閑話翼のある女の子嫌いですか?2
プロローグ
━━北大陸、首都アージン、
街の外れにある。
いかにも町工場と見える外見。側にログハウスがあるが、家の中に。部屋が3つあり、その一つは、使わない素材。ガラクタ。壊れた品々等が、雑多に積まれていて。入り口付近は古い工具置き場になっていて、かなり部屋中は乱雑していた。
残った部屋は2つあって、一つは翼人の女性が使っていた。雑多な要らない道具なんかが、押し込まれていたのだが、半月前になるか、部屋が少し片付けられ、中古のベッドが置かれていた。下手くそな鼻歌唄いながら。機嫌よく慣れた手つきで、小さなオートマイータ、人形の制作に掛かっりきりになったていた。楽しそうに手を動かしてるのは、リマ・エスヤン、翼人の見た目は少女である。━━翼人とは、千年以上前まで、赤の民と呼ばれていた、古代の民であり。神の怒りを買って、アビス世界に堕ちた、魔人となった者達であった、
━━あと数年で、中央大陸事件から。20年が経とうとしていた。
あの日……、
日も昇らぬ早朝……。
突破地震が起こり。人々は目を覚ました。
そして……、目にしたのは、失われていた大陸が、突如空に現れた瞬間であった。
━━あまりのことに世界中に大混乱をもたらせた事件、
辛くも数多の英雄、豪傑、勇者達の手で。人間側の勝利となった━━、
その時。呪いから解き放たれた魔人達は、アビス世界で生きてくため闇の女神カーレルの祝福により。姿が変貌していたのだが……、闇の女神カーレルが封印された刹那。女神の祝福を受けアビス界で、生きる身体を得ていた魔人達の身体に異変が起こる……、祝福と言う呪いが溶けて。元の姿に近い姿に戻った……、
しかし翼は残り。人々から翼人と呼ばれるようになった。
中央大陸に残された翼人達は、なす統べなく。茫然自失となっていた。それを救ったのが、人間の英雄オーラル・ハウチューデンである。
中央大陸に国を興し。翼人達と人間のパイプ役を担い。世界の均衡を保った。彼こそまさに英雄王と。人々は呼んだ、
━━なれど翼人達の気持ち、
人々の気持ち、
感情は複雑であった……。
リマ・エスヤンが、北大陸に渡ったのは、自分を救った人間。レノン・ハウチューデンに。一目惚れしたからなのだが……、
翼人の中でも変わり者で、有名だったリマと、偏屈な職人レノンの物語は、こうして第2章の幕を、北大陸で向かえていた。押し掛け女房ならぬ。弟子になることが決まったから。
━━昨夜レノンの師サノエの孫娘。アノンが迎えに来て、朝早く。造船と機械の国。ジエモンに向け。二人が出発した、
明日は、リマとレノンも。新しい土地、西大陸に向かう。感慨深い気持ちを抱いた。この部屋で、作業するのは……、今日で最後になる。そう思っていたら。目に入ったのは、リマが北大陸に来た日から。少しずつ見よう見まねで作り始めた━━。
「出来れば、完成させたかったな……。私のオートマイータ(自動人形)……」自分の技術では、難しいのかと半分諦めていた時のこと。
「リマ……、お前諦めるのか?」
「レノンさん……?」
偏屈そうな顔に。厳しい光を眼差しに称えていたレノンが、いつの間にか部屋に入って来ていた。それだけ集中してたのが、何となく気恥ずかしいが、レノンが、言わん事がわかり。胸の辺りが、ぽかぽかしてきた。だから迷わず。
「師匠!、手を貸して下さい」その場で、土下座していた。ようやく解ったか?、皮肉気な笑みを浮かべたが、眼差しは優しい。リマの大好きな笑みだ。
それからレノンの指示に従い。オートマイータの心臓部。魔法石を繋ぐ。魔法機関の調整が、少し間違っていたのが、起動しない原因だと解った。やはり自分はまだまだだと、気恥ずかしく唇を噛んで、シュンとした。小さく嘆息したレノンは、皮肉げに微笑して、
「リマ……、お前1人で、これだけ作れたんだ、自信持っていい。そうだ弟子の作品を手伝ったんだ。俺にきちんと動くところ。見せてくれるんだろうな?」
最後の駆動部分の調整するビスを。ドライバーで締めていたリマは、ハッとして、にっこり華やいだ笑みを浮かべていた。
「はい♪、レノンさん」
落ち込んでたのが、まるで嘘のように。キラキラした幸せそうな笑みを浮かべるリマの。変わり身の早さに。レノンは(苦笑)を隠せない。やれやれ面倒な弟子をとったと。半分は本気で思ったが、リマの感の良さは、甥っ子ブライアン以上で、数年きちんと学べば、職人として、食ってけるだろうと感じていた。
『まあ。それまでは面倒見てやるか……』
仕方ないと。レノンはその程度の気持ちであるが、リマはと言うと……、
乙女ワールド全開。脳内で、あんなことこんなこと……妄想しまくりで。うっとり恍惚とした顔をしていた、
『このままレノンさんに認められて……、リマ、もうお前無しの生活は考えられないとか、いきなりだめですよレノンさん、とか言ったりして』
翼人達が、リマを敬遠するのは、リマの妄想に浸る姿が、不気味に映り。気持ち悪い女と言う印象を皆に与えたからである。翼人の中でも、わりと仲が良かった。サノビアには居場所知らせようかと、ぐるぐる色々なこと考えてると。
「そう言えば、サノエ師の孫娘、アノンが言ってたのだが、サノビアって翼人がシンクの姪。リナの護衛役として、アレイク王国に。住み着いたらしいな」
ピタリ妄想が止まり。レノンを見上げ。驚いた表情を浮かべた、おや?眉を潜める。
「知り合い。だったか?」
レノンは偏屈故に。人の表情の変化に敏感である。意外に思われがちだが、口が悪く。素っ気ない印象が強い。だが付き合いが長いと。然り気無い気遣いと、ちょっとした優しさの出来る。誠実な人物であると分かる。長年仕事した。職人仲間から。一目置かれる故である。コクン頷いたリマ。友達と呼べる。数少ない知り合いである。まさか他大陸にあの生真面目なサノビアが……、驚きであった。少し考え。話すべきか迷ったが、何れ知るだろうからと、小さく嘆息して、
「リマ……、そのなシンクが、魔人王を倒した。それに関係してると。義弟が知らせてきた」
昨夜サノエの孫アノンを連れて来た、甥っ子ブライアンから、こっそり聞いたのだ。ブライアンはリマの生い立ちを知らない筈だが……、不思議な甥っ子である。さっき港で、師に別れの挨拶に来た義弟から、聞いた話の中に、件の女性。サノビアの話があったのだ、
「……そう、ですか」
一瞬━━。
表情を強ばらせていたリマ。自分とて北大陸に居たとき、安穏と暮らしていた訳ではない。
工場で住み込みの手伝いをして、プロキシスに住んでたこともあり……。人間の中には、魔人に殺された親族が、リマを誹謗中傷したのは、一度や二度ではない……、
リブラ、ブライアン、ララの人力があった、それにリマの性格や、大地の女神アレの祝福を得たからこそ、少しだけ北大陸の人々に。認められるようになったのだ、敢えて言わないが……、結構苦労していた……、グッと歯を食い縛り。
「サノビア達……。自警団は、シンク王子が、手足を失った事件の時に。有志を募り結成されたんですよ……」
リマの背からでは、表情は伺い知れないが……、リマが、魔人王の遠縁に当たると、レノンだけには話していた。
「リマ……」
服の袖で顔を拭い。リマにとって、最後の肉親だったと語っていた。
しかし……、先程リブラから、聞いた話がある。言うべきか一瞬迷う。あまりにも途方もない。夢物語だったからだ。
「お前に。人間の親戚が要るのは、知っているか?」
駆動部のカバーを取り付けていた手が、止まった。
「……レノンさん?」
一瞬。語るのを迷っていた、あまりに壮大で、馬鹿げた話だが、それゆえにオーラルが、リブラが、ブライアンが、彼女を構うのだろう……、不思議な奇縁を感じずにはいられない、
「リマ、お前は知ってるな、赤の王プロキシスに、人間の妻が居たことを……」ハッとしたように。身を固めた。
「リブラは赤の王の血縁に当たるそうだ、赤の王には二人の子供がいた。1人はナタク。もう1人が……」
━━今朝のこと。
サノエ師を。見送りに出たレノンを。同じく戻った義弟リブラが、訪ねて来た。
「少し。いいかレノン兄貴」
昔、リブラが相談がある時。レノンを兄貴と呼んでいたな……。
「仕方ないな、どうした義弟のリブラ?」
からかうように言えば、懐かしそうに目を細めあった。
リブラに案内されたのは、街から見える竜の巣と呼ばれる場所だった。何故わざわざここまで来る必要があったか、その時は判らなかった。だが興味があった場所だ、初めて入ってきたレノンを、竜達は、興味深そうに見てきて、
数匹の小さな竜が、テトテトレノンに近付いて来たから、何気なく頭を撫でたら、甘えた声でぐるぐる鳴いた。
「昔から変わらんな。兄貴が動物や子供に好かれるのは……」竜を、動物に例えるのはどうかと思ったが、リブラに言われたくないが、その通りだと認める。
「明日……気を付けてけよ」
「ああ……、それだけか?」
珍しく歯切れが悪い義弟を、からかうように言えば、
「兄貴には、敵わないな、兄貴……リマのこと頼むわ」
「お前に……、」
リブラの顔を見て、何かあるのだと直感した。
「リブラ話せよ。お前は、それが必要だと感じたんならな」思い出したのだ、義弟の直感が、一度として外れたことがない事実と。魔力を見る特別な目を持っていたことを━━。
だからと言うべきでは無いが、弟の直感は、十分に信に足りる理由である。「やっぱりそう言う優しいところ、ベリー母さんが、兄貴を可愛がった理由だったな」
懐かしい義母の思い出に。ほろ苦く思い出した。
「兄貴だから話すが、シンクが魔人の王を倒したのは知ってるよな。それで幾つか封印されていた、俺の記憶が戻ったんだ……」
「お前の?」
おかしな話である。リブラは、産まれたばかりの状態で、孤児院の前に捨てられていたと聞いていた。
「実はな、俺……親父にあってたんだ」
━━話は、リブラが、機械と造船の国ジエモンの職人長サノエから、ある依頼を受けた頃に戻る。
「地下迷宮にあると言われていた。赤の民の街を探して欲しいとの依頼でな、俺は当たりを付け。相棒と探索に出たんだ」詳しい話は、北大陸に着いて、リブラの逸話で聞いていた、
「街を見つけた俺と、相棒は、やたらボロを着た老人に会ったんだ、すっげー懐かしそうに。しわくちゃな目を細めてよ。欠けた歯を剥き出しにして、笑った老人は、『済まないと』言ったんだ」
それから。記憶を失ったリブラの活躍は有名だ、リブラと相棒の暴君を。未来の世界に送った人物こそ━━。
「赤の民の王プロキシス本人であり。『星と再び出会った』。運命だと言ってたが……、気になって調べたらよ。古代の民の言う星とはな、我が子と呼ぶ。隠語に使ってたそうだ」リブラはあくまでもと前置きして、
「話は変わるが、土竜騎士の多くが、黒髪なんだが、赤の民の何らかな血縁関係がないと、なれないと最近分かってきた、ギルドの秘密らしいがな」
「それはまた……」
世界には沢山の秘密がある物だと呆れていた。段々言わんとしてる事が、分かり始めた。
オーラルが何故中央大陸で、国を興し。翼人が彼を認めているのか……。
「理由は、それだけでない、俺の目の力。覚えてるよな?」素直にレノンが頷くと。皮肉げに。
「最後の決戦の時。俺の目は、魔人王レイアスを見た。そしてオーラルもな、確信したよ。同じ血筋だとな……」
「そうか……」
そう言うしかなかった。
「……リマを見たよ……」
ハッとした。そしてリブラの……、弟の言わんとしてることが、手に取るように分かっていた。
「不思議な、奇縁だな義弟よ……」
「ふふ確かに。兄さんには、何時も無理を言ったよな」
「だがお前達とは、血が繋がってはいないが、家族だと言えるさ」
ほんの些細な気遣い、そんな然り気無い事が出来る優しい人物。レノンとは、そんな人間である。
エピローグ
レノンの話を聞き終えて、リマは妙に納得していた。だから……リブラ様に会った時。あんなにも安心したんだ、だから……ブライアンが本当の弟のように思えたのかと、ぼろぼろ泣き出したリマは、レノンに抱き着いて、こんなに嬉しいこと教えてくれるレノンが、心から好きだと言えた。




