閑話翼を下さいお姉さまセカンド
プロローグ
━━アレイク王国。王都カウレーン、南通り。
劇場のある通りには、有名ブランド、ミヤマ本店があり。
本店の裏に、ミヤマの屋敷はあった、豪奢な部屋、残暑厳しい。外の陽気とは違い。適度に魔法で、部屋の中は冷やされていた、採寸台の前で。空色の生地をパーツごとに切り出し。くすんだ金髪を後ろで束ね。眼鏡をしたモレンは、緊張の糸を解いた……、
「サノビアさんの前に。あの子に私を。認めさせなきゃ!」
鼻息荒く。意気込んだ。
何せ……。
━━ことは、学園側から。普通科に発表された。『第1回コーディネートコンテスト』開催を知らされたからだ。
しかも……、
審査員は、三名……、
縫製科、セラナ教諭。
エドナ・カルメン・オードリー学園長。
特別審査員。
ミリア・シタイル、
当初、誰……?、って揃って、首を傾げてたのだが……、モレンは父から、ミリアさんの血筋を聞いて、血の気が失せた。
『実はな……、ミリアちゃんは、あのオーラル君の姉なのだよ』
ドーン、音がしそうな衝撃を受けた、
『お前は、部屋に綴じ込もって、デザインに没頭してるから、知らないだろうが、あの家にはシンク王子様も。いらっしゃる』
そう言えば……、噂を聞いた……、英雄王の子息が、入学してると、とことん世相に疎い娘の様子に。苦笑は隠せず。『さてモレン、お前が、ミリアちゃんの新しい家族に、興味を抱いたようだが……、そうは簡単ではないぞ?』
わざと焚き付けた、グッと息を飲んだミヤマは、姉エドナの言葉を思い出す。
「じゃ~ミリアさんも巻き込みましょう♪」
「姉さん……、それは」
絶句する弟に、にやり不敵に笑いながら、
「姪の事だから、噂の戦乙女に御執心かしら?」 意味ありげにズバリ当てられ、息を飲んだ。すっかり薄くなった、弟の頭を撫でながら、
「貴方が頭を悩ませるのは、私の事かあの子のことだものね」
「ぐっ……」
ぐうの音も出ないな。小さく嘆息しながら、
「それで姉さん、どうやってミリアちゃんを巻き込むんだい?」諦めを抱きながら、姉に問うた。
「簡単よ~。ミリアさんなら、素直に話せば、悪のりしてくれるわ♪」
何だが……、相手を間違えた気がするが、既に歯車は動き出しているのだ。姉があの顔をしてる場合は、諦める筈がない……、
昨日からモレンは、学園から帰るなり、デザインをスケッチして、一日中部屋から出なかった、かと思えば、今日は帰るなり、採寸をしていた、ぶつぶつ呟きながら、生地を切る作業をする。娘はちょっと怖い……、
あの様子では、自分の感覚で、モデルのサイズを思い出し。裁縫に入るのだろう、
父の予感は当たっていた。モレンは西の職人通りに。毎日通い詰め。ストーカーとなって、翼人サノビアを、愛でていたから、大まかだが、サイズがわかっていた、
だが……、モレンは喩え。サノビアさんに、似合う服を作ろうが、着てもらえなければならない。だからあの強敵……、
「リナちゃんに似合う服を着てもらい。仲良くなるの!」
しごくまっとうな意見をのべていた。明後日は休日。どんなことをしても。リナちゃんと友達になるのだと、意気込んだ。
━━休日。
夕べは一晩中かかり。空色の可愛らしいワンピースを、作り上げ。ドキドキさせながら、西の職人通りに、久しぶりにやって来た。いつもサノビアさんを見ていた、角の金型鉄鋼の店で。立ち竦み。手に汗をかきながら、憔悴してると、
「なんじゃ?、またお前さんか……」
じろじろ無遠慮にねめつけたが、モレンの手にある袋に目をやり。フム……、目を見て頷いた。
「きちんと謝り。訳を話せば、わかってくれると、ワシは思うぞお嬢ちゃん」
びっくりして、振り返ったが、既にドワーフの職人は、汚れた前掛けをして、店の奥に戻った。モレンは頭を下げ。気合いを込めてから、鼻息も荒く。小間物屋に足を踏み入れた……、
「いらっしゃい」
柔和な笑みで、出迎えてくれたのは、初老に掛かる年齢の職人で、作業台から、ひょっこり顔をだした。
「あっ……」
「ゆっくり見て行きなさい。用があれば、声をかけて」「はっ、はい、ありがとうございます」
当初の予定とは違ったが、可愛らしい小物、装飾品、手作りと分かる。品々は、デザイナーであり。マッド服飾職人を夢見るモレンにとって、創作意欲を刺激される品々だった、震えそうな手で、革製品の染色にゴクリ。驚愕した、
「いらっしゃい。今日はお客様かしら?」
ハッと身を強張らせ。恐々振り替えると、黒髪の妙齢の女性が、にこやかな笑みを浮かべ、何時の間にか、立ってただけなのに……、蛇を丸のみにする。大蛇を前にしたような、恐怖を感じた。
「あっ、あの……、これ……、お嬢さんに着てもらえないかと……」
緊張のあまり、声が上ずる。
━━それはほんの一瞬。されど永遠にも感じた一瞬だった。
「フーン成る程……、見ても良いかしら?」
圧力は、軽減されたが、怖さが……。消えた訳じゃない。素直に何度も頷いた。
チラリ彼女を伺いながら、予想外にさとい子だと、感心しつつ。ミリアは包みを開けて、唇を綻ばせた。
「へえ~、これはなかなか、貴女その若さで、腕のよい服飾職人か、学生なのね?」
妻の呟きに。ピクリ反応したのが、オリバーで、自身も職人である。しかも妻は、そう人を誉めない。俄然興味が沸いた。
「ミリア良いかい?」
「ええ~、デザインは貴女が?」
「はっはい……」少しだけ緊張を和らげ、生地から、3日がかりで、作り上げたと言うと。
「ほう~、その短時間で、裏の縫製も丁寧で、長く着れるよう。生地の断面が、ほつれないよう。工夫が成されてあるな……、」
ええと頷いた上で、生地を確かめながら、
「デザイン自体は、初めて見ましたが、生地はミヤマの製品だわね?」
ズバリ当てられ、思わず舌を巻いた。
「空色は、ミヤマの新しい染料技術あってのだからな~」
妻の鑑定に、お墨付きを与えた。
「フーン良いわ。リナ~」
店の奥に声を掛けると、 「はあ~い♪」
程なくリナと一緒に、男の子が出てきたから。落胆していた。
「伯母さん、伯父さん。おはようございます」「おはよう」
「おはようシンク、丁度良かった、リナにこのワンピース着せてちょうだい」
「分かりました♪」
一瞬モレンを認めたリナは、きょとんとしたが、母の手にあった、可愛らしいデザインのワンピースを目にして、パッと顔が輝いた。
━━程なく、空色のワンピースを着た、リナが、みんなに見せるように。クルリ回って見せた、緊張の一瞬である。ドキドキドキドキ……、裁定を待っていると、
「リナ、お姉ちゃんが作った。洋服どうかしら?」
ジーっと見詰められ。思わずゴクリ。
「うん、可愛くて、着やすいよ♪」
最高の誉め言葉。至福♪。安堵の吐息を吐いてると、フフ~ン鼻を鳴らして、
「貴女の腕前は、分かりました。それで、どのような用なのかしら?」
本番はこれからだ……、ゴクリ再び緊張を抱きながら。本題に入った……。
「モレンさんて、言ったわね。少しお茶を飲みましょうか、シンクお願いね」
「はい、リナ手伝ってくれるかな?」
「は~い♪」
元気いっぱいに。返事を返して、シンクの後に続いた。
お店の奥に通されたモレンは━━、
……美しい。温室ガーデンに足を踏み入れ。見たこともない、洗練された個室に。衝撃を受けた。
「春の庭園……」
小さな温室ガーデンと。一口に言っても。格式高く、素晴らしい調和の空間があった……、
「このガーデンは、常連専用よ。一見のお客様は、入ったことすら無いわ」ドキリとした。それはモレンを、お客様ではなく、交渉相手として、招いたことを含めていたからだ。
「それで……、誰に何をさせたいのかしら?」
切り込むように。核心を突いてきた。
「へえ~、学園でね~」 一通り話をし終えたモレンは、緊張を高め。ギュッと手の甲が、白くなるほど、力が入る。
そんな決死の決意。覗かせるモレンのような女性を、ミリアは嫌いではない。それにあれだけの縫製技術。デザインセンスは、あのミヤマの娘だけはあると、
感心していた。
「いいわ。サノビアには、私からお願いします。その代わり、リナをお目付け役に付けます」
エピローグ
手作りのお茶。お菓子を。ご馳走になり、その上サノビアさんが、モデルとなってくれ。有頂天になるどころか、身が引き締まる。強いプレッシャーを受けていた。
「お姉さん。ちゃんとやらないと、帰るからね~」
にこやかに言われたが、採寸作業に集中した、輝く美しい肌に、触れるだけで、至福の時である。自分の煩悩との戦いは、苦戦を強いられていた。果たして、どうなることやら……。ようやく本番に挑める土台作りが。始まったばかりである。




