閑話姉妹弟子珍道中ですね?
プロローグ
━━東大陸・アレイク王国東。
艶やかな黒髪、左の目の下にある泣きほくろがなんとも……、扇情的に見える妖艶漂う女の子。ヒナエ・バウスタン。隣を優雅に歩く。美しい金髪を縦にロールさせたゴウジャス美少女。豊かな胸。括れた腰がアネス・レイ・アレイクの自慢である。めちゃくちゃ目立つ二人は、数日前まで……、わざと魔獣の山を越えて、東の街道に抜けて来ていた。ここからさらにここから北上して、二人は城塞都市ベゼルに向かうつもりである。
「なんかホッとしたねアネス。あのウオルフなかなか強かったしね」
「まったくですわ~。あんなのがいて、流石に焦りましたがフッフフフフ♪」
意味ありげな眼差しに。ヒナエも誇らしくも照れていた。
━━時は、3日前に遡る。二人は冬休みを利用して、バウスタン流の三段位階を極めるため。修行の旅に出ていた。まずは手近なところからと。王都カウレーンから旧街道を南下。ウオルフ(狼)の山と呼ばれる。危険な山に二人は足を踏み入れていた。当初アネスもヒナエも甘く考えていたのだが……、
「囲まれてますわね……」
「ええ……山に入ってから。ずっと視線を感じてたけど……」
二人が止まろうとする度に。殺気が放たれるから、休まず歩くしかなかった。
「数は多いようだけど」 「ウオルフなら大丈夫だよ」
二人は頷きあい同時に動いた。
アネスは、灌木の反動を利用して、凄まじいスピードで、灌木の間を飛び跳ねながら。二人を囲むように遠巻きにしてる。ウオルフの群れに迫る。同時に動いたヒナエは、身を霞ませるほどの凄まじい勢いで、一直線に走り出すや。ウオルフの群れは動揺して、動きがバラバラになっていた……。頭の良いリーダー個体の理解を越えた動きだったかウオルフ達は、動きが鈍くなったのだ。
━━アネス、ヒナエ美しい二人の拳士は、そんな隙を見逃す筈もなく。瞬く間にウオルフを打ち倒して行く。あまりの早さに。野生のウオルフが付いていけず。恐れたと言うから。二人の技量はもはや獣以上である。何とかウオルフ達も三頭。四頭と集団で反撃に出たが、僅かな遅滞を生んだだけである。一方的に討伐されるため。次第にウオルフ達も遠巻きににし出し唸り声が響くだけとなっていた。
『ガルルルル!』
情けない仲間を威嚇するように。凄まじい殺気が、山々に広がり。鬱蒼とした木々を震わせた。
「ヒナエ!」
「うん」
さっと身構えた二人には、一切の油断はない。今までのウオルフとは明らかに違う。強いプレッシャーを感じていた。
━━そして……、
ドスン、二人の前に現れたウオルフは、巨大だった……、
「でかいですわ……」
あきれたようにアネスが呟けば、ヒナエも同意して頷いた。通常のウオルフは中型の肉食獣である。それが……、ターミナルで見た土竜よりも大きいウオルフなど聞いたこともなく。自分が見てるものに懐疑的になる。端で見るとちょっとした小山を相手にするような感じてある。
「ガルルル!」
鼻に深い皺を刻み。青み掛かった毛並みが怒りで逆立ち。二人に深い苛立ちを覚えたようだ。さっと身を屈めた瞬間。青い閃光がアネスに向かって走る。凄まじい勢いで、鋭い三本の銀光がアネスを薙いだように見えた。だがアネスは機先を制して、爪の斬撃を回避していた。
しかし巨大ウオルフは止まらない。かわされたとみるや。牛すら一噛みで殺せそう牙を剥き出しに。アネスを追撃。三度に渡る噛みつきをヒラリヒラリかわしたが、アネスの顔から余裕が消えていた。
「エイや!」
伸びきった首に。断頭台と呼ばれるバウスタン流の秘技は、渾身の力+体重+重力が、全て乗せられた。凄まじい破壊力を生んだ。普通ならば捻りが加わった破壊力抜群の踵落としが決まれば、モンスターとて一撃で倒せる自信があった。
「グアアアア!」
痛みにたまらず叫び声を上げて、素早く巨大ウオルフは後ろに飛んで、低く身構えた。
「嘘!、今ので倒せないなんて……」
油断を消したウオルフは、二人から視線を外さず睨み付ける。ますます殺気は強まっていた。
必殺の一撃で倒せないことにヒナエは動揺し。アネスも驚きが隠せない。確かに決まったとアネスも思ったからだ。二人が考えているよりも巨大ウオルフは、強靭であった。巨大ウオルフからしたら。人間は油断出来ない敵である。人間並の知能を有する巨大ウオルフにとっても、二人は予想外の強敵だと認めた。だから全力を持って殺すと。ウオルフはさっきとは比べられない。手足が冷たくなるような殺気を全身より放っていた。低く。低く。頭を擦り付けるほど低く構えて。一気に蓄えた力を放出。背の高い木々を飛び越えるように。ヒナエを急襲、
「ヒナエ!」未だ惚けていたヒナエは、ハッと息を飲んで、回避に入ったがやや遅い。アネスが咄嗟にヒナエの肩口を蹴って、右に飛ばさなければ、命を失っていた可能性が高い。
ザシュ━━━、
ヒナエが今まで立っていた地面が大きく抉れ。まるで鋭い三股の刃で切り裂かれたかのようである。避けられたと知るや。アネスに向かい。左の爪を鋭く伸ばす。
ザシュ━━。
咄嗟の気転によりアネスは、巨大ウオルフの胸元に飛び込み。バウスタン流のコンボを繰り出した。素早い左右の連打。連続回し蹴りからの刈り取るかのような肘うちが、見事ウオルフの軸にした右前足を薙いで、大きな隙を産み出した。ヒナエはその時ようやく起き上がり。腰だめに身構えていた。チラリヒナエの動向を見たアネスは、ヒナエが奥義を繰り出すつもりだと気が付いた、ならば自分はウオルフに気付かせね猛攻を加えることで、妹弟子を守る覚悟を決めた。さらに一歩深く踏み出したアネスは、あの日を思い出していた……。
ヒナエの母である。ミラが一度だけ見せた。あの奥義を……、
アネスの戦い方に変化が起きたのは、ヒナエが死にかけた時である。それはヒナエも理解したと同時に。自分のせいで姉弟子アネスに迷惑を掛けた事実を悔いていた。あれだけどんな相手も侮らないと決めていたのに……。自分の不甲斐なさが、腹立たしい。しかもアネスがやろうとしていることこそ。母ミラが、ヒナエに一度見せたバウスタン流の奥義だと気が付いた。それは自分には出来ない業。されど母に負けるつもりなどない!。
『私の業は、シンクと作り上げた特別の物だ』
自負がある。親友で、ライバルのフィアを倒し。ようやく自分の技とした。新たな奥義……、
「無拍子」
囁くヒナエの声がした瞬間。ヒナエの気配が消えていた。
猛攻を掛けるアネス。野生のウオルフですら気が付かぬ出来事が起こる。
━━━いつの間に……、ヒナエが、ウオルフの脇に立っていた。肉食獣は僅かな気配。嗅覚に優れてる反面。一度集中状態に陥ると。予想外な攻撃に脆い。アネスという強敵を前に。意識を集中させていためでもあるが、自然な動き。ゆっくりしたきに。意識が付いて行けなくなる現象が起こる。それをシンクは『虚実』と言っていた……。
ヒナエは残念ながら母に似て。魔力が低く。アネスが使おうとしてる。奥義を使うことは出来ない。ならばこそ身に付けられた技である。ウオルフは前方に意識してるからこそ。脱力していた脇腹から肋骨にかけて、構えも何もない一撃は、凄まじい破壊力を生んだ。ドスン。あまりに重い一撃に。ウオルフは息も絶え絶えと横倒しに倒れた。
「ガルルル……」
直ぐに身を起こしたが、相当なダメージを受けたようだ。唸り声に。先ほどまでの迫力が無かった。
「喰らいなさい!。千打掌」
アネスの周囲に張り巡らせた。魔力の光跡は、ウオルフを中心に。魔方陣のように張り巡らされていて。アネスは最後の一押しの一撃が放たれ。目も眩むような。無数の流星がウオルフに吸い込まれていく。凄まじい魔力による打撃の弾幕にみるみる。地面に押し付けられ。ついにウオルフは動かなくなっていた。
「さあ~これで止めよ!」
アネスが拳を振り上げた瞬間。
「キュウ~キュウ~♪」 コロコロした子犬位のウオルフが数匹現れ。巨大ウオルフを心配そうに鳴いていた。
「あっ……、あんたお母さんなの?」
戸惑ったようにアネスが問えば、うっすら目を開けて、
「グルル……」力なく答えていた。
エピローグ
そうと分かれば、人間を恐れたウオルフが、子供を守るために。二人を襲ったと気が付いた。確かに襲われ戦ったが……、二人は無益な殺生を好まない。
「私達は、貴女の子供を襲うつもりはないわ。修行の旅に出ていたの。でも……貴女達には分からないものね……。」
「アネス……」
「ええ私も少しですが、癒しの補助魔法が使えます。動かないで」
ウオルフに優しく話し掛けながら、呪文を唱えると。開いた手のひらから優しい光が、巨大ウオルフを包んでいた。
しばらくして……、
体力が回復した母ウオルフは、理知的な眼差しで、二人の人間を見た。
「……私達は、貴女のこと他言するつもりはないわ。だからこのまま山を抜けさせてね」
人に語るように。誠心誠意話していた。
「グルル……」
小さくウオルフは頷いていた。驚き目を丸くしたアネスに。一度だけペロリ別れの挨拶かのように。手のひらを舐めてから。ウオルフの親子と群れは……、山の中に消えていった。しばらくして二人は戦いの余韻にひたり。今のが夢でないのか?、二人は思わず見あった時だ。
「ウォオオオオ~ウ」
すみわたる遠吠えが、山々に響き渡り。まるで二人に別れを告げるかのように。いつまでも。胸に残った。
「行きましょうヒナエ」 「はい」
二人は笑みを見合せ。再び修行の旅に出たのであった。




