閑話魔王の愛娘、天才軍師共闘ですか?
プロローグ
━━西大陸。パルストア帝国。帝都。
朝夕の寒暖を感じ。まさに季節の変わり行く早さを。日々の忙し中。強く感じつつも。連日行われる。様々な案件の膨大な会議に。忙殺される毎日。魔王ピアンザは、また一つ決議を申し付けていた。
今の帝国の内政は、移り行く季節の如く。莫大でまた多岐に渡る多さである。近年の忙しさに懸念を抱きつつも。ピアンザは苦節の末……数年前に。5つの省を作り上げた。先程まで外務省の会議で、ようやく本日の王としての激務が終わる。束の間の休息を満喫していた。
「……パパ……」
恐々、こっそりと扉を開いて、真っ白い妻に似た髪が、チラリ見えた。
「クライムか?、入って来なさい」
大好きな父からのお許しを受けて、
「うん!」繊細そうな顔立ちの少年が、はにかみながら入って来た。
「パパ……良かったら。お茶しない?」
おずおずティーセット乗せた。ワゴンを室内に。自ら運んで入って来ていた。そんな息子の様子に。ほんのり表情を和らげ。
「気を使わせる。ありがとうクライム」
「うん♪」
クライムは、妻に似た優しい心根の皇子で、お菓子作りが趣味と、家庭的な一面が強い。また六将の1人ミューア・サリアンから。大変気に入られており。お菓子作りを学んでいた。その腕前は、姉とは比べ物にならないほど玄人はだしで、半年程前から。クライムカフェと言う名の。秘密のお茶会が、月に一度開かれてると聞く。何でもミューアが主催だと。暗殺されかねない不安からか……、お客様が来ないと拗ねて。皇子であるクライムに泣きついた。ならば僕の名前を使って下さいと。健気に申し出たとかで。ミューアはずっと上機嫌なのだが、ミュアにも困ったものだ……、
「秋の新作。パパに1番に味見してほしくてさ……」
照れくさそうにはにかみ。お願いされてしまった。
「頂こう」
「うん♪」
こうした楽しい時間を過ごすこと。切に願ってた愛娘のリルムは、クライムと違い。女性らしい趣味に乏しい……、違うな壊滅的だった。サクリとした歯触り。パイ生地の中に。豊潤な味わいの葡萄のジュレが、スッキリとした味わいで、口内に広がった。ほんのり酸味は感じたが、それが良いアクセントになっている。
「美味しいな……、時にクライム……、今年の葡萄は不作で、酸味がキツく。そのまま食べるに。向かなかった筈だな?」今年は水害があり。葡萄園は大打撃を受けていた。しかも日照期間が少なく。形も小振りなものばかりで、干し葡萄にして試したが、エグミが酷く。ワインにも無かないと内務省から報告があがっていた。
「あっうん。ミューアから聞いてました……、それで僕なりに。何とか製品に出来ないかと考えてたんだ……」
なるほど。本来西大陸の葡萄は、甘味の大変強い葡萄である。今年のように。酸味とエグミが強すぎる葡萄では、市場では売れないと聞く。また時期も悪い……、
「そうか……、お菓子を、いや違うな……、ジャムを作るつもりか?」
直ぐに息子の狙いに気が付いた。わざわざジュレにしたのは、肉料理。魚料理のソースに使えることを察してもらいたくて。それで葡萄パイにしたのだ。ジャムならば、軍国から砂糖を輸入すれば加工しやすい。また日保ちもするから。輸出品に加えれる可能性がある。
「お茶も飲んでねパパ♪」
意味ありげな眼差しを受けた。どうやらこちらにも意味があるようだ。クライムは洗練された手つきで、器を暖めていた湯を捨て。じっくり蒸らした紅茶を器に注ぐや。甘やかでいて、芳醇な香りが部屋を満たす。スーッと香りを吸い込むと。微かに葡萄の香りが、鼻腔に仄かに広がる。
「ほ~う。葡萄の葉をお茶にしたのか?」
「うん!、ミューアが懇意にしてる。ブルー・ファミイユさんから聞いて、農園の者に頼んで作らせたんだ!。これなら葡萄農園の人も時間に余裕があるときに作れるし。少しは収入がえられるからね♪」
なるほど……、悪くない考えだ。ミューアの入れ知恵か……、口元を綻ばせながら。自分のために。少しでも役に立ちたいと言う。優しい気持ちだと気付いた。
「良い考えだと思うぞ」
「本当!?。それなら嬉しいな」ニッコリはにかむ姿は、妻の若い頃に。似てきたなと感慨深く思う。
「そうだな……、クライム、葡萄のことは、お前の裁量に任せたい、どうする?」
「うん!」
父の急な申し出だが、クライムはとても嬉しそうに頷いていた。
━━東大陸。アレイク王国。王都カウレーン。
━━北の通称・貴族街。古くも大切にされていた屋敷を訪れたのは、白銀の髪が。天使の羽のように。陽光に輝き広がる。まさに舞い降りた天使。氷の女神の如く。美し過ぎる女性だった。薄く化粧をして、上品な黒のストールで首もとを巻いた。秋の装いも。晴れやかな秋晴れのような。舞台に赴く。一枚の絵画から飛び出した。美しい少女のお客様に。バレス家で長年。支えていた老婆は、ポカンと惚けていた。
「ごきげんよう。私レイラさんの友人で、リルム・アオザ・パルストアと申しますの」
優雅でいて、エレガントなご挨拶を受け。ハッと息を飲んで我に返り。とても驚いたようだが、直ぐに優しい笑顔になっていた。流石はアレイク王国、救国の英雄の実家である。
「まあ~こんな素敵なお嬢様が、レイラお嬢様とお友達だったなんて♪、ようこそおいで下さいました。皆様お待ちですよどうぞ」
「お邪魔致します」
老婆に案内されて、屋敷入ったリルムは。最初に目が向いたのは、二階に上がる階段のエントランス部分。壁に飾られた。妻の肖像と寄り添う。レイラに似た青年の絵画だった。「亡くなられた奥様と、カレイラ様です……」
「目元が、どちらもレイラに似てますね……」
「はいそれはもう、最近のお嬢様は、カレイラ様と瓜二つで、ハウリ様は懐かしんでおります……」
意味深であるが、老婆の言わんとする意味に気が付いた。
「そうでなくば、私が張り合いがない……」
ボソリ小声の呟き。聞き逃しそうな呟きを聞いて、老婆は驚いて目を丸くしたが、直ぐに優しい笑みをリルムに向けて。
「此方です」
玄関ホールの右手の扉を開けて、リルムを通し一言。
「外は冷えましたでしょう。ただいまお茶の用意をして参りますね」
そう言い残しそそくさ老婆は、おいとました。
「よい使用人に恵まれているな、レイラは……」
暖房の温かみに、頬を緩めながら。レイラがいる応接間に向かうと……、フィル・マノイ、そして……、彼女の部隊の四人が揃っていた。
皆が、一瞬驚いた顔をして、緊張を露にするなか、フィル・マノイだけは、芯の強い眼差しで、自分を見たことに驚いていた。
「いらっしゃいリルム……」
━━あれは少し前になる。冬休みに入ったその日のこと。何やら真剣な面持ちのレイラから。重要な相談があると言われたのは、正直なところあまり良いタイミングではなかった。明日には帰国するつもりだったのだが……、レイラが何やら言いたげな様子から、私達にとって重要な話であろうと推測出来た。
「そうね……明日、貴女のお屋敷にお伺いします。そちらでお伺いいたしましょう」
何となくだが、相談の内容を察していた。
「貴女が、最後の王妃候補フィル・マノイね?」いきなり斬り込まれ。フィルは狼狽える。
「残りの四人は、レイラ貴女が選んだ仲間ってことね?」
リルムの先見性は、僅かな情報から、全てを見抜いていた。
「わっ私は……」
何が言いたいのか、直ぐに察せられる。なるほど彼女の性格は、生真面目であり、例の事件のことを。負い目に感じてるか……。
「そう……、シンクは知らないのね?」
「はっ、はい」
ズバズバ言い当てられてしまい、フィルは戸惑いよりも驚き戦いた。少し思案していたリルムだったが、丁度よい機会かもと考えを切り替える。
「ところで……貴女達。冬休みの予定はあるのかしら?」
突然話が変わり。六人は戸惑いを浮かべつつ。揃って首を振っていた。
「そう……、なら丁度いい機会ですわね。皆さん私の帰郷に同行なさい。あちらで片付けときたい問題もあるから。退屈はさせないわよ?」
何とも挑戦的な誘い文句に。フィルは唖然としたが、沸々と……、不屈の魂が刺激されていた。
「ええ喜んでリルム。私にとって好都合です。貴女の父。魔王様と目通りが叶うのは、王妃となってから財産となります」
ほっそりした顔立ちのレイラは、涼やかに目を細め笑うと。周りの少女からは、あまりに不敵に映り。フィル含めた五人はギョッとした。
「フフフ貴女なら。そう言ってくれると思ってたわレイラ♪」
挑発めいて二人は見合い、楽しげに笑うのだが……、まるで切りありの真剣勝負を繰り広げてるように見え。見てる方は強い緊迫感を感じる。ものだった。
「リルム……、私達の同行は、貴女の希望に添えるよう。最善を尽くすわ」
あくまでも二人の顔は、穏やかに微笑みあうのだが……、五人にはまるで……、導火線に火が付いてる爆弾を手にして、今にも投げ合いを始めかねない。緊迫感を感じ。戦々恐々と……、身を震わせていた。
━━こうして……、レイラとフィル部隊の面々は、明日西大陸に出発すると決まり、六人は、慌ただしく。旅行の準備に奔走することになった……、
翌朝未明━━。
━━東通り。マノイ商会。
一同は、商会の馬車で、ギル・ジータ王国まで送って貰えることになって、ひんやりした朝靄の中出発した。数日後……、ギル・ジータ王国が誇る。海中船で、中央大陸経由。西大陸の玄関口。元魔導王国レバンナの港町レスクに到着したのが、
━━僅か、7日後のことだった。
通常の船ならば、12日前後は掛かるの長距離の移動なのだが……、父がリルムのために。海中船をチャーターしてくれていた。過保護過ぎる父にも困った物だが、今回は有りがたく感謝を抱いた。
レスクの港は、西大陸に4つある。海中船の船着き場の一つであるが、輸出入の船舶。税関口のため。多くの倉庫が建ち並び、軍部の兵が多い場所である。その為要人が秘密りに使うことも多く。桟橋の近くには、既に出迎えの馬車が到着していた。桟橋に着いた海中船に気が付いた。強面の初老の武人は、背筋を伸ばしただひたすら。我が大切な姫を待っていた。
「ランバスタ!」
老人に気が付いて、フワリと桟橋に降り立った。白銀の髪の美しい少女は、実の祖父を見つけたような。嬉しそうな笑を浮かべていた。
「姫……」
リルムに気が付いたランバスタ将軍は、破顔一笑。その場に膝を付き、頭を垂れた。
「姫様……大きくなられましたな。よく無事に帰郷なされました、お帰りなさいませ姫」
「うむ。ランバスタ出迎え。ご苦労様でした」
「はっ」
恭しく頷いていたランバスタの実直な性格を。懐かしく思い。春先までリルムの我が儘を聞いてくれてた。忠臣のこと思い出していた。
「……姫。ダレークは、元気でしょうか?」
リルムの表情から。察したようだ。
「さあ~それは分からぬが、今頃シンクとあちらで、バッタリ出会って、戸惑ってるかも知れないわね~」
クスクス楽しそうに笑うや。ランバスタも同意した。
「あやつは、寡黙すぎるのが欠点ですが、何より優しい男ですからな。案外シンク様を心配して、護衛をやりだすやもしれません」
「……本当にありそうだわ。子供が出来たと言ってたから。無理はして欲しく無いのだけどね」
「ほ~うあやつが子供を……、それはまた、奥方様はどのような豪傑で御座いましょうな?」
にかり愉しげな顔をしたランバスタの為に。リルムの知る限りのことを伝える。
「彼女は、三人目の女性竜騎士になった。可愛らしい女性よ。ランバスタ♪」
「これはまた……」
驚いた顔をしていた。まさか竜騎士の嫁とは、奇縁と呼べよう。
「そうそうランバスタ、私の友達も同行してるから紹介するわね」
にこやかにそう告げるや。ランバスタはそれはもう驚愕のあまりアングリ口を開けて呆ける。珍しい物が見れた。
「あっ、あのシンク皇子一色の姫様が、お友達と……」
驚いたようだが、にかり男臭いが優しい。孫の成長を垣間見た祖父のような。とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。一方でリルムとしては、そうはっきり言われると。少し恥ずかしいが……、後ろの六人を差すと。孫の成長を喜ばしく思うように。ランバスタは目を細めて。
「ようございましたな……。流石は姫様、いずれもかなりの手練れの様子」
ランバスタは唸るように、リルムの慧眼を褒め称え。リルムを照れさせた。
ランバスタ将軍に子はいない。そのせいかは分からないが、物心ついた時から、ダレークとランバスタが、リルムの護衛をしてくれていた。だからではないが……、二人を身近な者としてリルムは考えていたし。不思議と二人もそう思ってくれてると。半分確信があった。ダレークは誰よりもリルムを慈しみ。兄のように世話を焼いてくれたものだ。最近知ったのだが、ランバスタとダレークの間には、実の息子と父のような間柄だったと。後々父から聞いた。
改めて、此方におずおず荷物を手にやってくる少女達を。ランバスタは、それぞれ見て、レイラで目が止まっていた。
「ほ~う……」
思わず感嘆の声を漏らしていた。
「彼女はレイラ・バレス。名を聞けば分かるかしら?」一瞬驚いたようだが、唸るような表情を浮かべた。
「それから……、隣がフィル・マノイ、二人は私と同じく、シンクの王妃候補です。最上の扱いをしなさい」
「なるほど……」
その辺りの話は、聞いていたのか、苦笑を浮かべた。
「陛下が、朝からやきもきしております。そろそろ向かいましょう」
「そう……、仕方ないお父様ね~」
リルムが呆れ気味にいえば。そうですなと頷き。男臭い笑みを浮かべ、おどけたように肩を竦めていた。
「相変わらず。お子様には甘いですからな~」
「そう……なら仕方ないわね~」
そんな口振りだが、とても嬉しそうに微笑む辺り、似た者親子だと。ランバスタは恭しく頷いていた。
六人とリルムは、12人はゆったり乗れる。豪奢な大型馬車に乗り込み。一行は……、帝都に向かい。馬を走らせた。
━━8年前……、
旧都レバンナから、元聖王サウザント国の国境に、帝都は移された経緯を聞いた少女達だったが、一番食い付いたのが、い帝都では、カフェブルー&B&Mという新しいお店が、オープンしてると聞いて、
「リルムさん私行きたい!」
「わっ私も……」
恥ずかしそうにレイラまで言うから、
「まあ~クスクス仕方ないわね。弟のクライムに頼みましょう」
「リルムの弟って、もしや皇子様にですか?」
驚いたレイラにええって楽しそうに笑いながら。弟はお菓子作りを趣味にしてること。カフェブルーのオーナーから。直接お菓子作りを学んでたから。お店と同じお菓子が頼めば作って貰えると聞いて、和気あいあい華やかな笑い声が、馬車の外まで響き。護衛隊長を勤める。ランバスタ将軍は嬉しそうに頬を緩めていた。
この数日の旅で……、レイラの仲間である。
フィル・マノイ、
カノア・テレグシア、
メグ・ファノア、
ラグ・セレン、
サラ・ローガン、
五人の性格や、趣味、また才能を間近に見て、語らったリルムだからこそ……、なかなかどうして……、私達に比肩出来うる。多彩なタレントを見つけ出したと。ライバルであるレイラの人を見る才覚に舌を巻いていた。それは自分に無い才能だから羨ましく思う半面。さすが私が認めた者だと頼もしく思った。特にサラ・ローガンの料理の才は、有能で、すっかり彼女の料理の味に。魅了されていた。
「サラさん。貴女の料理の腕前は、素晴らしいですわね♪」
「あっ、ありがとうございます」
気恥ずかしいのか俯き加減で、髪が顔に掛かるサラは、美しい黒髪である華の国ダナイに多いと言うから。先祖の血を受け継いでるのだろう。幾分人見知りが強い彼女に代わり。フィルが、
「リルムさん、サラの家は、アレイク王国有数の名店。リーブル酒家なんですよ」
「まあ~リーブルの道理で、親しみのある味でしたわ♪」
「???」
妙な納得をしたリルムに。戸惑いを浮かべたフィルのため。種明かしをした。
「本当は……、秘密なので、内々の話にしてくださいね?」
珍しくリルムが小声で言うから。レイラ含め。皆顔を見合せ頷いていた。
「オーラル伯父様や私の父が、リーブル酒家で、働いてたことがあるんですのよ」
驚きの話を聞かされたサラは、パクパク打ち上げられた魚となり。レイラは驚きを露にしていた。
「先日ノンとシンクが、デートでリーブル酒家にお邪魔したそうですが、シンクもログ爺から、料理を習ってるからなのよ。貴女もログ爺からよね?」
ビックリした顔を隠せないサラは、コクコク素直に頷いていた。
「リルム本当なのか?」「ええ~、シンクの多彩な趣味の一つね。私が料理が苦手なの知って、オーラル伯父様に習い始めたのがきっかけらしいわ」
困った顔をしたリルムだが、フィルとしては、少し羨ましく思ってしまう……。それには理由があった。彼女の心には深い傷と。不安が内包した複雑な気持ちに。苛まれてる最中である。またリルムやレイラ等。他の王妃候補とは違い……。まだ同じ土俵にすら、上がっていない。それが余計に不安を掻き立てていた。楽しげに会話を楽しむ仲間の中で、誰もフィルの様子に気が付かなかった。しかし1人だけ。暗い表情のフィルが、何を考えてるか、リルムだけは察しった。
「……ねえフィルさん」 「はっ、はい」まさか声が掛けられるとは思ってなかったのか、少しびくびくした上目遣いで、リルムの顔を伺っていた。
━━目をしばたいて。小さく嘆息して、シンクの前以外で、初めて見せた労るような。優しい慈愛の眼差しをフィルに向け。子供をあやすような。それはそれは優しい声音で諭した。
「フィル……、貴女は、今の私には、計り知れない程。深く傷つき、また多くの不安を抱え。苦しんでるのでしょうね……、ですがフィル。私達の愛した王様と。私たちを見くびらないで下さいね」
突然だったためフィルは戸惑い。困った顔をしたが、彼女にはリルムの言わんとすることが理解出来るだけに、リルムの気遣いが素直に心に凍みて……、クシャリ思わず泣きそうになっていた。その瞬間レイラとリルムが、一瞬目配せを交わし頷き合った。
━━レイラは、リルムに。やがて迎える。王妃になってから。皆を束ねる王妃達の家長としての役割を。今から望んでいた。それは今の状況こそが、レイラの理想に近い、未来のそれぞれが担う役割を。学べる時期だと考えたからである。
「フィル……貴女には、言ったでしょ?。リルムは非情だけど。仲間には優しく。気に入った相手には、寛大な女性だと」うっすら笑みを称えたレイラ。軽く睨み付けつつも。あながち間違っていないな……、内心苦笑していた。素知らぬ風を装うレイラは。にこやかに微笑み。ほっそりした顔に。意味ありげなウインクを付け加える。実直な性格のフィルは直ぐに二人の気遣いに気が付いた。
「リルムさん……、レイラ……。あっ。ありがとうございます……」
少しだけ、フィルの顔に。柔らかな笑みが浮かぶ。ちらりリルムはレイラを見て、そう仕向けたクセにとは、さすがに敢えて言わず気を使う。
それは数年もの長き時を。フィル部隊の少女達だけが、壮絶なる苦痛を強いられてきたから……。1人の女による身勝手な行動は、きっと彼女達の心に。大いなる苦悩と苦悩。深くプライドを傷付けたに違いない……、彼女達のこと。ノンとエルマに調べさせていた。詳しく知ったのは、トーナメント後だった……、自分が……、何も知ろうとせずにいたこと。とても恥ずかしいことだとさえ感じた。彼女達は同じ女性として、尊敬できる強さを。トーナメントで示した。ならば同じ男を愛した者として、また同じ学園で学ぶ学生として、いずれ王妃となりその仲間となる者達。リルムは家長として、寛大になれるところは、寛大になってみせる。それこそが、
『私に。課せられた使命なのですから』
独占欲の強く。我の強いリルムにとって、壮絶な覚悟を強いる。大変な変化であった。
「リルム……、ここなら良いだろ?。そろそろ聞かせてくれないか……、貴女が、ただ帰郷したとは、思えない」
レイラは鋭い眼差しで、予測の感性からか。正しい質問をしてくる。
「やはり貴女は……、侮れないわね……」
しばし瞬時してると。フィルが顔を引き締め難敵に挑むような。顔を引き締めて姿勢を正した。思わず二人の気持ちが嬉しくなり。素直に話すことにした。
「……本当は、シンクが抱いた懸念だけなんだけど、少し私も心配になってね……」
まだ迷いはある。本当は何の懸念も抱かず。愛しい人と、旅行に行きたかった……。だけどシンクは言った。
「父とオーラル伯父様が、大変な、それこそこの世界を滅ぼしかねない何かを隠してます……」
━━時は、トーナメント戦、終了間際に戻る。
久しぶりに。愛しい人の隣を歩ける喜びと。幼なじみの優越感。誰の視線も気にならず。嫉妬の情念すら。心地よく感じてしまうほど。心が踊る。
「リルムちゃん……その、当たってるよ……」
ささやかな膨らみをわざと、抱き締める腕に押し付けていた。シンクは意識してか、真っ赤である。情けない顔のヒナエに見せつけるように。シンクにしなだれ掛かるや。今にも卒倒しそな顔をしていたし、クルミなんか泣き出しそうだ。
『良いきみだわ……、私だってデートしたかったのに……。シンクを独占してたんだから~。此くらいはね♪』
レイラは苦笑して、肩を竦めていた。
「シン!、私が勝ったら、私と結婚なさい」
「リルムちゃん、僕が勝ったら、僕の妻になりなよ」
いつもの掛け合いも。何だか懐かしい気持ちで、切なくなっていた。
「リルムちゃん……、まだ解らないけど、ピアンザさんと。父さんの様子……、なんだか可笑しくなかったかな?」
唐突な問いに。リルムは幸せ気分に水を挿され、楽しい気分が沈んでしまう。小さく吐息を吐いたが、自分を信用してくれるから。なんの遠慮もなく。リルムにだけは疑問を、話してくれるのだ。
「シン……、それはどういう意味かしら?」
訝しげな顔をする。大切な幼なじみのために。シンクは自分の気付いた。疑問を次々に挙げた。
「本当は迷いがあったんだけど、どうしても疑問が消えなくてね。リルムちゃん知ってるよね?、父が……世界議会で挙げた。疑似神の討伐参戦のことなんだけど……」
「ああ~あれね?」
確かに驚きはしたが、軍国の情勢を知ってるだけに。仕方ない側面である。
「確かに性急な気がしたのは確かだわ。でも……」
「そうだねローレンが、危機にあるのは、分かるよ……、でもそれは今に始まった事ではないよね?」
「それは……」
シンクに言われて、リルムもハッとした。確かに中央大陸の懸念。魔人王が倒されたから……、
そう……口を開き掛け……、ハタリと本当にそうかしら……?、
疑問を抱いてしまった。確かに……父には珍しく。賛同していた。
「一番の問題は、なぜ来春にしたのかが、僕はずっと疑問だったんだ……」
シンクの言う通り、あの父がだ……、今思えば、伯父様もことを急いてる気がしてきた。リルムの表情の変化で、彼女も疑念を抱いたと分かり。やはり自分の思い違いではないのだと。表情を引き締めた。
━━今までの父ならば……、例え伯父様を信用しようと。万全を期して。さらなる安全策を講じる。慎重な方……。それ故。世界の敵になったのだから……。平和になって。オーラル伯父様のとりなしもあったとはいえ。父の誠実な性格を知って、報復戦争は起きなかった。その父が、自ら先頭に立つように。アレイク王国、ファレイナ公国、更にはプロキシスを動かしたと聞いていた……。
段々魂が、冷たい何かに掴まれたような恐怖を覚えた。
「いくら何でも……、用意周到過ぎる気がしたんだ。あの狂気の双子や、大賢者オール・セラの遺産。ここまでは━━疑似神に備えてのことだとは思ったよ……、しかしブライアンの婚姻は違う。僕と1つしか変わらない年齢だ、何故今……急ぎ婚姻を結ぶ?」
「それは……たまたまでは?」
「違うよリルムちゃん、ブライアンから聞いたら。父のために婚姻を急いだと……」
「あのブライアンが……」
リルムにもある考えが浮かんだ。それは……、しかしあながち間違いではない気がした。これではまるで……、父と伯父様の二人が、あまり時間がないと考えてるのではないのか?と……。リルムの表情を読んで、
「僕が、魔人王を討ち取った直後。本当は……このまま国元に。戻されると思ったんだ……」
シンクの呟きで、ガツンと頭部を殴られたような強い衝撃のあまり。ひめいのような息を飲んでいた。そうだ……忘れてはいけないのだ。今のシンクは、若き英雄と呼ばれる存在なのだ。オーラル伯父様が、出生した国とはいえ……、何故まだ学生なのか?、段々と血の気がひいてきた。
「二人は、疑似神など。問題にならない何かと戦っている。いや備えていると。僕は考えてる」
ゴクリ……、知らず知らず。唾を飲み込み。じっとり手汗をかいた手を。ハンカチで拭いながら。ある決意を固めた。
「シンク……ごめんなさい。冬休みの旅行。私は一緒に行けなくなったわ、フフフ私にしか、そんな重大な話をしなかった理由━━。私を信じてくれてなのねシンク?」
リルムの指摘に。カーッと顔を真っ赤にして、思わず右手で顔を隠す仕草をした。恥ずかしい時必ずやる昔からの癖だ。
トクトク……、シンクが信じてくれるなら。私はシンクの為に。どんな試練をも乗り越えてみせる!。
「シン!。心配しないで、貴方は冬休みを楽しんでね♪」可愛らしく笑った瞬間。突然シンクがリルムの手を引っ張って、リルムはアッと思ったが、バランスを崩し。シンクの胸に飛び込む形になった。
━━こんな強引なこと。今までしたことないのに……、羞恥と嬉しさ。複雑な気持ちが、喜びとなっていた。ただ一心にシンクを見詰めた……、
「シン……」
赤く潤む瞳を。愛しそうに見つめられ。甘く囁くように……。
「リルム……、無理はするなよ。な?」
心配されてしまい。胸がキュンキュンするのが止まらない━━。
「……はい……」
だから……素直に返事をしていた。もしもエルマが見てたら。きっと驚いたわねクスリ。何だか今なら1人ででも、疑似神。魔人王何でも倒せそうだ。「じゃ~、約束だよリルム」
呼び捨てで呼ばれの……、初めてだから。どぎまぎして、俯き加減にシンクを伺うと。クスクス悪戯ぽく笑うから。ムッとしたのもつかの間。シンクの胸に。えいやって抱き着き耳を当てながら、
「うん……」
幸せを噛み締めていた。
━━先日のこと……。思い出すだけで、顔が赤くなりにやけそうになる。
「リルム……それは一体?」
レイラの予測を持ってしても。予想外な答えに。ただ戸惑っていた。
「六将の1人。ミュア・サリアンに会います」
強い決意を持って、父の娼姫と。密かに呼ばれている。暗殺者に会うのは、正直気が引ける。なれど美しい側面ばかり見るのは、卑怯者のする事である。敢えて、火中の栗を拾ってみせる。同じ覚悟をしてるレイラならば、わかってくれる気がした……、
━━リルムが、固い決意を固めた頃……、西大陸の南東。禁忌の地域と呼ばれる。四体の強力な魔神が支配する地域。程近い。元商人の国セロン。街を名義上支配してるのは、魔王ピアンザだが、今も昔も力を持つものは商人達である。ひっそりと財を抱え。狡猾に耳を立て、金儲けの力を持つ者、最たる者こそ……、西大陸の経済を統べる者と影口を叩かれる。ローレイ商会である。
━━商会長は、繊細な顔立ちのハーレス・ローレイが勤め。実弟はハーミュア・ローレイ財務大臣。内政のトップであり。魔王の六将が身内にいるため。強い権力があるのだと妬むように。貴族から噂されるのも仕方ないことではある……。
元々セロンの財政を担うほど。ローレイ商会の財は世界有数で、また顔も広く。その手は世界中に張り巡らされるとまで言われている。そのため西大陸では、ローレイ商会に多額の金額で、商人の身分を買う。そうしなければ、店を営むのも難しいのが現状である。
━━ゆっくり豪奢なベッドから。滑らかな絹のような肌足を出して、ハーレスの体重を受けても。分厚い暖をとれる。幻獣の毛皮で作られた絨毯に素足で降り、光沢も美しい髪を後ろに流しながら。女性と間違われるほど、繊細な顔立ち。今年で四十を優に越えた中年とは、とても思えない若々しい。顔をしており、朝が苦手なのか、顔をしかめていた男。ハーレスはこの15年。表舞台に立つことは滅多にない理由である。
屋敷内は、冬の外気が入らぬよう。厚手のカーテンで閉め出され。昨夜の雨が影響か、庭のあっちこっち氷が張っており、滑りやすいようだと。チラリ一瞥した家主は、それを別段嫌った訳ではないのだが、ただ表に出る必要がない。それだけの話しであった。ただその行為が逆に。ハーレスの神秘性を増したのは確かである。またローレイ商会には、多くの闇が存在する。表向きは……、世界有数の商会なのだが……、
「魔王の愛娘が帰郷するか……、大人しく海中都市で、傀儡に成り果てれば良かった物を……」余計な真似をしてくれた……、あれは私達にとって大切な物だったのに……。まさか破壊されるとは、予定外での事態に。力の一部を失っていた。
「……このまま無事に。帰れると思わないで?」
女の声で、ゾッとするような。憎悪を込めた暗く冷たい眼差しで、暗雲立ち込める。空をカーテンの隙間から見ていた。
━━時間は少し戻る。
━━海中船の桟橋。沢山の倉庫が立ち並ぶ。倉庫と倉庫の間に。小さな通路があって、フードを目深に被る男が、ひっそり佇んでいた。ただひたすら静かにその時を待っていた……。よく見れば男は、魔導関係者を示す。赤茶けたローブを着ていて。僅に覗く隙間から。黒髪と。優しい目をした青年だと分かったろう。顔を上げたほんの一瞬……、陽光を浴びて、左の瞳に不思議な幾何学文字が浮かんでいた。男の視線の先は、桟橋に今到着した海中船に向けられて、優雅に降りて来た。美しい少女を認めるや。それはもう目を柔らかく細め愛しい眼差しである。男の見てる先では、まるで天上から舞い降りた女神。そう表現される少女リルム・アオザ・バルストアがいた。ニッコリ日溜まりのような。優しい笑みを浮かべ。フードを上げた彼の名をオール・セラ、大賢者と呼ばれし。聖アレイの弟子であった男である。
「こうして……、孫の姿が見れるなんて……、魔王に。感謝しなきゃねレシア」『セラ……シレーヌにそっくりね』
「そうだねレシア……」優しく触れる懐には、彼の愛すべき女性が……、白の書に封じられていた。しかし……、死者の神アレビスの骨から作られた。武具の力によって。封印の大部分は解かれたため。今ではセラと会話することが可能になっていた。
「ようやくだ……」
魔王ピアンザの執りなしで、オーラル王の助力を得られ。自分のもたらした情報から、報酬ではないが、二人が持っていた。アレビスの骨から作られた。呪われた武具をもらい受けた。二人には感謝しかない……、
「まさか最後の武具。マローダの物が、破壊されてたとは、おもわなかったが」オーラル王の情報で、華の国ダナイに残されたままになっていたと知ったマローダの武具が……。仕方ないとはいえ。……疑似神が、突如産まれ。あろうことか……、母なる女神アントンは、あらゆる物を食らった。父である魔人マローダすら。そして自分の半身として、マローダの作りし強力な力をもった。魔杖を修復して、自分の物としたのだ。不死に近い生命と。あらゆる物を食らって、子を成せる能力。無尽蔵に産み出せる能力は凄まじく。瞬く間に。華の国ダナイの地を。草木も残らぬ。荒れ地に変えたと聞く。いかに強大な力をもつ魔神であろうと。数で劣るセラ達では手が出せない状況だった。
見かねたオーラル王が、ある提案をしたのだ。自分たちではない。第四の勢力として、白の女王の傀儡に近付き。監視することを。白の女王の傀儡は、西大陸の混乱を求めた。代わりに四天と呼ばれるベテルローズ達は、魔人の武具を求めた。
『代わりに白の書を見つけたならば、手にいれて見せよう』
不遜に言いはなったハーレスを前に、ベテルローズは怒りを表さないよう。苦労したと言っていた。だから自分たちの仲間の1人が手にしていることを伝えたら。魔人の武具を2つベテルローズの前に出したのだ。白の女王の杖を使って……、
今ハーレスの手元に白の書の模倣品を渡してある。すると……、今度はベテルローズ達を使って、西大陸に。混沌を作り出すよう、申し付けられた。仕方なく……適度に。魔王軍と衝突して、緊張状態を作り出していた。結果ローレイ商会に。莫大な利益をもたらせることになったが……。
━━南大陸、荒廃した。元華の国ダナイ。
疑似神の母であるアントンは、自分たちのテリトリーにあったあらゆる物を食らいつくしていた。そこで自分を産み落とした。父であるマローダを食らい。夫として新たに産み落とした。それには理由があった。強大な生命力。不老不死のアントンは、空気と水さえあれば、生きていくことが出来た。しかし食べ物が無いと子は作れないから。マローダを産み落とし。子を作らせる夫にしたのだ。アントンにはあらゆる機能が備わっていた。だから人間や動物と同じく。増えることも可能だったのだが……。個体の性能にばらつきが出るという問題もあり……、さらに生き物ゆえに食べ物をほっし。勝手に人間を襲い出したのだ。末端の疑似神は所詮働き蟻でしかない。……とはいえ。数も限られている。困ったことに自分で考える力が無いから。何も考えず。ただ人間の村や町を襲うのだ。そこで父であるマローダの知識から。死者の神の骨から作られた。強力な武具を使えば、疑似神達を支配することが出来ると分かり、ティアラとして作り替え自分の物とした。これでようやく……一国並みの統率力を備えた。疑似神の軍勢が、軍国ローレンを脅かし始めたのが、夏頃からで、セラ達魔神達では、どうにも出来ない状況だった。しかし……、焦る魔神達に助け船を出してくれたのが、オーラル王だった……。
「後少しだレシア……」
『セラ……』
そうなれば……、対の赤の書の封印も消える。
愛する女性と。自分の大切な兄。二人を救う事が出来れば……、セラは日が高くなり始めた空を見上げ、空虚に笑う。
━━ガタゴト多少揺れるが、街道は整備されており。敷石がひかれていた。その為比較的街道は走りやすくなっており。日が昇って間もなくの早朝。道も空いていた。ある程度スピードを出して走らせても問題はなく。贅を尽くされた豪奢な馬車が、黒光りする。見事に鍛え上げられた二頭並びの軍配が、馬体を誇らしげに胸を張り早足で街道を走る。周囲に12名の騎士が護衛に付いていて、先人を初老ながら。厳めしい顔つきの武人が率いてる。
━━馬車の中は、贅を尽くされていて、備え付けの座席一つ一つに。丹念になめした革が張られていた。また長く座っていても大丈夫なよう。最高級のクッションが使われていて、馬車の揺れもさほど身体に与える影響が無いのが有りがたく。様々なちょっとした部分が、使いやすいように。また寛げるような空間として、考えて造られていた。馬車なのだが……まるで休憩室のようだとレイラは感じた。材質の一つ一つが細部に至るまで。加工職人。おそらく名のある者が作り上げた。全てが一級品と。一目で分かる。精緻な作りであった。窓枠の縁にまで、薔薇のリレーフが彫られていたのには、目の肥えたフィルをおも驚かせた。また外観の豪奢さとは違い。室内は落ち着ける。シックな黒で統一されていて。外観は帝国の王である魔王ピアンザの威光を示すものだが、元来質素な生活を好み。色合いも鮮やかな色よりも。黒を好むからだと、レイラや皆に説明する。フィル他。初めての外国である。また王族と密に接する機会などそうはない。最初はリルムに対して、緊張していた少女達も。海中船での旅の間。リルムと打ち解け。友達とまではいかないが……、仲間意識を抱き。普通に話せる程度には、仲良くはなれたので、リルムにせがみ。見るものの解説を頼んでいた。
「リルムさん。この馬車もしかして……、魔王様も乗られてたりしますか?」
「ええ~。父は乗馬も得意ですが、臣下や護衛達の頼みで、高い魔法防御が幾重にも。掛けられたこの馬車に乗ることが多いんです……」
「もしかして、魔王様は、黒がお好きなんですか?」
馬車に乗ってから、急に多弁になったメグに。やや驚きながら。せがまれるまま説明すると。キラキラ目を輝かせる姿が、なんとも可愛らしい……。メグ・ファノア彼女は、学園有数の天才であり。可愛らしい風貌と魔法のセンスから、魔女っ子と密かに呼ばれていたりする。また教師達からは、コンテスター姉妹に代わる次代の逸材として、期待されてると聞く。、小柄で人見知りの強い性格ながら。新しい技術魔砲を得意にしていた。トーナメント、ランキング戦では魔砲の使用は禁じられているため、トーナメントでは、剣を使っていた。魔砲の破壊力は凄まじく。城の城壁すら崩すと聞くその為の処置だったが……、メグはテレグシアをグイッて脇に寄せ。ニコッて可愛らしい笑み。戸惑うリルムに迫る。隣に座ったフィルが仕方なさそうに説明する。
『実は……、メグは……、昔から英雄や武人の知られざる。偉人伝が大好きなの……、リルムさんに旅行に誘われた時から、浮かれていたのよ』
人見知りの激しいところはあるが、一度打ち解けると。素直な可愛らしい少女で、少し甘えん坊なところが、また憎めない。
「メグもしかして……。父の逸話とか、聞きたかったのかしら?」
にっこり魅力的な笑みで、聞かれてしまい。メグは真っ赤になるが、小動物のように何度も。素直に頷いていた。
「そうね……、まだ帝都まで時間があるようだし。構わないわ」
クスクス楽しそうに笑みを浮かべていた。リルムは内心……、同年代の少女達と時間を共有することが、こんなに楽しいとは知らなかったから。いつの間にか彼女達に心を開き始め。裏表ない優しい顔をするようになっていた。
「そうね……、貴女達は聞いたことあるかしら?。父が、私達の通うアレイ学園。歴代最強部隊に在籍してたことは……」
━━それは……、今から20年以上前の話になる。
オーラル伯父様が、当時アレイク王家に連なる貴族の卑劣な手段により。アレイ学園を退学になった年の冬のこと……、
正式にミザイナ部隊の一員となったケイタ・イナバは、それはもう……オーラル伯父様が、退学になったのは、自分のせいだと……。随分落ち込んでいた。
当時のミザイナ部隊の面々は、
ミザイナ・アルタイル筆頭に。(当時。三年連続剣の部優勝。在学中無敗。ミザイナ部隊隊長、現在ファレイナ公国女王)。
レイナ・フォルト、
(当時体術の天才と知られた彼女は、北大陸16部族をまとめあげ。魔王軍を幾度となく押し返した。レオール連合を作り上げ。初代国家元首となった傑物である。)
シルビア=カレン・ダレス、最年少で『院』に在籍したが、翌年ケイタ・イナバに記録を抜かれる。彼女本人よりも家名が有名だろう。アレイク王国の建国を担いし財政の一族。祖は聖アレイの弟子という逸材である。
後にケイタ・イナバの妻になった。
ピアンザ・カリア
当時弓の天才でしられ。苦学生ながら。先見性は郡を抜いていた。後に世界を席巻した。西大陸の魔王。
ケイタ・イナバ。
当時魔法の天才と呼ばれ。後に宮廷魔導師筆頭に若くして就任。アレイク王国で多大な功績を残した。中央大陸事件後。三賢者の1人と呼ばれ。現在はプロキシスの宮廷魔導師筆頭として、オーラル王の右腕として活躍している。
当時は、オーラル伯父様が受けた理不尽な事件。自分たちの不甲斐なさに。怒りに震えたと言う……。
「しかし……当時の父だけは違った」
『なあ~、みんなオーラルを。ミザイナの卒業旅行に連れてかないか?』
口下手な父だが、可能性が無いことは言わないと。当時からみんな知っていた。この話は以前ファレイナ公国を親善訪問した折に。ミザイナ女王様から。直接お言葉を賜った時。父には内緒だとこっそり教えてくれた話である。
『ピアンザとオーラルの間には、私達すら入り込めない。強い絆があった、二人は敵となろうとも友情だけは変わらなかった。私達はとても羨ましく思ったものよ』
ミザイナ様の凛とした横顔から、二人に絶大な信頼を寄せてると感じて。嬉しくなったものだ。
「当時の父は、親友のオーラル伯父様を。このまま埋もれさせたくない一心だったとおもうの、でもね……、今ならあれほどの偉人達が、集まってたことが驚きだけど、当時は、皆まだ学生の集まりでしかなかったわ……」
「もしかして……?」
メグは気付いたようだ。サラ・ローガンは気のない素振りをしてるが、静かに耳をそばたていたから、思わず微笑を滲ませていた。
「父が、見つけた方法があったの……。現在もミザイナ部隊の偉業は、誰も打ち破れないわ。それほど圧倒的だったのよね」
それからの活躍は、アレイ学園に通う学生ならば、一度は目にし先生が口にする。驚愕と羨望を持って実感するのだ。私達も目指したいと……。
歴代部隊獲得ポイント1位。
総合個人成績。ミザイナ部隊全員が、トップ5に入った上に。今もその記録は破られたことがない。
こんな逸話が残されている。ミザイナ部隊は別名━━殲滅部隊と呼ばれていた。それには理由があった。
「当時は、部隊演習て教科あって、『特待生』含めた。訓練は、今で言う個人ランキング戦、以前行われた傭兵戦を合わせたような。小隊毎のポイント争奪戦が、毎週末行われていたそうなの」しかし……ミザイナ部隊は、そんな授業を根底から覆した。あまりにもミザイナ部隊が、強すぎたためだった……。
だから……小隊戦なのに。ミザイナ部隊にはハンデが与えられたのだ。なんと1人で参加させられたのだそうだ……、
にもかかわらず。
ミザイナ、レイナ、ピアンザの三人は、卒業まで、一度として、敗北しなかったと言うから。ミザイナ部隊の凄まじさが分かる。
「本当は……、言ってはいけないんだけど。この話は、後に大きな事件に繋がってたの……」
まさかミザイナ部隊の伝説が、英雄王オーラルのためだったと知り。メグはとても驚いていた。「リルムさん……その。差し支えなければ、私……事件の話、聞きたいです!」頬を赤らめ。キラキラした目をする可愛らしい姿に。
「しょうがないわね~。その代わり他言無用にしてね?」
同じように。リルムの話にすっかり引き込まれていた。五人は揃って頷いていた。
「当時━━優秀な生徒には、ある特権が与えられていたのよ。それを語る前に。これだけは記憶の片隅に入れなさい。最近また再建され。名前を一新した。移動国クラウベリアのリバイアサン二世号、破壊される以前の船は、元華の国ダナイ将軍から、武勇で功績を残した。大将ネプチューンに与えられた巨大船があった。しかし数年後……、ネプチューンは、独立を宣言した。それで世界で唯一。移動する中立国として、存在していたのは知ってるわね?」
それは歴史の授業で、学んだから。知っていた。
「ねえ……リルム。今破壊されたと言ったわね?」
そう……、歴史書には、大嵐により座礁したと記されている。隠された物語が存在していた。
「ええ……そうよ。話に繋がりが無いように思えるでしょう?、でもこの2は、深い関わりがあるのよ。━━当時のミザイナ様や父達は、部隊全員分以上のポイントを稼いだわ。これによりミザイナ様が卒業する年。アレイク王の視察に全員が同行出来る栄誉が、与えられたのよ。オーラル伯父様までね♪」
メグがハッとした。彼女は気付いたようだ。そう……確かに皆。一度はポイント制度を読んだ筈である。
「そう……、優秀者は、1人だけ同行者を選べるわ。この場合は先生が選ばれるのが慣例よ。ただし五人全員が優秀者の場合。二人まで先生以外の同行者を選べるの」
「もしかして……あの事件に。ミザイナ様や皆さんが?」
静かにリルムは頷き語る。今で言う世界議会の前身が、数年に一度開かれる時期があった。各国の重鎮・学生達が、一同に会し集まり。様々な話し合いが設けられていた。王達の集い……。
「あの年は……、私の祖父であった。前魔王ヒザンや各国の重鎮達を。何を思ったか、今となっては分からないけど、聖帝サウザントの王が、襲ったのよ……」
見るからに。皆の顔色が、サッと変わっていた……。
「各国の王達は、表向き嵐による座礁としたけど。祖父ヒザンと懇意にあったネプチューン王が、立ち向かい、結果━━移動船ダナイは破壊されたの。しかも乗り込んでいた。各国の学生や重鎮の子息・息女達は、嵐の海で遭難した……」
ゴクリ息を飲んだラグは、もう素知らぬ風を装うことが出来ず身をのりだしていた。彼女も知られざる物語に。引き込まれたようだ。
「一部の人しか、知られてないけど。当時無名だったオーラル伯父様は、聖帝と聖騎士ナタクを相手に。ミザイナ様や父と連携して、退けたと言うわ。それから伯父様達は、遭難した人々を助け、一月も無人島で生き抜くことになるんだけど、助けた人の中に。現アレイク王妃ミレーヌ様もいたそうよ」
「まさか……ミレーヌ様が?」
もう誰も驚きを隠せないようだ。
「オーラル伯父様と、行動を一緒になさってたのが、ギル・ジータ王国のエバーソン王、王妃リジル様、ドヴィア騎士団長イブロ・レダ殿、妻セシル・レダさん、妹で現ラトワニア女王ナターシャ様、皆さんあの場にいたと……」
それからリルムは、無人島で起こった事件、突発的な病、それを父やオーラル伯父様達が、解決する様を。時にシリアスに、コミカルに語り。帝都に着いた時には、感嘆の吐息を誰もが吐いていた。
「リルム様……」
「どうしたのランバスタ?」
間もなく。城門の入り口に差し掛かる時だ。躊躇うように声が掛かる。
「それが……、姫様の帰郷を聞いた民が、集まってると……」
困惑したランバスタの様子に。相当な人出と分かる。こうした場合……、リルムは知っていた。
「構わないわ。私の馬を用意なさい」
「しかし……、何処に魔神がおるやもしれません」
「大丈夫よランバスタ。私は1人ではないわ。信頼出来る仲間がおります。私の護衛は、彼女達が勤めます。皆構わないわね?」惹き付けるような強い信頼を。意志の強そうな眼差しで、一同を見渡すと、力強く皆頷いてくれた。
━━城門を潜るリルムを中心に。左右をレイラ、フィルが堅め、少し散会してリルムの護衛に当たる少女達に、民はあんぐり口を開けて、呆け見ていた。
さらに三人を囲うように。メグ、サラ、テレグシア、ラグが、四隅に配置して周囲を注意深く見渡す。少し離れた後ろから。ランバスタ等護衛騎士が、追走する形で、城門をくぐり抜けた瞬間。どよめきが上がっていた。
「おい……みたか?」
「ああ……リルム様が、友人を伴って帰郷されたぞ!?」
驚きのざわめきが上がる。そもそもリルム様は、滅多に民に顔を出さない王女様だが、民の前に姿を現せば、皆に優しく接すると評判の姫君だ。ましてやいつもリルム様を守るように控えてる。男装の麗人エルマ嬢意外のお供を。連れることも希ならば、エルマ以外の女友達を連れて歩くのは、初めての出来事だけに。民は大層驚いていた。
『リルム様!、お帰りなさい』
『お帰りなさいませ姫様!』
大歓声があがる。リルムは悠然と民の声・援に。手を振って答えながら、ゆっくり城まで続く。並木通りを進んで行く。こうした民の声援には理由もあった。リルムのアレイ学園での評価は、広報より毎月発行している。帝国の町・村を紹介する書物があるのだが、リルムの近況をコラムで載せたところ。大人気となっていた。
━━リルム様の近況。
先の『学年戦争』優勝、個人ランキング優勝、トーナメント戦4位等。アレイ学園での活躍が、報じられており。流石は魔王様のご息女と。民にとって、大層自慢の姫様なのである。
改めてリルムが大国の姫様なのだと。妙な感心をしたレイラ、フィルは表情を引き締めていた。追従して周囲を見張るフィル部隊の四人は、緊張のあまり顔を強張らせていたが……、
エピローグ
リルム様が、無事に帝都に到着したことが、ピアンザ始め。クライム皇子様。王妃シレーヌ様に知らされ。クライムは姉に会えると素直に喜びを露にしたのが、何とも微笑ましい限りである。「陛下……、リルム様は、ご学友を連れてきてるようで……、しかもいずれもかなりの使い手と、ランバスタ閣下が息巻いた。報せが入っております」
赤毛の青年は、深く一礼した。
「そうか……、時にリーロンわざわざそなたが報告に来るとは済まぬな。それにしても……わざわざお前がその程度の報告に来るとは?、他に人員はいなかったのか?」
六将の1人。ランバスタ将軍の右腕で、副官のリーロン・カレス。彼も若くして六将になった。勇猛な武人である。自ら伝令兵を勤めなくとも良い立場の筈だと思い。思わず聞いた。その瞬間何故かリーロンは、渋面を作り。困った顔をして、深々と溜め息を吐いていた。
「陛下……、失礼ながら、姫様が帰郷なさること、ランバスタ将軍以外。誰も聞かされておらず。またそれを知ったのが今朝のことゆえ。皆姫様を出迎えるため。大騒ぎですよ~、比較的手の好いてる僕に━━。お鉢が回ってきた。そんな理由です」
恨めしげに睨まれ。さすがに狼狽えた。
「うっ……、俺は言わなかったか?」
チラリ妻を見ると。 コクリ頷かれてしまう。右隣のクライム等は、申し訳なさそうにしながらも。リーロンに同意されてしまった。
「魔王様、このような大事。なるべく当日知るのは、控えて頂けると。我々の仕事も減ります」
キッパリ言われてしっては。ただ苦笑滲ませるという。父には大変珍しい現場を。目撃したクライム皇子様は、とても驚いていたと。しばらく使用人達が噂するのだが……、
この事がきっかけで、本人としては、不本意な出来事になるのだが……、それはまだ先の話である。
だがこの時。ピアンザは思った。面と向かって、苦言をえる臣下など、そうはいないと……。いたく感心したのだが、苦言を申し立てた本人は、この時のことすっかり忘れていたと言うから。後の世で武将としての手腕よりも。忌憚無い意見を言える家臣リーロンと。クライム王の治世では、全幅の信頼を受けるが、まだまだ先のはなしである。━━現在の帝国は、魔王ピアンザ陛下の鋭い内省力と、細部に渡る根回しにより。政権は磐石である。また陛下の慎重な性格と相手を思わん態度は、重鎮、武将、貴族問わず好評だが……、たまにこうした自己完結してしまい。大ポカをするから。臣下としては日々油断出来ず。毎日がドキドキの連続で、翻弄されることもしばしば、まだまだ魔王ピアンザの力は、広く求心力を保っていた。 「それより陛下……、ダレーク殿から密書が届いたと暗殺ギルドから。報せが入っております」
リーロンの本命はそちらであったか、苦笑したが、ピアンザが先を促すとリーロンは、黒塗りの封筒を取りだし。ピアンザに手渡した。
中には一通の手紙が入っており。短い文明で。
″竜の皇子、騒動の渦中にあり、我監視する″
書いてあり。思わず苦笑していた。
「シンクの護衛をダレークに任せてたか……、我が娘ながら如才ないな」
嬉しい反面。娘の才に驚きを隠せない。だからこそ……。娘を狙った白の民の反意が、許せなかった。また白の女王と白の民が手を組む自体を恐れていたが……、




