌々しそうに舌打ちしていた。
「まさか宿敵アネスと、我が城下で出会うとは……」
二人が初めて出会ったのは、今から3年前になる……、
アネスが正式に。王位継承権を与えられて間もなくのことで、メルディスとは年齢が近く。最初こそお友達が出来る。楽しみにしていたのだが……、気が合わないと一目見て察していた。
端から見ると。二人の性格が、恐ろしく似ていた。ゴウジャスな戦うお姫様アネス。
片や元気一杯、親友のセレナのために頑張るが、空回り必死の戦うお姫様メルディス。方向性こそ違え、似たような思考の持ち主であった。だがどうした訳か、アネスの方はメルディスを。大変気に入っていた、
まあ~メルディスとしては、負けたくないとか思っていたりする。ようするにアネスに。一方的にライバル心を抱いていた、
「セレナ……、あれやるわよ……」
「えっメル様、ですがアネスちゃんは……」
ギロリ不機嫌そうに睨まれたので。口をつぐんでいた。こうなるとメルディスは頑固である。自分を押し通し。猪突猛進に走り出す。本当は民思いの優しい性格なのに……。時折こうして、悪い方に出る。少しだけ嫌な予感を覚えたセレナであっいた。
間もなく旅装を着込み、手荷物を持った三人は、橋の手前で立ち止まっていた。なんと橋の中程には、覆面を着けた二人の女が、アネスを睨み付け待ち構えていたのだ。
「何ですか、あのいかにも怪し覆面二人組は」
気味が悪いとヒナエが呟けば、全くねとアネスも同意していた。
「見てください」
ハルが指した先に、先ほど親切に温泉施設の説明をしてくれた。従業員の人が猿ぐつわを噛まされ。転がされていた。白昼堂々強盗かと、眼差しに険を抱いた。
「アネス・レイ・アレイク!。貴女を通す訳にはいかないわ!」
ビシリ!、金の覆面が目を血走らせ宣言していた。
「あら……。なるほどね」
ようやく誰が、覆面をしてるか気が付いて。思わず嘆息していた。
「セレナ、よろしいですの?」獰猛に微笑むアネスの視線に、ビクリ身を震わせたのは覆面ピンク。
「あっアネスちゃん……」
何か口にする前に、ビシリ指を差して、
「貴女は、私達に勝てないわ」堂々と宣言していた。
「ヒナエ、貴女はピンクの覆面セレナと戦いなさい。かなりの腕前だから油断しないでね」
意味ありげな眼差しに。困惑気味ながらも了承していた。
対していたセレナが慌てる。
「メルばれてますよ」
クッと悔しそうな声をぐっと圧し殺し。覆面ゴールドは、戦意を失わず、背から巨大な戦斧を構えた。覆面ピンクは仕方なさそうに、巨大剣をいきなり取り出して、大上段に構えた。
「ええ~!、あんなのどこから」ゴクリ唾を飲み込んで、ハルは身の危険を感じて、足早に下がっていた。
「貴女。少しは腕前を上げたんでしょうね?」
意地悪そうに微笑み。分かりやすい挑発をした。分かりやすい性格のメルディスは、あっさり乗っかってしまって。
「舐めるな!アネス」
ドタバタアネスに走り寄り。空気すら横殴りにしてしまう。豪腕からの一撃を。アネスはのらりくらり。紙一重でかわしまくる。
「ちっ、避けるな」
無理な注文に小さく苦笑しながらかわし続けた、
メルディスは余裕すら伺えるアネスの顔に。頭に血が登って、本来の動きを見失っていた。それを見て、これは不味いと感じ。セレナが救援に向かおうとしたが、鋭い殺気を感じて、身体は自然と防衛本能に従い、後ろに下がっていた。改めてアネスと一緒にいた。妖艶な少女ヒナエを注視する。
「ジャアアア~」
蛇の威嚇音のような呼吸音が、ヒナエから聞こえていた瞬間。目の前のヒナエが恐ろしく。手練れの相手だと気付いた。下手をすれば、あのアネスと同格の相手である。
「これは失敗したかも……」
訓練用の重い武器を持って出たことを悔いていた。父が言っていたではないか、僅かな驕りが、致命的な隙を生み出し。命取りになりかねないと……。
ちらり動けないセレナを確認して。アネスは早々にメルディスを倒さず。自分を追い込む修行だと考え。苦難の道を選択していた。メルディスに一度も触れず。また触れられず。かわし続け。疲労させて。自滅させることである。右、左、側転して、かわし続けるアネス。端からみるとまるで曲芸であった。
「あわわ。あっ危ない、ドヒャ~。アヒー」
ウーダ、アーダ百面相を繰り返していたハル。
「ジァアアア!」
息を吐いた瞬間、凄まじい勢いでセレナに迫るヒナエ、身体をひねり、上下の二段蹴りを放つ。対してセレナは、巨大剣のみねで防ぐ。
防がれたと見るや。足元を狙った緩急のフェイント交えた水月。軸足を刈ることこそ出来なかったが、右足をかすめ、僅かによろめかせた。
「ちっ」
接近戦は不利になるとヒナエから距離を取ろうとしたセレナ、ヒナエはさせじと追撃に入る。バウスタン流蓮撃発動。間合いをとろうとしたセレナに合わせ、間合いを詰めながら。上下の打ち分けから始まるラッシュ、かわされた瞬間。裏拳が放たれ、セレナの額を掠めた、
慌てたのか、苦し紛れの斬撃を放つも、ヒナエは危なげ無く内にくぐり抜け。0距離からの凄まじい一撃。人間の首筋。鎖骨。あばら骨にかけて、切りつけるような凄まじい肘うちを。わざと巨大剣のみねに叩きつけていた。
ガキン!、巨大剣が威力に耐えられず。中程から折られて、橋に落ちる様を、セレナは唖然と見ていた。
「まだやりますか?。次は手加減出来ませんよ」低い殺気混じりの声音。ピクリ身を震わせたセレナは、慌てて巨大剣を放り投げ、降参を示した。
ヒナエの勝利を横目に。息も絶え絶えのメルディスを俯瞰で、見てとる。段々攻撃スピード、威力が落ちてるのが分かる。こうした破壊力のある武器の攻撃は、真っ正直から受ければ、驚異になるが、馬鹿正直に受ける必要はない。
「クッ卑怯よ。何で避けるのよ!、私は負けたことないんだから」
気を吐いて、型も技も関係なく。ただ強引な斬撃を繰り返した。
「グッ……」ガツン、空振り、そのまま橋桁に足を取られて、とうとう座り込んでいた。
「くっ……、」口惜しそうに、アネスを睨み付けた、だけど強がりもそこまで、力が抜けた瞬間気を失い。倒れ伏すところを。アネスが動こうとしたまさにその瞬間。アネスより先に。白銀の閃光が脇を駆け抜けていった、何時のに現れたのか……、アネスとて気づかぬほど。見事に気配を消していた偉丈夫が、メルディスを抱き抱えていた。
「失礼を、ご容赦くださいアネス殿下」
見るからに武人の中年男性は、ニカリ虫歯が逃げ出しそうな、真っ白い歯を煌めかせていた。彼に見覚えがあった、確か……。
「お久しぶりですわイブロ殿」そうドヴィア騎士団長イブロ・レダである。
「メルは疲れてるようだから。早々に医者に見せることお勧め致しますわ。ただの過労ですが」
自分がしたことを考えれば、嫌みの一つ言われるかしら?、身構えていると。
「ハッ、気遣い感謝致しますアネス殿下。姫様の非礼お詫び致します。またこのように穏便に済ませてくれたこと感謝します。ですが詳しい話は後日がよろしいかと……」
ちらり、真っ青な顔でうろうろしてるハルを見てのことである。流石に目敏いと口元を緩めていた。だからここは貸しを作るため。わざとある提案を口にしていた。
「その代わりイブロ殿。セレナを借りても?」驚いた顔を隠さず。挙動不審な覆面ピンクを見てから、
「……よろしいのですか?」
小さく嘆息していた、やはりか……、娘にも厳しい人だ。だからここは本当の彼女のためにも一肌脱ぐほうが、騎士団長の面目も保てる。
「ええ。友人とじゃれあっただけですから」
艶やかに笑い述べると。虚を突かれてたのか、思わず破顔一笑していた。
「寛大な処置。感謝致しますアネス殿下」
武人らしいきびきびした一礼を残して、何時の間にか周囲を取り囲んでいた。ドヴィア騎士団と伴に。颯爽と立ち去っていた。
エピローグ
一連の出来事を目にした。セレナはどうして良いのか、おろおろしてると、アネスはつかつか近寄り。いきなりセレナの覆面を剥ぎ取っていた。
「ヒナエ、彼女は私の知り合いなのこのまま。リドラニアまで同行してもらいます」
今の今まで姉弟子のため。自分の優しさを圧し殺していたヒナエのため。優しい声音で気遣うや。
「ふぇ~、そうなんですか。良かったです~」ふにゃり、威圧した気配が瞬く間に消えていた、目のはしに、涙まで浮かべて。セレナは目をしばたかせ。とても驚いた顔をしていた。そんな彼女が隠してる。もう一人に聞かせるよう。真剣な顔を作り。
「セレナ、貴女ならば分かるわね。私がどういう意味で貴女を同行させると言ったか?」
色々な含みを持たせ。問うように言えば、今まで借りてきた猫のようだった少女は、パチリ数秒眼を瞑り。再び開けた瞬間。何か得体のしれない雰囲気を感じて、ヒナエはやや間合いを取っていた。流石はヒナエ、何かに気付いたようだ。
「アネスちゃん……、ごめんなさい。迷惑をメルが掛けたわね」
先ほどまでと口調、雰囲気、態度全てが違っていた。今では油断ならない鋭い気配を放ち。先ほどまでの凡庸な姿は消えていた。
「ヒナエ覚えておきなさい、彼女こそもう一人のセレナ、違うわね」
にやり彼女を真っ直ぐ見詰め。「ドヴィア未来の宰相セレナ・レダよ」
不敵に名言していた。これには多少なり苦笑いを口内で飲み込むセレナだが、あながち間違いではないので。軽く肩をすくめていた。
「相変わらずねアネスちゃんは、ところでそちらの……」
「ああ~彼女は、未来のプロキシス王妃。ヒナエ・バウスタン、見知っておいて、お互い損わないわよ」
ほ~う、この子があの噂の婚約者の1人か。真っ正面からまじまじ見つめられたヒナエは、セレナの顔を見てびっくり。
「綺麗……」
思わずそう呟きたくなるほど。セレナは美しかった……。アネスと並んでも遜色ない。
色々な事が有りすぎて、いまいち気持ちが付いてかない。ハルを伴い。間もなく四人は、温泉施設に入っていった。
「うっ。ううう~」
猿ぐつわされた従業員は、忘れ去れたまま。彼はその後、縛られる喜びに目覚め。怪し店を始めるが、また別の話である。




