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少尉ですが何か?  作者: 背徳の魔王 人と話すうちに性格から行動パターンを読み取り。隠された本性を暴き。時に未来を予言することからリアル魔王と呼ばれ。材料と調味料の分量で味がわかるので、絶対味覚と本人が詐称する一般人
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学年ランキングでした、厳しいですね後編?

ノノフレイミは、学年ランキング最下位と。本来の力も出せず意気消沈していた。同じ部隊にはフィア・ガイロン、ヒナエ・バウスタンのランキング上位の二人がいるのに……。

プロローグ



━━好評泊した傭兵戦も終わり。早くも学年ランキング前期の佳境に入る。

各学年では。上位10名以外の星取り戦が苛烈を極め、中位にいる生徒による。下位生徒が狙われる現象が起こり始めた。学年ランキング戦は一戦ごと勝敗ポイントが、個人と部隊に加算されるためである。



ノノフレイミ・ラネスは、ブッチギリの最下位である。


彼女は、今年入学した一年生の中でも、弓の腕前凄まじく。

試験ではAAを取る実力者だ、

彼女は自信満々に『総合武術大会』に出場して、シンクに破れ。あっさり敗退していた……。


期待の新星……、


そうなる筈であったが……、

赤毛を。左右お下げにして、地味な服装。前髪でおでこを隠し。何時も自信無さげに、下を向いてるからか、綺麗な顔立ちをしてるのに、損をしている。

それでいて……、気が弱いくせに短気な性格が災いをし、いざとなると失敗してしまう、残念な女性であると発覚した。ノノフレイミの同じ小隊には、1位のフィア・ガイロン、2位にヒナエ・バウスタンがいる。その為肩身が狭いのだ、

「はあ~……」

一年生の疑似国黄色い旗がはためき、鎧の紋章が刻まれていた。

今日も負けで遂に79連敗更新中である。

「どうしたノン?」

部隊長のフィアが、心配そうな顔をして気遣う。せっかく自分の実力を認め。誘ってくれた彼女に申し訳なく思い、

「はあ~……」再び重々しいため息が漏れ出た。

さすがに理由が分かるだけ、困った顔を浮かべるも。彼女の気持ち。不安や憤り。焦りは理解していた。それが気持ちの問題だということも……。気持ちばかりはフィアにもどうしょうも出来無いのだ……、

「すっ、ステキ過ぎますシンク……」

昨夜の傭兵戦を思い出したのだ。ヒナエの夢見る眼差しに。フィアは苦笑隠さず、ガクリと肩を落とした。最近ヒナエの奇行が目に付いてきた、

「ん……、待てよ?……、任せてみるか」

都合の良いことに。明日みんなと出かける予定だ……、何だか悪い考えではない気がした。



━━学園には毎週末1日の休みが、設けられていて。シンクは学園に通う間。伯母夫婦の店を手伝うことを日課にしてたが、事情を話して……、今日は休みにしてもらっていた、



━━朝早く起きたシンクは、簡単につまめるサンドイッチと昨日焼いたクッキーを用意する。さらに冷たいお茶とオシボリ、小皿、ホーク等、魔法の品である圧縮リックにしまうと、あれだけの量が入ったとは思えない。コンパクトな小ぶりなリック入る。これは父オーラルのお古をプレゼントされた物で。本来中に右腕、左足の予備とメンテナンス工具が入っている。それを引っ張り出して、魔法のリックだけ使う。中はちょっとした押し入れ位の広さがあり。人も二人まで入ることが可能な便利なマジックアイテムである。まだ起きてこない伯母夫婦と。可愛い妹のような、リナの朝食を用意して。待ち合わせ場所の朝市がある。中央公園・南入り口に向かった。



━━━中央公園・南入り口には、金の髪を後ろで束ねた。ほっそりした面立ちの少女レイラ・バレス、彼女の隣に栗色の髪を短く耳元で切り揃えた。ちんまい少女クルミ・アルタイルは、大きなバスケット片手に、佇んでいた。



今日は週末、中央公園で朝市があるから、沢山の人出がある。二人が目印に使ってる林道入り口には、アレイク王国の救世主と呼ばれてる。女性の像が立っていて、二人が見てると時折。妙齢の女性が手を合わせに訪れる。救世主の女性の名は伏せられてるが、アレイ教の司祭であると言われていた。待ち合わせ場所として。学園の生徒は良く使う。



━━あの野外授業から……、二人は何かと一緒に過ごすことが増えて、友人関係を築きつつあった。料理が得意な二人は、グループのお弁当作りを引き受けていた、

「クルミさん。レイラさん」

氷を含む冷たい声音。二人が目をやった先で。ざわめきが上がった、荷の搬入に来ていた若い男性ばかり……、自分の仕事忘れ。棒立ちになっていた屋台の主人を、妻が呆れた顔で足を踏む光景があって、何とも言えない顔をする二人は。苦笑してしまう。

美しすぎると評判のリルムをまるで守るように。背筋良くまるで軍人のように振る舞うエルマは、凛としていて、麗人と表現がピッタリだから、二人が歩いてくると。まるで姫君の護衛のように見えた。だからではないが……二人が並ぶ姿は、まるで一枚の絵画のように栄える。

━━リルムの銀髪が風に靡き、太陽を浴びる度に。天上から舞い降りた天使が、翼を広げたようだと。つくづく感心半分。半分は二人がクルミ達を認め。ちょっと嬉しそうに。口元を弛ませた笑みを見て。何だかんだ良いながら、リルム、クルミ、レイラは良いライバル関係である。まさに好敵手との会合に。戸惑った人垣もやや落ち着きを取り戻したかに見えた……、

「あっ!、皆さんいました、フィア早く、早く」

騒がしい声が聞こえてきて、四人は顔を見合い。声がした方を見て、苦笑を漏らした。元気に四人を見付けて、手を振ってくれるのはいいが、跳び跳ねるヒナエ。重力を無視した豊かな胸が上下する様に。前屈みになる殿方の多いことか……、

比較的普通のエルマ、わりと着痩せタイプのレイラは余裕があるが、スレンダーなリルム。発育無しのクルミは、強敵が来たと、歯噛みした。その後ろから、悠然と現れたフィア・ガイロン。壊滅的な料理音痴で。不器用を絵にかいた彼女だが、着痩せタイプである。悔しそうにクルミとリルムは地団駄をふんでいた。

「お嬢………」

困ったように苦笑したが、同世代の女の子と集まるのは、それなりに楽しみで、フィアと目が会い、二人は軽く黙礼する。武人同士通じる物があるのだ、周りの視線に気が付いた二人とは違い。自分たちの魅力に無頓着な四人といると。何かと注目が集まるのは仕方ない……。

「みんなお待たせ~」

颯爽と現れたシンクは、優しい笑みをみんなに向ける。嬉しそうなヒナエが手をピコピコ振り、

「シンおはよう」

「おはようヒナエ」皮切りに。和やかなムードで挨拶してゆく。

「シンおはよう、良い天気ね」

「リルムちゃんおはよう、晴れて良かったね。髪形変えたんだね~。似合うよ♪」

大好きな人が……、僅かな変化に気が付いてくれた、氷が氷解するように嬉しそうに笑う。エルマは可愛らしいお嬢の様子に。小さく笑いを堪えてると、

「エルマさんおはようございます」

「やあ~おはよう」軽く挨拶を交わした。お互いの父が知り合いと知ったのは、野外授業が終わった後。父に手紙を送り。返信に書かれていて内容に驚いた……、

あの母とも生前交流があったと知った。

「シン!」

レイラは唇を綻ばせ。ハイタッチを交わす。それだけで二人には通じた。

ちょっとレイラを羨ましそうに見ながら。下から上目線のクルミが、ほんのり赤い顔して、咳払い等しながら、

「おはよう……」

「おはようございますクルミ先輩」

「うん……」間近に顔があり、困ったような嬉しいような。珍妙な顔をするクルミ。そっとレイラが背を押した為の嬉しいハプニングである。驚いたシンクだが、可愛らしい風貌の先輩の頭を気安く。ポンポン撫でてから、

「フィアおはよう」

「おはようリーザから聞いたが、ご活躍だったらしいなシンク」

「ん~。エドナ学園長にやられました」苦笑は隠せない。同じような共犯めいた顔をして、仕方ないと肩をすくめるフィア、幼なじみリーザと関わるから、それなりに経験もあったと推測出来る。

「皆さん行きましょうか」

気を取り直したヒナエに。背を押されて早速向かった。




━━南大通り。城門に程近い場所に。アレイク王国最大の大きな劇場があった、


広大な敷地の劇場は、あの悲劇の歌姫セリーヌの義娘で。演劇の女神と呼ばれたリレーヌが、最後に建設させた、音楽、演劇を魅せる。多目的ホールとなっていた。


さらに敷地内には、大小合わせ4つ劇場があり、中央にある野外ホールでは。無料の公演が毎日行われていて。主に出演するのは新人の。未来は女優。歌手を目指す卵達が、練習の成果を見てもらう。そんな場所である。

「演目まで時間があるみたいだし。早いけど。先に軽く腹拵えしとこうよ」

みんなが早い昼食をする場所に選んだのは、野外ホールが一望出来る。なだらかな段々が、一面づつ適度なスペースが作られ。芝生が敷き詰められていた場所の1つ。何故こうした作りにしたのか、リレーヌは野外公演を。人々に見てもらえる喜びを。演じ者に感じてもらう工夫であり。また天気がいい日など。家族でピクニック気分で、楽しめるようにと考えられていた、木陰。野外公演が見れる見晴らしのいい場所に決めて。シンクは早速。麻を織り込んだ敷布を。リックから取りだして広げた、7人が広がって座っても十分な広さがあって。有りがたく皆で座る。



━━劇場の敷地内。野外ホールの周囲には。ピクニック目的のお客目当てに。劇場が屋台が出店しているが、今回はシンク、クルミ、レイラが用意した冷たいお茶で喉を潤し。持参したお弁当を早速披露した。


レイラが持参したのは、南大陸産のお米で作った。おにぎりを皆に振る舞う、

「おっ……意外といける」

「食べやすいです♪」

初めて食べた人も多い、お米と言う穀物を炊いた物を、手で握ったと言われて、

「これなら私にも出来そうだ……」

フィアは目を潤ませ。リルムの同意を取り付けた。

「よっ……、良かったらこれも食べて」

おずおずクルミがバスケットを開けると、色とりどりのオカズが、見事な色彩を放っち、食欲を刺激する。シンクがみんなにおしぼりを渡して、

早速鳥の唐揚げを小皿に取り分け、ぱくり……、サクサクした食感。噛み締めるたびに。肉汁がジュワリと口内に広がった。

「美味しい……」驚くシンクに、思わずクルミは小さくガッツポーズした。

「私も貰うよ」

シンクがリックから人数分の小皿を取り出したのを見て、流石に気になったエルマは、

「色々持って来てるようだが……、そんな小さなリックで、良く入るな?」

「あっ、はい、これはマジックアイテムで、僕の義手、義足のメンテナンス道具を入れてました、それを引っ張り出して、持ってきたんですよ~」

サラリと気になる事が言われて、リルム以外の手が止まる。

「シンク……、今気になること言わなかったか?、義手、義足と」

エルマは狼狽したように、眉を潜ませた。皆顔を見合わせる。シンクはちょっと驚き、ああ~と頷いて、ちらりリルムに視線をやると、「シン皆には、話しときなさい、彼女達は仲間ですから」

恥ずかしそうにツントそっぽを向いていた、そんな幼なじみの様子に、小さく笑みを向け。

「実は………」

小皿を渡しながら、シンクが幼い時の怪我で、右腕、左足を失ったことを告白。武人なら分かる苦労に気が付き、フィアとエルマは目を合わせ。顔を青ざめさせていた。クルミなど息を吸うことすら忘れ、蒼然と身を震わせていた。

「凄いんですねシンは………、そんな状態から、私やクルミさんに勝つなんて」

尊敬するあまり、シンクの手を握りしめ。胸元を強調する服装だから、たわむ胸に赤くなり。目線を外すシンク。そんなことお構い無しに。歓喜のあまり今にも抱き着きそうなヒナエ。別段驚いた様子が無いのは、幼なじみのリルムとレイラ……、意外そうな目をリルムが向けると、

「あの島で抱き着いた時、気が付いた」

なるほど……、流石は女性初の『オールラウンダー』候補である。僅かな異変に気付けるとはと。感心していた、

「私は、良かったと思っているわ」

レイラの呟きに、思わずリルムも同意を示した。ハンデがありながら、この中の誰よりも強く。優しい少年それだけに、万全な状態では、手助け出来ないではないか……、それは女性として、面白くない。二人は共犯めいた、面映ゆい笑みを交わした。とても似ている能力ゆえ、相反するが、なんとなく付き合いは長くなる予感はあった。

「シンク……、そのなんだ……、話てくれてありがとう……」

本来話すのも躊躇われる秘事。信用されたと感じて、クルミは嬉しそうにはにかむ。

「でっでも、てっ手加減はしないからな」

二人が毎日行う。早朝の訓練話であろうか、

「ええ、望む所です」

もっと周知の事実。エルマも一度は手合わ願いたいと考えていた、

「そうだエルマさん。夏休みに行われる世界議会に。ギラムさんもいらっしゃるそうですよ」

「えっ父上が?」

緑かかった髪が目に掛かるほどの勢いで振り返る。驚いたようだ。

「久しぶりにギラム殿に会えますね」

何気なく振ると。エルマには珍しいことに。俯いて嬉しそうなはにかむ顔が印象的だった。

「それはそうとクルミさん、夏休み帰郷されるのですか?」きょとんと、いきなり話が向けられて、ややついて行けなっかったクルミは、食事を中断して、困ったような顔をする。悪いこと聞いたかとヒナエは慌てた。そんな友人を助ける訳では無いが、

「クルミさん、良かったら夏休み。家の別荘に来ないか?」急なフィアの申し出、驚きに目パチクリ面食らってると、ヒナエが手を叩き、うんうん頷きながら、隣で涼しい顔してる。

「レイラさんも御用が無ければ、ご一緒しませんか?」

「えっ、私もか?」

二人が顔を合わせ。くすり笑いあい。小さく頷いた。

「それはいい!、楽しみが増えるな」

今年はリーザが夏休みいない。毎年夏休みはガイロン家の別荘に行くのを迷ってたのだ。

「それはそうと、シンク頼みがあるのだが……」

ひとしきり夏休みの話で盛り上がった後。言いにくそうに、フィアは難しい頼み事を言ってきた……、



━━━早い昼食の後。7人はメイン大ホールで行われた、『愛と憎悪の嶺に』の舞台を見て、感情移入する彼女達の様子を横目に、シンクはフィアの頼み事を思い出していた、



ノノフレイミの特徴的な名前に、覚えがあった、

確か……、弓使いで、『総合武術大会』で、対戦したことがあった………。三矢さんやの秘技を難なく行った、高い力量の持ち主である。



━━弓の基本は、一合の矢をいかに早く射掛け、狙った場所に正確に当てるかである。また一度の弓技で、二本以上の矢を放つ技術は、確かに存在する……が、


的に当てるのも至難である。だが彼女は確かに……。シンクの急所を狙いたがわず。三矢で射抜く技量があった、あれだけの力量がありながら、学年ランキングで最下位と言うのだ、とても信じられない話だ、フィアは冗談を好む人物ではない。事実と言うことになる。話が弾み。一区切り着いたところで、

「フィア、僕に手伝えるか解らないが、明日ランキング戦終わったら、彼女と残ってて欲しい」

「やってくれるかシンク!」

安堵の顔をするフィアに、小さく頷いた。観察官の仕事に含まれると判断したからだ。



━━翌朝、何時ものように、財布を確認して、伯母の家を出て、南通りにある朝からやってる。屋台で揚げパン二個と冷たいお茶を購入。


歩きながら熱々の揚げパンを頬張り。至福の時を過ごした、それから日課のクルミと朝の鍛練を済ませ。何時もは教室に戻る所だが……、学年ランキングが行われてる。コロッセオに向かい、観覧出来る。観客席に入ってから。

現在の学年ごとのランキングが書かれた、新聞を購入。目を通しながら。試合を見た、何時もは広大なフィールドを用いた、戦略がメインであるが、個人ランキングでは、魔導兵を用いた武術大会。そう考えれば分かりやすいか、



個人ランキング戦とは、一学年10部隊ある。各部隊所属のエース80名による。二回対戦の総当たりを行い。勝率により優勝が決まるため。同じ相手と二回は、当たることになっている。一度負けようと、手の内が分かる後半の方が、激戦であり、星が取りやすい相手には、後半試合が集中する場合がある。仕方ない流れのようだ……、


一年の疑似国内ランキングでは、総勢70人の『特待生』が参加している。

前期で、138戦行われる。試合は、朝と午後に行われる。試合がないのは週末の休日。試験のある月初め。特別授業のある。春の野外授業と秋の野外授業の間だけである。ノノフレイミの試合は、午前二戦目。午後三戦目に組まれていて、各国で発売されてる。賭の倍率オッズは10倍と高い。いかに人気がないのかよく分かる。観客はシンクとランキング戦で稼ごうとしてる。『院』生だけである。初手こそ……、上手く立ち回り。相手を圧倒したが……、

「なるほど……、技巧はあるが、それに頼りすぎて、大切なことを忘れている…か…」

結論をだした。改めて職員室に立ち寄り。バレンタイン教頭に訳を話てあるお願いを聞いてもらった、

「お前のそう言う所。オーラルに似たのだな……」

しみじみ言われて、照れ臭く赤くなる。それからノノフレイミの成績。家族構成をバレンタインから詳しく聞いて。意外な事がわかり。驚き目を丸くしていた。

フレイミの父は、オーダイ将軍の子息。カルバン近衛連隊長の部下であった。弓の使い手だと書いてあり。幸せな家族に見えたが……、



問題はフレイミの母で……、散財激しくいだらしない性格で。夫に厳しく叱咤された挙げ句。逆恨みして、若い男と逃げた……、

「随分苦労されて……」

残されたのは母が残した多額の借金。屋敷を売って、どうにか払ったまでは良かった……、二年とせず父が病死。残されたのはフレイミと4つ下の弟……マイト、三人の少年の顔が思い浮かぶ。

「あの子のお姉さんか………」

詳しい家庭内容まで、補足が書かれており、僅かな蓄えで食い繋いでる状況であること、弓の師はいないほぼ独学であることを知る。

「細腕に、未来をかけてたのか。問題は師がいないこと……、大事な事に気付いていない事が、一番の問題だな……」

1人で重いものを背負うのは確かに、美談で。感動すら呼ぶが……、そんなに甘い考えでは、生き残れない。危険な世界は存在する。




━━午後からのランキング戦。ノノフレイミは粘りに粘って、結局撃破されてしまい。失意の底に落ちていた。

「ノン……お前に、紹介したい奴がいる、時間はあるか?」「えっ?、うっうん」

戸惑いながら小さく頷き。みんなが帰る中、フレイミを連れて、演舞場に向かった。



ブワリ……、


演舞場に入るや。髪を揺らす烈風を感じて、驚きのあまり二人は立ち止まる。

「やあ!、はああああああ」

烈迫の剣撃。重々しい轟音をたてた一撃を、紙一重で受けたのは何れも女性で……、片方は栗色の髪が印象的な可愛らしい少女は、大剣を片手で軽々扱うクルミ・アルタイル、相手は見たことないが……、緑かかった髪の麗人。長剣を巧みに扱い。あのクルミと互角に戦う姿をやや唖然と見ていた、

「まて!、そこまで」

金髪のほっそりした面立ち、彼女も見覚えがあった、

「レイラさん……」

やや驚きが浮かぶ。フィアは親しみを込めて、

「済まない少し遅れた、ノンこっちだ」

気後れしてたフレイミだが、緊張を隠せず。おずおずフィアの隣に立った。

「シンクは、まだ来てないようだな?」

ピクリ顔がひきつるのが自分でもわかった。サッと顔を青ざめさせ。身を固くしたフレイミの耳に、忘れたくても忘れられない声が聞こえた。

「遅くなりました」逃げようか迷う間に。逃げる機会を失い。オロオロ挙動不審になるフレイミを、シンクはにこやかに見て、

「早速ですが、フレイミさん、槍に興味ありませんか?」

「はい?………」

言われた意味がわかず。目を丸くしていた。

「貴女は、確かに弓の才能がありましたが、より槍の才能が高いと判断され。アレイ学園観察官の権限により。ノノフレイミは、これから一週間の間。ランキング戦出場を禁止します。そして槍の訓練を受けて貰います」

「ちょ、シンク!」慌てたのはフィアで、わなわな怒りの目をシンクに向けたフレイミの眼差しを、冷然と受け止め。

「なお断る場合は『特待生』から除籍しますので、良く考えてお答え下さいね」切り裂くような厳しい言葉、フィアとて言葉を失っていた。


ポタリ…………、突然の宣言に。大粒の涙を流すフレイミ。ギョッとした顔で、戦くフィアには構わず、キッとシンクを仇を見るような険しい顔を向けた、

「………分かりました」

それだけ返答残し。怒りを足に込め、振り返ることなく走り去っていた。

━━呆然と立ち尽くしてたフィアだが……、何かシンクに言うべく口を開きかけ。三人……、レイラ、クルミ、エルマが、当たり前の事を聞いたと、言わんばかりの様子に。眉を潜めるしかない。

「クルミ、エルマ、レイラ嫌な役目を引き受けてくれて、助かりました」

頭を下げるシンクに対して、事情を知ってた三人は、笑みを浮かべ。小さく頷き返した。訳が分からぬと渋面を隠せないフィアに、小さく苦笑しながら、

「ノノフレイミには………、荒療治が必要なんですよ」

そうは言われても納得が出来ない。

「しかし……」心配と不安相反する気持ちに、迷いは隠せないが、

「わかった……、お前に頼んだのは私だ……、頼んだぞ」

シンクを知るからこそ、信頼を込めて、フレイミのこと任せることにした。



……ズカズカ、勢い任せに演舞場から飛び出したはいいが、途方に暮れて、立ちすくむ。

「どうしよう……」

不安が、脳裏を駆け抜けた。父が残した僅かな蓄え。何とか今は生活出来てる………。ノノフレイミにとって『特待生』を辞めさせられる訳にいかないのだ、

いかな無理を言われても……、下唇を噛みしめ。悔しそうに俯いた。

「私に……槍なんて、出来るのだろうか………」不安ばかりが増した……、


ノノフレイミが住むのは、学園からも近い、通称職人通り、更に裏手にある。長屋である。主に金の無い苦学生、若い見習い職人、訳ありな住人が多く。フレイミ姉弟も住んでいた。

「ノンちゃんお帰りなさい。オカズ作りすぎたから、持ってきな」

「ありがとう、おばさん」

「ノン姉ちゃんお帰りなさい」

「コウくんただいま♪」

以前父親の事があって、一時期は随分荒れてたが……、両親思いの優しい少年に戻っていた。

「来週末ノン姉ちゃん。バザーのお手伝い行ける?」

「うっ、うん多分大丈夫だよ……」

無理に訓練しなくて良くなったから……、不安が頭をもたげたが首を振って、笑みを向けた。「マイトただいま……」

「お帰りノン姉」

優しい顔立ちのマイトは、赤み掛かった金髪のサラサラヘアーで、一瞬女の子と間違われる顔をしていた。コウ、マイト、商人の孫レンタの三人は、近所でも有名な悪餓鬼だった、三人が変わったのは、アレイ教が、運営する孤児院で、出会ったと言う。青年の影響である。先々週は三人で、孤児院のボランティアに出掛けたと聞いて、本当に驚かされた。



━━父が死んでから。塞ぎ込んで、一時期荒れてたあのマイトが……、優しい気遣いの出来る少年に戻って、姉として一度お礼を言わなくては……、

クスリ……、重い荷を降ろしたような……。

不思議な何かが胸中に広がる。人はそれを安堵と呼ぶ。フレイミは、何時もより早い時間。足取りも軽く。学園に登校してくと……、演舞場には既に、クルミ・アルタイル、シンク・ハウチューデンが来ていて、早くも体を動かし。試合いさながらの激しい打ち込みが成されていた、シンクが使うのは棒、対してクルミは代名詞の大剣での一撃。棒のたわみを利用して、強烈な一撃を、受け流して見せた。

「クルミ先輩。ひとまず休憩にしましよう……。フレイミさんが来ましたし」

「ん、仕方ないまた明日なシン」

少し残念そうな、それでいて、名残惜しそうな顔を隠さず。何故かフレイミを羨ましそうに睨まれた、訳が解らない……、演舞場を後にするクルミのことが、少しだけ気になった………、「おはようフレイミさん、早速で悪いけど、柔軟だけ済ませてね」

「はっはい………」

やや緊張して、同年代の男の子と二人きりなんだと思い出して、クルミ先輩の気持ちに気が付いた。もしかして……二人きりのデートだったのでは?、そう考えるとフレイミも女の子である。

……胸中がざわめく。何時も一人で、父が教えてくれた柔軟をやりながら、シンクの様子が気になり、盗み見てると、短剣、剣、双剣、長剣、大剣、弓、斧、槍、体術、一つ一つ技を確かめるように、体をゆっくり動かす反復訓練を見て、意外に思った、地味な基礎しかやらないからだ、柔軟を終えたフレイミに気が付いて、

「フレイミさん。これを使ってください」「はっはい」随分使い込まれた棒である。棒なら演舞場に沢山あるのに?、不思議に思いながら。ひょいと渡して来たから、気楽に受け取った瞬間。あまりの重さによろけた。

「良い忘れましたが、棒の中に。鉄が仕込まれてるので、扱いには気を付けてくださいね」

最初にシンクが教えたのは、棒を正しく持つ方法である。

「棒の真ん中を持ちます。次に水平にしたら。利き手と反対側を下にして。利き手は肩幅の長さを開けて、持ってみてください」

見よう見まねで、フレイミは調整しながら持っていると、重さが気にならなくなった場所があった。

「重さが、気にならなくなった場所を見付けたら。それがフレイミさんの正中線です。際も力が入り。物を持った上で、集中しやすい位置ですから、何度も心掛け。どんなときも出来るように。身体に教えてあげて下さいね」

「はい」

こうして人から何かを教わるのは、随分久しぶりで、少しだけ楽しく感じていた。それから基礎の型を幾つか学び。それをゆっくり身体を痛めないスピードで、何度かやるだけで、普段使われて無かった筋肉が、悲鳴を上げていた、全身から汗が吹き出し。僅かな早朝の時間だったのに……、不思議なほど静かな気持ちで授業に挑めた。



授業が終わり、演舞場に行くと。昨日会った緑かかった髪の女性が、金髪を後ろで束ねた、ほっそりした面立ちの女性レイラ・バレスと。試合形式の鍛練をしていた、どちらも素晴らしい技量の剣士だと見ていて分かる。

「二人の力量が、分かるようだな」

いきなり声を掛けられて。驚くフレイミに、下から上目線の栗色の髪のチンマイ先輩が、いつの間に隣にいたから驚いた、

「因みに。お前が来たときからいたよ、気配は絶ってたがな……」

目を擦りながら、改めて周りを見れば、何人か演舞場にいた、

「ようやく気が付いたか、朝も何人かいたのだぞ?」

フレイミの腰を軽く叩き。

「僅か1日だけで、お前は、彼等に気付けたな」

「あっ……」その通りである。何人か自分を見てると感じた。

「基礎は大切なんだ……、それはあらゆる体術、武術、剣術に通じている」小さな先輩の背を、フレイミは笑みを持って頭を下げていた。とても大切なアドバイスをされたと感じたからだ。



それから間もなくシンクがやって来て、穂先が木で出来た、訓練用の槍を手に。基礎訓練を行ったら……。同じ基礎なのに驚くほど槍が軽く感じていた。

一通り訓練を終えた後。

「今日1日お疲れ様でした。じゃ一服がでら、今日やった訓練について説明するね」

着替えてきたフレイミは、シンクと一緒に外に出ると。林道の涼しい場所に案内されて、いつの間にかヒナエとフィアが合流して、シンクから冷たいお茶とお菓子を振る舞わる、

「あっ、ありがとう……」

女の子としてどうなのかな、少し思い悩むフレイミを他所に。

「あらシン!、野立ですか?」

見るからに上級生と分かる。綺麗な女性が、笑みを称えやって来て、

「シアンさんお久しぶりです。良かったら一杯どうですか?」

「良いの?。ワア~焼き菓子もあるじゃない。小腹好いてたのよね有りがたく頂くわ♪」

嬉しそうに笑いながら、敷布に上がり。冷たいお茶を受けとる。

「さて話は脱線しますが、フレイミさん、彼女はシアン・イナバさん」

「よろしくね~」

「あっ、あのシアンさん、此方こそよろしくお願いします」

赤髪を、耳元で切り揃えた、お嬢様然とした風貌からは、信じられないほど、過激な性格であることが知られてる。魔法の天災……。プロのコンテスターとしても有名である。

「ではまず朝の鍛練は、フレイミさんに足りない基礎訓練と。癖の矯正のためにやって頂きました」

「癖……、ですか?」

予想外な言葉に。眉を潜めた。

「フレイミさんの弓技は、達人の域ですが、隙の多い大技ばかり多様するから、怖くないんですよね~」

ギクリとして、思わず絶句した……、血の気が引くのが自分でも分かる。

「フレイミさん。貴女なら言われてる意味分かりますよね?。読まれてる大技なんて。わかってればいかに達人とて、所詮は曲芸でしかありません」

その通りだ………、自分の豆だらけの指を見て、泣きそうになった、

「ちょっとシン!、それだけ言うのなら、解決策言わなきゃ虐めだよ」

シアンの突っ込みに、苦笑滲ませつつ。「本当は、最終日まで内緒にして、槍の基礎を学んでもらうつもりでしたが、みんな貴女が気に入ったようですし。貴女を信じてばらしますね」

あっ……、皆の優しい眼差しに今更ながら気付いた。今までのフレイミならば、みんなの優しさを誤解したかもしれない。もしもシンクが自分の頑なさを叱ってくれなかったら……。ようやく理解して、フィアがシンクに自分のことお願いしてくれたこと。素直に嬉しいと感じ、こうして自分のため。みんなが貴重な時間を作ってくれた有り難さを。深く心に刻んで。小さく頷いた。いつの間にかフレイミから、不安な気持ちと気弱さが消えていた。

「フレイミさんに、弓の基本を思い出して貰うためだったんです」

「基本………」

弓の基本は、立ち位置。正中線を……、ハッと息を飲んでいた………、

狙いを定め。ただ獲物を射抜く…………。理解の色を示した。

「槍の基本は、全ての武具の基礎に身体の動かし方が近いので。分かりやすい慌てる癖を矯正して貰うためでした」

ようやく……、シンクのした処置に理解を示し、晴れやかな顔をしていた。

「はい!」

心からの笑みをみんなに向けていた。




━━一週間が過ぎて……、ノノフレイミ復帰初戦。学園に登校した足で、シンクは観覧席について、三戦目……、今まで負けてたのが嘘のように……、フレイミは圧勝していた。

続く午後の試合も快勝して、ノノフレイミの快進撃が始まった。

「先週までの不調が嘘のような快勝だったな、おめでとうノン!」

手荒く仲間に祝福され、ノノフレイミは、鮮やかな笑みをフィアに向けて、

「ありがとうフィア!」

祝福してくれたフィアに真っ先に抱き着いた。驚いたフィアだが今までフレイミが、自分の感情を見せたことがなかったから。素直に嬉しかった。すっかり自信を取り戻した表情をしたフレイミと、もう一度抱擁を交わした、ランキング後半戦は手強いライバルになるのは間違いないだろう……、だから足元掬われないように、気を引き締める。



それに………、

このまま順当ならば、親友のヒナエと……、そう考えれば否応なしに力が入る。初戦はフィアが辛くも勝った、勝敗は勝るが、二回戦の結果次第では、夏休み前の最終戦。前期優勝決定戦が行われることになる。否応なしに気合いが入るのは仕方ない。二人は親友だが、同時にライバルでもあるのだから。




━━北大陸……、レオール、南にある。ターミナルの街。


10年前まで、小さな村であった、地下迷宮の復旧作業が進み。僅かながら、交流を断絶してた亜人の街と再び交易が再開され、近年は中央大陸、東大陸間の交易も増えたため。もうひとつの限界口の役割ゆえ。目覚ましい発展を遂げていた。

「リブラ閣下」

街をブラリしてると、顔見知りの土竜騎士、

「確か……、ボルト・ホウリつったけ?」

「はい!」

やや緊張を孕み、似た顔立ちの青年を前に出して、

「この度子息が、北大陸所属となりました、よろしくお願いします」

「ああ~確かにオーラルから聞いてたよ、実直で臨機応変な、優秀な人物だとな、名前は?」

慌てたように、背をただし。

「セナ・ホウリです。よろしくお願いします!」

ハキハキ気張った様子は、実に好感が持てた、

「セナか、良い名だなボルト」

「ありがとうございます」

頬を高揚させ、憧憬の眼差しで見られるのは、些か面映ゆい。まあ~それも仕方ないのだが、「あちらも大変なのだろ?」

労を労いつつ、間もなく開催される世界議会について、それとなく尋ねた。

「はい……」

二人が、思い浮かべたのは、魔人の王が、再びことを起こす危険を感じていたのだ、

「南の疑似神……、あれも問題だな」

「はっ、何れも気を引き締めなくてはなりません」

中央大陸、輝きの都プロキシスの土竜騎士団長と言う要職にある。ボルトならでは苦労があるのだろう。

「セナ、君は竜を知ってるかい?」

まだ幼さの残る。若いライダーは、大きく頷き。目を輝かせながら、

「シンク様のシンクレアの世話を。任されてましたから」

「おおシンのか、あの子は気難しかったろ?」お転婆で、悪戯大好き、甘えん坊なシンクレア。人語も理解出来。王に連なる雌の竜で、リブラの騎竜の娘にあたる。

「いや……、はい」

困ったように、でも素直に頷いた。

「君は、竜に好かれるタイプのようだな、ボルトさえ良ければ、子息に、竜騎士の試練を受けさせては如何かな?」

急なリブラの申し出に、驚きが、次に戸惑いは隠せない。

「しかしそのようなことが……」

いくら土竜騎士であろうと、セナは他国の所属である。

「今まではそうだが、土竜騎士には、竜と意思を交わせる能力が備わっている。あの子の世話が出来るなら、普通の竜は君を選ぶ、それに前例は君の前にいるさ」にやり不敵に笑う。生きる伝説リブラ・ハウチューデン、言葉の重みが違う。

「父さん……、俺、やってみたい!、土竜も好きだけど、竜も好きなんだ」

若い青年の裏表ない本音に、リブラは年甲斐もなく。嬉しそうに目を細めた、やや迷いを見せてたが、息子の真っ直ぐな眼差しを嬉しく思い。

「リブラ閣下……、よろしくお願いします」

「父さん」

力強く父に肩を叩かれ、目を潤ませる。

「じゃ~ギルドの方には、俺が伝えとくわ。竜の巣には明日から行け」

「はい!」

「住まいは、家に来ればいい、それでいいなボルト?」

「格別な配慮。痛み入ります」頭を下げようとするボルトの肩を抱き。

「なあ~に、せがれが一番頼りにしてる。友人の子息だ、気にするな」

狼狽したが、静かに男臭い笑みを浮かべた、そんな父の背を、英雄を見るような目で見るセナに、オーラルの小さい頃を思いだして、シニカルに笑みを張り付ける。オーラルがわざわざ、ボルトの家族を逃がす理由は、差し迫った状況にあると見ていい。またまた厄介なことになりそうだ……、




━━週末。怒涛の12連勝を飾ったフレイミは、意気揚々と弟のマイト、近所のコウ、レンタと共に、中央公園に向かっていた、三人との約束で孤児院の手伝いをするためだ、 中央公園の朝市は、近所の奥さん達と通うことも多く。お店を出す側に回ることは、初めての経験である。楽しそうな三人の様子を見てるだけで、フレイミまで嬉しくなってしまう。つい微笑みながら、三人の後に続いた。

「シン兄!、タイチ、リナおはよう」

「おはようコウ、レンタ、マイト」

朗らかに優しい笑みを三人に向ける男性の声は……、とても聞き覚えある声で、

「やあ~フレイミ、君も来たんだね。おはよう」

はっとして、惚けてる場合では無かった。

「シンクさん……、どうして此方に?」

マイトが驚いたように。シンクと姉を見比べ、ちょっと不安そうな顔をする。目ざとくシンクは気が付いて、マイト目線を合わせ、

「マイト、シン兄が学園の観察官してるの。前に言ったよね?」「うん、前に聞いた」

あんな素直な返事をする。マイトに驚きながら、

「シン兄は、学園のことで、お姉さんが悩んでたから。少しだけ頑張れる。お手伝いをさせてもらってたんだ」

目を丸くして、姉をみるマイトに迷いつつ。シンクと同じように座り目線を合わせて、隠してた学園のことを素直に話すことが出来た。不思議と……、今まで胸にあったモヤモヤが薄らぎ、自然と素直な気持ちになれた。

「ノン姉……、ごめんなさい……、僕……」

泣きそうな弟の姿を見て、力一杯抱き締めていた。

「大丈夫たがら……、ねっ?」

「うん!、俺も頑張れる」

微笑ましい姿に、シスター達が貰い泣きしながら、シンクの優しい采配に、小さな笑みを向けていた、そんなこと気付きもしないシンクは、

「さあ~リナ、タイチ、沢山売れると良いね」

タイチとコウは目を交わしつつ。一つ頷き。信頼を込めた眼差しをシンクに向けていた、レンタは商人ならではの感覚で。

「シン兄……、スゲー」

憧憬の目でシンクの横顔をみていた。レンタの両親から、シンクの父親の話を聞いて、打算的な考えもあったのだが……、素直な尊敬の念を抱いていた。可愛らしい笑みを振り撒くフレイミのお陰で、何時にもなく盛況な孤児院の出し物は、瞬く間に売り切れていた。



━━個人ランキング終盤まで、ノノフレイミの快進撃は続き。79連敗負から、何と59連勝と成績としては。中位だが、驚くべきことにトップ10全員を最後に負かしてる点は、瞠目に値した。



そして……注目の優勝の行方だが、

フィア・ガイロンとヒナエ・バウスタンのニ戦目が行われ。なんと僅差でヒナエが勝利したため。



最終日……。



━━終業式終了後に。


前期優勝戦が行われることが決まった……、シンクは観察官として、終業式の準備に駆り出され。忙しい先生達に代わり。裏方の雑務をこなしていた、額から汗を滴らせるバレンタインが、

「シンク椅子の数を確かめてくれ、それから縫製科のセラナ先生に、飾り布を急ぐよう伝えて」

「はい!」

急かされ急ぎ、一般生徒の通う。専門教練。二階にある縫製科に赴き、

「セラナ先生、飾り布を受け取りに来ました」

初老の優しそうな老女は、にこやかにシンクを認め。

「ちょうど出来た所です。お持ちなさいシンク」

「はい助かります」

何度も通う内に、専門教練の先生達にも、すっかり顔を覚えてもらえたようだ、赤と白の飾り気の無い布なのだが、来年卒業する生徒が、自分たちで、刺繍したり、コメント残してくのだ、そうしたコメントされた布を。教練の玄関や、学園の入り口に飾るから、飾り布と呼ばれるようになっていた。


━━次にバレンタイン教頭に任されていた。貴賓室の準備だが……、ランキング戦の優勝戦の準備が間に合わず。バレンタイン教頭の代わりをシンクが頼まれた。

貴賓室用に用意された部屋には。何の準備もされておらず。手伝いの生徒が困った顔で佇んでいた。「すみませんが……」

豪華な椅子をテーブル毎に四席づつ並べさせ。だいたいの準備を終えてから。終業式を見にこられる予定の貴族、有力者を確認して。サロンとして十分な格式を考えたら、ビィフェ方式にして、軽くつまめる物の手配から、ワインのリスト、準備まで任されたと知った時は、流石に頭を抱えたくなったが、南産の珍しいお酒をクルミが手配してくれて。リルムが秘蔵の西産ワインを提供してくれたから、格式的に、申し分ない準備が整った。問題は料理だったが、アレイク王国有数の名家、リーブル酒家、宮廷料理から家庭料理まで、様々な大陸料理を作る有名店、父がオーナーと知り合いで、シンクとも幼い時から面識があり、若手料理人数名を、派遣してもらえることになって、学園のサロンとしては十分である。あまり豪華過ぎても、隙が無さすぎても意向としては良くない、絶妙な穴を用意して、わざと叱責を受けれるようにした、

「エドナさん、チェックお願いします」

多忙を極めるたのは、エドナ学園長とて変わらないが、まだ余裕があるように見受ける。艶然と微笑を讃えるエドナは、書類を読む手を止めて、ビィフェに出す料理と酒のリスト、有力者、貴族のリストを一読して、感心したように口元を綻ばせた。

「完璧よシンク。バレンタインでは、こうはいかないから助かるわ」

「ありがとうございます」

「お陰で、懸念が一つ消えたから、安心して、後期の事を考えれるわ、ご苦労様、戻りなさい」

「はい、失礼します」

シンクが退席して、改めてリストを見て、お酒のラインナップに目を通し、予算内に納めてる点と、エドナの教示を示す。珍しい酒がリストに乗っていて、思わず唸る。

「多才過ぎるから……、つい学生と言うこと忘れちゃいそうだわ……」小さく苦笑気味の吐息を吐いて、エドナが欲しい隙まできっちり演出されてるのだから、

「痒い所に手が届くとは……この事ね」


━━『特待生』教室に戻るシンクは、入り口で、緊張した面立ちのヒナエと、ぶつかりそうになった、

「すっすいません、急いでますの~」

珍しい事に、シンクにすら気付かず。スタスタ慌てて、先を急いで教室から出て行った。

「あっ、おはようシン」

「おはようリーザ」ホッと安堵した顔をしたリーザは、困った顔をして、親友のフィア・ガイロンを伺っていた。

「おはようフィア」

「…………………」

珍しいことに。心ここにあらずといった様子で。上の空どうやら……自分の考えに没頭しているようだ。

「リーザ『院』の方は?」

当たり障りなく。話の取っ掛かりを掴もうとしていた。

「ああ~うん、終業式終わると夏休みに入るから、『特待生』に在籍してる私なんかは、終業式に出る決まりなのよ」

成る程と一つ頷き。まだシンクに気が付かないフィア、

「どうしたのフィアは?、ヒナエも様子が変だったしさ……」

一瞬迷いを見せてたリーザだが、

「……ちょっといいかな?、ここではね……」

周りを見れば、ちらちらフィアを興味深そうに見てる生徒がいた、フレイミと目が会うと軽く会釈が返され、挨拶を返した。

「行こうかリーザ」

「あっうん」

二人は教室を離れ。この時間なら、人が来ない演舞場で話を聞くことにした。少し迷いを見せたリーザだが、先ほどの二人のやり取りを話した。



━━二人フィアとヒナエは、幼なじみであり同時に。物心ついた時から、ライバルで親友だった……、

「成る程……、ヒナエさんがそんなことを……」

二人が友人だからこそ…………、どちらの言い分も分かる。ヒナエは友人として、フィアはライバルとの決着を望み……、

本当は、自分達で解決できれば良いのだが……、終業式まで時間がない。ヒナエは大切な仲間だ……、少しでも手助け出きれば、意を決める。

「リーザ、ヒナエは何処にいると思う?」二人の問題と切り捨てるのは簡単だ、フィアはよくも悪くも武人だしね。実直で不器用。最後までぶれることはない。

「多分……、道場じゃないかな?」

ヒナエの家は、学園の近くで、道場を営んでるのは聞いていた、

「案内頼めるかリーザ?」

「シン……、ありがとう」

シンクの優しい気持ちに感謝を述べ。二人は足早に、ヒナエの道場に向かった、



━━カサリ……、枝を揺らせながら、妙齢の女性が降り立ち。面白そうな目をシンクに向けていた、

「親子揃って、お節介ね……」

クスリ嬉しそうに呟き、自分の仕事に戻ることにした彼女は、アレイク王国の暗部。闇を一手に引き受ける一族がいた、黒衣と呼ばれる一族の女は長である。


学園通り西、歓楽街の入り口になっていて、目立つ一角に。バウスタン流道場はあった、



……ヒナエは学園から逃げるように帰り。自分の部屋に戻るや、膝を抱えて落ち込んでいた。珍しく母が家にいたことに驚きは隠せないが、何も聞かない母の優しさが嬉しかった、

「どうしよう……、フィア怒らせちゃった……」


思わず泣きそうになり、グイッと目をこする。軽いノックがされ。

「ヒナエ一緒に。おやつ食べないかい?」

遠慮なく入ってきた母の手に、お手製のプリンが二個乗っていて、鮮やかに笑いかけてきた、

「うん」母はヒナエが落ち込んでるとき……、いつもプリンを作ってくれた、優しい気遣いに、感謝しつつ。つかの間の癒しを感じた、



━━それから間もなくして……、シンクとリーザが、道場を訪れたのは……。



娘のことは心配だが、様々なことで悩むのは、成長に大切なことである。道場に戻り身体を動かしながら、母親らしいことが出来ない苛立ちを、汗と一緒に流していた、

「今日は~、ヒナエいますか?」

聞き覚えのある声がして。思わずホッと安堵した、そうだ……娘には、友人がいるではないか、

「リーザ?、入ってらっしゃ……」

笑みと言葉が途中で強張る。リーザの隣にいた少年に自然と意識が傾いていた、凛とした佇まい。例えるなら一本筋を通した、鍛えられた名刀……。武術家だからこそ少年から発せられる。達人が纏う独特の空気に気が付いた、


強い……、


スッと意識を切り替え。注意深く、ヒナエと変わらぬ歳の少年を、注意深く観察していた。すると妙になつかしい気持ちになっていた、

「初めまして、シンク・ハウチューデンです。ヒナエいますか?」

優しい面立ちこそ違うが、癖のある黒髪は、とても馴染み深い。思わず口元を綻ばせ、

「うん♪、部屋にいるよ」

「良かった……」

安堵したリーザの気持ち。嬉しく思い目を細めたが。それ以上に、目を引くシンク……、娘の想い人で、大切な友人の子息を、不思議な面持ちで見ていた、

「だが……、娘に会わせるわけにはいかないねえ~」クスリ不敵な。挑むような顔を浮かべるミラに、リーザは驚いた顔をしていたが、ミラの目はシンクを居抜くほど鋭く細められた。

「えっ?、ミラさん」

戸惑う声を上げたリーザ、悪いが……、そう思ってシンクを見れば、小さく理解の光を宿していた、ほ~う……、此方の考えを見抜いた。嬉しく思う、

「一手、指南お願いします」

何てこと言われたら、武術家冥利に尽きる。

「ちょ……」

呆然と成り行きに戸惑いが隠せないリーザを他所に。シンクはさっさと制服の上着を脱いで、シャツだけになり、軽くシャドーを始めた。泡を食ったリーザは、慌てて娘の部屋に駆け込んで行った。でもね……。久しぶりの高揚感を味わっていた、

「行きます!」声をかけた瞬間、シンクは独特の歩方。瞬歩を使い、ミラが僅かに瞬きをした瞬間。突然眼前に現れた、さすがに驚きと同時に、好敵手が現れた嬉しさに、獰猛な笑みを浮かべていた。



慌てたノックの音。落ち着きを取り戻していたヒナエはビックリして、引き扉を開けると、血相変えたリーザが、慌てなが捲し立てる。

「ひっヒナエ、たっ大変だよ!」

母がシンクを挑発して、道場で手合わせしてると聞いて、サッと血の気が失せた、二人は急いで道場に向かった、




「イヤアアアアア、ハッ、オリャヤヤァアア」凄まじい打撃、ついで激突音が、聞こえてきて、二人が道場に入った瞬間。凄まじい気迫に、それ以上一歩でも道場に入るのは危険と、生存本能が告げ。ヒナエは足を止めた、



━━ミラのラッシュ、上下の蹴り技から、裏拳、肘うちの撃ち下ろし、足刀の中蹴り、体当たり、そこからの連続技に行くのがバウスタン流である。しかし鋭い体当たりを、紙一重でかわしたシンク、ミラは逃がすまいと。さらに踏み込み、近距離の間合いから。打ち上げの肘うち、下にかわされた瞬間、

『甘い……』

裏拳が発射。伸びてきた腕を、クロス受けで止めた。ミラは構わずその勢いを利用してシンクを投げた、



━━シンクは投げられた勢いそのまま使い、上手く身体を二回転させ膝立ちで身構えた。それを見て追撃に走ろうとしてミラを思い止めさせていた。刹那の攻防、あまりに激しいから、リーザは血の気を失っていた、

『まだ二人は……、でもなんて楽しそうに……』

母と、シンクはまだ本気でないこと、同じ武術家として、読み取り。羨ましいとさえ思った。

「どうしようヒナエ……」

武芸の吉備を知らない。リーザは不安で仕方ないようだ、しかしヒナエは不思議と不安は覚えなかった。

「大丈夫だから……」

友人の手を握り、安心させるように声を掛けた瞬間。ハッと気が付いた……、自分がした武術家としての過ちに。

「ヒナエ?」黙り込んだヒナエが、真剣な顔で、二人の攻防を凝視していた、

「大丈夫……、もう大丈夫だから……」しっかりした声音を聞いて、長年友人関係だから、ヒナエの様子に気が付いて、「………うん」

涙ぐみ。安堵したリーザの笑みを見て、自分がしてしまった失敗は……、学年ランキングで払拭しなくてはならない!。そう決意を決めていた。



それに気が付かされるくらい……、二人は楽しそうに手合わせをしていた、

「あっ………」

……ヒナエの様子を見た二人は、どちらともなく。手を止めていた。晴れやかな笑みを浮かべたシンクは、

「ミラ先生。申し訳ないのですが、そろそろヒナエを連れて、戻りたいと思います」

「うむ、残念だが仕方ないな。娘を連れてくがいい」

楽しい時間が終わるとなると、残念で仕方ない、娘の様子を見て、自分の狙いが上手く行ったと口元を綻ばせ。ホッと安堵していた。

「お母さん……、私フィアに勝つから!」

戦意を燃やす娘の頭を、強く抱いて、

「負けるんじゃないよ!」

「うん!」

晴れやかな笑みを浮かべる娘に対して、疲れた顔は隠せない、

「ヒナエ行こう!」

優しい目を向けたシンクは、ヒナエに手を差し出した、そんな彼の優しさに嬉しそうに笑い、手を握り返して、三人は道場を飛び出すのだ、少し羨ましく思いつつ。

「彼なら、申し分ないわね~♪」娘の夫として、小さな楽しみを見つけたと。思わず笑っていた。



シンクに手を引かれ走りながら、ヒナエはドキドキした気持ちを高揚させていた。改めて……自分の気持ちを認識したのだ、私はシンクが好き!、大好きです。今はもう叫びたい気持ちが、もう止められない。恋する乙女の目をした親友に。小さく嘆息しながら。

「……仕方ないよね~」

自分だって、夢がなければ、好きになりかねないことを。リーザも自覚している。ヒナエが羨ましく思いつつも。シンクの底知れない実力が、怖くもあった、

父バレンタインが、『魔法討論会』の後。母がシンクの父、オーラル国王の先生をしていたことは聞いた、



━━彼の英雄が、不運に見舞われ。苦労してた話など、秘密にされた。歴史の裏側の話で……、それが母の願いが元だったこと……。知らない話ばかりで、驚いた、母は……、悔やんでたそうだ……、しかし……、オーラル王は、腐らず。逆境から見事返り咲き。数多の試練を、神がかった機転と采配で切り抜け、一国を築いた。最早生きた伝説の域である。何故父がああも取り乱したか、理解すると共に。夏休みの本選が、とても楽しみになっていた。



三人が学園に戻ったのは、終業式が終わって間もなく。学年ランキング、前期優勝戦が行われる間際であった。


三年。四年の優勝は決まっているので、一年、二年の優勝戦が行われ。終了しだい。閉会式。表彰式が行われる。

『院』生以外は、夏休みとなるのだ、専門教練の生徒は。夏休みを利用して、お仕事体験をしたり。『特待生』の多くが実家で、自主練に励んだり。秋までの僅か一月。学園から解放される。



━━ヒナエが学園を出てたことは、シンクが先生と同じ権限を持った、観察官であることが幸いして、問題にならずに済んだ。緊張が隠せないヒナエとコロシアムの前で別れた。



それからリーザと二人は観覧席の後ろ。既に席は一杯で立ち見していると、

「二人共。ギルドに行こう」

レイラとクルミが二人を見つけ。誘ってくれた。考えれば、疑似国の魔法鏡ビジョンで見る方が見易い。レイラの申し出を有り難く四人は、早速傭兵ギルドの施設に急いで向かい、改めて観戦をすることにした、



残された試合は2つ。ヒナエvsフィア、

リルムvsエルマと知り。四人の顔に驚きが浮かんだ。

「リルムちゃん……」

彼女はわかっていたのだ、喩え親友であろうと、手加減や遠慮は無用であると、それはエルマとて悩んだだろう。主のように慕うリルムに刃を向ける不安。

「エルマ……強いね」

クルミの呟きに、レイラはそっと頷いた。


『学年ランキング一年。優勝戦を、開催します』

エドナ・カルメン・オードリー学園長自ら。マジックアイテムのマイク片手に。ノリノリに解説を始めた。

「もう~義母さんたら…………」

恥ずかしそうに顔を赤くした。

『一年、二年共に139戦137勝2負とハイレベルならば、同じ部隊同士の決戦となります。一年ランキング決勝。フィア・ガイロン、ヒナエ・バウスタン』

片やポールアクスを手にしたフィアの機体、無手のヒナエ機体は、両腕が特別分厚い装甲となっていて、盾として、また武器として使用される。

『ヒナエ…………』

不安だった、親友でライバル……、それは自分の思い過ごしだったのでは?、そう思うだけで……、悔し涙が溢れた。

『覚悟なさいフィア!、貴女を倒すのは私よ!』

ヒナエの言葉に。思わず声を上げて泣きそうになった。グッと涙を噛み殺して、嬉しそうに獰猛に笑う。

『決勝戦、開始』

合図と同時に。二機が飛び出し。やや先にフィアが仕掛ける。轟音凄まじいポールアクスを、ヒナエは素早く避け。大振りのポールアクスが振るわれた、その隙を狙い。足元を払う。


━━ひょいと、体制を崩しながら。フィアは後ろに飛んで避けた。お互い手の内を知り尽くしていた、だから攻めあぐねるフィアに対して。大胆な攻撃をヒナエが仕掛けた、

「あれは……」

驚いたのはシンクだけではない。クルミ、レイラですら息を飲み。目を見開く。瞬歩しゅんほ相手が、瞬きする瞬間移動する技。それを呼吸に合わせ。相手が力を抜いた瞬間……。『勝者ヒナエ・バウスタン!』

ポールアクスが宙を飛び。二機の傍らに落ち。ヒナエの拳が、フィアの眼前にあって、誰が見ても。ヒナエの勝利であった、

オォオオオオー!。

大歓声が上がるなか。二人はしばし見合い。ヒナエの差し出した手を取ったフィアは、

『次は、負けない』

『次も、勝つわ』

熱いお互いの気持ちを確かめあい。一年ランキング前期優勝は、ヒナエに決まった。

『二年ランキング前期決勝』

背に。マントを付けた機体は、弓を手にしたリルム。長剣を手にしたエルマ、二人は幼なじみでもあった。



……リルムは全ての試合を。一射だけで勝ち進み。負けたのは一度だけ。一射をかわされたエルマ戦だけである。今まで、矢は一本しか持たないリルムだったが、矢筒を機体に取り付けていた。エルマはそれだけの相手と言うことだ。

『二年ランキング戦前期決勝戦。開始』

宣言された瞬間。ギャリン━━、

異音が響き、エルマの周囲に二対の矢が落ちていた。

「早い!」

栗色の髪を揺らし。呻くクルミ、目を見張るレイラ、シンクの目でも僅かに捉えられた位だ。

「動く」シンクの呟きに。リーザが息を飲んだ、刹那の攻防。あまりにリルムの射撃のスピードが早すぎて、エルマは身動きが取れなくなっていた。




翻弄するように。いつの間にか移動して、矢が迫り。防ぐの繰り返し。矢が尽きればリルムの負け、誰もがそう思っただろう……。「本来……、矢が尽きれば、弓使いは負ける。でもリルムちゃんは、あの魔王の娘」

ハッとした皆は、シンクの呟きの真意を問うように見ていると。

「リルムちゃんは、本当に不器用なんだ……」

最後の矢を弾いて、エルマが好機と一気に迫る。大上段からの一撃をフワリ。羽が生えたように軽やかにかわして、とても機体を操縦してるとは思えない。軽やかな動き、突然リルムが、空気をつかむ真似をして。弓につがえ放つ。



バシュ……、

咄嗟に出した長剣が、根元から砕け。エルマは茫然自失と立ち尽くした。

「リルムちゃんに、本当は矢も必要ない……。彼女は魔法を一つしか使えない。あらゆる元素を矢に出来る魔法だけ」レイラはシンクが言いたい事に気付き、血の気を失った。

「側に、物質さえあれば、矢は無限に作れるのか……」

厄介処ではない。あれだけの腕。距離をとった戦いでは、勝つ見込みが皆無である。

地を掴めば石の矢が、水を掴めば水の矢、見えるならいいが……、今のような空気をんだ空気の矢は、見えないではないか……。エルマの機体を瞬く間に。再起不能にしていた。



まさに氷の女王……、冷徹に一切の手加減も、迷いもなく。仕留める手腕に、レイラとクルミは戦いた。

『勝者リルム・アオザ・パルストア』

人々の度肝を抜いて、静寂がコロシアムを押し包んだ後………。


━━大歓声が上がって、リルムを讃える声が、いつまでも響き渡る。「皆を、迎えに行こうか?」




エピローグ



━━各学年ランキング上位5名が、コロシアムに集められ。戦績が発表された。


表彰式が無事に終わって。

「シン!、見てください。私頑張りました♪」

おずおず控え目なヒナエは、恥ずかしそうに、でも自信を持ってシンクの前に立っていた。

「おめでとうヒナエ、頑張ったね」

「はい♪」

照れ臭そうに。でも褒められて、嬉しそうにはにかむヒナエを、眩しそうに見ていた。

「シン♪」

あっさり脇に追いやられたヒナエは、ムッとしたが、相手があの女王の貫禄を出すリルムだとわかると、途端にシュンと項垂れて。おずおず落ち込む親友を。フィアとリーザが慰める。

「リルムちゃんの本気、久しぶりに見たよ」

からかう目で言われては、うっと呻き、珍しくたじろぎ困った笑みを浮かべた、

「エルマさんお疲れ様。精神疲労大丈夫ですか?」

魔導兵が壊されると、精神疲労を起こすからだ、青白い顔はしているが、

「問題ない、気遣い感謝する」

朗らかに笑うエルマ、安堵したのは、他でもないリルムであろう。

「皆良かったらだけどさ、明日劇場行かないか?」

唐突な誘いだが、シンクが中央大陸に帰省することは聞いていた、しばし会えないメンバーを思う気持ちに気付き。皆優しい笑みを浮かべ頷いていた。




━━翌朝。シンクは慣れたようにお弁当を作り。伯母さん夫婦と、姪のリナの朝食用意して、待ち合わせの中央公園に向かった、



数日後……、伯母さん夫婦と帰省する。しばらく会えないみんなと、ゆっくり今日は楽しむつもりである。

学年ランキング前期も無事に決着して、夏休みを迎えようとしていた。帰郷するシンク。果たして普通の夏休みで終わるのか、同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。

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