夏休みですね。ドタバタですか何?
日も登らぬ早朝。リナは眼を醒ましていた。昨日は沢山の出来事があってとても楽しく。それに……
プロローグ
眠い目を擦りながら。リナは、父と母の寝息に。耳を澄ませた━━。
夏とはいえ。中央大陸は、一年を通し過ごしやすい気候で、疲れもあった両親は、手を握りあい、深く寝入ってるようだ、
リナは昨夜会った、兄のように慕うシンクの妹。竜である。綺麗な目のシンクレアの事を、思い出して、ニヘラと顔が緩む。
枕元に置かれた、シンクレアとお揃いの~。熊のぬいぐるみを抱き締め。リナはベッドを抜け出した、
慌ただしく着替えると。流行る気持ちのまま……。屋敷を抜け出したリナは、白銀の城の裏手にある。竜舎を訪れるも。中に白銀の竜の姿はなかった。
「あれ?。シンクレアちゃんは……」がっかりした気持ちのまま、竜舎から出ると、リナを掠めるように影が過ぎた、
「えっ?」
顔を上げたリナは、朝日が、辺りを照らすなか。目を細めながら……、見上げポカーンと口を開けていた、次第に驚きは、笑みに変わった……、
それは……太陽を背に、悠然と飛来する。白銀竜を見つけて……、あまりに美しい姿に。嬉しさと羨ましい気持ち。それ以上に楽しい気持ちが溢れてきて、ついには我慢出来なくなって、手を広げ。くるくる回り始め。はしゃいだ笑い声を上げた
「凄い!、凄い!、ん~~~~!。シンクレアちゃん……、綺麗だな~」吐息を吐き出し。満面の笑みで、競る気持ちのまま。シンクレアちゃんの降りようとしてる場所に向かい。走りだした。
白銀竜は、全身に朝日を受けなが、ゆっくり旋回していた。風を受ける喜びと。大好きな兄と思うシンが背にあるから。否応なしに気持ちも高ぶる。
━━シンクレアが優雅に。まるで貴婦人が。頭を垂れ一礼するが如く、舞い降りたのは……、
竜舎から、少し先にある。シンクが訓練場に使っていた。原っぱである。そこに目をキラキラさせるリナが、
「シンニイ凄い!、シンクレアちゃんかっこいい~」
脱兎の如く走りより。かけねなしの賞賛を受けて、シンクは驚いたが、
『リナちゃん~♪おはよう、私がかっこいい……、本当に?』
恥ずかしそうに身をクネラセながら。期待に膨らむシンクレアは、笑みを隠すよう。目を細めた。
「うんうん♪、シンクレアちゃんは、かっこいいよ」
やっぱり……。会話が成立してる?。シンクは驚きを隠せない。
「シンニイ、お出かけしてたの?」
興味津々なリナに、苦笑浮かべつつ、
「そうなんだ、久しぶりにシンクレアと、北の農場まで飛んでた、お土産に。産みたて玉子と絞りたての牛乳を、買ってきたよ~♪」
シンクレアの鞍に。くくりつけてた荷をほどき。鞍を外して、労を労る。
「シンクレアお疲れ様」
首筋を叩き、親愛を示せば、嬉しそうに目を細めながら、
『シン♪、また飛ぼうね』本来竜の思念を、鮮明に聞く事が出来る。騎士はいないとされている。ただ騎士と強い繋がりがあるからか、断片的な思念を受けとり。竜と騎士は疎通を図る。
「エ~いいな。リナもお空飛びたい!」
真紅の目を見開き、驚きを表して、シンクと顔を合わせた。マジマジリナを見つめて。
『リナちゃん。私の声………聞こえてるの?』
「うん、聞こえるよ♪」
あっさり言われてしまい。シンクレアは驚き、そしてそれ以上に喜びが爆発していた、珍しく大興奮しながら。
『うわぁ~凄い凄い!、リナちゃん凄いよ♪』
とシンクレア、同じく驚きを隠せないシンクだが、ハッと表情を凍らせた。確かにリナは才能がある。あの━━祖父の血を継いでるのだ……、しかし……ある懸念に気付いていた、ゆっくり膝立ちになって、リナと目線を合わせ。諭すように微笑む。
「リナいいかい。良く聞いてね」
「うん?、どうしたのシンニイ」
姪の事を考え。諭すように、そして傷付け無いよう。言葉を選ぶ。
一瞬迷いがあった……、竜と言葉を交わす能力は、とても珍しいからだ……、竜騎士と言えど、竜の言葉を契約してる竜以外、聞けれる者は存在自体ないとされていた。だが……実際は存在する。父と、祖父リブラ、叔父のブライアンの三人。
その能力が存在すること知ってるのは、伯母さんとオリバーさん。それ以外になると……。レオールに僅かな人だけである。「リナとても大切な事だからよく聞いてね。竜の声が、聞けることは、秘密にするんだよ。良いね?」
びっくりしたように。目を丸くしたリナだが。
「お爺ちゃんには、話しても良いの?」
疑問を口にした。一瞬虚を突かれたシンクだが、優しく頭を撫でて、
「リナは、頭が良いから。シン兄そこまで考えてなかった、リブラじいちゃん、リナは会ったことは無いが、ブライアンとララばあちゃん。後タイチには話しても大丈夫だよ」
「……うん!、シンニイ。リナ内緒にするよ~」
天真爛漫に笑うが、頭の良いリナの事。理解してる可能性はあった。チクリ胸が傷んだ。気を使わせたかな?、
「シン~、私達はのけ者かい?」何時の間にか、ラシカ姉さんとミネラが、シンクレアの側に立ち。哀しげな目をしていたから、シンクはたじろいだ、
「いっ、いや……」
咄嗟のことで、言い訳すら思い浮かばず。しどろもどろになってると、
「ラシカ姉さんと、ミネラさんも。シンニイの家族だから、大丈夫だよね?」
リナはきょとんとした顔をしながら。当たり前のように言われて、ラシカは嬉しそうに頬を緩めていた。ミネラなどは思わずリナを抱き締め。
「なんていい子なのかしら~。シンクなんて、何時の間にか、こんな冷たい子になってたのに……」
じっとり睨まれてしまい。顔をひきつらせていた。
「いや~……。あのミネラさん……」焦るシンクを見て、ラシカと二人吹き出した。
「冗談よ~♪、でも気を付けなさい。国のなかとて、誰が聞いてるか解らないのよ?」ミネラはにっこり笑うが、解るわね?、問いかけるような目をしていた。その通りだ……、国に戻って、少しだけ気を抜いてたらしい。いついかなる時。何が起こるか……、
「ありがとうございます。ミネラさん」
「ん~、私達がいるときは、安心なさい」
豊かな胸を叩いて、悪戯ぽく笑っていた。
━━北大陸。レオール。首都アージン、青い竜鱗を輝かせ。雄壮なる巨体を誇る竜王は、居並ぶ竜達を平眼するや。竜達は、竜王のあまりに強い圧力に屈して、頭を垂れた。
「どうしたブライム?、随分と気合いが、入っておるようたが……」
竜王は、ハッと息を飲んで、ばつが悪そうに、目を細めそっぽを向いた。集まる竜達は、ホッと安堵の吐息を吐いて。信頼を込めた眼差しをリブラに向け敬うように。頭を一斉に下げる竜に。シニカルな笑みを浮かべ、沢山の竜達の感謝の思念に、笑みを持って答える。竜達はリブラを人間でありながら、竜王と同列と扱う。
『済まぬ……、気が急いていた』
竜王ブライムには珍しい事だが、それも仕方あるまい。親であるのだから、娘の事が気がかりであろう……、ましてシンクレアが、卵から孵ってそのまま貰われたのは、4年前……、シンクが手足を失い。半年と経たない時期だ……、リブラとて心配したが、弟子のミネラ曰く。流石はリブラ様の孫と、えらく息巻いていた━━。
そのミネラ……。彼女も年頃の娘。そろそろ国許に戻してほしいと、彼女の両親からせっつかれてる。そこで身重なレイナ宰相に代わり。リブラが名乗りを上げたのだ、
「父さん!、やっぱりここだったんだね~」
息を切らせながら、ブライアンが、竜舎に駆け込んできた。この二年で、背も伸びリブラと変わらない身長になり、すっかり逞しく成長した。でもまだまだ少年のような顔と、キラキラした眼差しを受け、師である竜王ブライムは目を細める。
「先程から竜達が騒いでたのは、やぱりブライムが、浮き足だってたんだね~」
朗らかな笑みで、図星を指され、珍しいことに。焦ったブライムが身を震わせていた、
『あっ、いやその……』
狼狽する様を見て。竜達の間も。笑みのような思念で溢れた。
「クスクス~、兄さんからの手紙に、シンクレアは、美しい竜に育ったと。父さんに聞いてたし、娘の姿を早く。見たかったからかな~?」
率直な意見を、さらりと言えるブライアンに。
『うっ……、そっそんな訳では……』
たじろぐ竜王と言う、珍しい姿を見て、リブラは思わず吹き出した。
『………』
不貞腐れたような。うらしめ気な視線を受け、仕方なく肩をすくめ。シニカルに笑いながら、
「さて…………」
父親にとって、娘と言うのは格別違う。ミリア……、娘の子供とは……、一度物心ついたときに、会ってるのだが、ブライムのことは笑えない。リブラもさっき妻のララに。注意されたばかりであるから、
「お互い。娘に会うのは楽しみだが、不安もあるからな~」
『うっ、うむ……』
困ったように。首を上げたブライムは、そっと空を見ると、諦めたように目を細めた。
「ブライアン、お前発案の機械竜部隊の調整はどうだ?」
「うん!順調。僕が、リドラニアの王になる時は、姉さんや兄さんを守る。楔になれるよ~♪」
あっさり言ってのける。剛胆な性格は、リブラも頼もしい限り。だが……。南大陸の不安は、下手をすれば……地下迷宮の中心部である。中央大陸をも襲いかねない。
「さて……、暴君がそろそろ孫娘に会ってるころか……」リブラの相棒であり、かけがえのない家族であった暴君は、リブラとの契約を終えて、古土竜王となるべく旅に出ていた。━━それが一年前のこと。
一月前になるが、その日の朝━━。
リブラは、懐かしい思念を受けた気がした━━。
何故そう感じたか、理由は解らないと、答えるしか無いが……、家族であり、友の爪で作られた、年期の入った。赤い手甲を引っ張り出し。リブラは再びターミナルの町を訪れた。
「確信はない……」
暴君に……、呼ばれてると感じた。
広大な地下迷宮に降りたリブラは、導かれたように。迷わず歩いた、どれ程歩いたか……、フッと我に戻ったリブラは、北大陸に渡り。散々巡った筈の地で、今まで見たこともない。水晶が一面広がる。まるで水晶の森のような。美しい巨大な洞窟に立っていた……。何処をどう歩いたのか、記憶がすっぽり抜けていた、
「ここは一体どこだ?」
何らかの力が……、リブラを運ん?、予感がある。まず間違いではあるまい。
「まあ~いい、今を楽しむ、それが俺だ」
シニカルに笑いながら、リブラは洞窟の奥に……、歩を進める。
━━どれ程歩いたか、洞窟の奥に、巨大な玉座のような、巨大な水晶を鋭利な刃で、切ったような、台座に座する。見たこともない竜に出会う……、
全身岩だなのような。固そうな皮膚。首は長く、背に翼が無いので、飛行する竜では無いようだが、落ち着いた、叡知ある優しい眼差しをしていた。ゆっくり頭を上げた竜は、片目を失っおり……、
「リブラ久しぶりだ……」
ねばつくような発音ながら、人間の言語を使って、優しい声音を出していた。妙な懐かしさを感じる。それは……、
「暴君?……」
呟くと。竜は静かに頷いた。驚きを浮かべるリブラに、楽しげな目を細め。
「随分変わったな~」
妙な感心をしながら、暴君に触れた、最早土竜とは思えない。変化をもたらした、その身体は、ゴツゴツとした岩肌のような……、
「地竜……」
リブラの呟きに、とても驚き、そして……、親愛を示すように、リブラの身体に頭を付ける。久しぶりに暴君の好きだった、耳の後ろを優しく撫でた。
━━グルル……、 嬉しそうに喉を鳴らした。
「我が家族……」
「そうだ暴君。お前は俺の友で、我が家の家族だ」
優しい目は変わらない。リブラは暴君の竜首を抱き締め。
「元気そうだな暴君……」
嬉しそうに喉を鳴らして、それでも誇らしげに。胸をそらしながら、話し出した。
「東の土竜王……に会った……、シンクを知ってた」
笑いのような声音に。含まれてるのは、驚きであり。喜びであった、
「やはり東大陸に。古土竜王はいたか……、オーラルもいると考えてたが、まさかシンクが会っていたとはな……」
「彼は、アレイク王国の秘事だからだ、我は失われたこの地の守護を任される。大地の柱となるのだよ……」
「そうか……、長らく土竜の生態が分からずにいたのは……、成長した土竜は、大陸を守る。守護の存在となるため……。言わば、大地の精霊となるためだったのか?」
暴君は、家族であり友であるリブラに、別れを告げる為に現れたのか……、嬉しさと哀しさ。だけど……、長年一緒に旅をした、だから理解した。
「我が……、最愛の友リブラよ。忘れぬ……。忘れぬよ。さらばだ……」別れの挨拶に来てくれたのだ……。もう会うことは無い。そう言うのだ。
「Jr.には会わないのか?」
立ち去ろうとしてた暴君は、びっくりしたような顔をした、
「なあ~会ってやれよ。あのJr.に。子供が産まれたての知ってたか?」
驚き、戸惑い、そして喜びが溢れる思念。
「暴君おめでとう、これで。お前もおじいちゃんだな」
『我の……』
言葉が咄嗟に。思念に変わる。リブラは笑みを浮かべ。
「そうだ、最後に会え。それも親の勤めだろ?」『……ああ~、そうだなリブラ。ありがとう……』
リブラに信頼を込めて、額をくっ付け。片目にあった、僅かな迷いが消えて、晴々した目をして、暴君は走り出した……、孫の元に……。リブラは笑みを称え。
「さらばだ、友よ……」
もう思い残す事なく。次に進める……。リブラは振り返ることなく、歩みを進めた。
━━数日前。首都アージン、
様々な部族が集まり、いっそ雑多な印象を与える街並み。有力者の邸宅があるのは。民の生活を一望出来る高台で、豪邸が並ぶ、
アージンから、数時間程度……、馬を飛ばせば、高台からも見える。竜の巣の側に、アージンは造られていた。人口は早くも1億を越え。まだまだ増える勢いである。
「お~いブライアン!。26レンチと金槌を頼むで~」
「はい師匠!」
街の外れに、巨大な工場を与えられてるサノエ・ファンは、弟子数人と共に。巨大な機械で造られた。竜に似たフォルムの機械竜の量産に掛かっていた、
「レノア~、駆動部が終わったら、こっちを手伝ってくや~」
機械竜の背の下。駆動部のハッチの中にある。エレメンタル魔法チャージ機関部の。配線を溶接して繋げ。気難しい顔を、歪めつつ魔力を流し。
━━がっがこ。
上手く駆動部と連動するか確認して、
「……もう少しで出来る。ブライアン三番機体の駆動部。外装甲部の設置をする。支えてくれ」
「はい!、師匠26と金槌、後お茶とサンドイッチ置いときます」
サンドイッチと聞いて、急に空腹を覚え。そう言えば……昨日から、何も口にしてないの思い出して、無精髭を生やした口元を、歪めた。「レノア~駆動部の外装終るんやったら、後は点検だけやんか~、一服しようか~」
ブライアンとレノアは顔を見合せ。小さく笑い合い。
「親方。ブライアンが、あらかた点検は、終わらせてますぜ」
お茶を一口含んだサノエは、思わず吹き出して、呆れた目を、若い弟子に向けた、まったく大国の重鎮の子息とは思えない。機械馬鹿である。
「なんや~お前達が親戚と聞いて、妙にすっきりはっきりと納得したよ~」
サノエの呆れた物言いに。レノアが義理の伯父に当たると。最近知ったブライアンは、憮然とした表情を浮かべていた。
「親戚といっても。血の繋がりは、無いぜ親方」肩をすくめ。偏屈そうに茶々を入れるレノア。ブライアンとしては、本当のことだけに、別に気にしないが、レノアは、ブライアンと仕事をしてると、優しい目をフッとした瞬間。向けるときがある。若い弟子のブライアンも。それは理解してるのか、適度な距離を保っているから、サノエは相変わらず不器用な弟子達に。苦い気持ちは隠せない。
「サンドイッチは、お前が作ったんか?」
ブライアンは料理もそつなくこなす。それ故に聞いたのだ、
「いえ。リマさんが用意してたんですが……」
チラリ伯父に当たる。レノアに目を向けた、なるほど小さく頷き、ブライアンと同じくチラリ目をやると、急に唇を結び。気難しい顔をして、レノアは素知らぬ顔で、かぶり付いたサンドイッチの中身を見ては、何とも言えない顔をした、中身は魚の燻製と、玉子から作ったソースが、濃厚な味わい深い、中央大陸ではスタンダードな物である。王都のある輝きの都でも新鮮な魚が運ばれ。翼人の農場で育てられる。玉子を使って、レノアが好んで食べてたからだ。それをリマは、良く理解していた。
一口食べた瞬間━━、口内に広がる旨味……。レノア好みの味、なかなか味わい深いサンドイッチである。
噂の女性リマ・エスヤンは、見た目20才前後にしか見えない、レノアの押し掛け女房ならぬ。押し掛け弟子である。なんでも……、レノアが中央大陸で。仕事していたときだ。リマの命を助けたのがきっかけらしい。
「そろそろ弟子になること。許してやればどや?」
リマは翼人だから、迷ってるのか……な?、問うように目をやると、眉間に皺を寄せて。ムッツリしがら、小さく嘆息した。リマのことは、この仕事が終われば、きちんとするつもりであった、自分のような偏屈者には、勿体ない、吉備の優れた女性だと認めていた、
「この仕事が終われば、西大陸に行く……、それでも付いてくつもりならな」
仕方なさそうに、口にした。本意は違うだろうが……。
偏屈で不器用。それがレノアである。機械竜は、翼人のリマに不安を与える兵器である。彼女に不安を与えないための厳しさであると、サノエは見ている。
サノエも歳だ、そろそろジエモンに戻ることも。考えねばならない年齢だ……、弟子の中でも。こと技術に関して、サノエに並ぶ技量があるレノアに。目を掛けているから、重要な仕事だった機械竜製作に呼んだのだが、
「レノアがな~」
小さくクスリ笑いを浮かべていた。
「リマさん。喜ぶと思いますよ」
一口翼人と言っても。様々な人間がいるように。、様々な翼人もいると、リマを見てれば思えるが、本人曰く翼人の中でも変わり者だったと。告白していた、まあ~そうだろうなと納得だ。それと言うのもリマは、赤の民だった時。翼人となってからも。明け透けな明るい性格と、夢見がちな言動で、仲間から忌避されてたと言う。排他的な翼人が多いから、それも仕方ないと哀しげに笑っていた、それでもリマは何とか、1人で生きていたらしい、
━━あんな突発性の事故が無ければ、魔物の餌になりかける事も、レノアに助けられる事もなかった。
「単なる成り行きだった」
とレノアは言うが、リマにとって、初めて人に優しくされた、それだけでも嬉しかったのだ……、
━━王都プロキシスで、レノアが仕事をする間。リマは、レノアの世話をした、それはもう初々しい。妻のようで、甲斐甲斐しく。押し掛け女房だと揶揄されたこともあった、それが嫌になった訳では無いが……、師匠のサノエに呼ばれ。これ幸いと。リマには内緒で、北大陸に渡ったのだ……。それがだ……。
「まさかオーラルが、手引きしてたとはな……」リマは手紙を持たされていた。土竜ギルド全面協力で、レノアの元に。丁重にリマを送るよう。依頼である。土竜ギルドとして、大恩あるオーラル王の願いを快諾。レノアに遅れること、2日後……。リマが押し掛け女房ならぬ。弟子として現れ。レノアを狼狽させた、仏頂面のレノアには悪いが、兄の悪戯心満載な采配は、嫌いになるどころか、内心喝采したのは、内緒である。
「リマさんに。知らせてきますね」
「なっ……」
慌てるレノア、悪いが、面白いとニッカリ。
「許す。行ってこい」
サノエ師匠まで、好好爺と笑っていた。
「師匠……」
憮然とした顔をしてたが、諦めたように嘆息して。
「ブライアン……、サンドイッチ。旨かったと伝えとけ」
ぶっきらぼうにいい募る。とにかく素直でないのだ、
「はい!、行ってきます」
軽快な足取りで、工場の離れにある。住居に急いだ。
リマ・エスヤンは、赤い髪をボーイシュに。ほっそりした体躯の。一見少年に間違われる。痩せた女性である。背に翼があるため。背中が大きく開いた服が多いから。前掛けのような作りの服を好む。
「リマさん~いる?」声を掛けてから、住居の丸太小屋のような。簡素に作られた家に入る。
「ブライアン?。奥の倉庫~」
奥から声がした。丸太小屋に。部屋は3つあって、一つをリマが、奥の部屋は倉庫にされていて、残りをサノエ、レノアが交代で使う。二人は寝るだけに戻るので。部屋の片付け。使わない工具の片付けは、自然とリマの仕事になっていた。
雑多に積まれた、壊れた部品。古びた工具が所狭しと倉庫に置かれていた、リマはその中から。使える部品を集めて、自分で新しい自動人形を造ること。日課にしていた、 まだ失敗ばかりだが、レノア曰く。筋は悪くないらしい。
「あっブライアン、どうかしたの?、レノア様に何かあったとか」「違うよ。レノアさんから伝言頼まれてね」
「えっ……」
珍しいこともあると、ちょこん首を傾げる。
「サンドイッチ美味しかったて、それからリマさんを正式に。弟子にするってさ」
大きな目をパチクリ。無言だったリマだが、
「ええー!!。ほっ、本当?」
慌てたのか、ドライバーを放り投げ、飛ぶような勢いでブライアンを揺さぶる。
「あああ~。ほっ本当……、あんまり揺さぶらないで、段々気持ち悪くなるから……」
「ああ~ようやくだわ~、良かった……。このままレノアさんに。認められ……、もうお前しかいないとか言われちゃったり……」興奮して、妄想を膨らませ。ますます揺さぶるスピードが上がり。段々ブライアンの目が回り始めた。
「キボチワルイ……、リマさん離して……うぷ……」
「いや~ん。レノア様ったら……」
妄想垂れ流しに。酔った訳じゃないが、ブライアンは真っ青な顔をして、呻くように懇願したが、
「きっとレノア様は、私のことが………」
聞いてない……、
「ぼっぼく……、こんなところで」
楽しかった想い出が。走馬灯のように流れ出した、気を失ったブライアン、
「ねえ~ブライ……、あああ~大変」
白目を向いて。泡を吹いてるブライアンに。ようやく気がついて、揺さぶる手を離したら、ガクリ……、ノックアウトである。
「あああ~大変!。我が母たる大地の女神アレよ。癒しの奇跡を……」
なんとリマは、中央大陸でレノアの世話をしてのだが、リーラ大司教と話をしてる内に、闇の女神カーレルから、大地の女神アレに改宗して、神託を受けたため。侍祭の資格を持ってたりする。ブライアンも侍祭の資格はあるが、リマほど強い奇跡は起こせない。みるみる回復したブライアンは、頭をふりつつ。目眩が収まるのを待った。
「リマさ~ん。またですか…」
「ごっ、ごめーん」
彼女は1人で暮らしてたため時折。こうして自分の妄想に入り込むと。周りが見えない欠点があった……、だいたい被害を被るのは、ブライアンだが、勘弁してほしい。
「それよりレノアさんは、機械竜の量産終われば、西大陸に渡るそうです。そこで正式に。弟子に迎えるそうです。おめでとうリマさん」
「……ありがとうブライアン」
嬉しそうに、そして誇らしそうに笑っていた。
機械竜とは、神の遺物である。王の剣に備わる。神の兵を元に、竜魔法を使う、ブライアンだからこそ考え付いた技術である。機能としては、魔導兵と使い手をリンクさせる技術を用いて、機械竜と使い手を、簡易的な感覚で繋げ。ある程度意思で、自由に動かす事が可能な、飛行武器である。
機械竜の左右の翼は、魔力刃が搭載され、使い手が魔力を流すことで、振動する特殊な刃となり。高速で移動しながら、攻撃可能であり。また左右の翼の根元にある砲門は、遠距離用からの、魔力砲を放て。遠近両方の攻撃を可能にしていた、イメージとしたら竜のブレスを模した武器で。操作性にセンスは問われるが、強力な兵器である。
まだブライアン率いる。機械竜12機だけが、現存で仕様に耐えられる。それと父率いる竜騎士団二個小隊が、中央大陸に向かうことになっていた。
━━二日後……。準備が整い。リブラ、ブライアンは、中央大陸に向かい出発した。
━━南大陸、軍国ローレン、
国境の街ローン━━、
小豆色の軍服のような。制服に身を包む。学生の一段は。馬車に乗り、ファレイナ公国の港町に。向かう途中の交易の町で、トイレ休憩と馬の交換の為。馬車を降りていた。
「ん~ずっと馬車に揺られると、肩がはるわ~」肩を解しながら安堵した。レノン学園『院』生である。アノン・ファンは、早速お土産屋さん巡りをしていた、
「ん~、いい天気やわ~」
グッと伸びをして、アノンは晴れやかな笑みを浮べ、長年消息不明だった、祖父サノエが、ようやく見付かり。魔法討論会・本選が終われば、ギル・ジータ国王エバーソンの好意で、祖父の住まいのある。レオールの首都アージンまで、送ってくれる約束までしてもらい、ようやく安堵していた。
「楽しみやわ~」薄い胸を張ると、白銀色の魂を持つ自動人形。アノンの使い魔のキラが、
『早くダ~リンニ会いたいでやんす。ギャハハハハ』
突然笑い出す。オートマイータに。ギョット町の人が顔を強張らせる。
「ちょ、キラ~もう。人前で、高笑い止めて~な~」
羞恥で真っ赤になる。アノンに構わず、ジエモンの一人漫才に興じ出す始末。見慣れてるとは言え。同級生の目は冷たい、
「うっうう……、魂なんて、持たせるんじゃ無かった……」
頭を抱えるアノンの周りを、ギャハハハハ笑いながら。走り回る。冷たい視線が痛い。
居たたまれなくなったが……、馬の替えまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。『それはそうとシンクはん~、男前ですな~』
急に何を言い出すのかと、訝しげに目をすがめる。まるで内緒話をするような……、怪しさ満載のひそひそ話スタイル。キラのこうした、細かい設定に。呆れるばかりだが、優しい瞳に。溢れんばかりの才能……、確かに周りの生徒と比べると……、ブンブン音がしそうな勢いで頭をふりつつ、ガッシリキラの頭部を掴む。
『どっ、どないしたんでっかアノンはん……、なっ、なんか圧力を感じまっせ』
これが人間なら冷や汗ながしてる。様子が想像出来る。
「あんまりうるさいから、廃棄しようかしら?……」
『が~ん……、わっわいわ』
プルプル震え。今にも泣きそうな……、落ち込んだ様子のキラ、流石に言い過ぎたかな?、チクリと胸に痛みを……、
「覚える訳ないやん!」
『ちっ、最近妙な知恵をつけたな~』
使い魔の自動人形に言われて、頬がひきつる。
「こっこの馬鹿人形が……」
ミシリ……異音が、ミスリル装甲を軋ませ、さしものキラを戦かせた。
『うっうそやん、アノンの馬鹿力!!』
叫び声は、断末魔に変わっていた。赤髪の魔神が、軍国ローレンにいると、噂が広まるが、それはまた先の話━━。
毎日、諸外国の重鎮、学生が中央大陸に集まる。その様子を、翼人の都から、南西にある。魔山脈そう呼ばれる地域が、魔物の生息圏内。切り立った崖に。ぽっかり口を開けた洞窟がひっそりとある。
魔法により。視力を上げ、憎悪の眼差しで、人間の暮らしをを見ていた、魔人王は、忌々しく歯噛みした。
「増長しおって……」
怒りは収まらない。闇の女神カーレルが封じられ。魔人の多くは、力を失い。闇の奇跡まで……、その力を失っているいま……。太陽神の守護を得る都に、手を出すことは難しい……、なれども中継の町にある。神殿は違う……。闇の領域との境にあの町は。白銀騎士団の守る砦に守られ。
更に新しく11の神殿が造られた、それゆえ容易なことではない……。「あの地を、何としてでも……、制圧せねばならぬ、決して人間の手にあってはならぬのだ……、闇の女神カーレルの封印を、解けば再び。中央大陸は我が物となろう……」
魔人の王レイアスは、唯一残った、死者の神アレビスの骨で創られた。神々の遺物。死者の杖を手に、機会を伺う……、
翼人の一部は未だに。人間を憎む気持ちが強く。神々の行いに憎悪を抱いていた。それは……赤の民が、古代の民の中でも。魔力が強く。特別な存在と言う意識が強いため。更には階級制度に囚われた。悲しい一族であるためだ。自分達を差し置いて、人間が栄華を誇るなど。赦せることが出来ない。そう考える者は多い。それ故。中央大陸にありながら、翼人の都は、完全に閉鎖的な国と言ってよい。
その一方で……、同じく赤の民の末裔であり……、言わば、未来の存在である。オーラル王と、王子シンク、その親族に対してだけは、翼人達も心を開いていた、
「おばさんおはよう~、お久しぶりです」
「あらあらシンク様。お元気そうで」
恰幅の良い、翼人の彼女は、比較的に人間にも寛容な人物で、近隣の町に、自分たちの作った玉子や牛乳、チーズを売りに出ている。
「シンクレアも元気そうね~、いつ見ても綺麗な瞳をしてるわ」
『ありがとう♪』
白銀竜で、郊外の農場に。日も昇らぬ早朝に訪れるのは、中央大陸にいたとき、毎日通っていた。エルバでは高価になりがちな、塩や小麦粉で。支払いをしてくれる上得意である。彼等は自分達のもうひとつの未来……、同族なのだと、心を開いていた。
「シンク様。何時ものでいいのかい?」
「はい。お願いします」
同じような思いを、オーラル王は抱いて、何かと翼人達を気遣い、高価な薬剤を。無償で提供してくれる……、頑なな翼人達も。シンクの事件を知って、魔人の王レイアスに憤りを感じたのは、言うまでもない。一部の翼人の戦士は自警団を結成して、シンク王子の護衛を、密かにしているくらいである。
眼下に降りた、白銀竜を、小さな黒髪の女の子が、出迎えていた。「あれが噂のリナ様か……、面立ちがシンク様に……、よく似ておられるな」
普段厳めしい顔を崩さぬことで有名な。あのガルシアが、珍しく相好を崩していた、
「あんたは、シンク様の親族を目にすると、だらしないんだから」
辛口なコメントに、ムッとした顔を向ける。先にいるのは、同僚のサノビア、女性の翼人である。
「リナ、おはよう~。早いね」
「シンニイおはよう~」
楽しそうに笑うリナ、シンクとシンクレアが、驚いた様子が、あまりに微笑ましいく。二人を見守り。静かに微笑んでいた。
「お兄ちゃんの友達を紹介するよ。ガルシア。サノビア。二人とも。降りて来てよ」
魔法で、姿を隠してた筈の二人は、驚きを隠せず。顔を見合せ、思わず小さく苦笑を浮かべていた、姿隠しの魔法を解いて、姿を表し。仕方なく━━地表に降りて行く。
シンクにつられ。空を見てたリナは、突然現れた二人に。ビックリして、可愛らしい目をまん丸に。あんぐり口を開けて二人が、降りて来たのを。目をキラキラさせて見ていたが、真っ直ぐサノビアを見て、
「凄い!お姉さんかっこいい。戦女神様みたい」いきなり素直に絶賛され。
「なっ。………」
罵られるか、怖がられるかの不安があったのが、馬鹿らしく成る程。素直な眼差しを受けて、狼狽して真っ赤になるサノビアを、ガルシアは珍しい物を見たと、意地悪く横目で見た、「お兄さんの翼。綺麗だね」
何のてらいもなく、笑顔で言われて、今度はガルシアが狼狽した、思わずシンクと目があい。二人は何とも言い難い気持ちになった、
シンクとガルシアが会ったのは、丁度リナの歳くらいか……、父に翼人の農場に連れられ。出会い。
『お兄さんの翼。綺麗だね』
全く同じこと口にしていたのである。
「初めましてリナ様。私はガルシア、シンク様とオーラル陛下の友人です」
懐かしい気持ちになったが、そう口にして、晴れやかに笑っていた。
「初めましてガルシアさん、リナ・シタイルです♪」
行儀よくちょこんと頭を下げたリナは、天使の微笑み。あまりに無垢な笑顔に。思わずサノビアは見入ってたが、小さく咳払いに気が付き、慌てる。
「わっ、私はサノビアです」
美しい金の髪、豊かな肢体、白い翼が朝日に生えるサノビア、ただ人付き合いが苦手で、素直なリナに戸惑いが隠せない。
「サノビアさん。よろしくお願いします」
再び。ちょこんと頭を下げるリナに、釣られて、サノビアまで頭を下げかけ。ガルシアに笑われ憮然とした。
「ねえねえ~サノビアさん達は、空を飛べるの?」
キラキラした、眼差しで問われ。些か戸惑いを隠せないが、
「そっ、そうだが……」
「う~いいな~、シンニイも。シンクレアちゃんも。お空飛べて」
羨ましそうに見られたうえに。そんなこと言われたことがないサノビアは、どうしらた良いのか、困った顔をする。何となくシンクは気が付いて、それは良い考えだと小さく頷き。
「リナ、サノビアとガルシアに手伝ってもらい。空の散歩してみるかい?」
「えー!、シンニイそんなこと出来るの?」
目をパチクリ。ビックリしたようにしばたかせる。期待するようなキラキラした眼差しで、見つめられ。困ったように二人は見合う。
━━結局二人は……、シンクの頼みを聞くことになった、サノビアがリナを抱き抱え。ゆっくり空を上昇していくのを、ガルシアがサポートして、追従していく。
二人が翼をはためかせながら。空を昇る様子を見て、
「頃合いかな」足元に。多重魔方陣を描き。発動すると。ゆっくりシンクの身体が、僅かに浮いた、かと思えば、素早く呪文を唱えるや。
爆発音を上げ。シンクの身体は、一気に空を昇り。三人をあっさり追い抜いた。
「うわぁ~シンニイ凄い!」
……かなり上空に登った瞬間に、浮遊魔法を解き放ち。
ゆっくり自由落下が始まった頃、サノビアに抱かれ興奮気味なリナが、やって来た、素早く三人にも浮遊魔法を掛ける。身体を包む魔法の光に。身を固くする二人。安心するよう笑みを向け。
「二人とも羽ばたかなくても。落下はしない。落ち着いて、羽ばたくのを止めてね」そんなこと急に言われても……、不安そうなサノビアの為、ガルシアが、羽ばたきを止めたが、落下しない……、
「これは……、重力による束縛が軽減した?」
驚いた顔をしたが、流石は赤の民。理論を理解したようだ。
「サノビア大丈夫。シンク様は、重力制御の魔法を使われた」
恐々していたサノビアだが、意を決意して、羽ばたきを止めた。
「ほっ本当だわ……、重力制御なんて、赤の王プロキシス様みたい」
感心したサノビアに、小さく笑みを向けながら、
「リナ、手を伸ばして、みんなで手を繋ぐんだ」
最初。恐々してたリナだが、大丈夫だと判ると、サノビアとガルシアに手を繋いでもらい。頬を林檎のように。真っ赤にして、空の散歩を堪能した。
しばらくまたされたシンクレアは、ちょっと拗ねたが、リナと遊ぶ内に。機嫌も治り。二人と仲良くなったリナは、優しい性格のサノビアになついていた。
二人が戻ると言うので、シンクとリナは、朝食を食べに、屋敷に帰宅したのは、随時日が高くなってからだ、
「シンク……、あらリナも。お帰りなさい」
「ただいま~」
「ただいま~」
リナまで一緒に現れ。母は少し驚いたようだ、静かに笑みを浮かべ、シンクの手にある籠を目にして、なるほどと笑みを深めていた。
「農場まで。行ってきてくれたのね。丁度バターが切れてた所だから、助かるわシンク♪」翼人の農場では、毎日出来立てのバターを売りに出している。シンクはかなり多めのバターも必ず買って帰るから、焼きたてのパンに乗せるだけで、幸せな気持ちになるのだ、
「二人とも。顔と手を洗ったら、朝ご飯にするからね?」
「は~い」
元気に答える。リナを連れてシンクは、身支度に向かった。
朝食を終え。父が登城して、母も大司教の仕事に出た後。伯母夫婦とリナを伴い。城下町を案内することにした。
「町の西側は、アレイク王国の伯母さん達の住む。職人通りと、似た造りになってます。父がアレイク王国を基準に、区画整理をしたためなんですが、様々な国から沢山の職人が集まり。にぎわってますよ。その先にプロキシス学園があります。学園の前には、アレイク王国にもある。カフェブルーの姉妹店がありますね」
「ニイ!、公園あるね」
「うんリナ。あの下には、世界のへそと知られてた、デスホールがあってね。近くに赤の民の街が、かなり壊されてたけどあるんだよ。その発掘を土竜ギルドが行ってたから。あの公園は、瓦礫を埋めるために作られた、赤の民のお墓だったんだ」
お墓と聞いて、びっくりしたリナの頭を撫でながら。先を続ける。
「今は郊外にお墓を改めて造り。移籍した、そのあとを公園にしたのは、北大陸の土竜を育成するためでした、目的としては民に。土竜になれて貰う。触れ合いの場所として。町中に土竜の訓練施設が作られました。子供の土竜と、触れ合えますよ」
「土竜さん、触れる?」
「触れるよ」
「お母さん!、リナ行きたい」
伯母に抱き着き、訴える。二人は職人の作る。小物を面白そうに見ていたが、娘にせがまれ。
「そうね……、久しぶりに土竜に触れ合うのも良いわね。貴方は気になるでしょ?」
職人として、一流であるオリバーさんの。そんな性格を見抜いて、からかう口調である。案外リナも無意識に判断して……、
「いや~……、すまん」
照れ笑いを浮かべる夫に。やんわり笑みを讃え。
「リナを連れて、見てきますから、シンクはこの人。迷子にならないよう。付いてあげて」「はい、中に入ると、ギルドの人間がいます。父の名を言えば大丈夫ですから」
「わかったわ。お昼には戻るから、何処かで外食しましょう」
「お母さん~♪、早く早く」
普段あんまりリナを、構ってあげれないから。甘えられることが、とても嬉しく思う。
「はいはい。行きましょうね」
久しぶりに母に甘えれるから、リナは大はしゃぎである。
「伯父さん、あちらの細い通りを行くと、織物の加工場になってて、染料の様子が見れますよ」
「おお~それは丁度いいな」
伯父さんは、最近なめし革の染料に苦心していた、伯母からは、伯父さんの助けになる場所をと、頼まれていたので、
「ファレイナ公国の反物でしたっけ。あれを我が国でも真似ています」
「ほほ~う。反物の染料をか?」
興味を引かれたようだ、
「はい、中央大陸でも鉱石がふんだんに取れるので、顔料染めを実験的にやってます」
「なるほど鉱石を使った顔料か!、それはまだ試してないな」
「以前父に聞いたのですが、ギル・ジータでは、貝殻を輸入して、砕いて、白の顔料に使うそうです。我が国の鉱石は、赤や青の顔料に使える鉱石が多く。顔料染めはその二種類が多いですよ」
うんうん楽しげに、何やら書き出していた。
丁度熱した顔料液に。反物を入れて。染めてく所だ、
「ああして顔料液に浸けて、色合いにより時間を決めて煮ます。流石にそれは僕の知識にはありませんが、大変なのは洗う作業と聞いてます。それは鉱石から作る顔料が、人体に有害なので、川や井戸では洗ってはいけません」
白髪頭の老人と、目があった、しわくちゃな顔を綻ばせる。
「シンク様、これはわざわざお越しくださり……」
初老の染め物職人の親方は、好好爺と笑う。
「お久しぶりです親方。此方は伯父のオリバーで、アレイク王国で、小物装飾や皮を使った、職人をしています。染め物に興味があるようで、親方の工場は、我が国一です。それで案内を」
「おお~!、あなた様が噂の」
欠けた歯を気にしたようすもなく、破顔する親方は。国は違えど、同じ職人同士、気が合ったのか、しばらく話し込んでいた。
「親方。長々とありがとうごさいました」
「いやいやこちらこそ。楽しい時間でしたぞ」
にこやかに別れの挨拶をして、伯父さんと公園に戻った。二人だが、待っていたリナは、
「お父さん遅い~」
ぶ~っと頬を膨らませる。珍しいことだから、慌てる伯父、苦笑浮かべる伯母は、助け船をだした。
「お腹空いてこうなのよ……」
「そうか……、リナごめんね」
伯父さんは済まなそうに。頭を掻いた。
「シンクこの近くで、直ぐに出来て、手軽に食べれる。お店あるかしら?」
「そうですね……」
伯母の提案に。考える。
「じゃ~最近。中央大陸で流行ってる。クレープはいかがですか?」
「クレープ?」聞いたことない料理名に、リナが首を傾げた。
中央大陸のクレープとは、小麦粉7と米粉3を配合して、水で伸ばした生地を焼いた。薄い生地に。野菜、チーズなど。様々な具材を巻いて食べる軽食である。だから短時間で作れ、様々なバリエーションが楽しめ。手軽に買って、立ったまま食べれることから、人気が出たフードである。
シンクに案内されて、カフェタイプのお店に入り。シンクのお勧め。ハムチーズにかぶり付くリナは、目を丸くして、満面の笑みを浮かべた、中からトロリとしたチーズが伸びた。
「あら、これいけるわね~。作り方知ると、お手軽だし。仕事中は助かるわね♪」伯母にも好評を得たようだ。
「甘い組み合わせも美味しいです。デザートにもなり、今大人気なんですよ~」
「ニイ、これタイチに作ってあげれるね」
すっかり機嫌が良くなったリナは、甘い組み合わせも試して、満足したようだ。
夕方━━━。
アレイ学園、ジータ学園の生徒が到着。エバーソン国王他。各国の重鎮が、輝きの都に次々と訪れる。それは……家族が集まることを意味していた。
日が沈むまで、間もなくの頃。ミネラさんが慌て、
「シンク!、リブラ様、ブライアン様、ララ様が、到着されたわ」
よっぽど慌てて来たのか、息も絶え絶えである。
「リブラじいちゃん達が……、伯母さん城に行きますか?」伯母のこと考え提案するが、小さく頭を振って、
「父とは何度でも会う機会はあります。それより母は、大聖堂に行ったのでは?」
「はっはい、リーラ様とお話をしてます」
「そう、なら私達で、夕飯の支度しちゃいましょうかシンク?」
積もる話もあるだろうに……。家族が揃うのだ、せめてみんなで食事が出来る機会はそうない。貴重なことだとミリアは判断した。
「よろしいのですか?」驚きを浮かべるミネラに、きっぱり頷いて、
「ラシカさんと貴女も。夕飯は参加するよう。伝えて下さいね」
「わっ、私達もですか!」
目を丸くして驚くミネラに対して、にっこり優しい眼差しで見詰め。
「二人はシンクにとって、家族です。なら私達にとっても家族ですから」
きっぱり言われて、それは嬉しそうにミネラは微笑んで、
「あっ……、ありがとう……ございます」
泣きそうになり、目の端を拭う。
「シンクあまり時間は無いわ。あなたも手伝いなさい」
「はい」
━━時間は少し戻る。各国の学生達が、豪奢な宿に案内され。荷ほどきしてると、
「おっ、おい!、今従業員に聞いたら、間もなくレオールの竜騎士団が、到着するらしいぜ」
竜など見る機会のないリーザは、他国の学生に混じり、外に出た、すると多くの人が集まり、大通りに向かって歩きだしていた、
「あら?リーザじゃないの」しばらく人々に混じりなから歩いてた、リーザだが、知らぬ土地に知り合いなど。いないのだが……、不思議に思い振り返れば。見覚えのある。赤い髪をきめらかせる美しい姉妹と、黒髪の小柄な男性が立っていた。
「あっ、フレアさん!」
なるほど姉妹も同じ船で来たのだ、会う可能性はあった。
「貴女も。竜見物かしら?」
「はい!、竜は見たこと無いので、フレアさん達もですか?」
艶やかに着飾る。フレアとシアンは顔を見合せ。
「そうよ。父さんの屋敷が、あの高台だから、父に案内してもらってたの」
小柄な男性を父と紹介され。ハッと驚く。
「初めましてリーザさん、噂は聞いてますよ」小柄で童顔。三人の子持ちとは思えない。若々しい。言っては悪いが、可愛い男の子が、歳をとった印象である。
「あっ、ケイタ様でしたか、初めまして」
慌てて頭を下げようとすると、予想外に強い力で、リーザを止め。やんわり笑いながら、芯の強い目で、リーザ見詰め。
「公共の場では、畏まる必要は無いよ。それに大切な恩師の娘さんに。そんな真似はさせられないな」
「あっ、はい!」ちょっと赤くなりながら、軽率さを恥じ入る。
「それより。リブラさんの竜王は、一見の価値がある。それは美しい竜だよ。さあ~みんなで、見に行こうではないか」黒髪、小柄で、童顔なケイタは、誰よりも。人を思いやる。心に助けられてきた、だから父ならではの不器用な気遣いに。姉妹は懐かしい気持ちで。嬉しそうに父の腕に抱き着き、真っ赤に照れる父を見て、二人は破顔していた。
ケイタの計らいで、白銀の道と言われる。竜が降りる場所に指定される広場、着陸場の側。特等席で、待っている事が出来た。
━━茜色に染まる空に響くよう。突然轟音が、大気を震わせ。皆を驚かせる。唖然と空を見上げていた人々は、白銀のメタリックカラーで、西日に照らされる。竜のようで、竜とは思えない。物体を見て、騒ぎとなっていた。
「オオー!、あれがブライアン様が、制作した機械竜か……」
「とっ、父さん機械竜って?」
轟音に耳を塞ぎ。放射状に風が渦巻くから。フレアはスカートと乱れる髪を押さえる。
「まあ~見てなさい!。私も実物が、動いてるのは、初めてなんだよ」
ワクワクした面持ちで、見上げた先に。ゆっくりホバリングしながら、順序よく12機の機械竜が、一度は上空を通過。目も眩むスピードで、旋回して戻り。スパイラルターンを決めて、
オォオオオ!、人々のどよめきが上がる。短時間ではあるが、見事な航空ショーに。姉妹とリーザは目をキラキラさせ魅入った。
━━ほどなく機械竜は、ホバリングしながら、ゆっくり降り立ち。既に待っていた技術者が、わらわら集まり。変わった形の馬車に乗せて、次々と運ばれる様を。興奮気味に見ていた、理由は分からないけど、あれが凄い物なのは理解できた、機械竜騎士の多くは、技術者と歓声に答えながら去ったが、1人小柄な男性が残り、顔を覆うフードを取るや。再び大歓声があがる。
「彼がブライアン。オーラルの弟で。ただ1人竜魔法の使い手。さらには飛行魔法を6歳で造り出した。本当の天才だよ!」
ケイタの解説に。三人が、憧憬の眼差しで見守るなか、歓声に応え。手を振りながら、こちらを見てケイタに気が付き、嬉しそうに笑みを深め、ケイタの前まで走りより。
「ケイタさんお久しぶりです!、わざわざの出迎え。ありがとうございます」丁寧に頭を下げた少年が、ケイタの言った、内容と結び付かず。三人は困ったように顔を見合せる。
「よく来たねブライアン。ローレン学園の生徒は、明日来る予定だ、彼女アノンが来たら、知らせが来るよう手配してあるよ」
パッと顔を輝かせ。嬉しそうに笑う姿は、三人の共通な友人シンクに似ていた。
「二人とは初めてだね。娘のフレアとシアン、娘の友達でリーザさんだったね?」
「はっはい。リーザです。初めましてブライアン様」
まさか自分まで紹介に。預かるとは思わず。慌てて頭を下げた。
「はい。初めまして。ぼくの方が年下ですから、ブライアンで構いません」シンクと似た性格なのか、人を思いやる気持ちに溢れた笑みを見て、ホッと安堵の笑みを浮かべる。
「フレアさん、シアンさん、兄から噂は聞いてます。コンテスターの演技。楽しみにしてます」
姉妹は驚いた顔を一瞬浮かべたが、直ぐに笑みを深め。
「素晴らしい演目を。魅せるから楽しみにして下さいね♪」
「はい、バッチリです!」
二人の闘争心を、軽く刺激する手際は、オーラルを。彷彿とさせ。ケイタは苦笑を隠せない。
━グアアアアアー!
日が沈む中。竜の咆哮が町中に響き渡る。
「間もなく。竜騎士団が、小隊づつ降りてきます。照明をお願いしました」
「はっ!」白銀の鎧に身を纏う。4人あまりの騎士らしき人が、白銀の道に並ぶ兵に目を向け。
「槍を掲げよ。『拡がれ光よ』」
鋭く命じた。すると一斉に兵は。槍を掲げた瞬間━━。
穂先に光が灯り。白銀の道は、それはそれは美しい滑走路となった。フレアは、なるほどと理由を理解した。妹シアンのために説明した。
「ねえ~シアン、知ってると思うけど一応。翼竜種の多くは、夜目が利かないの。その代わり。僅かな明かりにも敏感だから、月明かりがあるなら。夜でも飛べるわ。でも街中に着陸するには……」
あくまでも理解させるように、知識欲を刺激する語り方は流石である。
「あっ、そうかだから槍を掲げて、明かりにしたのか」
姉妹の会話を、成る程と聞き耳をたてながら。遠目でも。あれなら上空から町が見え。また着陸出来る1人頷いた。
━━やがて太陽が沈む間際。大きな竜のシルエットが空に現れた。
「先頭は荒くれ(レブラント)ですね」
竜が羽ばたきする。風切り音が、周囲に響き。全身傷だらけの巨大な竜が、ゆっくりゆっくり降りて来た、されと人々竜好きを公言する姉妹は、ギョッと顔を強張らせた。
強面の荒くれは、集まった人間達を見渡し。辺りを平眼していた、鋭い眼差しは、皆を凍り付かせるほど強く。驚かせるに十分である。
「コラ!レブラント、貴方は強面なんだから、そんなに緊張した顔を向けたら、みんな怖がられるわ」
突然女性の声が。シーンとした白銀の道に響き渡る。
━━グルルル…。
ヒラリ降りた騎士発したようだが……、誰もが驚いた、騎士は顔を覆う布を取りながら、鋭く注意すると、なんと見るからに怖い竜が、騎士に怒られ。シュンと巨体をちぢこませたではないか。
おお~!。強面の竜を手玉に取った騎士が、女性だと分かっての驚きと、竜が騎士の言うことに反応してる姿に。素直に驚いていた。それはフレア達も一緒である。
「あの竜は、プロキシスに来るのが初めてでね。緊張してたようだね」
なるほど。事情を知れば、三人に笑みが広がった。ケイタがちらりブライアンに目配せすると、心得たもので、
「はい!、荒くれ(レブラント)は、普段レオールの首都アージンの守備をしてますから、国外に出ることが珍しい竜で、彼女は守備隊長を任されてる。イノワ・ミササさんです。彼女の姉はケイタさんもご存知のジーナさん、元アレイク王国ミレーヌ王妃の侍女をなされて方の妹さんで、二年前ジンさんて、将校に嫁いだ関係で、護衛に来ました、あくまでも名目はですが……」
「ブライアン!、聞こえてるわよ」
ジロリ睨まれ。首を竦める。
「ああ~ジーナさんの妹君でしたか、ようこそ我が国に。歓迎します。竜舎は判りますかな?」
「あっ。はい大丈夫です。ブライアン貴方も竜の世話。手伝いなさい」
「は~い、皆さんまた後で!」巨大竜を連れ。ブライアンが居なくなると、急に安心感が消えたような、不思議な感覚を味わう。三人の様子に気が付いたケイタは、小さく微笑み。
「彼はああ見えて、来春リドラニア公国の王になるのだよ」
なるほどと三人は、納得していた。次々に色鮮やか竜が、舞い降りて、人々は華やかなセレモニーのように。竜や騎士達に声援を送る。
グアアアアアアア!?
闇夜を切り裂く竜の咆哮が、大気を震わせ。人々肌おも粟立たせる。闇に突然現れた、巨体な美しい竜のあまりに高貴な姿に、人々は息をすることすら忘れ。ただ魅いっていた。
「いよいよ。竜王ブライムの降臨です!」
竜達は、急に慌ただしくなり、その場にいた竜は、王の為に場所を空けていた、騒然と慌ただしく道を開け。竜達は、静かに頭を下げ王の降臨を称える。
「凄い……」
初めて見た光景に。フレアは手を握りしめ。薔薇色に頬を染めていた。誰しも言葉を無くし。そして人々は見た、王者の名に偽りなく。雄大な身体を見せるように。羽音すら立てず。ゆっくり現れた青い竜は、威厳を持って、町中を見せ付けるように旋回を繰り返し。静寂につつまれるや。うむと頷いた上で、白銀の道に。雄壮に降りたった、
━━ウオオオオ!。途端に大歓声が上がった、それも仕方ない。先の中央大陸事件の折に。竜王ブライムはサーガにされ。人々にとって崇める対象にされた程だ。また北大陸で名を馳せた英雄の1人であり、この国の王の実の父が、やって来たのだ。驚く三人に。にっこり優しく笑みながら。
「さあ~みんな。リブラ様を紹介しよう。来なさい」
気楽に言うが、人々の大歓声に答える。人物を前に。畏縮していた、ケイタは三人に構わず。
「ブライムお疲れさん」
身軽に背から降りて。顔を覆う布を取り払い。もう1人同乗していた、女性を抱き抱えて、ゆっくり下ろした、
「ララ大丈夫だったか?」
労る優しい声音。女性も小さくはにかみながら、
「……ええ、空は寒いのね」すっかり体温を奪われたようだ。素早く大地の女神アレに癒しの奇跡を願い。直ぐに効果が現れ。体温が戻ると。ようやく安堵の吐息をはいた。
「リブラさん、ララ様、ようこそいらっしゃいました」
ケイタに気が付き、赤み掛かった、寝癖ある髪。眠そうな眼差しで、シニカルに笑う。
「おお~ケイタか、久しぶりだ、元気にしてたか?」
緊張強いられてた三人にお構い無し。気安く声を掛け。着飾ることなく。信頼を込めた笑顔を向けてだ、直ぐに三人に目が行く。
「ほう……、魔力の質がケイタに似てるな?、二人は娘さんかな」
二人は顔を見合せ。驚いたようだ。そんな娘の為に簡単なレクチャーを挟む。
「リブラさんは、相手の魔力を、視認出来る能力がある」
三人も魔導師の中に。そうした能力があるのは聞いていた。
「そちらの娘さんは……、うむ……、一度アレイク王国で会った、宮廷魔導師に似てる……」
これには驚いた、ハッとして慌てながら、
「リーザ・カーベンと申します」
自己紹介をした、すると何かを思い出すように、眉ねを寄せながら、ポンと手を叩き。隣の女性を伺うと、柔らかく頷く。
「ああ~確か、リリアと言ってたが……」
「はい、私の母です」
なるほどと1人納得して、
「あ~ゴホン。済まんが、ミリア達が何処にいるか、知ってるかね?」
わざわざリーザに聞くとは、狐に摘ままれた感じだが、クスリ小さく頬を綻ばせながら、
「はい、確か父が言ってましたが、王宮の側にある屋敷に。居られると。聞いております」
「そうか、リーザさんと言ったね。君も来なさい」
そんなことを突然言われて、リーザが狼狽してると、ララが訝しげな眼差しを夫に向ける。
「あなた?悪いですわ。リーザさん初めまして。妻のララと申します」
「はっ初めまして」
つられて頭を下げたリーザの顔を、懐かしそうに見詰め。あまりに優しい眼差しだったから。同じ女性なのに、胸をドキドキさせていた。まるで……、母の前にいるような。不思議な安堵を覚えた。
「貴女のお母様とは、シンクの母リーラと供に。仕事をしてた事がありましたの。お母様にとても似てますね。懐かしい気持ちになりましたわ」
夫をたしなめようとしたのだが、懐かしい気持ちが勝り。リーザを見てるようでいて、その少し後ろを見て、優しい眼差しを向ける。
「……母さんと」
言葉に詰まるリーザを見ながら、一つ頷き。
「ケイタ、彼女の母は、オーラルの恩人だな?」
突然何を言い出すのかと、ララやケイタは同時に顔を見合せるが、リブラはただ真っ直ぐ。リーザを見ていた。
「えっ……」
人間ビックリし過ぎると。息をすることも忘れるようだ。リブラを見ていて、あてずっぽうに言ったのかと、伺うが……、どうやらそうではないようだ。もしやリブラさんは娘のような……、ケイタの表情を見て、シニカルに笑いながら。
「ケイタ、俺には特別な能力は無いが、オーラルには、彼女と似た魔力が流れていた、人間てのは不思議でよ。忘れられない相手の魔力を、覚えてるもんさ」
まるで超能力じみた話だが、そうした能力に長けた者が、占いで名を上げた話があるのは確か、
「はい、リリア先生は……」
ケイタが素直に頷いて、続けようとしたのを止めて、
「そう言う込み入った話は。ゆっくり団らんしながら話そうや」
まっすぐ妻と姉妹、リーザを見てい気遣うような顔をしていた、夜になって、冷えてきたのだ、
「はい……そうですな」
「ブライム竜舎に行って、イノワとブライアンに伝えとけ。先に行くと。それからあの城の裏にある竜舎に。シンクレアがいる。お前も娘に会ってこいよ」
『承知した……』
どこかそわそわしてた竜王は、安堵の思念を送り。ゆっくり歩き出した、フレアとシアンは、顔を見合せ。
「今の聞いた?」
「うんうん聞こえたわ~」
「わっ私にも聞こえました」
顔を強張らせるリーザ。 ケイタは自慢するように手を広げ。
「竜王ブライムは、魔力の強い人間とだけ、会話を許す。別名賢竜と呼ばれてるんだ」
「そうなんだ……」
自慢気な父とは裏腹に。フレアがっかりした顔をした。ケイタは理由が分からず。狼狽する。
「なるほど……、フレアだったね。君は竜が好きなんだね」
「はっはい!」
「確かミリアに、前に頼まれた事があったな……」ほろ苦く唇を上げた。二人はハッとして、肌身離さず。大切にしていた小ぶりな杖がある。
「彼等にも心がある。せっかく竜達がこの国に来たのも縁だ。沢山話してごらん」
「……はい!」
目を輝かせ、嬉しそうに笑う姉妹に。ケイタは安堵の吐息を吐いた。
「皆を休ませる為に。行こうか?」
整列してる兵を優しく見詰め。お茶目に言ってのけた。
━━各国の重鎮、王族が、謁見を求め。白銀の城に集まり、久しくないほど。人でごった返した。
━━そこで大広間が解放され。謁見前の間を。立食で軽く摘まめる料理、喉を潤す。軽い酒が用意されていた。多くは、長旅での疲れ。日頃の政務の疲れを労る目的での立食パーティー。その為の謁見である。
この場に、貴族が含まれない故に。忌憚なく近況など。話す場になっていた、主に書簡等では、申しにくい財政の事や。未だに安定しない。不安について話し合われる……。
美しい金髪を。左右一房を編み込み。まるでティアラの装飾品のような印象を与え。美しい髪を後ろに纏める出で立ちで、白を貴重した、艶やかなドレスを着こなす貴婦人。ラトワニア神国ナターシャ女王と。談笑するのは、気が強そうな印象を与えるが。赤髪が映え。明るい色の夏を思わせる。黄色を可愛らしく使った、サマードレスを着た、リドラニア公国双女王の1人アミ・キラオク、隣にいるのは双子のように似た顔立ちの。似た顔立ちながら、活発な印象を与える黒髪のシセリア・キラオク。二人の女王は談笑する傍ら。広間の外をチラチラ見てる。
「アラアラあの二人がね~クスクス」
突然からかうように。愉しげにコロコロと声を立てるナターシャ。二人は慌てる。
「ナターシャ姉。そっそんなこと無いんだからね」
「ちっ違いますから!」
赤くなりながら言うもんだから。ズボシだと誰が見てもばらしてるのだが、本人達にその認識はない。実に可愛らしい反応に、優しい笑いが起こる。
リドラニア公国は、未だ魔物の被害が絶えない。国事になってるとも言われるが……、
「ナターシャ様……」控え目に声を掛けてきたのは、海王神プラトーンの大僧正に就任した。ハイル大僧正だ、アミ女王に気が付き、柔らかな笑みを浮かべ、頭を下げた。
「お久しぶりです。ハイル様!」
懐かしい気持ちになって、パッと顔を輝かせた。
「アミ知り合い?」
「うん!、ほらオーラル様と。一緒に町を救ってくれた、司祭様が二人いたと言ったわね」
「ああ~あの時の……」
若き二人の女王は、実直そうに、微笑していた、
「お元気そうで何よりです。妻の……リーヌが、アミ様のこと話してたので、失礼と思いましたが……」
やんわりと相手を思いやれる。ハイルはそんな人物だったと思い出していた、
「リーヌ様は、身重だと聞いてました、私こそ。またお会いしたいと思ってましたわ。来春の婚姻の義に。リーヌ様が大役を受けて下さるとか、シセリアと喜んでましたのよ」
話を振られ。ちょっと赤くなるシセリア女王は、表情を改め。
「ハイルその時は、迷惑を掛けるな」
拙い印象を与えかねない。もの言いだが、シセリアが言うと。不思議と相手にすんなり気持ちを伝える力がある。それはシセリアの魅力でもある。
「はい。お任せ下さい」
ハイルの妻リーヌは海王神と対立する。太陽神アセードラの司祭である。
そんな二人だが、オーラル達を手助けする任に就いて、当初ハイルに対立していたリーヌだが……、ハイルの何事をも受け入れ。寛容な広い心に惹かれ。数年前二人は結婚。
ラトワニア国内に。一大センセーショナルを起こした。出来事だった……。
「ハイル、先ほど何か……、言いかけた様だけど?」
「はっ、町に在中している者から聞いたのですが、竜騎士団が到着したと、さらには機械竜と呼ばれる配下を連れて、ブライアン様。リブラ様が到着したようです」
二人は顔を見合せ、顔をほんの赤くしていた。ナターシャは、初々しい反応に、羨ましい気持ちと、妹のように可愛がる。二人の幸せを祈った。ラトワニアとて、一枚岩では無い……、
次代を担う。世継ぎを決めなければならぬからだ、ナターシャは再婚せず。独り身を貫く毎に決めていた、なれど世継ぎについて……、様々な問題がある。国内に蔓延る。権力者等は……、ナターシャの悩みの種である。シセリアの祖父ハン・ミラン将軍の跡を継いだ、ギラム・ブライト将軍の人力で、国内は何とか纏まってはいるが、予断は許さない。
「二人共。謁見まで時間ありますから。ブライアンに。会われてはどうですか?」
「えっ……お姉様しかし」
嬉しい気持ちと、気恥ずかしい思い。それ以上に。女王としての責務。女性としては今すぐ会いに行きたいが……、2つの感情が、攻めぎあってるようだ、
「ハイル……、お二方。お疲れがあり気分が優れぬと、隣室に案内して来なさい」
ナターシャの提案に。二人はパッと顔を輝かせた、
「ゴホン。え~と行くの行かないの?」意味あり気に、咳払い等しながら、ウインクされたら二人は、
「「行きます!」」
同時に答えて。ナターシャを吹き出させていた。
「ハイル至急お願いしました」
「はい。直ちに」
にこやかに微笑み。退席を告げ。二人の女王を連れて、大広間を後にした。
「ナターシャ様。見事な裁量ですな……」
「これはドヴィア王……、お恥ずかしい所を」
各国の王が、代替わりするなか、古参の老人は、かかっと笑いながら、
「なあ~に。善きかな。何れ我が孫娘が、即位したときは、貴女の助けを。請わねばならぬやもしれぬ堅物。良しなにの~」
「ご謙遜を、ドヴァアにはイブロがおります。それに我が姉も」「おお~そうであった、イブロの娘は、セシル殿に似て、美しと評判だが、いかんせん孫と一緒に暴れまわっておるのがの~」
噂には聞いている……。 リドラニア公国に通じる。古い坑道に巣くってた魔物を一掃したと言う。姉譲りの付属魔法がある。とはいえ……。
困ったことに。姪のセレナは、イブロを尊敬している。祖父のキブロスと共に。英雄と呼ばれてたことも原因であろうか、何れブライアンや彼女達が、世界を担って行くのだ、今はオーラルがいる。彼がいる限りは……、今も昔も……、
「おお!エバーソン王。この度は、骨折りありがとうございました」
ゆったりしたサムエ姿のギル・ジータ国王エバーソンは、晴れやかな笑みを浮かべ、ドヴィア王の礼を受ける。
「これはナターシャ様。ドヴィア王。こうして直接会うのは一年振りですな。御健勝でなによりです」
朗らかに。王族だけが着ることがゆるされる黄色のサムエは、浅黒い肌のエバーソンを、しなやかな印象を与えていた。またナターシャとも旧友で、オーラルのお蔭で、サミュ王妃とは友人関係を築いている。
「おお~エバーソン王、我が国の再建もようやく終わった、そなたの出資した街。来年の議会には是非に。見に来られよ」
かかっと顔をしわくちゃにしながら、民を思い。ドヴィア王らしく優しく。そして強かに笑う。
「それは是非にも……、見なくてはなりませぬな、我が娘ライラと、未来のドヴィア女王と、重鎮になる友人の娘、我が娘とは友人と聞いてますし」
「おお~そうであるな、両国の未来を担う子供達にも。良い関係は長く続けたい。そう思います。して……、次代を担う王をまとめし者は、噂通りの人物達ですかな?」
顔は笑みを浮かべるが、目は鋭く。一切の甘さが消えていた、嘘。偽りは通じない。そう目が語っていた。エバーソン王が魔法討論会・予選で、顔を合わせたことは、知られていた。小さく苦笑しながら、率直な意見を述べた。
「シンクですか?、そうですな~、優しい表面と違い。芯のしっかりした少年で、王の資質は、オーラルに勝るとも劣りません」
それを聞いて、ほうほう皺を深くしながら、返す刀で、
「ナターシャ様から見て、ブライアンはどうでしたかな?」
驚きながら、しっかり先程の話が聞かれてたのだ、小さく嘆息しながら、率直な意見を述べることにした。
「そうですね……、兄思いの優しい子ですわ。自信を持って、可愛い妹達を任せれる。リドワニア王ですわ」
「ほう~」
感嘆の吐息を吐いて。ドヴィア王は、ようやく安堵したかのように。目元を柔らかくした。
「うんうん……、安心しました。これで死ぬまでの楽しみが、増えましたの~」
「ドヴィア王……」呆れたように。苦笑を滲ませる。最近はどうもブラックな笑いを取りたがる。困った性格だと。二人は顔を合わせた。
━━翌日早朝……、
北洋港の町に。黒髪を後ろで束ね。特別にあしらった。右半身だけ革鎧を着けている。魔王ピアンザの姿があった、それは弓兵が着込む鎧だが、手に弓は持たず。精緻な三匹の獣を鎖に繋いでる。魔王の杖を携えてるのみ。魔王ピアンザは、自身の学園生徒を引き連れ。悠然と海中船から降り立った、続く学生達は、緊張を浮かべるが、誇らしい面持ちであろう、
護衛の任に着いてるのは、六将の1人。騎士団長トロン・バーン。財務のトップで、ローレイ商会の長。ハーミュア・ローレイである。
「陛下。馬車はオーラル様が、既に商会の者を遣わせてくれており。何時でも出発出来ます」
ハーミュアに請われ。数年前の折。オーラルと会わせたのがきっかけで、いたく気が合い。国を越えた様々な事業が、恙無く(つつがく)進んでいる。一つは数年前に。世界中に支店を出した、カフェ・ブルーや、各国の学園での催しなど、多岐に渡る。
「うむ……」
珍しく歯切れが悪い様子。ハーミュアとトロン・バーンが、苦笑滲ませる。
「姫様なら大丈夫ですよ。何せ神弓オーダイ将軍が、ただ1人認めた弟子ですぞ?」
「それは……」
分かってはいた…。妻にも言われてたが、こと娘の毎になると、心配になってしまうのだ、それにと考えるのは、トロンの所が息子しか居ないからだ。内心僻みを思いつつ。確かにリルムが、早々後れを取るとは、考えられぬのも確か、
「魔王様、差し出がましいですが、発言よろしいでしょうか?」
中々動かない魔王ピアンザに、不信感を抱かせたか?。魔法学園の学園トップ。アレンザ・ホーネリアが、毅然とした面持ちで、頭を下げた。
「あっ、ホーネリア君……」
ハーミュアが一瞬。言い間違えしそうになり、凄い眼差しで睨まれ慌てて、きちんと言い直す。
「聞こう……」端的にしか喋らない魔王の性格を。ホーネリアは知っている。リルムとは、幼なじみでもあるからだ、
「魔王様。リルムちゃんの到着遅れてる様子ですね。私で良ければ。学生達を連れ、輝きの都プロキシスに。先に向かってましょうか?、家の商会もこの町にありますので」
それは妙案である。トロンとハーミュアは顔を見合せて、頷き合う、中央大陸の港付近は、安全な街道がある。ピアンザの為に。二人が残れば良いだけだ、
「ピアンザ様、良い案だと心得ます。オーラル様が、ジン・ゲルマン左将を遣わせた理由が、ようやく私にも理解出来ました」
そう……、自国の将校を護衛に。わざわざ送ってきた理由がある。トロンが生真面目に答えた。馬車の御者として、オーラルの腹心が、旅装で、来ていたと、先程聞いてたの思い出して、ピアンザは思わず苦笑した、
「相変わらず……、俺を理解してくれてるか……」
嬉しそうに。照れくさい気持ち隠そうとして、失敗していた、
「ピアンザ様、ホーネリア君の申し出受けましょう、護衛をジン・ゲルマン左将に任せて」
「うむ、済まないがホーネリア君。お願いする」
「はい♪、魔王様お任せを」
晴れやかに笑い、ホーネリアは、早速馬の世話をしてたジン左将に突進するや。
「ジン!、行くわよ。早く行って、馬鹿シンクを、のさばらせる訳にはいかないのよ」
「おいおいホーネリア、久しぶりに会ってそれか?」ジンと久しぶりに顔を見たトロンは、小さく頷きを受け。安心して任せることにした。
「早くしなさいザイラ!」
「ホウネリアさん、そんなにせっつかなくても」
「クワト文句言う気なら、尻を蹴飛ばすわよ」
「はい。お姉様」
「ハルはいい子ね……」
騒々しい命令が、飛ぶ飛ぶ。たまに可愛がる光景を見て。三人は顔を合わせ。小さく笑いだしていた。
「本当に、彼女が学園に来てから、騒動には事欠かさないな」
「そうですな……、口は悪く。負けん気は半端なく強く」
「一匹狼の如く。強い者にも平気で噛みつき。エリート意識の強かった、パレス魔法学園の学生達は、彼女1人に振り回されぱなしです」鼻っ柱をへし折られ。随分変わった……、まさにパレストア帝国に起きた、台風……、彼女はその目である。
ホーネリアに急き立てられ。馬車が走り出したのはそれから間もなく。それを見送った後。ローレイ商会の者に。海中船が来るか見張りを頼み。ピアンザ達は、目と鼻の先にあったカフェ・ブルーで、一息着くことにした。
……パレストア帝国でも、カフェ・ブルーは人気である。妻を伴い。配下に内緒で、訪れたことも一度や二度ではない。最近では、国や町によって飲めないお茶。珍しい特産品でのケーキは。老若男女問わず。人気である。
中央大陸で名産のバター茶を頼む。やや癖のある匂いさえ慣れれば、身体の疲労回復が早く。疲れてる時は気持ちをホッコリさせてくれた。
西大陸では、魔神の脅威が減りつつあるが……、強大な力を持った。数体の魔神がいて、各地にダンジョンを造り上げ。自分の領土とし。魔物を使って、盗賊のような真似をするから、対応に苦心していた。王の立場では、自ら危険に手を出すわけにはいかず……。
「リルム………」
あれは自分に似て、何でも背負いたがる。それが此度の白の民の暴走を止めるべく。旧友ギラムに相談していたと知ったのは、中央大陸に着いてからで━━、いたく肝を冷やした。
「ハーミュア様!、リルム様とギラム将軍が……」
ローレイ商会の者か、慌てて報せてきた。
「陛下。ひとまず安心ですな」トロンが、気遣うような視線を送る。
「出向くとしよう……」
穏やかに微笑み。ハーミュアとトロンは、安堵の笑みを交わす。
「最悪の事態だけは、避けられたようだ……」
安堵したのも束の間。リルムとギラムから……、海中都市にて、行われた白の民達の振る舞いを聞いて、流石に顔色を無くした。
「お父様……、ひとまずは、管理の塔を、完膚なきまで破壊しましたが……」
先見の鋭い娘のこと、ピアンザと同じ。懸念を抱いたようだ。
「愚かな……、この先……、海中都市の白の民に。注意を促さなければ」
「陛下……、ここは中央大陸、好都合ではありませぬか?」表情を引き締めると、決意を固めたハーミュアが、
「自信ありそうだなハーミュア?」
同僚のトロンに問われ。にこやかに笑みを浮かべ。
「世界議会の場で、オーラル様に、注意を促して頂きましょう。さすれば抑制が、期待出来ます」「なるほど……、確かに陛下が、世界会議で述べるのは角がたちますが、オーラル様ならば、上手く纏めて下さるだろう」
トロンと、左将のジン・ゲルマンとは、義兄弟の契りを交わした中で、飲み友達でもあった、お互い女性が苦手であったのだが……、ジンが結婚して、子を成したと、いたく喜んでたのを思い出した。
「そうだな……、オーラルには、世話を掛ける……」チラリ。娘を朗らかに見て、優しく笑むと、リルムは、ほんのり赤らめつつ。小さく笑ってくれた、
「ギラム世話を掛けた、エルマ……これからも頼む」
旧友であるギラムと、娘のエルマに頭を下げると。エルマはさすがに驚き、ギラムはピアンザの肩を叩いて。慰める。それだけで、二人には通じた。
「陛下。私は馬車の調達に参ります」
「うむ、頼んだ……、リルム時間はある。久しぶりにお茶でも。一緒に飲まぬか?」
精一杯の優しさ。不器用な父の誘いに、くすぐったく思いながら。
「そうですわね~♪。お腹も空きましたし。エルマはギラム殿と久しぶりに一緒にいなさい。私は父様とデートしてきますから♪」からかうように笑うリルムに、ギラムとエルマ父娘は顔を見合い、照れ笑いした、だまからリルムはクスクス笑い出す始末。
「おっ、お嬢……」
どちらかと言えば、ブラコン気味のエルマである。嬉しい反面。恥ずかしい気持ちが勝る。
「行きましょう、父様♪」
「あっ、ああ」
戸惑うが、腕を娘に引かれるのは、満更でもない、苛烈で知られる。帝国の王には、最早見えなかった。
━━輝きの都プロキシス━━。
少し前……。
多くの要人が、泊まることになる。西の屋敷。大きな城と呼べる広さ大きさに。中では一堂会する大食堂。個別の部屋で、食事も可能で、勢を尽くした。豪奢な部屋ばかりである。夕方まですっかり寝入った、フレア、シアン姉妹は、お昼頃━━それもかなり過ぎてから起きて。使用用に案内され帰宅した。
「あら二人とも。お帰りなさい♪」
「ただいま母さん」
母はすっかり。イライラが消えていた、以前の穏やかな優しい顔をしていた。それから父と久しぶりの再開を果たして、昼食の席で、
「二人とも……」
父から竜が降りると言う話を聞いて、父と会話を楽しみながら。父の言葉に甘え出掛けた、
母には悪いと思うが、姉妹にとって、大好きな父と、一緒に要られる時間は、得難く。カフェで寄り道を挟んだりで。竜王の姿に感動したりと。三人が屋敷に帰宅したのは。すっかり暗くなってからだ、
晴れやかな笑みを口元に浮かべ。姉妹と夫を出迎えるシルビアに。
「ただいま」照れ臭そうに。帰宅を告げるや。ほんのり頬を緩ませ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お帰りなさいあなた。食事の支度は済ませてありますわ。二人には、先ほどオーラル陛下から、連絡があり、コンテスターの演目を披露する。場所と日にちが知らされて来たわよ」
姉妹は晴れやかに微笑み。表情を改めて、強気な眼差しをお互いの顔から見出だし。頷きあうや、震えそうになる手で、書簡を開いた、
━━世界議会の行われる。開会式の宣誓と世界平和を願うため。リドラニア公国で、新しく配備される。機械竜のデモンストレーションを、次代の王ブライアンが行い。
その後……。東にある竜舎の前。普段は兵の訓練場だが、市民に解放される。今はコンテスターの演目を行う会場が、急ピッチで作られていると書かれていた。
「姉さん……これ…」
「ええ……、流石は先生ねクスリ……」
二人に宛てた手紙が添えられていて。
『我が、輝かの都プロキシスは、コンテスターの育成を正式に可決した。よって、特別講師として、二人には毎年の夏休み。我が国に来てもらいたい。なお来春から、二年に一度。コンテスター世界大会を行う事が、予定されている』
詳しい内容は、世界議会の場で、決められると言う。
「姉さん!」
「うんうん!」二人が、嬉しさを隠せず。はいタッチを交わした。
「オーラルは甘いわね~」
娘達の喜びように。呆れた顔は崩さないが、満更でもない。後二年足らずとは言え。姉妹と供に。シルビアも。中央大陸に訪れる口実が出来る。それはシルビアが、夫に会いに来やすくなる。そんな優しさすら感じたからだ。
「さあさあ、ご飯食べましょ」
「そうだね~、フレア、シアン、君たちは僕の自慢だ」
愛しい気持ちで、父から褒め称えられて。二人は熟れたトマトのように。真っ赤になっていた。
━━西の街道沿いにある。中継の町アセイラ。古くは……、太陽神アセードラの神殿があった……、打ち捨てられたように。神殿の中はくすみ。魔物の血で穢れ。毒に汚染されていた土地には……。
現在町を囲むように。12の神々の神殿が造られ。太陽神の神殿も美しく。改装されていた、世界中から、次代を担う。司教が集められ。日々大地の浄化がなされていた……、首都で行われる世界議会━━。
魔人の王レイアスが、再び事を起こす可能性は高い。オーラル国王の内々の指示があったのは、今から一月前になる。
「ガルシア戦士長、サノビアが、参りました」
鷹を思わせる。獲物狙うような風貌。大地の女神アレの司教で。実質中央大陸で、アレイ教徒のトップに君臨する要職にある。ナギ・グレンは、アレイク王国で、エレーナ大司教の右腕と呼ばれた切れ者。フロスト騎士団の副団長を勤めていたが、エレーナ大司教とオーラル国王に請われ。なり物入りで就任した重鎮である。
「通せ……」
厳しい声音に、僧兵は背筋を伸ばし。直ちに呼びに出た。本人に自覚は無いが、見た目が厳し過ぎる風貌のため。怖い印象が強い。さほど何の感情も抱いて無いのだが……、渋い顔をした。
「ご苦労……、シンク様の護衛……、サノビアは随分息が荒いな?、大変だったのか?」
疲弊した二人を訝しげに見る。
「しっ……、失礼した…、シンク様に気付かれ……」
「……なるほど……、噂のリナ様か?」
渋面になりながら、理解を示す。ナギは何度か、ミリア親子に会ってたからだ、
「楽しかったようだな、サノビア君?」
「えっ……、そっそんなことは」
「ゴホン……、サノビア……、顔がにやけてるぞ」
同僚のガルシアに言われて、慌てて顔に触れて、赤くなっていた。
「リナ様は、物怖じせず。人を外見で判断しない。聡明な子だ。良かったねサノビア君」
翼人達の負い目、人間の負の感情……、神の子である自負から。12神殿の使徒は、普通の人より。翼人に寛容であり。闇の女神カーレルから帰依した、一部の翼人を受け入れてすらいる。中継の町アセイラから。北の山脈にある。翼人の国と。僅かだが国交があるのは、アセイラだけである。翼人でありながら。アレイ教徒となった二人は、数ヶ月ぶりにシンク王子と会った。困ったことに王子は、父オーラル殿下に劣らず。鋭いお方であり。以前から二人に気が付いていて、顔見知りであるらしい……、護衛としてどうかと思うが、まあ良しとするしかあるまい……、
「3日後。世界議会の開幕と、魔法討論会に来る。各国の学生、重鎮やその家族の為。来春婚約なさる。オーラル殿下の弟君ブライアン様、ケイタ殿の噂の姉妹が、レセプションを行う。翼人を代表して、そなた達は明日。ブライアン様と警備の打ち合わせをしてきてほしい」
訝しげに眉根を寄せるガルシアに、小さく頷き。
「ブライアン様は、リドラニア公王とならされる方なのだが、新たな装備。機械竜の御披露目をなさる」二人はキョトン首を傾げた。
「聞き慣れぬだろうな……、正直私もだ。詳しい内容はブライアン様に直接訪ねてほしい。オーラル陛下からも。空の警備をブライアン様と、そなた達に一任すると名言されていた、あの方は嘘は言わぬ。原理は解らぬが、空を飛ぶ兵がいると、考えておくがよい」
「……解りました、してブライアン様とは、どのような方ですか?」
納得はしてないが、ナギは、信用に足る人物である、二人も数年の付き合いで、理解していた、
「シンク様をやんちゃにしたお方だ、しかも技術者と言うが、偏屈ではなく。優しい人だ、オーラル陛下にとても似ている」二人は顔を見合せ。微妙な顔をして小さく苦笑していた。
━━中継の町を一望出来る。切り立った山頂の洞窟……、魔人王レイアスにかしずく5名程度の翼人達は、不気味な杖や武具をそれぞれ手にしていた。今は亡き7神官の1人マローダの遺作で、死者の神アレビスの骨破とアンデットドラゴンの骨を。錬金して、産み出した。闇の宝玉を加工した死者の杖のレプリカ達で、断片的ではあるが、死者を復活させたり、闇の魔物を呼び出す力を持った、凄まじい品々である。レイアスを敬う闇の女神カーレルの信者。それぞれ闇の司教ロンゾ、闇の司祭クラリア、闇の侍祭アルバス、闇騎士セザン、闇の詩人ライウの5人は、7神官の兄弟や妻達であった。「狙うは……、世界議会開催日よ……、闇の女神カーレル様を。復活させる!」
5人は静かに頷いた。多くの翼人は、口惜しいことに。卑しい人間ごときと。共存など言うのだ、賢しいことだ。憤りすら感じた。
「我こそ赤の民の王である!、卑しき人間から、世界を取り戻し。全ての人間を。全滅してくれようぞ。あの憎っくきオーラルから血祭りに挙げてくれよう!」
皺が目立つ手にある。死者の杖を握りしめ……、魔人の王レイアスは呪詛を呟いた。
エピローグ
━━━南大陸、元世界最大の国。華の国ダイナ……、名の通り。色彩際、様々な花々が、四季に咲き乱れる。世界で一番美しい国と、呼ばれていた……。中央大陸の事件。三体の擬似神による猛攻の前に。滅んだ……、僅かに生き残った人々は……、7神官の1人。魔人マローダの狂喜は、新たなる闇を産み落とした。
マローダの願いは……、自らの力で、神を産み出すこと……、意思を奪った双子を操り。人々を集め。餌にして……、一体の女神を作り出した……、死者の神の骨を錬金して産み出した、ダークマターと竜の心臓、生きた人間10万人を、生きたまま焼き払い。薪として炉の為の生け贄にして……、新たなる擬似生命の。力として組み込んだ。それこそが錬金術の真髄。等価交換の法則である。神を創るには……、それでも足りないから……、この地に溢れた、巨人族をも薪として、炉にくべた、そして生まれた女神。母の女神と言うべく。一体で無数の子を産み出す女神アントン。暴食と欲望の化身であり、世界を喰らい尽くす。ウロボロスの蛇神の因子を元にした存在である。
抜けるように。白く滑らかな肌は、白磁のような美しさを放ち。白銀色の髪が、少女から女と変貌した、アントンの胸元を隠すように流れ。足元に広がる無数の贄が放つ。臭気にありながら、清廉な印象すら与える……、 「クフ……、愚かな赤の民が動き。世相を乱すがよい。そのスキこそ。我が子達を増やす好機」
長年隣国である。軍国ローレンの精強さに。兵を増やす前に。減らされ……。辛酸を舐めてきた。
何としても。中央大陸に渡り。新たなる神として君臨する。それこそが、父の願いである。アントンは父を愛していた。だから遺骸を喰らい。新たなる子として、産み落とした……、
女神アントンの小さな胸を、形が変わるほど、強く握り……。後ろから、激しく攻め立てる。快楽に。恍惚となりながら、我が父にして、我が子のマローダの精を受け。ビクリ……、背を反らす。
「……マローダ……、もっとだ、もっと母に精を与えよ」
「……ハイ………」
感情を失った。生きる従順なる者は、かつて……、赤の民の7神官であり。賢者と呼ばれた魔人……、従順な、女神アントンの情夫と成り果てた……。魂亡き。女神アントンの為の伴侶として……、ただそこにある存在。愛しそうに……、マローダの顎に触れ。再び激しく攻め立てられ。快楽に溺れ。その眼は、欲望に揺れる。
魔人王を倒したシンクは、若き英雄と呼ばれるようになった。しかしそれが……、本当の災厄の前哨戦でしかなかったことを知る。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。




