世界議会開催です。ドタバタですねマジで、
魔人の王レイアスがついに動きだした。雪辱を決意して、壮絶な覚悟をしたシンク。世界中から。注目が集まる世界議会が、開催される中央大陸を舞台に。魔法討論会、コンテスターの演目と、輝きの都は、大騒ぎとなる。
プロローグ
世界中から毎日のように。沢山の人々が集まり。通りは賑わい。多くの店が屋台を出して。色とりどりのテントに、朝からどっと客が押し寄せる。
今夜は、前夜祭であり。明日は、建国15年を祝う大祭で、
この日のためにオーラル陛下自ら、自分で畑を耕し。二年がかりの時間を費やして。大量のワインを造り、なんと無料で提供すると宣言され、誰もが日々の疲れを癒す。祝いの日を楽しんだ、
また普段慎ましい生活をする陛下も、城下で民と飲み。語らい。祝杯を交わす姿は、誰もが笑みを浮かべ、各国の重鎮、国王、女王達を感動させる。それはそれは盛大な催しとし。笑顔が絶えなかった。
━━輝きの都。東にある竜騎士団駐屯地、竜騎士の当直以外の騎士は、祖父リブラに連れられ。豪快に飲み食いしてる頃だろうか?、
思考を飛ばしながら、ブライアン・ハウチューデン、シンク・ハウチューデンの二歳違いの叔父と甥っ子は、機械竜のメンテナンスを手伝っていた。駆動のハッチを開け、
「24=26スパナー、ドライバーも」
「はい」
慣れた手つきで、工具を渡す。シンクも自分の義手、義足を簡単なメンテナンスなら可能なので、
手伝いを申し出た、本当は、シンクも顔を出すべきなのだが、酒の席である。飲ませさせられるからと、両親からも遠慮するよう、言われている。それに父や祖父はこうした、細かい作業が、苦手である。残念ではあるが、その内飲む機会はある。シンクを酒の席に。同席させなかった、理由は他にもあるのだが、それはまた別の話。
「ブライアン?、翼人来るのかい……」
唐突に、固い表情をしたシンク、ああ~、メンテナンスに夢中で、忘れていた、
「そう、明日の警備に。翼人の自警団が、手を貸してくれるそうだ、今日その責任者が、顔を出すことになってたな~」
「なるほど……」
幾分表情を和らげ。小さく苦笑した、シンクが出迎えると、お互いビックリ。
「しっ。シンク様……」
「いらっしゃい、ブライアン奥で、メンテナンスしてるから此方に」
「はっ!」
畏まるガルシアを好ましく迎え。
「サノビアは来ないのかい?」「はっ、上空で待機しております」
「そうか、リナがサノビアにまた会いたがってたから、世界会議が終わった後にも、遊びに来るよう伝えて」
意外な申し出、されど悪くない所か、楽しみである。
「サノビアも喜びます!」
僅かに蟠ってた、不安が消え。何時ものガルシアに戻っていた。
ブライアンと警備について、話し合いがなされ。切りの良いところで、シンクはおいとまを告げ。ひとまず昨日の会食で、緊張していたリーザを見舞いに。各国の優秀な学生が泊まる。宿に赴くことに決めた、
王の道は、それはそれは前夜祭で、活気があり。華やかな衣装着た、子供達が元気に走り去る。
「ぼくが、この国を守る」新たに決意を固める。それには……、
「レイアスを討つ……」
自分の右腕、左足を奪った憎っき相手。油断出来ぬ人物……、
「明日の襲撃、ぼくの手で終わらせる!」
その為に。わざわざブライアンと、打ち合わせしてたのだから。不敵に微笑むシンク。その相貌は、力強く。自信に満ち溢れていた。
━━白銀の城。
華やかに。各国の王公貴族達が、軽やかな音楽に合わせ。大広間で、花を咲かせる。
中でも年頃の娘を伴う貴婦人、若い子息を不執拗に。着飾らかせ。お見合いの場と、考える諸外国の貴族達が、競うように。有力貴族に取り入る様は、見ていて気持ちの良いものではない。流石に我が国の貴族は、それはないように思われる。
「オーラル陛下!、お久しぶりでございます」
見違えるように。美しくなった、我が国の財務大臣の1人娘。相も変わらず。息災のようだ……、
「美しくなったなホーウネリア。噂は聞いてるよ」
にこやかな笑みに。赤みが差し。それでも嬉しい気持ちが勝って、照れくさそうに微笑む。
「ありがとうございます♪、さっきリルムちゃんと会いました、シンク出席してないんですね?」
幼馴染みのリルムが、不安そうな顔をしてるのは知っていた、なれど……、シンクの決意は固い、何より自分なら、そう行動する。ならば……、
「ホーウネリア、君も知ってるだろうが……、シンクは妻に似て、酒豪なんだ……」
意味ありげな視線を受け。アッなるほど、納得した顔をする。
「また貴族連中の子息を潰しては、煩いからな、あいつはブライアンの手伝いをしているよ」
「ああ~ブライアン様の~。そう言うことなら、リルムちゃんのこと。任せて下さい陛下♪」
機微にさとい子で、面倒みが大変良かった。思いだし。柔らかく微笑み。お願いする。下手にリルムが関わり。不測の事態になれば、シンクに依存してるあの子のこと。ダメージは計り知れない。ここは二人に任せ。いざと言う場合の保険。父と竜王がいる。「オーラル陛下!、この度は建国15年目のめでたき日に、ご招待下さり。ありがとうございます」
いかにも凡庸で、国の財政を喰いものにする貴族は多い。目の前の男もその1人だ。
「これはローゼンブルク侯爵。我が国まで遠路感謝する」
世界が平和にあるのが、各国に多大なる影響を与える。英雄王オーラル・ハウチューデンによる力。可の王より。直接言葉を交わすことは、財を叩いても得難い。ましてや一度は、自分の娘の伴侶と考えてた逸材。まさか国を興すまでの、男とは考えもしなかったが……、
「よ~オーラル」
「オーラル様!」
遅れていたアレイク王国の若き王夫妻。月日によりさらに美しくなられた。我が守りし姫君と、我が師の1人とも言える。
「姫様……。おっと今はミレーヌ王妃、見ぬ間に、さらに美しくなられたようで、あっついでにレヴァも」
「なっ、俺はついでかよ」
妻のエスコートとして、女の子のような顔立ちのレヴァが、コケるコミカルな動きを見せる。小さな笑いと、次代のアレイク王夫妻は、否応なしに目立つ。
「これは叔父上」
にこやかに笑う表面とは裏腹に。レヴァの目は冷ややか、
「おお!、我が王よ、先にオーラル陛下に拝謁した、我が身の無礼を許されよ」
「いえ。こちらの不手際で遅れました。オーラル陛下は、我が国の恩人です。我が国を代表して、挨拶下さり感謝致します叔父上様━━」耳さとい者は、理解したが、凡庸なローゼンブルク侯爵は、気が付かない、其ほどレヴァの言葉は巧みで、お礼に混じってはいるが、貴方の挨拶は。あくまでもアレイク王国からとしての物であり。オーラル陛下はそれに返礼したと、そう告げたのだ、これにはオーラルもレヴァの性格の悪さに。苦笑を飲み込んだ、相変わらず喰えない男である。それに気が付いた。各国の重鎮は、肝に命じたに違いない。若きアレイク王は、強かな男だと……、だがそれもまた考えが足りぬ。レヴァはわざわざ遅れて来て、ローゼンブルク侯爵の性格を把握し。わざと今日と言う。今を演じたのだ、それに気が付いたのは、オーラルも含め。僅かな人物しか、気付かないようなメッセージではある。
`私はいかなる手段を取ろうと。我が国を守る´
そう言ってるのだ、魔王ピアンザ、ドヴィア王、バローナは気がついたようで、苦笑いを浮かべていた、バローナにとって、姪にあたるミレーヌ王妃。叔父を見つけ。ミレーヌが手を振る姿に。レヴァが訝しげな顔をして、妻に何やら訪ねた。
「叔父上?、バローナ様が……」
「ハイですの~♪」
どうやら知らなかったようだ、ケレル殿下が亡くなり。アレイク王国と同盟が結ばれ、両国は着実に友好関係を築いてる。
「レヴァは、知らなかったようだから、代わりに一言加える。バローナはミレーヌ様の母、その兄が子息で、悪名高きエトワール家を受け継いだ、アレイク王国の王家に連なる悪人だ」
「おいおいオーラル!、悪人は無いだろ」
二人は長年の付き合いで、今では友と呼べる間柄。悪口に思えたが、二人にしたら、軽口なのだろう。
「それはそれは、初めて聞いたわい」
好好爺とドヴィア王が、楽しげに笑えば。
「そうですわね。まさかバローナ様がそうだったなんて」
軽く睨むように、オーラルを見るナターシャ、さすがにばつが悪く苦笑を滲ませる。
「この度の世界議会の場で、新たにアレイク王となることが、正式に決まったゆえに。要らね動乱が起こることの予防線ですか、オーラル陛下?」助け船を出したのが、ハーミュア・ローレイ、西大陸ローレイ商会の長であり。パルストア帝国の財務大臣を兼任してる。重鎮である。
財政の観点から言えば、オーラル陛下と、バローナ将軍の考えは理解出来た、それは混乱と要らぬ陰口を増やす事になった筈だからだ。今まで口にしないよう。気を使っていたのは、今ならそれを口にして、問題ないとの判断だろう……、
「なるほどの~……、二人はアレイク王国の為に、黙っていたか」
好意的な眼差しを向け、僅か腰までしが届かないが、バローナ将軍の背を叩き、
「悪名は、有名税と思い諦めんかい、魔王殿みたく。しゃんとするが良かっろう」
欠けた歯をむき出しに。カラカラ高らかに笑い出したドヴィア王。些か対応に迷いが伺えたレヴァだが、小さく肩をすくめ。
「バローナ将軍、一度我が国貴方の祖国に帰国下さり義母や、義父とお会い下さい」
実直そうに頭を下げた、何故若い二人を、今回世界議会に出席させたか、ようやく理解したようだ。妻には難しい内容ゆえに。話せして解るか……、そんな親心も見え隠れしていた、でもレヴァを信じての判断だろう、自信はないが……、ありがたい話である。
「伯母上とは、内密に話して決めていた、此度ミレーヌを。世界議会に出席させたのは、俺と血縁があることを、正式に発表することが一つ。もう一つは、オーラルと決めていたが……、我が軍国ローレンは、来る疑似神との戦いにおいて、正式にアレイク王国に助力を願う」
ざわざわ……、貴族達は、きな臭い話に、蒼然となる。
「遂に来たか……」
ドヴィア王は、鋭い眼差しを浮かべていた、
「オーラル陛下?、すると中央大陸の憂いは、どうなさるのですか」
当然の問いであろう……。美しく着飾り。鋭く目を細めたは、アレイク王国の財務官。カレン・ダレス=シルビアが、青ざめた顔をしながら、気丈に振る舞う。
「世界議会だから、有効か……」
魔王ピアンザは、口数少なめに発言する。だがその内容に気が付いた者が、幾人もいた。流石は各国の重責にある者達である。「そう捉えてもらって、構わぬ」
ゾワリ……、肌が泡立つほどの怖さ、それ以上に、この方を敵にしたくない。誰もが思った、それほど深い策謀を垣間見たのだ、
━━シンクが、学生達が騒ぐ。宿舎を訪れたのは、間もなくのこと。ジータ学園のはみ出しものアムール・ステファンは、窓から外をぼんやり見てたら、思い人が、宿に入るのを見掛け。思わず口元綻ばせ。早速会いに行くことに決め。スキップしながらどんと扉を破壊しそうな勢いで、部屋を出た。
━━下の階。
白銀のボディーで造られた、自動人形廊下でキラをメンテナンスしていた、アノン・ファンと階段を飛ぶように降りてきた、アムールが、ぶつかって、二人は転がるように。頭を押さえた。
「ごっ、ゴメンだっ大丈夫?」
下敷きにしてしまった。アノンと目が合って、二人はアッて、顔をした。
「貴女は確かジータ学園の……。アムールさんでしたね?」
「アムだよ。君は軍国のアノンさんだったよね」
二人は慌てて起き上がり、制服の埃を払い。照れ臭そうに笑いあった。
「アノンさんゴメン、シンクを見付けたから、ちょっと慌てて」
手を会わせるや、
「こっちこそ……、部屋でメンテナンスしてると、皆から嫌がられて……って、シンク?」
ああ~アムは思い出した、確か……、
「お爺ちゃん探してたよね?」
「うん!、貴女はシンクさんと知り合いなのよね?」お互い何と無く、覚えてた。アムールは少し困ったように、苦笑いしながら、
「まあね~企業秘密だから、詳しく話せないけど、シンクは父さんの恩人なんだよ~」
何だか訳ありそうで、気になった、
「それはそうと。シンクさん見掛けたって?」
「あっ、忘れてた、多分アレイ学園のリーザの所ね~」
1人納得していた。そう言えば……、お爺ちゃんを見つけてくれたお礼を、まだ言ってなかったこと思い出した。
「アムさん!、私も行っていいかな?」
「いいよ~」
あっけらかんと返事して、アムはアノンの腕を掴んで、早速向かった、
『アノンさん……、誰か忘れてませんか~、おお~い……』シーンとした静寂が、虚しく自動人形の声を響かせた、後に……、バラバラ死体が動いたなど、怪談話で有名となる宿の━━微妙な現実がそこにあった……。
豪奢な部屋で、ゆっくり休んでたリーザは、控えめなノックの音が、あるのに気付いた、
「はい?」
「あっシンクだけど、今大丈夫かな?」
あっ……、昨日の事で、ちょっと恥ずかしく思いながら、部屋を確認して、自分の格好がおかしくないか見る。大丈夫だと安堵して、
「ちょっと待ってね」
慌てて、下着を毛布にくるんでから。鍵を開けた。
「昨日は大変だったし、ちょっと様子見に来たんだ」やっぱりね。小さく嘆息した、こういう気遣い出来るから、親友のヒナエがゾッコンなのだ、
「ええ大丈夫よ。昨夜は母の話を沢山してくれて、とても嬉しかったの……」
気恥ずかしい限りだ、母のことあんなに思ってくれたのが、英雄王オーラル陛下で。沢山の優しい言葉を頂いて。場も弁えず。わんわん泣いてしまったので、粗相したのでは……、気に病んで、落ち込んでいたのだ、
「父さんが心配してましたよ。いきなりあんな場に連れてたから、困らせたのかとね」
「あっ……、そんなこと……」
「わかってます。ただ父は、そうして下さいと、それでリーザが気持ちよく。魔法討論会に出れるならね」あまりに優しい言葉、またもや泣きそうになりつつ。小さく笑みを浮かべる。
「今晩わ~シンクいる?」
ノックの後。凄く聞き覚えのある声が聞こえ。二人は苦笑を浮かべていた。
それから散々アムに引っ掻き回され。困惑するシンクを、リーザとアノンは、声を上げて笑っていた。それは本当に楽しい一時だった、まさか裏で、シンクが、あれほど無理してたなんて……知らず。私達三人は、シンクの優しさに甘えていた………、
━━深夜。自室に戻ったシンクは、荷ほどきして。義手ラクル、義足クエトの整備をした、さらにリックから。特別に作らせた棍の。持ち手に鞣し革をしっかり巻いて。握り確かめる。見た目は木を荒く削り。加工したような。無骨な印象を与えるが、金剛と呼ばれる合金で、聖別された鉱物を、精製された物だ。
重さはほとんど、木と変わらない、強度は神の遺物たる。武具に劣らない。さらには魔人の王の持つ呪われた杖に。対抗出来るだけの装備を備えてきた。
同じ素材を革鎧にパーツごと板金のように、埋め込んだのを着込み。シンクは竜舎を目指した。
静かな眼差しを、竜王プライムが、シンクに向け、待っていた。
『行くのか?……』
鋭くも威厳ある。労るような思念、シンクは。毅然と頷き、
「敵は……、明日の世界会議の場を利用して、中継の町アセイラを。必ず襲撃してきます」狙いは、中央大陸の制御。それを可能にする。太陽の石だろう……、それは竜王ブライムとて理解していた、リブラが気を利かせ……、竜王にシンクレアと会うよう言ったのだ。
『シンク!、私も頑張るね♪』
白銀に輝く。巨体をゆっくり動かしながら、シンクレアが現れ。気品を漂わせる。竜と騎士は見つめ会って。信頼を込め。首筋を叩いた。
「シンクレア頼んだ」
『うん♪』
1人と一頭……、兄妹のように暮らした二人だから、お互いの気持ちがわかっていた。シンクレアに鞍を着け。竜王プライムに見送られ。一対の竜騎士は、決戦の地に向かう……。壮絶な覚悟を内に秘めて、
━━中央大陸西……、フロンと呼ばれる。小さな開拓村がある。白銀騎士団を引きいる。左将ロート・ハーレス。同じく土竜騎士団長ボルト・ホウリーは、明日に備え。夜営の準備をしていた、
「申し上げます!、上空に怪しい影を発見。その数5」
ボルト・ホウリーは魔法を使い視力を上げて、空をみた。鋭く目を細め、黒を貴重とした翼人……、
「あれは死の女神カーレルの神官達!」
そんな筈は無いのに。だがボルトの琴線に引っ掛かる。あれは危険だと、
「総員!緊急配備。警戒せよ」
「はっ!」
精鋭である白銀騎士団は、素早く迎え撃つ準備に掛かる。
急に慌ただしくなる人間達。見つかったと気が付き、素早く翼人達は散会した。先陣を切るのは闇騎士セザン。背にあった巨大な戦斧を手に、漆黒の翼を拡げ、
「人間達よ!、我が兄ダイランの敵……。その身に受けるがよい」
厳かに告げ。白銀騎士団を前に、戦斧を軽く振う、凄まじい……烈風が起こる。
7神官が1人ダイランは、遥か昔、赤の民最強の剣士で、王を守る守護を任せられるほどの。武人であった……。
7神官の中でも。最後までプロキシス王を擁護していたが、
強き者ゆえ驕り。高ぶり、血を見ることに……、溺れて行った……、
魔人となってからは、欲望のまま強き魔物を、狩る喜びを見出だしてた、兄の強さに憧れてたセザンは、あの兄が人間の女に負けたと知った……、
あの兄がだ……、信じられなかった、たかが家畜に負けるなど……。許すことは出来なかった。だから魔人の王レイアスの元に、馳せ参じた、最後の賭けに乗ったのだ。
戦斧を構える。翼人のすきの無さに、ロート、ボルトの顔色が変わる。
「ボルト、土竜騎士団を」
「承知した」
二人は歴戦の勇。ただならぬ相手だと理解した。それ故無理な攻勢にでず、相手の能力を把握することが必要と、先陣に白銀騎士を選び。回復魔法の使い手、魔法の使い手がいる。土竜騎士団を援護に回す。
ロート右将自ら。槍を持参して、先陣に加わった。
ボルトは素早く配下に命じ。弓を構えさせ一斉に放たせた。
「小癪な人間が!、風よ。我が歌声を放て、闇の風刃」やや後ろに降り立ったライウは、手にした亡者が、血肉を求めるリレーフが彫られた。不気味なハーブを奏でるや、禍々しい風の刃が、矢の半数を切り裂く、つんざくような。不気味な波動を感じた。
今1人。翼人の女が降り立っち。闇色に輝くスタッフを掲げ、暗い眼差しで、奇跡を祈る。
「奇跡よあれ……」
ぼこぼこ大地からゾンビが産み出され。わらわらと白銀騎士団に襲いかかる。
「神の遺物のレプリカ……」
数合ロートが槍で、セザンの戦斧をいなし……、正しく見抜いた。
「たかが人間風情が……」
侮ってた人間ごときに、ギリギリ忌々しそうに歯噛みした。
「右翼タウラ、アンデットを殲滅せよ。敵の武器を盾や剣以外で受けるな。癒しの使い手は、全員に祝福を与えよ」
『はっ!』
数瞬で、弱点を見抜かれ、優勢になる前に。ゾンビは全滅。再び召喚しようと。スタッフを掲げようとしたが、そんな暇を与えず。白銀騎士団が吟遊詩人と侍祭に迫る。
「高らかに歌え闇の業火よ!」
突如足元から黒炎が吹き上がり。白銀騎士はたたらを踏んだ。
「ちっ……、あの吟遊詩人は厄介だ」
恐らく疑似精霊を用いた。付属魔法の一種だろうが……、
「さあ~来たれ。沼地の王よ」
もう1人。降り立った。闇の司祭のクラリアである、彼女はかのマローダの妻だった女で、禍々しいスタッフを掲げ。憎悪の眼差しで、人間達を睨み付け。闇色の魔方陣が浮かび上がった。召喚術師だった女は、魔方陣を起動させ。スタッフから邪悪な力を引き出し放った。
すると━━魔方陣が明滅し。暗い光が溢れだしてた瞬間。
「グアアアア!」
二対の首をくねらせ。巨体の魔物が現れた、
人間と言う餌を前に。目を細めた魔物は、かの魔獣はヒュドラと呼ばれる。厄介な魔獣であった。
「ロート!、毒のブレスに気をつけろ」
表情乏しい同僚に。注意勧告して、目配せを交わした、
「承知」
自身大剣を構えるや。ロートと入れ替わり。戦斧を振るうセザンの相手を。買って出た。薄く唇を歪め。ボルトの狙いに気が付いた、
ロート・ハーレス左将は、数年程━━南大陸に渡り。エドワルド公の槍を学んで。師範の称号を得ていた。竜に劣るヒュドラのブレスならば、容易く防ぐ技がある。凄まじい気迫のロートに感化され。ヒュドラは二対の目をすうっと細めた。
すうと片方の頭が息を吸い込み。毒のブレスをロートに浴びせた。
「流水閃」
端的に技の名を口に。エドワルド流の基礎。払い技を極めた者だけが、許される。流れる川を切り裂き、一瞬流れすら止める技となる。極めれば、竜のブレス、魔法すら両断して、相手を切り裂く必殺技となる。スパスパと二対の首の根元から頭を失い。普通のモンスターならばは絶命するが、
「ロート!焼け」
ヒュドラの厄介な所は。絶大な生命力である。首の数が次々増え。強さが増すのだ、
「承知!、焔」
短いワードを呟くや、魔法の武器である。槍の能力が発動する。切り裂いた相手の傷を焼き、出血死させない武器であったが……、
「なっ……」
ヒュドラの首が再生する前に。炎で焼いた。絶対的な自信があったクラリアは絶句した。まさかあんな簡単に。ヒュドラガ無力化されたのだ、
今1人。司教ロンゾが降り立った。実子ペレストが、人間の甘言に騙され。殺されたと言う……、許せなかった、人間に殺された我が子の弱さすら。憎悪の目で、手にしたスピアを人間達に掲げ。
「砕け散れ!、矮小なる者よ、豪雷」閃光で目を射ぬかれた。凄まじい轟音、絶叫が辺りを木霊した。戦場を一瞬で騒然とさせた……、
「死ぬ、人間が!」
烈風逆巻かせ。ボルトの首に落とされた、ガキ……、
「なっ、なんと!」
目を瞑ってる筈のボルトが、大剣であっさり戦斧を受けていた。驚愕したセザンの胴を払うが、すんでの所で避けた。思わず冷たい汗を滴らせる。
セザンは息を詰めた。
「ボルト団長!、白銀騎士18名離脱。救助済みです。癒しの使い手3名離脱。土竜騎士13名が軽傷。後衛に下げます」
「承知した」
揺るがぬ人間達を前に。自分たちの考えが甘かったと、次第に思い始めていった……。
━━夜明けが近いのか。戦場の空が僅かにしらばみ始めた頃。翼人の刺客。最大の火力ある雷撃のスピアを、多様したロンゾだが、自分の生命力を根こそぎ吸い付くされ、最後はミイラのようになり。朽ちて亡くなって、戦況が変わった……。
当初優勢だった魔人勢力だったが、召喚術の使い手クラリアが、手にしたスタッフを。咄嗟に白銀騎士の攻撃を受けたため折られ。召喚術の使えぬ身では、もはや敵ではなく。白銀騎士団に捕縛された。
死者召喚をしていたアルバスだが、白銀騎士団と、土竜騎士団の連合に狩られ。絶命した、
吟遊詩人ライウ、騎士セザンが最後まで抵抗したが、最早ロート、ボルト両名の敵ではなかった……。
ついにライウが討ち取られ。満身創痍のセザンは、ボルトと一騎討ちを願い。壮絶なる最後を遂げた……、
一部始終……。見ていた魔人の王レイアスは、魔山脈魔物の生息地域より。凄まじい憎悪の眼差しを人間に向け。身を震わせ絶句した、
「馬鹿な……、あれほどの使い手が、こうも簡単に……」
━━バサリ……、
羽音が聞こえた。
ハッと息を飲んで、辺りを伺い、目を見開き見たのは━━、
━━登り始めた太陽を背に━━。
一対の白銀竜が、レイアスを睨み付ける。背に1人の少年を乗せていた……、
「まさか……、そんなはずがない……」よろけたが、レイアスは目を反らすことが出来ない。太陽に照らされた姿を、食い入るように見ていた、
陽光に照らされ、燃えるような真っ赤な髪、強い意志に輝く瞳は━━。
確かに見た。鋭く、理知的な眼差し。顔はファーで隠されていたが、その王の眼差しは……、
「プロキシス……」
亡き兄と瓜二つであり……。白銀竜の眼差しは、兄を選んだ人間の女にとても似ていた。
「わっ、我は……」
ヨロリ、ヨロリ、シンクと騎竜シンクレアを前に。全てを理解した、
「兄じゃ……」
杖を構えるレイアス、シンクとシンクレアは一対の槍と化して。哀れな妄信的でさえあった、老人の胸を貫いた。
「あっ……、ああ……」
レイアスが、手から死者の杖を落とした瞬間━━。
一つの奇跡が起こる……、
死者の杖が地に触れた瞬間。杖が砕け散り。レイアスだけが確かに見た……、死者達の思い出を━━。
兄プロキシスが、レイアスを思い。人間の女から身を引こうとした真実、されど女に子供が出来てたこと知って……、苦悩したこと。7神官が結託して、レイアスに嘘を教えていた真実を見た、
「あっ、ああ~、なんと言うことを……」
取り返しのつかぬことしていたと、悟った……、太陽の下。中央大陸を我が物にし。世界を混乱させた。魔人の王レイアスの最後は━━、
とても穏やかな顔をしていたと言う……。
魔人王の亡骸と砕けた死者の杖を集め。護符にくるみ。輝きの都プロキシスに帰ったのは、日が高くなる前になる……。
━━プロキシスの都、城下町。
早朝にも関わらず。沢山の民。そして我が国の王オーラル陛下。さらに各国の重鎮が、急報を受け。集まっていた。
先触れから間もなく。西の村近くで、闇の勢力による奇襲を受けたと。一報が入った。直ちに重鎮を召集して。送られてくる情報にあわせ。近隣の中継の町アセイラのナギ・グレンに知らせを送り。後衛としての準備を伝えた。
それから間もなく。五人の翼人の力が、闇の女神カーレルの遺物。模倣品であると知らせが届き。多くの死傷者が、アセイラに運ばれたと報告がなされ、オーラルは歯噛みしていた。よもや世界議会前に。仕掛けて来るとは……、長年苦楽を共にした、ロート・ハーレス。ボルト・ホウリーならば、そうそう遅れをとるまい……、確信があったが、また不安もあった。
「へっ、陛下!、シンク王子様が、シンクレアと夜中に出て以来、戻らぬと急報が……」
ザワリ……、
辺りは騒然となるが、オーラルは苦笑を滲ませていた。
「そうか……、あいつはわかってたのだな……」
不思議な感覚だった、我が子に。自分の読みを越えられた。寂しい気持ちより。嬉しさが勝る。
「父は、俺を見て、そう思ってくれたのか?」口にして、一度聞いてみるか、そう思い、楽しみになっていた。
それから間もなく。次々と朗報が舞い込む。五人の翼人の内、1人捕縛され。残りが死亡したと報告が上がった。
おお!、歓声が上がった。明け方。凱旋すると知らせが届いたのは。捕虜を連れてくるめであろう。
それから間もなく━━。
アセイラのナギから。急報が入った。
シンクが━━、
魔人の王レイアスを、倒したと━━。
オーラルは静かに席を立ち。重鎮に晴れやかな笑みを浮かべ……、
「民に━━、知らせよ」
「はっ!」
満面の笑みを浮かべ、伝令に走るジン・ゲルマンを、ケイタが見送り。友であるオーラルの隣に立って、静かに城下町を見ていた、
━━朝日が登るなか、白銀騎士団、土竜騎士団が到着した瞬間━━。
民は歓声を上げ。称えた。我が国が誇る勇者達の偉業を……、
15年……、長い時。様々な苦難を受けてきた、
そして……約6年前の事件……、シンク王子を襲った。悲しい出来事を。人々は忘れない━━、
二人の将、
ロート・ハーレス、ボルト・ホウリー両雄が並び踏み。静寂が朝日で町を照すなか、膝を着いた、
人々が息を詰めて見守るなか、オーラル陛下に報告する。
「二人ともご苦労であった。疲れてると思うが、間もなく世界会議開催が行われる。引き続き警護を頼んだ」
「承知」
「はっ!お任せを」称賛したが、更なる戒めを伝え。控えた二人は晴れやかな笑みを浮かべ、頭を下げ、それから左将ジン・ゲルマンと笑みを交わし、居並ぶ重鎮と共に。我らが次代の王とならされる。若き王子を出迎える。
「あれを!」
目の良い民から声が上がる。
「シンク様よ」
大歓声が上がる。太陽の光。白銀の煌めきを広げ。悠然と現れた、それは美しい竜が、みるみる大きくなり。町を旋回しながら、その勇姿を見せた。
人々はその日を忘れない━━。若き英雄の姿を……。ゆっくり羽音を立てながら、風を惑い。悠然と降り立ったシンクレアに、歓声がざわめきに変わった、大怪我こそないが、沢山の怪我を負っていたからだ、それはシンクとて同じである。
魔山脈を通って、狂暴な数えきれない魔物を倒し。宿願を果たしたのだ。
毅然と降り立った王子の、壮絶なる姿に。誰もが声を失い、民は涙した。
「王子様!」
「王子様……」
ようやく気付いた。義手の右腕、左足まで失われたことに……、動こうとした兵を手で止め。ゆっくり……ゆっくり、シンクは毅然とした笑みで、棍を杖として使い。父の前に来て、膝を折り━━。晴れやかな笑みを浮かべていた。
「父上……、レイアスを討ち果たしました!」
深く一礼した。オーラルは決然と頷き。
「大義であったシンクよ!。流石は我が子である」
褒め称えた。これを見ていた人々は、感動の声を声高に上げる。本当は今すぐ抱きしめてやりたい。だが……、集まりし各国の重鎮、王達に、強いては民に次代の王の強さ。清廉さを見せねばならない……、それこそ王として、王子として、王族になった者の責務だからだ。
━━直ちにシンク王子は、アレイ教会に運ばれ。癒しの奇跡で怪我を治された、
一報聞いて、屋敷から慌てたケイタが、シンクの元に急いだ。生きた義手、義足が失われたのだ、早急の対策が必要だと感じていた、しかしと懸念を抱いていた、
「意思をもった手足を失い。彼は……」
困難を前に。胸中は複雑であった……。生きた義手、義足の本当の能力と、生態をケイタはまだ、理解してなかった━━。
「シンク……」
慌てて治療室に飛び込んだケイタは、目をまるくして、唖然と驚きを隠せず。ただ立ち尽くしていた、
あまりにも酷い有り様だったからだ━━、
いくら癒しの奇跡による。怪我が癒されていたとはいえ……、義手、義足は壊れていたのだ、
「シンク……」
沈鬱な顔をするケイタに。小さく笑み。
「大丈夫です。二頭はまだ生きてますから」
眉を潜めた、今シンクはなんと言った?、まだ生きてると聞こえたが?、
訝しげな顔のケイタに、しょうがないな~嘆息して、既に用意されていたリックを引っ張り出し。中から新しい義手を取り出して、ケイタに見せるように。破壊された義手ラケルに。近付け、
「ラケル頼む」
お願いすればガチン……、壊れか箇所に小型の竜が顔を伸ばし。新しい義手に食らい付いて、食らいだした。どれ程呆然と見ていたが、やがて義手を食らったラケルは、元通りとなった
「これは……一体……」
同じ手順で、左足の義足を手に。
「クエト頼む」
ガチン……、新しい義足を食らい付いて、やがて元の状態に戻っていた、
シンクは馴染ませるよう。義手、義足を動かして確め。安堵の笑みを浮かべた。
「ケイタさん。どうやら今までと変わらなく。使えるようです」
面白そうに。まだ残った接合部分を確かめ。安堵の吐息を吐いた。
「シンクレアの怪我は、大丈夫ですか?」
呆気にとられてたが、ようやく理解した、自分たちの造り上げた。生きた義手、義足は、想像を遥かに越えた。奇跡を産み出したことに。
「ああ。今はゆっくり寝てると聞いている。それよりも寝てなくて大丈夫かい?」
ベッドから立ち上がるシンクを心配して。表情を曇らせるケイタに、
「リルムちゃんが……、心配してますし。それにブライアンの機会竜の演目や、先輩達の晴れ舞台見をなきゃ、恨まれますよ~」
お茶目に言われたら、最早止められない。まったく呆れるほど。優しいところが似てる親子に。ケイタは静かにシンクの背を叩いた。
「そう言うだろうと、風呂の支度、着替えをリーラさんが用意してくれている。行きなさい」
「はい!」
元気に答え。シンクは走り出した。
「我等はとんでも無いものを、作ってしまったやもしれない、あれがシンクにどんな未来を見せるのか……」
不安を密かに抱いた。
━━手早く着替えを済ませ。白銀の城に登城したシンクは、王族としての責務として、訪れてた貴族、有力者の挨拶を受け入れたが、多くの変化を感じていた。
今までは、オーラル陛下の子息と、そう言った反応だったのだが……、不思議そうに思っていると……。
「シンク!」
艶やかな赤を。貴重したドレスをなびかせ。銀髪の美しい少女が、どんと抱き着いて来た。
「おはようリルムちゃん、今日も綺麗だね」
なんていつも通りな様子に。どんなに心配してたか、自分の気持ちを。教えたくなって、ムッと怒りを覚えパチン両手で、シンクの頬を叩き。ムニュっと頬を引っ張った。
「おっ、お嬢!」
慌てるエルマをピアンザが止めた。オーラルと目配せして、二人は苦笑浮かべ頷き。
「いひゃいよリルムちゃん」
「変な顔……」
ムッとしながら、生きてた……、とんとシンクの胸に頬をくっ付け。トクトク……、シンクのぬくもりと心臓の音を耳にして、ようやく安堵の涙を拭う。
「今度一人で行ったら。私が貴方を射ちますわ!」
怖いことをさらり口にしたのが。魔王の愛娘だと気が付いて、辺りは騒然となっていた。
「まあ~馬鹿シンクにしては、活躍だったようね」
イライラした声音。リルムもハッと、今がどこか思い出して、大慌てでシンクから離れた。シンクが珍しく嫌そうな顔をしたから、思わず唇を綻ばせ。気が付いた。
「アホウネ居たのか?」
「だっ、だぁ~れがアホですって!。馬鹿シンク」
「ほほ~う……」
甘やかな若いカップルの喧嘩かと、興味津々だった貴族の目は、点になっていた。なんか違くないかと?。
にらみ会うホウネリアとシンクに。
「まあ~まあ~二人とも。落ち着いて」
じろじろホウネリアに見られ。リルムがたじろぐや、ニタリ嫌らしい笑みを浮かべた。ホウネリアがボソリ、
『シンク……、どうしよう…』
声音を真似され。今朝のこと言われたから。
羞恥に真っ赤になっていた。
「お嬢が……、手玉にとられてる」
あまり見ない素の表情に、目を丸くしてれば、
「始まったか……」
「始まったな……」
二人の王は、小さく嘆息していた、
「あっ、シンクちゃん!」
険悪なムードに、困惑気味の人々を無視して、くすんだ金髪に、カーキ色のサムエ姿の少女が、そんな空気など気にせず、
「リルムちゃんもいた!」
朗らかに笑いながら、何も無いところで、バタリと倒れた。誰もが唖然と場違いな少女登場に戸惑っていると。
「いつつ……」
鼻を押さえ。涙目の女の子が、ホウネリアとシンクの間に割り込んでいた。
「らっ、ライラちゃん?」
虚を突かれた三人は、浅黒い肌の可愛らしい風貌のライラに。釘付けとなっていた。
ギル・ライラは、ギル・ジータ王国の王女で、三人の妹のような存在である。
「ライラちゃん♪」
豹変したのはホウネリア、ライラを猫可愛がりしてたのを思い出した。ギューと抱き締め。さっきまでの剣呑さが、あっさり消え失せていた。
「あっ♪、ホウネリアお姉ちゃん」
可愛らしくにっこり。それだけで日溜まりの中にいるような。優しい気持ちにさせる笑み。それこそが王女ライラの魅力である。
「ライラ久しぶりね~♪」
珍しくリルムまで、優しい笑みを浮かべ。ライラの訪問を喜んでるようだ。
「良いときに。顔を出せたようだね」
「エバーソン……、助かったよ」
安堵の吐息を吐いた、珍しく渋面のオーラルと言う。珍しいものも見れて、二人の旧友は、小さく笑みを漏らしていた。
「さて、これでイブロのところのセレナ、今回来れない、バローナのビーナ王女、ミザイナのクルミが来れば、まさに世界会議の縮図だよな~」何気ない一言に、リルムがピクリ反応して、少し複雑な表情を浮かべていた。
「あ~らどうしたのリルムちゃん?」
察しのよいホウネリアの問いかけに。小さく苦笑しながら、女の子同士の複雑な会話が始まり。シンクは三人に見られ。居たたまれなくなっていた。
「若様!こちらでしたか」
ドタドタそんな効果音が似合う。プロキシスの財務大臣マサユキさん、どうかしたのかな?、首を傾げてると。
「翼人の戦士長ガルシア殿、サノビア殿が、シンク様の安否を知りたいと押し掛けて参り。少しその……」
言い澱む。直ぐに察して、父と目配せをし。皆さんに断りを入れてから。シンクは外に急いだ。
━━時間は少し戻る。翼人の国エルバに。ナギ・グレンから急が知らされたのは、日が登って間もなくの事━━。
翼人達は、騒然となっていた。次々に知らされる情報に。ガルシア、サノビア含めた戦士団は、血の気を失った……、
それでもナギから、
『シンク王子の手で……、大願を果たされた』
オオオ!……、安堵の声が上がる。
『シンク様は、無理をして義手、義足を再び失われた……』
愕然とした、翼人の民が……、シンク王子の安否を知りたいと、誰もが思い。ガルシアとサノビアに願った、それで二人は危険を承知で、都を訪れた……、
━━冷たい眼差し、複雑で、困惑の顔の人々……。
集まる民を押さえるため。白銀騎士団が、白銀道を守る。一歩間違えれば。暴動すら起こりかねないのだ……、それほどシンク王子の姿は、衝撃的だった。
「あっ!、お母さん。シンにいのお友達ガルシアさんと、サノビアさんだよ♪」
苦痛に耐えてた二人に、そんな声が掛けられた。驚く二人に。キラキラの瞳。天真爛漫の澄んだ眼差しで、笑みを持って、手を振ってくれた少女がいた……、
「リナ様……」
不覚にもサノビアが涙ぐむ。
ザワリ……、驚きの声が上がる。
「そうなのリナ?、ならちゃんと挨拶しないとね」
娘から、空の散歩をしたと。楽しそうに話すのを。聞いてたからだ。ミリアとオリバー夫妻は、素直に翼人を受け入れていた。
「よろしいかしら?」護衛に出てた、白銀騎士の小隊長は、いささか呆気にとられたが、ミリア夫妻が陛下の姉君であると聞いていたので、
「どうぞ……」
部下に命じ。ミリア夫妻、リナを通した、
再び驚きのざわめきが上がった、
━━驚き、戸惑うガルシアと、
「リナ様……」
今にも泣きそうなサノビア。
「サノビアさんこの間。リナと遊んでくれてありがとうございました」
頭を下げる様子に。食い入るよう……、民は見詰めていた……、
━━深い静寂が訪れた……。
「頼めるかな?」
「わ、若様……」
いつの間にか、小隊長の傍らにいた。シンク王子に驚いたが、何をしたいか察していた、
「お任せを……」部下と目配せして、
『風よ民に伝えよ。広がれ』
この場にいる人々……、そのすべてには無理でも。多くの民に知らせたい事がある。
「初めまして、娘がお世話になったそうで、私はこの子の母ミリア・シタイル、夫の」
「オリバー・シタイル。オリバーと呼んで下さい」
人好きする柔らかな笑みを浮かべる夫妻。二人は慌て、
「これはリナ様の……、私はシンク様の護衛部隊長を勤めてます。ガルシア、こちらは同僚のサノビアです」
「はっ、初めまして」
慌てながら頭を下げるサノビア。ミリアは笑みを深めて、
「少し……、よろしいかしら?」
同性の気安さで、サノビアの衣服に興味を抱き。
「触って大丈夫?」「つっ、強くなければ……」
くすぐったさに身悶えしながら。答えた。
「着痩せするのね。もう少しカップ大きくしないと、勿体無いわよ~Gはあるかしら?」
「あっ……、ちょっと」
羞恥に。真っ赤になるサノビア、何だか別の意味で、耳を済ませる民。ミリアはわざとやってるのだ、
人間誰しも。自分たちとは違う。そう考えるから、異物として、平気で相手を傷付ける事が出来るのだ。そもそもが間違いだと。人々に考えさせなければならない、
翼人と人間の間には、さほど違いは無い……、その事に気が付かせるため。シンクは民に知って欲しかった、少しでも人間と翼人の関係を。考えてもらえるようにと、ちょっとした考えであった。「へえ~翼は綺麗に手入れしてるけど、大変そうね」
感心して見せると、女同士。ちょっと迷いながら。
「あっ、ありがとうございます。実は……、翼の手入れ。とても大変なんですよ……」
なんて事から話し出して、寝るときも寝返り打てず。肩がこる話。寝ぼけて翼を広げてしまい。風邪を引いた話とか、聞き上手なミリアに聞かれてると、ここが何処かなんて忘れ。楽しそうに笑いながら、話していた。
「サノビアさん、私の店で働かないかしら?」
「へっ……、私がですか」
驚き目を見張るサノビアに、リナは服を掴んで、
「サノビアさん来てくれたら、リナ嬉しいな♪」
「あっ……、ありがとうございます……」突然ぼろぼろ泣き出したサノビア。民は驚きそして……、
「なっなあ~、翼人て言っても、俺達と変わらないよな」
「ああ……」
そう簡単に、しこりは消えない。でも同じ大陸で生きるのだ、歩み寄ることは出来る。人間側も。翼人達にも。そう考えてもらうきっかけになれば。シンクは考え。伯母の行動を使わせてもらった。
明らかに空気が変わった。
「ガルシア、サノビアお待たせしたね」
にこやかに笑みを浮かべ。何時もと変わらないシンクが現れたから。皆を驚かせた。
「シンク様!御無事でしたか……」
見るからに安堵した様子のガルシア。涙を拭いながら、喜ぶサノビア。二人の翼人の姿に、衝撃を受けていた。
「心配かけて済まない。ガルシア、二人とも僕の護衛として、登城してほしい」
ザワリ……、慌てるガルシアを。ニヤリ意地悪そうに微笑み、
「サノビアには、リナの護衛をお願いするよ、ガルシアこっちだ」
シンクは付いてきて当たり前と。スタスタ歩き出すから。迷いを浮かべたが、
「サノビア、リナ様の護衛しかと頼んだ」
「……ああ」
どうにか泣き止み。サノビアが頷いた、あの様子では、リナ様から引き離す訳にはいかないと、シンクの采配に従うしか無かった。
混乱が収まり……、シンクを見送ったリナは、それはそれは嬉しそうにサノビアと手を繋ぎ、ミリア夫婦と早めの昼食を食べに、近くの店に入る。様々な視線はあるが、先ほどまでの異物を見るような。視線は消えていた、好奇と僅かながらの好意。生まれて初めて味わう不思議な感覚を、サノビアとガルシアは受けることになった……、
━━お昼になり。白銀の城に。各国の王族を一目見ようと。沢山の民が集まっていた。グルリ兵がロープ代わりとなり。西の屋敷。東の本邸、白銀の城前を囲み。その最前列まで民が集まっていると、それは美しく輝く城の正面。
三階部分は大きなテラスになっていて、各国の重鎮、王族が続々と姿を表し。盛大なる拍手、歓声が上がり、実に華やかな。それは未来を表すような。人々に希望と言う、姿となって、初めて貴き各国の王族わ。自分たちの目で見るから。平和を噛みしめ。受け入れられる。
この国の王、オーラル陛下が、その姿を現せた瞬間。民はただ静寂を持って、言葉を待った。
『我が民に。世界の平和を誓い……。今年の世界議会開催を、我はここに宣言する!』
オーラルの合図で、晴れやかな軽快な音感が流れ。盛大な花火が打ち上げられ。世界議会の開催があまねく知らされた。
明日から3日3晩行われる。世界議会とは━━、各国の問題を話し合う。外交の場である。
オオオオオ!、再び大歓声が上がった。
次々と上がる花火をアーチのように。轟音を上げながら。色の付いた煙で、空にアート作品を描く。一軍がいた……、
機械竜を駆り。見事な航空ショーを披露するのは、ブライアン・ハウチューデン率いる。二個小隊である。轟音も去ることながら。そのスピードは、竜の最高速を再現してるため。凄まじく……、人々はただ見るもの全てが楽しく。開催式を堪能していた。
間もなく開会式が終わり。都の東の会場に。向かう人々の中に。リーザ・カーベンとアムール・ステファン。アノン・ファンの姿があった、
「それでな~。家のじいちゃんたら、私がちっこいときから、帰ってこんのや、一度ブライアン・ハウチューデンて子が、機械竜で現れたんやが……、私んとこ連絡来たの。中央大陸向かう前日なんよ~はずいわ~」よう喋る。喋りまくるアノン、
「ふ~んそうなんだ~、君のところも大変何だね~、おばさんもう一皿ね」
人出が凄いから、コンテスター会場に行く前に。腹ごしらえすることになって、なんだかんだ自分たちの話をしてる。そんな感じである。
「リーザのお父さんも先生なんでしょ?」
「うん。お母さんもだったよ」
「父が先生だと、いっつも。食事のこと考えない~?」
確かに……、父は学園の教頭で、宮廷魔導師……。
「そうそう……、栄養バランス考えたりするよ」
「へえ~、お父さんと住むと。そんなこと考えたりするんや~」
ちょっと困った顔をして、
「私、家事苦手やわ……」恥ずかしそうに告白すれば、二人もうんと頷き。
「私も苦手だよ。育ての母が得意だから、少しずつ教えてもらってるけどね……」
肩を竦めたリーザに続き。成る程と頷いてアムールは、
「どちからと言えば苦手だよ~。家の妹が料理得意だから。文句言われながら、なんとかね~」
段々不毛な。言い訳と家族話に突入。しばらくは根が生えそうな予感が……、
━━開会式の花火が上がり。東のコンテスター会場で、最後の打ち合わせを、プロキシスの宮廷魔導師達と。手伝いに来てる。学院の生徒による入念に。魔法の照明を使うタイミングを、話し合う。二人は既に衣装を身に付けながら。広い会場を一望して、徐々に緊張を増していた。やや青ざめてる姉妹、急に不安になって来たのだ、自分たちに出来るのかしら?、
もしも……、失敗するイメージが拭えず。手足が震えてきた。
「あっ、いたいた、フレア。シアン」
急に声を掛けられ。二人はびっくりした。
「シンク!?」
驚きは隠せない。だって今朝のこと……、使用人から聞いてたからだ、
それに……、あのシンクが右手、左足を失う事件があったことも……、知らなかった。あのシンクが義手、義足で、そんな大変な時期を過ごしたなんて、無論母は知ってたようだけど……、まるで気が付かなかった……、 それだけのハンデがありながら……。
「あまりに二人が綺麗だから、本人かな~って、一瞬声を掛けようか。迷いましたよ~」
お気楽にニコニコそんなこと言うのだ。
朝の出来事なんて、何でもなかった、そんな風に装い。何時も通り優しい笑みで。二人を心配して、コンテスターの演技前に。疲れてるのに……、会いに来てくれた。
だから二人は顔を見合い。力強く頷きあい。笑みを浮かべて。
「当たり前でしょ~、私を誰だと思ってるのシンク?」
ツンと鼻を鳴らして、勝ち気に微笑するのだ。
「嬉しい癖に……」
「なっ……、何よ」
うぐっと息を飲んで、頬が赤い。でも……、何時の間にか。肩の荷が下りた、二人の緊張もほぐれていた。
━━東のコンテスター会場前に。
沢山の屋台。露店が並び。大勢の人々がいつまでも。一夜限り行われた。アレイク王国が誇る。姉妹の競演。演目の素晴らしさ、艶やかさ、それ以上の美しさに魅せられ。いつまでも話が尽きなかったと言う……、
━━━翌日。世界議会。
主な議題は、魔物の被害や、新たなる問題を議論。もしくは警告を発する。話し合いが行われる。
「続きまして、海中都市においての白の民の暴挙について……」
各国の見解で、あくまでも注意すると可決した。
「それでは各国の学院、学園でコンテスターの育成と、二年ごとコンテスター世界大会を行うこと。可決でよろしいですな?」「オーラル王よ、あれほど見事な演目を見せられては、致し方ないな」
かかっとドヴィア王が高笑いすれば、各国の王も朗らかに笑っていた。
━━翌日、バローナが帰国して、グレービー・アスナルが残り。後を託された。
「さて、皆様にお配りした書類は、軍国ローレンのバローナ将軍が調べさせた。南大陸華の国ダナイの現状です」
南大陸の最大の脅威。疑似神の動きと、生態、近辺の現状を話す為。来日していたバローナだが、疑似神の動きが活発となり、『瞬きの扉』で昨夜帰国した。それほど危険な状況と言う訳だ……、
ザワリ……、今までの和やかなムードが消えていた。
「ジンベイ殿。ミザイナ女王の結論をお聞かせ下さい」鋭く魔王ピアンザが、意味ありげな眼差しを投げ掛ける。栗色の童顔。小柄な体躯。無口でぼくとつとした王は、泰然自若緩やかに頷き。
「魔王殿の申し出を受け……。5国による。包囲戦を。近々行います」
珍しく発言したジンベイに。噂を聞いてた各国王は、ついに来たかと。厳しい顔をしていた。
世界最大の懸念。魔人王レイアスが死んで、残るは魔物の脅威と、翼人との関係だけだ、中央大陸の問題となる。そうなると最大の脅威。南大陸の疑似神に注意が向けられた。それは地下迷宮を繋ぐ中央大陸、さらには全ての大陸の脅威となりうるからだ。
━━西大陸、元商国セロン、
大陸最大のローレイ商会、会長であるハーレス・ローレイ、決め細やかな絹を思わせる。金の髪をさらりと肩口で揃え。女性が羨む。長い睫毛を揺らし。中央大陸のローレイ商会を任せる。若き商会長の報告書に目を通した。
「商いは、上手く行ってるようで何より」
満足そうに、笑みを浮かべていた。だが呆れた顔を、誰も居ないはずの部屋の隅に向け。
「ベテルローズ。君はいつまでそうしてる気だい?」
『くすくすあらら、気がつかれちゃたわ』
部屋に一輪の薔薇が現れ。花弁が開き、1人の美しい女が現れた。
『愛しい貴方、いつ私の物になるのかしら?』
淫貪で、欲望を顕にした眼差しを。ハーレスに向けてきた。そん淫らな笑みでも。女を美しいと思える。
「さあ~どうなのでしょうね」
のらりくらり微笑を浮かべかわす。プックリ拗ねたように頬を膨らませ。
『ハーレスの意地悪』
身体にしなだれかかる。彼女のあまりに美しい姿は、人間ではあり得ない妖艶な空気を醸し出していた。
「他の四天の意向。決まりましたか?」
ベテルローズのおふざけをいなし。
『むう~つまんない。人間の癖に。厄介な男……、まあいいわ』
魔神と呼ばれる。強大な魔力と、知識を有する個体が、西大陸に四体認められ。それぞれ縄張りを持っていて、一部の地域では領主のように。人間の町、村を支配していた。
『あんたの欲しがってる。白の書は確かに。ノロバリエが所有してたわ。それから~他の二人も貴方の提案に乗るとの返事だったわよ♪』
十分に満足出来る答えだ、魔神の女ベルテローズは期待に目を輝かせる。『た・だ・し・約束を守らなければ、貴方を殺すわよ?』
笑みを浮かべながら、さらりと命を奪うとまで言うが、ハーレスにとって自分の命等。商売のために使える道具でしかなく。冷笑を浮かべながら、魔神をみていた。
「望みは、死の神の骨を使った遺物でしたな?」
『そっ、そうよ』
人間に恐れたと、口が裂けても言えない魔神に、笑みを深め、
「現れよ。女王の杖よ━━」空に手を翳せば。金に輝く杖が現れ。ベテルローズは目を剥いた。台座には精緻な三匹の獣が鎖で繋がれており。神々しいまでの強い力を感じた。
『そ、その杖は……』
魔神は知ってるようだ、
「ええ~魔王の杖と対になる。女王の杖ですよ。意味は分かりますよね?」
なるほどと淫貪な顔に。理解の光を浮かべた。
『だから神の遺物を餌にしたのね?くすくす。やっぱり貴方を私の物にしたくなるわ。人間にしとくには惜しいもの。ああ~違うわねハーフと呼んだ方が、良いかしら?』
小首を傾げ。くすくす愉しげに。笑い声を立てた。
「お好きなように、魔王には悪いですが、このまま平和になるのは困るのですよ」『あはははは、やっぱり人間はおかしいわ、だって一方で、平和を望み、一方で混乱を望むんだから、でも私達は楽しいからいいの。あれだけの強力な遺物を持ってても。所詮は古くさいカビの生えた。考えでしか使えない、魔人達には失望だったしね』
「では、約束の前渡しとして、北大陸で手に入れた。二本の剣、『破』と『槌』をお渡しいたしましょうその代わり……」
にやり不敵に微笑して、ベテルローズは頷いていた。
━━瞬く間に世界議会は、恙無く終わり。各国の王、重鎮が、輝きの都を離れ。一時の平穏が訪れた、
そうなると各国の優秀な学生達は、徐々に緊張していく。アレイ学園のリーザ・カーベンは、明日に迫った、魔法討論会・本選に向けて、提出用の論文に。掛かりきりとなり。昨夜から徹夜である、
「リーザ軽食作ってもらった、少しでも食べなさい」
声が掛かり。正直効率が落ちてきたから、有り難く、父バレンタインを部屋に招き入れ。温かいポタージュと焼きたてのマフィン、香ばしく焼かれたベーコンが乗ったトレイを前に。空腹が刺激された。
「ありがとうお父さん!、少し休んだら、もうひと頑張りするね♪」
疲れた顔に。満足そうな笑みを浮かべる娘、些か呆れながらも、何かに打ち込む姿は、妻リリアに似て来た……。
考え深く。思っていたら。リリアが生まれる前、実はもう1人男の子を生んでいた、死産であったが……、それには理由があった。魔物の毒が、影響したとわかった時━━。リリアは自分を責めていた。
もう子は諦めるよう。医師に言われた時の絶望。再び妊娠したときの幸福感━━、
しかし……子を産むには、リリアの身体が持たないと言われた。苦汁の決断。バレンタインは諦めようと妻と話し合った、しかしリリアは頑として。首を縦に振らず。命を掛けてリーザを生んだ、
一緒にいられたのは、ほんの数年だった、
だけど妻は……、誇らしそうに笑いながら逝った、リーザを見てると、無理ばかりするから、心配になる。
「大丈夫よお父さん。だって私はお母さんの子供だよ」
虚を突かれた思いだった。
「そうだな……」
親子は久しぶりに談笑していた。
世界議会の後。輝きの都で、徐々に変化が起こる。新たに飛行騎士団が設立され。多くの翼人を登用した。さらに住人として、翼人から選ばれた30名が、都に住むことが決まった。数は少ないが翼人を雇いたいと、商人より申し出があり。試験的に。仕事体験と言う形ながら、認め。
両国は本当に少しずつだが、2つの種族は、妥協点を模索中である。きっかけは些細なことで。幼い少女と仲良く歩く。サノビアの微笑ましい様子から、意識が変化したと思われる。
きっかけを与えた少女。リナとサノビアは、シンクレアの竜舎に入り浸りで、忙しいシンクの代わりに。ブライアンと遊ぶ事が増えた。
「ブライにいは、王さまになるんだよね~?」
ブライアンの手元。興味深く見ながら、シンクレアとリナはじっと見ている。サノビアは所在なさげである。困った顔してるが、正式にリナの護衛を任され。なんだかんだと側から離れない。
「うん、そうだよ」
あっけらかんと返事した。師匠の残した。用途不明の機械を弄る手は止めない。
「じゃ~綺麗なお嫁さん貰うんだね」
おしゃまな一言に。ぽろり……ニッパーを落としていた、ちょっと顔を赤らめる。
「そ、そうなるかな~」
「ふう~ん」分かっててわざとやってるのか、リナは姉ミリアに似たようで、なかなか鋭い一言発する。
「ブライにい~、お嫁さんてどんな人?」
「えっえーと二人はね……」
「え~ブライにい、お嫁さん二人もいるの?」
なんて言われて、タジタジとなった。
「リナ様。そろそろお昼になります。一度邸宅に戻りましょう」
とりあえず助け船を出しといた。
「うん、そうだね。シンにいも戻ってるかな?」
「そうですね。お昼には戻られるとおっしゃてました、そう言えば出る前に。ララ様が、ケーキを焼かれてるようでした、もしかしてリナ様の大好きな。シホン出るかも知れませんよ?」助け船に乗っかり、ニッパーを工具箱にしまいながら、
「そう言えば、母さんリナの誕生日だからって、ケーキ焼くっていってたな」
「え~、本当に!」
パッと華やいだ笑顔を、二人に向けて、
「ブライにいも早く戻ろうよ!」
現金なもので、大好きなシンクがいないと、ちょっと元気が無かったのに。甘いもの好きは、女の子共通かとブライアンは嘆息した。
「そうだね。シンクレアまた後で」
「シンクレアちゃんまた来るね♪」
『うん。二人ともまたね~♪』
シンクレアはちょっと寂しい気持ちもあるが、シンクの次に大好きなリナと遊んでたから、機嫌はよく。しばらく昼寝を楽しむ毎に決めていた。
━━シンクはと言うと。リルムと一緒に。国に戻る魔王ピアンザの見送りに、北洋港まで来ていた。
「お父様。身体に気を付けて下さいね、冬に一度戻りますから。お母様とクライムによろしくと。お伝え下さい」
「わかった……、君もあまり無茶はしないようにな」
父の言わんとしてること。直ぐに気が付き、頬を赤らめながら、
「は~い、気を付けます」
心配性な父のため。精一杯の笑顔を向け。いつまでも船を見送っていた。
「さてシンク、明日は出るのかな?」
チラリ意味ありげに見られたが、
「僕は補欠だから、出ないよ」
「そう、じゃ私とたまにはデートしなさいな」ツンとそれでも赤い顔をして、手を差し出していた。珍しく今日エルマも居ないから、二人で過ごす貴重な時間であった。
「喜んで」
二人はクスクス笑いあい。つかの間の時間を楽しんだ。
日が高くなる頃。二人はそれぞれの馬で、都に戻り。二人で選んだ、リナへのプレゼントを持って、帰宅した。
━━朝からリナのため、ララ、ミリア、リーラが手作りで、ホームパーティの支度していた。
「お母さん、甘さこれくらいで良いですか?」
新鮮なミルクを泡立て、クリームチーズと、卵白、砂糖混ぜホイップクリームを作ってた、
「ええ十分だわ。ミリア生地は出来た?」小麦粉をしっかりこして、細かくしてから、卵黄、たっぷりのバター、蜂蜜、前日の余ったパンをすりおろしたの混ぜて。油、ほんの少しの牛乳、砂糖足したら、小麦粉が玉にならなくなるまで、しっかり混ぜ合わせる。「ええ良いわ」
娘の返事で、その間平たい金型に、バターを塗り、かまどの温度調整しながら、生地が、層になるよう金型に流してく。じっくり40分ほど焼き上げたら、
たっぷりのクリームを塗り。赤い宝石のような苺を並べ、再びクリームを層にして、台をサンド。さらにクリームで上と見える範囲に、飾りのクリームを塗りあげ。最後に上にも苺をたくさん敷き詰め。苺ジャムで艶を出して出来上がりである。なかなかの大作ゆえに、三人は頑張った。
「なかなかの出来ね。もうひと頑張りしましょうか?」
「ええお母さん」
「お願いねお母さん」
二人の娘に囲まれ。ララは楽しげな顔で、ニコニコ微笑していた。
━━その頃。事後処理終えたオーラル、気疲れして久しぶりに父子で、お茶飲みながら。時間を潰していた、
「もう少し時間掛かりそうだな……、ララのやつ随分張り切ってたからな~」
「そうなんだ、それで父さん、何か話があるんじゃないか?」
ん~歯切れ悪くなる。言いにくそうな様子で、
「ミネラの事かい?」
ズバリ切り込まれ。シニカルに笑うしかない。
「本人は、気にしてなさそうなんだが……」やはり年頃の女の子である。それは仕方ないだろう、小さく嘆息して、
「ラシカとミネラは、あれで男勝りなところあるし。自分より弱い男なんて相手にしない性格知って、言ってるのかな?」
「確かにな……、だが娘は違う」
苦笑混じりにリブラが言えば。
「そうだろ?」
「あっオリバーさん」
にこやかに姉の夫で、父の親友が、ひょっこり顔を出した。
「オリバー……、参ったよ」
色々な意味で、両手を上げた。孫娘になつかれると、不思議な気持ちになり、幸せそうな娘を見ると、安堵した。
「あまり口にしないが、ミリアは、お前に会いたいの我慢してる時がある。そう思うなら、冬レオールに招待してくれんか?」姉を思っての申し出に、父は諦めたように肩をすくめた。あっと気が付いた。
「父さんこれはどうだろう?、土竜馬車の旅で招待したら」
訝しげにオーラルを見る。オリバーをちらり見て、おそらくそれを考えて、ヒント出してくれたのだ、オリバーさんらしいやと小さく笑みながら。
「ラシカに、馬車を出させ、ミネラを護衛に付ける。そうだねシンクにも良い経験になるし━━」
父も気が付いたようで、シニカルに笑う。
「あっ、その手があったか、確かに良い案だ」
チラリ親友の優しい眼差しに、やれやれ嘆息した。だが妙手である。ミリアの強かさは、親友のお陰であるのは、間違いない。「済まない気を使わせたオリバー、それからレノアが、レオールにいた」
少し驚いた顔をして、
「お前の義兄のか?」
「ああ~ブライアンの兄弟子として、機械竜製作に来ていた」
「そいつはまた、面白い組み合わせだったな」
呆れた口調である。
「父さん、レノアさんと知り合いなのか?」
「そう言えば、お前には言って無かったか」
父からレノアが義理の伯父であると聞かされ。やや驚くも。
「ブライアンがいたく喜んでたよ。さすがは兄さんだとな」
これには苦笑するしか無かった、
「義兄貴は、リマを正式に弟子にして、今頃は、西大陸に渡ってるころさな」
「そうか……、元気ならいいさ」にっこり人好きする笑みを浮かべていた、
「さっきリナが、あの子サノビアと、屋敷に戻るの見たから、そろそろ戻ろるべきだな」
どうやらそれを。知らせに来てくれたようだ、父子は見合い、肩をすくめて、
「遅くなると……」
「後が怖い」
「では怒られない内にだな」
三人共通の理解の色を見て、いそいそ帰りを急ぐのであった。
━━家族だけの団らん。それはとても得難く。リナの楽しげな笑い声が、いつまでも響いてたと言う。
━━魔法討論会当日。緊張した各国の学生が、コンテスター会場に使用した、東の広場に、集まっていた。当然補欠だが、シンクの姿もあった、
「ホウネリアちゃん~、頑張るんやで~」やたらけばけばしい化粧の。いかにもって女性が、声援を送る。
「おっお母ちゃん…」
まさか応援にくるとは、思ってなかったホウネリアは、羞恥で真っ赤になる。ホウネリアの母サユキさんは、ああ見えて、移動国クラウベリア、ネプチューン王の娘である。現在はサユキの兄が、王座を継いでいる。
「もう~、お母ちゃんたら」
恥ずかしそうだが、母娘仲は良かった、俗に言う似た者母娘で、中継の町アセイラで、ちょっとした名物である。
「しっかり気張りや~」
長いこと……、造船と機械の国ジエモンに住んでたから、夫婦も独特の喋りで、お笑い好き、シンクのジエモン漫才は、サユキから教えられた物だ、
「ついでに、シンクちゃんも頑張るんやで~!」
楽しげな笑い声が、広場に響く、緊張してた生徒達は、いつの間にか、明るいサユキの声援を耳にして、楽しげに笑い始め。ますます赤くなってた、ホウネリアには、悪いが、
サユキさんのお陰で、みんなの緊張が薄れてくのが分かる。
「さあ~リーザさん頑張るんやで~」
「ぶっ、なにそれ」
手もみしながら、シンクが言うと、思わず吹き出していた。
「シンクありがとう、精一杯頑張るわ」
赤みが座して、晴れやかな笑みを浮かべ、胸を張り、目に自信に満たせ、静かに開会式の宣言を耳にする。
━━宮廷魔法使いケイタ・イナバ監修の元、
開会式がしめやかに行われた。
初日に、論文の提出がなされ。
2日目に、魔法の実技・実演。
3日目に、順位が発表され、閉会となる。
だから開会式に、サユキさんのような応援は珍しいのだ。
『では、我が国の試験官がおります。受け付けにて、論文の提出をお願いします』
ケイタが魔法で、魔法討論会の日程を説明する。生徒は神妙に耳を傾ける。中には憧憬の眼差しをケイタに向ける。ホウネリア達、パレス学院の生徒達。ケイタは西大陸出身であり。アレイク学園で名を馳せ、三賢者に名を上げられる賢者だ、憧れを抱くのも仕方ないことである。
「なんや~ドンパチやらんかいな、お父ちゃん?」
「そっそら、そらそうやがな」「しっかり話さな、聞こえまへん」「おっお前の声が━━」
なんて、名物夫婦漫談が始まり。生徒達はついつい聞き耳を立て。忍び笑いしていた、
『お後が宜しいようで、とっとと論文提出しいや~』
ケイタがジエモン語を交えるや、呆気に取られた生徒は、虚を突かれ再び注意が集まり。みんな慌てて論文提出を開始。
「あああ~ケイタに、美味しいとこ持ってかれたがな!、お父ちゃんがしっかり、話さないからやで~」
騒がしい声が木霊した。何かと騒々しい初日も、あっという間に終わり、シンクを待ってたリルム、リナ、そしてリナの護衛のサノビアは、近くのカフェで、遅めの昼食中である。
「それにしてもマサユキ、サユキ夫婦は変わらないわね♪」リルムはクスクス思い出し笑いをしていた。
「そうだね。半年前になるけど、サノビアの同僚に。ガルシアって人がいて、僕と一緒に、二人の店に顔を出したんだよ」リナとサノビアも知るガルシアは、厳めしく己に厳しい武人とそんな人物だ、
「それでは、まさか……」
なんとなくリルムちゃん察したようだ、
「僕はガルシアに、店で待つよう言って、ちょっとの間出たんだ、そしたら二人の漫談に聞き入ってたガルシア、いつの間にか、半日近くも店で働かされてたんだよ、ガルシアもなんでこうなったか、頻りに首を傾げてたな~」
「なんとあのガルシアが……」
想像出来ないらしい。本人も納得出来なかったのだ、それも仕方ない。因みにシンク、リルムも同じ経験があるが、それは二人の秘密である。
「シンにい、リルムねえ~時間あるなら、土竜さん触りたいよ」
ちょっと大丈夫かな~と、お伺いをたてる。
「構わないよ、リルムちゃんいいよね?」
「くすり……、私も構わないわ」
優しくリルムの可愛らしい願いを、叶えるつもりのようだ、
「わ~いありがとうリルムねえ!」
嬉しさのあまりリルムに抱きいた。
━━それから四人は、西にある土竜公園を訪れ。土竜の子供と遊び。沢山の子供達に囲まれ。終始ご機嫌だったリナ。疲れて寝てしまったので、シンクがおぶってこうとしたら。「わっ、私にお任せください」
「そう、お願いします」
リナを抱き抱え。大切な宝物守るように。帰路に着いた。
━━2日目。魔法討論会・実技、
魔法に興味ある。少年少女達、プロキシス学院の生徒達、それに準ずる職員が、主な観戦者で、後は各国の重鎮。大使館の職員が、貴賓席に並ぶ、今日は伯母夫妻、リルム、エルマの姿もある。昨日エルマの父ギラムが、ラトワニア女王と帰郷したため。エルマは見送りに行ってたのだ、寂しげな面立ちのエルマ、小さく嘆息して。
「ギラム殿に甘えられたかしら?」
意地悪く聞いてみた、
「おっ、お嬢!」慌てて、ハッとリルムの優しい眼差しに気が付いて、ちょっと頬を赤くしながら、
「はい」
照れ臭くも。ブラコン気味なエルマは頷いていた。
「そう、ギラム殿も喜んでるわ」
「そっ、そうでしょうか?」
自信無さげに、首を傾げる。普段見られない姿で、小さくくすり笑み。
「だって貴女の格好、ギラム殿の真似だものね♪」
「あっ……」
ズバリ指摘された、恥ずかしさのあまり顔を赤らめた。
「おっ、お嬢……その」
「わかってるわ、私と貴女の秘密よ」
「はい」
安堵混じりに、でも信頼込めて、静かに頷いていた。
多くの人に注目される緊張に、リーザは身を引き締め。その時を静かに待って、自信を持って挑んだ。━━3日目、結果が発表された、
総合1位はダントツのパレストア学院、
2位に食い込んだ、ジータ学園、
アレイ学園は残念ながら最下位だった。しかし個人で、
1位ホウネリア
2位アノン
3位アムール
4位リーザが入賞、五位以内に入った学生には、特別賞として、輝きの都の城を型どった、ペンダントが贈られる。こうして様々な騒ぎのあった、夏休みの帰郷は幕を閉じた。
エピローグ
輝きの都、新しく飛行騎士団の宿舎と提供された、真新しい建物。サノビアは小さな決意を定め。隊長のガルシアを訪ねた、
「どうしたサノビア……、こんな夜更けに」
決然と何かを決めた強い眼差しのサノビアに、やや気圧され訪ねた、
「ガルシア……、私は━━」
彼女の思いを聞いて、絶句した。
━━竜舎、白銀に輝く美しい鱗の妹のようなシンクレア。
「明日、アレイク王国に戻る」
『……そう……』
赤く美しい宝石のような瞳を、哀しげに潤ませる。
「ごめんねシンクレア、僕はまだ沢山のこと知らなすぎる。だからもうしばらく、寂しい思いさせるけど、必ずこの地に帰ってくるから」
『うん……シンクレアいい子で待ってるね』
いつかリナがしたように、自分の匂いくっつけるよう、シンクの服に頭をグリグリくっつけていた。
魔人の王レイアスを討ち取ったシンク、中央大陸事件が終結を迎え。誰もがようやく平和が訪れたと思うなか、世界議会では、5国同盟による。疑似神討伐の議題が上がる。また同じ物語か、違う物語で、背徳の魔王でした。




