閑話竜に選ばれましたが何か?
プロローグ
6年前……。
魔人の王レイアスの策略により。プロキシスに遊びに来ていた。リルム姫の乗ってた。馬車が襲われた……。からくもリルム姫を救ったのは、出迎えに出ていた。シンク王子の功績だ……、
しかし……、あまりに代償は大きかった……。
シンク王子は、死者の杖で、右腕、左足に。呪いを受けて、生死をさ迷うことになったのだ……、
唇を噛み締め。自分の無力感に。苛まれ……、リーラはうち震えた━━。
妻の苦悩を知りつつ。オーラルは決断した、
「シンクの右腕。左足を……。切断する」
ハッと顔を上げた拍子に。雫石が宙を舞う。
ヨロリ……。
嫌々をするように。頭を降る妻の身体を抱き締め。
「シンクを救うには、それしかない……」
「……貴方……」
張り詰めた物が、切れたように。気を失っていた。
「……父さん……、母さん眠ったの?」苦しい息の中でも。母に苦しむ姿。見せないようにしていた、優しい。愛する息子……。
「ああ……、シンク聞いてたな?」
厳しくも労るような父の声に。
「うん……」
「シンク……、お前は手足を失うハンデを負うが、俺はお前を誇りに思う……」
力強く大きな手で、シンクを労るように。優しく頭を撫でてくれた。くすぐったいような。温かな気持ちが、胸に広がった……。
安堵の眠りについたシンク……、
取り乱したい気持ちを。オーラルは気力を振り絞り。押し殺し。シンクの為に……、謁見を選んだ。
しばし隣室で待つと、間もなく、彼等が到着したと告げた……、
三賢者と呼ばれる。パルストア帝国宰相ゼノン。
軍国ローレン軍師デーア・オルトス。
アレイク王国宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバである。入室してきて、厳しい顔をするオーラルを認め。来年から我が輝きの都。プロキシスの宮廷魔導師を引き受けてくれたケイタが、沈鬱な辛そうな顔をしながらも。顔を引き締めた。
「オーラル。リブラさんから、竜の骨と牙。竜王プライムの鱗が提供された。僕達で何としても。疑似生命を持った義手。義足を作ってみせる」
友の苦悩を思い。ケイタが鋭く決意を述べた。
「ケイタ……、世話を掛ける」
「オーラル陛下。我が国の姫を助けて頂いたご恩。ピアンザ陛下に代わり。お礼を申すと共に。我が有する知識を絞り出すつもりです」
先代の魔王ヒザンの右腕であった、稀代の賢者は、老いを感じさせぬ。かくしゃくとした。刀を思わせる。鋭い印象の中。労る眼差しを相貌に宿した。
「オーラル陛下……」
暗い眼差しは、この数年で変わり。賢者として、またはローレン学園の長として、復讐の呪いから解き放たれ。教師のような。厳しくも力強い面立ちになっていた。
「デーア……、多忙な中。済まない」頭を下げるオーラルに、戸惑いを浮かべるデーアが、声をあげようとしたのを、ケイタとゼノンが、肩に手を置いて止め。
「貴殿は、オーラル陛下に救われたと聞く。なれど今は肝に命じ。オーラル陛下の礼を受けられよ。それこそ賢者と呼ばれる貴殿の勤めであろう?」
重い言葉に。息を飲んで、ゆっくり目蓋を閉じて。静かに頷き。
「陛下。若輩者ですが……、我が知識。必ずや役にたちましょう!」
静かに決意を述べた。彼等が我が子の為に集まってくれた。その事に。二人の友に心から礼を呟き。幼い顔立ちの姫を思いやる。
翌日━━━。
造船と機械の国ジエモンから、技術長のサノエ・フォンが呼ばれ。レオールから、父リブラと母ララが、一頭の雌竜を伴いやって来た。雄壮な竜王プライムに寄り添う。白銀の美しい竜は、未だにプロキシスでは話に上る。
サノエは早速。二匹の竜から鱗を貰い。リブラが持って来た竜の牙、骨を加工して、手足の骨格を形成した。さらに人間の皮膚に似せた。加工はケイタとゼノンが、本物の手足の如く。生命力を与えるのは、デーアの魔導兵技術が役にたった。世界で唯一。意思を持った義手。義足が出来上がったのは。事件から、一月あまりが過ぎた頃だ。その間。シンク王子の右腕と左足は、手術で除去され。あまりに強い呪いを封じるため。ピアンザが訪れて。魔王の杖に封印してもらった。
まずシンクの事を考え。手足を失うことによる。精神的誤差が、脳に与えられるストレスにさらされる前に。義手。義足が取り付けられ。訓練が開始された。
ゆっくり。ゆっくり。手すりに掴まりながら。一歩。一歩。前に進む……。
痛みは皆無だが、異物感は強まり。重石を付けてる気がしてバランスを崩すのだが……。最初は失った手足の喪失感に、不安を覚えたが、取り付けて動かす訓練。右手を使って食事の訓練をした。多少の違和感はあるが、どうにか動かす事が出来た喜び……、シンクは皆に感謝を呟いた。
だが……、
「ふっ……」
意識を強めないと。右腕は動かない……、
意識しないと左足は、前に進まない……、
感じるのは強い徒労……。
少しでも。気を抜いた瞬間━━。
足は引き摺り。前に進まず。腕は……、手すりを掴む指から力が抜けて、ドサリ……、顔から転けた。
「あっ……」
伸ばしかけた手を。ギュッと握りしめ。リーラはシンクを抱き締め。慰めてあげたい気持ちが溢れたが。ぐっと唇を噛み。耐える。今は辛くとも……。シンクのためだ、そう言い聞かせる。母として……、これ程辛いことは無かった。
大地の女神アレの大司教と言えど……、自分の無力を痛感した……。
夫オーラルは妻の心情を察して、数日前━━。
『リーラ大司教……。国王として誠に申し訳ないのだが、シンクが義手。義足に慣れるまで、側にいてほしい……』
公式に頼まれ。嫌とは言わせない。強引でいて、思い遣りのある夫の頼みを、快諾したのは言うまでもなく。夫はその分……、多忙になること、申し訳なく感じたが、今は一瞬一瞬を大切に。シンクを見守りたい。母として、側にいてやれるのも今だけ……。そう考えるだけで、胸がギュッと締め付けられる。だが……、見守りたい。少しでも。力になりたい。それが母として出来る事だから……。
息を切らせ。痛みに耐えていたシンクは、無論父の優しさ。母の思いを理解していた、歯を食い縛り。萎えそうな気持ちを奮い立たせ。大好きな少女を悲しませない為に。気力を振り絞る。苦心しながら、どうにか歩けるようになったのに、一月を有した。そんなある日。祖母に誘われ。祖父のいる。竜舎にお弁当を携え。向かった日の事。
「ララばあちゃん~。最近じいちゃん見なかったけど、忙しいの?」
疑問を投げ掛けると、やんわり優しく目を細め。
「行って見ると判るわ。男の人は、どうしてああなのかしらね~」
意味深な祖母の呟きに、首を傾げた。
竜舎は街の東にあって、兵の訓練場に使われている。今の時間ならば、兵達も昼食休憩してる頃か、竜舎は、リブラじいちゃん専用に。馬小屋を改築した物だった。しかしレオールからの使者は、竜に乗ってくる為。
頻繁に使われる事から。手狭になり最近。大きな本格的な竜舎が隣接され。従来の竜舎は、竜騎士が寝泊まり出来るように、居住スペースになっている。リブラとララは、二人で竜舎に住んでる。来週にはレオールに戻ると聞いてるが、長期の滞在は、両親の為ではなかったか?、シンクはそう思ってたのだが、竜舎に入ると入り口で、青く輝くような。雄壮な美しい竜鱗を煌めかせる。竜王プライムが、丸くなって寝息を立てていた。二人の気配と臭いに気が付き。ゆっくり首をもたげ見下ろすと、ララを認め。警戒心を解いた。
「プライムが警戒している?」
驚くシンクに、ゆっくり首を近付け、臭いを確かめ。驚いたように目を開き、ララに意味ありげな顔を向ける。小さくララは頷き。「シンクはあなた達のお陰で、手足を得ました。ありがとう」
猫の喉なりのような、遥かにそれより大きいが、喜んでるように響いた。すると━━微かに義手、義足が反応したような気がした。
「あの人は、またクレアの側かしら?」
「クレア?」
きょとんとした孫に気が付いて、そう言えば……、シンクは知らないのだと思い出す。
「シンク……」少し言葉を選びつつ。祖母から、竜王プライムが連れてきた、雌の竜がいたことを告げた、さらに卵を産んだことも……、
「あの人たら……、クレアに付きっきりだったのよ。それは貴方が無事に産まれたと聞いた時みたいにクスクス」楽しげに笑われ。少しだけ気恥ずかしく思う。
「それでプライムが、警戒してたんだね」
納得した、普段の竜王は悠然と身構えてたから、落ち着きの無い姿は珍しいのだ、
「予定日では、レオールに戻って、産むはずだったんだけどね~。 初めての旅だったから」
なるほど……、どうやらシンクの勘違いらしい。
「貴方の事があったから、プライムには無理を言ってしまったわ」
やんわりシンクの頬を両手で包み。クスクス笑う祖母は、半分拗ねたシンクに気が付いて、理由を教えてくれたのだ、
「プライム……、ありがとう」
━━グルル……。
心配そうな、理知的な目をシンクに向けていた、
「ブライアンは、大丈夫なの?」自分が大変な時でも。相手を思いやれる。孫の一言に。懐かしい気持ちになった。
「ええあの子は大丈夫よ。貴方は本当に。オーラルの小さい時に似てるのね」
祖母が唐突に言い出して、シンクは戸惑いながらも。敬愛する父に似てると言われ。嬉しくなった。
「そっ、そうかな……」
あまり言われた事が無いから、戸惑いつつ訪ねると、小さくクスリ笑われ。
「困った時に、右目を隠す癖まで似たのね」
「あ~う……」
癖まで指摘されて、真っ赤になっていた。
━━最初に……、感じたのは、細やかな思念だった、
━━チカラ……なる……、
━━タスケル……、
とても拙いが、優しく。誰かを思いやる心を感じた、
……ダレヲタスケタイノ?、
2つの小さい思念に問うのは、幼い辿々しい思念。
……シンク……、
……シンク……、
2つの思念は、一生懸命知らせる。まるで幼い思念の者に、助けてくれと言うように……。
白銀の竜クレアは、驚いたように、黒い目を細め。優しく抱き締めていた卵を見詰めていた、
そして……、
二人の人間の気配がした、微かに知ってる臭いと……、
エピローグ
ピシリ……、
卵にヒビが入る音がした、
『シンク……、シンクね』
幼い思念は、真っ直ぐ入ってきた、少年に向かっていた、
「えっ?、今の声は何」驚いて立ち止まる少年は……、
『ようやく会えたね~。シンク♪』
殻を破り。小さな頭を出して、円らな真赤の目をじっと少年に向け細めた。母竜クレアは理解した、娘は産まれた瞬間から。相棒を決めていたのだと、そっと娘に頭を刷り寄せ。小さく唸ると、返事をするように、生まれたての白銀の竜は、理知的な目を細め、母竜を見上げた、
『私のパートナーよ~』
呆れたように嘆息する鼻息は、シンクの髪を揺らす。戸惑うシンクを、小さな白銀の竜は、仕切りに呼ぶのだ、
『シンク~♪私のお兄ちゃん』
━━後に。瞳の色が、綺麗な真紅色をしていたのもあり。クレアの娘と言うことで、シンクは、シンクレアと名付けた。本当の兄妹のように。成長していくが……。それはまた別の話。




