トーナメントは激闘ですが、譲りません。
シンク皇子がなした偉業から、一月。新しい催し。トーナメント戦が、白熱を帯始めた。
一方で……は、シンクを慕う。魔王の愛娘リルム。希代の天才軍師と呼ばれるレイラ。二人による火花はこうして始まった。さらに撃鉄の剣豪クルミ、ヒナエ、自分でも気付かなかった才能を開化し始めた、ノノフレイミ、ローザ、苦労人フィル、後の世で、7人の妻たちが、一同に会した時と言われる瞬間だった。
プロローグ
アレイ学園で、新しく催しされたトーナメントは、予想外の好評もって、全一回戦が、無事終了した、
それと共に。学生達は、月末の試験に挑み燃え尽き、終えれば。
━━明日より。トーナメント二回戦が、始まろうとしていた……。
首都カウレーン=昔アレイクの町と呼ばれた。北の通称貴族街。閑静な屋敷が並ぶ、一角に。古くも大切に使われてる。屋敷があった、
バレス家と聞けば、アレイク王国の民は、瞠目する。今は亡き。救国の英雄カレイラ・バレスの生家である。
妹レイラは、カレイラの死後産まれた。年の離れた妹で、母マリアは、近衛連隊小隊長であり。海洋交易を取り締まる。部署に所属している。いわゆるエリートだ、現在ブルー・ファミイユの命により。密輸の内偵をしていた、昨夜は大捕物だった……、相手を取り押さえる時のこと。軽くですんだが、利き腕をナイフで刺され。手傷を負った。
その為……、
数日の休暇を言い渡され、久しぶりに庭の手入れに勤しんでいた。マリアは、娘と同じの美しい金髪を、任務の為に邪魔にならぬよう。短くボーイッシュにしていた、その為もあるが、年齢より下に見られがちだ、童顔なのは、仕方ないにしても。最近の悩みは、夫と出かけると……、未だに
『お父さんと。お出かけですか?』
何て言われてしまう。娘と出かけても姉妹と思われ。それがちょっと悩みだ。
「奥様。よろしいでしょうか?」
こっそり気配なく。現れた老女は、カレイラの幼少より、バレス家に。長年支えてくれるレニアに、ビックリしながら、にっこり人好きする。優しい笑みを浮かべるマリア。
「どうしたのレニア?」
「はい……、お嬢様の思い人のことです……」
ドキンとした。夏休みに、娘の友人達が訪ねてくれた、嬉しい日を思い出す。友達達から聞いたのは、娘の友達に男友達が要ると聞いて、それはそれは嬉しく思った、そして娘からそれとなく話を聞いたら、彼に仄かな想いを抱いてるこに。気が付いた、それとなく娘の思い人。彼のことを調べてたのだが……。夏休みに。とんでも無い偉業を為した。
彼ことシンク・ハウチューデンは、中央大陸唯一の人間の国。輝きの都プロキシスの皇子で、あの救国の英雄王オーラル・ハウチューデンの子息であり、我が国において、『オールラウンダー』の称号を与えられた。生きた伝説である。
まさか娘のボーイフレンドが……、最初こそ驚きはした、と同時に。自分を圧し殺すきらいのあるあの子がと、喜びもあった、何時も無理をしていた、あの子が普通の娘のように。仄かな想いを抱いてると聞けば、その思いを応援したくなっていた。
一度噂のシンクと、会って、話がしたいとも考えてたマリア。まさか夏休みに。あれほどの事件が起こるなど、予測は出来なかった。最早英雄王オーラルに劣らない、名誉をあの若さで成した、噂では各国の王達はシンクを英雄として、認めたと言うから驚きである。
シンク皇子が、以前と何事も変わりなく。アレイク王国に戻ってると聞いたときは、驚いたものだが、流石は英雄王の子息だと、妙な感心をした、
それはそれ、これはこれ、娘の想い人の事が、知りたくなり、それとなく、ブルー・ファミイユから、シンクの住まいを聞き出して、婆やのレニアに。それとなくシンク皇子の様子を、調べさせていた。
「奥様、噂で言われた翼人の女性を連れて戻られたのは、本当でした、がシンク皇子の偉業を聞いた輩から、姪のリナ様を守る護衛役のようです」よかった……、安堵したのも束の間。彼は今や人々から注目される。時の人だ、良く思わない輩も増える……。有力貴族など。露骨に動くだろう……、不安で一杯なマリアを他所に。シンクの周りを見詰める。人々は危うい均衡の上にあった。
貴族街の奥に位置する。宮殿と見まごう。絢爛豪華な屋敷があった、アレイク王国に。巣食う貴族院議長ローゼンブルク・アーネス・ヒルイク、古くはアーネスと言う、西の国境の町を所領する侯爵である。普段からの怠惰な生活が祟り。まだ四十半ばながら、肉を蓄えた。デップリした体格。禿げ上がった頭に、脂汗滴ながら。頬の肉を揺らせ、イライラ踝まで沈む。豪華なジュータンを、行ったり来たりする。遠縁に当たるとはいえ……、
自分より卑しい出生の王に、欲しくもないが頂くことになり、崇めなくてはならない。憎々しく思っていれば、先だって中央大陸で、まさか王妃様の従兄弟が。軍国将軍バローナだったと知り。歯噛みする。アレイク王国の重鎮が代替わりして、中枢に食い込み。更なる権力を握るチャンスが、いなされたのだ、
「まあ……いい。それよりもシンク王子だ、あれほどの逸材だったとは盲点だった……、よく英雄の子は、凡人だと言うが……」
オーラル王、その父、弟、子息と英雄、豪傑、逸材ばかりと信じられぬ話だ……、生憎シンク王子に見合う年齢の子は、親戚中探したがいなかった、よって政略は上手くなく。またアレイ学園の生徒ゆえ。強引な手は出しにくい、
「忌々しいことにな……」
鼻を鳴らした所に。衣擦れの音がして、胸元の開いた。扇情的なドレスに身を包む。美しい女が、断りもなく入って来た。途端肉が、雪崩を起こして崩れる。好色そうに目を細め。食いつかんばかりに女の腰を抱いた。
「あっ、侯爵様。まだ早いですわ♪」
淫貪めいた。蠱惑的な眼差しに。肉を震わせる。辛抱たまらんと、女を抱き寄せ、絨毯の上に押さえつけると、女の身体をまさぐりだした瞬間。三回指が鳴るや、侯爵の目が虚ろになり、動かなくなった、
「愚鈍な屑が、私の上に乗るな!」
女にピシャリ殴られ。虚ろな眼差しのまま、
「……はい、申し訳ありません」
侯爵は従順に従う。フンと鼻を鳴らし。忌々しげな顔を隠さず。大きな窓を少し開けて、鳥を真似た指笛を鳴らして、合図がなされ。間もなく。音もなく数人の全身黒衣に身を包む。女達が現れた。
「それで調べは終わったのかしら?」
「はっ全て滞りなく」
「そう、母さんに頼まれた方は?」
「はい頭、レイカ様の推測通り、ローゼンブルグは、ローレイ商会から、金をもらい情報を流していたと分かりました」
部下達は、見目麗しい女性だけで組織されている。黒衣のエリート部隊で、別名黒ユリ部隊と呼ばれている。特殊な訓練を受けた女性達は、主に男の性を利用して、秘術を仕掛け。意のままに操る技を。得意としていた、若き黒衣の長となったアオイ・エンディ・オーマ、貴族の地位を与えられたレイカの、養女である。
「ノルカ様に知らせなさい、後は侯爵の記憶を消して、何時ものように……」
アオイの命に、二人の部下が頷いた、それぞれ催眠術の技量は、アオイに並ぶ物達である。
「私は、レイカ母様に。報告に戻ります」
颯爽と部屋を出た瞬間、幻が消えて、あどけなさの残る少女が現れた、
「まったく……。何故私が、学園に通わなきゃならないのよ……」
強い不満を抱いていた、
それに……面倒なことに。トーナメントで、従姉のヒナエと戦う羽目になったし。面倒で仕方ない、だがこれも長老のノルカ、母レイカの命だから、仕方ないのだが……、
ノルカの命は、それだけではない、シンク皇子の動向も。つぶさに報告させられることに……。疑問を抱いていた。しかし夏休みで、疑問は消えた。何故それほど気にしてるのかが、わかったからだ……、救国の英雄王オーラル・ハウチューデン、アレイ学園『特待生』で、学園史上最強部隊と呼ばれる。ミザイナ小隊副隊長だったが、ある貴族の謀略により退学。その後の活躍は、サーガになっているほど……、従姉が件の皇子に。熱をあげてると聞いて、何故か二人は嬉しそうなのが分からない……、だから余計に気にくわない、しかし件の英雄に。黒衣は救われてるのも確か……、どんな男かは分からないが、所詮は噂だけで、大したことはあるまい、一泡吹かせてやろう、内心思いつつ。アオイの足取りは軽くなっていた、
━━━トーナメント二回戦。
連日の激戦につぐ。好勝負が、コロシアムで繰り広げられ。学年ランキングとは違う熱い戦いに。見る者に。感動と奮起と興奮を与えた。それにより学生達に。大きな意識の変化が現れてきた……。
最初こそ。新しい賭けの対象として……、
トーナメントを見ていたのだが、いつの間にか、賭け屋は、閑古鳥が鳴き、ただ学生達は、真摯な気持ちで、トーナメントを見ることを選んでいった、
それは……、
学生達の素顔が、全く見えない。魔導兵を用いた、学年ランキングとは、大きく違い。
素顔の見える。ライブでの生の悔しさ、真剣さ、生徒達の息吹きすら感じられ。生徒達に大切なことを、思い出させたのだ、競い会う楽しさと、勝つ喜び、仲間の大切さと、達成感であった、
新しい競技に。今必要となるのは、トーナメントのカリスマ性を持った生徒の出現である━━━、
その候補の1人が、再び舞台に立つ……。
一回戦、
『オールラウンダー』候補四天王が1人。モンスター討伐で、圧倒的力量にて、ランダルフ・フィレンツェを破った姿が、あまりにも鮮烈で、眩しすぎて……、皆の印象に残っていた。沢山の生徒が、もう一度。あの勇姿を見たいと切に思い、観覧席に集まっていた。
━━時間は、少し戻る、日も登らぬ早朝。
学園のある南通りの歓楽街。その一角で道場を営み。ヒナエ・バウスタンは暮らしていた、
「ヒナエ姉、早く起きないと、ご飯食べれなくなるよ」
いつもは自分で起きれるのだが、連日の訓練を重ね。疲労が溜まり。母に朝は起こしてくれるよう頼んでいたのだが……、
「ん……、あっ、あれ?、アオイちゃん……」
眠気に。ぼ~っとしてたヒナエだが、目を擦りながら、ぱちくり目をしばたかせていた。やっぱり起きれなかったか、そう思いながら、
「お母さんは?」
キョロキョロ辺りを伺うが、気配は無かった、
「ああ~伯母さんはなんか、レイカ母さんに呼ばれて、慌てて出てったわ」
苦笑気味に、アオイが説明する。
「まったくお母さんたら……」
呆れたように呟いていた、ヒナエがなぜ母に起こしてくれるよう。頼んだかと言えば、母が今日は1日いると言ったからだ。
プリプリお冠な従姉の様子に、小さく苦笑しながら、伯母さんは母との約束を。すっかり忘れていて、
「私が、一応母に言われたから、知らせたの」
朗らかに笑いながら、アオイちゃんならこれ幸いと、丸投げされたと説明を受けて、ヒナエは心底済まなそうに謝る。
「ゴメンねアオイちゃん……、忙しいのに」
母が、黒衣の一族の出だと、聞いたのは、夏休みが終わって、すぐのこと、それから父さんには内緒で、ノルカ伯母さん、レイカ叔母さん、養子のアオイちゃんを紹介された。
「今日は、ヒナエのチームと、トーナメントやるから。手加減しないわよって、言いに来たんだけどね……、ついでにご飯用意したけど、食べる?」
「うん♪、食べる」
こうして二人が並ぶと、本当に双子の姉妹のように、似ていた、ヒナエが左の目元に、泣き黒子があるが、アオイにはなく、違いはそれくらいで、二人が揃って出掛けると、双子と間違われた。
アオイの方が、二歳下であるが、妖艶な魅力と、幼い顔立ちのアオイの眼差しに、ヒナエとて時折ドキリとさせられる。
「それはそうと、ヒナエ姉の好きな人って、どんな人なの?」
食事も終わり、片付けを並んでしながら、突然聞かれ、ヒナエは慌てた、
「アオイちゃんが、どうしてシンクさんのこと知って……」 やや青ざめ、不安そうに伺う。最初はヒナエと同じく戸惑いがあったが、可愛らしい性格のヒナエを、深く知るうちに、アオイは素直に姉と慕っていた、
それでなんとなく面白くないのが、ヒナエの見たことがない。可愛らしい表情に。段々意地悪したくなったが、今日の対戦を考えると、それは面白くないなと改める。
「ノルカ伯母さんが、レイカ母さんに言ったの聞いちゃってたから……」
当たり障りなく。口にすると、見るからに安堵したヒナエの、子犬のような愛らしい様子に、なんかイライラした。
「アオイちゃん!、貴女なら一応信用するけど、シンクを好きにならないでね」 あまりにも真剣に言われて、いささか考え過ぎではないかと、思ったが、とりあえず頷いた、するとまだ不安はあるが、ひとまず安堵して、 「最近母さん、本気でシンクと手合わせしてるんだけど、互角なの……」
困ったように、でも大切な宝物を見せたような。熱に浮かされた、艶っぽい横顔を見ながら、アオイはびっくりしながら、
「ミラ伯母様と……」
それは予想外な話である。所詮は英雄の二世は、凡庸だと思ってたのだが……。
「アオイちゃんだから言うけど、最近お母さんと、一緒に訓練してるのに。シンクさんと、たまに試合してる方が、お母さん楽しそうにするから……、ちょっと不安だったの……」
複雑そうな悩みに、アオイも困ってしまう。アオイからすればミラの体術の技量は、母レイカ以上で、伯母ノルカ様に肩を並べるレベルである。噂の王子様が、二人と同レベルの剣士だと言うのか?、
「剣士として一流なんだね……」そう結論して、声を掛けたら、きょとんとされ、目をパチクリ。
「違うよアオイちゃん、シンクさんは体術だけでも私以上だけど、あらゆる武器の扱いまで一流なの。多分あのオーラル様以上だと、私達は考えてるわ」
私達?、訝しげに思ったが、あらゆる武器、武芸に秀でてるのか、小さく唸る。 苦戦は必死かと、この時は、軽く考えていた、
アオイの入った一年の学年部隊は、個人ランキング戦でも。5指に入る。強者部隊である。
一回戦を圧勝して、みんな勢いに乗っていた、いくら優勝候補だろうと、付け入るスキは必ずあると、楽観視していた。
オーダーは部隊長のアオイが決めて、ヒナエと戦う可能性のある。総合武術戦を回避して、魔導兵戦を選んでいた。
『魔導兵戦にエントリーした生徒は、規定の場所に。お集まり下さい』
魔導投影に。対戦が、映し出され。どよめきが上がった、
━━魔導兵戦、
シンク・ハウチューデン、
Vsアオイ・エンディ・オーマ
馬車に乗るとき、初めて対戦相手が、シンクだと気が付いて、意外に思ったが、丁度良いと、ほくそ笑む。
「ヒナエ?、いや……気配の質が違う……」
驚いたようだが、一瞬で、ヒナエとは違うと見抜かれた……、
「初めましてシンク王子、私はアオイ。ヒナエの親戚に当たるの。二人でいると、良く双子と互角されます。似ているでしょ?」男に媚を売る術は心得ている。魅了してやろうかと思いながら、豊かな胸を強調して、艶やかに余裕持って、笑みを浮かべた、しかしシンクは全く興味を持った様子がなく、いささか当てが外れた。
「似ていますが、貴女は……黒衣の方ですね」
チラリ馬車を操る。教諭に悟られないよう、声を潜めた瞬間、アオイから表情が消えて、血の気が失せた、シンクは目をすうっと細め、一切の油断すらなく、アオイの動向を見られていた、
『こいつ……、やなやつ!』
何となく面白くないと、ムッとシンクを睨み付け。
「何故分かった?」 声音を押さえ、殺気すら滲ませ訪ねた。しばらくアオイの様子を見ていたが、目元を柔らかくして、 「どうやら。いつも僕を監視していた人では、ないようですね」
ピクリ僅かに眉根が動く、確かにシンクを見張っていた者はいた、
「しかしアオイさんと言いましたか、貴女は最近僕を監視してましたね?、その中で、一番腕は立つようですが……、その程度なら安心しました。あまり無作法だったので、何度おかえり願おうか、迷いましたが、ほっといても丁度いいくらいですし♪」
「なっ……貴様!」
安い挑発だったが、自分たちの仕事に。自信のあったアオイは、頭に血が登る。
「今の言葉……、もう撤回しても。許さないから……」
圧し殺した声音。冷たい殺気をシンクに放っていた。
コロッセオ内の二人の様子が、観覧席のターフビジョンに。ライヴ映像が、流されていた、皆が見上げている中。美しい黒髪を背に流し。上品なドレスに身を包む。妖艶なる美女は、食い入るように、シンクと言い争う娘を見て、小さく嘆息した、
「まだまだ青いわね。みえすいた挑発に乗るなんて」
呆れたように呟いたが、それも仕方ないのかもしれない……、
「あの子のプライドが、邪魔をしてるようね……」
二人の唇を読みながら、小さく苦笑していた、彼女からは一切の気配すら無かった、その為隣に座る学生すら。レイカの存在に気付かない。
「゛レイカ……珍しいわね″」
突然黒衣独特の伝達術が使われ。レイカにだけ声が伝わる。伝達術とは魔法と違い。魔力は一切使わず。独特の発声法を何年も訓練して、会話したい相手に、自分の声だけを伝えれる技である。黒衣の手練れであれば、ある程度の距離すら関係なく、相手に声を伝え。また小頭以上の者ならば、遠くの町からでも。相手に扱えると言われていた。レイカは小さく苦笑浮かべ、姉の気配を探したが、随分と遠くからだと、意外そうに思ってると、
「゛あの子に、これ以上近寄ると気付かれちゃうからね″」
姉が珍しく。弱気なことを言う。
「あの皇子が、其ほどの使い手なの?」
姉の慎重過ぎる発言に困惑した、
「゛レイカ……、もしもよ……。私に気付かれることなく。手紙を持たされてたと、言ったらどうする?″」姉に気が付かれずに?。
「゛そんなこと出来る使い手は、いないわ″」
そんな姉に、気付かれずに手紙を持たせれるとしたら、レイカが知る限り三人だけ……、それも英雄と呼ばれた彼等クラスだけなのだ、真っ当な答えに、町の外で、ぶらぶら散策してたノルカは、苦笑を滲ませていた。ノルカは黒衣最強の使い手と呼ばれ。今のレイカですら敵う気がしない。
「゛それが……監視対象者から、手紙を渡され、気付かなかったとしたら……″」
「まさかあの皇子は……」
いくらなんでも冗談が過ぎると、考えていたレイカだが。
「゛オーラルから頼まれたそうよ。私に気が付かれることなく、手紙を渡すようにと……″」
今度こそ。レイカは血の気を失っていた、もしも……それが本当ならば……、
「……アオイでは、絶対に勝てない!」
呻くように呟き。総毛立っていた。
魔導兵戦は、量産型傭兵機体が用いられる。その為機体の差は無いから。ダイレクトに、操縦士の力量が、反映される。アオイの機体は、細身の二本の剣に対して、シンクは剣を選び、対人した。
『二回戦、魔導兵戦。第三試合開始』
操縦士の意識に、直接魔導師から、知らせが入った。
アオイは、不敵に笑いながら、二本の細剣を軽やかに振るい、颯爽と機体を操り、シンクに迫る。
まさに縦横無尽、シンクの死角からの。素早い攻撃を仕掛けた、しかしシンクは慌てることなく。あっさりいなしていた。『へえ~この程度は、受けられるのね♪』
楽しげに鼻を鳴らし。シンクの誘い込みを。わざと領域に足を踏み入れ、その上で自分は勝のだ、ほくそ笑む。魔導兵の操縦士として、かなりやるのは、『学年戦争』を見て分かっていた、
そして弱点も……、
シンク皇子は、僅かだが右で、武器を構えてる時。左上から攻撃されると。反応が遅れる。また構えがやや下がる傾向があった、それは刹那の攻防では、弱点となった、
『チャンスは一度、絶対見逃さない!』吠えずらかかしてやるんだからと、意気込んでいた。
アオイの連続技に。シンクは防戦一方となってい、否応なしに下がるしかないシンクの機体を、
『今!』
狙い済ましたようなタイミングで、低く跳び跳ねるような独特の歩方。黒衣の奥義尺地を用いて、みるみるシンクとの距離が━━━━、
観覧席で大きなざわめきが上がった、
『殺った!』
英雄と呼ばれ始めたシンク皇子相手で、しかも実力で力量を上回った上で、倒して見せ━━。
━━それこそが、アオイの油断だった……、黒衣の中で、天才と黙されていた、それゆえ傲っていた、僅かにシンクの腕が下がる癖を見せていた……、
『やはりその程度でしたか……』
残念そうにシンクは自分でも珍しく。苦笑していた、ヒナエと同じ顔、声。それ故に。彼女と同じ力量だと、勝手に思ってた自分に対して、嘆息した。
アオイが間合いに入り、先に仕掛けた筈だった、攻撃する瞬間まで、確かに剣は右手にあった筈だった……、いつの間に、剣が左手に、そう思った次の瞬間。
アオイの渾身の一撃を、あっさり受け止め。剣を掴んだ手を。ひょいとひねり。勢いそのまま投げられた。
凄まじい破砕音。轟音を上げで、岩を削るように。頭から投げられた。
『グッ……』
咄嗟に身体をひねり、頭から落ちるのは防いだが、無理をしたため。足の間接部分が、かなりのダメージを受け、操縦者に報せる。アラームが流れた、
『……まさか……、そんなまさか!、あの弱点はなに、もしかしてわざと?、じゃ』
アオイが我に戻る前に、シンクの機体が一瞬で現れ。避ける間もなく。討ち取られていた。
茫然自失となっていたアオイは、棺桶のなかから身を起こし、惚けていると、完敗だった……、5━0の勝敗に、アオイは唇を噛んで、悔しい気持ちを圧し殺し。初めて自分の不甲斐なさに。悔しく泣いた……。
歓声に答えるシンクは、最早学生達の憧れの的である。生きた伝説と言っても過言ではない。今やオーラル陛下のご子息ではない。シンク・ハウチューデンの父が、あのオーラル陛下だと言われる程に。シンクを英雄視する者が増えた、それも仕方ないことである。
━━翌日。
噂の彼を支えるように、然り気無くレイラや、何人かの女生徒が、シンクの側にいて、楽しげに談笑する様子や、噂の女の子達との秘密の練習が、噂されていた、またある女生徒が、
「シンク様は、休日の中央公園で、子供達に囲まれて、それはそれは皆にお優しいのよ」
まるで自分の事のように自慢すれば、
シンク皇子の優しい笑顔見たさに。朝市、アレイ教のバザーに。女生徒が殺到したと言う、それも仕方ないだろう、かの皇子様は、まるっきり王族らしくない、気さくな人物で、観察官として、一般生徒にまで、気を配る姿をみていた。何時しか女生徒は、魅力的な男子生徒として見詰め、男子生徒は、シンク皇子の強さに羨望を抱き。口に登らない日は、なかった……。
日を追うに連れ。生徒達は、徐々に。『オールラウンダー』候補四天王の1人、レイラ・バレスこそが、シンク皇子のガールフレンド最有力として、認め噂を広げた、もしも二人が恋に落ちれば……、アレイク王国で、世紀のロイヤル婚と呼ばれた、ミレーヌ王妃とレヴァ王の純愛に次ぐ。世紀のカップル誕生かと囃し立てた。
今も噂話を聞いていた、リルム、クルミは不安のあまり憔悴させていた……。
白銀の髪を、颯爽となびかせ。美しすぎる二年生。リルム・アオザ・パルストアが、勇ましくすたすた。当てもなく歩いていた。その後を……不安そうに。おろおろしながら付いてくのは、男装の麗人エルマ、父はあの英雄の1人、緑眼の騎士ギラム、現ラトワニア神国の将軍で、幼き日にリルムと出会い、幼なじみであり、姉妹のように暮らしていた時期があった、それ故に自分にない高い王の資質を持ったリルムを敬愛し、生涯守ることを密かに誓っていた、
アレイ学園に転校したのも。リルムが年齢を偽り、わざわざアレイ学園に通うのを手紙で知り。お嬢様を守る!、との決意から、なのだが……、
エルマが、一年見てきたリルムは、彼女の予想を遥かに越えた存在だった、あのオーダイ元将軍の弟子となり、昨年苦汁を舐めた『学年戦争』で、念願の勝利し。最早疑うことなく。お嬢は、女王としての気品、風格を備えている。
そのお嬢が……、シンク・ハウチューデンが、入学してから。変わられた……、良くも悪くも……、先程のラウンジで、シンクの噂話に花を咲かせる女生徒、彼女達に悪気はないのだろうが……、話を聞いてしまったお嬢は、我慢しきれず。リルムがラウンジを飛び出した、敬愛するお嬢を追いかけてきたが、どう声を掛けていいか……、困惑していた、流石に誰が、わざとお嬢や、クルミを挑発してるか、奥手のエルマにもわかった……、だがあまりに緻密で、老獪な戦術に、ただただ呆れると同時に。怖かった……、最近気付いたが、お嬢程の才覚ある。人間はいないと確信してたのだが……、気持ちが揺らいでいた、お嬢が愛する人物シンクは、エルマから見ても、王としての資質、為政者としての能力。行動力はリルム様と双肩を並べていた、それだけではない。シンクを取り巻く彼女達は……、それぞれお嬢に負けず劣らず。素晴らしい才能を有していた、ほんの僅かな時間なのだが、彼女達をエルマとて、仲間として、また腕を磨くライバルとして……、お互いを認めてただけに。あのレイラがこんな手段を取るとは。エルマはただ困惑しいていた。
「あの子わざとかしら?、それとも……」
エルマの心配を他所に。先見の鋭いリルムは、あのレイラが、なぜそこまでするのか、深い理由があるのもわかっていた、ラウンジを後にしたのは、噂話などどうでも良かった、ただ自分の嫉妬心が、自分で思った以上に強いと感じ。あの場にいるべきではないとの判断だった、エルマには誤解させたと思ったが、今は予測の天才が、そこまでする理由の方が気になっていた。
「……まさか、わざと?、すると……」レイラの狙いは、リルムに勝つこと。もしくは追い詰めたと言う実績が、必要だと感じた、それは何の為?、彼女は誰を好きなのか、
しかし……、ハッとその考えに思い至り。肌が粟立った。
急に立ち止まったお嬢の背に、ぶつかりそうになり。慌てる。恐々リルムの横顔を見た瞬間。拍子抜けするほど、優しい笑みが浮かんでいた。
「エルマ、クスクスあの子凄い!。そんなこと考えてたなんて」
顔を高揚させ。キラキラした眼差しに、ドキリとさせられた。
「お嬢それは……」
クスクス楽しそうに、唇を綻ばせ。
「貴女は、ライバルにならないでね」
突然艶やかな眼差しを受け。顔を赤らめながら、
「それはないと……」
リルムは、優しくクスクス微笑みながら、
「分かってますわエルマ、貴女は優しいから、自分の事より。私のこと優先してくれること、いつも感謝してるのよ」
「おっ、お嬢……」羞恥に顔を真っ赤にした。そんな一途なエルマだからこそ、全てにおいて一歩。リルムに遠慮してる節があった、もしもエルマが本気になった時は……、リルムでも勝てる自信がない。それほどの力量を、内に供えているのだ。
リルムを追うように。ラウンジを飛び出した、栗色の艶やかな光沢のある髪。チンマイ背丈。可愛らしい風貌な、クルミ・アルタイルは、朝から浮かない顔をしていた、何となく五人の中で、リルムとはライバル関係にあるので、自分に似た空気を纏うローザ・リナイゼフといつも一緒にいた。祖国も近く。古い家系にある二人は、境遇は違うが、似たもの同士で、気があった。ローザは見た目良く、豊かな胸がコンプレックスで、今までは、無理にさらしで隠していたのだが……、レイラ達との事件がきっかけで、少しずつ豊かな胸が、悪ではなく。それどころか女性としての魅力なのだと、フローゼの町で知った、だがまだ恥ずかしい気持ちが強い。ローザは黒剣と呼ばれる。武器製造を一子相伝に伝える。剣豪の一族。リナイゼフ家の生き残りである。二人は二年生から使える。ラウンジを出てから、手持ちぶさたに、演舞場に足を向けていた。
「その……クルミ何だ……、きっとレイラにも、何か考えと、あの行動に理由があるんだよ」
気を使って、変に慰めるのではなく、一生懸命考えてくれたのが分かる。
「そうだろうな……」
それは友達であるクルミとて、わかっていた。レイラは優しい性格で、シンクのこと好きなのに。わざとクルミ、ヒナエにアドバイスしてくたりした。そんな優しい女性だから。あえて自分を、追い込まなくては、こんな手段に出れないのも承知だ、おそらく自分とは違った意味で、将来シンクの側に居るための。手段ではないかとさえ思えた。自分は、何れ国を支えていかなければならない立場。皆とは少し事情が異なっていた。
それだけに怖さと羨望と悔しさを、レイラに感じずにはいられない。
「ローザ、少し付き合って欲しい……」
同じ武人として、ローザは快く。同意してくれた。
……二人が演舞場に入ってく様子を。木々の影になって分からないが、ミルが授業をサボるための寝床、太い枝に寄りかかり。やり取りを一部始終見ていた、
「チチチチチ(悪趣味)」嘆息した極彩色の美しい小鳥が、嘆息していた、
「まったくですわミル!、貴方もシンク王子をを見習い。女性達を魅力しなさい!、それだけの力はあるのですから」
ミルの膝に。ちょこんと乗って、腰に手を置いて、リスが呆れたように愚痴る。妙に人間臭いリスと小鳥である。二匹は月の女神ラトア、光の女神レイザーが、お目付け役として、ダルフォン家の当主に憑いている。言わばお目付け役で、ミルが物心付いた時より一緒にいる。
「俺はいいの!、とりあえず彼奴と戦えさえすれば」
先日だって、トーナメントを見ていた。あれほどの力量、あれだけの実力、自分で感じたい。それこそミルの願い。アレクの弟子でありながら、生涯強敵と戦う喜びを選んだ。サンレイ・ダルフォン・カーリアの血が成させる。欲望である。二匹は見合い。小さく首を振った。
ミルは『オールラウンダー』候補四天王、最強と呼ばれる特別な力がある。シンクとは真逆の才能、女神に愛された。ダルフォン当主だけに現れる。世界にただ一人。アレイク王国ラウ・ガイロンに見出だされた異才、相手の力量が半減する最早呪いと呼べた。ダルフォン家を表す言葉に。『最弱ゆえに最強と』。ラウ・ガイロンが名付けたのが、所以である。
それぞれが様々な理由から、錯綜するなか、早々に二回戦突破した、三年生チーム。元シャイナ部隊長フィル・マノイ、
副隊長カノア・テレグシア、メグ・ファノアの三人は、レイラ達の試合いを観戦して、改めてレイラの狙い。それ以上の強さに。身を震わせた、それ以上に自分達も。彼女達と肩を並べたいと、強く思うようになっていた。
今までシャイナに食い物にされ。自分達の才能すら。信じられなくなっていた、だがレイラの助けがあったとはいえ。自分達だけの力で、三年ランキング前期で、無敗のまま優勝したフィル、僅か二敗敗で二位甘んじたテレグシア、メグの意識が変わっていた。三人も武人だ、レイラの優しさを理解していた。もしも何もかも口を出されてたら、シャイナとレイラが入れ替わっただけの。何もかも命令されてしか動けない、そんな部隊になっていたと……、時間がたつにつれ。理解出来た。
「貴女はきっと、嫌がるかもしれないが、私達元シャイナ部隊の仲間は、貴女の力になるためにも、本気で倒しに行くわ」
フィルの決意ある呟きに、二人も頷きあい。レイラチームの試合を見ていたのだ。
━━━休日。アレイ学園の生徒は、毎週末1日の休みがある。
中央公園で、毎週末の早朝。朝市が開催されていて、孤児院も南の林道入り口で、毎週店を出すのだが、最近はお客の入りが凄いことになっていた。何せ中央大陸の王族が、子供達と一緒に汗水流し。働いてるのだ、しかもあの英雄王の子息であり、聖女としられた女性の1人息子を、一目見ようと。物見遊山な人もいるにはいたが、多くは子供を連れた、母親達で、懐かしさと感謝の言葉を伝えたく。訪れる。
「シンク様。リーラちゃん元気ですか?」
くすんだ金髪の妙齢の女性が、二人の子供を連れ。声を掛けてきた。彼女はよく野菜やクッキーを買ってくれる人で、連れる姉妹は、リナとも顔馴染みだ、
「はい。母さんは元気ですよマノアさん」
声を掛けた女性の方が、びっくりした顔をした、彼女マノア・レノさんは、母の大切な友人だ、姉妹のシア、リアラがきょとんと首を傾げていた。
「母さんから聞いてました。マノアさんって妹のような友人がいると」
にっこり笑う顔は、懐かしい顔、オーラルに似ていた。
マノアは、シスターとして、長年大聖堂で暮らしていた、母リーラと同室だったと聞いている。二人は幼なじみで、活発なマノアとしっかり者の母リーラは、馬があったのか、あっという間に仲良くなって、まるで本当の姉妹のように。何でも話せた。
リーラちゃんから。未だに毎年手紙が届き。近況が知らされていた。無論シンクの様子をことこっそり手紙で、知らせていたのだが、リーラちゃんはシンクに話してたようだ、
「なあ~んだ、リーラちゃんも教えてたんなら、書いといてくれればいいのに」ちょっとむくれた顔をしてた。かと思えば、クスクス急に。愉しげに笑い出して、姉妹が顔を赤くした。周りの目を気にしてのことだ。
「マノアさん、母さんから。娘さん達に。プレゼント預かってますので、良かったら、受け取って頂けますか?」
びっくりしたように、笑顔が固まる。
「えっ、え~と娘達に?」
戸惑ったようだ。マノアは父とも顔馴染みで、母を初めてデートに誘った日。顔見知りのマノアに。声を掛けてから、何かと二人の仲を取り持ってくれたと。父からも聞いていた。こっそり母に内緒で、プレゼントを預かっていた。表だって、動けない両親に代わって、連絡取りたい旧友。知り合いの窓口となりつつあったシンクである。「ありがとう♪、有り難く頂くわ」
涙を拭いながら、2つの包みを渡した。 「こっちは父さんから。シデンさんと婚約したと聞いた時に。買い求めたそうですが、渡せずにいたそうです」
「それは……」
確かに多忙であった、が……一国の王が、一介のシスターにプレゼントをしたなど知られれば、要らぬ噂がたったに違いない、だから仕舞い込んでいたと聞いて、噴き出していた。
いかにもオーラルらしいと、嬉しく思う。因みにシデンさんが、フロスト騎士見習いの時に、父さんと知り合いになってたらしく。二人が婚約したと聞いた時。
「父さんがシデンさんに『あの時の反応は、妙に納得した』と伝えて欲しいそうです」
「えっ、え~と」喜びが、戸惑いに変わる。シンクは肩を竦めて。
「シデンさんに、そう伝えれば分かるそうです。意味は分かりませんが」
「そう……、リーラちゃんにありがとうと伝えて、ついでにオーラルにもね!」はいと朗らかに答えると、姉妹にクッキーを買って、マノアさん親子は、朝市の雑誌に消えていた。その足取りは、軽やかな気がした、
シスター達が用意した野菜、クッキーがあらかた売れ。一息着いた時だ。
「シン兄。朝市終わったら。勉強教えてよ」
マイトが言えば、ゲッと呻くコウ、レンタは仕方ないなと。嫌そうな顔をしていた、
「構わないよ」
勝ち気な顔立ちのマイトは、弓と短剣の才に恵まれており、いずれ『特待生』として、アレイ学園に入る夢があるようだ、コウは父と同じパテシエになるか、迷っていると聞く。レンタの両親。祖父は父縁の人達で、苦学生の時。人足として長く働かせてもらっていたことが、あったと聞いていた。
「シンにい!。リナもお勉強する」
「ぼっ、僕も」
リナに追従して、タイチも意気込む。
「じゃみんなで、勉強しようか」
タイチは、来春お兄ちゃんになる。義姉エルさんがおめでたと、今朝聞いたばかりだ、エルさんと言うのは、アレイク王国筆頭魔導師であり、父の同僚だった人だ、それにケイタさんの娘さんだ。
タイチとは義理の姉弟の関係である。今朝シンクが語った言葉の中でも。お兄ちゃんと言う言葉に、特別な感情を持ったようだ……。シンクとは友達関係となった双子姉妹のフレア、シアン。あの二人が大好きだと言う。お姉さんエルさんと、会ってみたいものだと思っていた。
━━翌日から学園では、トーナメント熱戦が繰り広げられ。二回戦、第五戦……、ついにもうひとつの優勝候補チームの登場に。朝から学生達は、その話題持ちきりであった、
美しすぎる二年生。魔王の愛娘リルム・アオザ・パルストア率いる。メンバーが、どの種目にエントリーしたか、魔法投影を、食い入るように見ていた。
総合武術戦。クルミ・アルタイル
魔導兵戦。エルマ・ロドラ
マラソン。ローザ・リナイゼフ
クイズ、リルム・アオザ・パルストア
モンスター討伐。ミル・ダルフォン・カーリアと、意外な登録である。観覧席の生徒からざわめきが上がる。
━━時間は少し戻る。
リルムチームのメンバーが、明日トーナメント初参加の為。どの種目に出るか、ラウンジで話し合いが、行われた。
「クルミさんには、総合武術戦をお願いします」
いきなりお鉢が回って来たので、驚きがあった。
「私で良いのか?」 皆を見回したが、異論は出なかった。クルミは少し安堵の吐息を吐いた。正直魔導兵戦と総合武術戦は得意だが、器用さを求められる。モンスター討伐、体力を求められるマラソン、総合力を求められるクイズに、やや抵抗があったからだ。
リルムもその辺りは考えていた、エルマ、クルミの二人ならば、そうは星を落とすこともなく。任せられると考えた、逆に体力に自信のないリルムでは、マラソンは論外だ、ローザは三人に比べると体力はあるが、他の能力が落ちる。器用さもないので、マラソンに決まった、ミルはどの競技でもそつなくこなせるが、競う相手がいない競技では、割引が必要だ、そこで無難なモンスター討伐に決まったのだ、
一番悩んだのはミルの扱いだ、彼には特殊な呪いの恩恵がある。モンスター討伐競技なら。力も存分に使え。安心して任せられる。
今はなるべく、レイラ達と対戦する準決勝までは、対人戦に出して、ミルの能力を、シンクに見られる訳にはいかないのだ。そんな理由もあって、先見性のリルムが、仲間それぞれに競技を決めた。理由を上げ。みんなに納得してもらい、トーナメント参戦初日を迎えた━━。
『マラソン競技の生徒は、コロッセオの入り口に集まりください』
マラソン競技が、このトーナメントで、初めての参加となるローザは、入念に柔軟体操してると、対戦する男子生徒が、真っ赤になりながら、食い入るように。たゆむ胸を見てることに気が付いた、気恥ずかしさとともに。ちょっとした怒りを覚えて、ムッとしていた。考えれば……、付き合い浅いがシンク皇子、仲間になったばかりのミルは。女性の嫌がる視線を投げ掛けたりしない。紳士である。あの嫌なランダルフですら、女性の嫌がることはしないのだから、今まで恵まれていたと感じた。怒りと羞恥。赤くなりながら。早くも闘争心を沸き立てる。女性教諭が、魔法を打ち上げ。合図の轟音が鳴り響いた瞬間。ローザは加速。一気に男子生徒との距離を離して。走り出した。女性に先を行かれ。自尊心を傷付けられた男子生徒は、猛追してきたが、付かず離れず。ペースを上げたり、落としたりして。相手のペースを乱した。
その結果……、
三周目に入った頃には━━、
男子生徒は、息も上がり。足元がお簿付かず。ふらふらになって。最早気力だけで、歩いていた……、
悠々と四周走りきり。余裕寂々とゴールを走り抜けたローザに。女性教諭がにこやかな笑顔で、出迎えてくれた。
「お疲れさまローザ、冷たいお茶を入れたわ。飲みなよ」
早々に総合武術戦で勝った。クルミが、お茶の用意をしてくれたようだ、心使い感謝しながら、レモングラスから煮出した。スッキリした香りのお茶を一口飲めば、実に喉に心地よいく。程よい甘さは、蜂蜜が入っての物だろう。優しい甘さが、四肢の疲労が、すーっと和らぐようだと、思わず唇を綻ばせていた。クルミの女の子らしい気遣いに、いつも感心するばかりだ。
「クルミなら。よい嫁さんになりそうだわね」
「なっ、……ありがとう」
照れ臭そうに笑う。 既に対戦の終わってる筈のエルマがいないから、キョロキョロしてると。
「エルマさんなら、みんなの分のお昼の支度してくれているわ」
あっ成る程ね。妙な納得をした。私達はチーム戦なのだと改めて感じてもいた。
「私は、試合の終わった、みんなの世話に残ったの。リルムの方も間もなく終わるようだけどね」
顎で、ターフビジョンをシャクリ。ローザも見上げれば、リルムがまんまと、対戦相手を出し抜き。勝利した瞬間だった。
「案外リルムは、ああいう競技が、好きなのかもね……」言われて見れば、イキイキした顔をしていた。
リルムの引いたクイズは、『探索』奇しくも。ノノフレイミ・ラネスが、最短でクリアしてみせた、同じお題だった。クイズの種類は主に三種類。
『探索』『宝探し』『間違い探し』の中から、さらにランダムに学生が、お題を引くのだが、同じお題は今回が初めて、バリエーション。内容も様々だった今回のトーナメントでだ、一度でも同じお題が出た場合。難易度は上がると分かっていたリルムは、エルマにある頼みを、していたのだ。
リルムのクイズを各部隊長はしっかり見たからこそ、直ぐ様スカウトを今更ながら、分析のため、動かす動きが見受けられた。エルマが早々に。お昼の支度に向かったのは……、他部隊からスカウトチームが、動き出すと言われたから、自分たちのスカウトを牽制に。動きさせるためだった。それはリルムに同じお題が出た場合に、そう動くよう。釘を刺されていたからだが……、
まさか……、唸るように息を飲んだ。自分の目が信じられない。リルム部隊の優秀なスカウトの三人が、エルマが到着したときには、気絶させられ、猿ぐつわされ。縛られ。転がされていた、
「これは……」
驚き、まともに顔色を変えた。辺りを伺うが、気配の欠片も残されず。三人の様子を調べ。気絶しただけだと安堵したが……、怪訝な気持ちを抱いた。何故わざわざリルム部隊のスカウトを、襲う必要が……、
そう思った瞬間。僅かな揺らぎを感じた。咄嗟に身体が動いていた、足元に落ちていた石を投げた。
「クッ」
クグもった悲鳴を圧し殺し。木刀を取り落としたのは、
「黒衣?」
驚きの声を上げたエルマ、相手は酷く。動揺したように見受けた、素早く判断して、捕縛すべきだと。心に決め。動き出した。
━━慌てたのは黒衣。まさか自分が、窮地に立たされるとは、想定外だったからだ、
数日戻る━━。
シンクに負けた。アオイ・エンディ・オーマは、長ノルカから、学園長の仕事を命じられたのだ、何故?、疑問を抱いたが……、トーナメント戦の結果、もやもやした気持ちもあり。仕方なく仕事を受けたのだ。
エルマに尋問され諦めたように語る。仕事の内容は、各部隊スカウトの妨害工作。それにより各部隊のスカウト能力向上と、指揮官の様子を裁定するためだと。聞かされた
エルマに取り押さえられ、顔を被う布を取られ、現れた顔を見て、エルマはギョッとしていた、
アオイの顔を見た瞬間、酷く驚いたようだ、
「貴女ヒナエの関係者?」
何と無く。相手の反応でピーンと来た。だから素直に答える毎にしたのだ、念のため。アオイが捕まった可能性の話をされた時は、何を馬鹿な……と思ったが、
1日に。二度目となると……、アレイ学園の生徒の優秀さに。唖然としてさえいた。
一通り話を聞き終えたエルマは、皮肉気に苦笑していた。
「何よ。その顔は?」
怪訝な面持ちのエルマに問う。
「……済まない。何大した事ではないのだが、うちのお嬢とレイラが、学園長が黒衣を。動かす可能性を話していてね……、流石にそれはないと、聞き流していたのだが……」
意味ありげな視線を受けたアオイは、ポカーンとしてたかと思えば。
「何よそれ!、下手な貴族連中より。鋭いわね」
呆れていた。アオイの意見に賛成して。小さく頷き。その二人以上の人物を思い至る。
「理由は分かった、だけどお嬢に会うまで……」釘を刺す前に。肩を竦めて。自分の身体を見て、苦笑を滲ませていた。
「これ解いてくれないと、帰れないからね~」
一見で気付いたと言うのか?、驚くエルマに対して、
「私達はあらゆる力に敏感なのよ」
何でも無いことのように言うが、黒衣の力に、驚くばかりだ、エルマは緑の民であり、能力はとても弱く、どちらかと言えば人間寄りだ。だが全く能力が使えない訳ではない。
「これ魔法とは違うわね。貴女……」
流石は黒衣、情報通である。小さく苦笑を浮かべ。
「私は、緑の民産まれ。父はラトワニア神国ギラム・ロドラ、将軍職にある」
「それはまた……」妙な感心をする。つい先日。四英雄の1人、英雄王オーラルの子息シンクに。完敗したばかりだ、英雄の子供が優秀など、聞いたことが無かったが、侮れないなと、素直に感心していた。
エルマの能力は、一瞬相手の目を瞑らせること。もうひとつが見えない糸を繋げ。相手を泳がせ。行き先を見付ける能力。どちらも弱い力だ、見えない糸は使い方によって。かなり使える能力である。それを感覚で見抜いたのだ、エルマが捕まえる事が出来たのは、偶然に近いと考えた、アオイがかなりの使い手であることは、疑いようがない。
「念のためだ、済まないが我慢してほしい」
アオイは、エルマの知人。ヒナエにそっくりだった。妖艶な空気まで似ている。彼女の独特の体術が、黒衣の物ならば、分かる気がした。
「ヒナエの関係者なら、仕方ないわね。良いわ。魔王の愛娘に興味もあるし。あの子の恋敵が、どんな女か見てみたいしね」
案外そちらが本命ではないか?。そう感じられるほど、あっけらかんと言ってのけた。
お昼を作ると言うエルマに、アオイが手伝いを申し出て。訝しげに見るが、ちょっと幼い顔をに。照れ臭そうな笑みを浮かべ。
「別に。他意はないわ、単に貴女に興味が、湧いてね~♪」
警戒心を抱いたが、1人でずっと見張りながら、料理する訳にもいかず。手伝いを頼むことにした、
意外なことに。アオイの家事能力は高く。並んで料理しながら、二人とりとめなく。色々話をした、
彼女が、黒衣と分かっても悪い娘とは、思えず率直に問えば、
「ああ~あたしは、一応黒衣の頭なのさ、あたしの決めたことは、一族が決めたことと同義になる。それにオーラル陛下の関係者は、特別な配慮が許されていてね。ある程度の我が儘も。赦されるのよ」
アオイの説明に。納得出来る部分も多々ある。
「そう言えば父が、何か困ったことがあれば、オーラル陛下の名を出せば、便宜が図られると言っていたのは……」
エルマの呟きに。ニンマリ悪戯ぽく笑いながら、
「あながち嘘ではないさ。英雄ギラム殿のご息女の願いでは、黒衣は動かないが……、オーラル陛下の願いならば、よっぽどの無理ではない限り。私達は聞く。黒衣はそれほどの恩を受けたからね」
ハタリと思い出した、彼女が数日前……、トーナメントに出場してたのを、相手は確かシンクだった、
「貴女は、この学園の生徒ですね?」
貴族の子女の記憶力を、舐めてた訳ではないが……、
「良く覚えてたわね」
妙な感心をした。そう言えば……、以前ラトワニア神学校で、面白い話を聞いたことがあった……、
「レイカ・エンディ・オーマと言う、貴族がいると、聞いたことがあったわ」
玉ねぎのスライスしてた手を止めて、驚いたように顔を上げた。
「他国の内情に詳しいなあんた……」
眥を上げたアオイに。小さく苦笑しながら、
「私は、アレイ学園に入る前、一年ほどラトワニア神学校に。通っていたからだ」
なるほど……、ラトワニア神学校は、東大陸の貴族に関して、勉強しなくてはならない。多くが神殿関係職につくと聞く。その場合は他国で働く可能性が高いからだ。男装してるくらいだ、年齢が他生徒より上なの誤魔化す。手段だったかと、妙な納得してると、
「エルマの格好は、ただのブラコンよ」気配なく現れたリルムに、いきなり告げられ。
「おっ、お嬢」
真っ赤になって、慌てる。
「わっ、私は別に。そんなことは……」ゴニョゴニョ、恥ずかしそうに俯いた。アオイが声の主に眼を向けた瞬間。息が止まった。嫌……、
時が止まったと感じた━━。
彼女のいる場所だけ。世界が違って見えた、白銀に輝く髪をなびかせ。一目アオイを見た瞬間、
「やっぱりヒナエは、黒衣の一族だったのね。レイラの予測が当たったらしいわね」
苦笑気味に吐息を吐いた、思わずリルムから目が離せず。魅入っていたアオイを。余裕もって氷雪の眼差しで迎えた。ドキッとさせる鋭さ、アオイも笑みを浮かべたが、顔が途中で強張るほど、強い光が相貌に宿っていた、生まれついての女王、そう感じずにはいられない。
「さて、学園長はあの化け者達を使って、何をなさるつもりか、貴女は知ってますの?」化け者達?、怪訝な表情が浮かぶ。
「黒衣が知らない?、違うわね。貴女には知らせていない……。なるほど、貴女が学生だからね」
僅かな反応で、次々と答えを導き出すリルムに。得体のしれない恐怖を覚えたアオイは、身構えることすら赦されず。僅か数分で、丸裸にされてく恐怖に戦いた。
━━僅か数分、それは何十時間にも感じさせられた━━、
自分を押さえられず、アオイは、ガタガタ小刻みに震えだした、あまりの恐怖に。しまいには我慢出来ず。ぼろぼろ泣き出していた、
「お嬢……」
「大丈夫よ。壊したりしないわ、私の友達の親族ですからね」
ジロリ忌々しそうに、アオイの胸を睨み付けた。あまりに鋭い眼差しに、恐怖のあまり最早声もなく。泣き出していた、崩れ落ちる寸前まで、追い込まれていたのだ。泣かれると何となく自分が悪いと思うから、スーッと視線を放し。
「悪かったわね……。私はレイラやシンほど、優しい尋問は出来ませんの……」
不器用に謝られ。アオイはへたり込んだ。助かった……、安堵したと同時に。ヒナエはこんな化け者と戦ってたのか……、負けた気分を味わっていた。
エルマがアオイを慰め。落ち着くまで、料理は中断してしまい、困ったことになった……。ちょっとした空腹を抱え。ますます不機嫌になったリルムを。救ったのは、クルミとローザだった。二人はちょっと困った顔をしたが、無言のリルムの訴えに。気が付いて、苦笑しながら、作りかけの料理の再開をした。
アオイが落ち着いたのは、リルムがお腹一杯になって。うとうとし出した時間である。
「アオイ殿は。ヒナエ殿の従妹なんだ」
意外と、面倒みが良かったローザは。グズルアオイとあっという間に打ち解け。和気藹々と話始めていた、
「あたしも詳しく聞いてはいないけど……、なるべくトーナメント参加生徒を、追い込めと命じられただけ」
ローザお手製のチーズケーキ。モグモグしながら、あっさりゲロしてるアオイに、なんか不愉快になりながらも。レイラの『デカ胸あれで、貴女に足りない部分補うから、一緒に行動なさい』
とか言われた時は、何のハンデかと思ったが、あながち間違いではなかったようだ。女の子らしい特技は、リルムの苦手な部分である。
「ねえ疑問があるんだげど、貴女を、捕まえたもう1チームって、シンクチームかしら?」
気になってたこと、とりあえず聞いてみた、ビクリ怯えた顔で、ローザの背後に隠れながら、
「違う……、元シャイナ部隊で、フィル部隊長のフィル・マノイ」
「フィル?」
聞かぬ名前だ、チラリ残り三人に目をやると。ローザが、
「あの苦労人達か……」訳知り顔である。少し興味をもって、ローザに視線を送ると、少し困った顔をしながら、クルミを見た。ん?っと思ったが、クルミは仕方ないと小さく頷いた。
「少し。デリケートな部分もある。此処だけの話と聞いてほしいのだが」
生真面目に口を開いたローザに、皆は静かに頷いた。
━━元三年シャイナ・アルベルト、あのエドワルド公爵の息女である彼女には。一つ上に四年になる。兄コルト・アルベルトがいる。
シャイナには良からぬ噂があった、特殊な性癖である。可愛らしい女の子に目を付けたら、あらゆる手段を用いて。無理やり自分の女にしたと言う……。シャイナ部隊は。別名ハーレム部隊、自分の女達だけを集め。作られた部隊だったと……、話を聞いてく内に。リルムですら、吐き気を覚えていた。それが破綻したのは、『学年戦争』の後。
『学年ランキング』前期にて。傭兵戦が行われたからだと言う……。レイラ戦にて、シャイナは傭兵ギルドの魔導兵。搬入口で待ち伏せしていた。だが結果は……、同士討ちの違反騒ぎだ。
話はそれで終わらなかった、次々と暴かれて行った。シャイナの暴挙。悪行に、同盟国の王族故に。不問としたが、シャイナは逃げた……、
残されたシャイナ部隊のメンバーは……、人間が増えれば、いさかい。妬み。嫉みを抱かせたり。強い力のある。防壁が消えれば、弱い者を攻撃の的にするのも仕方ない。中には人生。夢を奪われた。少女だっていたはずだ。挫折させられた彼女達は、苛めの対象になったと言う……、
辛酸を舐めた。元シャイナ部隊だったが、誰もが彼女達が、学園を辞めてくだろうとさえ思った、だが……、彼女達は誰一人学園を辞めなかった。それどころか日数のハンデを与えられたのに。三年ランキング1位になったのは
元シャイナ部隊のフィル・マノイ、
2位カノア・テレグシア、
3位メグ・ファノアの三人が入り。自分達の実力で、誹謗中傷を黙らせた。
「苦労人ね……、是非ともレイラを倒し。彼女達と手合わせ願いたいわ」
いつの間にか、背筋を伸ばし。みんな敬意を持って、ローザの話を聞き終え。リルムの言葉を真摯に受け止め。力強く頷いていた。
━━週末。
伯母に誘われ。おばあちゃんこと、エレーナ大司教の誕生日だからと、お祝いに向かうことになった。
先週の事だが、お嫁さんに子供が出来たと、伯母に知らせてきたのだ、
『ミリアちゃん!、遂に、私が本当のおばあちゃんになっちゃたわ』
大興奮でやって来たのは、バザーに手伝いに行く朝のこと。一緒にタイチも来ていた。
「まあ~エレーナ母さんおめでとう!」
「ありがとう、ありがとう、ミリアちゃん」
二人は、手を握りあい大喜びで、抱き合い。サノビアはとてもビックリして、目を丸くしていた。いきなりお母さんと。呼ぶ相手が現れたのだ、戸惑うのも仕方ない。
「おめでとうございます。エレーナおばあちゃん」
「あらあらまあまあ~。シンクさんありがとう♪」
「エレーナおばちゃん♪、おめでとうございます」
ペコリンコと、リナが頭を下げると、ニッコリ天真爛漫に笑う。つい誰もが、釣られて微笑んでしまう。そんな魅力的な笑みに。エレーナ大司教も。ニッコリ優しい笑みを浮かべ、
「ありがとうリナちゃん♪」
まるで本当の孫のように、リナは甘えていた。だからエレーナ大司教も可愛がる。
少しタイチが、羨ましそうな顔をしてたから。タイチの肩に手を置いて、
「タイチもお兄ちゃんになるんだね。お兄ちゃんとして、従兄妹を守ってあげなきゃね」一瞬キョトンとしてたのだが、ハッとして。小さくコクンと頷き。頬を赤くしていた、
「ありがとうねシンクさん。タイチごめんなさい……。貴方のことちゃんと見てますからね」
エレーナ大司教は、優しくタイチの頭を撫でた。母エレーナのスカートをちょこん掴み。タイチは嬉しそうに笑っていた。あれからしばらくして、エレーナおばあちゃんの誕生日をやるからと、シルビアさんから誘われ。ミリア伯母も大いに乗り気だった、
リナも可愛く着飾り。終始はしゃいでいる。三人が向かったのは、大聖堂のある東の大通り。表は交易の商いをやっていて、裏に豪奢な屋敷が建てられていた。以前シンクが一度。訪れたことのある。ダレス家の持ち家で、エレーナ大司教とエルの懐妊祝いを兼ねて、パーティーが催されると言う。もっとも内輪のホームパーティとのことだ、最初は大聖堂で行うとの話もあったが、色々問題もあって……、
エルの生家である。ダレス家の屋敷で、行われることになった、経緯としては、シンク達はエレーナおばあちゃんの親戚として、招待されたようだ、深く考えなかったが……、
「まあ~ミリアさん、良く来て下さいました。シンク、リナちゃんいらっしゃい」
「お招きありがとうございます。シルビアさん。おめでとうございます」ミリアの後に。
「シルビアさんおめでとうございます♪」
シンクが会釈すると。真似てリナが、
「おめでとうございます」
追従していた、残されたサノビアが狼狽え。
「ばっ、場違いですが、おめでとうございます」慌ててサノビアが頭を下げる。クスリ優しく微笑み。
「あら場違いでもないでしょサノビアは、リナのお姉ちゃんでしょ~♪、ねえ~ミリアさん」
今日はホームパーティとのことだが、シルビアさんは、シックなドレスをそつなく着こなす。貴婦人の出で立ちである。対してミリア伯母さんは、落ち着いた春を思わせる。黄色を貴重しているが、派手さはなく、前掛け持参で、お手伝いする気満々だ。そんなミリアの様子に、嬉しそうにはにかみ。
「そうよサノビア」二人に言われて、サノビアはウルウル涙眼になっていた、
「ミリアさん助かります。シンク悪いけど、エルにべったりの娘達の相手、お願いするわ」
少し困ったような。嬉しいような。柔らかく微笑する。
「分かりました。二人とエルさんはどちらに?」
小さく安堵の吐息を吐いて、
「あの人の部屋で、本を引っ張り出してたから、天気が良いんだからと、二人に言って。庭に連れてかせたの。で今頃くつろいでるはずよ」
なんとも微妙な顔をしていた、不安そうで、心配な気持ちが、かいま見えた。どうしたのかな?、訝しげに思った。
リナとサノビアを連れ。庭に出ると、三人は直ぐに見つかった。金の髪が太陽に煌めき。艶やかな美しいピンクのマタニティードレスを着た。彼女が、宮廷魔導師筆頭エル・シタインさんだろう。
意識せずに。綺麗な人だなとか考えてると、チラリ此方をみて、驚いたような顔をしていたが、小さく懐かしむように。柔らかく目を細めた。
゛初めましてエルさん。シンク・ハウチューデンです″
悪戯ぽく片目を瞑って見せた、
ハッと目をしばたかせ。クスリ楽しげに微笑んだ。
「エル姉さんどうしたの?、だれか……、シンク?」
「シン!、いらっしゃい」
シアンが気付き、妹の声に反応して、嬉しそうに顔を輝かせたフレア、少し驚いたが、優しく妹達を見詰め。シンクとリナが来るのを待っていた。゛ママ?、嬉しそう♪″
ピクリと足を止めてリナが、辺りをキョロキョロ、シンクも驚いたように、立ち止まった、そんな二人の様子と胎児にもなってない。娘の思念に、困惑した。その瞬間。なんとなくエルさんの疑念を理解した、父から聞いていた。エルさんの苦労を……、
゛初めまして、ぼくは、君のお母さんと友達のシンク・ハウチューデン″
「えっ……?」
困惑の声を上げたエルに、姉妹がキョトンと顔を見あった。
゛お母さんのお友達?″
゛うん、そうだよ。よろしくね″
優しい思念を送った途端に。喜びの思念が、シンクを包んだ。
゛うん♪、私とも友達になってくれるシンク″
「え~リナもお友達になりたい!」二人の会話に割り込んだリナは、楽しそうに笑い。トテトテとエルの前に向かって、
「無事に産まれたら、リナと友達になってください」
ニッコリ笑うリナに、呆気にとられていた姉妹は、プッと吹き出して、楽しそうに笑い出した。
゛うん♪リナお姉ちゃん。私とお友達になってね″
「待ってるね♪」
にっこり天真爛漫に笑う姿に。エルは驚きに目をしばたかせた、ほんの一瞬だが、リナと手を握った娘の姿が、見えた気がした。
この子は、強い力を持っている。それは人々に恐怖を与える。だが……、理解者がいれば、未来は変えられる。
゛もう少しで、君のお兄ちゃん、タイチが来るよ。早く君と会いたいって、この間からソワソワしてたよ″
楽しそうにシンクが、思念を飛ばせば、
「タイチはね。お兄ちゃんになるんだって、張り切ってたんだ!」
「あら……あの子が」
「負けん気の強い子だけど、優しい子よねタイチってさ」
二人の妹が、優しく笑い合うと。その言葉に、ポタポタ……、急に泣き出した、
「ね。姉さん」
「どっどうしたの?」
慌てた二人に、シンクはハッとした、シルビアさんは気が付いていたのだ、エルさんの悩みを、だから自分の言葉で、気持ちを伝える必要を感じた。
「エルさんおめでとうございます。丈夫なお子様を産んでください」
゛ぼく達は、お子さんと友達になりました。タイチ、リナそれに、カールさん、エレーナ大司教、シルビアさん、フレア、シアン、ぼくの父さん、母さん、伯母さんもいます。安心してください″
「あっ………ありがとう……、しばらくゆっくりするよう言われてるわ。何時でも遊びにいらっしゃいね」
安堵の涙を流し。晴れやかに笑っていた、
゛お母さん、私早くみんなと会いたいよ″
幼い思念。それは不安ではなかった、私にはこんなにも。心配してくれる人たちがいるから、
゛きっと大丈夫。大丈夫よ″
゛うん♪″
姉が愛しく。お腹を触る様子に。二人もなんだか嬉しくなって、
「あたしたちが、先に友達になるんだからね♪」「そうそう♪」姉妹が楽しげに言えば。
「なら丁度良いわね♪。叔母さん二人に、お守りしてもらえば、あの人とデート出来るわね~♪」
なんて言われて、二人は見合い。目を丸くしながら、
「エル姉ヒド~イ」
「その時はブルーのロイヤルデラックスか、B&Mのアイスサンドお土産にしてよね」
「あっ、それならいいよ」
フレアが同意した。すると仕方ないわねと。エルが了承すれば、二人はやった!。ハイタッチして。
喜びを分かち合う。そんな妹達の様子に、深い安堵の笑みを浮かべ。『オーラル……』小さく呟き。嬉しさを噛み締めた。
━━間もなく。エレーナ大司教が、タイチを連れ、邸宅を訪問しエルの顔を見るや。笑みを深めていた、
「もう……大丈夫ね」
問われ。照れ臭そうに頷くエル。シルビアさんが、晴れやかな娘の顔を見るや。
「シンクありがとう……」
ほんのり涙ぐみ。晴れやかに微笑み。足取りも軽く。エルさんを抱きしめて。
「私達がいます。大丈夫よエル……」
「……はい、お母さん……」
「ん~」
久しぶりに娘を抱き締め、至福の時間を過ごした。
━━ダレス家の大広間に、多種多様な料理が並び、エルとエレーナ大司教を中心に、内輪のパーティーが行われた。
一通り。飲み食いが一段落したの見計らい。
「さあ~皆さんに。報告したいことがあります」珍しく赤い顔をしてるシルビアさんは、それはそれは嬉しそうに笑いながら、
「来週あの人が、エルに会いに帰国するそうです!」
嬉しそうに言えば、姉妹達三人も顔を輝かせ。嬉しそうに喜びを顕にしていた。
「ケイタさん。帰国されるんだ」
なら丁度いいか……、右腕ラケルのこと話すのは……、
左足のクエトに異変はないが、ラケルの力が以前より強まっている………。
先ほどの思念感知能力。シンクにそんな力はない。リナにまで伝わるとは……、時折リナが、ラケル、クエト会話してる節があったが……、それはまだ違和感の段階。何かが自分に起こってるのではないか?、僅かな不安を覚えていた。
━━アレイ学園の真新しい教室。
36の机、椅子が用意されていた、教壇の前に立った、双子は、キラキラした眼差し。楽しげに微笑む様子は、普通の青年のようだ、
きっちり7:3にセットした髪、何処か待ち遠しいように、見受けられる表情。彼等二人は、最悪の事態を想定して、学園で創設される『学園部隊』の引率に選ばれた、狂気の双子である。二人は、自身の破壊衝動を押さえ込みながら。笑みを深めていた。
「こんなにわくわくしたのは、生まれて初めてだ」
「本当に、変わり者の学園長に感謝しなきゃ」
双子は、珍しく同時に喋らず。見合い微笑み会う、
「僕達の国を守るために」
「僕達の民を守るために」
「「僕達は、才能に掛ける」」
それは予感。あくまでも予感。敬愛する魔王や信頼するバローナ達だけでは足りない。強い光が必要なのだ、自分達と同じ因子を組み込まれた、あの疑似女神を滅ぼすには、
「あれは妹だ」
「あれは敵だ」
「「世界を喰らう化け物だ」」
同じ魔人に作り替えられた、存在だから分かる。あれは世界の敵だ、時間と共に強大な力を蓄える。
「ようやくだ」
「ようやくだね」
双子は、時が来たと確信した。
━━トーナメント準決勝、準々決勝が今日、明日行われる。
今日準決勝を戦うフィル部隊の面々、
フィル・マノイ、
カノア・テレグシア、
メグ・フィアノ、お下げにおっとりした風貌のラグ・セレン、
キリリとしたキツイ印象を与える眼鏡が特長の。
サラ・ローガン、この五人が、トーナメントを勝ち抜いた仲間であり。苦楽を供にした戦友であった、
「オーダーは以上よ。質問はあるかしら?」
この日、腰まであった髪を、バッサリ肩口に切り揃えたフィルに。ポカンと惚けてた四人は、慌てて首を振った。
「フィルその髪……」
サラがしゃくり上げるように、あわあわしながら問うと。
「ああ~これか♪、変か?」
サラは慌てて首を振った、キラキラした眼差しを自信に満ちさせ。真っ直ぐ四人を見詰め。照れたように笑いながら。「私達はレイラに救われた、だけど彼女の優しさに甘えては、いけない気がしてね。思い立ったら、バッサリ切っていた」
何でもないようにさらりと言うが、フィルが一番悩んでたのは知っていた、
「どうせなら、レイラに勝って、それからお礼が言いたいと思ってさ」
惚けていた四人は、ハッとした、そして顔を見合せ、誰かがクスリ笑い出したら、もう止まらない、五人は腹の底から、本当に久しぶりにわらった、
「ああ~腹痛いよ……」
目の端の涙を拭いながら、ラグが言えば、
「全くその通りだ、よし決めた、私達は全勝して見せ、レイラにプレッシャー掛けようぜ」
楽しげにテレグシアが言えば、
「うんうん♪絶対勝とうね」メグが乗り気だ、サラ、ラグそして、フィルが頷き、五人は晴れやかな顔で、トーナメント会場、コロッセオに向かった。
━━各観覧席に集まった学生達は、ターフビジョンを食い入るように見ていた。フィル部隊と対するのは、三年生二人、二年生二人、一年生一人の混成部隊。それぞれが個人ランキング上位に名があがる。北大陸出身の猛者チームであった、リーダーをまとめるのは、、三年ラドラ・カイン、
ビラ・ウージン。浅黒肌が特長のラドラ族出身のカインは、『総合武術大会』で、シンクと当たり、一時追い詰めたほど、体術に絶対的な自信を持っていた、それが負けた、歯ぎしりしたい思いで、再び手合わせを強く渇望した。同じ部隊のビラ・ウージンと、同じ大陸出身の三人を誘い。チームを結成したのだ、
「あら私の相手は、貴方だったのカイン」
顔が歪む、忌々しい気持ちを抱いた、よりにもよって、個人ランキングで、二度も苦汁を舐めさせられた、フィル部隊との因縁対戦とは……、
「フィル・マノイ貴様か……、個人ランキングでは、負けたが、総合武術では負けん!」
ギラリ、強い眼差しで睨み付けた、
「そう、貴方には無理だと思うけどね」
涼しげに微笑み、楽しげに返され。
「ちっ、女と言えど本気で行かせてもらう」
ギラリ殺気すら含み。スラリとした手足を解しながら。ゆっくり飛びはねた。ラドラ族は長い手足を用いた。蹴り技主体の体術を得意としていた。その辺りはフィルも対戦経験から、理解していた。彼女はサイと呼ばれる。刺突に特化した武器を左右手にしている。
サイは中心の鉄心が太く、短剣のような形状で、先端だけ鋭く鍔の部分が、相手の武器を絡めとるような型をしている。使い手によるが、攻撃より。防御に重きを置いた武器と言えた。『総合武術戦、開始!』
合図と供に、フィルが飛び出した、意表を突かれたカインが、一瞬動きが遅れる。何せランキング戦では、ニ戦とも防御から、カインの隙を突いて。カウンターで負けたのだ……、
しかしそこは素早く切り替え。フィルを迎え撃つため。牽制の連続蹴りを放った瞬間、鋭いステップで側面に入られ。右股に鋭く痛みが走る。鋭いローを受けたようだが、
「この程度……」
大したダメージにはならない。軽く後ろに飛んで、身構えながら、足に力を込めてみた、少し痺れてるが、問題ないだろう。ゆっくり飛びはねながら、左回りに少しずつ距離を詰めて、攻撃しようと決めた瞬間。再びフィルが飛び出してきた。
「ちっ……」
今度は、迎え撃つ余裕があり。左右のローを受け流し。回しゲリを放った、クルリあっさりかわされたが、側面に回り込まれることなど、想定済み。蹴りの勢いを使って身体を回転かさせ。下から顎先を掠めるように、背面蹴りが、フィルの顔に伸びて来たが、がっちりサイの防御に受け止められてしまい、無理な体制で、動けなくなった、
「……しまった」そう思ったが遅く。
「ガフ……」
フィルの蹴りを、まともにみぞおちに食らった、二発、無理やりフィルの手から逃れたが、足首を捻られた。
「チキショウ……抜かった」
鈍い痛みに、顔をしかめた。無理に自分のスタイルにすると、痛みが増すため。やや左足を庇いながら、カインは斜に構える。
その様子を見た瞬間。フィルは構えるでもなく。すたすた何の気負いなく、無造作にカインに迫り、なんの技でもない。パンチをカインは避けるまもなく。受け、呆気にとられた。「あら何を驚いてるのかしらカイン?、貴方今。私の素早い攻撃に備え。定石通りに身構えてたわね?、そんなの逆を突けば、簡単に打撃を与えられるは、こんな風にね!」
構え。技もない、ただの打撃に。カインはなす統べなく。防戦一方となっていた。
「ばっ、ばかな……、なぜこうなった?」
自分が劣勢なことが、理解出来ず。混乱していた。
「わからないようね……、だから貴方は負けるの」
一方的な試合になって、学生達は、驚きを隠せなかった、
ついに危険と判断した、教諭が試合を止めて、
『勝者フィル・マノイ!』
どよめきが上がった、予想では、フィル部隊劣勢と言われていたからだ。しかし……、全試合が、終わってみれば、全勝と言う圧勝だった……、決勝一番乗りを上げた。
エピローグ
明日は、優勝候補レイラチームが、準々決勝を戦い、勝ったチームが、4日後の準決勝リルムチームと戦い、さらに8日後。試験が終わってから、トーナメント決勝が、行われる。
フィル部隊の準決勝を見ていた、レイラは、ほっそりした面立ちを静かに笑ませ。強い眼差しで、観覧席を後にした。
「後……2つ。シンク……」
ほんのり思い人の顔を思いだし。愛しそうに、目を潤ませていた。
それこそが、自分がシンクの傍らに立つために必要なこと、
「私を見ていてシンク。必ず貴方に必要だと、言わせて見せるから」
うっすら愉しげに微笑み。とくんとくん……、胸の高鳴りを感じていた。
苦労人フィルと元シャイナに餌食となった、少女達の逆転劇を。知ることになったリルムは、彼女達と戦うことを望んでいます。しかし希代の天才軍師と呼ばれるレイラの凄まじい心算に。まだ完全には気が付いていない。次回リルムチーム、レイラチームによる死闘を予定してます。同じ物語か、違う物語で、背徳の魔王でした。




