閑話初めてのお使いですか何か?
プロローグ
━━東大陸、東の国リドラニア公国。
数年前のセージ・キラオクの異変により。多くの民を失い。一度は国として、滅んだと言えた、さらに中央大陸事件により。数十万もの魔物と、神々の奇跡により。破壊された城。荒廃した街━━。
ラトワニア神国のナターシャ女王の助力と、世界の銀行。ギル・ジータ王国の援助により。ようやく城が建設され。街が少しずつ復興していった。
少しずつではあるが、二人の女王、アミ・キラオク、シセリア・キラオクの元。人々が戻り始め。ようやく国の様相が出来上がったのは、二年前で。二人が城で暮らすようになったのもその頃である。茶色の髪が肩まで伸びて、すっかり女性らしくなったシセリアは、同じ歳の従姉妹アミの髪を慣れた手つきで、櫛ですきながら。機嫌よく。鼻歌混じりである。
「クスクス。楽しみねシセ、オーラル様に会うのが」
そう……、世界会議の場になるが、二人にとって、初恋の人であり。理想とする王でもある。そんな彼に会える。そう思うだけで、浮かれるのも仕方がない。
「それもだけど、あの子ブライアンが来るからね」
小さくはにかむ従姉妹に、なるほどと小さく笑む。まだ少年だが、流石オーラル様の弟。二人より7つ下になるが、聡明で、可愛らしい人物だ。二人にとって許嫁でもあった……、いささか下過ぎないかと不安になった、アミとシセリアだったが、姉と慕うナターシャ女王の口添えもあり。話はトントン拍子に進み。初めて会ったのは、四年前になる。
━━四年前……、
北大陸レオールの首都アージン……、
国の重鎮で、宰相レイナは、竜騎士で、リブラ将軍の右腕プラ・カドラの猛烈なアタックに、半分押し切られる形の。強引な求愛に答え。二人が結婚したのは、昨年のこと、リブラ将軍の妻であり。北大陸で、大地の女神アレの大司教を勤める。ララの元。二人は祝福され結ばれたのは、記憶に新しい。そんなララの元を訪れたのは。身重なレイナである。「レイナ様……、わざわざおいで下されなくても。出向いたものを」
気遣う優しい目は、レイナが大好きだったオーラルに似ていた、母を早くに亡くしたレイナにとって、ララと過ごす時間は、母に心配されてるようで、嬉しくもあった、
「心配掛けますが、この国の宰相として、ララ様と直接話さなければなりません。詣りました」
真剣な眼差し。何か秘事があるのだと察して、小さな神殿の執務室に通し。椅子を勧め。お茶の用意をした、
「お茶受けに……」
神殿の裏に、小さな庭園を作り。ハープを作って、お茶にして出してくれた、
「ありがとうございます♪」
ララの作る。ハープを混ぜたクッキーは絶品で、近所の主婦が、ララの手伝いついでに、クッキーや様々な、東大陸のお菓子作りを習うのが、毎週末行われていて。何を隠そう、レイナ、イナワとこっそり通っていた。サックサクの食感。スッキリした優しい花の香りに、レイナは目を丸くした。
「これは……」
小さく笑うララに頷かれ、もう一口。ほろ苦い味わいは塩気があり。懐かしい気持ちになっていた、
「桜の塩漬け……」
「桜茶もありますわ」
優しい申し出に、懐かしさのあまり。一杯いただけるよう。懇願していた。桜の塩漬けは、とても高価で、王族か、僅かな有力者しか、口に出来ない、特別な品である。
「ミザイナ様が、毎年送って下さるのよ。それが良い保存方法をブライアンが見付けたとかで、これはそのお礼ですって」「それはまた……、あの子らしい」
思わず苦笑を滲ませた。リブラとララの子で、オーラルの歳の離れた弟ブライアンは、まだ7歳であるが、文武に優れ。機械の国ジエモンの長。サノエに大変気に入られ。あの気難しいサノエの弟子として、機械で竜を作ると息巻いていた。
「まあ~、あの子はほっといても……。何とか出来てしまいますが」
不安と不満、母として、思うことがあるのだろう。
「家の子達は、良い子なのですがね………」
出来が良すぎるのも手が、掛からず逆に不満なのだろう、
「すいません。要らぬ愚痴を言ってしまいました、レイナ様が娘のようでつい……」
優しい眼差しに見詰められ。自分と同じことを考えてたかと、嬉しく思う、
「私も母のように感じてました」
二人はクスリ小さく笑いあい。笑みを交わした。 「レイナ様が、こうして足を運ばれて来たのは、ブライアンのことですね?」
流石はオーラルの母。察しが早い。迷いもあったが、これもララとリブラ将軍の立場ならば、考えられる話である。
「ブライアンが言ってたので、まさかとは思ってましたが、リドラニアの公王になるようだからと……」
驚くような話をされ、いささか呆気にとられたレイナに、一瞬迷いながら、
「今、あの子、試作の機械の竜で、リドラニアに向かってますわよ」
「なっ………」
最早言葉もない。レイナが今日来るから、桜の塩漬けでクッキーを作るように、母にお願いしたのもブライアンで、
「まさか……」
唖然としていた、一国の宰相がわざわざララを訪ねる日まで、予測して。さらに準備を済ませ。本人は許嫁に会いに行ったと言われたら、脱力感に見回れる。
「オーラル曰く。ブライアンは自分以上の天才だそうよ」
思わず唸っていた、あのオー君にそこまで言わせる。ハウチューデン家恐るべし……、
━━中央大陸、輝きの都プロキシス。
凄まじい轟音を立てて、銀に輝く竜が、飛来したと聞いて、オーラルは、問題の場所に急いだ、
「オーラル陛下……」
戸惑うばかりの将兵をかき分け。先頭に躍り出ると、1人の少年が、でっかい工具箱を出して。なにやら銀の竜を弄る……、
「まさか……ブライアンか?」
耳を覆う防寒具は、北大陸の竜騎士が、装備として持っていたのを思い出した。声を掛けられ。機械竜をメンテナンスする手を止めて。ゴーグルを外して、オーラルを認め。嬉しそうに笑っていた、
「兄さん久しぶりです」 素早く立ち上がり、ニッコリ可愛いらしい笑みは。人を引き付ける。魅力があった。
「オーラル陛下……」
「大事ない。我が弟が来ただけである」皆を心配させぬよう。笑みを向け。それからブライアンを手招きして、
「良く来たな」
優しく抱き締めると、ブライアンは嬉しそうに、抱き着いてきた。
オーラルが、魔法で機械竜の重さを無くし。城の近くにある。厩舎に運ばせ。急な来訪も気にする。様子の無い兄を見上げ。愉しげな笑みを向けていた。
「兄さん、シンクは大丈夫なのですか?」
年上であるが、シンクは気の会う友人である。それもあり中央大陸に。わざわざ寄ったのだから、 「ああ、義手、義足に振り回されてるがな」
「あっ……、例の……」 ブライアンが、機械竜を作る要因になったのが……、竜鱗を用いて、魔法とジエモンの技術を合わせた、シンクの為に作られた義手、義足。
「あの子達。気が強いですからね」
意味深だが、オーラルには理解出来た。苦笑漏らし。
「お前がわざわざ来てくれたのは、シンクの事だけではあるまい?」
鋭い兄の慧眼に。思わず足を止めて、少しだけ不貞腐れた顔をした、
「なるほど。リドラニア辺りかな?」
世界中の情勢が集まる。兄ならではの、素早い判断に、話が早いが、自分の能力が、子供ぽく思え。悲しくなっていた。
「あの竜……、気を使わせたなブライアン」
兄の素直な礼に、思わず真っ赤になっていた……。
「どうして……」
弟の問いに簡潔に答えた。
「気が付いたのは、父の竜装を、やたら気にしていたことと、デーアからお前が来たと聞いてな」
「いつの間に……」
「新しい飛行系魔法。面白い考えだな。お前は竜に選ばれなかったが、竜の魔法は使えたな?」
グッと息を飲んで、深々嘆息していた。
「兄さんと話してると、自分の弱さが、身に染みるよ……」
ふっと表情を柔らかくして、ブライアンの肩を叩き。
「お前には、俺にはない素晴らしい能力がある。気の向くまま、自分の信じた道を歩め。それがお前の為になるのだから」兄の力強い励ましに。柔らかな母に似た目を見上げ。素直に頷いていた。
ブライアンが、オーラルを訪ねるのは二回目である。最初は二年前。僅か五歳の誕生日の日に。年の離れた兄に会いたい一心で、飛行魔法を開発。1人でまさに飛んで来た時は驚かせられたが、数日シンクと遊び。オーラルの手解きを受け。さらに魔法を強化させて、ブライアンは無事に帰ったと言うから、呆れを通りすぎ、感心すらしたのだ、まだ10に満たないブライアンだが、一人前のハウチューデン家の男として、扱うことにしていた、何かと気を使いすぎるのは母に似たのだろう。
シンクがいずれアレイク王国で、学びたいと言う可能性がある。
あの姉がいるのだ……、それにブライアンが、機械竜を作り始めた以上は……、
弟の先見性は、魔王ピアンザ以上の力。あの地は穢され過ぎていた……。少しでも弟のためになるよう。地盤作りはしておくつもりである。大好きな兄は忙しく、仕事に戻って行った。久しぶりに会った、従兄弟のシンクはまだ義手、義足に苦戦中らしいが、機械竜のメンテナンスをすると告げると、一緒に付いてきた、
「シンクそいつら、気が強いから、無理に従わせようとせずに。語りかけながら、頼むように動かしてみなよ」
一段落して、モーターの不調を直し。目を丸くしてたシンクと、顔を合わせてアドバイスすると。
「どうして?。ブライアンは……」
驚きが隠せないようだ、ブライアンは竜に選ばれなかったが、竜はブライアンと話すことを好む。正確には、竜に仲間と思われている。その為竜の言語を覚え。父の竜王プライムから、竜魔法を学んでいた。飛行魔法は、竜魔法を元にした、オリジナル魔法である。シンクの義手、義足に使われたのは、力ある竜の鱗と骨であった。父の竜装をヒントに、機械の国ジエモンの技術長サノエ、魔導兵の製作者デーアの合作である。生きた義手、義足と言える物だ。
「因みに兄さんも気がついてる。シンク無理せず語らうんだ、彼等はシンクと話したいだけなんだよ」
「そうか……、知ってたんだ」
困ったような。それでいて、嬉しそうにはにかむ姿。兄を父として尊敬してるのが良くわかる。
「ありがとうブライアン」
二人はクスリ笑い合う。言わばライバルでもあるから、苦労したままでは、楽しくないのだ、
「そうそうサノエさんが、国にいる娘に、北大陸にいること。伝えて欲しいと言ってたんだが、ジエモンて何処にあるか知ってるかい?」
びっくりしたように目を丸くしながら、
「サノエさんが、北大陸に……、え~とリドラニアの南西の島と聞いてます」
「なるべく……、詳しい緯度、経度て解るか?」難しい顔をして、ブンブン首を振られた。流石に解らないか……、半分諦めた気持ちになる。
「違うよブライアン。あの島は移動するらしいから。緯度、経度は日により変わるから、知りたいときはエバーソンさんに。連絡をとってもらえばいいよ」
「あっなるほど。兄さんに言付け頼む方が早そうだ………」納得した。
━━翌朝早く。兄に伝言を頼み。改めてリドラニア公国にブライアンは向かった。轟音凄まじく。耳鳴りすら生ぬるい。機械竜の難点にいささか。辟易しながら、消音の処置を念頭におき。昨夜兄から聞いた、高潔なるシセリア女王と、大胆不敵なるアミ女王と会えること、実に楽しみになっていた。あの兄が、手放しで誉めるなど、珍しい事だから。余計気になった。
陽光に煌めく海面を、切るように、機械竜は飛行して、間もなく。東大陸の沿岸が、見えてきた。程なくギル・ジータ王国を、掠めるように。ブライアンの操る機械竜は、一度空高く進み。山間の山村を眼下に、
「あれが、ドヴィアか」遠く見えてきたのは……、それはそれは美しい神の都。ラトワニア神国、このまま東に向かえば、リドラニアが見えて来るはずだ、
エピローグ
━━リドラニア公国、王座の間。凄まじい轟音が響き、何事かと人々が、外を見て度肝を抜かれた。白銀に輝く、機械竜が町の外に降りたと言う。しかもその竜に人が乗ってると聞いて、二人の女王は、興味を抱いた……、
伝令兵の話では、機械竜に乗ってたのは、まだ少年で、礼儀正しい対応をしていたと耳にした。二人はすぐさま。その少年を城に招いた。
程なく現れた少年は、黒髪で、凛とした佇まい。 優しい笑みは、人を惹き付け。王者の風格が既に備わっていた。誰もが息を飲んで、少年を見ていた。
「君が……、あの機械竜のライダーか?」
気の強そうな赤毛の女性がアミ女王であろう。
ニッコリ二人に笑いかけ、片膝を着いて、
「はいアミ陛下。お初にお目にかかります。ブライアン・ハウチューデンと申します」その名を聞いて、二人は見合い。思わず笑っていた、楽しげに……。




