閑話ピュアラブかも
プロローグ
最初の記憶は……、何時も父を気遣う優しい母と、何時も母を気遣う優しい父、二人が娘の誕生日に、ケーキを買ってくれた日が……、とても幸せで、忘れられなくて……絶望した。
顔をひきつらせる母、異物を見るような父………、
「私………」
投げつけられた言葉……、母の……、父の……、拒絶の言葉……、二人の心が、うわべの優しい言葉以上に、心を切り裂いた……、
私は……生まれて来てはダメなんだ……、化け物だから……、不安で、悲しくて、悲しくて……、誰も私を見てくれない……、どうして……?、
私は……要らない子なの?。
拒絶の思い……、見知らぬ大きく広い場所、私は捨てられる……、要らない子だから、沢山の大人。異物を見るような眼差し……、私は、きっと生きてちゃいけないんだ……、絶望。
黒髪の優しい顔をした大人が現れた。まっすぐ私を見て、優しく笑ってくれた。
`大丈夫……、僕らは家族になるんだ´
「えっ?」
初めて……、拒絶、奇異、好奇、侮蔑、恐怖、それ以外の気遣う優しい思念。
`僕はケイタ、君の父親だ´
……そして……、壊れかけた少女を優しく抱き締めてくれた。
生きていていいの?
僅かな光明……。
新しい家族、厳しくも優しい母、可愛い双子の妹……、優しく強い父……、みんなが何時も私を気遣い、愛してくれた……、生きたい……、父を、母の笑顔がもっと見たい!。
嬉しい!、大好きなケイタ父さんが誉めてくれたよ。
「頑張ったのねエル。さすが私の娘です」
ギュッと抱き締めてくれた母の香り。
「ネ~、ネ~」
「ネ~タン」
「まあ~二人ともエルが大好きなのね」
可愛い二人の妹。不安だったけど、母が抱かせてくれた、
「柔らかい……」
フレアの温もり。バシバシ叩いてくる。甘えん坊なシアン……、私の大好きな場所……。みんな大好き……、
だから棄てられたくない。父も母もそんなことはしない人。でも不安だから……、父の側で見ていた、父が好きな魔法の本。母が好きな経済の本、
「ケイタ筆頭!、大変でございます、エル様が……」
二人内緒で、アレイ学園の試験を受けた。歳を誤魔化して……、試験官が結果と名前を見て……、血の気を失っていた、本来10歳未満が、アレイ学園の試験を受ける場合。親の許可と行政の許可が必要だからだ、結果不合格なら問題は無かった、 「合格なさいました……」
呻いた……、
「エルには早すぎる」
不安と心配な思念。父はエルを愛してくれてる。それだけで嬉しかった、でもね父さん……、このままだと父さんが危ないの……、異端児として、エルは排他的な貴族から、危険視され、父が窮地にあることを知った……、
大好き場所……、
「エル……、何時でも帰って来なさい、この家は貴女の家なんですから」 愛してくれる母、
「ネ~タン」
「ネ~ネ~」
可愛い妹……、私の大切な家族……、だからもう帰らない……。きっと大丈夫、大丈夫、私は、ケイタ父さんと、シルビア母さんの娘だから、
━━━外の世界は、大切な場所と違い、エルを嫌い、蔑み、罵り、奇異な眼差しで見られた、
それでも厳しいが、きちんと見てくれた先生に出会い。また少しだけ頑張れた。
「エル・フィアン貴女を『院』生として認めます。頑張りましたね。さすがケイタの子です」
初めて優しく笑いかけた先生は、鼻の上に小さな眼鏡をしていた、先生からケイタ父さんの思い出が、流れてきた。ほんわか優しい思念。だけど悲しみが、思念に渦巻いてた、時折父や母から感じた、大切な何かを失った悲しみに似ていた、
アレイ学園を僅か一年で卒業した稀代の天才エルは、最年少で宮廷魔導師の試験に合格。僅かな7人しか存在しない宮廷魔導師になった。まだ7歳で、それから二年……、様々な部署をたらい回しにされ、父からカレイラ師団に出向するよう頼まれ、第1分隊に配属された、
それから半年のある日、何時もの如く。カレイラ師団の陣地を散策していたエルは、
「えっ………」
膨大な魔力を持った存在を感じた。エルが目を向けた先から、とても優しい思念を感じた、
━━それは深く、世界中を満たすほど、癒す優しい気持ち。人を真摯に思いやれる。不思議な感覚、何故か行かなきゃ、そう思った、
エルがたどり着いたのは、見覚えのある第1分隊の隊舎、中からえもいわれぬ甘い香りがして、
グウ~、空腹を意識すると、我慢が出来なくなった、
そっとテーブルの下から手を伸ばした瞬間、ピシャリ叩かれた、
「痛い……」
「エル・フィアン少尉!」
恥ずかしくなり、つい思ってた本音を言ってしまった、どんよりするクエナに、悪いと思いつつ、もう一人、新人の少尉、オーラルと呼ばれた男は、エルの思念の能力を一瞬で見抜き、怖がる処か、楽しそうに自分の読ませたい思念だけわざと飛ばし。読ませる事が出来る。変わった実験をした、僅かなヒントから、エルの能力に使い方があると示した、興味が沸いて来た、エルが読もうとしてもまるで、読みきれない膨大な経験の記憶、
`光の民なら知り合いがいる´
「うお。本当に」 興奮して立ち上がったエルに、
`アップルパイと紅茶がある。食べるならちゃんと座るように´
「わっ分かった」
素直に従う、ちょっと不機嫌そうな思念が向けられ、身体を強張らせると、
「二人で、内緒話か……」
エルの能力を知ってたクエナは、仲間外れにされた気分になったようだ、 「内緒です」
わざとからかうような思念が、オーラルから流れてきた、思わず吹き出したら、きつく睨まれた、首をすくめ。慌ててアップルパイを食べ、紅茶で流し込んだ、
「美味い………」
ビックリするくらい美味かった、そこでまた余計なこと言って、クエナを凹ませてしまった、また来ても良いのかな?、少し不安に思ってると、
`明日は夕飯前に来なさい´
外に出た瞬間立ち止まり、涙を拭った、必ず明日も来よう、久しぶりに嬉しい気持ちになった、
翌日━━、第1分隊の隊舎近く、新しい本を読みながら、時間が立つの待った、驢馬に乗って買い物に出かける様子を見送り、しばらくしたら、中隊長とやたら不機嫌女がやってきた、ぶうたれた思念がエルを少し不機嫌にする。
「あいつ嫌い………」
私に似てるから、
しばらくして、買い出しに出てたオーラルが戻った、中隊長の歓喜の思念。凄まじいあの女から怒りの思念が流れてきた。 でも深い失望……、あの女が……、弱くなったから?、意味が解らない。エルは知ってる。あの女はエルと真逆の天才だと、オーラル……大丈夫なのかな?。心配していた、
それが杞憂処か、勘違いだと思い知った、あの女が一方的に負けた……、オーラルはまだ本気になって無いのに……、エルは知った、自分以上の……、父以上の天才がいることを、『オールラウンダー』そんなちゃちな称号では計り知れない、何かを彼から感じ。生まれて初めて、彼と同じ物が見たいと考えた、それに……、あの料理の腕前は反則……、けっ決して料理に釣られたからではないぞ。
今日の料理も旨かった、段々眠くなって来たから、クエナに泊めて貰おうと聞いたら、私の部屋があると聞いて安堵していた。`、ここが君の居場所になるから´
オーラルの優しい思念と、暖かなクエナの心、案内された部屋のベッドに潜り込んで、声を殺して嬉しくて泣いていた、
━━不覚にも安心して。昼まで寝てしまったエル、お昼にまた上手すぎる飯を食べた後、城の図書館に行って、新しい本を読むからと外出した、
「明日のお昼は何かな♪」
つい楽しみにしてしまったエルだった。
━━久しぶりに休暇をもらったエルは、家に帰ることにした、少し不安だったエルを、
「エルねぇ!」
「エル姉さん」
綺麗になった二人は、そっくり可愛らしく笑いながら、抱き着いて来た、 「ただいま」
二人に最近食べた美味しいお菓子の話や、ドタバタなつい笑ってしまった話を聞かせながら、夜遅くケイタ父さんが帰宅した、
「お帰りなさい……」
「ただいま……エル」 おずおずながら、娘の声を久しぶりに聞いた、柔らかく微笑む優しい顔が、大好き、明け方母も帰宅して、エルを見付けると、抱き締めてくれた、 「元気そうで良かった……、ちゃんと食べてるのエル」
顔を挟まれ、真っ直ぐ見詰められ、照れた、
「うん……、オーラルが作ってくれた」
ピクリ母の顔に驚きが広がった、
「オーラルてまさか……、オーラル・ハウチューデン?」
「そっそうだよ……」 母の剣幕に、慌てて頷いた、何か不味いのかな?、とても不安になった、珍しいことに、母が嬉しくて仕方ない、喜びの思念を受けた、
「クスクス……、多分見たと思うけど、あの人が一番尊敬してる人よ」 父を助けてくれた人……、息を飲んだエルの手を優しくつかんで、
「悔しけど、オーラルが一緒なら、何があっても貴女を守ってくれるわ」 母の信頼する安堵の思念は、とても深く、いつも私を気にかけてくれてたのが分かる……、
「お母さん……、ありがとう」
初めてちゃんとお礼が言えた、恥ずかしくなり俯いてたら、小さな嗚咽が聞こえた、驚いたエルが見たのは、ぼろぼろ泣き出した母の姿、
「初めて……、気持ちを聞かせてくれたわね」
「あっ……」
母の寂しかった気持ちが、次々とエルの心に流れてきた………、
「私………」
「大丈夫……、貴女は私の自慢の娘よエル」
「お母さん……」
生まれて初めて、母にしがみついて泣いていた、 「良かった……、本当に良かった」
ケイタは二人が気になって見てたのだが、思わずもらい泣きしていた、
━━それから沢山の出来があった、最初に彼が気になったのは、第1分隊が初めての任務をしたときだ、自分を軽く軽薄に見せる不器用な男……、
何時からかな……、彼の事ばかり見るようになってたのは、少しづつ、本当に頑張って、頑張って、誰にもそんな姿を見せない、かっこ付け屋なカール、
オーラルが英雄と呼ばれ、やがて中央大陸に行くことか決まった日━━。 カールに呼び出された、
「エル……後、何年かして、お前が成人して……気持ちが変わらなければ、一緒にならないか?」 「……いいの?」
困ったように、でも真っ直ぐ私を見つめる真面目な顔。
「ああ……、お前が好きだ、こんな俺で良かっ……」
決まってるわ、そんなの最初から……、カールの気持ち知ってた……、私がまだ子供だから、迷ってたのも、今日オーラルに私を守ってくれるよう、頼まれたことも……、本当にみんな優しいんだから……、
エピローグ
━━数年後、私が24なって、カールと結婚した……、本当はもっとはやく結婚したかったけど、父が中央大陸に単身赴任したり、カールが第1師団の准将になったり、私が宮廷魔導師筆頭になったり、忙しかったから、と言うのは言い訳で……、不安だった、カールは私より一回り年上で、モテるから……、
大聖堂━━、
純白のウェディングドレス。二人の妹が祝福してくれ、恥ずかしいけど、沢山の友人と、私を娘にしてくれた父と母、私を愛してくれた人々。
大丈夫……、
きっと私は幸せになれる。
だって……、
`俺は誰でもない、お前が好きだエル´
愛されてるから……、
カールの胸に飛び込んでいた。




