少尉ですが何か?
オーラルがついに軍人となった。しかし苦労人はやっぱり苦労する。色々と訳ありな仲間達に囲まれ。ケレル殿下の思惑に翻弄されて行く━━。
プロローグ
━━━聖アレイク王国の東にある広大な土地は、
かつて、王家に連なる名家、エトワールが家が、長年所領していた広大な土地である。
現在━━━。
カレイラ師団の所領となっている。
カレイラ・バレス准将とは、『オールラウンダー』の称号を持つ、次期国王ケレル皇子の右腕である。
しかしカレイラにも悩みは尽きない……、
師団は設立して、日が浅い……、いまだ兵は少なく。多くは戦士養成学校の卒業生が、主だったカレイラ師団の登用予定兵士である。
━━聖アレイク王国には、建国当初より国防の要たる三つの師団が存在していた。ガイロン師団、王家を守るため発足した近衛連隊、人々に癒しと生活を守る目的で、アレイ教団が設立したフロスト騎士団に比べ、
経験不足の兵が多く。有能な人物不足、さらに人員不足は深刻だ。ケレル殿下も気にしていた。そんな矢先━━。
戦士養成学校の有用性を示す事件が起こる。
妹姫を狙った。誘拐テロを未然に防いだことで、戦士養成学校の有用生を示せた。それにより国内外に広く名を上げたカレイラ准将だが、あまりにも名が知られ過ぎたと、深い懸念があった……、『オールラウンダー』となった訓練生がいる。その事実を多大なる宣伝として使うことに決めた。それこそが……国内外の眼を、彼に向けさせる毎に成功していた。
━━報告書によれば、訓練生が増えていると言う━━喜ばしい報告があった。
とは言え。魔王の暗躍は憂慮すべき問題だ、
不穏な噂は、政治を遅滞させ。民に多大な不安を与える。そこでケイル殿下は、妹姫を救った人物。オーラルを調べるよう黒衣に命じた。詳しい家族構成をわざわざ調べた資料が届いた。殿下が眼を通せと言うことだろう……、
「なるほど……エドナ筆頭は、彼の為に動いてたのか……」
案外『オールラウンダー』の称号を与えるそのためだけに、カレイラすら手玉に取った。その事に気付き嬉しさと苦々しさに、微苦笑する。
そして……オーラルの家族。特に父について面白いことがわかった。
リブラ・ハウチューデン、孤児でありながら、土竜騎士となり、勲位を受けた逸材。
ララ・ハウチューデン=旧姓ララ・ローゼンは、あのエレーナ大司教の愛娘とまで言われた才女、
そんな2人の子。オーラルは、政治的な動きで、排斥されたが、
学園史上、最強ミザイナ部隊の副隊長を勤めていた実績がある。
あの部隊は実に興味深く。
西大陸の覇王。魔王ピアンザ、
北大陸、レオール連合宰相レイナ・フオルト嬢。
南大陸の大洞窟の入り口、ファレイナ公国大使、ミザイナ・アルタイルは、剣士としても有名である。
宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバ。最年少で筆頭になった、魔法工学の天才。
財務のトップ、シルビア=カレン・ダレス嬢。建国からアレイク王国を支えたダレス家の現当主、財務顧問就任は、歴代最年少でありケイタの妻で、三児の母。
自国、各国の要人、重鎮となった彼等は、揃ってオーラル・ハウチューデンを、信頼出来る人物と、口を揃えて言う……、
━━3ヶ月前。
カレイラ・バレスは、多忙な中……、第1分隊中隊長アロ・ジムスの元を訪ねていた。
アロ中隊長は、自分自身でもそう思っているが……。軍席にいること自体が場違いだと思っていた。
やや緊張を隠しきれず。カレイラ准将に敬礼をした。彼は若くして一軍の将となった。軍人の夢を大願した人物である。萎縮しないだけでも、アロ中隊長は、瞠目に値する。
「アロ中隊長、近日新人を、第1分隊に赴任させることになる」
わざわざ新人の兵就任に、カレイラ准将もの人物が来るだろうか?、思わず首を傾げた。そんなアロの様子を、満足気に見ていたことを。アロは知らない。
アロは元々ガイロン重騎士団の経理で燻ってた彼を。カレイラは直々に中隊長として、陸戦師団に引き抜いていた。
━━アロは軍人としては、まったく使えない人物である。体力は人並み以下。武器を扱う才能も、魔法を使う技術もない。虚弱な人物だが……、カレイラにも無い。鋭い先見の才がある。
頭も悪くないのに閑職にいたのは、彼の実力をきちんと理解しない。無能な上司のせいであった。
「これを見てもらおう」『オーラル・ハウチューデンに関する報告書』
「オーラル・ハウチューデン?、何処かで、聞いた覚えが………」
アロが、内容を読み終わるのを待つ。
「あっあの……、失礼を承知で尋ねます」
息を飲み。蒼白な顔をするアロは、迷いながら、まっすぐカレイラを見た。
「彼ほどの人材をなぜ、閑職にある。我が部隊に配属なのですか?」
思わずカレイラは、満足そうにうっすら笑み、
「気にせず忌憚ない、意見を言いたまえ」
カレイラにそう言われたが、しばし瞬順した……、顔を強張らせながらも、自分の意見を言える。軍人が何人いようか?、皆無と言ってよい。
「カレイラ准将の右腕として、側に置くべきだとおもいます」
カレイラがあまりに……優秀過ぎた、多大な弊害があるとすれば、何も決められない軍隊になるのは、困るものだ……、
「成る程。それも悪くない考えだ、が、それでは、この国を守れないぞ?」
それ故。カレイラに意見が言える人間は、何よりも得難い人材である。
そんなこと思われてるなど。露とも知らないアロは冷や汗を流す。カレイラは窓の外の広大な、所領を見ながら、
「確かに、有能だろう、おそらく……いや。間違いなく彼は『オールラウンダー』になりえる。だからこそ、彼には自由な立場が必要になります」チラリ、アロの様子を伺う、迷うようでいて、それでいて、何かに気付いた様子を見て、微笑を深めた。
「私は、彼の……」
アロの疑問は、カレイラを満足させるに十分な答えだった。やはり得難い人物である。
━━━━カレイラ師団所領から、南東、戦士養成学校はある。
オーラルは、戦士養成学校の卒業式に、出席していた。
次々と老教官ジタン・ロナベルが呼びに来て、1人また1人。校長のエドナ・カルメン・オードリーに直接。配属先を、口頭で知らされる。
━━オーラルとともにミレーヌ姫を助け出した第1師団の面々は、いずれオーラルの配下となることが、決まっていた。
━━数日前。いち早くカレイラ師団に入団した。第1師団のメンバーは、二月程の訓練が行われると聞く。
その為オーラルの就任地は最後であった。
「オーラル・ハウチューデン」
伝法な口調で、ロナベル老教官は、白髪の断髪を、ガシガシ掻きながら、にやり人の悪い笑み浮かべていた。
「はい」
まっすぐロナベル老教官を見つめ、深く一礼した、
「お世話になりました、」
いきなりの毎に慌てる老教官。
「なっ……ばっ、バカやろ」
ずすっと鼻を啜り、何処か照れ臭そうに、そっぽむく姿、教官らしいと小さく笑う。
「とっとと行くぜ!、俺は忙しいんだ、明日は、また使えない奴が、沢山くるからよ。まあ~お前だけは、認めるよ」
しんみりと、口内だけで呟いた、無論オーラルになど言ってやる気はさらさらない。
「オーラル・ハウチューデン入ります」
ロナベル老教官に、背中を叩かれながら、入室して背後を伺うと既に教官の姿はなかった。最後まで教官らしいと、小さく笑いながら入る。
「久しいわねオーラル君」
「はい、ご無沙汰してました、エドナ筆頭」
茶目っ気たっぷりに、オーラルが応じて片目を瞑る。これには参ったと、髪をかき揚げながら、豊かなバストを強調するドレス姿である。
「オーラル君、よくやったわね……」
クスリ艶然と微笑を浮かべ、辞令書が手渡された。
『オーラル・ハウチューデンを第1分隊所属。少尉とする。』
驚きを浮かべたオーラルに、小さく口元緩ませながら、
「おめでとうオーラル少尉」
エドナ理事長の優しい抱擁……、オーラルの胸中で、
「エドナ筆頭……、貴女の優しさ、俺は生涯忘れません」
誠心誠意の感謝を込めて、呟いた、
━━少尉の階級、それは新任の兵が受けるには、アレイ学園優秀者のみ、与えられる名誉階級である。まだ新しく実績も無い、戦士養成学校の卒業生は、そのほとんどが一兵卒、良くて曹長として、カレイラ師団に編入される。
先のテロ事件から、ミレーヌ王女を守った実績で、第1師団は、かなり優遇されたと言える。オーラルはカレイラ師団の儀礼課に寄り、制服一式を受け取り、一度帰宅した、
早速。早速。制服に着替え。准騎士を示す。校章を胸に付け、部屋を出ると……。
あの日━━以来……、
主のいない、父の部屋に入って、使われることがないベッドの上に。決意を込めて、古い赤手甲を置いた。
「父さん……、行ってきます」
これからオーラルは、兵舎で暮らす。あまり家に、戻ることは無いだろう……、
「せめてリーラとの約束は守りたいな。休暇が何時になるかそれ次第か……」
短い間だがリーラは、苦難を共にした仲間である。それにしっかりと約束させられたのだ、
一緒に休日を過ごし。うちに来て母にオーラルが土竜騎士として、活躍したこと話すと……
━━━カレイラ師団受け付け。入り口で、入隊手続きを行い、敷地に入ったのは、昼前だった……、
空を見上げ、疲れたように首元を緩めてから。改めて広大な領地を平眼して、嘆息した……、確かに受付で、広いとは聞いていたが……、
「ここまで何も無いとは…」
自分の甘さに、ぐったりしていた、かれこれ2シクレイ(二時間)歩いてるが、それらしい建物がまったくなかったのだ。
それもこれも2月前に……起こった伝染病のせいで、未だ軍馬は、優先的にフロスト騎士団に、回されている。
フロスト騎士団とは、主に国内の治安を守る目的でアレイ教団が設立した。大小の街に必ず駐屯所があるのも。主な任務にモンスターの討伐が含まれてるからだ。未だに小さな村、集落で、病に苦しむ人々はいる。無料の馬車をフロスト騎士団が運行しているためで。まだ新しいカレイラ師団には、貴重な馬はなかなか回って来ないのが現状である。
それよりも……、現在も続く海洋の嵐が長く続き、物流の滞りも問題である。その為本来ある。広大な所領のカレイラ師団内を走る。定期便も運休とのこと、各部隊の隊舎は、自分で探さないとならないようだ。ぐったりと近くの岩に座り、一休みすることにした。
どれくらいそうしてたか、
……ガラガラ………、
古い滑車を回すような音。此方に近付いてくるようだ……、遠目に見ていたら。どうやら驢馬が古い馬車を引いてるのか、ゆっくりこちらに向かって来るようだ。
━━1日前。
第1分隊長アロ・ジムスは、副隊長を勤める。女性仕官。クエナ・ガイロン中尉の問いに答えた。
「名は、オーラル・ハウチューデン階級は少尉、年齢26。明日より、我が、第1分隊所属となる。彼はクエナ君が、面倒を見ること」
形の良い眉を寄せて、
「えーと………、新人ですよね?」
「そうだ……」
やや不安な顔を覗かせる。小さく迷ってるクエナを勘違いしたアロが、追記した。
「彼は、最近カレイラ准将と同じく『オールラウンダー』の称号を得た人物で、戦士養成学校の卒業生である」あっと言うように、口を開いた、やはり訝しげに首を傾げる。
「まあ~そうだな、カレイラ准将直々の命令なんだ、遅くても半年後。早ければ2ヶ月後に更に49名が、養成学校から編入される新兵が、第1分隊所属と決まってる」
もはや驚きは隠せないクエナに、やはり勘違いしていたアロは、
「要するに。カレイラ准将は彼に経験を積ませ、第1分隊をオーラル分隊とする考えなのだろう」と、余計なことまで言う、アロの悪い癖である。
「………」
幾分、険のある眼差しのクエナに、やれやれと首を振る。それが自分の余計な一言であると、爪の先ほど思ってないアロである。
「問題が起こらなければ良いが……」アロ中隊長が、閑職に追いやられてた最大の理由は……。
驢馬が轢く馬車は、オーラルの前で止まった。
「貴様!。そんなとこで何をしている?」
女性仕官?、やや驚きながらも、素早く立ち上がり敬礼した、やや鼻白みつつ、
「私はクエナ・ガイロンだ、貴様の名前と所属部隊、階級は?」
じろじろ無遠慮な眼差しで見られた、
「オーラル・ハウチューデン少尉、第1分隊に、今日から所属です」
これには虚を突かれたように、驚きを隠せずにいたが、
「貴様……、こんな時間に。まだ隊と合流してないのか……」
冷たい、怒気を孕む眼差しを受けたが、オーラルは肩をすくめ、
「申し訳ありません、クエナ中尉、その通りですが、正式には、明日から、部隊編入になりますので、今日中に、就任報告すれば良いと言われております」
忌憚ない、非の打ち所ない返答に、怒りを忘れ、戸惑ったような顔をする。
「えーとオーラル少尉……、そうなのか?」
一瞬、気弱そうな、不安そうな顔をしたので、第一印象が、印象だけに、ギャップの落差に、戸惑い、迷ったが、辞令書をクエナ中尉に見せた。
みるみる顔を真っ赤にして、オロオロ挙動不審に……、
「すっ、すまん!」
平謝りするクエナは、同じ第1分隊のオーラルの上司になるらしい……。ガイロン?
「その……中隊長から、今日来るとしか聞いていなかたのだが……」いつまで待っても来ないので、心配になり、カレイラ師団頓所受付で、聞くことにした、すると昼前に、受け付けを終えてると言う。何処かで迷ってるのでは?、探し回ってくれたのだろう……、
最初が、最初だっけに、厳しい人かと思えば……、
「第1分隊は、まだ人数もいない、そっ、そのまともそうな人間が、我が隊に入ると聞いて……」ん?、まともそうな人間?、気になる箇所はあるが、面倒見の良い。優しい人物のようだ。
とりあえずクエナから、驢馬の御者を替わり、第1分隊、隊舎に着いたのは程なく。
真新しい建物には、まるで人の気配が無く。閑散としたイメージが湧いた。「貴様を入れて、我が、第1分隊は6名だけだ、いずれ貴様の仲間が、合流すると聞く、現状。隊舎に住むのは私と貴様だけだ」
何となく、寂しげな表情をする、少し迷いつつ真剣な顔をして。
「いっ、いずれ、部下が増えるのだが、そっその……貴様は、料理出来るのか?」
真っ赤になりながら、切実な顔をした、ふっと気付いた、オーラルより年下の女性にしては、肌荒れが…疲れた表情、顔色、挙動不審……、
「得意ですよ料理は」
パーッと華やいだ笑み、小さくガッツポーズなど取る。
「えーと…」
それから不安そうな、期待するような眼差しに、「そう言えばお昼もまだでしたね。俺もお腹空きましたし。何か作りますか?」
「頼む!」二つ返事で、今にも、抱き付いて来そうな勢いである。
とりあえず。食料庫の中を調べた。
━━中には、腐りかけの屑僅野菜、上等のチーズ、ベーコン、カビたパン、発酵し過ぎたすえた臭いの塩漬け魚、パスタ、小麦粉だけ、
萎びた林檎、豊富なワイン、
「これは一体?、どういう事だ」
閑職らしい分隊だが、食料が少なすぎる。物流不足が理由か?、
何故か、大量の砂糖が袋も開けられず、山積みに……、確か砂糖は高騰してるはず……、
「成る程……」
これらの食材を全部出して、屑野菜の、食べれる部分だけ集める。その間。発酵し過ぎた魚の塩抜きをしてるが、あれは明日の夕飯に使うとして……、
パスタを茹でる。横で、
野菜とベーコンを炒め、ゆで汁を加えたら、チーズをふんだんに入れて、とろみをつける。
塩胡椒で味付けをした。萎びた林檎を、カルバトス=林檎の蒸留酒と大量の砂糖で、煮付けてる間。パイ生地を作る。バターや卵が無いから、歯触りは悪くなるが、アップルパイをオーブンで焼く。
茹であがったパスタを、ソースに絡め、大皿に盛り付け、テーブルに置いた。
余ったジャガイモの皮の芽を丁寧に取り、人参の皮と、カビたパンとオーブンで素焼きにして、スープの具材にした。
カチャカチャ、モグモグ、出された山盛りのパスタ、鍋一杯のスープが綺麗に、クエナの胃袋に収まるまで、僅かな時間だ。流石に驚いたが、口直しに紅茶を入れて、砂糖を焦がしたキャラメルでコーティングした。
アップルパイを添えて出したが、それもあっと言う間に、食べていた。
「…フ~ウ、生き返る……」
満足そうに、至福の顔をするクエナ、思わず微笑して見てたが、さっきの大量の砂糖を思い出していた。
「クエナさん明日。買い出し。行きませんか?、食料ありませんから」
「うん♪そうだな、久しぶりに人間らしい食事をした、オーラル助かった」
満面の笑みのクエナに、疑問を問うことにした、
「それはそうと、他の分隊の人はどちらに?」
「うむ、中隊長殿は、街に住まいがあるから、夕方には帰られる。他のメンバーは……」ペチリ、テーブルの下から手が伸びていた。アップルパイをかすめ取る前に。クエナが叩いた音。
「むむむ………痛い」
女の子の声が、テーブルの下から、
「やあ~新人」
ちっちゃな女の子が、分厚い本を広げたまま、手だけ動かして、挨拶らしくピコピコ動かした、
「やっぱりエル・フィアン少尉!。いつの間に」
………えっ?、呆気にとられるオーラルは、ちっちゃな女の子が、自分と同じ少尉であることに驚愕する。どう見ても子供である。
「うむクエナ、久しぶりだな~、壊滅的料理オンチのクエナしか住んでない、恐怖の館から、得も言われぬ。旨そうな香りがして、3日3晩本を読みながら歩いてた私には、毒を喰らう覚悟であった」なんて言うか……遭難してたのかな?、臭いに誘われ、久しぶりに隊舎に着いたとか?
「うむうむ、その通りなのさ~、あははは~」
口にしてないが?、もしかして、俺の心を読んでるのか、確かそう言う力の女の子が、宮廷魔導師にいると言ってたな……。
しばらく色々考えて、試しに。
`アップルパイはまだある。紅茶を入れるから、ちゃんと椅子に座りなさい´
意識だけをわざと飛ばしてエルに読ませてみる。
「うお……。わっ解った」
驚ろいたエルだったが、大人しく従う。オーラルは彼女の分の紅茶を入れて、大きめに切ったアップルパイ2切れ添えて、10歳位にしか見えないエルの前に置いた。パッと目を輝かせ、早速一口。足をバタバタさせた。
「これは……、ブルーの店で食べたケーキに匹敵する」
思わず唸るエル。傍らに置いた本が、オーラルの目に入る。古代の原語の珍しい本だ……。
`その本、古代の民、光の民の本だよね?´
「うむ……よく知ってるな」
`前に、光の民と知り合いになってね´
ガタリ、驚愕するエルは、興奮気味で、
「本当なのか?」
`ああ~真実だよ´
「ちょっと!オーラル少尉、2人で何の話をしている」
のけ者にされた不快感から、騒ぐクエナを、ニヤニヤ意地悪くエルが笑うと、今度はオーラルを睨んで来たが、
「洗い物しちゃいますね~」わざと逃げた、
`クエナには悪いけど、流石にこれでは心配で、洗い物もさせれないな~´
何と無くオーラルの言わんとすることを読み取り。
「プッ………」
吹き出した、キッと睨まれ。目を泳がせたが、胸を張りわざと笑い声を上げて。
「あははは~、内緒だ、さて私は魔導師ギルドに戻る。また明日これたら来る」
すたすた小気味よく手を上げ、さっき自分で、迷ってたと言ってたのに。エルは逃げた。
「内緒です」
睨むクエナを残して、早速洗い物を終わらてせ。憮然とするクエナの案内で、仕官用の部屋が与えられたので、
早々に休むことにした。
━━早朝。
毎週末市のたつ中央公園。日も登らぬ朝。クエナを叩き起こしてから、馬車に押し込むと。まだ眠そうなクエナを御者台に座らせた。オーラルは倉庫に山積みされた余分な砂糖から、幾つか馬車に乗せて。馬車を走らせた。
━━クエナから第1分隊の財布は、アロ中隊長が握ってると聞いてはいた……、あんまり分隊に金が無いことも含め。オーラルは仮説を立てた。
現在カレイラ師団……、多分だが……、主だった師団は、食料難に陥ってるのではないか?と。それを確かめるためにも情報が必要である。
今日は日も登らぬ朝から、第1分隊の隊舎の部屋を調べ廻ると、真新しい隊舎をの見た目と違い……、必要な備品が、ほとんど用意されていなかったことで、予想があっていたと言えた。
これでは軍とは名ばかりのお粗末な状況である。小さく嘆息を漏らし。御者台に乗ったオーラルを、ようやく目が覚めてきたクエナが、
「オーラル金は……」
不安そうに。それでいて切実な問題を口にした。
「必要ありません」
バッサリ言って退けられ。目をぱちくり、そばかすの見受けられる顔を思案げに、眉を寄せた。
「そっ、そうなのか?」戸惑うクエナを乗せ、オーラルは驢を歩くよう促せば、馬車はゆっくり進み出した。
━━頓所入り口で、買い出しに出ることを記入。まだ来ていない。アロ中隊長に、伝言も頼む。あまりに広大なカレイラ師団駐屯地では、王都から通う者の為。駐屯地入り口で、仕官は、時間と名を、記名する義務があった。
「成る程……その手があったか」
しみじみ実感のこもったクエナの呟きが、苦労を物語る。
━━驢馬車は、ゆっくりと商家の並ぶ東の大通りに向かう━━、
オーラルはクエナに断りを入れてから。市場に行く前に馴染みの商家に寄っていた。馬車に気が付き顔を出した番頭が、オーラルに気が付笑顔で、出迎えた。
「久しぶりだなオーラル」
「おお~、オーラルじゃないか」
「ご無沙汰してます」
顔馴染みの人足頭に声を掛けて、商人を呼んで貰えるよう、話を通してもらう。程なく━━。
「おお良く来たなオーラル君。何でも無駄な砂糖を売りたいそうだが?」学生時代は、人足のバイトで、大変お世話になって、先日のターミナルの件でも。儲け度外視で国中を回ってくれたと聞いている。気心も知れていたし。だから隠さず事情を話した。
「配属された部隊が、まだ新しくて、食料配給が、砂糖しか届いて無いんだ……、仕方なく、買いとってもらい、その代金で、食料を買うことにしてね。一応上司同伴で来ました」
「よっ、よろしく頼む」
自分にお鉢が回って来るとは思わず。しどろもどろで声が上擦った。
「てな訳で、何時もお世話になってる。貴方ならばとまいりました」
片目を瞑り。一部嘘を混ぜる。そこは情報通の商人、オーラルの嘘に気付いたが、あえて了承してから荷を見て。
「ほうほう。オーラルの頼みだ良かろう」
満面の笑みで、商人と値段交渉に入る。
やはりと言うべきか、砂糖はかなり高騰していた。相場の情報を商人から引き出して、情報料代わりに1割安く売ると申し入れる。その代わりオーラルが欲しい情報を急ぎ調べてくれるよう耳打ちしていた。商人の信用を得る方法は幾つかあるが、相手に旨味と此方に実益をちらつかせる事だ。商人はいたく喜んだ。
「主人。隊舎には倍の砂糖がある。それも頼めるかな?」
たっぷりと脂肪を貯めた商人は、満面の笑みで了承する。
━━砂糖を売った代金の一部で、商人の扱う小麦、油、乾燥果物も樽買いして、明日にでも、砂糖の買い取りのついでに、届けて貰う約束をする。
「おそらく……、大きな商いになりますよ」意味ありげな顔のオーラルに、たるんだ頬を弛ませ。
「わしが自ら届けよう」
満面の笑みの商人と別れた。
それから中央公園の朝市に顔を出して、塩漬けの魚、新鮮な野菜、肉等、ランタン、それに使う油、鍋、金槌と釘、必要な備品まで、沢山購入したが、ズシリと財布は重い━━。
さらに一通り買い物を済ませてから2人は、驢馬と馬車を、馬屋に預け、近くの店に入る。
「オーラル……貴様は、色々なことを知ってるな」
やたら感心するクエナに、苦笑しながら、定食を待つ間。簡単に現在の国内事情と交易が滞るとどうなるか、我が軍について、簡単にレクチャーすることした。
「クエナさん、先の病の蔓延もですが、海上での交易が、規制されたのは知ってますね?」
「うむ。沢山亡くなった……」
「聖アレイク王国は、塩や海産物が豊富で安く、売られてます。塩漬けにしたり、または塩、魚醤が豊富に作られてます。一方で元々、高価な砂糖等は、南大陸から、船舶での交易に頼ってました、それが先の嵐から、天候不良で、船の入港が減ってます」
最近は土竜馬車で、多少交易されてるが、土竜馬車では、一度に運べる量は限られていた。
それで高騰してるのだ、逆に南大陸の国々では、塩不足に苦しんでると聞く。
確かに、南大陸も海はあるが、海岸線は岩壁が多く、塩作りに向かない土地柄だ、僅かだが作ってるとも聞くが……、全ての国々、その国の民に、必要な塩を提供するには足りないのだ。
過去……アレイク王国では、豊富な財で、大量に色々な物が、買われた経歴がある。
「あの砂糖は、15年前に買われた物ですね」
「15年……、だっ大丈夫なのか?」
「はい、味を確かめましたが、品質は変わってないく、最高級の砂糖でしたよ」
それから捕捉として、砂糖が腐らないと説明すると。不安そうな顔が、毒気を抜かれたような顔をしてた。はっとクエナの顔が輝いた。
「これは使える!、使えるかもしれんな!」
急に立ち上がり、鼻息荒く息巻くクエナ。
「続きは、ご飯食べてからにしましょうね」
たしなめられてしまい、シュンと落ち込む起伏の激しいクエナであった。
日がだいぶ高くなる前に、隊舎に戻ると、アロ・ジムス中隊長が待っていた。傍らに見覚えのある。女性が……あれは?、
「初めましてオーラル・ハウチューデン少尉、中隊長アロ・ジムスだ」
気になったが、着任の挨拶を先に済ませた。
「オーラル・ハウチューデン昨日より、お世話になっております」
「早速買い出しかい?、費用はどうしたのかな」
経理など細かい出費も、経済的に厳しいカレイラ師団では、日々節制してると聞いていた。クエナが事情を話すと、表情が一変。興味深そうに唸る。
「なるほど……それはそれは……」
キランと眼を光らせるアロ中隊長に、当面必要な金銭を引いた、余りを渡す。
「明日その商人と話したいが、可能かね?」
「はいそのつもりで話は、通してありますから」「なるほどなるほど……」
満足そうに指を鳴らしながら、買った品の検品を始めた。
傍らにいた、手持ちぶさたの妙齢な女性は、文句らしきものを呟く。
「何で私が……」
不平不満?、
思わず苦笑しながら。
「ミラ先輩お久しぶりですね」
気付かないので、オーラルから声を掛けた、ジロリ不機嫌な顔で睨まれたが、ぱちくり考えるように眉を寄せた。
「……オーラル、ミラ少尉と知り合いか?」クエナの一言で、
「ああー!、ミザイナんとこのオーラルじゃんか」
大声が、木霊した。
相も変わらずのようだ。彼女ミラ・バウスタンは、アレイ学園最強の武道家と呼ばれていた。
毎年入学式に行われる武芸大会にて、体術部三連覇。あのレイナを子供扱いした凄まじい力量の拳士だった。
そもそも……体術のみでアレイ学園の『特待生』をしていた逸材である。ミザイナと一つ違いだが、気があったのか、2人は、よくつるんでいた。オーラルが、ミザイナと出会うきっかけを作り、オーラルがミザイナ部隊に入った理由を与えた人物である。
『ミラあんた!、本当に、卒業するのか』
希望すれば後二年、学園に残る事が許される『特待生』あんたみたく、重荷を背負って無いんだ。だ・か・ら・夢を追いかけるのさ~』
『ミラ……』
あの気丈なミザイナが、一度だけ見せた涙だった……、だからオーラルはミラの代わりに彼女の力になることにした。
━━━━。
「ああ~なるほど。道場潰れたんですね♪」
「てめえ………、いきなりご挨拶だな」
伝法な物言い、獣のような体躯、筋肉の付け方から。相当鍛えてるのが分かる。
が……、昔のような、恐怖を覚えない、昔は、血に飢えた獣、勝利に貪欲で、常に相手の隙を伺うような。誰も信用しない。探る目をしていた……、だから周りから疎まれ。嫌われて…。常に独りだったが……。それでもミラ先輩は、孤高の美しさに輝いていた……。
これでは……今のミラ先輩は、ただの飼い猫だ……、失望していた。怒りすら覚えた、だから……、
「弱くなりましたね先輩、残念です……」
わざと挑発する言葉を。ミラに投げ掛けた。
「テメー…」
ギリギリ……、機嫌の悪かったミラは乗っかる。
「上等だ、今からたたんでやる。裏にこいや!」
「ちょ、2人とも、たっ隊長」
殺気立つミラの後に続き、オーラルはほくそ笑む、
隊舎の裏は、鍛練場となっていて、使われた形跡は無い。
「オラオラオラ」
左右に身体を揺らしながら、オーラルが身構える前に、いきなり突っ込んで来て、懐に入るかと見せ掛けて、オーラルの死角に入り込み。左右からの連打。
あっさりかわされると見るや。素早くバックステップしてから、ミラはしゃがみこみ意表を突いた水面蹴り、上体だけで避けられた瞬間。ひょいと腕の力で蹴りがかわしたオーラルを追いかけながら伸びてきた。仕方なく後ろに飛んだオーラルに、
「よっと。へっ、今のはかわせるのか」
爪先がオーラルの前髪を揺らしていた。ミラひょいっとムーンサルトの要領で。素早く体制を整えた。
「すぅ~~はぁああああ!」
呼気を鋭く吐き出して、素早く溜めを作り。凄まじい勢いで、再びオーラルの懐に飛び込む。
ミラは素早く連続パンチ、上に気をとられた瞬間。膝蹴りが、腹部を狙ってくる。喰らえば、必殺の撃ち下ろしの肘が放たれていた……、ミラの必殺技『破砕』(はさい)である。
当たれば全て必殺であるパンチ、膝、肘の攻撃の全て、オーラルは紙一重でかわしていた。しかも体制を崩したミラに、前蹴りをまともに食らわせるおまけ付きで、予想外の破壊力に、ミラは防御したまま吹き飛んでいた。
「くっ……、なによこの破壊力は」
防御したにも関わらず。ダメージを受け、痛みに顔を歪ませたミラは、怒りを顕にしていた。
「ちっ、こんなまぐれ当たりで、勝った気になるなよオーラル!」
━━確かに、技の一つ一つのスピード、破壊力こそ学園にいた頃以上である。当たればオーラルとて、相当なダメージを受ける。
━━そう……当たればだ、ミラは確かに強い。ただそれだけで、怖くはない━━。
あの飛竜ワイバーンのような絶対的な恐怖も。ターミナルで戦った。はぐれワームのような、強靭な肉体もないミラは、所詮只の人でしかない、人ならば、癖や足の運び、呼吸の仕方。構えから次の動きが予測出来てしまう。
ミラは、それだけの強い武道家に、成り下がっていた。
それだけに……、
とても残念に思う、『ミザイナさんと対極にある才能』
ミラ先輩なら、必ずまだ強くなれると確信した。「先輩……残念です。やはり弱くなりましたね……」
地面に、這いつくばり、血の混じる唾を吐きながら、
「何でだよ……、嘘だろ……」何かにすがろうとするミラの心を砕くように。
「ミザイナ先輩は、今の俺よりも強い……、きっと哀しがりますよ」
残酷なトドメ、だが、ミラには必要だと感じていた。
「これが……カレイラ准将と同じ『オールラウンダー』の力?」
蒼白に身を震わせる。クエナの横を通る時。
「夕飯の支度します。泣き止んだら……、ミラ先輩も連れてきてくださいね」
優しく気遣う声音。驚くクエナに、苦笑滲ませ。お願いされた。
「わっ、わかった」
どぎまぎしたが寂しげな横顔の。オーラルを見送っていた。
既に買い出しの点検を終えたて、倉庫に綺麗にしまってくれたアロ中隊長は、食堂で何やら嬉々と書き出していた、青白い顔だから、余計━━不気味に映る。
材料を物色しながら、思念を送り出し。手早く、5人前の料理の準備を終える。
「エル来たぞ!、お前の心辿れたから迷わなかった」
ちびっこは元気である。
`お皿の用意頼めるか?´
「わかった♪」
素直に従うエル。食器棚から苦戦しながら、人数分のお皿を用意してくれた。優しい子なのだ。
「大丈夫だからね」
入れ替わるように。クエナが、ミラを気遣いながら食堂にやってきた。オーラルと目が合って、ヒクリ泣きそうな顔をしていた。
「うっ…だって……」
不安そうなミラを宥めながら、どうにかテーブルに座らせるクエナ。オーラルは小さく頷いて、
「さて、久しぶりの再会です。少し豪華にしました」
腫れぼったい顔のミラの前に、デッカイ鳥の丸焼きを置いた。
「これ……」
驚くミラに、片眼を瞑り、オーラルはさらに沢山の料理を並べ始めた。
━━━結局。アロ隊長は、最後まで何も口にせず。ぶつぶつ言いながら帰った、なんだろうあの人は?。
ようやく覇気が出てきたミラは、帰る直前、軽くオーラルの胸を叩き、
「強くなる。ミザイナより………」
ミラ先輩の目には、かつての━━野獣の眼差しが戻りつつあった。
「ミラ先輩なら大丈夫」小さく笑う、オーラルを、赤い顔しながら、
「だから……待ってろ」
それだけ言うと走り去っていた。
食堂に戻ったオーラルの耳に。少し迷うような声が聞こえた。
「エル泊まる。クエナいいか?」
不器用に尋ねていた。クエナは優しい顔をして。「構わないわ、貴女の部屋は用意してあるから」優しい口調で答える。そしていきなり抱き抱えられ。クエナの膝に座わらされたから。エルの顔に戸惑いが浮かんでいた。「女の子なんだから、髪くらいすかなきゃね♪」慣れた手つきで、エルの髪をすいてやる。
「ありがとう……クエナ」
いつの間に………、感心したオーラルは、よしっと腕捲りして、片付けを始めた。
その間も二人は、少しずつではあるが、何か話てる様子は、まるで久しぶりに会った姉に、恐々なつくようで、
紅茶を二人に入れて食堂に戻ると、すっかりエルなついていた。もともと甘えたい年頃のエルと、優しい性格なクエナ、波長が合ってたのだろうな……、
「ケイタとの約束。果たせるかな?」
笑みを浮かべ。囁くように呟いた。
━━エル・フィアンは……、実の両親に棄てられた━━。
理由は……、
その能力━━。
人の心を、見てしまう力を、両親は理解出来ず。気味悪がり、ケイタに相談した……、
━━ケイタは迷わず。エルを養女に迎えた……。
ケイタには実子の双子の姉妹がいた、不安に思ったエルを義母シルビアも優しく迎え入れてくれた。……すんなりと、二人の姉となったエルは、とても幸せな時間を過ごした……、
━━不幸だったのが……。非凡な才能を秘めていたこと。僅か6歳の少女は、片鱗を発揮してしまう……、魔法の天才ケイタの側にいたため能力が、開花するのが早くなってしまった……。ケイタは後悔と懺悔の言葉を呟き。オーラルにすがった……。
━━自分を助けてくれたオーラルならば……、
━━大切な娘も……。
エルはケイタの不安を他所に。アレイ学園を僅か一年で卒業してしまい。最年少で、宮廷魔導師に選ばれたまだ9歳の少女がだ……、
エルには人並みの友人関係を築く時間も。大人に甘えて良いのだと言う考えすら与えられず。同じ宮廷魔導師ですら、エルの能力を恐れた……、
━━エルは……人々の心の本音が聞こえた………、自分に向けられる沢山の悪意。不安で不安で……、1人で過ごす事が増えた━━、
━━エルは養女とは言え。双子の姉妹は、義姉エルになつき、ケイタは優しい父親であると聞いている。
エルは、幼いながら、両親や姉妹に、心配掛けたくないと考え……。
毎日毎日……広大な駐屯地を、たださ迷っていた━━。
オーラルは、静かに吐露する。苦労人は健在である。
━━急に休暇を与えられたのは、第1分隊に入隊して10日が過ぎた頃である。
なんでもアロ中隊長が、手柄をたてたと言うことで、第1分隊全員に。3日の休暇が与えられた。オーラルが、やたらアロ中隊長に感謝されたのは、以前の砂糖に関することで、多大な利益を、カレイラ師団にもたらしたらしい……、
何はともあれ、これで約束通り、リーラ侍祭を誘えるな。夕べ遅くまで、兵舎の片付けたをしていて、帰りが遅かったが、早朝の鍛練終えてから、週末行われる。朝のミサが終わる時間を見計らい、オーラルは大聖堂を訪れた、顔見知りの見習い(シスター)に、
「リーラ侍祭はいますか?」
……ざわざわ……、
何故か、沢山の視線を感じた。フロスト騎士見習いからも何故だ?、戸惑うオーラル、真っ赤な顔のリーラがすぐにやって来たが、やいのやいの何故か女の子達に囲まれる。風邪かな?。顔が赤い、笑い声がするから、違う気がするが……、戸惑うオーラルの肩が、不意に叩かれる。見ると、何故か、騎士見習いが、ガッツポーズをしていた、何がしたいんだ?、とりあえず頷いてやると、満足そうに去って行く、意味が解らん……。
「オーラル様、お待たせしました」
やや緊張するリーラは、やはり赤い顔をしていた、珍しく化粧が施されていて。印象が違う。
「とてもお似合いですよリーラ……」
素直な謝辞に、首筋まで真っ赤になるリーラは、大きさの合ってない眼鏡を直しつつ。
「あっ、ありがとうございますオーラル様……」
少し嬉しそうに笑っていた。でも好奇な目に晒され何となく足早になったリーラを連れだって、早速出かける毎にした。
「オーラル様どちらに行きますか?」緊張を隠せないリーラと並びながら、通称職人通りと呼ばれる。都の西側に向かってリーラの歩調に合わせてゆっくり歩くオーラルは、にこやかな眼差し向けて。
「それ」
と答えて悪戯ぽく笑っていた。
「えっと……それは?」戸惑う、リーラを連れて、2人は、職人通りと呼ばれる。小さな裏通りを歩いていた。
小さな通りと言っても。金物屋、鋳型屋、硝子細工、アクセサリーのお店、洋服の生地屋、皮を使った製品のお店、中古の武器屋まで、大小のお店が所狭しと乱雑に並んでいた。
露店まで含めると、数百近く店が、小さな通りにひしめぎあってるらしい。らしいと言うのは、姉の口癖だからだ。
ほどなく小間物屋の看板を見つけて。リーラと中に入る。
「今日は~オリバーさんいる?」
店の奥から、華やかな笑い声が聞こえて来た。姉と誰か来てるのだろうか?、
「おや。オーラル君、久しぶりだね~」
仕事場の作業台のある。店の奥から、ひょいと白い物が混じる。人の良さそうな店主が、顔を出していた。くすんだ前掛けで、真新しい光沢のある。銀細工を丹念な研く。前掛けの端が……、鞣した革で作られていて、簡単な研きが出来るよう作られていた。
小間物屋の主オリバーさんは、父の親友だった人で、
━━あの姉を雇ってくれる。優しい人だ。
「お久しぶりです。オリバーさん、母さんに聞きました。急な頼みなのに、もう出来てると聞いて……」やんわり優しい眼差しのオリバーさんは、傍らのリーラに気付き目尻を下げていた。
「彼女のサイズ合わせに、連れて来ました」
ああ納得したように、柔らかく微笑み眼差しをリーラに向けていた。
「君が、噂の聖女リーラ嬢ですね」
「えっ……、え━━━━!」
カーッと真っ赤になり、悲鳴を上げた。まるで……。
釣り上げられた魚のようだ。熱心なアレイ教信者から、聖女と呼ばれてるのは聞いてた、息も絶え絶えだった。
「そっそんな、わっわわ」
慌てるリーラを好意的な目を細め。
「あははは済まない、ララから聞いたのだが、有望な侍祭がいると誉めてたよ」
「そっそんな……ララさんが」何時の間に母と……、嬉しそうにはにかむ姿は、素朴な可愛らしい女の子である。リーラが落ち着いたの見はかり。
「ミリアさん、オーラル君が、取りに来ましたよ~」
店の奥に声を掛ける。
「はあ~い、うん、そう弟、え~~見たいとか、あんたも物好きだね」
パタパタ2人分の足音が、聞こえて来た。
「オーラル休みなんだって………」
夕べ遅く、帰ったから朝も姉と顔を会わせなかったからな~、帰ってたの母さんに聞いたのかな?、リーラに気付いた。
「リーラあれがうちの姉だよ」
「はっ、始めまして、リーラ・エスベリアです」
姉が驚いてたが、人好きする性格だから、にこやかに笑い。
「母さんから聞いてるわ。ミリアよ♪」緊張隠せないのか、赤い顔をしたリーラに。ミリアは優しく手を握る。
「ミリアさん………、そちら……が、ってまさかオーラルなのか?」
驚きの声には、聞き覚えがあった、思わず世間の狭さに。苦笑を滲ませた。
「クエナさん……」
今度は、姉が驚き友人の顔を見る。何故かリーラが不安そうな顔をして、睨まれた……何故?。
「ここで立ち話もなんだから、奥でお茶でも飲みながら、話してはどうかな」
オリバーさんに柔らく言われて、四人は顔を見合せると。お言葉に甘えることにした。
お店の奥には、オリバーさん。自慢の温室ラウンジがあって、季節に関係なく花を愛でながら、お茶を楽しめる。小さなスペースが作られている。常連は買い物より。お茶を楽しみに訪れると姉が自慢していた。
お店に何度かお邪魔していたが、ラウンジに入るのは初めてである。姉がお手製のクッキーを出してくれたので、礼を述べリーラは早速一口。
「美味しい……」
「でしょ♪、オーラルの友人に、ギル・ジータの王族がいてね。毎年蜂蜜が送られて来るから、ふんだんに使えるのよ」
「蜂蜜使ってるんだ♪……て、王族が友達って……」
クエナが目を白黒させたが、ミリアもオーラルも気にする話でもない。甘い物があれば、女の子3人。直ぐに打ち解ける。
「あっあのクエナさん……」
「ん?」
何故か………二人は小声で囁く。リーラは安堵の吐息をついてた。
「そうそうオーラル。これが頼まれてた眼鏡ね」小さなケースを、取り出しオーラルに渡した。
「ありがとう姉さん」
ケースを開けて、中の眼鏡をリーラに見せた、
「あっ……、」
驚くリーラ。ずり落ちてサイズが合ってない眼鏡をミリアが外し。
「着けてみてね。サイズ合ってないようなら、すぐ直すから」
「はっはい………」
おずおず……、オーラルから真新しい眼鏡を受け取り、恥ずかしそうに着ける。あつらえたようにピッタリ顔にフィットしていた。
「似合うよ。リーラ」
サラリと嬉しい言葉を言われ。とても嬉しそうな顔をして。
「あっ、ありがとうございます!、でもこんなに高価なの、本当に良いの……?」
妙に嬉しそうに微笑したが、フッと顔を曇らせ。心配そうな目をした。
向に座っていたミリアは、サイズの合ってない眼鏡を置いて、小さく笑う、
「心配しなくても大丈夫よ~」
オーラルに目配せして、リーラに種明かしをした。
「その眼鏡はね。元々マジックアイテムだったんだけど、オーラルが友人のケイタちゃんから、魔法の効果は無いけど、まだ使える眼鏡。廃棄する予定のをただでもらって来たの」
「それを姉さんと、オリバーさんに、直してもらえるよう頼んでたんだよ」「そう言う事なら……、ありがとうオーラル様……」
安堵の吐息と、真新しい眼鏡を着けた自分を、鏡で見ていたる。
「へぇ~似合うじゃないの、流石オリバーさんね♪」
感心する姉に。オーラルも同意した。
「見事な腕は、相変わらずだな」
クエナも訳知り顔である。
━━もっともケイタからの頼み事からすれば……、高価な眼鏡で済むなら安い物だ………、
━━エルは今頃、実家に帰ってるころか。
『へぇ~、元は魔法の眼鏡なのか』
シンプルな銀フレームの眼鏡だったが、オリバーさんに頼み、今風に直してもらったのだ。
『ケイタとは……もしや!、宮廷魔導師筆頭の……』
クエナの妙な感心が、漏れ聞こえてきた。何故小声なんだ?。
『あっ、エレーナ母様から、聞いた事があります。オーラル様とはご学友だったとか』
『おおー成る程、オーラルは、顔が広いからな』
やたら盛り上がる三人の会話。クエナが、先日の商人との経緯を話して聞かせれば、リーラは、オーラルと知り合った経緯、南大陸まで、伝染病の薬を運搬した話等を。聞かせていた。
『そう言えば、あの子ワイバーンも狩ったらしいわね』
何故姉が……、それを、驚くオーラルを他所に、試練にやたら詳しかった。
『おお~ちょっとした冒険譚だな』
正直な、クエナの感想は、三人の思いである。姉とクエナの二人がやけに仲良いなと、聞いてみた、
「まさかオーラルが、ミリアの弟とは知らなかった………、よくよく考えたら、上の名前知らなかったよミリア」
「ん~だったけ、付き合い長いのにね」
朗らかに、笑い合う、
楽しい時間は瞬く間に過ぎたが、
「そろそろ戻るよ」
クエナさんが、おいとまを告げたのを期に、オーラルとリーラも店を出た。
━━夕方の町並み。、
「リーラ……、君さえ良かったら、もう少し歩きませんか?」
このまま帰すのは、何だが勿体なく感じて、リーラを誘う。
「はい、そうですね♪」嬉しそうに微笑んでいた。
二人は中央公園に向かう。
━━王都民の憩いの場である。公園の南側入り口は、林道になっていて、週末は市場がたつのだが。
「もう夏至祭が近いのね」
初夏の朝市の後だが、気の早い屋台が、早くも立ち並ぶ。だからリーラと見て周りお昼はクッキーだけだったから、軽く食べ歩くことにした。
「この揚げたパン美味しいわね♪」
「うん。リーラお茶でいいかな?」
「はっはい」
冷たいお茶を買って来て、木陰のベンチに座った。
「ヤーダー♪。マジで~カールたら」
やたら甘ったるい声が、聞こえてきた。
「カール?……」
急に立ち上がるリーラは、真剣な顔をして、辺りを伺うと。
厳しい顔で。噴水の側にある屋台を睨み付け。唇を噛み締めた。
屋台の側に。パラソル付きのテーブルが幾つか置かれていて、その中に数人の女の子達に囲まれた。制服姿の軽薄そうな男を見つけた途端。リーラの表情が強張る。強い眼差しでスタスタ男の前に立つと、
「兄さん!」
怒った顔で、今にも男に噛みつく勢い。訳も解らないオーラルも、とりあえずリーラの側に立った。軽薄そうな男は、顔を上げ軽く驚き、目をしばたいた。
「ん~?。おお~リーラか、久しぶりだね~」
お気軽に手を振るも。自嘲気味にヘラヘラ笑う。リーラはそれが我慢ならず。
「兄さんいい加減にして!、母さんが……、心配してるのよ。お願い兄さん。戻ってきてよ」何かに堪えるように……、今にも泣きそうな顔をして、兄と呼ぶカールを睨んだ。
「や~だ~カールの妹さん、あんまり似てないわね?」
女の子達に言われて。皮肉気に肩を竦めていた。まるで自嘲するピエロのように……。
「そうさ、僕に似ない。優秀な妹だよ~」
軽薄そうに笑う、何かを諦めて、まるで言い訳するかのような、乾いた眼をしていた。
「ん?~……あんた、リーラの彼氏か、どこの部隊だい」
目敏く。オーラルが見たことにに気付いたようだ……、制服は着ていないのだが……、
「当たりだろ~あんたは。僕の階級校章見たから~、軍関係だと誰でも解るさ~」
……注意深い人間のようだ。
「カレイラ師団第1分隊所属、新人の少尉です」やや意外そうな顔をしてたが、皮肉気に笑いながら、
「僕はカール・シタイン。君と同じ、第1分隊所属の少尉だよ~後輩」
さっき……、
思ったが、
世の中………、てのは、意外と狭い。小さく嘆息していた。
エレーナ母様の実子だったか、母に聞いたことがあったな……、
「またね~リーラ~、母さんにはそのうち~。顔出すと伝えといて~」
数人の女の子引き連れて、カールは……、雑踏に消えていった。しばらく兄の背を見ていたリーラは。何かに堪えるような顔をして、雑踏をしばらく睨んでたが、
「ごめんなさい……、私…帰りますね」泣き笑い顔のリーラを、大聖堂まで送り。奇妙な1日が終わった。
………翌日、母に頼まれて、姉に弁当届けてから、孤児院に顔出した。
お土産に用意した沢山のお菓子は、あっという間に無くなっていた。
昼前には帰ろうと……、大聖堂の前を通ると、見覚えのある軽薄そうな男を見掛けた……、
━━視線を感じてか、オーラルと目が合い。気まずそうに目を反らして、カールが立ち去ろうとしたが……、急に立ち止まる。
「よお……後輩。少しいいか?」
小さく頷き、カールの後を付いてく、
━━カールが向かったのは、中央公園近くの小さなボロい安居酒屋に入る。人の目が気にならない奥の席にした、
ひっそりとした………、老人が1人でやってる店だ、適当につまみを頼み。しばらく酒で、唇を湿らせたカールが、話すまで待つことにした。
「なあ……母さん…元気だったか?」
不安そうなカールの様子から、カールの気持ちに気が付いた……、彼だって本当は……、問われるままエレーナ母様の最近の様子を、話して聞かせた。酒の力か……、カールが重い口を開き。様々な思いと、昔話を聞いた。
………数日前━━。
カレイラ師団長室。アロ・ジムスの提案書を一読して、カレイラはすぐさま保管されてる。師団が有してる砂糖の備蓄を調べさせた、すると………、
アロ・ジムスの指摘通り、かなり高価な砂糖、香辛料が、手付かずのまま大量に残されてたことが解った。カレイラは、アロを、現場責任者にして、商人との交渉役につけた、が、カレイラの予想以上に、師団の財政が潤った。
「これは……」
ケレル殿下、シルビア=カレン・ダレス財務官に、結果の報告書を作成させて、定例会議で見せた上で、ガロン師団、近衛連隊、フロスト騎士団に、同様のことをするよう進言した。
「カレイラ准将……実は」
シルビアもその毎に気付き、既に、調べあげ、書類を作成してた段階だったと聞く。
「アロ・ジムスとは、どう言った人物なのですか?」
少し興味を持ったようである。
「オーラルの上司にあたる人物です。シルビア財務官殿」ケレル殿下は、連日話される交易の収益が減り。財政難に陥る可能性について話していたので、険しい表情をしていたが、ふっと、新たな『オールラウンダー』のことを思い出す。
口内で、その提案が、理にかなってるか吟味しながら、一つの決断を決めていた。
「カレイラ、そして皆も、魔王が動いているのはもはや隠しきれない事実である」
殿下がなるべく避けていた事案を。わざわざこの場で口にしたことに。カレイラは虚を突かれていた。そして殿下の口にされた策を聞いて。同席していたフロスト騎士団長ブラレールと見あったが、幾つか協議した結果。同意した。
数日後━━━。
真新しい、豪奢な馬車を、漆黒の巨馬の二頭が引く、気持ち良さそうに走らせながら。
並足で護衛の馬が並走していた。
都から出た馬車は、西の街道を南下して。途中から北上して。東に進んで行く。以前オーラルが、空の試練で訪れた。アルファードの街を、山なりに北上する遠回りのルートである。王族が近隣の国に赴く時は、わざと遠回りして、なるべく沢山の街や村を通る為だ。
馬車の手綱を握るオーラルは、御者をしていて。━━馬車を中心に三方を、第1分隊の面々。アロ中隊長、クエナ、カールが、馬上で、辺りを警戒する。
なぜこんな仕事が舞い込んだか、理由は分からなかったが、僅かな人数しかいない第1分隊にとって、初めての命をうけた仕事であった。休暇が終わった翌日と……急なことだった。
「また来たぞオーラル!」
今日、何度目かの襲撃。オーラルは手綱を素早くしごき、走らせるスピードを上げた。
カツンカツン、複数の矢が、魔法の風壁に弾かれる音がした。
「その程度の矢、当たらないですの~」
舌ったらずなエルの呟きが微かに聞こえた。思わず苦笑いしていた。
「オトリだから……、大人しくして欲しいものだ……」
第1分隊に与えられた任務とは……、ミレーヌ王女の護衛……。
そもそも第1分隊の設立は、ミレーヌ王女を守る為作られた部隊である。表向きの話ではね……、まだ設立間もなく。色々と足りないのが現状だ━━。━━そうあれは昨日のこと……。オーラルが隊舎の自分の部屋に戻ると、窓の外から僅かな気配に気付いた。
「流石だね……あたしの気配に気付いたかい。流石……『オールラウンダー』おや…?」
訝しむ女の前に、湯気のたつ紅茶が置かれた。
「黒衣の一族は、初めてでは無いので、僅な花の香り、気配で、女性と判断しました、毒は入ってませんのでどうぞ」
「なっ……」
呆気にとられる女に、
「そうそう……、足取りに疲れが見えるので蜂蜜を入れてありますよ。お好きですよね?」
息を飲む女は、迷いつつ素直に、テーブルに着いてある匂いを確かめ。口を付ける。一流の黒衣の者は、毒の味が解ると言うが………、彼女の行動は黒衣なら自然だ、端で見てると違和感丸出しで、まどろこしい。
「ん……」
黒衣の女は、黒髪だが……、紅茶を飲む姿……、横顔は似ていた……、オーラルの先輩である。ミラに……。黒衣の一族である。何の用にしても。素直に答える筈はない、ちょうどよい……、反応を見る策に使える。
「ミラ先輩の親族ですよね?」
安心して、口に含んだ瞬間を見逃さず。
「ブッー。ゴホゴホ……、あっあんた……」
怒りの光を浮かべた一瞬を、オーラルは見逃さない。にこやかな笑みを見て、謀られた毎に気が付いた。
「チッ……、」
悔しそうに歯噛みしながら、女は直ぐに表情を消して、一枚の命令書を見せる。
『隣国、神国ラトワニアに、ミレーヌ王女が親善訪問する。表向きは……、裏で噂を流す。ラトワニア皇子との婚約の為ではないかと……』
チラリ女を見て、全く表情が動かない。怒りを買ったようだ。
「成る程……。第1分隊に、囮をやらされるつもりですね?」
書面だけの僅かな情報から一瞬で。ケレル殿下の考えを読みといていた、やや女は顔青ざめさせ。小さく首肯する。
「すると……、陛下から第1分隊は、表向き、護衛任務命令が降ると言うことか……、わざわざ俺に、黒衣を差し向けた以上は、命令は一つではなく。また目的も一つとは限らない……」オーラルの呟きを耳にして、徐々に顔色が蒼白くなっていた。
「ケレル殿下が、わざわざ報せる理由がある。あんたはそれを口頭ではなく。書面を見せて、俺の反応を見てから、伝えるように言われたね」
ゴクリ……、唾を飲み込み、ハッと顔を強張らせていた。そしてオーラルの視線を受けて無表情を作ろうとしたが失敗、諦めたように素直に頷いていた。
「カレイラ准将には、何か言われてたようだね」
「全く……『オールラウンダー』て奴は……」
忌々しそうに鼻を鳴らした。
「一応……、知らせたからな?」
「確かに」
微笑するオーラルをやや睨み付けながら、窓枠に脚をかけ外に出ようと。半身が出た瞬間。
「頭の怪我治ったようですね」
「なっ……、おま……、あっ……」
身体を半分以上外に出した状態で、慌てて振り返ったことで、バランスを崩し。女は落下、
ドサリ……何か落ちる音がしたが、自業自得だと溜飲を下げたオーラルとは違い。やたら怒ったような気配は、しばらくうろうろしてたのだが、窓を閉めて、さっさと明かりの消えた部屋を目に。地団駄踏みながら間もなく気配は消えた。
「本当に。世の中は狭い……」
小さく呟き、寝息を立てた。
━━第1分隊、護衛任務主発直前━━。
━━アロ中隊長の元。急報が入った。
書簡の文明を見て、血の気を失い。今にも倒れそうな様子にクエナが、不安そうな顔を浮かべた。
━━書簡による文面には━━。
`魔王ピアンザの配下による。襲撃の恐れがある´
……命令変更が伝えられた。
━━任務内容は同じ、だが……、第1分隊を囮とした、と命令が下る。
その間。ミレーヌ王女は、別のルートで護衛と既に。ラトワニア神国に向かった。とのこと━━。
鮮やかに満面の笑みを浮かべ。楽しそうに流れる風景を見ているのは、ピンクのサマードレス。ブロンドの長い髪を後ろで編み込まれ、スッキリと左右に垂らすのは、見るからに良家のお嬢様姿のミレーヌ王女。初めて外が見える。乗り合い馬車に乗れて、目を輝かせて。街並みをいつまでも飽きずに見ていた……。王女の可愛らしい仕草に、二人の付き添いは、微笑ましく見ていた。
カレイラ准将、フロスト騎士団長ブラレールの二人。考えられる最強の護衛である。
三人が王都を出たのは昨夜。城門が閉まる前に出発する。乗り合い馬車を。貸し切りにして乗り込んでいた。
━━第1分隊舎……、ケレル殿下が用意された、豪華な馬車と、それを引くための訓練された見事な二頭の巨馬、護衛任務に耐えられる。三頭の馬が鞍付きで、運び込まれた。無論姫様がいない以上は、誰かが影武者を勤めなくてはならない。誰が衣装を着るか、クエナとミラの前に置かれた衣装に。二人の顔は赤くなったり。困惑の表情になっていた。「お前が着ればいいよ……、あたしはこんなヒラヒラしたの着た事がないからさ」
クエナを牽制して、断りの口実にしようとした、要するに面倒事を押し付けようとしたのだ。
「わっ、わたしとて無いよ!」
このまま息苦しい姫様役。やらされては堪らないと。クエナも引かない。
唸る二人に、呆れたエルが眉をひそめながら、
「エルは一応馬にも乗れるが、ミラは馬に乗れるのか?」
「あっ………」
二人は根本的な毎に気が付いて、ミラは嫌そうな、クエナは少し残念そうな顔をしたが、エルは内緒にすることにした。
オーラルが馬車の扱いが一番上手いからと、御者はオーラルに決まり、影武者役はミラが、二人の侍女の内一人をエルが勤め。アロ、クエナ、カールが護衛役に決まって、ようやく出発した。
目指すは、国境の街。フロスト騎士団本拠地である。城塞都市ベセル。本来の任務は、ベセルでフロスト騎士団と交代する運びになっている。
馬車の中には、豪華な、衣装着たミラと、以前戦士養成学校で会った。ミレーヌ王女の世話係の女性ジーナ、さらにエルが侍女服を着て同乗していた。
「たく、あたしにも戦わせろよ」
不満たらたらのミラがぼやくが、ベセルまで、我慢してもらう他ない。
色々な要因でミラに決まったが、小柄で短髪だから、ウィッグさえ着ければ。遠目に分からないので。案外悪くない選択である。もっとも馬に乗れないミラでは、護衛役は不可能だったので、仕方ないのだが……、
━━襲撃者は、馬上から次々と矢を放つてきた……、エルの魔法により、今のところ無事だ、
━━クエナ、カールが馬を操り。隙の出来た襲撃者に剣を使いて。斬り込んだ。護衛役だが、全く武器が扱えないアロは、青ざめたまま、馬車に追走する。
執拗に何度も襲撃してきたが、間もなくフロスト騎士団の駐屯する。町が見えてきた、
とたん……諦めた襲撃者は、素早く馬を反転させて。走り去ったていた。
怪我した者こそいなかったが、今日だけで二度の襲撃を受けた、精神的疲労は━━はかなりの物である。
疲れはてたアロ、クエナは早々に休ませ。オーラルとカールで馬の世話をした。まるでずっと見てたタイミングで、「オーラル様。お疲れ様でした」
冷たく井戸水で冷やされた手拭いと、お茶が用意されていて、有り難く使わせてもらった。
「ありがとう、助かります」
「いえ……その節は、姫様共々お世話になりましたから」
辺りの日はすっかり暮れて。暗い場所で会った、ジーナの声は知り合いに似ていたので、ふっと懐かしい気持ちになっていた。髪いろこそ違うが、とてもレイナに似てる。まさかな……苦笑滲ませながら。冷たいお茶で喉の渇きを癒した。
「お久しぶりですね。確かジーナさんでしたね?」
一息着いたところを見はかり、ニッコリ笑う浅黒い肌のジーナは、夏が似合う気がした。改めて彼女の顔を見ながらレイナを思い出す。彼女は色白で、ピンク掛かった髪色だった、ジーナは赤みのある黒髪だ、どうして似てると思ったのだろうか?、首を傾げた。
「姫様からもオーラル様に、よろしく伝えるよう、承りました」
優しげに微笑するジーナに。失礼と思いつつ。やはり声音が似てる。
「失礼と思いますが、気になったので……、ひとつ伺ってもよろしいですか」
「えっ?、はあ~、どんなことでしょうか」
小首を傾げ考える仕草、やはり似てる。
「北大陸に。ファルバス族と呼ばれる。体術に優れた部族を知ってますか?」おっとりタレ目なジーナが、驚いて目を丸くした、
「もしやその人は……」
ジーナの言わんとする。先を理解して……、世の中意外と狭いんだよな………、呟いた。
「俺が学生時代の友人にレイナって子がいました」
パッと顔を輝かせ。嬉しそうにパチリ手を叩く。
「やはりそうでしたか!」
安堵の吐息を吐いていた、意外な反応で、今度はオーラルが戸惑う番である。
━━ジーナが、わざわざ馬の世話が終わるまで待ってたのは、オーラルが共通の知り合いなのか、いまいち確信がなく、でも気になってたから……、それとなく聞くつもりで待ってたと、
「姫様の事件の後、レイナ様から、手紙を頂いたのを思い出しまして、そのもう一度読み返したら……、確信出来なくて……」
照れ臭そうに、呟くジーナ、
「俺も今話してるときの声。レイナに似た仕草でそうかな?でしたから、仕方ないですよ」
「そう言ってくださると嬉しいです♪」
ジーナはレイナの従姉に当たり。部族は違うが姉妹のように育ったと聞きながら、二杯目のお茶を受けとる。
「レイナ様から……、オーラル様に伝言板があります」
やや不安を滲み出し。ジーナはレイナの近況を語り出した……、それはオーラルも考えもしない出来事であった。
あの優しいレイナが……、北大陸の16部族を統一させ、国を作り、宰相となり、魔王軍と戦う準備をしてると……、
「そんな……、まさか……、何で、そんなことに」
息を飲み、天を仰いだ……、複雑な胸中を、遮るように……、雲が月を覆う。
━━2日後……、港町ドマーニから船で、
リドラニア公国経由。ギル・ジータ王国に向かう交易船の船先に。白のワンピース。女性用の丈の短い外套を着込み。目をきらきらさせながら、初めての海に興奮するミレーヌ王女。
その目が見る先は、水面を走る。たくさんの回遊魚を追って跳ねた巨大な尾。黒光りする巨体、盛大に波しぶきが上がる。
「うあ~凄いですの♪、あはははははは」
喜色満面に高らかに笑う姿を。少し離れて軽装だが、仕立ての良い洒落た服装の聖アレイク王国。ケレル殿下の右腕、カレイラ・バレスと、フロスト騎士団団長ブラレール・ロワイ、顎髭をお洒落に蓄えた。もう初老と言ってよい歳だが、40代と言われても信じるだろう。孫娘を見るような優しい眼差しで、眼を細めつつ髭をしごいた。
「楽しそうで、良かったな」
「そうですね……、それよりも2人ですか?」
ブラレールは小さく頷き、僅かな視線の先、鋭い眼光の男が、明らかにカレイラだけを見ていた。
━━━数日前。アレイク王国。定例会議。
ケレル殿下が、唐突に告げた一言により騒然と顔を見合わせた。
魔王の暗躍……。
他国では事故・暗殺・謀略事件が起きていて、諸外国では、不安を引き起こしてると耳にしているが……、
殿下はあえて魔王の指が動いてる宣言していた……、まだ尻尾は捕まえていないが、ミレーヌ王女を狙ったテロ。数ヶ月前に起こった伝染病……、それら全てに魔王が関与した疑いがあると言う……。
カレイラに命じて、今まで調べた詳しい内容を記した書類を、重鎮に配布。
記された内容に息を飲む貴族がいた。
━━一月前……、ギル・ジータ王国で突如。国王含め。王族のほとんどが暗殺された事件。
リドラニア公国の不穏な動きまで。
「まさか六将が……」
「北大陸に……、進軍してると聞いております」カレイラの言葉に、誰しも衝撃を受けて、ザワリ……、どよめきが走る。予想以上の動きの速さに。戸惑いがある。西大陸が平定されて、まだ三年足らずである。
「早すぎる……」
共同の意見である。
「これ以上……、指を食わえて見てる訳には行かない、そこで……我は、我が国に巣くう手を、炙り出そうと考えている」
ケレル殿下の鋭い眼差しで、一同重鎮の面々を見ながら、
「我が妹ミレーヌと、我が国が誇る『オールラウンダー』2人と、名を使う……」
殿下が言うには、ミレーヌ姫が、ラトワニア神国に親善訪問すると噂を流すと言うのだ。
「それでは……姫様が、危険にさらされましょう……」エレーナ大司教の不安はもっとも、他の重鎮が同じ思いであることを確認してから、
「敵もそう思うだろう……、だから……、ラトワニア神国の皇子と。妹姫との見合いが行われるからと噂を流し。真実だと誤解させ。囮を効率的に使うのだ」
「まさかケレル殿下『オールラウンダー』を使う、とは片方を囮にする口実にと?」
近衛連隊長セレスト・ブレアの疑問に、一つ頷き。まだ編成すらされてない。
「第1分隊を、使います」
カレイラがケレル殿下の考えを読んで、答えていた。
「魔王の手は、恐らく王都に潜入しているはず。情報を甘く伝えれば、口の軽い者が勝手に情報を流してくれましょう」
「確かに……、カレイラ准将の指摘通りならば」ギルバート・ガイロンはいかにも武人らしく厳めしく。厳かに告げた。
━━ミレーヌ姫の情報を、六将の1人、緑眼の騎士ギラム・ブライドがもたらしたのは間もなくであった……。
幻影の魔女ラグラド・エルバが、
「チャンスね!。あいつ等は何もわかってないわねクフフ♪」
狂喜の光を瞳に宿し、舌なめずりしていた。
「ナタク~、あんたどうするんだい?」
白銀の重厚な鎧に身を固める。銀髪の眼光鋭い男。六将で唯一、魔王ピアンザから、好きにすることを許された者。ナタク・レブロは、
━━西大陸、聖帝サウザンロードの片腕、聖騎士団長だった男で聖騎士の鏡とまで言われていた。ナタクは、なんと自らの手で、仲間を皆殺し、国王を殺めた。世紀の大罪人である。
同じ六将だが、ナタクが仲間だと誰も思っていない、まさに異物……。
「まあ~た。動かないつもりよね~」
鼠をいたぶるような、猫なで声で、わざとナタクの神経を逆撫でする。
「やれやれ……」
ギラムがいない間。よっぽど鬱憤を貯めてたか、渋い顔をする。恋人がいないから構って貰えず。嬉々として暗い眼差しを向けていた。調子に乗り過ぎるのは、
「流石にやばいか……、」
いかにラグラドを止めるか……、
「出る。」
あっさりと呟き、眼を丸くするラグラドは、驚いたように、ポカンと惚けていた。二人が見る前で、なんと……ナタクが、笑っていた、とても楽しそうに……、
そして……。
銀髪を、海風にさらしながら、眼差しを笑ませ小さく
`見付けた´ほくそ笑む。
━━蛇を思わせる。粘つく視線が、自分1人に注がれてると気付いたのは………、王都を出てすぐのこと。二人は直ぐに気付いた。自身だけを狙って来る可能性は高い、ブラレールも同意見だ。が、気になる視線は、一つではない。
ミレーヌ姫を見てる。好意的では無い気配が、確かにあった……、そちらは、小物のようだ、拐かしの類いか?、
━━リドラニア公国港町で、一泊した日に。ミレーヌを狙った男を捕らえて。リドラニア公国兵に引き渡す。翌朝━━船はギル・ジータ王国に向かい。出港した……、ミレーヌ姫、本来の親善訪問地である。
「二人の名とは?」
戸惑うギルバート・ガイロン、他の重鎮達に、オーラルの素性を調べた書類を配る。一読して、ケイタ筆頭とシルビア財務官が、何かに気付いた様子だ。
「オーラル・ハウチューデンと親交ある。サミュ・リジル外務官、現国王ギル・エバーソン王と謁見の約束をしてあります」
まさかオーラルと旧友とは……、ミレーヌ王女が襲われた時期が、重ならなければ、ギル・ジータ王国に引き抜かれていた可能性が高いと、カレイラは考えていた。テロが無ければ……、
━━ギル・エバーソンが、国王になったからこそ……、オーラルの有用性は増している。
ギル・ジータ王国を襲った暗殺者は恐らく……ダーク。そう呼ばれる。六将だと思われる。
謎に満ちた人物だが、暗殺に長けた男だと……、言われている。
ケレルの考えでは、魔王が━━ギル・エバーソンを暗殺しなかったのは………、
自分の敵にならない、可能性が高い、と考えてのことだ。さらに魔王の妻と。2人が友人であったこと……。それがいかに恐ろしいことか、
世界中で、様々な事件が起こる……、
魔王の暗躍……、
表面上の親善訪問とは別に。2人の真意を計る必要がある。カレイラが、その任を任されていた。国内に、巣食う魔王の手も炙り出し、2人の『オールラウンダー』の名を使い、ギル・ジータ王国との謁見を了承させ、オーラルとカレイラを配した、理由。
━━━凄まじい異音を立てて、ミレーヌ王女が泊まっているはずの宿が……、
突如半壊した。複数の人間が、殺気を放ちながら、わらわらと集まる中。オーラルは予想通りの襲撃を前に。何故か1人で、待ち構えていた。
その宿は、最初から廃屋だった……、姫役のミラや、他の第1分隊の面々、さらに宿の従業員すら。オーラルが見せていた幻で、今頃みんなは違う宿で、ぐっすり寝入ってる頃だろう……、まだまだ苦労は続く、
不用意に入り込んだ、女の前に、突如現れ。無言で立つ。「なっ……」
驚愕の声を上げる直前━━、女の急所を一撃して、昏倒させていた。オーラルは無力化させ素早く魔法で拘束。ほんの一瞬の出来事である。
「罠……」
鋭い殺気が、オーラルに放たれる。
「ラグラドは?」
緑の眼?心配そうな目線。
「気絶してるだけだ」
注意深く。仲間の安否を確かめつつ、油断なく。剣を構えている男がいた。
それが倒れてる彼女の名前……ラグラド?。
「彼女が、幻影の魔女か……、するとあんたが、緑眼の騎士か?」
「……」
図星のようだ……、
「成る程……、君たちは古代の民か……、するとピアンザは仲間を見付けたのかな……、さて……ピアンザの狙い、聞かせてね」一瞬殺気が揺らぐ、隙を見せたギラムに瞬く間に肉薄すると、抜き手を見せず。抜き打つ、
かわされた瞬間、上下の連撃。
「ちっ………」
紙一重でかわされた!、身体が流れ。隙を作ったオーラルに、ギラムは、下からの切り上げを放つ、死角からの一撃、
オーラルは勢いに逆らわず。風に圧された紙のように、剣で受け流し。後ろに下がった。
━━ほんの一瞬の攻防。ギラムの力量は、オーラルの剣技を上回るか……、魔法を使う余裕すら与えられない劣勢に立たされた。
「チッ油断した……つつ、女の子相手に、マジに殴るか……、痣になるだろ」
口調と裏腹に、ダメージが残っていて、足元がふらつく。
「ギラム……」同じ緑眼を素早く。目配せを受け、ギラムがラグラドを捕らえてる。捕縛の魔法を解く。
「解呪」
自由になったラグラドは、怒りで顔を歪め。狂喜を宿した笑みを浮かべていた。まるでいたぶるような口調で、
「あんたは逃がさないよ~」
毒々しく呟いた。対して劣勢にあるはずのオーラルは静かに微笑する。、忌々し気に睨むラグラドは、オーラルの背後に居たためその表情に気が付かないが、ギラムは何故か嫌な予感がして眉をひそめる。
「因子を解き放つ」
オーラルは目をギラムから外さない。隙が無いなら……、作れば良いだけ。魔法を解き放った。
「何を……」
ラグラドの足元から、捕縛の魔法が書き変わり、
「きゃゃああああああー!?」
電撃の魔法に変化、焼けた肉の香りが漂う。
「なっ……ラグラド!」
ギラムが解いた筈の魔法が、突如変化した。あまりの毎に。驚愕したギラムは棒立ちになった……、
その隙を見逃さず。一瞬で、懐に入り込み、オーラルは死角から切り上げた━━、
僅な遅滞……、剣で受けに行ったが、僅かに遅く、ギラムの右目を浅く切り裂いた、
「くっ」
視界が朱に染まり。視野が狭まり、切り結ぶ内。徐々に、ギラムを追い詰めて行く、
「剣を捨てな。命は助けるからさ」
投降をうながす。しかし二人が恋人とは知らないオーラルを、凄まじい形相で睨み付けたが。「はっはっ……」
右目から、血を流し、ラグラドを見ると迷いを見せるギラム、油断なくオーラルは剣を構えている。
「クッ……ここまでだと……、ギリギリ」
魔王の城で見た、現実を思い出した、ここまでなのか………自問自答した刹那。
「ざ……けんな!」
ラグラドの叫び声に、ギラムはハッと息を飲んだ。
閃光━━爆発的な魔力の放出。射抜かれた眼をしばたかせながら、狭まる視界で、見たのは、
突如。ラグラドとギラムが立っていた地面がはぜた……、
「これは……」
背後で、気を失ってると思っていたラグラドは、全身から、血を流しながら、蒼白の顔に。怒りで染めあげ、立ち上がろうとしていた、
ラグラドの眼が━━赤い、オーラルをニタリ不気味に笑いながら見詰め、狂喜の色を宿して。
「傷が……治っている?」
驚く、オーラルの呟きにニタリと笑うと、ヨタヨタオーラルに迫り、
「血を……」
鋭い犬歯が、口から覗いた。
「成る程……、これが幻影魔法か…」
オーラルは、一度瞼を閉じて、解呪を唱えた。迫る気配、狂喜すら眼を閉じて、なお感じた、凄まじい魔法である。
一瞬で、幻影が消えていた━━、
「逃がしたか……」
辺りの気配を探るが……、既に2人の気配は消えていた。
小さく嘆息して、さらに解呪を唱えると、壊れた筈の宿は、ただの廃棄に戻っていた……、
━━暗闇の中。ギラムは魔法で音を消し去り、
「なかなか厄介な……」
「くっ…」
痛みに、苦悶するラグラドを背う。右目を布で押さえ。湿血したが、背に冷たい汗が流れた。ギラムは、背後を伺ったが、追跡は無いようだ……、
一度。帝国に帰還するべきと判断した。
「急がなくてはラグラドが危ない……」
油断したとは言え。二人はオーラル一人に。手玉に取られた事実━━。悔しさに歯噛みしながら。ギラムは急いだ。
━━2人が、遠ざかるのを見てから、
足音もなく人通りのない雑踏に。女が現れた。身体のラインを強調する皮の服を身に付ながら。何故かおでこに小さく湿布が、貼られていたが……、鋭く眼差しを細めると、部下に合図した。
「つっ……」
痛みに眉を寄せて、宿のある方を睨む。
「成る程━━。殿下やカレイラが、信頼するだけの力はあるようね。嫌な奴だけど……」
蠱惑的な唇を……、不機嫌そうに歪め。チラリ妹の寝る。本当の宿を見上げながら。小さく安堵の吐息を吐いていた。
それから間もなく━━女の周りに黒衣の者が集まり、六将の2人が忽然と消えたとの報告を受けていた。
「帰還したと見るべきね。あちらは手薄か……」
ケレル殿下の策に、カレイラは自分達以外のおまけを付けていたのだ━━。
「……敵の一掃。探索を開始」ノルカの命を受け、黒衣の中で、手練れの配下は、無言で消え去た。
━━━翌朝……、何事もなく第1分隊は町を出て、それ以降……、襲撃は無くなり、無事に城塞都市ベセルに着いたのは、7日後の夕方である。
第1分隊一行は、街に着いて、そのまま馬車は、フロスト騎士団の本拠地である。城塞の門をくぐり抜けて、馬を止めた。「こちらに回ってください」
馬屋に案内されたので、オーラルとカールは、馬車から馬を外してる合間に。アロ中隊長とクエナが、留守役の二人。副団長と司教と会うため向かっていた。
ここベセルには、王都に負けぬとも劣らぬ大聖堂があって、民の窮状を聞き、騎士団を派遣。また駐屯する町の騎士団の交代を命じ。王都に行けない熱心なアレイ教徒が、隣国からも訪れる一種の聖地のような扱いである。それもあってかフロスト騎士団の本拠地と呼ばれていて、代々団長がベセルの領主を兼任していた。
━━今頃……引き継ぎがなされ。新しい命を聞いてることだろう……。
襲撃が無くなったとはいえ。表面上フロスト騎士団が、引き続きミレーヌ姫の護衛を行う。
新しい命令は、第1分隊が、フロスト騎士団が、本来は行う、見回り任務の代わりを、任される毎になっていた……。
その村こそ━━。
「待ってるわミラ」
優しい笑みを唇に張り付け、黒衣の長ノルカは、ベセルの雑踏から。馬車が入るのを見送り音もなく。消えていた……。
「ようやく解放~~疲れた~~」
グッタリ疲れを滲ませるミラは、足を投げ出し。久しぶりの開放感を満喫していた。
「ご苦労様、ミラ」
苦笑いを浮かべたクエナだが、冷たいお茶を振る舞いつつ。兵舎の窓から、下を見て、嘆息していた。視線の先には、中古の馬車が用意されており。後は……数日分の食料を買い足せば。出発となる━━。
「はあ~、ゆっくり休みたい……」
「なんであたしらが、引き続き任務するのさ」
文句を呟くミラの気持ちも分からなくはないが……、任務だから仕方ないとクエナに諭される。
フロスト騎士に混じり、食堂で温かい食事をしたあと、湯あみをしてさっぱりしたエルは、直ぐに船を漕ぎ出していた。クエナはエルを抱き寄せ、自分の膝に寝かしつける。疲れを訴えてたカールは自室に残ると言ってたが、夜の街に遊びに出てる予感がするし。アロ隊長は、引き継ぎ終えたが、司教より詳しい話を聞くため。まだ戻ってきてない。巡回任務は初めてのアロである。何かと不安なのだろう……、
オーラルは何時の間にか、第1分隊の為に用意されてる部屋に入った時。机に手紙が置いてあるのに気が付いた。短い文明で、
『黒衣の村に向かっえ』
唇を噛み締めた。何があるのか……、
城塞都市べレスの北にある国境を越えると、ラトワニア神国、ドヴァイア公国に通じる険しい街道があって、東には高い山脈。麓に深い森が広がっていた。
無論山々の麓に広がってる森の中にも、小さな村や、集落が点在していて。未だに山々には多くの魔獣が住み着き、未開の土地を切り開く開拓村の民は、常に脅かされているのが現状であった。
━━だが近隣の森、山では珍しい、良質の毛皮が捕れるため、危険と解ってても、猟師が住み着き、畑が作られる。そのためフロスト騎士団は、月に一度。こうした村や集落を巡回する。
村や集落の民にとって、癒しの魔法を得意とする侍祭が従軍している。民にとってフロスト騎士が見回りにきてくれると言うことは、医者の役目も果たしていた。
こうした日々の行いが、アレイ教徒を増やしたが……。民の願いと異なりフロスト騎士の数は少ない。
魔獣と戦う事が多いため、命を失う者も多く、さらにフロスト騎士団の仕事は、各地を回る巡回任務は過酷だ。精強さと忍耐強くなくてはならない、時に村人から罵倒されることもしばしば、その為人員が増えるカレイラ師団は、その片翼を担う予定であると。
━━第1分隊中隊長アロは聞かされて。青白い顔に冷や汗を浮かべていた。いずれ人数の増員間近である。未来の将校である。オーラル少尉が第1分隊に配属された理由………、様々な経験を積ませる必要との配慮とアロは納得した。
━━あくまでも表向きは……、
━━翌朝、早朝。
馬車の手綱を握りベセルの城門から、馬を走らせるカールの背を見て。小さく吐息を吐いた。
━━━半月前……王都。北の下級将校が住む住宅の一角に。
ハウチューデン家はあった……。
昨夜カールと飲んで、彼の胸の内を聞いたオーラルは悩んでいた。
「俺が……口を出すべき問題なのか」
と……。迷うオーラルをリーラが、訪ねて来たのは、夕食の終わって間もなくのこと……、リーラの不安そうな顔を見た瞬間、オーラルは一歩を踏み出す決意をした。だから笑みを浮かべ。リーラを小さな裏庭に置いてある。小さなベンチを勧め、自分は子供が座るような。小さな椅子をリーラの前に置いて座る。
「………………。」
しばらく無言で時が過ぎた。手をグーにして、今にも泣きそうな顔を見るのは失礼と、空を見上げた。
「……ん~明日は、晴れそうだね」
固い表情のリーラは、随分思い悩んでいるようだ………、だから自分から話題を振ることにした。
「あれから会ってないけど、母様元気にしてる?」
「えっ……、あっ、はい、エレーナ母様はげ……」
勢い良く答えるかと、思えば……、怒られた子猫のように、シュンとする。こいつは参った……、何となくリーラが抱えてる不安に気付いたからだ、どうしたものか……、フッと小さな庭を見ていて、きちんと手入れされてることに。今さら気付いた、
━━この小さな椅子は、姉が大切に使い、自分も使ってた物だが、オーラルが座ってもびくともしない、大切にされてたのが分かる。母に感謝した。
「リーラ…、家の父さんが行方不明なのは、知ってるよね?」
「えっ…はい」
唐突なオーラルの告白に、戸惑うリーラ、優しい眼差しで見ながら、
「母さんも、姉さん、俺も、死んだとは思ってないんだ」
そう……、あの父が死ぬはずはない、相棒がいるんだから……、リーラの不安は兄カールのこと。その兄もまた悩んでるとは知らない。信じるから不安を覚える。不思議な事ではないのだ。「お兄さん。君のお兄さんのカールには、時間が必要なんだよ」
「えっ?……」
ズバリ胸中を言い当てられ。虚を突かれたと、惚けた顔をしてるから。
『俺さ………何も出来ないんだ………、だから母さんや、周りの期待に堪えられなくなって、……妹のリーラは真面目で、頑張り屋で……、才能がある。俺なんかより、本当の娘なら良かったんじゃないかとね……』
真面目で優秀な妹……、でも血が繋がってないが、大好きな母と同じアレイ教の侍祭……、カールは、フロスト騎士に必要な、癒しの魔法が使えなかった……、
━━癒しの魔法は、神に選ばれなければ、使うことは出来ない。アレイ教徒は大地の女神アレに祈りを捧げ、声を聞くため心の鍛練を積む。多くは見習いのまま終わる。
オーラルは色々と迷ったが……、内密にケイタに頼み。カールの学園時代のことも調べてもらっていた。そして分かったのが、カールは生まれつき高い魔力を秘めていて、その素質が、祝福を受ける邪魔をしている可能性が高いと言っていた。女神は力なき者に祝福を与える。そう考えられていたかだ。
人間にとって、自分の夢と希望とは違う。それが現実である。
カールにとって、気持ちは無惨に砕かれたのだ。
だが『特待生』に、選ばれ困惑する彼を取り巻く環境、
それなりになんでもやれてしまう。優秀過ぎた実力は、自分に自信の持てない。カールにとって、本当の不幸だったのやもしれない……、
母は、息子との関係に戸惑いながら、新たなる道が出来たと祝福した。でもカールにとって、それがこそが心を傷付けてしまっていた。
誰もが大切に思うから、思いすぎるから。だから気付かずに……、
そう………。大司教エレーナ、リーラ、カールは、お互いに遠慮し過ぎてな。親子なのに気を使い過ぎのだ。三人はただ相手を傷付けたくないと、安易に逃げた、楽な方に……、
一度壊れた気持ちは、心の弱い人間にとって、再び奮い立つのは、とても怖いことだ。
「俺を、頼れリーラ」
リーラの後ろから。彼女を抱き締め、優しく頭を撫でていた。
「あっ、はい……」
嬉しそうにオーラルの腕に手を添えて、身体を預け寄り添う。
ポタリ腕に落ちた温もりを……、愛しく思う。
だから……、エルのことも、カールのことも、ミラ先輩のことも、考える。
自分に出来ることを……、
━━夜営の準備が終わり、干し肉のスープ。堅焼きパンで、簡単な夕食を済ませてから、カールとエルを呼び出していた。
「なんだよ~用ってさ~」
軽薄そうなカールを指して、
「エルに頼みがある。補助系魔法を教えて欲しい」
「なっ、おいおい、オーラルちゃんよ~、一応お子ちゃまに教えて貰わなくても、大概の補助魔法は使えるぜ~」戸惑いと訝しむカール、お子ちゃまと言う言葉に、膨れっ面のエル。
`エルのお父さんに聞いたんだけど~、先生になりたいんだって?´
エルに意識を読ませる。ピクリ眉をひそめるエル、
「あれれ?リリア・カーベン先生から聞いたけど、大したことなかったて聞いたよ?」
ピクリ……カールの眉間に皺が寄る。
「先生に……」
チラリ悪戯ぽい光を宿らせ、カールを見ると、ハッと顔を強張らせる。
`ケイタが心配してたよ……、あの子は、男の人が苦手だから先生は……´
『やる!ぜ』
二人は慌てて、同時に返事する。驚く二人は顔を見合い。仕方ないなと諦めの顔のカールと。憮然とするエルに一冊の新しい本を差し出した。物凄く分厚い本を、受け取ったエルがよろめくほどで、初めてみる本に、目を輝かせる天才少女に急かされて、カールは本を開いた。
最初の村に着いたのは、城塞都市べレスから二日目の昼。
「おお~!良いときに」
出迎えられて、早々に、村長に引きずられ。連れてかれるアロ中隊長は、今にも気を失いそうな、真っ青な顔していたが、しばらくして、慌てた顔で戻って来たかと思えば、クエナと何やら深刻そうな話をしてた。
「どうしました隊長?」馬の世話を終えたオーラルが、二人の様子に気がついた。
「オーラル……。ちょっと困った事が……」アロから聞いた話では、━━夕べの事、村の畑を見張る男が、魔獣に襲われ怪我をしたと言う……、怪我は大したことなかったが、魔獣の爪に毒があったのか、朝になり傷が化膿して、高熱が下がらないと言う。
「なるほど……多分コボルトですね、アロ隊長、俺で何とか出来ますから、案内を」
「わっ、わかった」
戸惑うアロ隊長が向かう先に、心配そうな村長が待っていた。
「失礼します村長、第1分隊少尉オーラルです」
「はっ、はい」
白い物が混じる。恰幅のいい村長に、詳しい話を聞きながら、
「コボルトですね。傷を見せて貰えますか?、俺は土竜騎士です。薬草の知識は豊富ですから、何とか出来るかもしれない」赤い手甲を村長に見せると、驚きながらも、
「こちらです!」
案内されたのは、真新しい丸太小屋で、ベッドに、大柄な若い男が、苦しそうに寝ていた。
傍らには若い女性……男の妻であろうか、泣き腫らした目を、不安そうに村長に向ける。
「こちらは、土竜騎士様だそうだ」
ハッと息を飲みながら、場所を開けてくれた。
「失礼します」
手慣れた手つきで、オーラルは男のホータイを外して、傷を確かめ、ほっと安堵の吐息を吐いていた。
「これなら助かる。すぐに処置をするから、エルとカールは手伝って、クエナさんは女の人に頼んで、沢山お湯を沸かしてもらって」急に、慌ただしくなる小屋の中と、人の気配が増える外で、アロが村人に説明して、クエナがお湯を沸かすようにお願いする。
「カール馬車から、俺のリックを取ってきて、エルは奥さんから、いらないぼろ切れを沢山と、酒をもらってきてね」
ドタバタ二人は慌ただしく出ていく。それを見送り、オーラルは眠りの魔法と痛みを和らげる魔法を唱え。苦しむ男に掛けた。すると苦し気な顔が、幾分和らいだ。その時カールが戻る。
「カール。そっちのテーブルを運ぶから手伝って」
台所にあったテーブルを、部屋に運び込み。リックの中の薬草を取り出して並べてるとエルが、木桶に酒瓶を入れて戻る。
「カール明かりを、エルは調合の手伝いを」てきぱき慣れた様子で、準備を整えてくオーラル。
「オーラル!お湯が沸いたぞ」
「ではどんどん沸かしたお湯を運んで、カールは、彼が動かないように押さえてくれ、エルは腕を押さえて」
息を飲み。見守る中。オーラルは魔法でナイフの先端を加熱してから、木桶の中に酒を浸しナイフを洗い、魔法の光に当てた、特別に作られた切開用のナイフを照らして、刃こぼれ一つ無いか確かめてから、男の膿んで、腫れ上がった右腕を押さえて、突き立てる。
凄まじい叫び痛みにのたうち回る。カールとエルが必死の形相で押さえ付けた。オーラルは、コボルトの爪を受けた傷を丹念に、ナイフで削いだ、コボルトは古い坑道や洞窟に住む魔獣で、大きめな犬程度の強い魔獣ではないが、その爪は汚れているため厄介な感染症を起こす。
のたうち回ってた男が、痛みのあまり、気絶した。
━━ようやく処置を終えたのは。日が沈んだ頃で……、素早く右腕の赤い手甲に触れ、友であり家族である。オーラルの土竜に意識を飛ばした、
『我、契約者たるオーラル・ハウチューデンが求める。癒しの奇跡を……』
そして……、右腕からJr.の息吹きが流れ、男の傷口を徐々に癒して行く……。
「癒しの魔法!」
「違うですの、土竜騎士だけが使える。補助魔法ですの」
「土竜騎士……の補助魔法?」
驚きを隠せないカールに、簡単な説明を加える。土竜騎士はフロスト騎士と似た魔法が使える。癒し、解毒等、違うのは神に祈るのではなく、相棒の力を借りる点。フロスト騎士や侍祭が使う癒しの奇跡ほど劇的な力はないが……、
「カールは知らないかもですが、オーラルがくれたあの本、最新の補助魔法が書かれてました、中には……、毒消しや簡易の傷を治す魔法がありましたの」
「傷を治す?」
呆然と眼を見張るカールに、訳知り顔で、
「大怪我は、流石に無理ですが、補助魔法は進歩してますの」
「そうか……」
クシャリ顔を歪ませるカールは、
「お湯……取ってくるな」
顔をゴシゴシ。耳を赤らめ走り去っていた。
少し考え込んでた、エルだったが、幼い顔を上げ、汗を拭うオーラルの背を見て。クスリ笑みを称えていた。ゆっくり一歩踏み出す決意を決めた。
まだ……不安だが、義父や義母が信じるこの人なら……、
━━数日後。次の村に向かうため、馬車はゆっくり出発した。
━━少し時間は戻る。オーラル達が、最初の村に着いた頃。
ギル・ジータ王国の港。カレイラは魔法を使って、ブラレールと共に、尾行していた相手から。行方を眩ませる毎に成功していた。
朝市がでてる日で、人出が多かったのも味方した。
「お待ちしてました」
約束の場所。乗り合い馬車乗り場に。質素な馬車が用意され。その前に、男装の麗人が、非の打ち所なく一礼する。
「まさか本当にこのような手段で、いらっしやるとは……、思いませんでしたが、ようこそ我が国に、歓迎します」
エバーソン国王の右腕。サミュ・リジル外交官自ら出迎えられるとは……、カレイラとブラレールは驚き見合う、
「初めましてですの、ミレーヌ・バレンシア・アレイクですの」
美しい温室の花をイメージさせる。ミレーヌはほんわか微笑してたが、ふっと彼女に、見覚えがある毎に首を傾げた。
「以前船で、お会いしたことありませんの?」
サミュは懐かしそうに、小さく笑いながら、
「はい、お久しぶりですね姫様♪。オーラルと我が王が、貴女を、助けて以来ですわね」些か、訳が解らないカレイラとブラレールは首を傾げたが、悪戯ぽく笑う。男装の麗人たる。サミュに見つめられ、赤くなるミレーヌ、
「サミュ・リジル外務官、良ければ…その話。聞かせていただけますか?」
8年前━━。
アレイ学園史上初めて……、ミザイナ部隊が、学園ポイントを貯めて。世界中を旅する栄誉を受けたことは。知られている。ただ……詳しい内容はあまり口外されない。深い理由があった……、
当時━━ただ一船だけ、世界中の国々を回ることを許される中立国。
それが……移動国家ダナイ、魔導船リバイアサンである。
ただし。在学生が含まれた場合は、3ヶ月の短い期間になるが……、
その年━━数年振りに世界会議が、リバイアサンで、行われる運びになっていた。
「あの時は、前魔王……ヒザン・アオザが出席した年でしたか?、生憎私は行けませんでしたが……」
カレイラは当時の記録を思い出す。サミュ・リジル外務官とギル・エバーソン国王は、
「その当時、学生でしたな?」
ブラレールの疑問に微笑を返して、
「私とギルは、成績優秀でしたので、国王からリバイアサンに乗船するのを、特別に許可されたのです」
ドヴィア騎士参謀イブロ・レダン、ラトワニア神国、神官長補佐セシル、現ナターシャ王妃、
「イブロとオーラルがいなければ。私とギルは死んでたでしょうね」
西大陸最強の剣士。聖帝サウザンドロードが、魔王ヒザン・アオザを暗殺しようとしたことから、魔王が怒り狂い。聖帝に怪我を負わせた。聖帝の剣と呼ばれる。聖騎士ナタク・レブロ以下、聖騎士達が魔王の行動に憤り。一斉に蜂起。各国の要人を人質に取る。暴挙に出た。
━━知られれば大スキャンダルである。
中立国であったリバイアサンの国王ネプチューンは、自国での暴挙に怒り。魔王ヒザンの力を借りて、聖帝サウザンドロードと対決した……、
「海が割れたと。レゾン陛下から聞いてますが……、確か…姫様が行方不明になられたと」すっかり忘れてが、秘密にされてる事が多すぎて、重鎮の一握りにだけ。伝えられた大事件だ……
その後……、最強の剣士と、最強の魔法使いの戦いにより、移動国家ダナイの魔法船リバイアサンは、航行不能になったと聞く。
今リバイアサンは、機械と船造りで有名な島国にあると言う……が、国王ネプチューン以下。行方不明者は甚大であった……、
「こちらの記憶では、ミザイナ部隊が、姫様を助けたと聞き及んでおりますが?」
確か……報告書を書いたのは、リリア・カーベンと言う宮廷魔導師。エドナ筆頭のお気に入り……、
「まさかオーラルは?」生徒を見るような眼差しで、サミュは懐かしそうに眼を細めた。
当時、退学となっていたオーラルを、エドナ筆頭とリリアがごまかして、リバイアサンに乗り込ませる事から、海洋ファンタジー真っ青な、冒険が始まった。
「イブロとミザイナ部隊の面々。そしてオーラル、私とギルは、力を合わせて、海に投げ出された彼女の救出を行いました。ただし……、魔王ヒザンの魔法、ネプチューン王の強力な水魔法により。私達は、海をさ迷う毎になりましたが……」
サミュ外交官の話に。当時を思い出したようだ、
「ああ~そうですの!、養成学校でオーラルを見た時。とても懐かしかったですの、助けられた時に、もう大丈夫ですの、と思いましたわ」姫の興奮した様子に……、サミュの話が、嘘ではなく。信憑性が生まれた。
リバイアサンから投げ出された沢山の人々は、激しい戦いの余波で、巨大な津波に流されて、死の恐怖を感じた。まるで地獄絵図の中。オーラルは見える範囲の人々に、水中でも息が出来る。風の魔法を使う、
「勿論ギルの助けが必要でした。当時ギルだけが、その魔法が使えたので」
初めて使う魔法。多大な疲労に、オーラルは気絶する。
咄嗟に彼と少女を背負いながら、無人島まで泳いだのがイブロ、
「無人島まで無事に着いた、私達100名は、途方に暮れました……」
無人島に漂着して5日。
奇妙な病に苦しむ人々が出始めた……。
「当時の私達は知りませんでしたが、鉄分欠乏症と言うそうです。ミレーヌもその病に掛かり。死の縁にありました。」
足りない食料……、飢えと喉の渇きは限界だった……、不安とストレスから罵り会う人々。いつ殺しいが合が起こるかの瀬戸際。レイナとピアンザが、大型の獲物を仕留めて戻り、
「オーラルとイブロの二人が、血を使った料理をして振る舞いどうにか、助かったのです」
皆で助け合い。船を造り、近くの国にたどり着いたのは、
遭難して24日後のこと━━。
馬車が、ゆっくり止まり。扉が開かれて、
「ようこそ我がギル・ジータに」美しい男装の麗人。サミュ外務官は、何事もなく先に降りる。
長旅に、疲れた姫は先に部屋で、休まれている。品の良い調度品の並ぶラウンジで、ラフに衣服を着崩すブラレールと顔を合わせ。先程のサミュ外務官の話について話し合う、
「これは予想外であるなカレイラ……、我が国はギル・ジータ………それ処か。各国の要職にある彼等に。大恩があるとは……」
自慢の髭を扱きながら、苦悩するブラレール。彼は、人々の安全を守るフロスト騎士である。人道上はその通りだが……、
一方で━━。
「なぜ今。そのカードを切ったか……」
意図が見えない。謁見の場で、話せば、少なくとも、ギル・ジータ王国には、利益を得た可能性が高いのに……、外交とは過去とは関係がない。いかな事があったとして……、
「そう言うことか……、これは中々厄介ですね」
重たい吐息を吐いた。サミュ外交官━━いや、ギル・ジータ王国は……、
それ処か、いかな国とも同盟を組むつもりはない。それがギル・ジータ王国の相違……。難しい顔をするカレイラに対して、ブラレールは首を竦めていた。
数日後━━━。
ギル・ジータ王国は中立国となると宣言する。この先如何な事があろうと、世界中の国々に介入しないと、正式に発表した。
3つの村を周り、様々な経験を積んだカールとエル、二人は、少しずつ変わり始めていた。
エルは積極的にみんなの手伝いを申し出るようになり、カールは補助魔法の勉強を暇があればしてる姿を見るようになった。
第1分隊の面々も。自分の役割をこなす位は、旅に慣れたようだ。
「次の村で、最後だね」洗い物を終えたクエナとエルが、片付けを手伝う、
「えっ……あ、うん」
ミラの歯切れが悪い、幾分浮かない顔をしていたが、夕飯は綺麗に平らげたから、体調の問題では無いだろう、流石に一月近く、旅に出たので、疲れたのだろうか?、
明日の昼近く。最後の村に到着するはずである。
━━━西大陸。パレストア帝国=元魔導王国レバンナ、
ギラムから急を知らされたピアンザは、寺院に急ぐと。待合室に、憔悴しきったたギラムが……、力なく座り込み。不安な眼差しで、時折。処置室を見ては唇を噛み締めていた。
「ギラム………、ラグの様子は……」
ハッと驚くギラムだが、小さく首を首肯していた。
「今のところ問題はない……」
ほっと吐息をついた、出てきた術者に話を聞いたが、
「多少傷は残りますが、大丈夫です」
ピアンザが静かに頭を下ると、慌てる術者に断りを入れて、処置室に入った。ベッドの上で、痛々しく全身包帯が巻かれる小柄な少女……、ピアンザは静かに苦悩する。此度のことは……、魔王と呼ばれながら、ピアンザの甘さが招いた事だ……、
オーラルは、それほど甘い相手ではない、侮っていたのは自分もだ……、
「僕に………殺せるのか?、あのオーラルを……」
キリキリ胸が締め付けられる。深い想いである。
「……殺す。あいつを殺す……」
うわ言のようにギラムが呟いていた。
━━━ギル・ジータ王国、王都。
尾行に気が付いてた二人とミレーヌを見失っていた銀髪の鋭い顔立ちのナタク・レブロは、王宮近くで、しばらく中を伺っていた。
「うむ……、一手交えるかいなか」
静かに腰の剣を抜いた。一瞬の銀光。
ガキ……刃が噛み合った。驚くナタクの前に、必殺の抜き打ちを受け止めたのが、細身の二本のナイフだと知り、驚き目を見張る。
「ほ~うこれは珍しい武器であるな」
感嘆の声を出していた。ナイフは古代の民の作った。特殊な力が秘められた物であるようだ。
「六将が1人、ナタク・レブロ殿とお見受ける……」
褐色の肌、精悍な顔立ち、品のある若者は、王族だけが身に付けることを許される。カーキ色のマントを羽織る。
「ギル・エバーソン国王か?、まさか国王自ら現れるとは……」
聖騎士ナタクは、ただ強き者と戦えることを望み。戦場を駆けた。言わば魔王ピアンザが、謀略の申し子なら、ナタクは剣の申し子。自身の一部である剣を。息をするのと同じくらい扱えた。そのナタクの一撃を、二本のナイフで止めて見せた。ただの飾りの国王ではなさそうである。
「狙いはカレイラ殿かな?、我が国でこれ以上の介入はお断りしたいですな……ナタク殿」
ギロリ殺気の隠る眼差しを、涼しい顔で受け流しながら、なおかつ笑みすら深め。
「移動国ダナイでの暗殺未遂は、聖帝の暴走ではなく、貴方の差し金と調べが、ついてます。いや……真の聖帝ナタク殿、大人しく投稿すれば、命までは奪いません」
ナタクの目がすっとすがめられる。
緊張を孕む。無言の会合……。
静寂━━……。
静かなる立ち回り。どれだけそうしていたか……、ほんの僅かな時間であるはず、だが……軽い高揚感と、倍以上の疲労を自覚する。フッとナタクは微笑して、剣を納めた。
「これ程か……、まさかカレイラ以上の好敵手に会えるとはな、良かろう……、我を真の聖帝と見破った三人目の男よ。貴様に免じ、今は退こう……」
すっと殺気が、嘘のように消えた。辺りから動物の鳴く声が、再び聞こえて来て……、安堵した瞬間。再びナタクを見たが……、いつの間にか、姿はなかった……、
じっとり汗の滲む手を拭いながら、大柄のナイフを仕舞い。ナタク・レブロのいた辺りを見つめて。腕をさする。その行為は粟立つ肌を温めるためのもの。「オーラル……貴方が、望まぬ限り、僕は、罵りを受けよう……、中立を守ります」
苦難な道を選んだていた。だがこの道はいずれ、我が国を世界が必要とする。最初のステップ、そんな予感があった……。
━━なだらかな山道。木々は途切れることなく、どこまでも広がる広大な森を、轍に沿って、第1分隊は進み。間もなく、最後の村に到着する予定だ。
「暑いわね~」
クエナが馬上で、汗を拭う。
夏の真っ只中。今頃は、都の中央公園で、夏祭りが行われである。沢山の屋台が並んでるだろう。
なだらかな坂が終わり、森の一部を開拓した畑が、村の入り口まで続く。小麦の穂が、重く頭をたれ、山風に静かにゆれる。田舎の風景、
「ん…………?」
微かに、見られてる気配があった。オーラルに向けられた視線ではない……、
ミラ先輩?、青白く血の気を失って、唇をかみ、微かに震えていた……、
何処にでもある田舎の風景……。そう…何もかもが、普通……普通の村だ、にこやかに出迎えてくれる村人達。ぼくとつと印象は、第1分隊を歓待してくれていた。
代表して青年団を束ねてると言う、30代の男が、宿として離れを提供してくれる。パン屋まで。案内してくれた。
パン屋は森に近い離れにあって。馬小屋まであるとのこと、安堵のクエナと共に馬車から馬を外して、水を与え。寝藁を用意していると……、
「ようこそ皆様、この暑い中、お疲れ様でした……」
柔和な顔立ちのパン屋の主人は、美しい娘を連れていて、第1分隊の食事の世話を、手伝ってくれるという、
「レイカです。何でも言ってくださいね♪」
目元が……ミラ先輩に似ていた、一瞬だが、レイカが、ミラ先輩を見ると、驚きと、嬉しさが顔に浮かぶのを見逃さない。カールは鼻の下を伸ばして。今にも抱き着きそうな様子に、ムッとして、エルがわざと重たい本を、足に落として……、痛みに悶えた。
「あらあらクスクス、大丈夫ですか?」
カールが怨めしそうに。軽くエルを睨むが、レイカに心配され満更ではないようだ。
人の視線がカールに向いた一瞬で、パン屋の主人から、手紙を受け取っていた。
`今夜、任務´
やはりさっきの視線の主は、この男か……、
上手く誤魔化してるが、かなりの手練れだと、僅かな挙動で見抜いていた。
レイカが夕食作りに来てくれて、オーラルは、馬達の餌やりと、馬車の補強に必要な木材がないか、村長に聞いて来ると言葉を残し、夕食を早々済ませて。離れを出たのは、辺りが真っ暗になってからだ。
村長の家に向かう途中から、森に入り、奥まった先の小川で立ち止まり、「この辺りでいいかな?ミラ先輩のお父さん」僅かな気配が動き、柔和なパン屋の主人が木陰から顔を出して、鋭い眼差をオーラルに向けていた。
「いつ気付きました?」にこやかに笑ってはいるが、凄まじい殺気を放っていた。
「確信は今。ミラ先輩を見た瞬間のレイカて女性が嬉しそうな目見て」
「あやつは……」
困ったように笑うパン屋の主に向けて。
「それに先輩の髪色は、どう見ても染めてるし、最近化粧で誤魔化した。ミラ先輩の姉……らしき女性と会いました。それで漠然と予想してました」
「はぁ~なるほど……『オールラウンダー』にはどいつも、騙せないな……」
フッとパン屋の主人から、圧力が消えた。再び柔和な顔を作り。
「貴方の考えてる通りです。オーラル殿」
パン屋の主人=黒衣の村長ゲント・エンディ=オーマ、
━━オーマ一族と言うのが、黒衣の総称。オーラルが会った女性こそ。現場の長であり、ゲントの娘、ミラは、真ん中、レイカの姉であるようだ。「わざわざこんな回りくどいことするんです。魔王の手。六将がらみですよね?」
はいと頷き直ぐには任務を伝えず。何やら考えているようだ。
「ノルカから聞いておる。オーラル殿が幻影の魔女、緑眼の騎士の二人を手玉に取ったと……、それにミラを、黒衣の一族と知りながら、密かにあれを鍛えてるとな」
やれやれ……、黒衣の一族の情報収集力は凄まじいな、呆れながら、嘆息して。誤魔化しなく本音を口にしていた。
「本来の手は退けました。この地にいる。残党は何人ですか?、出来れば、第1分隊の手柄にしたいですからね」
今のオーラルの立場は、あくまでも新人の少尉に過ぎず。
第1分隊は所詮新しい分隊である。秘密理に六将を退けようと。表立った手柄なくば、オーラルの立場は変わらない。
今や友は自国を守り、国を奪う戦いをしている。
「……オーラル殿、敢えて聞く。そんなに急いて上に立ち。何をするつもりかな?」
眼光鋭く、一挙一動すら、見られてると感じた。恐らくはそれこそがケレル……、違うな、彼等黒衣の狙いか、
……少しだけ迷う、自分が口にしていいのかを……、しばしの迷い。でもあえてゆっくりと口内で、言葉に練り直し、黒衣の村の村長の眼差しを正面から受け止めていた。
「ヒアンザと対人して、真意と真実を知ろうと思います」
一つ頷き先を促す。まずはそれを聞いてからでも、決断するのは遅くない。
「そもそもが全て違和感がありました。ピアンザは優しい人間です。わざわざ面倒な魔王になる理由が知りたい」
ほう……ゲントは、眼を好奇に細めた。
「貴殿に問う、それが、重大な物として、いかとする?」
またもや胸中を鋭く斬り込んで来たゲント。その意図は解らないが、オーラルは素直に答える道を選ぶ。
「ピアンザが、どんな思いで、混乱を招いてるか解らないが、重大な理由があるならば……、俺で出来る範囲で、友を助けます。ただし……それが、無用と判断したら、友……魔王を殺します」
今までピアンザが行っていきた。卑劣な行いすら……、オーラルは必要と判断すれば赦すと言う。
9年前━━。
王家に連なる。エトワールの当主の命に、ノルカ自らオーラルの暗殺に向かった。若かったノルカは当時有数の使い手、それを退けた学生がいた━━━。
「最後に。貴殿は、何故訴えなかった?」
王家=ケレル殿下。レイダ王妃に訴えれば、無用な苦労をせず。多額の賠償金を手に出来たはずである。オーラルはそれらを辞退していた。
本来の黒衣ならば、何も異論を覚えずに。ただ王家の命にしたがっていただろう……、何故顔を曝し。直接対話を求めたかゲント自身戸惑っていた。
恐らくその原因の一つに。娘のノルカの暗殺失敗した事件があった……。まさか暗殺する相手から放免するよう願いが、されようとは、本来黒衣の一族が、敵に捕まれば死を意味した。ゲントはそれを覚悟したが……、無事に戻った娘に、安堵を覚えてたと同時に、オーラルを甘いと笑っていた、ゲントはオーラルの真意を聞いても。甘いと笑うことが出来ず……、なぜか問うていた。
照れくさそうに、嘘偽りの無い、優しい光で、
「それは父の教えでした。喩え自分の命が狙われたと分かっても。その試練が必要だと感じたなら。自分が出来ることを、ただ信じてやるだけです」彼は当たり前のことを。自分が出来る範囲でやったと言うのだ。人が死ねば悲しむ者がいると……。この男は底なしのお人好しで、馬鹿みたいな世話好きなのだと、
だから……娘は、
小さく嘆息していた。そんなお人好しのために。一緒に苦労する者がいれば……、力を貸す馬鹿がいてもいいではないか……、そう思わせてくれた。ならば……密かに決めた。
「恐らく、集落にいるのは10人もいまい……」
━━3日後。ケレル殿下の元に、報告書が届く。村の近くに怪しげな一団を見付けた、
第1分隊はこれを殲滅。大量の火薬。以前戦士養成学校で、ミレーヌ王女を狙った。テロで仕様された爆硝石を使って、炸裂玉が大量に作られた状態で発見したこと。さらに……未使用の病原菌が入った、薬品が発見されたと。
「ギルバート将軍が参りました」
「殿下失礼します」
大柄で、鍛え上げられた身体、訓練中だったか、胸と肩だけ革鎧で守られていた姿。アレイク王国で家名をしらぬものはいない。ギルバート・ガイロンが将軍が、窮屈そうに座る。
「急用と聞きました故。このような姿で失礼します」
60に手が届く筈だが、未だに、部下の訓練は自らしてると言う、生粋の武人だ。
祖聖人アレイの弟子であり。
初代クラウベリア国王の守り手、
建国王バレンシアの友。それが現在━━我が国の守備隊を一手に引き受ける。ガイロン家の祖であり。我が国最後の砦、それがガイロン重騎士団である。
「これを見て欲しい」
「失礼します」
恭しく、報告書を受け取り。一読した、
「ほう……、これはまた」
驚きを顔に張り付け、ケレル殿下に問うように、視線を飛ばす。
「カレイラから、ギル・ジータ王国が、同盟を破棄、中立国となると発表される」
「ぬう……なんと」
魔王暗躍は危険を孕む。渦中のギル・ジータ王国は、信じられない行動に動くと言う。
「それでは?」
小さくケレルは頷き。
「リドラニア公国が、不穏な動きをしている。一方で。ドヴィア国とは同盟を継続の了承を得た。我が国の後ろ楯となってくれた。ラトワニア神国は、今まで通りであるが……、リドラニアが動けば彼の国はいつ戦乱になるか解らない……」
グッと背を但し、ギルバート・ガイロンは、静かに頭を下げた。
━━━━ギル・ジータ王国を後にした一行は、ドヴィア国王との謁見を終えて……、帰路に立つ日。
カレイラに急報が入る。
━━リドラニア公国が、
魔王ピアンザ=パルストア帝国と同盟を結び。ラトワニア神国に、宣戦布告したと………、
━━━━数日後……、アレイク王国、王座の間。
カレイラ一行が、無事帰還して、カレイラより報告を受けていた。娘の元気な様子に安堵したレゾン王だが、厳しい表情を変えない。「カレイラ帰還そうそう済まぬが……、同盟国。病床のラトワニア神王に代わり。王妃ナターシャ殿から、救援要請があった。我が国としては大恩ある国。よって我が国が誇る。二人の『オールラウンダー』を援軍として、送る」
どよめく王座の間、王命にケレル殿下は静かに頷き。カレイラは微笑さえ浮かべて、静かに頭を下げた。
エピローグ
━━━━カレイラ師団、駐屯地。第1分隊・隊舎、
任務を終えた、オーラル一行が戻ると、隊舎から、わらわら沢山の兵士が現れたから、オーラル達を驚ろかせた。
「オーラル団長に敬礼!」
ジン・ゲルマンが反りあげた頭を光らせ、凶相で笑う。彼は誤解されるが、子供好きの優しい人物である。
ロート・ハーレスひょろりとした体躯だが、頭の回転が早く、オーラルが在籍していた。戦士養成学校の訓練第1師団の中隊長だった男で、槍の腕はかなりのもの、
「お疲れ様です」
「ジン、ロートそれにみんな」
日焼けして真っ黒に焼けてるが、第1師団の面々健在である。
「ごほんごほん、オーラル君。彼らは何者かね?」
面食らうアロ中隊長に、一堂敬礼して、
「2日前より、第1分隊所属になりました、ジン・ゲルマン軍曹であります!」
「同じくロート・ハレース軍曹です」二人から、第1分隊所属を告げる。
命令書と……。
「これを預かっておりますアロ補佐官」
驚愕して、顔を青くしたアロだったが、急激に、理解して、思わず涙汲む。
『任命書、
此度の働き、我が、アレイク王国は、
第1分隊、
アロ・ジムスをカレイラ師団。補佐官=少佐、に任命する。
同文
オーラル・ハウチューデン、
カール・シタイン、
ミラ・バウスタン、を中尉に、
エル・フィアンを第1分隊所属に任命する。今まで、エルは少尉と言っても仮の所属だったが、正式の所属となった。
クエナは階級が上がって半年と立ってないので、昇級は見送られたが、働きに応じ勲章が送られた。
魔王の手をアレイク王国から駆逐して。ケレル殿下、カレイラの思惑が勝ったかに思われたが……、ギル・ジータ王国の同盟破棄。中立国宣言。
不穏な動きのあるリドラニア公国が、魔王と同盟を結んだ。