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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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友の思い、人の思い。そして……、

苦労人オーラルは、テロリストからミレーヌ姫を救いだして、時の人となったのだが……、ケレル殿下に呼ばれて、内々に試練を受けるよう命じられる。一方で……、魔王の魔手が再び、アレイク王国を包み込むかに思われた。

プロローグ




━━━聖アレイク王国……、王座の間。



先の4ヶ国会談より王が戻り……。国王レゾンが玉座に着いた、

傍らには、旅より戻った王妃レイダ様が、自らのお手から慎ましく皆の為。お茶の用意をしていた……、

王座の間には現在。ケレル皇子含め。アレイク王国の重鎮と会談中である。



本当であれば、天気が良い今日などは、庭園での会談が望ましいが……、



━━本日の議題が、それを止めていた。



王の命に答えるためケレル皇子、カレイラ准将が内々に進めていた案件。特別処置による『オールラウンダー』候補の現在の報告を受けていた━━、



アレイク王国の歴史上━━、

『オールラウンダー』となった者は僅か5名と少なく。

現在。候補者も生徒に。何人かいる程度である。候補者となれる者は、学生時代の内に。自分たちの力で隠された試練を見つけ。それを乗り越えた者だけが、国王含めた重鎮に認められて。『オールラウンダー』の称号を与えられる。

「現在。アルファードの森に向かっております」

「ほ~うアルファードの森か……、試練とはまさか?」

王も耳にしていたのだろう……、

「あのヴァレ・カルバンに任せてあります」

「まさかオーダイのか?」

驚きが隠せない国王に。ケレル皇子が頷いた。

アレイク王国で、ただ一人レゾン国王自ら、騎士にと登用を願った人物。彼は『聖弓』の称号で呼ばれ。名誉職ながら、カレイラ・パレスと同じ。准将の地位にいる。

だが……陛下の護衛以外に、全く興味をもたない。表舞台には現れる事がを嫌う。変わり者である。



━━オーダイ准将とは、平民出の腕のよい猟師でしかなかった……。



だがただ腕前がよいだけでは、国王直々に。登用されはしない。正確無比な精緻な射撃と人間離れした遠射技術は、もはや神掛かってるほどで、様々な逸話を残している。━━以前になるが……、酒の席で、レゾン陛下が、オーダイをこう称する。1人で一軍に匹敵すると━━。



━━かのオーダイの逸話の一つに、

気難しいと知られていた前魔王ヒザンが、

『見事なりオーダイ!、我が子に、弓を学ばせん』最大の賛辞を述べさせたと言う……、

「我がカレイラ師団に。オーダイ殿の子息が入りましたので、任せようと思います」

国王は、カレイラの悪戯子のような瞳を見て、思わず苦笑していた。確かに彼の子息なら十二分に信頼出来た。



それに……、国王として民が苦しむことに。胸を痛めていた。急を要するが、軍を動かすには難しく。少数の兵では倒すも困難。それ故に判断が難しい。

……アルファードの森に、翼竜種ワイバーンが、住み着いたのはつい最近だと聞いている。

レゾン王の胸中では、

━━喩え。娘を救った人物とはいえ……、いささか荷が重いと思うが…、もしも……、

ワイバーンもの魔獣を倒したとあらば、『オールラウンダー』の称号を与えるに相応しく。十分に試練の一つ。空をクリアしたと認めれる。

『オールラウンダー』の称号には、5つの試練が存在する。地、海、空、知、魔である。

『オールラウンダー』とは、あらゆる武器。あらゆる道具。それを使う知識。精神力。そして魔法。

この5つの才能を満たした者だけが、

『オールラウンダー』の称号を与えられる。

それは━━アレイク王国の建国に従事した。三人の重鎮の物語に由来した秘事。

「よかろう━━━」

王の了承を受け、満足そうにカレイラは微笑して、深く一礼したが、下を向いた顔に。強かな光を宿していた……。何せ……、今頃オーラル達は、アルファードの森に入ってる頃だからだ……。



━━━5日前。



国内の民に、大々的にオーラルの偉業が発表された。一介の訓練生が、ミレーヌ様をテロリストの魔の手から守った功績は、凄まじい勢いでオーラルの立場を動かしていた、

━━連日貴族の夜会に呼ばれたり。有力者からの会食に呼ばれたり。数えたらきりがない。そんなある日のこと。オーラルの元に。ケレル皇子様から使いがあって、別邸に赴き、ケレル皇子との謁見中である。

「よく来たねオーラル君」

挨拶もそこそこに。訓練生でしかないオーラルに。カレイラ准将は、王女を狙ったテロ事件のその後を語る。多くの負傷者を出した戦士養成学校は、一時休校となったこと。学舎が壊れたため復興に時間が掛かることなど様々なこと。

「これでもわりと忙しい身の上でね。テロリストの取り調べがまだ終わらないわ。そのうえ校舎の復旧の予算がまだ確保出来ていない。君たちには不十かけるのを済まないと思ってるよ」

国王夫妻が戻らねば、未だにめどがたってい事案は多い。

「カレイラ准将閣下、それは仕方ないことです……」

しみじみオーラルという青年は呟く。見た目眠そうな眼差しからは、怒りや焦り。諦めとかいった。分かりやすい感情など。表情からまるで読めなかった。こんなことは初めての経験である。目を細めながらケレル殿下と視線をかわしていた。

━━それでも留守を預かるケレル皇子にとって救いは、目の前の訓練生による。迅速なる行動によって。最悪の事態を回避出来たことは、行幸であった。

━━カレイラは殿下の命令を受け、訓練生とは言え。養成学校生徒のあまりにも見事な行動を調べていた。そして……二人は感心していた。

まだ訓練生でしかない生徒を纏め。見事に指揮した者。オーラルの事を事前に調べさせて。二人は再び驚くばかりであった。これだけの逸材が野に埋もれてたのかと、愕然としたのだ。



そこで……人となりを確かめるため。カレイラとケレル皇子は、直接会って話す面接を望んだ。

「忙しいところ、済まないね」ケレル殿下が直接労をねぎらうと、困ったように笑う顔にカレイラは、見覚えがあることを思い出す。

「……確か、アレイ学園……。そうだ……、入学式の時の……、ミザイナ大使と、決勝を戦っていたね?」

カレイラの記憶力に、やや驚くが、

「はい。そうです」

全く緊張した様子がないオーラルは、気負いなくあっさり認めた。その様子を観察しながら困惑していた。豪胆な人物か?、それとも性格破綻者か……、

『正直分かりにくいが……、』

豪胆で、人に好かれる人物だと判断した。そう判断したのには、幾つか理由があった。

材料の一つ、豪胆で知られてるミザイナ大使、

我が国の宮廷魔導師筆頭ケイタ。妻で財務官のカレン・ダレス=シルビア、

エレーナ大司教からオーラル人となりを聞いていた。そのなかでも彼に対する評価が、一番高かったのが、自分を律していつも公平を喫し。自分や周りにすら厳しいあのミザイナ大使が、絶賛してたのには、幾分驚かされたが……、

「この国はオーラル。貴殿に多大な迷惑と、それ以上の借りがある。我が父は、そなたの行いに報いるため。最高の称号に価するか、オーラルそなたに試練を与えたい」

「はい、承ります!」

一切迷いなく。あっさりと申し出が受けられてしまい。二人は思わず見合う。何も疑問は持たないのだろうか?、

━━少し心配に思った……、オーラルの真意を読むべく。表情を見ていたが、あくまで自然体。

「なるほど……」ミザイナ大使においとまを告げた時に。言ってた言葉を思い出したのだ。

『カレイラ卿……、オーラルは一見。簡単に何でも引き受ける一面があります。貴方の狙いが何か解りませんが、十分に期待に応えますよ』

目をまるくしていたケレル殿下は、愉しげな笑みを浮かべ。何時のまにかオーラルに好意を抱かせている。

『彼奴は、必ず英雄と呼ばれる男になるでしょう……』

その事実だけでも興味深く。ミザイナ大使の言葉。カレイラも信じてみたくなっていた。だからではないが、思わず笑っていた。

「早速だが、ヴァレ・カルバン」

「はっ!」隣室から、すらりと背の高い青年が入ってくる。身に付けた衣服は、かなり良質な物で、

上級騎士=少尉以上、小隊長の身分を意味する。真新しい階級校章が、胸元に輝いてた。歳はオーラルより少し若い印象だ。

青年は茶目っ気のある瞳を、興味深く認めていた。

「オーラルよ。そなたは今より5つの試練を与えられる。見事これらの試練を越えて見せよ!。まずは空の試練である。詳しい所在は、カルバンに聞くがよい。彼は『聖弓』オーダイ殿の子息、自身も弓の天才でもある。貴殿の新たなる力を引き出すことであろう━━」

厳かに命じるケレル殿下。期待に答えるべく、オーラルは静かに頷いていた。


━━カルバン、オーラルの両名は、その足で、用意されていた馬を駆り、

西の街道を南下━━、

ターミナルの街から、東の山道を抜け、4日掛けて、東の小さな街。アルファードに向かっていた。



アルファードの街は、古くは鉱山の街として、知られていた、

が━━銀山が枯渇してより。アルファードの森と呼ばれる。広大な森に。クワイと呼ばれる。黒く小さな果物が実る木々が群生していた、

そこでその葉を好んで食べる。かいこと言われる虫は、繭を作り成虫になるのだが、その過程で繭から、糸を作る事が出来ると分かり。産業として発展。アルファードの街は、蠶から取れる糸を使って作る。アルファード織が名産で、高価な値で売り買いされていた。また交易路にある中継の街として、知られていた。しかしそれは最近のことで━━、

森の近くに。蠶農家が増えていて。小さな集落が点在していた。



そんな専業農家から、蠶の繭を買う目的か、街で作られる織物を買い求める商人が、近隣の村を訪れる。さらに近隣の村。町からも近く。アルファードは、交易の中継所として、小さな街ながら、人の往来は多い。



筈なのだが……、



━━夕方頃。街に着いた二人は、あまりにも閑散とした通りに。驚きを隠せず。馬と泊まれる宿すら、交易の商人が、最近訪れていないと、食堂も閑散としていた……、

「あんた達………王国の兵隊さんかい?」宿の女将が、眼を輝かせながら問うから、仕方なくヴァレが答えた。

「そうですが……、何か?」

上級騎士と一目で判る服装のカルバンに、ひとしきり笑みを振り撒きながら、

「もしかして……、アルファードの森に行くのかい?」

頻りに聞いて来るので、仕方なく。

「そうですが……、何か問題でも?」

訝しげに眉をひそめていると、

「とんでもない!、わざわざ来てくださり、感謝いたします」

大真面目な顔で女将に言われてしまい、二人は少々面食らった。

「もしや女将さん。例の飛竜ですね?」

確認するようにオーラルが聞くと。神妙に頷いた、詳しい話を調べるつもりだった二人は、頷きあって、女将から。話を聞くことにした。……飛竜ワイバーンが、アルファードの森に住み着いたのは、つい半月ほど前……、

クワイの実の収穫時期で、蠶の餌になる。新芽の葉を取りに出た時だった……。アルファードの周囲で、集落を作り蠶の育成作業と糸の生産を請け負う。集落の若い衆達が、大怪我をして。街にある女神アレの教会に担ぎ込まれた。さらに荷運び用の馬車に繋いでた馬が、何頭も被害にあったと言う……。

近隣の村には沢山のキャラバンが通るのだが……、昨日ついに襲われてしまい、死傷者が出たと聞き、二人の表情が変わった。



━━確か……、

飛竜ワイバーンは、翼竜種よくりゅうしゅ数えられるが、長距離の飛行を苦手としている。それでも旋回能力に優れた飛竜である。恐ろしいのが獲物を狙うとき、翼音を消して、滑空する能力があるため。静かな暗殺者サイレントキラーと異名をもつ。さらにワイバーンの尾には、蠍の尾になっていて、猛毒を持っていると言うから厄介である。

━━たた翼竜種なので、前足は小さく、退化してるので、その分。後ろ足は強靭である。馬の巨体ですら、捕まえたまま、飛行出来る力があるという。



翌日━━。

馬を宿に残して、徒歩でアルファードの森に入った二人………。


二人の肩には、強力な弓と鋼鉄で作られた矢が、用意されていた、さらにオーラルのリックには、ヴァレが用意した。折り畳み式の槍と、腰に分銅の付いた鉄を織り混ぜた、ロープ二巻を底に。準備していた。



宿の女将に聞いた話では、クワイの木々が群生してるのは、森の奥………。ワイバーンが巣にしてるのは、泉の側と言う話だ。



━━森の木々が生い茂げり、木々の合間に朽ちた灌木が、風雨に晒され、森を豊かな土壌にしているようだ。近隣の集落の者が管理してるのか、伐採された木々が間引きされ、比較的歩きやすい森だと、感心していると。カルバンが指差した地面を見れば、荷馬車を走らせた跡の轍が、幾つも見受けられる。ここから森は険しい坂道となっていて、馬車が無ければ、大量のクワイの葉を持ち帰るのは、難しそうである。それに━━アルファードの森を。北西に森を抜けると城塞都市ベセルに行く近道である。飛竜(ワイバーンのこと知らないキャラバンが通る可能性もあった。さらに森の中には、小さな村が点在してると聞く。そんな所を飛竜に襲われたら……、オーラルは静かに唇を結ぶ。早急な退治が求められていた。



カルバンが見付けた木陰で、二人は休息する。辺りを伺うオーラルに。小さく苦笑して、

「ここなら大丈夫だ、泉から此方側が、風の通り道になっている。この地形なら。風が変わっても。泉付近まで匂いは流れない。いくら匂いに敏感なワイバーンとて。気付かれないさ」

妙に、森やワイバーンの特性に詳しいと。オーラルは興味を覚えた、

「あんた随分とワイバーン……、いや、森に詳しいような気がする?」「まあ~な、お前。ヴァレ・オーダイ准将て、知ってるか?」

どこかで聞いた覚えがあった……、

確か…先生していた時、変わった経歴の騎士として、話題になった人物だ……。現国王のただ1人の護衛であり。王自ら登用されたと。様々な逸話や。噂が流れていた………、

カルバンは苦笑気味に頷き。

「父は、元猟師でね。森で生き抜くコツは、嫌って程。身体に染みてるよ」

肩を竦めていた、そう言えば……、

騎士なのに、ナイフ以外の刃物を身に付けていないな……、弓を獲物にしてる様子から、成る程と納得した。ヴァレ・オーダイは弓の名手と知られてる。オーラルが慣れた手つきで、弓を扱う様子を見て。

「お前さんの弓を扱う様子から、それなりに使えるのは判る。長いのか?」

カルバンの興味深そう眼差しに、些か驚きながら、

「学園で、それなりに……」

「ああ~アレイ学園でか……」

納得して妙に懐かしそうな顔が、印象的である。「俺の先輩がさ……」

一瞬言おうか迷いながら、諦めに似た笑みを浮かべて。

「俺なんか足元も及ばない腕を持った人でさ、今なら分かるあの人の腕前は、父に肩を並べる。本当の天才だったんだ………」

何やら訳ありのようで、聞かないように考えたが、

「あんた……。ミザイナ部隊って知ってるか?」軽く息を飲んでいた、

「学園史上。最強で、伝説を作った部隊があったんだ………」

懐かしそうに、呟くカルバン。



まさか……、

驚きのまま、オーラルはカルバンの次の言葉を待っていた。

「俺は……、ピアンザ部隊のメンバーだったんだぜ」

彼の寂しく。寂寥ある告白は、オーラルの心臓を冷たく掴んでいた。

「ピアンザの……」

オーラルの呟きに気付かず。ミザイナ部隊の……。その後を聞くことになった━━━、



━━━オーラルに学園からの退学が、言い渡された。後━━、



ミザイナ部隊に、シルビア=カレン・ダレスが入り、そこから快進撃を続けること二年……。

ミザイナ卒業の年……。「何故か、6人分の申請と、ポイントを稼ぎ、世界一周の旅をした凄い部隊さ、俺はピアンザさん、レイナさんに誘われて……、部隊に入った……」

静かに佇むカルバンは、寂しく笑ったように見えた。

「ケイタは、同じ部隊ではなかったのか?」

「ん……ケイタさんは…ん?、何故ケイタさんを知っている?」

訝しげな顔をした、オーラルは深くため息をして、

「俺は、ミザイナ部隊にいたからね……」

肩を竦め。何でも無いように言った。

「ミザイナ部隊に……、まっ、まさかあんたが……、オー君?」

息を飲みながら、呟いていた。

「懐かしいな……、レイナは、魔法医になったのかな?」

静かに目を細め。にこやかに呟くオーラルに、カルバンは静かな眼差しを向けていたが……、やがて決意の光を宿していた。



━━徐々に森の奥に進むと、強烈な異臭が漂ってきた。



周囲に注意しながら見れば、大木の何本かが、ワイバーンの手によるものか、凄まじい力でへし折られていた。見るも無惨にその周囲の木々は、幹に爪痕を受け、ズタボロになって。その為かは分からないが開けた場所が辺りに点在しており、食い荒らした、馬、家畜の牛、羊の死骸が、所構わず放置され。時間と供に腐り、異臭を放っていた……、何故か獲物の腹だけ、ぽっかり喰われて、無くなっていたが……、


カルバンと眼差しで合図を送り合い。二人は辺りの気配を、注意深く探りながら。オーラルは音消し、匂い消しの魔法を二人に掛けて。

早速ワイバーンが戻るまでに、迎え撃つ準備に取りかかる。



オーラルはリックからロープを取り出し、カルバンの示す木に登り、辺りの地形を頭に入れながら、木々の間にロープを張っていた。



━━恐らく、ここが飛竜の餌場だろうが………、樹に登ると。籠った悪臭に、吐き気が込み上がる。酸っぱさを。えんかする気にもならず。オーラルは黙々と作業をこなして、どうにか木々の間にロープわ仕掛ける。

その間。カルバンは、辺りの地形を使い、様々なトラップを作り、また仕掛けていく、その手際には驚くばかりだ何せこれといった特別な材料も。道具も準備してないのに。



辺りの木々から。草や、花から材料を次々と集めていた。なかでも宿り木の蔦を沢山集め。蜘蛛の巣のように編み込み。やや大きめの穴のあるネットを作った、根元と、三ヶ所に、一抱えある石を縛り付け、上から落とせるように作る。

━━何故か、ロープを張った場所から、離して仕掛けるのかと疑問が浮かぶ。

さらに腐った獲物を薄い布に集め。その下に魔法で穴を掘って、踏み抜いた瞬間、木々の反動で、下から上に絡むような罠を設置した。重みで罠が発動する仕掛けだが……。



「オーラル蔦を集めるの手伝って」

頼まれるまま蔦でネット作られて、何か粘りけのある物が、蔦に塗られるが、それも近くの木から、集めた樹液に何かの薬品を混ぜた物である……、興味深くオーラルが見てると。

「あの樹の樹液に。油を加えれば、強力な取り餅になるんだよ」

教えられ。感心するばかりである。



……そうこうしてる間に、いつの間にか、日が暮れていた。



準備を整えた二人は、それぞれ獲物を手に。配置に着いて、息を殺し━━ひたすらその時を待った。


突然森全体から音が消えた━━、



ハッと二人は目配せをかわして、頷き合った瞬間だった━━、

威圧感ある気配が、空に現れ。森全体をまるで押し殺すような、そんな凄まじい重圧に、オーラルは知らず知らず。額から汗が滴る。



━━バサリ……、

大きな羽音が、風を巻き込みながら、木々を揺らし。そして……巨体が、現れた……、


━━足に、獲物の馬を引っ掛けながら、餌場にしてる泉の傍らに、馬を投げ落とした、まだ息のある馬が、起き上がろうとするところを、翼を畳み、ワイバーンは、降りたって逃げ道を無くし。後ろにジリジリ下がる馬に。毒の尻尾振り上げ、一気に馬の首に突き立てた。止めをさした、馬は泡を吹き、白目剥いてどうっと倒れた……、

涎を垂らしながらワイバーンは牙を立てる。血を啜り、骨を食い破る咀嚼音が、辺りに響渡る。



食事を終えたところで、カルバンは罠の一つを落とした。

空腹なら気が荒く。凶暴性を発揮する。だが食事を終えた直後。身が重くなれば、動きが鈍くなるのは竜退治でセオリーである。落下した。取り餅付きの蔦の一部が、樹の枝に計算されたように。引っ掛かり、ネットが広がる。罠の端にくくりつけた石の重みで、ワイバーンの身体を覆うように絡み付いた。

「グアアアアア!!」

飛竜は戸惑い、そして怒りの咆哮を上げ。巨体を動かしたが、取り餅付きのネットが絡み付き。翼は広がらす、もたもた前足を動かすしかないのだ……。



翼竜のワイバーンにとって……、一度翼を畳むと、広い場所が無くば、翼を広げ。飛ぶ事が出来ない。意外と弱点が多いワイバーンを、手際よく罠で追い詰める策は、オーラルに衝撃を与えた。

「凄い!」

創意工夫で、強敵魔獣ワイバーンを、簡単に窮地に追い込めている。


さらに深い知識に裏付けされた経験。ワイバーンのことを知り尽くしているからこそ。翼を広げる力が弱い。ワイバーンの弱点を的確に突くことが出来たのだと気が付いた。


すぐさま隙を逃さず。カルバンが矢を放つ、所詮急造のネットである。壊されるのは時間の問題であろうことを。理解しての行動である。━━その間……、いかにワイバーンの翼にダメージを与え、飛べなくさせるかが、勝負の分かれ道である。数本の矢を、翼に受け、怒り狂うワイバーンは、退化してるとはいえ前足の鋭いカキヅメで、ネットを破り、遂に翼を阻害してた、ネットを外して、怒りの咆哮を上げた。



「甘いんだよ!。魔獣さんよ~」

━━カルバンは、大きな隙を見逃さず。魔法で強化した矢を。狙いたがわず。ワイバーンの右目を射抜いていた。


「グアアアアア、グアアアアアアアアー!!?」凄まじい痛みに。悲鳴を上げ、蠍の尻尾をめちゃくちゃに振り回しながら、警戒に嘶く。ワイバーンは怒りの声を上げながら。移動を開始した、


ワイバーンの行動は、ダメージを受ければ受けるほど。本能に忠実である。それは生き物である以上当たり前なことだ……、それだから予想しやすい。

餌場を突っ切る。最短を選んだワイバーンは、まとめて置かれてる死肉を、何も考えず踏みつける。


ズン━━。

罠を踏み抜き、下から一気に樹にくくりつけられた罠が発動。下から上に持ち上げられ、僅かに巨体が浮いた………、驚きと戸惑いの声を発する。僅かな時間しか猶予はない、二人は、余った矢を、瞬時に射掛けた。


固い背や、尾の近くは矢が弾かれたが、首筋に何本か突き立ち、少しずつダメージを与えて行く、


だが、ワイバーンの重みに堪えられず。木々がへし折れ、ワイバーンが落下。罠から逃れたワイバーンは、殺気を放ちながら、自分に手傷追わせた者を探す。オーラルは、矢の尽きた弓を捨て、折り畳み式の槍を構え、いつの間にか樹に登っていて、

━━ワイバーンの頭上から落下、首の根元に落下の勢いで、槍を突き立てた……、

「グアアアアアアア!!?。」

凄まじい悲鳴、怒り、狂ったように身体を揺らし、めちゃくちゃな勢いで、尻尾が振り回された、


その時には、すでにワイバーンから離れていた、さらにもう一本の槍を組み立て、構えながら隙を伺う。


怒りに任せていたワイバーンも。生命の危機を覚えたか少しずつ、オーラルから距離を取ろうとした。



そんな間を与えず。オーラルは一気に詰め寄り槍を振るう、強い殺気と気迫に徐々に……、ワイバーンが押され始め……、怯えた声を上げていた。最早退治するも。時間の問題かに思えた……、



泉側の開けた場所まで、何時の間にか下がっていて、慌てたワイバーンは、翼を広げた。

そこを狙い澄まして、翼の付け根に無数の矢が突き立つ、痛みに、咆哮をしたまま、強引に翼を広げ、力強く羽ばたいていた。


ワイバーンの体が、僅かに身体が浮上して、勢いよく。飛び立たた瞬間━━━、ゴキン何かに絡まり。翼がおかしな方向に折れ。落下した……首をしたにして、


ワイバーンは、最後まで気付くことはなかった━━━。木々の間にある。鉄を織り混ぜたロープに……、



ゴキン、骨の折れる音が辺りに響いた、ビクビク痙攣するワイバーン。左目から脳髄までを、オーラルの槍が貫いた……、


やがて………、生命力を失ったワイバーンから、蠍の尻尾を切り飛ばし、カキヅメと一緒に証拠として街に。持ち帰ることにした━━、



━━数日後……、

アルファードの街で、疲れを癒してた二人に、一台の馬車が迎えに来た。「短い間だったが、良い経験だったよ」

爽やかに笑うカルバンと握手を交わす。

「また何処かで、オー先輩」

お茶目たっぷり片目を瞑り。走り出す馬車をカルバンは見送った。




━━カレイラ師団。本営。頓所。


「入れ」僅かな気配を感じ、カレイラが命じると、音もなく影が入室してきた、彼女を見て、カレイラは眼を細めた、

「珍しいな、」

黒髪を、後ろに束ねた、美しい女性が、一切気配なく、苛々した顔をカレイラに向けた。

「カレイラ……、ミラを、姫様直属部隊に、入れたようだね?」

怒気を孕み。殺気すら込めた冷徹な眼差しを。カレイラは涼しげな顔で受け止め。肩を竦めた。

「そうだが、問題でも?」

「貴様………、約束を違えるつもりか?」

彼女こそアレイク王国の闇。黒衣の長である。

黒衣とは……、アレイク王家に支える者達であり、建国より擁護される代わりに。国の暗部を一手に引き受けてる。闇の一族の事だ。主に諜報活動から暗殺まで、仕事は多岐に渡る。

「ノルカ勘違いするな。殿下がお前とした約束は、アレイ学園に妹が通えること、不自由なく暮らせること、闇の世界に脚を入れないことだったな?」

殺気のこもった眼差しを動かさず、首だけ小さく動かした。

「残念ながら、今回の人事。俺とは無関係だ……、何も知らない王妃のごり押しだと聞いてる」

小さく嘆息しながらカレイラは言った。ミラの学園時代の活躍を知ったレイダ王妃は、テロに見まわれた。王女の事件を重く受け止め、それは胸を痛めていたのだ……、そこで独自のルートで、ミラの経歴を聞き、選んだと告げる。

「王妃様が……」やや困った表情と、ノルカにしては、珍しい脱力感に苛まれた珍妙な顔をしてたが、敢えて指摘せず。

「姫様の護衛部隊。第1分隊は、軍部にありながら。大して重要な仕事が回らない、名誉職だ心配はなかろう?」

「……くっ…。今夜は失礼する!」

怒気も高々に、ノルカは退室した。

「君には悪いが、僕には好都合かな……」

小さく微笑しながら、報告書に眼を通した、



オーラルを乗せた馬車は、北の街道を通り、城塞都市ベセル経由で、北西に位置する。港街ドマーニを目指していた。



ドマーニの街は、アレイク王国の海の玄関口であり。交易で栄える大きな港には。大陸中の商会が軒を並べていた。学生時代、ギル・ジーダ王国に赴く時いらいである。無論船は検疫を受ける義務があるため。国に支える。近衛連隊の管轄であり。厳しく取り締まられていた。



聖アレイク王国には、近衛連隊、フロスト騎士団、ガイロン重騎士団、カレイラ師団の4つの軍があって。それぞれ管轄してる区域を分けてるため、表立っていがみ合うことは少ないが……、問題は近衛連隊の多くが、貴族である点。魔王の暗躍もあり、今はまとまっているが……。


馬車は、ドマーニの交易の検疫の詰所に寄って、程なく近衛連隊の制服を着た。ブロンド、碧眼の線の細い。一見すると少女のような人物が、乗ってきた。

「や~よろしく」良い家の生まれなのだろう……、朗らかに、柔和で繊細な笑みだが、気品すら感じた。

「レブァ、レブァ・ピオテーレだよろしく」

「此方こそ。オーラル・ハウチューデンです」

簡単に自己紹介を済ませた。近衛連隊の所属なのに、日焼けすらしてない、色白のほっそりした手を差し出され。握手したのだが……、見た目華奢だが、手のひらはゴツゴツした男の手をしていた、



二人を載せた馬車は、ドマーニからさらに、北の小さな街に向かう……、港街アノンは、船舶の造船所のある。ドック街と呼ばれる小さな街で、街の半数が、造船関係の職人が住んでいる。多くは機会と造船の国ジエモンからも。沢山の職人が訪れ工房を開いている。


秘密にされてるが、近衛連隊の操船訓練所があって、オーラルは、レヴァから、船の基礎知識と。操船技術を学んぶためにこの町に来たと聞かされた。

「オーラル、帆を南に向けろ!、何やってる!遅い、風が変わった、北西に向けろ」

見た目と違い、レヴァは船の上では、スパルタらしい……、あたふたしながら、オーラルは苦戦を強いられた。



━━数日で、方角を知るすべと、簡単な操船技術は身に付いたと思う……、

頑張った甲斐があって、レヴァに言われる前に、風の変化を読み、自分の判断で、帆の調整しながら、訓練船を操る事が出来るようになっていた。


━━訓練を始めて半月。オーラルとレヴァは、ドマーニとアノンの中間にある。小さな無人島に上陸していた。

「ほ~う~……」

「どうかしたのかレヴァ?」

オーラルの見事な操船技術に。感心したとは、口が裂けても言いたくない。オーラルに見られる前に。表情すら消した、その上でお茶らけた風に。肩をすくめ。小気味良く笑みを浮かべながら、

「合格~、と言いたいが」

悪戯ぽく言いながら、いきなり船から蹴り落とされ、オーラルは頭から海に落ちた、砂浜に鞘に入ったナイフを一本落として、

「じゃ~生きて帰ってこいよ~」

さっさと操船しながら、レヴァは去っていく。いささか呆気にとられ、呆然としていた、

「本気か?」


近隣と言っても。泳げば半日は掛かる。

それにどう見てもここ無人島だ……?。

「確か……、この島って、」

殺気が、オーラルに向けられる。危険な肉食昆虫や。魔獣の巣だったはず。嫌な汗を流しながら、ナイフを手に、抜き放つが………、

「マジかよ」

錆びてたナイフは、抜いた瞬間折れていた……、瞬く間に、肉食昆虫に囲まれていた。


困ったなと、苦笑を張り付け、諦め嘆息を漏らしながら。オーラルはゆっくり腰を落とし。深く呼吸を整え、気息を上げた、

━━無数の肉食虫が、オーラルに一斉に飛び掛かる。

「はっ!」

足元の砂を巻き上げ、鋭い蹴りを放つ、砂のベールを目隠しに。オーラルは前方に飛び込み。囲みを抜け出した。素早く一匹の側面に回り込み、砂に埋もれた所、頭を踏み潰した……、それからオーラルは肉食虫の突進を。避けては踏み潰すを繰り返し……、



━━━ようやく……。虫を駆逐したのは、日が高くなった頃である。



━━息を整えてから。島のジャングルに入り、直射日光を避けつつ、水を探すことにした。

手近な先の尖った石を見付け、石同士をぶつけてこすり。どうにか薄い刃を作り出した。さらに平たい石で、ナイフ用の石に刃を付けるため、研いで行く。

「とりあえず……即席のナイフは手に入った……」

近場の木から、長めの蔦を集め。簡易ロープとして持ち歩くことにした。



ジャンルをしばらく進んだが、その日川を見付けることは出来なかった……、



水が飲めないとなると、余計に喉の乾きを覚えた。仕方なく近場にあった背の高い大きな葉っぱを集め。茎を編み込み。筒状にしてから、大きな葉っぱでくるんだ。こうして枝の側に立てることで、夜露を集める事が出来る昔父から教えてもらったサバイバル技術である。夜露を集めるために仕掛けを幾つか作り。仕掛け終わってから、蔦を使い、掴まり処の無い木の太い枝の上まで登り。樹と身体を蔦で結んで。落ちないよう工夫して、浅い眠りに付いた。



━━明け方……、草をはむ音を敏感に感じとり、目を覚ました。まだ夜明け前の薄明かりの中に……、微かな物音が徐々に近付く……、



……しばらくして、朝靄が地面から沸き上がり。周囲の木々の間を漂うな感じで、現れた生き物は、木の根元を潰れた鼻で掘り返して、木の根や、花の球根を食べる姿が、ぼんやり見えた……、

食い物……、ゴクリ空腹を意識していた。

オーラルは昨日見つけといた。まっすぐの枝に。ナイフをくっ付けて。枝から外れないよう、草を編み込んだ紐と。蔦を使って、しっかり固定する。即席の槍を手にして、バランスを手に馴染ませながら、様子を伺っていると。猪はゆっくり注意深く辺りを伺いながら。徐々にオーラルのいる樹に近付いてきた。小さく魔法を唱え、槍を強化して━━。

猪が、真下に着た瞬間……、



猪を仕留めるため。身体と樹を繋ぐ蔦を切って、落下の力を使い、見事一撃で猪を仕留めた。



沢山の葉っぱを集め。海水を使い肉を海水で洗い、大きな葉っぱでくるみ蒸し焼きにして食べた。飢えをしのぐとどうしても喉が渇く。

「うまく掛かるか分からないが、試してみる価値はあるか……」

猪の半身を海水に浸して、葉っぱでくるみ。その上で焚き火を炊いてから。余った内臓はを使って、森に住む肉食獣を集めるための罠を仕掛けることに決めた。

内臓を木陰に置いて、近くの灌木に隠れてから。魔法で消臭・消音を自身に掛けた。



一息着いて、オーラルは操っている獣を呼び出た……、川まで案内させる為である。日が登る前に、川までたどり着いたオーラルは、獣に海水を付けてない肉を与え。魔法を解くとしばらく戸惑っていた……、しかし肉を食わえて、獣はジャングルの奥に消えた。



川の側で。竹林が群生してるの見つけた。石のナイフに風の補助強化魔法を付与して。どうにか竹を切り出した。いくつか水筒を作って水を貯めてから安堵して、海岸に戻った。

「最低限のライフラインは確保出来た……」

そこでようやく脱出方法を考えることにした……、



オーラルは船の航海技術を学んでる時。この辺りの海流についても詳しく聞いていた。

「確か今の時期は……、アノン側に早い海流が流れている」

確かに…。操船のさなか、なかなか内湾から出ることが出来なかったの覚えていた。風を読むことはレヴァに散々教えられていた。ちょっとした板でもあれば帰れるが……、無人島のあるこの近辺は、人を襲う鮫がいると聞いてる。丸太船を作ってくのが一番良いのだろうが……、問題は、時間が掛かりすぎてしまう……、

「そうすると……魔法かな……」

ギル・エバーソンの魔法を使わせて貰うか………、

「あとは…。鮫が来たら、戦うしかあるまい」

手早く魔法を唱え。オーラルは槍を手に、オーラルは海に飛び込んだ……。



ギル・エバーソンとは、ギル・ジータ王国で出会った風魔法の使い手。彼は空気の膜で、身体を覆い。長距離の海中移動を可能にしていた。

オーラルには時間があった。学ぶ場所こそ無いが、今まで経験した様々な出来事や、過去見た魔法を全て自分の物にしていた。

島で使った。獣を操る魔法。あれもケイタのアストラル魔法を元に。簡単な思考の動物なら。精神を一時的支配する魔法を編み出した。



結果として……、オーラルは、アノンの街まで、無事戻ることが出来た……、


宿舎に戻るとレヴァはすでに帰っていて、手紙が残されていた。

『借りにも『オールラウンダー』候補なんだ数日後には戻ってるだろうね。無人島は海の試練だよ~、恨まないでね』

「……はあ~。やれやれ」

喰えない人である。




━━カレイラ師団・第1分隊。隊舎。


現在第1分隊は、中隊長含め僅か5名しか人員はいない。それは最近作られて間もない新しい部隊である。主な任務はまだ無いしかもミレーヌ王女専属護衛部隊になる。予定であるからだ。



本来分隊とは、四小隊24人。交代要員含め48人。宿舎の職員を入れれば50人前後が本来隊舎で暮らしてる。



━━隊舎二階・中隊長の執務室。

カレイラ・バレス准将を出迎えた部屋の主である。第1分隊中隊長アロ・ジムスは、青い顔をしていた。

実に冴えない風貌の中年男である。軍人でありながら実務でなく。元々事務畑の内勤の人間であた。

━━しかし。今度の移動で、中隊長に抜擢され。本人も周りも驚いた。

「ジムス、近々人員が増えますから、そのつもりで」

「あっあの…カレイラ准将閣下、わざわざそれを言いに?」

いくら事務畑の中隊長とはいえ。流石に訝しんだ。書類一枚送ってくればで済む話である。機嫌の良いカレイラわざわざ自らこんな辺鄙な隊舎まで足を運び。一枚の命令書を見せて、にこやかに微笑していた。




━━━その頃。


馬車に揺られて数日。街道を南下して。ターミナルに着いたのは、王都を出て、一月過ぎた頃であった。

ターミナルの街とは、

南大陸と東大陸を繋ぐ交易の窓口であり。アレイク王国の建国に大きく関わる聖獣がいた。それが土竜である。ターミナルでは、土竜馬車が毎日何十便も出ていて、南大陸と交易がなされる。僅かだが旅人も南大陸に。行くことが可能である。



……ターミナル地下の街では、土竜を育てる。ファームと、駅舎を運営する。ギルドの建物が大洞前に並び。

受付を受けないと、大洞窟から地下迷宮に下ることは出来ない決まりである。




━━━馬車は、ターミナル街入り口で止まり。オーラルは下ろされて。ようやく次の目的が分かってきた……、


ターミナルの街は、入るのにも許可が必要で、受付で理由を聞かれる。名前を告げると、

「伺ってます。確か……、オリベ老師のとこですね。地下街に降りて下さい」

礼を述べ。オーラルは、地下街に降りて、土竜を育てる人間の住む。区域に向かう。

「おい!そこの小わっぱ、お前がオーラルか?」

見るからに、頑固で、偏屈そうな、小柄な老人が立っていた。

「はい」

長年鍛え上げられた体は、ずんぐりしていて、まるで大柄なドワーフのようだと、内心感想を述べた。

「ぼーっとしとらんと。さっさとこんかい!」

静かな口調だが、何者も逆らわせぬ厳しさが、含まれていた。

老人に続き、先を急いで歩いて行くと、土竜を育て、調教する。調教師や見習いが住まうファームが、見えてきた、この辺り……もう使われてない、地下迷宮の通路側にあるようだ。

本来の地下迷宮は、4つの大陸を繋ぎ東大陸がすっぽり入るほど広大で……、

1000年前以上昔に起きた。大崩落によりそれらの道は失われているが、地下迷宮は全ての大陸を繋いでいたと、伝承では残っている。

さらに地下迷宮内には、数多くのモンスターが。住みかにしており。土竜は危険を察する能力に優れた生き物で。自然とモンスターを避けながら、迷宮を旅すると言われていた。さらに土竜は自分のいる場所を見失うこともくなく。地下迷宮を旅する事が出来る不思議な能力が備わっていて。モンスターの出す臭気にも敏感で。土竜騎士に危険を知らせる事が出来る。その能力ゆえに毎回違う道を通ろうと、迷うことなく南大陸に、また東大陸にたどり着くのだ。



オーラルが、ターミナルに来るのは実に久しぶりで……、懐かしい土の香りに、

「何をにやついてる!」

「すいません。つい懐かしくて」

オリベ老は、おや?っと眉を潜めた。

「小僧、お前はここにくるのが、初めてではいのか?」

訝しむ老親方━━恐らく土竜師に、小さく頷き、普段首から下げて、服の中にしまっていた笛を見せた。

「土竜笛じゃないか………、」

幾分険しさを和らげていた。


土竜師である老親方の営む土竜ファームは、古い通路の奥側にあり、大きな厩舎が幾つも並び、ぐるりと広大な土地に、コースが造られていた。若いライダー達が、土竜を訓練してる様子が、見受けられた。

「そうか……、お前の親父はリブラだったのか……」

懐かしそうに呟く、そして父リブラが、見習いの時。土竜の暴君と父の世話をしてくれたのが、オリベ老だと言う……、奇縁とはよくいったな……、語られる昔話に耳を傾けつつ、その日は終わった……、



━━━翌日、早朝から。若い助手達に混じり、オーラルは、土竜の世話をした。


土竜とは、竜種に数えられるが、その姿は巨大なネズミに似ていた。

鼻は長く尖り、愛嬌たっぷりの目が、とても愛らしい姿である。だが大変頭が良く。人に慣れると一生の家族として、土竜騎士の相棒となる。

また土竜は、成竜になってから数十年生き、子孫を残したら、旅に出ると言う……、

━━昔話だろうが、山のような巨大な土竜を見たと、ある騎士は語る。

不思議なことに土竜は、モンスターに殺された以外の死骸を見せたことがない。また死骸をみたことも、確かにいないことから……。多くはギルド内の秘密。または土竜騎士達の伝説になって、語られるくらいであろうか………、

「キュイー、キュイー、」

人懐っこい何体かの子土竜が、オーラルに身体をすり寄せて来た。あんまり可愛がり過ぎない程度にあしらいながら。オーラル達は、食用ミミズを与える。

一通り仕事を終えて、一休みしている時だ。

「オリベ老師。あのご相談が……」

近隣の土竜調教師か?、中年のがっしりした男が、青白い顔をして、おずおずオリベ老に話掛けてきた、話を聞き終えるや真っ赤になって、

「この馬鹿者!、何をしていた」

烈火の如く怒鳴り散らす。突然の怒声に首を縮こませる中年男、凄まじい形相のオリベ老と、見習い達しかいないから、オロオロするばかりである。

仕方なく、オーラルが、オリベ老の前に出て、

「オリベ老、子土竜が恐がります。他所でやってくださいね」

静かに笑むオーラルだが、眼は笑ってない、ハッとして渋面を作り。ばつが悪そうな顔をした。「むう……、済まぬ、いささか我を忘れいた……」

周りいた見習いは、安堵したのは言うまでもない。

「こほん……、オーラルお前もこい。お前にも関係ある話だ」

訳は解らないが、首肯していた。



オリベファーム、住居のある建物の一階。オリベ老の部屋に、中年調教師と助手の1人、オーラルの4人が、応接間に腰掛ける。

「ゲルマン、話せ」

「はっはい……、」

オーラルを気にしながら、唇を噛み締め泣きそうな顔で、とつとつと語り出した。

「………オリベ老より預かっていた、暴君の子、Jr.が……、助手の監視を掻い潜り、脱走しました、それは何時ものことです……、ですがその先が……」言い澱んでいた、

「……ん?、何処かで(聞いたような話だ)」

オーラルは……、妙なデジャブーを覚えた……、それがなんなのか……、

「ゲルマン、お前がわざわざ来たのは……、Jr.があの廃道に入ったと思っているからだな?」

やや怒りを納めたオリベ老に、迷いながらも静かに頷いた。

「あのオリベ老、廃道とはなんですか?」

チラリ視線をよこして、迷いを浮かべる。複雑な目を伏せて、

「お前は、知らぬだろうが……」

意味ありげな眼差しが、とても気にはなるが、今は情報を得ることが大切と感じ。口は挟まない。

「廃道とは、人喰いワームの巣になってることが多いのだが……、こいつが言った今回も迷い込んだ廃道は、少々意味合いがあっての……」

━━今回?……、妙に含む言い方な気がした……、


━━過去にもそんな事が……?、


妙に気になった……、老師は前置きした、何となく理解する。土竜の主食とされる食用ミミズ以外に好物がある。土竜には宿敵を狩る本能が存在する……、

「ワーム……」

かつて土竜が、東大陸に多く住み着いた理由があった。この地下迷宮に住む最大の理由が……、



ワームとは、巨大ミミズの俗称で、獰猛な肉食で、巣を作り群生する。小さい物で人喰いワームは、体長1m程もあり、人間の腕より胴体は太く、貪欲で、大きなワームなら15mにもなると聞く。

「まさか……、その子土竜は?」厳しい顔のまま静かに頷いた。

「もっともJr.は成土竜ですが……、オリベ老、先程この青年と、暴君Jr.が関係あると、言ってましたが……」

ゲルマンに頷き、真っ直ぐオーラルを見る目は、とても優しい光を点していた。過去……オリベに意見を言ったり、たしなめたり出来た者は、一人しかいない。

「オーラルは、あの暴君のライダー、リブラの子だ……」

これには驚いたのか、アングリ口を開けて、目を丸くした中年調教師は、

「あのリブラの……」

仕切りに首を振りながら、懐かしそうに呟いていた。

「オーラル……、ゲルマンは当時。暴君………お前の父の土竜を、世話をしていた助手だったのだよ……」懐かしむように。目を細めるオリベ老の眼差しに、胸が突かれた……、ゆっくり瞼を閉じて……、オリベ老が、オーラルを同席させた理由を、全てを………、

「そうか……ここは……」

思い出した……。

そうだあの日の出来事も。ゆっくり顔を上げたオーラルは、

決意を堅め真っ直ぐ三人を見渡し……、

「廃道の場所、教えてください!」




━━オリベファームから、少し離れた場所には、小屋の中に。地下に降りる小さな階段がある。

本来は何らかの事故によあって、土竜馬車が運行出来ない場合。迷宮の脱出に使われる非常口に使用するのだが……。

オーラルは荷物を漁り、使える道具をピックアップしていく。ちょうどワイバーンを仕留めた時の装備をそのまま持ち歩いてたのが役に立つ。

鉄を織り混ぜたロープと。折り畳み式の槍を右腕に持って、肩には強弓を掛けてから。リュクの底に仕舞われていた父の赤い手甲を見つけ。迷ったが着ける。父リブラからお古を貰ったと。オーラルは今でもそう思ってる。



オリベ老と中年調教師は、現れたオーラルの出で立ちにハッと息を飲んだ。右腕にある年期の入った赤い手甲は……、見覚えのある土竜騎士の証である。これは強靭な、爪を誇る。土竜の爪から作られる。土竜の加護を与えられた手甲は魔法、毒、鋼の武器を受けようとさえ、手甲に傷を付けることは出来ない、

……そして……。

この手甲こそ、世界に2つとない特別な品である。土竜とは……生涯で、ただ1人だけ、人間の友とを選び契約を結ぶ……、それは土竜が、家族と認めた証である。



━━━だから友であり家族に、土竜は強靭な力が宿る自身の爪を与える。


━━それこそが契約であり、土竜騎士だけの栄誉である。



オーラルは思い出した……、父よりもらい受けた、赤い手甲にそっと触れ。唇を噛み締めていた。




━━20年前。ターミナルの街、廃道、


幼き日のオーラルは、父に連れられ。オリベファームに遊びに来ていた………、

行方不明になった父の土竜を助けるため。幼いオーラルは、単身廃道に入っていた……、まさに同じ廃道に……、



━━━現在。

オーラルも知らない思い出がある……。

暴君の左の爪は、二本欠けてる理由を……、そして父がいない今、それを知るのはオリベ老と……、

「オリベ老……、あの子が……」

涙ぐむゲルマンを優しく見ながら、考え深く、皺を深くした。

「若き土竜騎士に。再び会えるとはな……」



廃道と言っても。巨大ワームが通るため。恐ろしく天井が高く曲がりくねっていた。最近は土竜ですら近寄らず。危険なためギルドの管理下に置かれていた。



風化した入口とは違い。変わりにワームの酷い匂いが、廃道中に漂っていた……、

長年発酵させたキツイ臭いのチーズを。壁中に擦り付け長年放置したような。酷い悪臭に。吐き気を催したが気合いを込めた。風の消音魔法スニーク。足音を消した、ワームは、音や振動に敏感なモンスターだ、……さすがに振動は消せないから、せめてもの準備である。



坑道の奥に行くにつれて、匂いが更にきつくなる。

「ん……」

小さな鳴動を感じた。罠を仕掛けるならこの辺りか……、念のため二種類の罠を仕掛ける。

「そんな化け物は、居ないだろうがな」

ワイバーンを狩ったばかりで、その強靭な生命力は脅威だった。嫌な予感がするのだ。



準備を済ませ。オーラルは奥に向かって再び歩きだした、徐々に振動は強く気になるほどに……。

「ピューィ!」

土竜の警戒音が、微かに聞こえた、

「近い……、」

息を整えると、加速の魔法を唱え。走り出した、



━━足場の悪い場所ながら軽快に走破し一気に駆け抜けた。突然視界が広り。広い空間に飛び出した。



「ピー!」

眼前の下方で、軽快な動きを見せる土竜が、縦横無尽に人喰いワームを翻弄していた。

「あれが暴君Jr.……」

初めてみた真っ白い体毛の土竜は、ワームの体液でまだら模様になっていた。素早く辺りを見回して、下に降りる道を探しながら、周囲の地形を即座に把握した。



白い毛皮……、土竜の多くが茶色で、白い毛皮の土竜を、アルビノと呼ぶ希少種で、非常に頭が良いと知られていた。Jr.は、鋭く頑強な前歯で、何匹目かのワームを倒した、自慢の白い体毛は、ワームの体液で汚れたが、まだまだ戦える。

━━暴君Jr.は、普通の土竜より小さい為。誤解されがちだが、成土竜である。


━━人間は、嫌いではない、でも素直に言うことなんて聞きたくなかった……、


━━偉大なる父の友程の人間なら、契約をしてやってもいいが……、暴君Jr.は飢えていた、自分は強い。強い。なのに……と、憤りを感じ暴走したのだ。

だから……、ワームの巣を襲い、一匹で戦い、殲滅したら……、そう思うだけで、四肢に力が入り。たかがワーム、俺の歯で、爪で倒せる。そう考えていた。


ズン!


ワームの体液の匂いを敏感に感じ、食欲を意識した、はぐれワームは、いつの間にか、身体の上に乗ってる。岩を一気に砕いた、


「ピューィ!」

一瞬。空に投げ出された暴君Jr.は、真下を見た。ワーム数匹を一口で食らった、黒い巨大なワームの姿を……、

警戒音で鳴きながら、降り注ぐ岩を避けつつ。慌てて距離をとった。



ワーム達も黒い、巨大なワームに、反撃するが、意に反さず。悠然とワームを喰らう光景に、オーラルは目を細め身構える。……あまりのこと……、暴君Jr.は恐れ。助けを求め鳴いた。


オーラルは咄嗟に土竜笛を口でくわえながら。下に飛び降り鳴らした。

━━その時、微かな、土竜笛の命令が聞こえ。

″後ろに数歩下がれ゛

暴君Jr.は咄嗟に従って下がった瞬間。ドカリ瓦礫が眼前に落ちていた。

「よっと、生きてたか」そいつは暴君Jr.の傍らに降り立ち、気遣う声をかけてきた。目の悪い土竜は、鼻先にあるサーモセンサーで、人間と認識する。

……見たことない人間……、ん?、

ふっと微かに、懐かしい、匂いをかぎとる。人間の右腕からだ……。

「流石に、気付かれたか……」

あれだけいたワームを、全て食らいつくした黒い巨大なワームは、巨大な鎌首をもたげ。強力な酸を含む涎を足らした。そして……、オーラル達を喰らうため。猛然と迫り来る。


オーラルは、素早く強弓を構え、残った矢を放ち、素早く魔法を唱えた。「因子を解き放つ、業火の矢(ブレイズアロー」

山なりに放たれた矢は、黒い巨大なワームに当たる直前。爆発して、火炎を撒き散らした、油分の塊であるワーム。そのワームを喰らうはぐれワームは、同じく豊富な油分を体に蓄えてるため。炎から本能的に逃げた。



やはりな……、そうするとあの罠が役に立つな。ほくそ笑み土竜笛で、

゛作成開始、あいつを引き付ける。手伝え″


「行くぜJr.!」

「ピーイ!」

思わず。嬉々と返事をしてしまい、ハッとしたJr.は戸惑う……、何故かこの人間は懐かしい……、逆らいがたい気持ちを抱いた。あの手甲は……、今だけ、今だけだ、手を貸してやる!、



人間に並走するように、暴君Jr.も走り出した……、僅かな喜びを感じながら、



迫る。はぐれワームの体当たりを、的確に見切り。正確な命令で暴君Jr.は避けた……、右に、左と、Jr.は段々この遊びを気に入り楽しくなり始めていた。

徐々に嬉々として、オーラルの命令に従うようになって。

゛今!、右に飛べ゛

「キューイ!」

避けた瞬間━━━。



ガッガガガガガ……、

岩盤を削り取り。小石が毛皮を掠めた。ゾクゾクするような恐怖。巨体が擦れる。身の毛のよだつ音が迫る。

それでもオーラルは、はぐれワームの動きを、全て読み切り。ギリギリでかわす信頼感。右に。左に。紙一重のタイミングで……。


まるで鬼ごっこである。子土竜は、鬼ごっこが大好きで、勿論Jr.も誰にも負けない自信があった。土竜は、洞窟内を低く。跳ねるように走るため、一歩が大きい、だが傍らの人間は、余裕で並走していた、尚且つ。

「因子を放つ。大地のジャベリン

はぐれワームが、再び目的を見失い、洞窟の壁に当たった瞬間……。砕いた岩盤から、はぐれワームの身体を貫く、岩の槍が伸びた。凄まじい怒りの咆哮。皮膚が、泡立つ程の恐怖が、とてつもなく楽しい!。

「暴君Jr.愉しいな」

突然、同じ思いをしていたと人間は言った。何を言うのだこの人間はと……。呆れを抱いた時。

「お前がいれば、俺はアイツを倒せるからな!」


━━ドクン……、


━━ブルリ……、


毛が粟立ったような感覚。はぐれワームを見た時に受けた、恐怖とは違う……、強い歓喜が……、身体の内から溢れ……、そう……、まさに総毛立った。


……そうだ……あの手甲。あの匂いは……、……忘れる訳がないではないか、あれは偉大な父の爪だ、まさか……こいつは?父が認めた、人間なのか……?、そう考えた瞬間。不安や不満は霧散していた、



歓喜を持って、

゛左に避けて、一撃゛

人間の命令に従っていた。


やがて……、はぐれワームの怒りの咆哮は、段々弱々しくなり始め━━。



我がパートナーは、悠然と立ち止まり、槍を構えていた。はぐれワームは、本能で迷うが、最後の力を持って、喰らいに来た。このまま喰われるのか?。僅かな恐怖に暴君Jr.は、

「キューイー!?」

人間を……、いやパートナーの信頼を選んだ。

「大丈夫……、俺を信じろ」

息を飲んだ、視力の弱い筈の土竜なのだが。はっきり見えた気がした、優しい笑みが……、



━━瞬間、はぐれワームの身体が、宙で動きが止まっていた。オーラルが仕掛けた罠が項をそうした。無数のロープに辛めとられ、はぐれワームの動きが鈍る。鉄を織り込んだロープを張り巡らせていたのである。いかな凶暴なはぐれワームとて、そうそう抜け出せない、オーラルは魔力を込めた槍を、黒ワームの口内に投げ込み、素早く離れた、

傍らには、信頼の眼差しをオーラルに向ける暴君Jr.が従う。



ブチブチブチ、ロープの切れる音。怒りの咆哮で、洞窟内はビリビリ振動する。このままでは崩落の危険がある。

「因子を解き放つ。爆炎ボム

爆音と砂ぼこりが、オーラルの隠れていた。場所まで届いた。

もう一本の槍を組み立て、1人と一匹は、砂塵が収まる中………、はぐれワームの様子を見に行く。

「ピューイ!?」

洞窟を埋め尽くすような、巨体を横たえ、頭部を失った、はぐれワームは……、死んでいた、

「やれやれ……、ワイバーンより厄介だったな」

嘆息していた、傍らを見ると。暴君Jr.は、何かを待つように、静かにオーラルを見ていた。

「Jr.ご苦労様。助かったよ」

優しく首筋を撫でられ。喜びにうち震えた。ついに見付けたよって、

「ピュー!、ピュー!」嬉しそうに何度も鳴いた。



━━━数日後……、


オーラルは、オリベ老に呼ばれて、土竜達の世話を終えてから。厩舎に向かう、するとゲルマンとJr.がいた。

「ピュー♪、ピュー♪」甘えた声を出して、オーラルにすり寄ってくるJr.。これには些か、複雑な、表紙を浮かべるゲルマンだ。オリベ老と目が合うと、小さく、寂しそうに笑う。

「オーラルや、先日は苦労させたな……」

改めてお礼を述べられ、照れ臭そうに笑みを浮かべて。

「気にしないで下さい……、俺は出来ることをしただけです」

右目を隠すような仕草を見て、二人は顔を見合せて。優しく笑っていた。「お前さんは、暴君Jr.に認められた騎士だ……」

「……今、なんと?」

唐突なこと言われて、戸惑いより狼狽を浮かべる、そうだろうなとオリベ老も頷き。だが構わず、ゲルマンを見やると、意を決意したゲルマンは唇を噛み締め。複雑な顔をしながら、一つの真新しい。赤い手甲をオーラルに手渡した、

「これは……、」


驚くのも無理はない、オリベ老は、Jr.の爪を見せて、語る。

土竜どりゅうは、自分の認めた者に、己の爪を与える……」

厳かに、とても大切なことを語ってると感じ。耳を傾けた。


━━いつの間にか、助手や見習い達が手を止めいた。

「土竜騎士とは。土竜の信頼を受け、生涯の友と認められた者……、家族と認められた証を、得た者の称号である」

初めて知る話に、自分の右手にある。土竜騎士の証たる。赤い手甲に触れていた。

「まさか……」知らず知らず。肩が震えた……、

「生涯騎士は、一匹の土竜と共に生きる。だが、希に一匹の土竜が、複数の者を認めた例もまたあった」

オリベ老は静かに呟き、ゲルマンは懐かしそうな、ほろ苦い笑みで、オーラルの年期の入った赤い手甲に触れた。

「オーラル……。お前は、生涯Jr.の騎士として、友として、家族として、生きるか?」

様々な思いに溢れる涙を噛み殺し。オーラルに迷いはない。

「我が、友として……、我が家族として、生涯1人と一匹は………」

オーラルは誓う。オリベ老とゲルマンの二人もそっと目を拭っていた。




━━20年前。ハウチューデン家━━━。


「オーラル、お前は生涯騎士として、生きるか?」

幼きオーラルは、小首を傾げながら、

「僕の友達なら、誓います!」



━━━現在。

「ふっ………ふははははは、ふははははは」

珍しい事が起きた。オリベ老の爆笑と言う、あり得ない事態に、戸惑う一堂。

「まさか……もう一度、同じ言葉が聞けるとはな」

感極まったゲルマンは、涙を拭う。

「お前なら、良い土竜騎士になるだろう……」




━━━20年前……。


暴君と呼ばれる。特別な土竜王が居ました。人間から暴君と呼ばれた彼は、


強く。頭がよく。気高い━━、


白毛の土竜でした、

しかし彼は、人間を嫌っていました。バカな人間は、餌を運ぶ。ただの奴隷……、暴君ぼうくんはそう思って、生涯生きる。そう決めていた、リブラと言う人間に、出会うまでは━━━、



暴君は、やがてリブラと契約を結んで、彼だけを信じる土竜となったのです。


そう━━それだけのはずだった、リブラの子供オーラルに出会うまでは……、



土竜は、人間に爪を与えると、生涯その爪だけは生えなくなる。だから土竜が、爪を与えるのは、とても神聖な行為とされていた。

何時からかその行為は神聖なものとされ。土竜使いは、騎士と呼ばれるようになっていた。

そう………、

女王より、剣を賜る。騎士の如く、



暴君は、幼く、気高い子供の人間を認め。人間を愛することに決めた。


オーラルが最後に、ターミナルで、父を見送る日。暴君はいかなることがあろうと、2人の友を……愛すると違っていた。そう……それだけの物語は……、


━━━現在。

大洞窟。北の大陸入り口付近。身体中傷だらけの白い毛皮、片目を失った、巨大な土竜は友と2人、曇り空の下で。快走して、逃げに逃げていた、それはまた━━別の話である。




━━━数日後━━。

Jr.や他の子土竜達の世話をしていたオーラルの元に、ケレル殿下から、『地の試練を、見事終えたと認める』との手紙が届き、その日の内に、出迎えの馬車が用意されていた。



詳しく書かれていないが、オリベ老がはぐれワームを倒した事を。知らせた節があり、評価されたのだろう……、


━━次の試練のため、オーラルは、王都カウレーンに戻る。



馬車は、都に入ると。真っ直ぐ東の大通りにある。アレイ教の大聖堂の前で止まった。

馬車から降りると……、「オーラル!」

慈愛に満ちた、優しい声が掛けられた。

「エレーナ母様……?」オーラルの驚きに満ちた顔に、にっこり嬉しそうに微笑む姿。エレーナ大司教様の変わらぬ優しい笑みは、無垢な少女のようでいて。優しい母を想像させていた。彼女こそアレイ教のトップ。大司教様であるエレーナ・シタインであった。

満面の笑みで、いきなりオーラルを抱きしめ。我が子を心配してた母のように、顔を掴み、じっと目を見つめると。「まあ~、オーラルから、そう呼ばれると、懐かしいわね」

コロコロ楽しそうに笑い出すから。思わず恥ずかしさと懐かしさに胸が熱くなる。

「こうして話せるのは、何年振りかしら?、せっかく孤児院にいても会いに、来てくれないんだから」

ちょっと避難するように。口を尖らせるエレーナ大司教に。オーラルはばつが悪そうに右目を隠すと、エレーナ大司教は楽しそうににっこり微笑を称え。

「あらあら困ると右目を隠す癖。昔のまんまね」

コロコロ鈴を鳴らすように笑うのだ、たくさんの信者が、エレーナ大司教の笑顔に、嬉しそうな顔を向けていた。

「エレーナ母さ……、じゃなくて大司教様」

オーラルに釣られたか、間違えて母様と呼びそうになり、真っ赤になる少女を、優しく見つめながら、微笑むと、

「リーラは……、母様と呼んでくれないのかしら?」

片目を瞑り、悪戯ぽく笑われてしまい。余計真っ赤になりながら、

「……意地悪です」

うっすら涙ぐむリーラはむくれた。頭に付けたケープの色から、彼女は侍祭じさいのようである。


アレイ教では、

大司教を筆頭に、司教、司祭、侍司祭、侍祭、見習い(シスター)と階級がある。侍祭とは聖なる魔法、癒しの魔法を使える者。聖フロスト騎士団に所属していることを意味していた。「ここで話すのも人目があるし。貴方の部屋に案内するわ」

エレーナ大司教直々に部屋に案内されると言う。戸惑うオーラルに構わず。昔話をされてしまい、恥ずかしい思いをしたが、話したりないエレーナ大司教は、荷物を置いたオーラルを引きずり。食堂に連れてくるや、オーラルの話を聞きたがるわで……、

騒がしい姿は、昔のままである。程なく数人の司教に抱えられて、連れ戻されてくのを苦笑を滲ませ。見送っていた。

「……はあ~、エレーナ母様にも困ったものです」

苦笑を滲ませ癖なのか、大きさのあってない、丸眼鏡を直すリーラ侍祭に、不躾とは思ったが、

「もしや孤児院の?」

オーラルの質問に、やや顔に緊張を漂わせ。

「はっ、はい……」

「成る程ね」柔らかく笑うオーラルを、戸惑いながら、チラチラ見てたが、自分の手を握り、一瞬迷いを見せいたが意を決めて、

「オーラル様は、母様とは?」

よっぽど気になってたのか、真剣な眼差しだ、だから優しい笑みを向けて答えた。

「俺の父は、孤児院の出でね。母は侍司祭をしてたんだよ」

オーラルは懐かしそうに答えた……、いつも適当な父が、エレーナ母様の前では、子供のようだったな~と。いつしか姉やオーラルもエレーナ母様と呼ぶようになっていた。

「オーラル様は……、アレイ学園の『特待生』だったと母様から聞いてました、自慢してましたよ?」話を聞き終え安堵したのか、そっと教えてくれた。にっこり笑うと、エレーナ母様にとても似ていた、


……本当は……、孤児院で、先生をしてた時……、

━━何度も会いに行こうとしたが止めた。

だって……、甘えてしまいそうだったからだ。

オーラルが一瞬暗い面差しをしたのをリーラは直ぐに察して、優しい笑みを浮かべていた。

「本当は……、言わないつもりでした……」

真っ直ぐな瞳を、真摯な気持ちでオーラルに向けて、握ってた手を開き。

「エレーナ母様は……、オーラル様が、来ない理由……わかってましたよ。だから……余計に嬉しかったんだと思います」虚を、突かれた気持ちでリーラを見ていたが、彼女の優しい気持ちを汲んで、微笑していた、この人はなんて優しい人なんだと、

「ああ~そうだった、エレーナ母様は、何時だって、気付いてたな……」

オーラルの優しい吐露を聞いて、思わずうっすら涙していた目を拭うリーラに、小さく礼を述べた。



━━落ち着いたリーラ侍祭から、ケレル殿下の試練について、詳しく話を聞いて、一つ頷いた。


アレイク王国には、国内に三大図書館と呼ばれる施設がある。フロスト騎士、またはアレイ教の侍祭以上の教団の者しか入れない特別な図書館が、アレイ教にはあった。はるか以前。戦争で失われた昔の技術等。様々な古書が仕舞われている。

様々なことをより深く、学ぶことをオーラルは求められてると知った。



大聖堂の図書館にある蔵書は、主に過去の政治、諸外国の治世。様々な建築知識。技術者の為の専門的な本が多い。珍しいところで、各大陸で、主に生産されていた品など、あまり目にすることが無い本ばかりである。今日は、早い就寝を取ることにして、明日から勉強することに決めた。



━━━翌日。早朝。


見習い(シスター)に聞いて、若いフロスト騎士の見習いが、訓練に使う中庭に降りて、見習いに混じり、身体を動かした。興味本意の見習いに、訓練を挑まれ。オーラルは快く受けた。

一通り手合わせが終わる頃には、見習い達と打ち解け、一緒に朝食を取り、談笑する姿をリーラは驚きながら見ていた。



朝食を終えて直ぐに。リーラと共に図書館に向かい。早速手近な、『建物様式』『年代順年号』等、やたら分厚く、眠くなる本から目を通すことに……、

とても地味で、経験したこともない、苦行に……、生まれて初めて、挫けそうになるオーラルだった。



何とか間違えず。年代順を覚えて、建物様式なんて興味無いものを記憶出来たのは、半月後である。

それから毎日━━苦行を続けること二月。本の虫になるのではないか?、変な杞憂を抱えていたある日のこと………。エレーナ母様から、急ぎ来るよう呼ばれた。



━━久しぶりに会うエレーナ母様は、やつれ……、疲れているように見受けた。

「オーラル、貴方が元気そうで何よりです……」「エレーナ様、まだ起きては!」

突然リーラが、真っ青な顔して飛び込んで来た。いささか驚き、エレーナ母様を見ると、ばつが悪そうに、顔をしかめていた。

「リーラ……、用が終われば戻ります。今しばらくお待ちなさい」

強い口調で、凛とした表情は、今はエレーナ母様ではなく、エレーナ大司教と言う立場。重責を背負った者の威厳ある眼差しに、リーラは顔を青ざめさせたまま口をつぐんでいた。

「オーラル、貴方が土竜騎士として、選ばれたと聞き及んでます。本当ですか?」何か重大な出来事が、自分の知らぬ間に起こってると、直感で感じ静かに頷く。

「はい、エレーナ母様……、一体何があったのですか?」

嫌な予感がした、自分が図書館にこもってる間に何が……、

「オーラル……、子供達を助けて下さい……」

今までの威厳など、かなぐり捨てて、涙ながら1人の母として、エレーナ大司教……、嫌。

孤児院にいる。全ての子供達の母である。エレーナ大司教は語り。ただオーラルは快く。了承していた。



オーラルはその足で、すぐさま馴染みの商人に、商隊をターミナルに向かうように伝え、オーラルは、フロスト騎士が用意してくれた馬を借りて、見送りに出たエレーナ母様に声をかけるべく、笑みを作ったところ、「お待たせしましたオーラル様!」

リーラが、旅装に着替え、メイスを手に現れた、完全に虚を突かれた、エレーナ大司教とオーラルに構わず。

「さあ!オーラル様、早く行きましょう」

鼻息荒く、言い出して、酷く皆を慌てさせた、エレーナ大司教の説得にも、ガンとして首を縦に振らずしまいには、

「オーラルお願いしましたよ」

匙を投げた、顔をひきつらせながらも、連れてくしかなくなり、リーラを抱えるように、馬に乗せ。走らせることになった……、



━━途中。何度も休憩を入れたが、ターミナルまで数日掛かる道のりを、フロスト騎士団の駐屯地で、馬を乗り継ぎ、僅か1日で、ターミナルまで向かう強行軍。足と腰の痛みに、涙目のリーラは、泣き言一つ言わず、頑として付いてきていた、何故こんなに頑固なのか、心配よりも呆れるばかりだ。



ターミナルの街受付で、見覚えのある見習いがオーラルを待っていて、こちらを見つけるや、挨拶もそこそこに。

「オリベ老から伝言です。此方の準備は万端だから、直接土竜馬車乗り場に向かうように。とのことです」

「わかった、オリベ老に、次来たら酒を持ってきますと。伝えて下さい」 最近年のせいか、医者から、口煩く。飲酒を止められてるとオリベ老は、何時も不機嫌だったと、この見習いから聞いたことがあった、

「オリベ老、きっと喜ぶよ」ぼくとつとした笑顔に見送られ。2人は地下に降りた……。



巨大な洞窟内━━。

土竜ファームのある駄々広い場所とは違い。ターミナルと言う名の真意を、オーラルは知ることになる━━。



ターミナルの街は、巨体な洞窟の入り口に作られた街で。地上部分は交易目的の商会所が沢山あり。宿屋や歓楽街が作られた交易の街である。

━━しかし街の本当の姿は、地下部分にある。



オーラルが、以前来たのはファームのある街外れだった。土竜ギルドがあるのが、大洞の前に並ぶ駅舎の中にあった。

今日も駅舎には、沢山の土竜馬車が荷を下ろされ、また積まれる作業がなされ。馬車が並んでいた。



━━巨大な駅舎の一階。ギルドの受付があって、書類の申請。土竜騎士の登録等もされる。何より大切な身元を保証するために必要な手続きであった。ギルドの受付に名を告げると、駅員は名簿を広げ目を見張る。

「貴方が、あのリブラ・ハウチューデンの……」駅員の声に、古参の土竜騎士は手を止めていた。「オーラル・ハウチューデンです。急ぎの連絡がありましたよね?」

惚けたままだったギルドの駅員は、ガクガクと首肯しながら、

「1番駅舎で、馬車の車両は準備されてます」

それを聞き安堵の息をリーラが吐いた。

「おいリブラの息子!、仕事が終わったら、顔出せよ」

1人が言えば次々に言葉が掛けられ。背を叩かれた。つ~んと鼻の奥に痛みを感じた。若輩者のオーラルを、仲間として、受け入れてくれたのがわかったからだ。



2人が、1番駅舎に近付いてくと。オーラルに気が付き。

「キューイ、キューイ!」

喜びの声を上げる土竜が、真新しい頑丈な、一番大きな馬車が付けられ、待っていた。

「Jr.お待たせ、頼んだぞ」

「キューイ━━!」

任せろと鼻息も荒く胸を張った。

「あっ、あの……」

ここまで疲れで真っ青な顔ながらも、気丈にしていた。リーラだったが、迷いながら、Jr.の前に行くと俯いていた。いささかJr.が訝しげに鼻っ面をリーラに向けていた。

「Jr.さんお願いします!。弟や妹たちを助けたいの……、ぢからを貸してぐだざい」ボロボロ泣き出したリーラ……、その時オーラルも彼女の気持ちに気付いた。張り詰めた物が、氷解したのやもしれない……、



最初こそ戸惑っていたJr.だったが、

軽く、リーラの顔に鼻を押し付け、小さく鳴いた。

まるで任せとけと言わんようにだ。

オーラルは、気合いを入れるため、顔を叩き、それから、古びた赤い手甲を右手、新しい手甲を左手に着けて、手綱を握っていた。リーラには馬車の中で、休んでるように言い含め早速。出発した、

大洞窟に向けて……、




一月前……。

王都カウレーン。



西通りの広大な敷地に、アレイ学園はある。

一年に一度……、春の行事として。入学式から二日目、

一般の客が入れられ。お祭りが行われる。苦学生の食費稼ぎや、近隣の商人が屋台を出しり、西通りの若い職人達が、小物を売り出す。勿論孤児院からも、自分達が作ったビーズ飾り、畑で作った野菜等を売る。



賑やかな笑顔。沢山集まる子供達に混じり、一目で双子と判る兄弟が、屈託なく、様々な屋台を冷やかしては、店主の眼を盗み、白い粉を、料理に振り掛けては、

「楽しいなグラベル」

「楽しいねグラム」

まったく同時に発された言葉、声まで同じでは、注意深く見ても、判らないほどで……。

それほど双子は見分けが付かない、だけど屈託なく笑う顔に釣られて、愚かな大人が隙を見せる。二人はその隙に。食べ物。飲み物に……、病原菌を培養して作った粉を振り掛けて回った━━、

時間が経てば。病気を誘発するだろうと。楽しみにしながら……、二人は笑う。毒の粉を、振り撒きながら。一切の悪意すらなく……、

「これが上手く行けば、魔王は喜ぶかな?」

「上手く行くから、魔王は喜ぶよ」

双子は、屈託なく笑いあった。死の粉を振り撒きながら、まるで二人は遊んでるよう。笑い会う。



━━━翌日から……。原因不明の病気が……、広まり出した。

最初は単なる咳だった……、



━━迷宮に降りてから、Jr.に全てを任せ、馬車は南西に向かった━━、




後日……レゾン王の元。城下で蔓延し始めた。謎の病を知り……、早急に調べるよう宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバ内々に命じた。



即日ケイタ自ら。調査隊を率いて調査を開始。

ケイタは過去の伝染病から、王宮図書館にある。叡知に記された資料を調べたが……、砂漠で麦を探すほど……困難を極めた。更なる詳しい病状を調べる為に。医師の意見を聞いたが、ようとして原因すら分からなかった。



そして……、恐れていたことが現実になった。最初の犠牲者が出てしまったのだ……、自分の無力さにうちひしがれ……。苦悩に落ち込むケイタは、疲れた身にむち打ち。ながらも死者の増加に、恐れを抱き。悪い報告を受けた。

「ケイタ様……、やはりこれは……」数多の叡知刻む文献の中から……、アレイク王国を襲う。病を調べていた部下らも同じ意見があった。

「何者かの悪意を感じる……、ただの病ではないのか?」

親指の爪を噛んだ……。

「ん……、待てよ?」

ハッとした。オーラルのことを考えた瞬間。琴線に引っ掛かるある言葉を思い出したのだ。

「もしかしたら……」

患者が発見されてから10日が過ぎた頃である。

自分の考えが正しいか、さらなる詳しい症状を調べるため。ケイタは何人者もの遺体を調べさせた。そして……ようやく決定的な症状を見つけたのが……、病が発症してから一月近く過ぎていた……、



━━アレイク王国を襲ったこの病は、南大陸ファレイナ公国内の山岳地域に住む。ラッカルと名の山ネズミが持つ、病原菌で……、潜伏期間は短く。長くても半月。発病すれば咳をする。数日で高熱を出し、昏睡して。意識が戻らずそのまま死ぬと言う。

通称眠り病と知られる不治の病とされたが━━、



十年前━━ラッカルを好物とする。大型の牧羊犬に、抗体があると発見された………。ファレイナ公国では、比較的簡単に薬が手に入ると調べあげたのだ。



その昔━━ファレイナ公国の若い学者は、ラッカルを好んで狩りをする牧羊犬が、山岳地域にある温泉を好んで飲んでることを突き止めた。ほとんどありふれた普通の温泉なのだが……、多く含まれる成分に気が付いた。それは鉄分……、ラッカルが引き起こす病とは、全身の鉄分が失われ。熱が引くまで、体内は排出し続ける……、するとどうなるか、意識を失い。脳の血管が破裂……。死に至る。

今ではその温泉を精製して薬が作られ。さらに予防薬まで作られた。もはやラッカル病に掛かる人は少なくなった。



ケイタはミザイナから、たまたまその話を聞いてたのだ……、

即座にケイタは国王に知らせ。アレイク王は、命じた国内で、その薬を輸入してるか調べるようにと……、しかし輸入していた商会は、皆無であり、報告を受けたレゾン王は、直ちに船団をファレイナ公国に差し向けた……、



ところがだ……、

季節外れの巨大な嵐により、船が、動かせないと言うのだ。そこでエレーナ大司教は、ターミナルの街にいる。土竜騎士ギルドに依頼した……、


だが土竜騎士は、契約により動くため急な荷を運ぶには、難しいと思い知らされた……、苦悩のエレーナ大司教を救ったのは、宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバであった。

「エレーナ大司教様、噂では、オーラル先輩が……、土竜騎士に選ばれたそうです」

子供のように泣きじゃくる。エレーナ大司教の手を握り。静かに語りかける。


直ぐに……、人の……、貴族の目があるからと、素知らぬ風を装い、何事も無かったように立ち去った。エレーナ大司教は、泣き笑いのまま、ケイタの背を見送っていた。そして……、大地の女神アレに。感謝の祈りを捧げた。



オーラルは、何度か目になる加速の魔法を。Jr.に掛けた。風のベールで、馬車を強化する傍ら。耳を傾けると微かにリーラの寝息が聞こえてきた。魔法で馬車内の温度を調節するのも忘れない。



土竜馬車とは、馬車と言うには長細い形をしていた。ターミナルでは車両と呼ばれている。連結させると六両までの運行可能だが、時間を考えて、一両にしてくれたようだ、車両の内部は、2人掛けの据え付け座席が、縦に3つあり、小さな、小窓が左右備え付けられる。中から弓を射るための小窓で。少々の事では壊れないよう、扉。足回りが、鋼で補強されていた。固い座席だが、疲れが出たのだろう、外套を枕に良く寝入ってた、



━━━半月前、アレイク王国。


ファレイナ公国=大使館━━、

大使ミザイナ・アルタイルは、大司教エレーナ・シタインの要請を受け、本国との交渉に乗り出した。その日の夜には、良い返事を得られたので。ケレル皇子、エレーナ大司教に伝えた、王はすぐさま近衛連隊の誇る。高速艇を出すよう命じたた。



10日は掛かる。海路を高速船は、数日で、ファレイナ公国に到着との一報が、本国より届いた。

「流石は、アレイク王国が誇る高速艇……凄いものだ」

感心した、これならばワクチンも数日で届くだろうと。ミザイナも安堵した。



━━同時刻。西大陸。

元魔導王国レバンナ=現パレストア帝国。


━━王座の無い、会議室……。重鎮が召集されていた、ゼノン宰相、魔王ピアンザの前に、双子がにこにこ人好きのする笑みを浮かべて立ってた。

「どうかな~上手く行ったよ」

「上手く、行ったね~」

同時に話し出す。

「ゼノン?」

魔王ピアンザの問いに、小さく頷きながら、

「双子の策は、上手く行ってるようですな、アレイク王国の近衛連隊長自ら、高速艇にのられてると連絡がありました」

これは好都合である。わざわざ重鎮が、国を空けてくれたのだ、ピアンザは浅黒い顔を精悍に引き締めて、

「ラグラド、ギラムに、例の策を実行せよと伝えよ。ランバスターには、直ちに北大陸の進軍開始を伝えよ」

「はっ!」

命令を聞き、宰相自ら動き出した。

「グラベル、グラムよくやった!、流石は俺の誇る。六将だ」

優しい笑みを双子に向けた瞬間。二人の顔がほんのり赤くなり。嬉しそうにはにかむ、

「………時に、確か二人は……、天候を操る魔法が、得意だったよね?」魔王は、暗躍する……。



━━━7日前。



━急激な天候不良━━━。

いかな高速艇とて、戻ることは敵わない。急を知らせて来たのは、出発が予定された今朝の事……、季節外れの嵐が突如と始まり、外海は荒れていた。



いつ収まるか……、見通しがたたないとの一報に。ケレル皇子も、エレーナ大司教と同じく。すぐさまターミナルの土竜ギルドに、土竜馬車が出せないか打診する。

ほとんどの馬車が、大洞窟内にいるため、厳しいとわかり、歯噛みした、エレーナ大司教がゆっくりと立ち上がり、居並ぶ国王、皇子、重鎮を見回して、憔悴した顔に強い光を宿した瞳を瞬かせて。

「皆さん……、オーラルに頼みましょう」

「オーラル?、エレーナ様オーラルとはあの『オールラウンダー』の試練を受けている?」

訝しむケレル皇子に、疲れの隠せない、エレーナ大司教が優しげに微笑んでいた。

「先日の試練で、土竜に選ばれ、土竜騎士になったそうですよ」

「なんと!、それはまことですか」

同席していたカレイラ准将も、知らなかった話のようである。

「カレン・ダレス財務官。君の所に、その情報は来てるかい?」

財務省のトップである、ダレス家は、ターミナルの管理者でもある。

既に、シルビア=カレン・ダレスは、部下の1人を呼び。書類を持って越させていた。ターミナルの土竜騎士は、ギルドに名前を載せることになっていたので、

最新のページを見ると直ぐに分かる。そして……ページをめくり指で名をなぞる。オーラル・ハウチューデンの名を見付け、一瞬驚き。眉を寄せた、

「皇子こちらを…」

ギルド名簿を見せた。日付は今朝である。

「エレーナ大司教、確かに……、彼の説得頼めますか?」

「承知いたしました」早々に立ち去る大司教を見送り、一同は安堵の吐息を吐いた。

入れ替わるようにケイタ・イナバ筆頭が入室してきた、チラリシルビアは、一瞬、射るように夫を睨み、拗ねたように唇をすぼめる。ケイタは小さく苦笑したが、素知らぬ顔で、席に着いた。


そう……、ギルド名簿に、新しい土竜騎士の欄に、名前を書いたのは、他でもない、ケイタなのだ。敬愛するオーラルのため先に手を打ったのだろう……、



━━━ファレイナ公国=大使館。ミザイナ・アルタイルの元に、ケイタ・イナバから親書が届いた。

『我らの親愛なる友、貴国に向かう、助力請う』

思わず。笑む。

「ようやくだなオーラル……」急ぎ、本国と連絡取るため。ミザイナが動いた、



━━━3日後。

南大陸ターミナル、駅舎に、轟音を上げて、一台の土竜馬車が到着したのは。真夜中のこと………、


駅舎で待機していた。近衛連隊隊長セレスト・ブレア自ら、薬の荷を積みを手伝う。

降りてきた青年の眠そうな顔に。深い疲れが見受けられた。

「貴殿が、オーラル・ハウチューデンか?」

いかにも武人らしい、ぼくとつとした、ブレアに、

「そうです。荷の積み込みが終わり次第。急ぎ戻りますので、この場で失礼いたします」

挨拶もそこそこに説明していた。無論そこは理解していたので、うむとおうように頷いた。その間も駅舎に常駐する。土竜師から、沢山ワームの肉を与えられて、すっかりくすんだ毛並みのJr.は、疲れを感じさせず元気に。食べ始めた。

「うむ、頼んだぞ!」

固く握手を交わし、休憩も早々に。暴君Jr.は再び、大洞窟から地下迷宮に降りて、再び長い旅に出て行く。近衛連隊長自ら。駆け抜ける土竜馬車を見送り。敬礼した。



━━━3日後。



━━東ターミナル駅舎。轟音上げて土竜馬車は、駅舎に到着した。疲労困憊のオーラルだったが、身体にむち打ち。疲れが見える大切な仲間で、友の首筋を叩き。

「Jr.ご苦労様」

「キューイ♪」

誇らしげに胸を張た。長旅の疲れと心労でやつれたリーラだが、足取りもしっかりと、荷下ろしを手伝っている。「オーラル君。あとの事、ギルドが請け負う任せなさい」

僅か7日足らずで、南大陸間を往復したと聞いては、沢山の土竜騎士が、荷下ろしに名乗りを上げてくれたのだ。若造に負けては要られないと。

「お願いしました」

事務手続きを済ませ。小さく吐息を吐いた。

━━外ではすでに。商隊と護衛のフロスト騎士団が、何時でも出発出来る準備を整えていると聞いたからだ。



オーラルは知り合いの商人を見付け、目が合うと、恰幅の豊かな身体を揺らし、胸を叩いた。


二人は沢山の商人が、馬車で、馬で、王都カウレーンに向ける様子を見送った。



━━その日。オーラルとリーラは、オリベファームで身体を休め、それから王都に戻ることにした。



翌朝……。日も上らぬ早朝……、どうも寝ていられず目覚めた二人は、自分たちが乗って来た馬で、帰ることにした。

途中馬を休ませながら。街道沿いの町に立ち寄っていた。無論様子を見る為もあったが……、オーラルが苦心して運んだ薬は……、病に苦しむ民全てに届けるには足りない。重傷者の多い王都に運ばれたのだ……、



たまたま寄った町では、ほとんどの馬車、馬が、患者を運ぶために駆り出され、残された重症の患者は、街の教会に運ばれていると聞いた。

「ありがとうございます!」

酷い容態の子供を抱えた夫婦は、オーラル達が乗っていた馬の前に飛びだして、すがり付いてきたのだ。訳を聞いた二人は快く。自分たちの馬を提供していた。ついでとリーラが、アレイ教の侍祭であると伝え。妻の腕に抱かれていた幼子を診察したリーラは、癒しの魔法で熱を下げ、瞬く間に表情が和らいだ。

「あっああ~、リーラ様、オーラル様、このご恩忘れません」

優しく子供の頭を撫でるリーラに、若い妻が涙ながら感謝を述べた。リーラは気丈にしていたが、彼女も不安なのだ………、

二人は夫婦を見送り。それから徒歩で、王都まで戻ったのだが、それから数日を要した。



━━立ち寄る村、町では……、情報が錯綜していて、様々な噂に、眼を曇らせる。

━━それは体調を崩したリーラの不安が、余計にそう思わせただけかもしれない。翌朝熱を出したリーラのため。村の宿屋で休むよう言ったが、頑として受け入れず。オーラルが呆れるほど無理をして歩いた。



王都が徐々に近付くにつれ━━リーラは、口数が減り、考え混む時間が増えていた。

「リーラ……、今度家に遊びに来ないか?」

「えっ?」

戸惑うリーラに、柔らかく微笑しながら、木陰で休んでるとき提案していた。半分は気休めと先の何気ない約束をすることで、気持ちを強く持てるようにとの配慮であった。

「家は、母さんと姉さんだけでさ、親父は………、土竜騎士だったんだが、今は行方不明で、だから母さんの夢だった、俺が土竜騎士として、活躍した話をして欲しいんだ」

「あっ……」

こうして病以外のこと話すのは、久しぶりな気がした。ほんのり理解の光を目に宿してリーラは、小さく頷いた。

「オーラル様……、今思うと、私凄いことしたんですよね。街からほとんど出たことないのに……、南大陸まで、行ったんだよね…………。大丈夫かなみんな……」

ぽろぽろ堰をきったように涙する顔を見た。オーラルは、突如背中を向けたから、少し驚いていると。

「リーラ良かったら使う?」

ちらり此方を悪戯ぽい笑顔を向けられて、なんとも困った気持ちになって、無理にでも笑おうとした……、でも彼は……、

「うゎああああん!

体当たりするように、オーラルにしがみつき、リーラは泣いた。




不安……。リーラの胸中を考えれば、足早になるのも仕方ない。二人は重い足取りで、城門をくぐり。アレイ教大聖堂の前に来ると、それはそれは……、沢山の子供の笑い声と母親の笑顔が溢れていた、

「えっ……」

「リーラ?、エレーナ大司教様、リーラが、リーラが戻りました!」

驚き、戸惑うリーラを他所に、忙しくしていた信者に混じっていた見習いシスター達が、わらわらと集まり口々に。

「お帰りなさい」

「リーラご苦労様」

華やぐシスターが、口々にリーラに話かける様子を。不思議に感じた母親や戸惑う親達が、シスターの1人に訪ねると……。

「あの二人が、ワクチンを南大陸から運んでくれたんですよ♪」

それを聞いた途端。親達が二人を囲み。

「ありがとうございました!」

「あなた達の薬で、さっき目覚めました」

「ありがとう…、ありがとう……」

感謝の声に、リーラの顔から気丈さが消え。目にあった不安から解放されてく………、リーラは泣き笑いのまま皆のお礼に。涙ながら答え。仲間に抱き付いた、

「オーラル?……、あんたオーラルじゃないか」

「ん……母さん、何で、ここに?」

親達の感謝の言葉に、困った顔をして、どうしたものか悩んでた所で、騒ぎに気が付いた母は、訝しげな顔の息子に、ちょっと睨み上げてたが、オーラルの腕にある。2つの赤い手甲を認め。眼を細めて、オーラルの首にいきなり抱き付いて、

「エレーナ様に聞いたよ……。よくやった…」

優しい母の言葉に、ようやく自分の仕事は終わったんだと感じた。

「ただいま……、母さん……」

声を詰まらせた。騒ぎが大きくなり、気付いたエレーナ大司教が駆けつけた。リーラとオーラルを見つけて、二人を抱き寄せ。心からの礼を述べた。すると沢山のありがとうを言われて、オーラルを戸惑わせた。



━━こたびのアレイク王国を襲った。災害において……。

━━同盟国ファレイナ公国の多大な支援がなされたこと。民に知らせ正式な礼を書簡で記し。夏の会談をファレイナ公国でと賛辞を示した。




━━半月後……、



国民が見守るなか、レゾン国王は、人力してくれた全ての人々に礼を述べた。異例なとこであるが、民は国王の行動に感激する。

無論薬が間に合わず。失われた命も沢山あった………、国を揺るがす困難の中で、多くの命を救ったのもまた。王の裁量であってのこと。人々は感謝を口にした。



━━━前日。

疲れの癒えた、オーラルは、王宮に呼ばれて、国王自ら礼を述べられる栄誉を受けた。



━━都に戻ったオーラルは、翌日から、大聖堂の図書館で、勉強の日々を送ることになった。



━━ファレイナ公国から戻って、一月が過ぎある日のこと……。オーラルは、陛下の命令書を受け取った。知の試練を成したと認められたのである。


━━さらに数日後━━。宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバ自ら、オーラルの元を訪れ。多くの人を驚かせた。

「オーラル先輩!。お疲れ様でした」

オーラルも驚いたが、すっかり大人になり、ケイタは気弱な雰囲気がなく。細身ながらも精悍な顔立ちに成長していたので驚いてた。もうあの頃の印象はなくなっていた。

「元気そうだなケイタ」やる気の見えない、でもあらゆる困難に、表情すら変えず飛び込む。まるで変わってないオーラルの笑みを見たら……。万感の思いで、静かに笑みを浮かべていた。

「魔の試練は、既に終わりました、これにて全ての試練を成したことを、国王陛下に代わり、お伝えします」

深く深く、ケイタは頭を下げ。本心を口にしていた。

「先輩……、あの日、貴方に出会えたからこそ、僕の今があります。ありがとうございました!」あの頃のままなら、ケイタの言葉を聞く気にはならなかった筈である。少なからず恨んだこともあった。だからこそケイタの気持ちを汲んで、

「おう、気にするな」

「やれることをやっただけかオーラル?」

更なるざわめきが人々を揺るがす。

「ミザイナ……、いつ女になったんだ?」

流石に虚を突かれたオーラルだが、軽口を言っていた。思わずミザイナは軽く頭を叩く仕草をしてから。クスリ……小さく笑み、

「お帰りオーラル」

「ただいま隊長」

2人にしか解らない。眼差しを交わした、

「久しぶりに……、どうだ?」

剣を振る真似をしたミザイナに、オーラルは不敵に微笑して。

「ミザイナ、まさかまだ俺に勝てるとか、思ってるのか?」

「ほほ~う」

目に殺気すら宿らせ、ミザイナはうっすら笑んでいた。

「ちょっ、ちょとミザイナさん、先輩!」オロオロするケイタを引きずり、3人は、教会の中庭にでていた。



━━━数日後。

正式に、オーラル・ハウチューデンが『オールラウンダー』の称号を得たと、民に知らされた。




エピローグ




━━アレイク王国北東の領内。

城塞都市ベセルから数日……。


山あいが、グルリ湖を囲むよう。自然のダムのようになった美しい山々の麓。

古い沢山の坑道が口を開けていた。その昔……坑道を掘るため建てられた家屋が集まり。小さな集を形成していたが、使われていたのは、数十年もの昔であった。

今や危険を犯してまで、国境を越える者もいないので。わざわざ好き好み人が住むこともない。もしも集落があるとすれば、さらに奥の山岳地帯か、比較的安全な街道側に。猟師の集落や小さな村が僅かにあるだけである。

「ねえ!。ピアンザから命令が来たよ、ナタクあんたは目的通り、カレイラって『オールラウンダー』を殺して来なよ」

緑色かかったエメラルドの髪。気性の激しさの伝わる。つり上がった目。人をバカにするような光を宿して、白銀の重厚な鎧に身を包む長身の騎士に向けた。彼こそ西大陸で、聖騎士と名高い、ナタク・レブロ伯である。「煩い女だ……。俺は時期を見ている。まだ時期ではない」

「ちっ、使えない男だね~」

忌々しげに幻影の魔女。ラグラド・エルバは舌打ちする。

「こんなときにギラムは、何をしてるんだい!」

ここにはいないラグラドの相棒で、恋人の緑眼の騎士に噛みついていた。彼は部下数人を連れ、アレイク王国の内情を調べに出ていた。


「炸裂玉は出来てるんだ。何時でも、この国を落とせるてのに……」

待つことが、生に合わないラグラドにとって、何もしないことが苦痛の何物でしかない。

「ちっ」

何の感心も浮かばないナタクを忌々し気に睨み付け。舌打ちして、ふて寝した。



━━━同時刻。

カレイラ師団。第1分隊、中隊長室。

「失礼します。クエナ・ガイロン、出頭しました」

長身細身のキリリとした、女性が、佇まいを正した。

「クエナ君。実は話がある。戦士養成学校より、新人が1人、第1分隊に入ることが決まった」

「アロ中隊長、それは誠ですか?」

中年の冴えない風貌。いかにも場違いな感じがするアロ・ジムスだが、元々事務畑なだけあり、書類仕事は有能で、情報も確かである。

「して、どのような━━」

嬉しさと、不安が、顔から滲み出る。

「うむ……彼の名は、オーラル・ハウチューデン」

様々な出来事を経て、オーラルはついに五つの試練を乗り越えた。そして……、『オールラウンダー』の称号が与えられた。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。

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