魔王ですが何か?
プロローグ
━━━西大陸、元魔導王国=レバンナ
━━6年前……。
5つある国々は、魔導王国レバンナの魔王ヒエン・アオザの強大な力の前に屈していた……。
魔王とは……、数百年もの長き時を生きた存在であった。その力は海を割り、天候を変えると言われて、一国を1人で滅ぼしたとも言われていた。魔王の力は絶大である。この世のあらゆる強力な魔法が使え。無限とも言われる魔力を使い、最強とまで言われた暴君は、ピアンザ・カリアと言う若者に、敗北した……、
━━動乱の西大陸、それを平定し……、新たな魔王となったのは……。
「ピア……」
浅黒い肌。ややきつめの印象を与える切れ長の目。長身の青年は見るからに無愛想に思えたが、目に優しい光を宿し美しく成長した、妻の心配そうな顔に、優しく微笑していた。
「大丈夫……、俺が、世界を救うから…」
不安そうな妻を。安心させようとする不器用な優しさ、自分だって辛いのに……、
「はい……」
そっと涙ぐんでいた……、
「陛下。六将揃いました」
「わかった……」
ふっと……、
外を見て目を細めていた。ピアンザはあの日の事を何故か思い出していた……。
━━━10年前。アレイ学園、
学園長室。オーラルは『特待生』教諭リリアに行くよう命じられ。学園長がどうして学校にいないかを理解した。そして……、エドナ宮廷魔導師筆頭から直々に。話を聞かされて、退学命令を受諾していた……。
━━━前日。夕方。
オーラル達、魔法討論会に出た代表生徒は、
ギル・ジータ王国より戻った翌日の夕方、
学園主催の祝賀会がもようされた。
数年振りの優勝校となった名誉に、学園側の配慮である。
━━壇上に上げられたケイタ・イナバを始め。カレン・ダレス=シルビア、ダレス家の才媛が、ケイタの横顔をちらり。愛しい気に見つめているのが印象的である。その場でリリア教諭から、ケイタは優秀者として紹介された。
思わず真っ赤になって、照れた顔をしていた。ケイタを他所に。パーティーが華やかに行われた。
━━華やかな祝賀会の場。でもピアンザの面立ちは、胸中と同じく暗い。やはり考えるのは、海中都市で思い掛けず出会った古代の民シレーヌの事を。いつの間にか考えずにはいられない。まるで日に日に想いを募らせ、彼女に恋した少年である。
ピアンザにとって、ギル・ジータ王国で経験したとある事件にて。自分の出生を知ることになったから……、自分がまさか古代の民エルフであると知ったのである。ピアンザは物心着いた時から孤児院で育った。棄てられたと考えていた自分が、古代の民である。エルフだと……、
「オー君♪、ピアもお疲れさまだね~」
のほほんほんわかと可愛らしく笑うレイナ・フォルトは、北大陸出身ファルバス族と言う身体能力が、優れた一族の出である。
「草むしり君も♪頑張ったね~」
相変わらず。ケイタの名前を覚える気が無いようだ……、
「良くやったな!」
満面の笑み、上機嫌なミザイナ・アルタイルは、南大陸、剣の国ファレイナ公国。騎士団長パライラ・アルタイルのご息女である。
オーラル達、ミザイナ部隊の面々は、彼女の壮大な夢を叶えるため誓いを立て、部隊を組んでいた。ミザイナの機嫌がいいのにもその辺りに理由があった。今回アレイ学園が優勝、さらに優秀者に選ばれたケイタのお陰で、部隊には多大なポイント加算されることが決まったのだ。ミザイナの機嫌も良くなるか……、
「オーラル良くやったな!」
涼しげな目元だけ、和らげ、リリア・カーベン女史が、皮肉気に笑う。
「先生……、全然似合わない」
「煩い!、わかっておる」
朱に頬を染め、凶悪な、スタッフで、オーラルの頭を狙う、
ひょいとかわしながら、「危ないですよ~」
ドレスアップした、リリアのソリッドの際どいチェニックスカートから、美脚が、露になった。
目が、釘付けになる生徒が、増え。どよめく。
「ちっ、貴様に話がある。後で、学園長室に来るがいい」
どう見られようが一切気にしないのだが、当たらないことが悔しく。本気で残念がるリリアに、気圧されながら。
「わかりました先生……」首を傾げた。いつも不機嫌そうな顔だが、今日はいつも以上に不機嫌そうだった。
パーティーも一段落したところを見計らいオーラルは、1人学園長室に向かった。
「入りなさい」
ノックすると……、すぐに返事があった。聞き覚えのある声がして、眉をひそめていた。
そもそもアレイ学園長が、いるのは知ってたが、見た者はいない、成る程とオーラルは、理由に気が付いた。
「お久しぶりね……。オーラル君」
艶然と柔らかく微笑する。エドナ宮廷魔導師筆頭が出迎えた。
「ご無沙汰してます。エドナさん」
エドナ筆頭の手ずから、紅茶を馳走になり、彼女の面差しが辛そうで、何となく……嫌な予感がした。
「オーラル君……、ごめんなさい………」
唐突にエドナ筆頭が、学生出しかないオーラルに謝罪していた。戸惑い、怒り、不満、様々な思いが、オーラルの胸中を駆け抜けた━━。
━━静寂……、
楽しそうな、喧騒が、僅かに聞こえていた。そっとため息付いて、
「分かりました、短い間でしたが、お世話になりました」
承諾した……。
翌日……、
オーラル・ハウチューデンの退学が、学園長の名で正式に発表された…、━━エドワード家の長男。エドワード・ブローザ殺害した容疑で……、
殺害されたのは、昨日早朝。近隣の住人から聞き取りが済み。無実なのは明らかであった。さらにバレンタイン次席が証言していた。
商会の商人までもが、オーラルがその日に居なかったことも証言したのだが……、
エドワード・ブリュクヒルは、オーラルを名指しした。子息を殺した犯人と決めつけ、打ち首にするよう訴えた。
だが……、
どう考えても不可能に近い、ただの言い掛かりであると司法は認めた。
一方で━━。
王族に連なる者の命を、無視するには、あまりに難しく。学園として譲歩として、オーラルを退学処分するしかなかったのである。
これに激怒した学生達が、大挙して職員室に集まった。オーラルに救われた貴族の子息、子女までも含む多くの生徒達であった。さらな住民。大司教まで凄い剣幕で来られた時は、エドナ筆頭も唖然として驚かせた。
……が、誠心誠意を込めて、辛い現状をとくと話して聞かせた。不承不承みんなが帰ったのは、夕刻である。
━━仕方ないとは言え……、エドナとて後悔していた、本当にこのままで良いのか?、苛々しながらも。何か策はないかと思案した。
パーティー終わりの……、晴れやかな笑顔を複雑な思いで見送るオーラルに、バレンタイン次席は、
「済まない……」沈鬱な顔しながら、多額の契約金が渡され。重い足取りのまま帰宅した。
「お帰りなさいオーラル……。ギル・ジータ王国はどうだった?」既に聞いていた筈の母は、いつも通りだった……、
「オーラルお土産は~」姉など夕べ渡せなかった。お土産の催促である。苦笑しながら姉の顔を見て、小さく息を飲んだ。普段から気の強い姉の目は、真っ赤だった………、何時ものつんと澄ました。顔を作っていたが、無理してるのが解る。母が小さく頷き、姉の気持ちが、痛いほど嬉しかった、だから気付かないふりをして、
「うん、あっちで友達が出来てね」
笑みながら姉に、似合いいそうなサムエのカラフルな布地、銀のペンダント、母の好きなハープティー、高価な香辛料を渡して……、
ずしり重い。革袋をテーブルに置いて、
「魔法が売れた、契約金……、これだけあれば、数年食べれるね」にこやかに微笑する。いつも通り……、やる気の見えぬ弟を……、ついに我慢出来ず、抱き寄せ……、すがるように泣き崩れた。
「なんであんたが……、あんなに頑張ってたじゃないの……」
それで十分だった……、オーラルの代わりに、憤ってくれる姉……、優しい気持ちに感謝した。
「さあ……ミリア、冷めない内に、食べましょう…」
うっすら涙ぐむ母に、促され、こうしてしめぽい夕食を終え、眠りに着いた。
━━翌朝……、学園側から。正式な発表がなされ。リリア女史は、苛々しながら教壇に立ち。エドワード・ブリュクヒルの言い掛かりを、隠しもせず。『特待生』に話した、何もかも……、リリア女史は怒っていた、何も出来ない自分に……、
レイナ・フオルトは珍しく。その日。昼食を忘れた。
ピアンザ・カリアは終始不機嫌で、何も語らなかった。
ケイタ・イナバは泣いた、泣いて……、自分を責めた……、もっと……、もっと…、自分が強くならなきゃ…。決意させる程に。
ただ1人、オーラルから全て聞かされていたミザイナは、親友として、何も出来ぬ悔しさに。静かに唇を噛んでいた。
まるで全てを耐えるように……。きめ細かな肌に、強く爪をたてすぎて、血が滲む。
……数日後。
ピアンザは迷っていた……、少ない友のオーラルの身を案じていたから。
自分がオーラルに会いに行ってよいのかと、
それでも決意して家に行くと、オーラルの母から、孤児院の手伝いで、先生をしてると聞いて、少くなからず驚いた。
━━東大通りから、郊外の外れに。アレイ教の孤児院があった。そこで見たオーラルの姿に、流石に眼を丸くした。
「オー先生!、これ読んで~」
おしゃまな女の子が、おねだりしてると、僕も、私も、せがまれ、もみくちゃにされながら、優しく、子供達の頭を撫でてやれる。そんな優しい顔を見て。子供達はオーラルになついてた。
意外な、気がしたが……、考えてみれば、ケイタの面倒見て、学園を退学になったくらいである。面倒みはいいのかもしれないな。そう思い直したら……、意外とオーラルの先生姿ら、似合うなと納得していた。
「お兄ちゃん~、誰?」 「ん?」
いつの間に小さな女の子が、ピアンザのズボンの端を握りしめていた。
「あっいや…」
困り果てていると、
「オー先生。ラナが、知らない。お兄ちゃんになついてるよ~」
柄にもなく、慌てるピアンザに気付いたオーラルは、人の悪い笑みが浮ぶ。
「あのお兄ちゃん先生の友達だから、遊んで貰いなさい!」
「なっ」慌てるピアンザ、言い訳すら言えず。大歓声に消えていた。
子供のパワーは……恐るべし。遠慮などしない子供達。散々ピアンザを引きずり回して、いつの間にか考えることも馬鹿馬鹿しくなる程。「本当に疲れた……」
暗くなるまで、子供達と遊び、夕食を共にして、帰る頃には、ヘトヘトにっていた。
それにオーラルの元気な様子が見れて。多少なりとも安心していた……、 「家族か……」
孤児院の子供達を見てると。強く願う、今日は有意義な1日となっていた…。
━━その日の夜中……。
郊外、街外れの林で、オーラルは、木刀を手に、1人訓練をしていた……、
それは迷い……、
父と同じ土竜騎士になるかの葛藤……、今もどうするか迷いがあった……、
母は、何も言わない……、
行方不明の父、
母は、父と同じ土竜騎士になること望んでいる。
今日ピアンザと会って余計に感じた。仲間から置いてかれた不安……、1人だけ残されたような、漠然とした恐怖が、胸中にあった。
「ピアンザ…、ミザイナ、レイナ、ケイタ……」ミザイナ部隊の面々の顔が、脳裏を走る。言い知れぬ不満が、剣先に現れ、乱れた斬撃となり。木の幹に弾かれ、手が痺れた。
「何をしてるんだ俺は……」
だから苦悩した。
━━城内の図書室……。
カレイラ・バレス少将は、どうにかして4つ目の師団を作るかと。その方法を模索していた。いかに『オールラウンダー』の称号を持ち。ケレル殿下の腹心とは言え……。下級貴族の出では後ろ立てなと望めないカレイラにとっては、様々な問題の壁があった……、
例えば師団を運営するほどの土地、金、兵士の問題は、あまりにも難しい。焦る気持ちを誤魔化すため。毎日様々な文献を読み更けながら、時間を潰していた、
そんな夜更け━━。
ノックの音が静寂を壊した。眉をひそめたが、素早く気配を探り。直ぐに気を引き締める。
「どうぞ━━、エドナ筆頭」
息を飲む気配、呆れたような、心情をも感じ取る。しかし油断はしない、エドナとはカレイラにとって。油断ならない人物でああった。
「こんな夜更けに、どうしました、エドナ筆頭?」
余裕の笑みの内、
さて………何を考えている?。警戒心すら隠して、相手の出方を待つ。
「━━実は、カレイラ殿に折り入って頼みと。ある提案があるのですが……」そう前置きして、獰猛な本性を剥き出しにしのだ。
━━詳しく話を聞くうちに。久しく忘れるほど呆れていた。それほどの無茶苦茶でありながら、十分に魅力的であり。カレイラの教示を擽って。なおかつ皆を納得させるほど痛快であるが猛毒である。それほどエドナの話は、カレイラに有益な提案であった。思わず2つ返事しそうになったが、自制心を総動員して、どうにか表情を取り繕っていた。
「少し、考えさせて下さい…」
含むように、それでいて満足そうに……、事実上。了承したのだ。
3日後━━。
━━都の東に。長年無造作に放置された土地があった。
エトワール家所有の領地の一つで。王妃となったレイダ王妃様に。貸しされた王家の領地でもあった。
━━通称貴族街。
エトワール・ブリュックヒルは、たるんだ頬を弛ませていた。不慮の事故とはいえ。不様に死んだ馬鹿息子が、最後に、親孝行したと悦に入っていた。
「失礼します旦那様………」
「何だ」
機嫌良く返事を返した。「はっ、はい……、それが…」
いい淀む執事を睨み付け、
「はっきり言わぬか!」怒鳴り付けるや。蒼白顔に冷や汗流しながら執事は、
「カレイラ少将がいらっしゃいました」
「……カレイラ?」訝
しげに、眉ねを寄せて思い出した。
確か……、ケイル殿下の懐刀とか呼ばれてる男である。宮中で、一度も話したことは無いが、
『オールラウンダー』などと大層な称号持つ、バレス家、下級貴族の成り上がり者だったか、
王族に列なる。ブリュクヒルに会いに来る理由が解らない。
「追い返せ!」
無下に、良い放つブリュクヒルに、
「しっ。しかし……」
珍しく慌てて、食い下がる執事を、怒鳴り付けようとした。
「それは、叶いませんよエトワール・ブリュクヒル閣下」
突然部屋に入ってきた、何人もの闖入者。しかも沢山の兵を連れて、断りも入れない無礼者。カレイラ少将の姿に些か唖然としていたが、
「無礼者!、余を王家に列なる。エトワール・ブリュクヒルと知っての狼藉か」たるんだ頬を揺らせ。真っ赤になりながら、肉で細まる眼を剥いてがなる。
「誠に申し訳ないが、もはや閣下は、王家を傘に語る資格はありませんな……」
冷徹に告げたカレイラは、部下にブリュクヒルを押さえるように命令した、
「何をする。無礼者が!」
怒鳴り散らすブリュクヒルを、冷然と見下して、カレイラは耳元、ブリュクヒルだけに聞こえる声で囁く。
『閣下は、やり過ぎました、嫉妬のあまり、アレイ学園の学生に、黒衣の者を使わせた。さらに自分の息子まで殺すとは……、』
「国家反逆罪の疑いがあります。」
『陛下より捕縛命令が、出ております閣下……』早くも血の気を失うブリュクヒル、
『ケレル殿下伝言です。閣下は死ぬまで、地下牢に幽閉をします』
怒りのあまり、口腔から、泡を吹き出しながら、意識を失っていた、
こうして……、
エトワール家は、東の広大な土地を没収された。さらに━━公爵の地位すら、取り上げられるところを、陛下の恩情で、多額の金銭を払い、何とか家名と公爵の存続を全財産で買った、
それは屋敷は残るが……、統治してた街まで、陛下に取り上げられて、実質エトワール家は、傾いた━━、
━━半年後。ブリュックヒルは、牢獄で急死。公式的にバローナが公爵となるも、名ばかりのエトワール家は衰退して行く、そこでただ1人残された。肉親の叔母にすがるも、過去の過ちからあっさり無視されていた。間もなく名ばかりの公爵家、エトワール家と言われるようになった。
一方で……、ブリックヒルの悪政に苦しめられていた。所領の住人達はとても喜んだ。
そして……、エトワール家が、長年溜め込められていた莫大な金は、半分を国庫に入れて、一部エドワード家所領の民に返還されて、多くの民から感謝された。
なお新たな事業を、ケレル殿下の号令の元、うち立てられた……、
━━新たな師団の設立と、戦士養成学校の設立である。
カレイラ・バレスは、今までの功績が認められて、ケレル殿下直属の新たな師団。最年少の団長に委任されたのであった。
━━6年後……。オーラル24歳。
━━通称貴族街。騎士通り、ハウチューデン家。「オーラル、オーラル!いい加減起きなさいよ。今日から戦士養成学校に行くんでしょ」
怒鳴る姉の声に、眉根を寄せながら、オーラルは目覚める。成長して精悍な顔立ち?←眠そうな眼で台無しである。
黒髪は癖髪で、収まりもなく、寝癖が出来やすくで。何もかもが台無しに…、まったくやる気無さそうな顔は健在である。呆れ顔の姉に、追い出されるように家を出ていた。
━━昨年、ケレル殿下の肝いりで、戦士養成学校を開校した。学業で劣るが、腕に自信ある者。兵になりたい者に広く門戸を開いていた。
━━数日前になる。姉は生徒募集の紙を握りしめて。帰って来るなり、有無を言わさず。オーラルを無理やり入学させていた。
二人の……姉と母の気持ちに、オーラルは感謝していた。再び学ぶ事が出来る。それだけで今までの苦労すら。忘れられた。
━━東大通りを抜けて、大聖堂の脇を真っ直ぐ進めば。オーラルの通いなれた道である。
「オー先生~頑張って!」
「先生~頑張ってね♪」孤児院の子供たちが、ひょっこり顔を出した。みんな満面の笑顔で……、見送るために早起きしてくれた。眠い眼をこする小さな子供たち……、
感謝の気持ちから。静かな決意が、ふつふつ胸中に広がっていた。
校庭に集められた。入学希望者は、全部で300人を越えていた。戦士養成学校では、50名一クラス。師団として扱われ、訓練されると。事前説明に書いてあることを思い出した。これから二年の訓練を経て、無事卒業出来た生徒は、新設されたカレイラ師団の入団が決まっていた。
とはいえ全員が、入団出来るとは限らない。
二年の訓練後。試験もあると言う話だ。
最初に50名の師団ごとに集められた生徒達は、担当教官と顔を合わせることになった。
「わしが教官のジダン・ロナベルである」
これから二年の間。兵士に必要な最低限の戦術の基礎を学ぶことになるのだ。ジダン教官は、元ガイロン重騎士団所属の現場叩き上げの頑固そうな人物である。
「貴様達のような、燃えないゴミを、燃えるゴミにするのが、俺の仕事だ解ったか小僧共!」いきなりの怒声。さっきまでの和やかムードが消失していた。ざわめきは消え押し黙る生徒達、その中にあってまるで驚きもしない1人の生徒がいたのに。思わず小さく笑う。すたすたかくしゃくとその生徒の前に行くと。
「そこのお前、名を名乗れ」
指された瞬間、ビシリ背を伸ばして、一歩前に出た。
「オーラル・ハウチューデンであります教官!」非の打ち所の無い、敬礼、些か驚きながらも、老教官の顔は、ニヤリ嬉しそうに笑う、
「オーラル・ハウチューデン!。貴様を第1師団長に任命する。これより訓練方法は貴様に一任する。良いな?」
ちょっと驚いたが、
「オーラル・ハウチューデン!、喜んで師団長、勤めさせて頂きます」即答で答えやがったと。老教官は、嬉しそうに破顔一笑していた。
「じゃやってみろや、オーラル師団長」
どかり地べたに胡座を掻いて、お手並み拝見と座った。
オーラルはまず戸惑う第1師団の新入生を見て回り。目に着いた何人かに来てもらった。その中でもゲルマン、ハーレスと名乗る2人を、中隊長に任命し、ついで残った7人を、小隊長として任命すした。普通小隊とは6~8名で部隊を作る。それでは48人と中途半端になるため部隊編成に、無理がある。
さらに中隊長を二人にする意味が、その時点で半減してしまう。
そこで訓練小隊を10作れば、問題が解決する。師団長と言えど生徒でしかないオーラルを組み込んで、小隊とすれば良い話である。すなわち6人小隊ではなく、5人小隊を、自分を含め10編成した。
任せてから僅か数分の間の出来事であった。各小隊の編成を済ませると。小隊毎に縦に並ばせ、点呼を開始。小隊毎に体操させて、小隊毎にランニングから始めて。身体をほぐしてから、
「ジダン・ロナベル教官!、これより第1師団は、腕試ししたいと思います」
腕を組み。無言で見ていた教官の前で、敬礼する。
「ほ~う、まず聞くが、なぜ6人編成にしなかった?」
伝法で、ぶっきらぼうな言い方だが、戦場を見てきた凄みがある。
「教官、逆に聞きますが?。たかが生徒が同じ生徒に威張れますかね?」ぴしゃり膝を叩き、かっかと高笑いして、
「違いねえ!テメーよく分かってるな、よし。貴様の狙いは解る。許可する」
「ありがとうございます」
まったやる気は無さそうな眼で、第1師団を集め訓練場まで移動させた。その上で小隊長を呼んで、それぞれ小隊のメンバーと試合させたのだ、
試合終了後、
小隊長、中隊長に選んだ9人を相手に、オーラルは全員と戦い、完勝して見せた。そうなると生徒達の目の色が変わる。みんな腕に自信があるだけに分かりやすい。
オーラルの狙いは最初から、効率的に生徒達全員に。小隊長に選ばれた者の能力を体感させ。その上で、オーラルは実力を見せ付けた。試合が終わり、オーラルが第1師団の前に立つと、自然と真剣な目が、オーラルに集まる。
「見た通り、俺が団長に選ばれた理由は、この中でとりあえず一番強い奴を頭に据えた、ただそれだけだ、少なくとも他の訓練生より小隊長、中隊長は、生き残る為の力がある。まずはそれだけを頭に入れて欲しい」
その後、小隊毎に、基礎訓練だけして、終了となる。
「オーラル貴様何者だ?。こんな場末の養成学校にいる。器ではあるまい」
老教官は、唸るような目で値踏みする。オーラルは肩を竦めながらキッパリと、
「ただの新入生です。教官」
それだけ言うと再びやる気が無さそうな……、掴み所が無い顔を見てたが、まったく表情は変わらない。「……まあ良い、使える奴は、親でも使うのが軍隊よ。綺麗事言わない。貴様は正しい。精々頑張れや」
歯切れ良く。伝法な口調の教官ジダン・ロナベルは、機嫌良く新設した学舎に入っていった。
学舎は1部屋4人で使う、オーラルも学舎に入寮する。
━━日も登らぬ早朝。戦士養成学校の朝は、小隊の点呼から始まった。
第1小隊~第4小隊まで、槍ぶすまの製作、設置の訓練、
第5小隊~第8小隊は、弓の訓練を行う。
第9小隊、第10小隊、は補給部隊として、訓練の傍ら、遊撃小隊の訓練を行った。
━━瞬く間に。半年が過ぎていた頃━━。魔王を殺した者が、新たなる魔王となったと、噂が流れた…、
……かの者の名を…ピアンザ・カリアと言う……、西の大陸で、魔王を名乗り、5つの国々を滅ぼして、その手中にしたと噂が流れた…、
━━━6年前。
アレイ学園、『院』に進学して二年。ピアンザ、ケイタ、レイナの三人は研究者となり。忙しい日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、シレーヌから手紙が来るようになって、彼女と文通するようになりはや3年になるか……、
ギル・ジータのエバーソン家から、2年前、世界が見たくなり、シレーヌは旅立った……、
たまに便りが来るのは、同じエルフだからか、最初は戸惑ったピアンザだったが……、見るもの全てが楽しそうな内容に。何時しか彼女からの手紙を待ち遠しく思うようになっていた。ピアンザは今、このま『院』に残るか、卒業して職に着くか、進路を深く迷い始めていた時期であった。
迷う原因の一因に、数年前……孤児院で味わった温もりが、忘れられなかったのもある。自分の出生を知ってる彼女になら、唯一相談出来るとの思いを抱いていた……、
そんなある日のこと……。
━━シレーヌから久しぶりの手紙が届いた。消印は西大陸からであった。『ピアお久しぶりですね。私は元気ですが、貴方は元気ですか?、今回は朗報です!。なんとエルフの村を発見しました!、良ければ久しぶりに会いませんか?、お待ちしてます』
詳しい場所が、書かれていた……迷いながら、卒業の日を迎えたピアンザは、決意する彼女に会おうと、
事情を知らないレイナ、ケイタの2人には告げず。学園を去ることにしたのだ。何もかも棄てて……。
━━━西大陸。魔導王国レバンナ。
乗り合い馬車で、乗り継ぎを何度かして10日程度かけて。山間の小さな村に。ピアンザは来ていた。
のんびりとした日差し、家族はのいないピアンザは、ただ1人生きるため。アレイ学園で手段を学んでいた。オーラルやミザイナ、ケイタ、レイナ友との出会い……、
みんなと過ごした日々は、ピアンザは認めた楽しかったと、赦せないこともあったが……、自分は変わった。
「おんや~闇の民でねが」
突然場違いな言葉、柔らかな日差しすら凍り付かせる声音。狼狽したピアンザは老婆に驚き、強く警戒していた。
「慌てるでね~オラは、緑の民だ~」
にこやかにそう言うと、人の悪い笑みを浮かべていた老婆は、ピアンザの目の前で、老婆の姿は歪みいきなり老婆は、エメラルドグリーンの緑掛かった髪を後ろに束ねた。、美しい瞳の少女が立っていた。
「おまえさが、ピアンザかい?」
容姿とあまりにギャップある。値踏みするような詰問。打算的な眼差しに。ピアンザは惑いながら、小さく頷くしかなかった。
「へえ~、シレーヌの言った通り、だったな~」話をしていたら。何故か満面の笑みで、クスクス笑う、
「みんな、あんたを待ってたんだよ」
訳も解らぬまま、ピアンザは緑の民であると告げた。少女ラグに連れられて……、村の端にある。小さな、炭焼き小屋に案内された。
流石に訝しく思ってると、ラグが先に中に入り、指を鳴らした。すると……地下に繋がる入り口が現れた?
「これは…幻影魔法か?」
素直に感心すると、にやにや笑うラグは、薄い胸を張って、自慢そうである。
「あたしら緑の民はさ~、わりと幻術が得意でね。だからさ~魔王の眼を盗み、今まで生きてこれたのさ」
「魔王?」
きょとんとするピアンザ、まったく呆れた……、そんな眼差しで見られて。しみじみと。
「よくそんなんで、今まで生きてこれたわね?」嘆息さえされれば、些か憮然となる。
━━地下。と、言っても。暗さはさほど気にならない。疑問を口にすれば、湿気を制御されてるらしいが、その技術と地下の広さに。驚きは隠せなかった。
「あたしら緑の民は、地下に住む者も多くてね~。茸育てるから、湿度の管理が得意で、こうした場所でも居心地よい場所が作れるのさ」
自慢そうなラグは、年相応のあどけない笑みを見せてくれて、そんな顔を見せてくれたからではないが、話してる内にピアンザも彼女を信用する気になっていた。
━━ラグに案内されたのは、かなりの広さがあるちょっとした広場。この村の住人が集まれる程度の広さはありそうだ。興味深く辺りを見てると、
「ピア!」甘やかな、弾んだ声が響く。ピアンザが入って来た方とは反対側から……、白を貴重したゆったりしたローブを羽織る。美しい女性が、眼を輝かせて走って来た。
「シレーヌ?、シレーヌなのかい」
戸惑いながら確かめるように呟くと、悪戯っぽく微笑して、クルリ回って見せる。
「驚いた?、ピア」
嬉しそうに、はにかむ姿はには、確かに当時の面影があった。元気そうな姿を見れば素直に頷いた。するととても嬉しそうに、照れ笑いしていた。「シレーヌ様。慌てずとも間もなく……」
シレーヌの入って来た入り口から、長身のエメラルドグリーン色に輝く。緑掛かった髪の青年が現れた。此方を見て、少々虚を突かれた顔をしてたが、柔らかな笑みを浮かべて、ピアンザの傍らの少女を認めた。
「ラグ早かったな。そちらがピアンザ様か?」
「そだよ~、すげ~アマアマだけど、頭は悪く無さそう」
クスクス笑いながら、悪態をさらりと言うのだ。口の悪さに些か驚いたピアンザだが、嫌な気分にならなかった。ラグ本人の資質によるものかは解らないが……、天真爛漫なレイナに似た空気を纏う少女である。
「君たちは……、もしかして?」
喉が、ひりついた……、そして……、ピアンザは知る。闇の民と呼ばれる。古代の民の長。魔王の所業を……、
━━━3年後。
王座の間に、6人の男女が一堂に会していた。
1人は緑の民の少女ラグ・エマ =ラグラド・エルバに名を変えた。
六将の1人。幻影の魔女と呼ばれる美しき女性となった。
1人はラグラドの隣に立つ長身の美麗夫。ロドラ・ギドリス=ギラム・ブライドと名乗ってる青年は、あの日にシレーヌと出会った緑の民の青年である。仲間からは緑眼の騎士と呼ばれ。魔法と剣の使い手である。現在は六将の1人となっていた。
「陛下……、我らは、世界を守るため。如何様にも動きましよう」
1人は白銀の鎧を纏い、強大な強い魔力を放つ。二本の聖剣を持った。聖騎士と名高い、ナタク・レブロが一礼する。「我らは、必ずや大陸統一を急がねばならない!、悪行と罵られようと、世界を守るために━━」高潔な武人ナタクらしい物言いに、ムッとした顔をしてたラグだが、直ぐにニンマリ。人の悪い笑みを浮かべていた。
「はいは~い。あたし面白いとこ見付けたよ。アレイク王国のある場所で……」
色々含みながら、ピアンザの様子を伺っていた。まさに猛毒含む笑み……、多くの人々が死ぬかもしれない暗にそう言うのだ。ナタクは忌々しそうな眼差しでラグを睨むが、ラグは異に反さない。そもそもこんな噂があった。ナタクはシレーヌと同じ光の民であると言われている。
ピアンザの胸中に、様々な渦中をもたらしたが、「……ラグ任せるよ。存分に……、やるといい」
冷徹な光を……、底冷えする黒曜のような鋭利な輝きを。瞳に宿したピアンザは命じた……、全ては世界を救うために、魔王ピアンザは、覇道を選んだ。
一年前━━。
アレイク王国を。揺るがせる大事件が起こった……。
庭園に集められた重鎮達の中に。次期国王ケレル・バレンシア・アレイク殿下は、急を有してケイタ・イナバを呼び出した。
「ご足労感謝するケイタ筆頭殿、早速で済まないが、そなたオーラル・ハウチューデンと言う人物を知っているか?」
普段国政に携わる場では、一切顔色一つ変えない妻シルビアが、息を飲んでいた思わず。手に力が入った。二人の胸中にはまさか……、再び表舞台の場、しかも殿下の口から先輩の名前を聞く日が来ようとは……、
「良く…知っています殿下…、先輩は…、いやオーラルが何か?」
ケレルは、事前の調査である程度のことは、既に知っていたが、ケイタの嘘つけぬ反応が見たかったのだ。それでオーラルと言う人物が、信用出来る人物かと判断したのだが……。政治に疎いケイタは気付かない、
研究者としては優秀だが……、妻とは違い政治には向かない性格と判っているから、わざわざ呼んで反応が見たかった。
ケレル殿下が、何故わざわざ国政の場にケイタを呼んだか、既に魔王の手が━━、アレイク王国に伸びていたとしたら……、人の口に扉は立てられない。情報規制しているにも関わらず。早くも噂が流れている。ケレルの耳に入る程度に……、まだ火種は小さい、が……、不安は広がるだろう、ならば新たなる。希望を与えねば、ならないだろう……、
「彼は、妹の命の恩人ある。少し調べさせたが、可笑しいのだよ。彼ほど優秀な人材が、なぜアレイ学園を、退学させられたのか?、それが判らないのだ……」
やや憮然と、瞳を曇らせるケレル殿下に対して、━━ケイタの胸中は温かな気持ちで、一杯になっていた。
チラリ、カレイラ准将を見ながら、あの日起こった、謀略を話した……、だが……ケイタには、カレイラ准将の知らない、もうひとつの計画が身を結んだ結果だと。喜びを噛み締めていた。
あの日のことを……、
凄まじく後悔していたケイタは、
エドワード・ブリュクヒルの行いが赦せなかった……、
だから……ありとあらゆる伝……、シルビアの助けがなくば不可能だったが……、
シルビアに手伝ってもらい、ブリュクヒルの領地、税収、全てを調べあげ、不正とその手段を行った証拠を手にいれていた。その上でカレイラ准将の生い立ち、当時の立場、何を目論んで、求めてるか、正しく知るのに調べあげた。そしてあ……る計画を画策した。
学生でしかないケイタには、あまりにも無謀な策略であり。ある程度望む結果を引き出す下策。人任せの謀略でしかなかったが、同じくオーラルのこと思ってくれていた。前任のエドナ筆頭の助力を取り付け。難しい駆け引きをカレイラ准将相手に繰り広げ。ようやく最低限の準備を整えていた。それはケイタの贖罪。それはカレイラの渇望が、合致した結果である。
━━今度こそ。
あの日……、何の見返りを求めず。手を差しのべてくれたお礼が出来るかもしれない……。
だから無謀な方法を選び。エドナ筆頭に、計画を持ち掛けたのだ。
━━その事実を知るのは、ケイタと妻シルビアだけである。
カレイラ准将は、当時エドナが集めた様々な証拠を使い。エトワール・ブリュクヒルの財産を押収。カレイラ師団設立に使った。それこそがケイタの計画通りに……。さらにはエドナ筆頭の願いにより。形になったのが戦士養成学校だった。
「成る程……。あの事件の……、ブリュクヒルには感謝せねばならぬか、皮肉な毎にな……」
しばし考えを吟味しながら、ケイタの話を聞き終えてそう呟いた。
「カレイラ……、彼は功労者だな?」
鋭利な、眼差しを和らげ、ケレル殿下の考えを読み。
「良い、考えと思います」
一礼するカレイラに、(苦笑)浮かべ、一つ頷き、
「オーラル・ハウチューデンを『オールラウンダー』候補にする」
ザワリ……、
居並ぶ、重鎮達は息を飲むなか、エレーナ大司教だけは幼女のように笑み、ケイタに目配せしてきた。思わず同意の目配せを返して、密かに喝采を送る。
「先輩……」
会心の笑みを浮かべていた。
━━━事件3日前。
戦士養成学校の教練部屋で、第1師団長オーラルが呼ばれた、
「貴様。アレイ学園の元『特待生』だったらしいな?」
伝法な口調の老教官、ジダン・ロナベルが、ジロリと睨む。
「そうでありますが、それが何か?」
まったく気にもしてないオーラルを、穴が、開くまで見てたが、表情一つ変えない。喰えない男である。だが満更でもない。うわべだけの口だけの奴は、軍隊にも腐るほどいて見てきたが、こいつは馬鹿か、よっぽどの大物になりやがる。秘かな楽しみになっていた。
「理事長の命令だ、お前に、皇女のエスコートを任せるとよ」
一瞬。驚きが浮かぶが、やる気無さそうな顔のままで、「承知しました教官」
あっさり頷きそれ以上、何も聞かず。ジダンの言葉を待っていた。やっぱり解ってやがる。
「狙われる危険がある。エドナ理事長はそう考えてる」
後程知ったがオーラルに。戦士養成学校入学を、勧めたのは、エレーナ大司教様だと言う、子供の頃からエレーナ母様は、孤児院の手伝いをしていた。姉やオーラルにこっそりお菓子をくれたりして、何かと可愛がってくれたのだ。
「どうも……、魔王の手の者が動いてるらしいとよ…」
白髪の目立つ、短髪をガシガシかきながら、忌々しそうに顔をしかめる。一瞬オーラルは、困った表情になったが、ジダンが眼をしばたかせると、何時ものやる気ない顔であった。どうも何か隠してる様子だが、どうせこいつは言わないのが分かってるから。もう一度ガシガシ髪をかきながら睨めば、
「了解しました、最悪、皇女を連れて逃げます」きっぱり言い切った。これにはジダンも参り、嬉しそうに一笑した、
「まあ~そうならないよう、備えとけや、明日だ、頼んだぜ」
見間違いだったと取り敢えず判断した。オーラルは何事も無かったように敬礼して、退出した。
━━━事件7日前。
王城。西側━━、
王族の住まいがあるのは、3階の一部である。数年前……、皇太子が病死して…、現在は国王、王妃、ケレル殿下、
そして……、
そこは大きな部屋だった。もとは精緻な造りの美しい白亜の子供部屋だったが、部屋中に。大小様々なデフォルメされたモンスター、架空動物のヌイグルミが乱雑に並ぶ。内装はピンクで統一されていて、部屋の中は現実場馴れされた、ファンタジーランドと化していた。さしずめ部屋の主は、物語の主人公のように…、
「ん~……スースー」
猫耳……、ヌイグルミが動く?、
どうも猫に似せた、寝間着を、着込んでるようだ、結んだ髪が、動く度に。尻尾のように動いて見えた。
「ん?……、はいですの」ノックの音で、直ぐに目覚める。でもまだ眠いのか、幼い顔立ちの目元こすりながら、王妃に似た。美しい顔立ち、些か幼すぎるのを、兄ケレル殿下は心配していた。
「おはよう御座います。姫様」
「おはようですのジーナ」
メイド服に身を包む女性は、城では珍しい、浅黒い肌をしていた。北大陸の出身で、体技に優れた部族の生まれと聞いていた。彼女のことは、姫……ミレーヌが、物心が付く頃から、身の回りの世話をしてくれていて。姉のように信頼していた。まるでそう……大切な家族のように。思っている。
「姫様。ケレル殿下が、後程来てほしいと、言付けがありました」
「まあ~?、珍しいですの」小首傾げ、美しい眉ねを寄せる。悩むミレーヌには構わず。ジーナは身支度を整えていた。
聖アレイク王国は━━、偉大なる聖アレイが、王国の基礎を築いた国である。初代国王クラウベリアは、アレクの実子。二番目の子供であったとされていて……。正式に建国王と初代国王が別なのには、理由があった。
建国王バレンシアは若くして亡くなっており。アレクの長男だったと記されていた。
アレクは、現在の大地神アレを祭る。聖アレイ教の教皇となった伝説上の人物であり、今のアレイク王国の民のため、様々な奇跡を起こした。
有名な話では、今も侍司祭以上の信者が行う。癒しの奇跡であろうか、多くの病める民を救ったとも言われており、死せる病すら治したと記されていた。今でなお……、アレイク王国。全ての民の崇拝を集めていた。
しかしながら……。
聖アレイが死んだと記録。記載は残されていない。謎多き聖人である━━。
現国王レゾン王は、クラウベリアの孫にあたる。昔から民の崇拝の対象に王家が見られるのだが、そこには理由があった。王国を営み時を重ねれば、多少なり衰退したり。奇行に走る為政者は生まれる。しかしアレイクの王族には、聡明な皇子、姫が生まれることから。民の信仰の気持ちが高まるのも。一概に間違いとは言えない。
歴代の王の中でも。聡明と名高いレゾン王には、3人の子がいた、
リドワール皇太子、
ケレル皇子、
ミレーヌ王女である。
━━昨年。リドワール皇子は、持病の心臓病で、病死していた。
よって次期国王はケレル皇子が選ばれたが、兄リドワール皇太子に勝る。聡明な人物と、民に人気が高い青年であった。
━━レゾン王が、謁見、様々な視察で、多忙な時期は、次期国王ケレル皇子が、実務をこなすため。日中は、様々な国々からの使者と密談を繰り返す。
こうした謁見などや、外交の場で話せる内容を、細かく詰めるため。
財務省トップのカレン・ダレス財務官、
大司教エレーナ・シタイン、
ギルバート・ガイロン将軍、
カレイラ・バレス准将、ブラレール・ロワイ騎士団長、
セレスト・ブレア近衛連隊長、
宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバ、アレイク王国のトップである重鎮が、連日会議をすることも少なくないが……、
扉が、おずおず開き、相手を認めて、優しく微笑する。
「お兄様おはようですの、ミレーヌに御用と、ジーナから聞きましたの」
妹王女のいつまでも変わらぬ。可愛らしい仕草に、少々不安になりながら、
「よく来たねミレーヌ。今日のご機嫌はどうかな?」
からかい口調の兄に、先日の失態を思い出して、恥ずかしそうに、ほほを染めていた、
「はいですの」
可愛らしくはにかむその姿は、もしもこの世に天使がいるとしたら、妹はまさしく天使のように、無垢で純粋であるなと、感慨深く嘆息する。
妹=ミレーヌは先日、ファレイナ公国ミザイナ大使との会談で、失態したばかり……、多少不安だが、父の意向もある。
「ミレーヌ。父=国王から、内々に仕事を頼まれていてね。新設した、戦士養成学校の視察を頼みたいのだが……、行ってくれるかい?」
キョトンとする。妹=王女の背後に立つ、メイド服を着たジーナは、ミレーヌになにやら耳打ちしていたら、徐々に顔を輝かせ。
「任せて下さいの!」
嬉しそうに答えた。チラリジーナに眼を向けると、小さく頷いた。
程なく、ミレーヌがおいとまを告げ、次の案件の書類を手にしたが、まだ胸中に不安が広がっていた。不穏な話を、ミザイナ大使から聞いたばかりでたる。妹ミレーヌの身を案じていた。
━━ケレル自身なら、カレイラを警護に連れ出せるが、妹にはジーナしかいない、不安は残る。不穏な情勢。父王、王妃の不在、ミザイナ大使から、急知があり、ファレイナ公国王弟エドワルド公爵が、来日するというのだ。レゾン王はいま4ヵ国会議に出てる今……、ケレルまで、国を空ける訳にはいかない…、
━━━事件当日。
広大な敷地のある。戦士養成学校の視察にミレーヌ王女様が参られる。密かに噂が流れた。
瞬く間に広かった噂に。多くの学生が浮き足立つ中、口の悪さと、手の速さで有名な教官ジダン・ロナベルは終始ご機嫌である。なんでも噂では……、ミレーヌ王女のお守役だったと聞く。
そんな話もあって訓練生の中では、ミレーヌ王女を守る。部隊が編成中と言う噂もあるのだが……、今まで姫様の護衛部隊は、ガイロン重騎士団から選ばれていた。今年早々。カレイラ師団に、管轄が変わったのにも理由がある。通称王女の御守り部隊は、名誉職でしか無かったため。退職間近の老人ばかりだったのが理由で、近年の世情を鑑みて、魔王の不穏なる行動から。レゾン王は新規のカレイラ師団に、早急な部隊編成を求めたのだ。
今回の視察は、卒業間近の訓練生にとって、チャンスである。アピールして……あわよくば、熱気を感じた。
ジダン教官の隣には、姉のミリアが無理やり着せた父の正装を着せられていた、本来右腕には、土竜騎士の着ける。赤い手甲があるが、無論着けてはいない、いつも寝癖のある髪は母に丹念にセットされていた。
「似合うなオーラルよ」ニヤニヤ、人の悪い笑みで、ねめつけた。
「帰りたくなります……」
珍しく、ゲンナリしてるオーラルの腰を叩きながら、げらげら笑い、
「お前のとこも頭が上がらんか?」
意味ありげに、右眉をあげる。何と無く、教官の言わんとしてる毎に気付いた。
「姉には、逆らえません……」
昨夜。準備で、家に帰ったのが失敗だった……、母の喜びように面喰らう程だった。やはり心配掛けてたのは事実。仕方ないことではある。
「お前の衣装、土竜騎士のものだな?」
さすがに誤魔化せないか、半分諦めながら、
「父のです」
虚を突かれた顔をしたが、妙な符合に一つ頭をガシガシかきながら、
「なるほどな……」
意味ありげな眼差しの中に、何を感じたか……、敢えて何も聞かなかった。
━━予定よりやや遅れ。
豪奢な4頭立ての馬車が、戦士養成学校の入り口に到着したのは間もなくのことで。オーラルが出迎えに出ていたが、御者見習いが慣れてないのかもたもたしてたので、代わりに馬車の下にある。嵌め込み口から、装飾された、足場を出して、
「準備は、よろしいですか?」
見習いを制して、伺うと。びっくりしてた見習いだが、扉を開けるよう手をやり。咳払いして、位置に着いた。
「どうぞなの~」
姫の声はまるで、ギル・ジータで聞いた、極彩鳥の美しい鳴き声のようだと内心思った。一切の遅滞なく。見事な所作で、見習いに合図を送ると、見とれていた見習いは慌てながら、戸を開く。
最初に出てきたのが、浅黒い肌のメイドである。鋭い眼差しの女性で、貴族とは違う、美しさを秘めた肉食獣、そう……猫課の動物に似た、空気を纏っていた。気落とされる御者見習いを、他所に、辺りの様子を伺う。
オーラルはわざわざ、彼女の見る視界をふさぎ、眉をひそめて、一瞬睨むような、メイドの視線を受け流し、「お部屋は用意してあります。しばらく休まれてから、改めて、挨拶させていただきたく思います」
虚を突かれた顔をしたメイドだが、少し険しい眼差しを和らげ。小さく頷き。
「では、案内願います」
僅かな吉備で、目前の青年は、見抜いたようだ。素早く状況が判る人物が、エスコート役に選ばれたと。ジーナはホッとした。
姫=ミレーヌ様は、朝まで元気だったが、急に暑くなった陽気に当てられて、体調を崩していた……、傍らのミレーヌの顔色は青くぐったりしていた。心配しながらも先に降りたジーナに、青白い顔のミレーヌ姫が小さく頷いた。なんとか足を掛けたところで、立ちくらみか倒れそうになるところ、ジーナより素早く。エスコート役の青年が、最小限の動き、不敬にならないように、考えられた支えをして魅せ……、
我知らず。感嘆の溜め息を吐いていた。
━━案内されたのは、人に見られない小さな窓の無い部屋。空調など望めない筈だが……、
程よく、心地好い清廉な冷気が、季節外れの猛暑の身体をジンワリ冷やす。ジダン・ロナベル教官には、姫が遅れると知らせるように頼み。
「お茶の用意をしました」
喉の渇きを感じてたジーナは、素直に感謝して、冷たい冷茶に、顔を綻ばせる。姫も休まれて、だいぶ顔色が戻られていた。
「これは…蜂蜜ですね」
褐色でドロリとした、甘い香りの液体が、安物の陶器に、場違いな感じで、たっぷりと入っていた。「先日。ギル・ジータ王国に住む。友人から贈られた貰い物ですが」
眠たげな眼差しの訓練生と名乗る青年は、見た目のやる気なさそうな顔で、気楽に肩を竦めた、
「えっ!、蜂蜜ですの」
満面の笑顔で、顔を弛める姫に、早くも苦笑滲ませながら。添えられたラスクに、たっぷりぬり、子供のように素直にはしゃいでいた、でも……ジーナは眉を潜めた。蜂蜜は高価なのだが……、訝しげに思いつつもジーナも甘い誘惑と、絶妙な冷茶に心奪われていた。
「このお茶……、初めて飲みますが、どちのですの?」
「はい姫様、南大陸ファレイナ公国の緑茶と言う飲み物です」
「では、ミザイナ様が、おっしゃっれていたこれが……」ミレーヌ姫が眼を輝かせ、しきりに感心する。一方で、首を傾げるジーナは、値踏みする眼差しをオーラルに向けた時だ。無遠慮に扉が開いて、
「姫様、お加減はいかがですかな?」
普段見たことのない、優しい眼差しの教官がそこにいた。
「爺!」
パッと華やぐ姫は、猫の子供のように、教官に抱き付いていた。
「これこれ姫様大きくなりましたのに、子供にお戻りですかな?」
孫を愛でる祖父のように、眦を下げた。
「はいですの、ミレーヌは元気になったですの」
はにかむ姫の美しさに、ジーナですら、頬を染めた。
「オーラル、魔法を止めて良いぞ」
「はい教官、俺は先に。準備してます。それまで、理事長室を使って下さい」オーラルと言う訓練生が、部屋を出た途端に、ジトリと暑さを感じた。
「今までのまさか……、魔法?」
信じらぬ思いで、かつて。姫様のお守役であった。老教官をみたが、ニヤニヤ意味ありげに笑うのみ。相変わらず答える気はないようだ……。
「さあ姫、こちらにどうぞ」
そうだった……、そっと嘆息してジーナは思い出す。喰えない老人は、姫が頼まぬ限り何も語らない、恨めしげに睨んだが、どこ吹く風である。
戦士養成学校は、まだ建設されて数年の新しい建物である。訓練生と教官が、一緒に暮らす。建物と主な使い方になっていた。
理由は、訓練生の多くは、カレイラ師団に入ることになっていて、戦士として足りない力量+集団行動や生活に、慣れてもらい。軍人にとって最低限の基礎を学ぶための訓練学校である。
資料によればアレイ学園の元生徒が、多数在籍していることから、先程の生徒もあるいは……、元『特待生』だったのかも…、その考えは、しっくりきた、アレイ学園の『特待生』には、魔法を学ぶ機会が与えられている。
だけど……、
『あれが魔法だとしたら、どんな風に制御してるのかしら?』
ジーナは魔法には、あまり詳しくなかった。族長の娘レイナとは別に、ジーナはアレイク王国に。姫様の護衛の仕事として、雇われていた。
そのレイナだが……、今は帰郷している。何でも見合い話が舞い込み。憮然としながらも族長に呼ばれて、渋々帰国している。
━━ジダン老の案内で、二人は三階にある。広々とした理事長室に案内された。落ち着いた青を貴重にした室内。元宮廷魔導師筆頭らしく、本棚には読めそうもない、難しい本がぎっしり詰まっていた。
「難しそうな本が、一杯ですの~」
さすがに姫様が好きな。恋愛物は無いようだった。窓から外を見ると、沢山の生徒が、50人づつのグループに別れて、集まっていた、これから……何かやるのだろうか?、
「教官準備は整いました、号令お願いします」
「うむ、では姫様しばしこちらでお待ちを」
先程のあの生徒に呼ばれたジダンは、訓練場に降りていった。
「オーラル!、準備はいいか?」
眠そうな顔の青年をねめつけると。いつの間に着替えたか、他の訓練生と同じく訓練服に着替えていた。
「何時でも教官。姫様と護衛に、言霊飛ばしますか?」
訓練生が集まる中、ジダン教官は。好好爺に笑い、
「知らせろ」
一つ頷き、2つの術式を構築、放つ。
『姫様、失礼いたします…』
突然、囁く声が背後よりして、ジーナは慌てて振り返るが、キョトンと眼を丸くする。姫様だけがいるだけである。これは……魔法?
『驚かせましたか?、言霊にて、失礼いたします』
言霊……、確か、伝えたい相手だけに、言葉を聞かせる。かなり難しい魔法だったはずでは?、窓から下を確認すると、先程の訓練生と目が合い。小さく会釈された、眉を潜めながら、見てると、隣のニヤニヤ笑う、ジダン教官を発見。
「あの人か…」
小さく嘆息して、了承して先を促すと、
『これより6つある訓練師団による。対抗戦を行います。隣室よりテラスに出て、そちらより観戦出来ますので移動下さい』
言われた通り隣室からテラスに出れるのを確認した。
『机の上に、プログラムが用意されてますから、確認ください』
言われて、理事長の机を見れば、確かに、それらしき物がある。ジーナは手に取りパラパラとめくる内に、眼を見張る。
内容は複数あり、プログラムは、替えが効くように準備されていた。
時間、気候、体調が悪くなってる場合など、今まさに……、プログラム通りに…、思わず喉が鳴っていた。
「これではまるで……、あの方のようだわ」
ケレル殿下の懐刀、カレイラ准将を彷彿させる。周到な内容に舌を巻いた。
彼の言葉通りに、従って……、
ミレーヌ姫が、テラスに現れると、歓声があがる。ミレーヌ姫があどけない笑顔で手をふるお姿に、感動する者が多いことか……、ジーナは何時もながら半分呆れてると、歓声は唸り声のように。辺りに響く。
『これより。合同演習を行う』
オーラルは魔法の因子を解放して、魔法を変化させた。1人に伝える言霊から、風の広域魔法に変化させる。
並ぶ訓練生全員に声を、伝えるために。
『西軍第1、第3、第5師団、東軍第2、第4、第6師団、散開』
テラスには日傘の下に、テーブルと椅子が用意されていて、上にはティーセットが置かれていた。ジーナは知らず知らず。ここまで用意した人物……オーラルを見て、感心のあまり朗らかに笑らっていた。
「あっステンドグラスがありますわジーナ、これがあれば観戦しやすいですの♪』
姫ミレーヌが、テーブルに用意されてた。ステンドグラスに気が付き、唇を綻ばせ。早速みんなを覗き見る中━━、
ジーナもテラスから見下ろして、訓練生の一団が、一個の集団で動く様は、まるで生き物のような動きで……、
「何が、始まりますの?」
頬を高陽させ見ていた、確かに……、これならば姫様の負担にならず。見ていられる。下手な行事より楽しめるしと。良く考えられていた。
姫様のため冷茶を入れて、半分呆れながら、老教官の言いたい事が判る。
『知るか!彼奴に聞け』
そう言うに決まっている。だから、ジーナも、楽しむことにした、何せステンドグラスは二個用意されてたからだ。
プログラムによれば、東西に別れた、2つの軍は、お互いの陣地の旗を奪うか、自軍の半数以上が、
戦死扱い━━手持ちの武器を取られるか、複数に囲まれ、逃げれないと確認出来た時点で、戦死扱いとなるようだ、これは意外と頭を使う……心理と。読み合い。運も必要となるだろう。
オーラルの元に、第3、第5師団長が集まるが、いきなり。
「俺達の師団が、先陣を切るぜ」
「まてよ!、お前とこの鈍足部隊より、俺の師団のが先陣を切ってやるぞ」
鼻息荒く、顔を突き合わせお互い譲らない構えである。
「どちらが先陣をきっても構わないが、第1師団は、旗を守るよ」
おっこれはしめたと、2人の師団長は笑う、
「貴様なら安心して任せれる。頼んだぞオーラル」
第3、5師団長の二人は、姫様にアピール出来る。絶好のチャンスを逃がさない、この時ばかりは、意気投合した。
「それはそうと、こいつでどちらかが先陣を切るか、決めようぜ」取り出したのは、アレイ銀貨、裏表で決めようと言うのだ、お互いにらみ合い、獰猛に歯を剥き出しに睨み合うが、了承に頷きオーラルが代表して銀貨を放るや、二人は血走った眼を、皿にしたように、銀貨が宙を舞う様を追って……、
結果は…、
第5師団が先陣、
第3師団が中衛、
第1師団が後衛、守備に徹するような陣形を作った。Vの字を描くような布陣であった、
それぞれの師団は、第5師団が、矢じりの陣形を敷いていた。多分ごり押しの特攻を得意にしてる師団らしい。
ジーナはだがと思う。攻撃力の上がる陣形であるが、上から見てるとはっきり何をしてるかが分かる。
━━なる程……、さっきの生徒はそれを見越して、準備するためにわざとあの窓の無い小部屋に案内したのかと理解した。第3師団は、2つの部隊に分け、相手の出方を伺い、どちらでも動けるよう。遊撃に徹する気が見え見えであった。
━━東軍は、2つの師団を集め鶴翼の陣を築いていた、オーソドックスな戦術だろう、
校舎近くのテントでは、6人の教官他、医療に携わる。アレイ教の司祭、シスター他、癒しの魔法の使い手が、見守る中、
ついに動いた……
東西の軍が、ぶつかった……、
いやそうではないな、
動かぬ東軍に痺れを切して。第5師団が、矢じりの陣形のまま特攻を敢行したのだ。
突撃を仕掛けた、
それを見て、知略に優れた、第2師団長の号令により、
混編の東軍は、矢じりを受けるような、コの字陣形に変化した。的確に、鶴翼の陣形から、矢じりを押し包む、陣形に変えて見せる。
これに慌てる。第5師団を、仕方なく第3師団が助けに入るが、時すでに遅く。第5師団は、囲まれ動きが取れなくなっていた。
こうなると……、人数で劣る。第3師団も攻めあぐねる。僅かな停滞は、大きな、隙を生む、兵法の基本である。
いつの間にか、迂回していた東軍の防御部隊が、迫っていた。
早くも奇襲成功と第2師団長は、今頃ほくそ笑むだろう、普通なら浮き足だつ場面だが、
「オーラル団長、予定通りですな」
中隊長ジン・ゲルマン、ロート・ハーレスの2人は、呆れ気味に、呟いた
「あの2人、腕は確かだけどね」
第3、5師団長の怒鳴り声が、ここまで聞こえてきて、思わず。肩を竦めて見せた、オーラルは思わず苦笑した。
「じゃ、ロートよろしく」
「了解です。オーラル団長」
細身で、長身のロートは、部隊の半数を連れ、迎撃に動く、オーラルと中隊長ジンを含めた半数は、さらに回り込むように、旗を狙う部隊に迫る。
これを見て混編部隊の東軍は、チャンスと第3師団に襲い掛かるべく、左右に別けてある部隊に、バラバラに襲い掛かるが、手柄を前に混編部隊は、バラバラの突撃となり、数で劣る筈の第3師団と拮抗しだした。
この動きに、手柄を取られてたまるかと、数でうわまる。急襲部隊だが、ロート・ハーレスは、いきなり、逃げ出した。
同じく、みんなが逃げ出して、出鼻を挫かれ、たたらを踏むその瞬間、オーラルと中隊長ジンの部隊は、僅かな隙から、あり得ないスピードで、サイドから、急襲を行う、部隊全員が、出鼻を挫かれ、たたらを踏む僅かな隙……、あの数瞬で考えうる。切り替える時間を与えない策略で、さらにオーラルは既に。部隊全員に、加速の魔法を掛けていたから、そのスピードはまさに急襲。
第4師団は、呆気なく分断され。浮き足だった、
立て直しを図る。第2師団長を、
逃げていた筈のロート・ハーレス部隊が、先回りしており、
あっさり師団長を捕縛していた、これにより、残された第2師団と第4師団の混編部隊は動揺する。
その隙に生き残りを集めた第5師団が内から、
勢いづく第3師団が、外から攻めて、間もなく混編部隊は瓦解、西軍の勝利となった。
「はう~凄かったですの」
感嘆の溜め息が姫の口から漏れた。
確かに、見ごたえがあった。
「姫様、なかなかじゃろ?」
いつの間に……、ジタン老教官が、白髪混じりの頭をガシガシ掻いて、自慢気に笑う、
「はいですの爺、ありがとうですの」悪意に疎いとこのある姫様だが、人の親切には敏感で、率直な礼を口にする。喰えない老人ジダンは、照れ臭そうに笑った。
「この後、訓練場で、個々の訓練試合があるが、姫様見ていきなされ」
「はいですの~」
だいぶ回復なされた、姫様の顔に、赤みが差していたこれならば大丈夫だろうと、安心していた。
━━怪我をしてる訓練生に混じり、数人の男が、妙に鋭い眼差しで、テラスを見ていた、男達に表情はなかった……、なんの特徴もない、離れればすぐに、忘れてしまいそうな、薄い印象の男たちは、目配せを交わし、1人、また1人、消えたのに、誰も気付かなかった……。
ジダン教官に案内されて、闘技場を訪れる姫は。興味津々に訓練生の試合を目にしていた。
「オーラル!、今日こそ、貴様を倒してやる」
数人の訓練生に囲まれて、睨まれてるのは、先程活躍してた訓練生であった。
「おっとこいつは、良いところに来たな~」
思わず。目を見張り愉しげにかかと笑う。普段ガミガミ言いたがるジダンは、何時もなら、何事かと怒鳴る場面だろう?、不思議に思い、老教官を訝しげに見たが、意味あり気に笑うだけだった。辺りを見れば他の訓練生、教官達も、止めるつもりがないようで、それ処か興味深く、手を止め見ている訓練生が多数だ。
「ジダン教官、止めなくていいのですか?」思わず。興味から、喰えない老人に訪ねたら。ジロリ睨まれ首を竦めたジーナだ、怒鳴り声は出さず。不敵に笑う。
「まあ~オーラルなら、怪我はさせんだろ」
ジーナの予想に無い答えだった。理由が分からず眉をひそめて、続きがあるかと待つが、それ以上答えるつもりが無いようだった。
「………」
仕方なく、ジーナも成り行きを見守ることにした。
オーラルと呼ばれた訓練生は、刃の無い、訓練用の大剣を向けられるも。余裕なのかチラリ、ジダン教官に気付き愉しげな教官の顔見て、諦めたようだった。
「いいよ。ただし試合形式でね」ガタイの良い、訓練生は、にんまり不敵に笑いながら、犬歯を覗かせる。取り巻きが舞台から降りた所で、
「ロートすまん、槍」
「了解」
手渡された刃の無い槍を、確かめるように素振りする。
「おっ、今回は槍か、珍しいなオーラルにしては」
「???」
老教官の意味の解らぬ一言に、首を傾げたが、始めの合図も無く、大剣使いが、いきなり大剣を降りおろしてきた。
「あっ…」
呆気に取られるジーナ、さもありなんと納得顔のジダンは、
「戦場じゃ、何時仕掛けられるか解らんからな、試合とは言え、合図は無い」
ジダン教官の言葉に、それでも驚きが隠せない。が、オーラルは、軽く大剣を受け流していた。これは……ジーナにも判る。体術に優れた一族の出でだから……、
奇襲を仕掛けた大剣使いの訓練生が、バランスを崩して。たたらを踏み、訓練舞台から落ちそうになった。
「ん……?」
訝しげに目を細めた。
「ちっ、小癪な」
羞恥で赤くなって、オーラルに怒りの眼差しを向けて、力任せの連撃が、風を叩く凄まじい音となり、此方まで聞こえる。あんなの当たれば、ただでは済まない、血の気のひく思いである。
それでもオーラルは、最小限の動きで、軽く受け流していた。端で見てると大剣使いの訓練生が優勢に映る。
「ちっ、ここまでにしといてやる」
肩で息を切らせながら、明らかに不自然さにを抱いたが、誰も気付かないのか?、ジーナは不思議に思った。
「あれは……」
何度も勝つチャンスはあったのに何故かしら?、大剣使いの訓練生は確かに、それなりに強いだろう……、足もガクガクで、息も絶え絶えで、倒れるように、舞台から落ちた所を仲間が助けた。
「チキショー、惜しかったな」
「次は勝てるさ」
なんて声がしていた、確かに一応引き分けなのだから……、
ジーナの目から見たら、二人にはかなりの力量の差があったはずだ。オーラルと言う訓練生の力量は、かなり高い槍の使い手のようだ。ジーナはただ感心していた。
「オーラル!、次は俺だ」
槍を手に、また別の訓練生が上がる。面倒そうなと言う顔をしたが、仕方ないと諦めて、目を一瞬。教官に向けたが、止める様子が無いので、諦めに似た光を宿して首を振っていたる。
「ロート、剣」
「了解です団長」
すぐさま、小ぶりのソードを受け取り、軽く、素振りをしていた、
「いいよ。何時でも……」
仕方無さそうに、構えた。
それから、次々と試合の申し込みがあり、オーラルは1人で。大剣、ロングソード、終いに体術と相手が代わる度に、戦い形を変えていた。どれも一流に近い錬度で……、しかし…
「何故かしら?」
全て引き分けだった、自分から、仕掛けず。受けに回るだけで、
思わず。老教官に訊ねたく。でも……躊躇してると老教官はにやり不敵に笑いながら、良く解ったなと頷いていた。そんな事が、一介の訓練生に出来るのだろうかと……、
注目が、舞台上に集まる瞬間━━、
数人の男達が、人の集まる場所に向けて動き出した。火の付いた、爆晶石の詰まった袋を投げた。
凄まじい爆音、上がる悲鳴、騒然と混乱が起こる。いち早く我に返るジダン教官は、爆発の音に負けない大声を上げた。
「姫様を連れ、学舎に━━」
茫然自失の姫を突き飛ばし、迫る。男の1人と斬り合うのは、老教官である。 ハッと我に戻り、ジーナは、姫の手を握り、学舎に向けて走り出した。それを舞台上から見ながら、
わりと冷静な2人。
━━中隊長ロートとジンに命令を伝える。驚いた2人だが、頷いて行動を開始していた。
驚いた2人だが、頷いて行動開始していた。
何故かオーラルは、1人森に向かう……、敵の最悪の一手を封じるために。
ジーナが、混乱の最中。恐怖に震える姫を庇いながら、どうにか学舎まで来ると、いきなりガクン……身体から力が抜けた、
『しまった……』
全身から力が抜けていた。
「ジーナ!」
姫の悲痛な悲鳴、数人の男達が現れて、姫を囲む。だが意識を保てたのもそこまで、ジーナの意識は無くなる。
━━魔法により、ジーナを昏倒させた男は、ミレーヌの口に猿轡をして、じたばたするミレーヌを抱えて。混乱を避けながら森に向かっていた━━、
戦士養成学校の近くには、森は、弓の訓練以外あまり使われていない、あまり住人からも知られていないが、深い森があって、森を抜けると━━、
東の街道に出ることを。男達は調べあげていた。いやアレイク王国に限った事ではない。大陸中、それどころか世界中の国々のあらゆる抜け道すら、調べ上げ知っていた。だから……、護衛の少ない姫を拐うことなど、赤子の手を捻るより簡単な仕事だと、男達は油断していた。あまりに順調し過ぎたことを。不自然だとは何も思わなかった。そして、姫を拐った男達が森に入り。魔法で隠してある場所に向かい、逃走用の馬が無くなってることに。呆然と立ち尽くした時。
シュ、風切り音を聞きながら……、一人の男が絶命した。
━━━少し前。
闘技場から、男達の動きを見ていて、呆気に取られていた。さすがに爆晶石が、使われるとは思わなかったからだ、狙いが姫なら、混乱に乗じる可能性はあった、だから予測する。狙いは…。
「ロート部隊は、姫様の馬車を準備して待機。ジンは姫様が、森に連れてかれてから、森入口に待機」
一瞬戸惑いを浮かべた、2人の中隊長だが、オーラルに対する信頼が勝り、力強く頷き、動き出していた。
オーラルは、2人を信頼して、先回りするため森に走り出した。何せ、あの森を抜けると、東の街道に抜けるは意外と簡単である。
以前。人足のバイトしていた時、商人から聞いたことがあった……、
注意深く見ていると、
森をいくばも進まぬ少し先に、可笑しな茂みがあった。
━━森に、来たこと無い、訓練生なら気付かない程度の些細な差違。素早く。解呪を唱え放つ、
━━━幻が消えるや。
馬が三頭繋いであった。鞍には弓があって、オーラルは弓と、数本の矢を手にしてから、馬を逃がした。
程なく、草を食む足音が微かに聞こえ。直ぐに気配を察して、オーラルは素早く木陰に隠れてから。弓に矢をつがえ、視認した瞬間。魔法唱えながら、頭上に放つ━━、
呆気にとられた男達が、姫を抱え立ち止まった瞬間。因子を変換させ、矢を風で誘導。棒立ちの男は、何をされたかも解らず、目を矢で撃ち抜かれ、絶命していた。
……ドサリ……、ミレーヌは、突然の衝撃で、意識を取り戻した。手足が縛られ、目だけで辺りを伺っていたがギョッとした。濁った目が側にあり、片方の眼から矢が突き立っていたからだ。さらに数度呻く声が聞こえ。ドサリと倒れた音がしから、身震いする。
『死んでますの?』
恐怖が、徐々に、胸中に広がった。
草を食む足音に、ビクッと身体が震え出した時……。
「姫様、大丈夫ですか?」
やる気無さそうな、せっかく苦労してセットしていた髪が、あらぬ方向に跳ねていた男━━見覚えがあった。
頷く。ミレーヌの手足から、ロープを切り。猿轡を外された。蒼白ながら、しっかりした眼差しで、
「助かりましたの貴方は……そう爺から、オーラルと呼ばれてましたの」
真摯な眼差しに、根負けして小さく首肯。
「オーラル・ハウチューデン、訓練生の1人です。森の入口に、護衛を用意してます。そこまで歩けますか?」
「はいですの!」
健気に、頷く姫に優しく笑いながら、弓を肩に掛けて、歩き出した。
━━森の入口では、
ジン部隊他、オーラル小隊も集まっていた。
「オーラル団長、ロートから姫様のお付きを連れて、馬車の準備が整ったと言霊ありました」
小さく頷き、皆を見回しながら、
「第1師団は、姫様を城まで送り届ける!。いかなる者も近付けてはならない」
「はっ!」短くも毅然とした、訓練生達に、桜色の頬を紅葉させミレーヌは、涙を拭う、
「ジーナ……良かった」
いつの間にか森入口に集まっていた。訓練生達を、襲撃者達は認め唖然とした。まさか姫までも取り戻された事実が、動揺させていた。その隙を第1師団メンバーは見逃さない、襲撃者より力量で劣る訓練生とはいえ。
オーラル団長の徹底した。コンビネーションは、いかな力量の襲撃者達をも打ち倒し。ある者は捕縛し。抵抗激しい敵を排除して行った。
時間は掛かったが、無事姫を連れて。正門まで来るや。
「ジーナ!、ジーナ大丈夫ですの?怪我はありませんの」
青ざめた顔のジーナだが、涙ながら頷き。
「姫様…ご無事で……」安堵の涙を流す。姫様の顔には、未だに拭えぬ恐怖が刷り込まれていて、抱き着いたジーナにすがり付いてたが、ジーナに促されとつとつと経緯を話した。
「ロートご苦労様。ジン小隊と、しばらくこの場所の防衛をして、教官が来るまで待機!、オーラル小隊、城まで姫様の護衛の任に入る。」
「はい!」
その時だ、いきなり弓を構えたオーラルは、無言で空に向けて連射。
「風の因子を放つ」
唱えていた魔法を放ち。なおかつ変換、矢はまるで魔法の矢のように、オーラルの意思で動かし。屋根に隠れていた者、木に登り弓を構えていた2人の狙撃者を、撃ち落としていた。場所も違う、2人同時に……。
「後は、任せた」
「了解」にんまり、ジンが悪人に見える顔を嬉しそうに綻ばす。
馬車を護衛したオーラル以下。5人の訓練生は、訓練馬で、四方を追走しながら、城まで、無事に姫を送り届ける大任をこなした。
━━事件より7日後……。
ケレル殿下は、王命を、国民に伝えた、
『オーラル・ハウチューデンに『オールラウンダー』の称号を与える』と……、
━━東の大通り、
アレイ教のある道りには、沢山の商会が並んでいた。小さいながら塩や小麦の交易始めた若き商人は、生まれたばかりの娘を抱き上げて、元人足頭の義父と顔を見合せ。晴れ晴れとした顔を綻ばせていた。
━━孤児院では、歓声と笑い声が、響いいていた。
━━王都から、東の街道を抜けて、山間にある。小さな村を抜けて、その村から半日ほどさらに深い山に入ると、美しい湖がある。
湖畔の対岸から。山間には沢山の坑道が口を開けていた、ここは遥か昔━━時を遡り、初代国王クラウベリア王の時代。この辺りでは、黄金が取れたと言う……、
湖を回り込んだ。鬱蒼とした深い山道を抜けた先には、朽ちる日を待つ廃村が、当時のまま残されていた……、
既に、何十年もの時が経っていて、崩れ落ちた家屋等もあるが、しっかりと造られた、村長の家屋は健在である。
「ちっ、あいつら、失敗するとは……使えないな」
忌々しそうに舌打ちしたのは、美しいエメラルドのような珍しい瞳、緑かかった髪を短くした。可愛らしい顔の少女である。彼女こそ魔王の配下。六将が1人。幻影の魔女ラグラド・エルバである。
「ふん、姑息な事をするから失敗するのだ」
「何ですって!。もう一度言ってみなよナタク」激昂するラグを、平眼してせせら笑うのは、光沢を無くした、重厚な鎧に身を包む。精悍な顔立ちの青年である。冷たい瞳は揺るがず。西大陸で、名高い聖騎士である。視線を先に反らせたのは、策を破られたラグの方で、悔しそうに、顔を歪めた。
「ちっ、まあいいわ……、あんたはカレイラと戦うのが目的なんでしょ?、こんなところにいて手段はあるのかしら?」
舌打ちしながら、意地悪い、光を宿して、同じ六将のナタクを睨む。
「無論だ、貴様ほど浅はかではないからな」
ナタクは冷厳と言い放っていた、睨み合う2人だが、ラグラドが悔しげに退いていた、同じ六将で、同じ古代の民ながら、力量はナタクのが上である。
━━正式な、発表から数日後━━。
オーラルは、ケレル殿下に呼ばれ。城に登城して。ある試練を命じられた………。
━━━5年前。西の大陸、魔導王国レバンナ、
魔王を倒す事を決めたビアンザは、緑の民のネットワークを使い、魔王の動向を探る事にした。
理由は近年。魔王の手によって、沢山の白の民が、ひっそり消された疑いがあるからだ、魔王ヒザンは、闇の民の長であり、魔法王国レバンナこそ、古代の民が、住まうただ一つの国であったと言う……、
━━古代の民が、消え始めたのが、20年前からであった。
それまでは厳格ではあったが優しい王であったという……、何故突然心変わりしたのか、ラグ達にも分からないそうだ……、
━━丁度20年前……。ピアンザは、レバンナの孤児院に捨てられていた。
「噂では、魔王の城の地下に、広大な地下迷宮がある。そう言われているわ」
もしや……他の古代の民は?、疑問はあるが、調べてみる価値はあった。他の古代の民が、生きている可能性はあった。
ラグ達は消えた多くの古代の民。それを救うべくレジスタンスを結成したと教えられた。ラグともう1人レジスタンスのリーダー格の青年。ロドラ・ギドリス、長身の剣士で、緑の民の若長でもあった。
4、5年前から。この村を根城に、隠れ住むこと。数は少ないが、住民のおおくが緑の民あることをピアンザは知ることに。そして……、ピアンザこそ……、
魔王の子であると……、告げられたのだ。
「あんたが魔王に棄てられたのは……」
ピアンザが生まれつき、魔力が低いことだと知ることになった……、
古代の民とは、生まれつき人間よりも魔力が強く。魔力の容量高いため。生まれ落ちたその瞬間から、魔法の使い手ばかりである。
だが…ピアンザは………、生まれつき魔力は低く、容量も浅い。魔王は嘆き。ピアンザを棄てたと言う……、
不遇の皇子だと教えられたが、あまり気にはならなかった。
━━ピアンザにとって大切なのは、過去ではない今だと考えれたから。
やはり愛し始めた少女シレーヌの存在と。友人達のお陰であろう……、
ラグ達緑の民の願いは、魔王の手から、消えた仲間を助けるため。魔王と戦うことである。ピアンザに迷いはあったが、いきなりいないと思っていた実の父は生きていて、悪いことしてるから。倒すのに手を貸せと言われても。直ぐに決意するには、色々と分からない事が、あまりに多すぎた━━、
━━突然………、変わった魔王………、
凶行に走り。ラグ達のように、隠れ住まなくてはならない民、恐怖と恐れ、様々な感情が渦巻く胸中だが……。迷っていたある日のこと。
ピアンザの噂を聞いた。闇の民の生き残りが現れた。その者の中に。魔王の凶行を恐れて、ピアンザを逃がしたと言う者がいたのだ……、
名をダレーク・アートと言い、ピアンザと年の変わらぬ青年で。後日詳しい話を聞くことになった。錆びのある愁いを含む声音。
「あの日……、若様を逃がした罪で」
ダレークの家族は、逃げた彼以外、ダレークの幼い妹すら……、
魔王に、連れ去られたと言う……、
「まさか……、そこまでしたと言うのか?」
愕然としていた。自分の生い立ち。自分の知らない間にそのようなことになっていたとは……、
「わかった……、魔王ヒザンを倒そう!」
ピアンザの精悍な顔立ちに、静かな怒りが彩りを与えた。まずは魔王の動向を知らねばならない。「まじ、魔王あり得ないわ」
ラグは、呆れたようにがなりたてる。ロドラ・ギドリスと2人で、行動することが多い。
ラグは幻影魔法を使い、城に侵入してきたが、忌々しそうに鼻を鳴らした。
「城内、魔法のトラップだらけで、参ったわよ~」
疲れの滲む顔、苦々しい表情が、苛立ちに歪む。「だが分かったこともある。魔王ヒザンは、この数年。姿を見せていない」
どうやら城の地下迷宮にある。研究所から出ることは、稀であるらしい。
現在。国内外の政治は、魔法学院長ゼノン・ガレイに一任されているため、魔王がいなくても、国としての機能は滞りがない……、
「もし……。魔王が姿を表すとしたら、明後日に行われる。魔法学院の卒業式じゃないかな?」
ふっとピアンザは考えてしまう。友人のケイタ・イナバが、国外で学ぶ事がゆるされたのは……、かれが普通の人間だったからではないか?、
ダレークから詳しく当時の話を聞く限り。
古代の民には、ハーフと呼ばれる。人間と古代の民の間に生まれた者が、この国民には多く。将兵のほとんどが、血族と聞いたからだ。
ハーフは、国から出ることを、禁じられてると聞いて。魔王が研究所から出ない理由。古代の民が消えた理由もその辺りにあるかもしれない。
現在わかっているのは、ハーフの中には希に。魔力の強い子供が生まれるため国外に出せば、混乱を生むとの最もらしい理由からだった。
問題は……自分たちのせいで、隠れ住む民の存在が知られて、何かあった場合のこと。知られれば魔王に襲われかねない、村には、ロドラの年端もいかない弟や、幼い子供達を危険に晒す。だからではないが、危険を減らすため。ピアンザ達は秘密りに調べる必要があった。
「卒業式の日……、城に侵入出来るのか?」
魔王の居城は、堅牢とわかっただけである。なら魔王を直接見れば、何か手を思い付くかもしれない、現状を打開するためにも。どうにか古代の民が地下施設を調べれないか、
「ん~、入り込むだけならなんとかね~」
━━━翌日。ラグの手引きで、
ピアンザ、ロドラの3人は、魔法学院の卒業式に紛れ込んでいた。
緊張を孕む魔法学院の学生達は、学院長の話も上の空で、息すらつめていた。期待に満ちた学生達の顔、それに答えるように、学院長は笑みを浮かべて、話を早々に切り上げた。
すると……。
ビリビリ…、
肌が、泡立つ、凄まじい魔力が、講堂内に、溢れ出した、息すらするのも忘れ、ピアンザは無言で、壇上に見入っていた。
現れたのは中肉中背の痩せた男。夜のとばりを身に纏い。あらゆる魔法を使いこなす者。西大陸の覇者、小国であるレバンナが、他国を制せている理由……、魔王ヒザン・アオザの前に屈服するしかなかった……。
ピアンザは理解した。魔王のあまりにも強大な魔力が、身体すら浮かせていたのだ……、ただ壇上を歩く。ただそれだけで……、膨大な魔力が溢れ放たれる。
齢300を越える。伝説の魔神が、降臨したのである。
「あれが………魔王ヒザン…」
ピアンザにとって敵であり、実の父である。面影はピアンザに、とても似ていた……。
ラグは息を飲み、ロドラは眼を細めた、
「諸君……、諸君等の卒業を祝福する。我が……魔王ヒザン・アオザの名に置いて願おう。研鑽を積み重ね。我が国の礎となるがよい」
大歓声が上がった。中には涙する者までいた、狂喜……魔王ヒザンの眼には、暗い狂喜が宿るように見えた。
ピアンザはあまりのことに滴る汗を拭い、秘かに恐怖していた。
たった今…、ピアンザは、オーラルの使う、因子を組み込む魔法を放ったのだが……、魔王ヒザンは、気付きもせず魔王の本質である。自身の魔力だけで、魔法が発動する前に。破壊されたのだ……、桁が、違いすぎた。
だが……、わかった事もある。
ほんの小さな綻び、普通なら見落とす。僅かな綻び、ピアンザだからこそ、見抜けたことがあった。
「かりそめか……」
あの魔力は、魔王ヒザン自身の魔力ではな……、
ピアンザ自身。魔力が……、強くない。
普通の人間より恐らく弱く、また容量が少ないから……、ピアンザは、借りていたのだ……。友人達から、必要な魔力を…、本人に気付かれずに。その中でもオーラルは、本人も気付けてないほど、強大な魔力を秘めていた。
「オーラルは恐らく……」
優しすぎる友人は、ピアンザの事を知っても何も言わなかっただろう、今なら思う。気付いてた可能もあった。魔力を、借りていたことにだ、だから………、
ただ1人……、心から信頼出来た、友として、ピアンザの秘密を知る者として、魔王は、ピアンザと同じ方法で、魔力を借りている。
そう、確信した。
今宵にも忍び込む。決意をした、
途中まで、ラグの魔法で、侵入したが、この先、魔王の魔力に、反応する扉や、魔王に認められた者。例えば、魔法学院ゼノン・ガレイの持つ。銀の精緻な腕輪とか……、男の…中年の持つ物ではない。
ピアンザは、魔王の魔力の残しを集めると、オーラルから←チャージしていた魔力を、両手に集め収束機に、上書きした、 これでピアンザは、魔王に成り済ます事が出来た筈である。
視認すれば見破られるが、魔力を測るだけのシステムなら、誤魔化せる筈である。
ピアンザが、地下に降りる扉に触れると…。魔力障壁が消え。静かに扉が開いた。
━━━━━。
静寂だけが包む。地下施設、ピアンザは息を詰めながら。見たことのない。金属を使った周囲に注意しながら、奥に急いだ。
「この施設はまるで、ギル・ジーダ王国で見た、海中都市のようだな……」
辺りは、不思議な光沢があって。仄かな魔力に満ちていた。多分光沢ある金属は、魔力を停滞させる力があるのか?、
もうひとつ気付いたのが、地下に降りてから。魔力が濃密であった。この場所ならばピアンザとて、強力な魔法が使える気がした。
素早く魔力を感知の魔法を使うと……、魔王の魔力が、遥か地下から感じられた。ピアンザは不安に思ったが、どんどん降りてく……。途中居住区もあったのだが、無人であった。
『来てしまったのか……レオン』
唐突のこと、頭に響くような、思念が聞こえていた。まるで郷愁と切なさと、慈愛に満ちた、優しい思念に、ピアンザは違和感を感じていた。
『やはりさっき感じた魔力は、レオンだったか……』
諦め、疲れの滲む思念に、ピアンザは言い知れぬ、不安感に襲われていた。だが敢えて魔王の甘言と、心強く、歩みを進めた……、
明滅する。巨体なクリスタル、予感はあった……、部屋中一面に、棺桶のように………、部屋一面に、眠るように……、
古代の民たちの姿、何百、嫌……、何千人もの古代の民が、クリスタルに入っていた。
「よく来たな……、愚息レオンよ」
目鼻立ちが、ピアンザにとても似ていた、ただひとつ哀しげな眼差しに、胸騒ぎが止まらない。
「大方、緑の民の村で聞いたのだろう…」
今度こそ、ピアンザの顔色が変わる。そんなピアンザに苦笑を漏らしながら、コミカルに肩をすくめていた。
「お前は、世界の深淵を聞く勇気はあるのか?、無いなら、帰るが良い。そして……、アレイク王国で、幸せに生きるがいい。愚息よ……」
「何を言ってる?魔王ヒザン…、まるでお前は……」
何かを守るために非道をしてるようではいか、口をつぐむ。
「貴方の考えてる通りです。レオン皇子」
いつの間にか、ピアンザの背後に。魔法学院長ゼノン・ガレイと。
「ごめんなさい……」
ラグ、ロドラの2人が、魔法生物に拘束され、捕まっていた。
普段があれだけ自信満々のラグだが、自分たちのせいで窮地にあるピアンザの身を案じ、今にも泣きそうである。
「魔王様、最早皇子を……、安全なアレイク王国に帰すのは、不可能でございます」
苦悩に満ちる。ゼノン学院長の無念そうな苦悩の顔、魔王ヒザンは、静かに、我が子、ピアンザを見詰め。
「済まぬリエ……。我が子の幸せを願った。そなたの……願いすら。叶えてやれぬ……」
澄みきった湖畔のような、眼差しをピアンザに向けて…、
「この世界に侵略する。冥界の扉……、我の身で、今一度封印する!。よって、レオン……嫌。今は、ピアンザか、そなたに王位を与えようぞ、この世界を守れ!。この扉を守るのだ!」
魔王は、玉座の背後にある禍々しい扉を、睨み付け、決意の眼差しを扉に向ける。
「ゼノン……そなたに、我が子ピアンザの補佐を命じる」
「魔王様!」
蒼白なゼノンは、唇を噛みしめ、1つ頷いていた。魔王は最後に、我が子ピアンザを見て、笑った、
そして……。
魔王ヒザンは、禍々しい扉を開け放ち、その中に入った刹那、魔力の光が、扉の奥から爆発的に広がり、そして……光が消えると、
禍々しい扉は、力を失い、静かに閉じていた。
「なっ、何今の…」蒼白で、血の気を失ってるラグは確かに見た。闇色の光の中。無数の異形が魔王に集る姿を。
その日……ピアンザは知った。
世界は……、魔王ヒザンと彼に賛同した。光と闇の民が、生命を捨て。世界を守るため……、犠牲になってる事実を……、「そんな……」
ラグは、ロドラは愕然と立ち竦む。
此処に眠る古代の民の決意と、
━━父たる魔王の優しさを……、
ただピアンザは唇を破り、流れる血が、気にならないほど立ち尽くしていた。やがて……、
ピアンザは、父の跡を継いで魔王になることを決意する。優し過ぎる父の愛を感じ……、ピアンザはうち震えた、
そして……、
世界を統一して、冥界からの侵略に備える。全ては……みんなの為に…、優しい魔王ピアンザは、覇道を歩み始めた。
━━━現在。
ラグ=幻影の魔女ラグラド・エルバの報告に眼を通しながら、思わず微笑していた。
「あら珍しいこと、うれしそうねピア♪」
妻シレーヌが、お茶の準備しながら、愛しげに腹部に手をやる。だいぶ目立ってきていた、
「シレーヌ……、オーラルが『オールラウンダー』の称号を得たよ」
「まあ……あのオーラル様が……」
懐かしげに、そして寂しそうに、微笑する妻を、優しく抱き寄せる。
結果的に、ピアンザの魔手から、王族を守ってと、皮肉な話だが……、
今もオーラルは、唯一心赦せる友であると、ピアンザは思っていた。
例え、いつか闘うことになるかもしれない…、
そう思うだけで、チクリ、胸に、痛みが走る。
もしも赦される時があるならば、ピアンザは願う。恨まれ謗られようと。どのような形でもいい。傍らに……、仲間達……、ミザイナ部隊で集まる事が出来るならば、今がどんなに辛くとも。覇道を歩むことが出来る。
そして……、心から。
『おめでとう……』
そっと呟いていた。