冬休みですが、私達の苦難は、これからです2
プロローグ
━━東大陸。アレイク王国。王都カウレーン。
街の中央より北側に位置する城の西側表門の詰所にある。第1師団の管理課に。来年度、戦士養成学校を卒業する。生徒達の名簿提出しに来ていた。ハウリ・バレスは、財務官カレン・ダレス=シルビアに呼び止められた。
「ハウリ卿……、少しよろしいですか?」
「これはシルビア財務官。ますます美しくなられて、妻に言ったら。羨ましがられますな~」
朗らか。そう表現が似合う。優しそうな顔の初老の貴族。そうとしか見えないのだが……、子息は、我が国の英雄だった。カレイラ・バレスである。
また朝早い時間てこともあり。登城している者は少ない。人目を気にしなくて良いと判断。
「先日のこと……。少しお伺いしたいのですが?。お時間よろしいですか」
「ええ構いませんよ」
にこやかに答えていた。
━━シルビア財務官の言う。先日のこととは……、
冬休みに入る少し前のことになる……、一部の内務の重鎮、それも口のかたい一部の者にだけ。通達された事があった。我が国にとって。大恩ある英雄王オーラル陛下からの親書のことである。その内容に。さしものシルビアとて唖然とした。
「シルビア財務官の聞きたい事とは、オーラル陛下からの親書の内容ですかな?」
「やはり……」
シルビアが聞きたかったこと。ハウリが承知していたかの一点。
「娘レイラは、正式に。シンク皇子と婚約しましたよ」
いつの間に……、
小さく唸っていた。飄々と掴み所がないハウリの噂は調べていたが、今さらながら……、流石はあの天才の父だと。感心するばかりだ。その一方で、アレイク王国としては……、三人もの婚約者が、民から選ばれた事実は……、とても喜ばしい事ではある。
━━それと言うのも。世界が平和になるにつれ……。
北大陸の情勢が芳しくないからだ。シルビア含め。多くの閣僚が懸念を抱いてた、またシルビアはそれとなく娘達から。友達となったレイラ・バレスのこと耳にしていた。ハウリに会う前に。婚約したとされる三人のことも調べた。嫌だがエドナ学園長に頭まで下げた。その結果。レイラ・バレスは、いずれ我が国の重鎮になれた逸材だと判断した。さらに言えば我が国縁深く。オーラルと縁も深い。家柄では劣るが、十二分に申し分ないのだが……。
「シルビア様。貴女は口の固い方と信じて、少し私の話に。付き合ってくれませんか?」
お茶の誘いに。政務も終わり時間の空いていたシルビアは、戸惑いながら頷いていた。
ハウリが案内したのは、シルビアが政務で、同じ重鎮と内密な話をする場合。相手の屋敷に足を運ぶ貴族街……。
中でも古い屋敷が並ぶ。あまり足を運ばない城の東側近く。それゆえ人通りも疎らで、ハウリは大きな屋敷の中に何も言わず入って行った━━。
「ここは……?」微かに見覚えのあった。紋章を目にして、シルビアは、眉を寄せていた。
━━古くも威厳ある屋敷の持ち主は、演劇の女神と名高い。リレーヌ所有の邸宅である。
アレイク王国の歴史において、演劇で人々に愛され。また多大なる功績を残した。それ故に彼女亡き後……、屋敷は演劇で使われた様々な舞台道具が、飾られた美術館として解放されていた。また花好きだったリレーヌは、庭園を、誰もが利用出来る。カフェテラスとしていたのだが、リレーヌの遺言で、今も屋敷で働くのは、リレーヌの世話をしていた。使用人達で、リレーヌの好みのケーキ、焼き菓子。紅茶を頂ける。隠れ家的な。知る人ぞ知るカフェである。因みに少しお金を出せば、二階の個室が、利用出来て、人の目を気にした。話をしたい人には、お勧めである。
「こんな場所が……」
ただ感心するばかりのシルビアに対して。
「実は……、私もオーラル陛下が、お忍びで訪ねられた時に。内緒だと教えて頂きました♪」
秘密の話ですよ?。軽く口にしたのは、とんでもない内容だった。
「それはまた……」
シルビアは、夫から内密に聞いていたが……、一国の英雄王が、こっそり王都にいたなど知られたら大事だ。おおぴらに言えない内容である。
「う~む。ケイタ殿に。聞かされてましたか?」飄々としたハウリだが、シルビアの僅かな反応で、鋭く見抜いた。ドキッとしたが、そこは政治の世界に身を置いてるシルビア。曖昧に笑っていた。にこやかに微笑みつつ。お茶とお菓子が運ばれ。口を湿らせ。しばらく熟考しながら。
「シルビア様には、話しますが……」
当時のことも踏まえ。話す必要を感じた。
「当時陛下は、陛下の元で働くよう。スカウトに来られました……」
「それは……」
想定外な話である……。あのオーラル自ら。出迎えたいと思わせた人物が、我が国にいた……、唸るしかない。
「私のことは一先ず。置きます……、これは妻にも内緒だったのですが、今シルビア様の座られてる椅子で、娘を抱かれたオーラル陛下は……、『いずれまた息子が世話になる』そう言われました……。あの当時……、社交辞令だと思いましたが」
言いたいことに気が付いて、一瞬言葉に詰まるシルビア、さもありなんハウリだって、忘れていたのだ……、夏休みの後。ヒナエ・バウスタンの母。ミラ・バウスタンと会って話した時に思い出した。あまりに滑稽な話だから、ミラに笑ってもらおうとハウリは話したのだ、すると━━。
「私は息子のカレイラを思って、言ってくれたのだと、ミラさんにも冗談をと笑われると思ってました」確かに。私が当事者でもそう思ったろう……、 「確かハウリ殿から、手紙を送られたと……」
「はいその話を聞いた直後。ミラの考えです。現状を知れば、便宜を図るだろうと……」
それはかなり有効な手段である。彼女はオーラルの仲間であり。彼の性格をよく知っていた。またこの国の貴族供が黙っていた。可能性は低い……、子息の安全よりも彼女達の立場を守らせる。最良の一手だったと。話を聞いてる内に気付いた。
「……彼女の娘ヒナエも。婚約者にえらばれてましたね……」
だから余計気になる。懸念を口にした。
「しかし……一般市民と変わらぬ。ノノフレイミ・ラネスは……」不安を口に出そうと。したのをまるで見計らったように。
「シルビア様は知らないのですか?、ノノフレイミは、あの魔王の愛娘のお気に入りですぞ?」
予想外な答え。ハウリの話は、シルビアとて……、初めて聞くものばかり。口をつぐんだ。
「それは……、知りませんでした……」
「ミラさんの話では、クルミ様も婚約者ではないかと……。聞いております」
「なんと……、いつの間にそんな話が……」
あまりにもシルビアが知らないことが多すぎた。またハウリはどうやって、これ程の深い内情まて知ったのか……。ゾクリ肌が粟立った。彼の能力を軽んじていたこと。深く恥じ入る。
そう……、考えたら……、わかったはずだ……、ハッとした。其ほどの才を備えていたのに。誰にも悟られなかった。だからオーラルが自らスカウトしに来たのだ。侮ってよい相手ではない。それどころか……、重鎮に名を連ねて居ないことが問題だと痛感した……。知らず知らず唇を噛んでいた。我が国は、これ程の人材を逃していた。溜め息すら生ぬるい。難しい顔をしていた。
「シルビア様……。陛下の姉君と友人の貴女ならば……、間近に見ておられますな~。シンク君の人となりを?」
この方に隠すのは無意味だと。今さら思って、自嘲しながら。
「ええ……」観念して頷いた。それにしても内心唸っていた。ハウリ・バレスが一介の近衛連隊小隊長でしかなかったとは……。
悩ましげな顔で、吐息を吐いてる。我が国有数の重鎮を前に、ハウリは感慨深く。当時を思い出していた……、オーラルが誰にも内密にアレイク王国に来た理由━━、
ハウリを。自国の重鎮に迎えたいと。直々にスカウトしに……。そう言いに来られたあの時の魂の震えを。男なら一度は夢見るお誘いであった。
しかし━━アレイク王国には、亡き妻が眠り。一度失った生き甲斐を与えてくれた。愛妻マリアがいた。それに口内で呟いたのはカレイラも眠っていた。
「レイラが、あの子の夢を叶えるか……」カレイラとケレル殿下の夢……、
それは世界の国々をまとめ。統一国家を作り上げること。
もしも……、
そんなことが可能な国があるとしたら……、
彼には、それを成しえる可能性があった。
「幸せになるんだよ。私達の可愛いレイラ……」
━━王都の東。
大通りと呼ばれる。商家が並ぶ通りに。マノイ商会があった……。茶色い髪。最近めっきり背が伸びたレンタは、父の仕事を手伝うようになり。商人の修行を真面目に頑張っていた。姉のフィルが、あんな事件に巻き込まれてたなんて知らず。しばらく両親が落ち込んでいたのだが……、
「姉ちゃん。レイラさん来たよ」レンタの後ろ。ほっそりした顔立ち。金の髪を後ろで束ねた。レイラ・バレスが穏やかな笑みを浮かべ立っていた。
レンタがいくら考えても。あんな大変な時期。姉達を救うことは出来なかった……。両親共々……、どうして良いのか分からず。毎日が深い沼地を歩いてるような。辛いものだった……、そんな大変な時に。救いの手を差しのべてくれたのが、レイラさんだった。
あのトーナメントもレイラさんが裏で、学園を動かしたこと。姉から聞いた両親から、聞かされていた。本当に劇的だった……、
お店だって一時期はたたむとまで、両親は一度はレンタに言ったのだ……、
そんな暗闇にいた姉達の立場が、変わり始めたのは、夏休み前の個人ランキング戦からだった。なんと三年1位に輝き。沼地で花が咲き誇るように。笑顔が増えていった……、だからレンタは、両親共々レイラに感謝していた。
「はあ~い。どうぞお入り下さい」
「お邪魔します」
柔らかな優しい笑みを向けられ。レンタが赤くなっていた。
「あっあのレイラさんは、シン兄の彼女なの?」 一瞬迷って、それでも聞かずにはいられず。口にしていた。足を止めたレイラは、意表を突かれ。目をパチクリ。
「……そうか、レンタ君は、孤児院の手伝いをしてたのね?」
ようやく思い出していた。愛するシンクの顔の広さに。小さく苦笑を浮かべる。
「うっ……うん」真摯な真っ直ぐな目を受け止め。
「そうです。私はシンクの彼女で……。いずれ彼の妻になります」
何のためらいもなく。キッパリと言ってのけた。レンタはドキドキしながら。一瞬気圧されたが、ぐっと歯を噛みしめ。
「そっ、その……姉ちゃん…………」
俯いて、言い淀む。それで何となく察していた。 「大丈夫レンタ君。君の大事なお姉ちゃん。彼女の気持ちも。ちゃんとわかってるからね」
ハッとして顔を上げた時には。残像のように。柔らかな優しい笑みをレンタに残し。レイラは姉の部屋に入って行った。
部屋に入ったレイラと。目が合った瞬間。扉の外の会話を聞いていたフィルは、羞恥でで顔が真っ赤になっていた、滅多に動揺しない。フィルの狼狽した姿が、なんだか可愛らしくて、クスクス笑っていた。その視線にいたたまれず。身を固くしたフィル。
「フィル貴女がね……、今は、とても戸惑ってるのではなくて?」
シャイナの事が、心に深い傷を残していた。周りはその事を知っているから。トラウマを抱えていても可笑しくない。そんな彼女の心情を思い。心配して口にしたのだが……、
「ごめんなさい……、レイラその……私は」
抱えていたのは大きな不安と、レイラに対して、済まないと思う……、謝罪の気持ちだった。だからレイラは自分の過ちに嘆息して、フィルにつかつか近付いたら━━。彼女は目を瞑り。歯を食い縛る。愚直過ぎるのがネックだけど……。
クスクス優しく微笑みながら、フィルを抱き締めていた、
「貴女は、私の右腕……、私の……私達の王は、貴女を愛してくれるわ。だから安心して、彼の胸に飛び込みなさい」
意外な優しい言葉を耳に、レイラの温もりが……、まるで冷えた心を包み込むようで……、レイラの首筋に顔を着け。
「レイラ……私が……、良いのかな?、私は……」
クシャリ泣きそうな顔をする。不安で胸が張り裂けそうなのだろう……、自分もそうだった。
「大丈夫……、貴女は貴女よ。自分を卑下しないの!」
「……はい」そっと涙を拭い。フィルの活発そうな顔に、ようやく晴れやかな笑みが浮ぶ。
エピローグ
後年……、
7人の妻達の中でも。シンク王の寵愛を受けた。天才軍師レイラ・バレス。右腕フィル・マノイ率いた。乙女十二神将は、シンク王を狙った敵を。1人も逃がさず。殲滅してみせて、敵対国を戦々恐々とさせたと言われている。
愚直で生真面目な、フィル・マノイが、シンクと正式に婚約をするのは、疑似神との戦の最中だとされていた。
落ち着いたフィルと。改めて顔を合わせ。フィル達五人の役割。来年は四年生である。その後について、二人の話し合いは深夜まで続いた。




