学生ですが何か?
中央事件から15年の歳月が過ぎていた……、また今年もアレイク王国に。春の風物詩。アレイ学園の入学式が行われる季節となった。
アレイク王国・王都カウレーンに。1人の少年が足を踏み入れた。彼の名をシンク・ハウチューデン。中央大陸・輝きの都プロキシスの王族であった。
プロローグ
━━━数百年前。
東大陸━━━。
未だに戦乱渦巻く大陸では、覇を唱え。多くの命が儚く消えていた……、
荒廃した東大陸にあって、無償で癒しの奇跡を行い。数多の人々を救った者がいた。
後に……。
聖アレイク王国。建国の父王の父であり、聖人と呼ばれた。聖アレイである。
━━聖アレイ死後。彼を敬い。世界に名を馳せるような、人材を育てる事を声高に。学園を創設した、聖アレイの名を冠して、アレイ学園と名付けた、
学園には、特別な目的があったと言われている。初代クラウベリア王は、100年もの長き時を生きた王で、彼を守護した三人の友人がいた。
あらゆる魔法を使う者。
賢者オール・セラ。
あらゆる武器を扱う武芸者ラウ・ガイロン。
先を見通し。経済で国を支えた。ダン=カレン・ダレス。彼の三人を民は『オールラウンダー』と呼んでいた、
初代学園長オール・セラには。学園の創設した理念があったとされたが……、何故かオール・セラが失踪してしまい、伝えられることはなかった、
現在の学園とは……、特別な才能を見極める。ふるい分けの機関とされていた。
━━優秀な成績を残した者。
━━特別な技能。才能を持った若者を発掘したのだ。
長年の苦労の末。辺境の小国は、瞬く間に大きくなって、大国の仲間入りをした。
全てはアレイク王国の礎とならんことを。国は望んでいる。優秀な人材を育てる。それが……今の学園のあり方であろう……。
学園の方針が、大きく変わったのは、魔王ピアンザの暗躍。中央大陸の事件から、
数年後━━。
世界の国々は、困難に立ち向かい。手を携える同盟を、正式に発表した。
世界連合が、正式に発足したのは、その年であった。
初代議長には、アレイク国王レゾンが選ばれ、
理事には、各国の王が選ばれた。
━━世界が、ようやく平和になって、僅か15年━━。
中央大陸事件の大きな爪痕すら。徐々に人々の記憶から薄れ始めていた……。
やがて事件を、直接知らぬ世代の子供達が世界中から集まった……、
春を祝う。お祭りと、沢山の笑い声。騒ぎの人出に、初めてアレイク王国に来た、シンク・ハウチューデンは、呆気にとられ。キョロキョロするばかりである、
シンクは中央大陸ただ一つある人間の国の王族である。父は英雄と名高いオーラル・ハウチューデン。父に負けぬよう。勉学に励むため。意気揚々とアレイク王国。王都カウレーンに着いたのは、つい今しがた……。
伯母のミリアが、王都カウレーンの職人通りで、小間物の店を経営してるから。卒業まで、お世話になる予定であった。
ミリア伯母さんとは、父の実の姉で、中央大陸事件の後。歳の離れた旦那。オリバーさんと結婚。周囲が見習いたいと、夫婦中は大変良く。見ていて微笑ましいかぎりで……、
昨年の年明け。伯母夫婦が、輝きの都プロキオスに来たのだが……、
その時シンクがアレイク王国のアレイ学園に通えるよう、父を説得してくれたのも伯母さんである。
シンの祖父母は、北大陸レオールに住む。ララ婆ちゃん。見た目若々しいリブラじいちゃん、叔父のブライアン、シンクよりも年下だけど……。
じいちゃんは、レオールの将軍の要職にあり、ばぁちゃんは、北アレイ教の大司教を勤めていた、だから一般人なのが、ミリア伯母さんだけ……、とても驚いたが、ハウチューデン家の家訓で、一貫して、自分の生き方を変えるなてのがあるからと、父は諦め顔だったのが印象的だった、僕は皇子だけど。父の意向で、普通に子供たちに混ざり、遊び怪我をして、勉強してきた……、そのお陰で沢山の友達に恵まれ、徐々にある思いを抱くようになっていた。アレイ学園で……、勉強がしたいと。
「ミリア伯母さんに感謝しなきゃ。」
伯母さんが提案してくれなければ、父が通った、アレイ学園に通うことは出来なかった筈だ。
「ニイ!」
姪のリナはまだ5つ。手が掛かる年頃だ。手を繋ぐ。小さな手に。思わず笑みが溢れた。
職人通りから東に歩いてくと、間もなく中央公園が見えてくる。
━━中央公園はそのなの通り。王都カウレーンのほぼ中央に位置した公園で、二人は少し休み、それから伯母さんに言われた、東側の大通りにある。
アレイ教本山。大聖堂が、間も無く見えてきた、
「ニィ!、ニィ!」急に、騒がしくなって、手を引っ張るリナに。シンは自然と笑みを深めていた、
━━少し前になる。リナを孤児院に連れてくよう言われた時は、凄く戸惑ったが……、
聞けば、聞けば、リナは孤児院の子供達と遊ぶ事を、日課にしてるからと言われた、伯母さん夫婦は、急ぎの仕事を幾つも抱えていて、入学式の当日までの間。リナの面倒見ること頼まれた。早ければ、今日の仕事、夕方には終わると言う……、
子守りを頼まれてる訳だが、可愛い姪にせがまれるのは、兄弟のいないシンにとって、とても新鮮である。
━━東の大通りから外れ……、閑静な家宅が並ぶ一角に。赤い屋根が特徴の孤児院は、直ぐに見つかった、
━━敷地内に。沢山の遊具が設置されていて、近所の子供も気兼ねなく。遊びに来るとリナが一生懸命教えてくれた。
「リナ!」
二人が敷地に入るなり。トテトテ負けん気が強そうな男の子が、目を輝かせ走って来た、一瞬シンと目があって、戸惑うが、
「タイチ!、ニィ!わたしタイチと遊ぶね」
ニッコリ天使の微笑み。柔らかく笑い。タイチと手を繋ぎ、遊具にまっしぐらである。
「あらあらこんにちわ~、珍しいわね~。ミリアさんじゃないのは」
いつの間に……、驚くシンクの隣に立っていたのは、ニコニコ可愛らしい笑顔が印象的な小柄な老婆で、優しい笑みを浮かべていた、なんとなく観察して、老婆が前掛けをしてるから、お手伝いの人だろうか?、それでリナのことや伯母のこと知ってたのだろう。
「はい、伯母さん忙しいみたいだから……」
「伯母さん?、あら貴方は……」
ちょっと驚いて、目を丸くした老婆に、「あっ申し訳ありません!、僕は、シンク・ハウチューデンと言います。シンと呼んで下さいね」
黒髪は父から、癖があるから。すぐに寝癖が付くので、直すのがとても大変だ、老婆は、とても驚き、ふっと目尻を下げ、とても優しい目を細めていた、
「そう……、シンさん初めまして、私は……」
「エレーナ様!、またそんな格好して」血相変えた見習い司祭が着る。白のケープで頭を巻いたシスターが、慌てて走って来た。
「あらあら、もう見つかったのね」
コロコロ楽しそうに笑う老婆に、泣きそうなシスターは、
「エレーナ様……」
怨めしそうに睨む。
「またお会いしましょうね。シンさん」
優しく、慈愛に満ちた笑みを残して、老婆は立ち去った。
「……偉い人だったのかな?」
真面目過ぎる性格は母譲りのシンは、人を疑う事をしらない。
━━━夕方。
仕事終えたミリア伯母さんが、迎えに来てくれて、リナと三人。職人通りにある。伯母の住まいに戻った、
「ニイ!、ご本読んで」とてとて小さな手で、お気に入りの本を差し出した、満面の笑みのリナと本と題名を見て、思わず目を丸くした、
「良いよ~」
「わ~い♪」
ニコニコしながら、シンの膝にちょこんと座り、キラキラ純粋な目で見上げ、早く早くと、ジタバタせがむ。
思わず懐かしそうに目を細めていた。シンクも小さい時。忙しい父が、時間を取ってくれて、母とシンのため1日過ごした日を……、思い出したからだ。絵本の題名を改めて見て『英雄オーラル物語』とあり。気恥ずかしさと、懐かしさに、絵本のページを捲った。
━━━翌朝。シンクは顔を洗い。身体をほぐしてから、お金を確認して、アレイ学園に向かった━━。
アレイ学園は、南の区画に位置していて、安アパート、学生寮が、商店街の裏通りに隣接している。朝は慌ただしい学生のため、露店が出ていて、様々な軽食が売られるため、シンはもっぱら、屋台の揚げパンがお気に入りである。安くてボリューム満点。パンに、ふんだんに蜂蜜が浸けられているのが最高だ。甘いもの好きなシンは、それだけで、幸せを感じていた、
シンクの通うアレイ学園は、世界有数の学校である。多くの英雄を排出したことで、毎年入学希望者は、10000人近いと言われる、巨大学校だ、
それにアレイ学園の『特待生』になれば、ちょっとした自慢になる。それと言うのも『特待生』は、1学年僅か100にも満たないし。選ばれれば国内外の要職に着くことが、かなりの確率で決まるからだ。
━━15年前まで……、
一般生徒は、入学して2年の修学で卒業となったが、4年間と新たに改革された。それは学園内に、職業訓練所が、新しく開講して、専門の学科を選べるように。2年間増えたためである。
シンクは、数日前に行われた試験で、
学力AA、魔法適性S、剣A、体術A、棒術S、槍S、弓Aと次場抜けた評価を受け、その場で『特待生』に選ばれた。シンクの試験を行った試験官は、揃って驚き、顔を見合って、慌てて名を確認して、思わず成る程と唸ってしまった、
昨夜は気が急いて、なかなか眠れなかった、それは父も通ったアレイ学園に通うから、何とも心踊るからだが、それ以外にも理由はあった。
━━父が通った時とは違う新しいイベントに思いを馳せていた。
━━父の学生時代は。入学式から。4日掛けて、学生による剣、体術、槍、弓の4種による。武術大会が行われていた、
━━数年前から、
世界中の学園は、南大陸の技術、
魔導兵を操り戦う。技術を導入して『特待生』同士の『学年戦争』と。
魔法討論会で行われてた。結界内で魔法を見せる儀式を。競うことに特化した。『魔術比べ』、
以前から行われていた、それぞれの大会を一つにまとめた
『総合武術大会』の3つに分類した。新しい催しを行っていた。
『特待生』に選ばれた学生は。義務として必ず一つ、出場しなくてはならない決まりである。
シンクは日程の関係で、今年は初日の『総合武術大会』『魔術比べ』予選に、参加予定である。
魔導兵を操る『学年戦争』に無論興味はあったが、2日間も拘束されるためリナのこと思えば諦めていた。噂では一般生徒も『総合武術大会』に参加は可能であるらしい。だから自然と参加人数は多い。理由は他にもあるが……、
初日の入学式終わると直ぐに、武術大会の予選が行われる。剣、体術、槍、弓、棒術の五種を用いた、1対1の個人戦になる。武器は1人1つまで、ルールは簡単。相手に参ったと言わせるか、場外に出すか、気絶させれば勝ちである。
シンクは掲示板に張られた地図と。人の流れに付いて行き。学園に隣接する林道を抜けた先にある。演舞場に向かっていた。
━━以前『特待生』教室があったとされる建物は、二年生から使える。ラウンジとカフェテリアに作り替えられていた。
『総合武術大会』
会場になる第1演舞場の建物に入ると、気の早い見学客が、意気揚々と鍛練から見る。物好きな人もいるようだ。
中央大陸事件以前は……、
学生全部が、小隊制だった、だが事件後……、学生が増えたアレイ学園は。
一部方針を変えてた。それが新たに専門知識を学ぶ学舎の解放である。これによりさらに二年専門知識を学ぶ一般学生と、軍部関連に就職を望み。様々な知識、厳しい訓練を受け、学べる制度『特待生』。その二つに大きく別れていた。
その他一般教練、魔法関連、機械工学、財政を学びたい生徒には、高い知識を求められた『院』生にあがる試験を。学生の内に受け。
更に専門知識を得る方法もある。例え『特待生』に選ばれなくとも。軍に入りたければ、二年で卒業して、改めて軍部の訓練が受けられる。戦士養成学校に二年間通えば、軍部に優遇されるからだ。
━━さて『特待生』になった者、選ばれた生徒は、学年ごとの部隊に入る事が出来る。ただし希望する者だけに限られており。1学年10部隊づつ設立されていた。
部隊とは、試験の能力と、学年ランキング戦の結果で、個人&総合部隊ランキングが決まり。それにより様々な個人ポイントの他。部隊ポイントも貰える仕組みに変わった、
だから『特待生』の多くは、ポイント優遇される部隊に入り、学園の生活で必要なポイントを稼ぎたい学生は多い。
だが……1部隊の人数は、制限されていて、最大8名のエース。4名の補助が認められていた。1部隊2小隊制である。その為部隊はポイントの稼げる。『学年戦争』に出る。その傍ら、有望な学生確保に余念が無い。スカウトと呼ばれる。生徒がいて、補助→傭兵に選ばれるのは、一般生徒が多く。有能な人材をいち早く。スカウトが見つけるために。水面下で動いてると。噂されている。
一部。腕に自信はあるが『特待生』に足りなかった生徒が、スカウトの目に止まるよう思惑で『総合武術大会』に出場していると。情報通の伯母さんが語っていた、もっともシンクのように。最初から部隊に入るつもりが無い生徒はいる。
━━観覧席の舞台に近い。一番前に陣取る。やたら恰幅のいい商人らしい出で立ちの初老の男と、スキンヘッドのガタイの良い老人は、懐かしむよう。目を細めていた、孫から聞いて、シンク・ハウチューデンのこと知った二人は、大恩のあるオーラルの子を、一目見ようと、気が逸り早朝から来てしまい、判るか不安になって、やきもきしてたのだが………、目尻の皺を深め。小さく笑みを広げていた。眼差しを柔らかく見詰めた先には……。
商人達と、同じような想いで、宮廷魔導師筆頭エル・シタイン。夫のカール・シタイン夫妻も、仕事前の僅かな時間。様子を見に来て、安堵の笑みを浮かべていた。
「母さんに聞いて~。驚いたが~。似てるな~義妹に」
「オーラルの癖に、一言も無いなんて……」
不貞腐れた妻の頭を、気安く撫でる。途端に熟したトマトのように、アワアワし出す。可愛い妻である。結婚してもう半年になるが、まだまだ初々しい新婚である。二人は見合い、懐かしそうに。オーラルのあの眠そうな顔を思い出していた、今はカールとてアレイク王国の若き将となり。多忙のため。まだプロキシスを正式訪問してない、軽薄な笑みを浮かべて、
「また~、騒がしくなるね~」
そんな予感を覚え。嬉しそうに軽薄な笑みを浮かべていた。
武術大会の予選が始まったのは、それからまもなくのこと……、
予選は舞台四ヶ所同時に行われ。シンクの初戦は。三年生の『特待生』と当たり。槍を獲物とした相手に合わせ。槍を選び。舞台に上がる。相対して合図と共に。
「いや!、はっ、はっ、はあ~!」
猛然と突き技で、シンの力量などお構い無しに、攻め立てる。勢いだけの技に、ちょっとガッカリした、シンの方は、槍技の基本、外受け、打ち払い、足払い、体勢を崩した三年生を、石突きで押し出し。場外に落とした、
二回戦は、僅かなインターバルで行われた。弓使いのようだ、シンも弓を選び、相対した、相手は戸惑い、怒りの光を宿して、三本の布に、白粉を塗った矢を一度に掴み、放った、弓使いの戦いは、白粉を受けた数で決まる。三本受けた時点で、弓使いの勝ちとなるからだ、シンは悠然と放たれた内、二本の矢をかわして、一本をあっさり掴み。神速の技で、相手に打ち返す。
「キャッ……」
眉間にある。額受けを狙いたがわず。当てて目を回した女生徒は、足を踏み外し。場外に落ちた、
「勝者シンク!」
「おお!」どよめきが上がった。
三戦目の相手は剣士で、手数で相手を圧倒する技で。押しきろうとするスピードタイプ。ただそれだけで、持久力に欠けていた。
四戦目の相手は、体術を得意とする北大陸の出だろうか、蹴り技主体で、変幻自在の蹴り技に、舌を巻いた、僅かに上回った技量で、何とか勝てたが……、戦って見ないと分からないなと汗を拭っていた。
「あんたやるわね!」
舞台から降りて来たシンクに。少し南大陸特有の訛りが混じった称賛を耳にして、立ち止まった。僅に視線を下げた、シンクが見かけたのは、こじんまりした小柄な少女。栗色の髪を短くした。お人形さんのような。可愛らしい風貌の女の子が、柔らかな笑みを讃えていた。だが眉を潜めた。彼女の背に。体に不釣り合いの大剣を背負う姿に、さすがに違和感があるからだ……、
「君はシンクと言ったね。決勝で当たりたいものだよ!」
「はっ、はあ……」ちんまい女の子に、下から上目線で言われても、怒りよりも戸惑い。ちょっと微笑ましい気持ちになっていた。
「ニ年生。クルミ・アルタイル」
ザワリ……、
演舞場の空気が変わった。
「アルタイルってまさか?」
シンクの疑問は歓声に消された、
参加者全員が、クルミ・アルタイルに注目したのだ、
その理由は……、試合が始まり、直ぐに分かることになった、
「始め!」
クルミと相対した生徒は、槍を獲物にするようで。シンクから見てもかなりの使い手と分かるが……、剣も構えないクルミに、手が出せずにいる。そう見えた瞬間……、不敵な笑みを讃えたクルミは、腕組みを解いて、
「行くよ……」
不遜ともとれる物言いに。槍を構えて瞬きした瞬間。瞬歩
周りからは、ゆったりと歩いたようにしか見えない歩方で。相対した相手には、瞬きした僅かな一瞬、眼前に現れたように錯覚させる高等技術だ。
ゾワリ……、
シンクの肌が粟立った。凄まじい強い存在感が、クルミから放たれ……、
そして……。
いつの間に抜いた大剣から、横殴りの一撃が放たれた。
対戦相手は男で、しかも身長はシンクよりも高く。鍛え上げられたガタイもあった、それがだ……宙を飛んで……、場外まで飛ばされ落ちた。とんでもない馬鹿力である。剣のみねで打たれた男は、腕が変な方向に曲がり。苦痛に顔を歪めていた、人出があり、救護が来るまで、時間が掛かりそうだ、たまたま近くにいたシンクが、男に近寄り服を脱がせようとする、痛みに顔を歪めながらも訝しむ目に、
「僕は侍祭の資格を持つ」
それだけで理解の光を宿した、
「助かる……」
痛いだろうに。相手に礼がのべれるのは、勇気と強い精神力のある証である。手早く。首もとを緩め。ハンカチを噛ませたら。一息にゴキン骨を繋げた、痛みにくぐもった悲鳴を上げる。その間にも大地の女神アレに。癒しの奇跡を祈るや。即座に奇跡は起こった。徐々に痛みから解放され。腫れた腕が、僅かに癒され、表情に安堵が広がった。
シンクの技量では、あくまでも一時しのぎである。
「離れて……、これは…」
人垣を掻き分けて、司祭と、助手のシスターが現れた、驚きを浮かべ。訳を問うような眼差しに。
「ぼくの技量では、応急措置だけですが……」
理解の光を示した。
「助かるよ」聖職者らしい。柔らかな労る笑みで礼を言われてしまい。此方が照れていた、聖女と呼ばれる。中央アレイ教大司教の職を勤める。母の影響か、見習い司祭の真似事してたら、女神アレから祝福を受けた、これには父と母を驚かせた、
シンにとって、当たり前のことしただけなのだが……、
そうは思わない人もいた、不機嫌そうに腕組みして、仁王立ちのちんまい少女クルミを、見逃したシンクも悪いが、眼前に大剣がつき出されて、慌て立ち止まる。
「ちょっと大きいからって、無視しないでよね!」
ギロリ睨むが、愛らしい顔立ちの為。怖くない。苦笑して、
「すいません先輩」
目上の者を敬うよう、仕付けられてたシンクは、素直に頭を下げていた、以外そうな顔をしたが、嬉しそうに、
「あんた、なかなか使えるわね。私の子分にするわ」にこやかに、それでいて偉そうに言い出した、
「お断りします」
カクン指差してた手が落ちる。呆然と立ち尽くしていた。
「ぼくは忙しいので、お先に失礼しますね先輩」
ポンポン頭を気安く撫でると。そそくさ立ち去った、
「………」
ボン……真っ赤になって、あわあわし出すクルミを、周りにいた生徒は、気味悪そうな視線を向けていた。
「なっ、何よ、何よ、何よ!、顔だけ男の癖に。このクルミ様のお誘い断るなんて……」
プルプル震えながら、地団駄踏んでいた。
予選は、その後も順当に勝ち進み。最終日の準決勝に駒を進めた。やけに気難しい目を向けてくる。クルミがいたが、気にしないよう……。目線を外した。
━━午後。
姪のリナを連れて、小間物の商いに来ていた伯母さん夫婦と、お昼を食べてから、午後の『魔法比べ』予選に参加する。
『魔法比べ』予選会場は、以前弓の競技が行われた、林の中で行われる。
言わばタイマン方式で、いかにどちらかが、特殊魔法陣内で、魔法を魅せるかを競う。変わった大会である。主流は攻撃魔法をアレンジして、幻想的イリュージョンを魅せることで。生徒からコンテスと呼ばれていて、ある二人の生徒の出場により。歴史が変わったと言われる。国内外で唯一。プロのコンテスターと認められた姉妹とは━━。
━━前アレイク王国。宮廷魔導師筆頭。三賢者の1人に上げられたケイタ・イナバ、彼の双子の娘達、現在は『院』に在籍する才媛で、
姉のフレア=カレン・ダレスは財務の天災。
妹のシアン・イナバは魔法の天災と異名を取っていた、
姉妹でありながら、家名が違うのは、背負った未来を表していた。
ケイタ・イナバは現在、中央大陸・輝きの都プロキシスで、宮廷魔法使いをしていた。シンクはケイタに頼まれて、手紙を携え。ダレス家を訪ねたのは……、アレイク王国に着いたその日のこと。
━━財務官ダレス家は、王城のある。中央公園の北側に面し、屋敷はダレス商会、店舗の裏手にあり、使用人に用向きを伝えると、直ぐに屋敷の方に回るよう言われて、ケイタさんの娘さんに会えると楽しみに訪れたのだが……、応対に出た赤髪の綺麗な女の子に。いきなり門前払いされた、困ったシンクは情報通の伯母に相談した所……。伯母さんに勧めで。コンテスト出場となったのだ、
出場者ボードに書かれた生徒は、僅か12名……、想像以上に参加者が少なく。意外に思ったが、コンテストが開始されて、直ぐに理由が解った……、
『魔法比べ』ことコンテストとは、観客が投票するポイント制で、たとえ初戦で負けても。総合ポイントで勝ち抜いた決勝進出した二名の生徒以外で、ポイント上位になれば、決勝に出場出来る。変わった採点方法を採用していた。決勝は三名で毎年競われていて。いかに観客を味方につけるかが、問われる競技となっていた。
昨年優勝したシアン・イナバ、
一昨年優勝した姉フレア=カレン・ダレスの魅惑の魔法は、未だに語り種である。二人はプロのコンテスターとして正式にアレイク王国に認められていた。昨年二人はギル・ジータ王国、パレストア帝国で、公演が成され、大成功を納めていた。さらにパレストア帝国、軍国ローレンでもコンテストは広まってると聞く。
━━姉妹は、二年連続決勝を戦い、壮絶と言うより。一種の芸術だったと。見事な演目に。演劇のプロ達に。完成された芸術であると……、言わしめた。まさにコンテストは新たな魔法を用いたアートである。
━━それゆえに姉妹の抜けた力量に。出場者は人気と逆境するように激減。理由は他にもあるが……、
多分それが、一番の理由か……、姉のフレアが登場した瞬間、予選なのにいつの間に集まってのか、歓声が上がる凄い熱気である。青ざめる対戦相手の女生徒は、シンと同じ一年の『特待生』のようだ……、すっかり空気に飲まれ萎縮していた。演目が始まるも地味な演目と失敗の数々。冷然と彼女を睨み付け、
「その程度で出場出来るなんて、貴女何を勘違いしてるたの?。ガッカリね」
バッサリ切って落とした。フレアに酷評されて、見る見る血の気を失い。青ざめ。小さなミスは、大きな失敗して、最後は泣きながら、逃げるように、採点を見ることなく走り去っていた、
「彼女はあの時の……、すると彼女がケイタおじさんの?」
ゴクリ……、
思わず唾を飲んでいた、フレアの演技は凄まじく。計算され尽くし。まさに非の打ち所がない。完璧な演目だった。それだけに……、少し許せない気持ちがふつふつ沸き起こる。
二回戦。シンの出番で、相手は3年の『特待生』昨年準決勝に残った実力者である。
フレア=カレン・ダレスが、驚いた顔をしたのに、妹と母シルビアが眉をしかめた、理由は直ぐに解った、
「シンク・ハウチューデン」
会場全体に。どよめきが上がった、
「まさか……、あの子本物だったの?」口を滑らせた娘に、シルビアは美しい眉をきつくひそめ。問うように娘を睨む。ちょっと青ざめつつも。先日の話をした、
「あの人の手紙ですって?」
ヤバい……、
殺気すら感じて、妹と二人。恐怖に震えていた。二人の父ケイタ・イナバは、
8年前━━。
アレイク王国宮廷魔導師筆頭の職をを辞して、後任を義娘のエルに譲り。自分は友人オーラル・ハウチューデン、中央大陸唯一の人間の国。輝きの都プロキシスの宮廷魔法使いに誘われ。嬉々として、移り住んだのだ、
━━だがアレイク王国の財政。全てに重責を担うシルビア=カレン・ダレスは、娘が独り立ちするまではと今は耐えている。現在は夫と別居中で、毎日夫に悪い虫が付くのではないか、不安で仕方ないのだ、
━━4日前になる。あの日は……、忙しい母に代わり。商会の仕事を任せられ。妹と出掛ける予定が駄目になって、つい……イラついてた……、
フレアはメイドから呼ばれ、父ケイタから手紙を預かって来たと言う。見るからに凡庸に映った、シン・ハウチュウデンと名乗った少年を、嘘だと決め付け。門前払いしたのだ、
━━手紙を確かめもせずに……、
何時もならそんなミスはしないのだが、ゴクリ息を飲んでいた。竜の逆鱗に触れたと、ことわざにあるが、竜の首に一枚だけ。普通の鱗とは違う、紋様が反対に付いてる鱗がある。竜はその鱗に触れられることを嫌う。それは竜にとって弱点だからだ、
この場合……、
父こそが逆鱗に……、さっきまでの女王のような振る舞いは消えて、プルプル震えていた、
「フレア……、あの黒髪と目を見たら、誰でも気付くわよね~?」
「ごっ、ごめんなさい……」
目に、うっすら涙を浮かべ。謝る娘に、嘆息していた、どうしたものか……、思案していると、
オオオオ!……、
歓声が上がる。チラリ目をやれば、シンクは氷の礫を周囲に浮かべ、雷撃の矢を氷に放っていたからだ、
━━氷同士がぶつかり、高い音が鳴り響く、
……それはスパーク……、
氷の花を咲かせたように、淡く映る、さらにダークネスの魔法で、シンの周囲だけ━━━闇に包まれた。
まるで夜空に走る。雷鳴のような美しさ。みな気が付いた、氷が奏でる。音楽に……、
それは『英雄の凱旋……』アレイク王国で、演劇の女神と呼ばれた女優がいた……。
リレーヌ・アディス。義母はあの悲劇の歌姫セリーヌ、彼女は『英雄物語』と言う、演劇を誰より早く発表した、あまりに荒唐無稽な内容に、誰もが失笑して、リレーヌは終わったと影口を言った、でも彼女は微笑み。演目を続けたと言う。
━━15年前……、
アレイク王国。全ての人々に、衝撃が走った事件。
『英雄の凱旋』とは、一人の青年が、中央大陸で、国王になる物語、今から19年前に発表された作品である。その時……、オーラルは孤児院の先生をしていた時である。まっすぐ優しい眼差し。シンクと目が合って、シルビアは理解した、この演目を演じた理由は……、フレアに向けて、自分は紛れもなく。手紙を預かる者で、必ず届けると言ってるのだ、英雄の凱旋と言う楽曲は、別名不屈の英雄である。彼はどんな困難も。光明を見出だした……、
「フレア……。気が付いたかしら?」
先ほどまで、母の圧力に震えていたフレアは、魅入られたようにシンクの演目に魅入っていたが。強く唇を噛み締め。次に母に見せた顔に。強い決意があった、呆気にとられてたシアンは、クスクス不敵に、それでいて嬉しそうに笑い手を叩く、
「姉さん♪、あの子気に入っちゃった」
二人は小さく頷き合って、全力を持ってシンと競うことを誓っていた。
……そうまさにシンクは、二人に宣戦布告したのだ、シルビアに手紙を渡す為だけに競うと、これにはシルビアも怒りを忘れて。久しぶりに笑みを浮かべていた、
「本当にハウチューデン家って、面白い人ばかりね~」
クスクス思わず笑う。懇意にしてる。友達のクエナ・ガイロンに紹介されて、最近小間物屋の女将と知り合った、妙に気が合った彼女と、今では友達付き合いをしている。彼女に、夫のことをつい愚痴ったことがあった、
「夫が、輝きの都プロキシスで、宮廷魔法使いになってるのよ……」会えない寂しさを、吐露したのだが、
「あら、そうだったの、貴女がケイタちゃんの奥さんだったのね~」
驚かされた、ミリアがオーラルの姉と知ったのもその時ならば、ケイタが妻に内緒で、オーラルが軍に入る以前から、ちょくちょく顔を出していて、家族ぐるみの付き合いだったと知り。シルビアは拗ねた。
「弟に言っとくわ、殴ってもね」
にこやかに笑いながら。とんでも無いことをさらり言うのだ。相手は弟でも世界有数の力を持った、王に向かってだ、呆気にとられたが、思わず笑っていた、立場も何もかも忘れて、その出来事をフッと思い出した、シンクが大差で勝利。夕方から行われる。フレアとの準決勝の話題が。周囲から飛んでいた。
シアンの試合が終わり、シルビアは仕事に戻る前に。校庭に出てる。出店の品に、目を光らせながら。歩いてると、
「シルビアさん」
声を掛けられ、唇を綻ばせていた、ミリアが、娘を抱き上げ。笑みを向けてきたからだ、
「盛況のようですね」
「お陰様で、それより伝わったかしら?」
意味ありげなミリアの視線。やっぱりこの人の入れ知恵かと、ほろ苦く思いながら、
「その様子だとあの子、上手く伝えたようね。不器用だから、ちょっと心配だったんだけど」
朗らかに笑い、あっさり言ってくれて……、思わず唸る。自分の配下。宮廷に巣食う貴族どもよりも。これだけの策手はいまい。勿体無いと思う半面。幸せそうに笑うミリアを見てると、羨ましさが勝る。
「それよりも一番下の弟。ブライアン君に会ったわよ」
「そう……、母さん元気だった?」
「益々美しくなられて、びっくりしたわ」
楽しい出来事ゆえに。思いだしクスリ笑っていた、
前回の世界会議が行われたのは、昨年の冬。ギル・ジータ王国の海中船が、5大陸を繋げ。未だ地下迷宮の復旧に目処がたっていない今。海中船の需要は高まる一方だ……、それと言うのも15年前から、魔物が増えた海は危険だからだ、だが海中船の造船技術は特別な為。早々に増やすことは出来ない。そこでギル・ジータ王国エバーソン王は、資金を提供して、一度失われた、船の国クラウベリアの船リバイアサンの再建を打ち立て、開始されたのが今から5年前。
ようやく昨年処女航海が行われたばかりである。
様々な国の重鎮が、レセプションに呼ばれて、4日前……、シルビアは北大陸を訪れた。
レオール連合国になる前は、排他的な大陸だった、今では多くの観光客の為。港は、美しい町並みに整備され。土竜馬車の流通網があるから、富裕層の旅行先に上げられていた。近々別荘地が、開拓されると世界中の名だたる商会の長が、集まってたのは印象的だった、
「そう、もう少し安くなったら、弟に出させようかしら♪」ニヘラ愉しげに笑うミリアの神経の太さに、舌を巻いていた。
「楽しい。お父さんでしたよ」
思い出すのは、特徴的な癖の髪。日に当たると赤みのある黒髪で、シニカルな笑みと、軽い口調、それに騙されてはいけない。なかなか面白い人物だった、
「そっそう……」
ちょっと赤くなって照れたミリアなど、あまりに意外だったから。目をしばたかせてると、少しだけ誇らしそう笑う顔が、印象的だった、
「ありがとうシルビアさん。手紙はもう少し待ってあげてね」
「もちろんよ」
二人は笑い合いながら、楽しい時間を過ごした。
━━日が沈み。校庭の出店は、食べ物がメインになる。そんな時間━━。『魔法比べ』コンテスト会場では、仕事を終えた住人が、観覧を肴に、日頃の鬱憤を晴らす━━。
準々決勝に颯爽と登場したフレアは、見事にドレスアップしていた、光と影を用いた影絵で、炎と氷の魔法を組み合わせ。景色を造り出した。
「これは……万華鏡?」
失われた魔法に。確か……幻影魔法の奥義が、記されていた。名前だけは知っていた。万華鏡と呼ばれていた魔法で。シンクの驚きの表情に気がついて、艶やかに笑いながら、フレアは喜び震えた、
対してシンクは、氷の妖精を作り出して、内に炎を宿らせた、アイスファイアと呼ばれる。高等魔法を使って演目、妖精はシンクの周りで、遊ぶ姿は美しく。闇の世界に生えた。
━━妖精はやがて女王に選ばれた。
すると全ての妖精が一つに集まり。美しい女王となった、さらに炎の都を作り出して。雄壮なる。炎の妖精王が登場した、
二人は出会い……。やがて恋に落ちた、炎と氷、違う属性の二人は、お互いを求め。愛し合い、二人は消えて無くなった、
そして……水の妖精が生まれた。
「オオ!」拮抗した二人の戦いは、僅かながらフレアに分配が上がった、肩を落としたシンクが舞台を降りると、高揚したフレアの顔は、美しさに磨きが掛かっていた。そっくりな顔立ちの妹と、待ち構えていた、
「この間の手紙……、受けとりますわ」何処か素直ではない姉に変わって、満面の笑顔のシアンは、
「君やるじゃない!、決勝楽しみにしてるね♪」
先にシンクの手を掴み。握手してくる。
「ちょっとシアン!、私が先よ」
物凄い勢いで、抱き付かれ、戸惑うシンクと、ハッと目が合って、真っ赤になるが、離れようとしない。困ったシンクは、キョロキョロしてると、
「そこのやたら胸が大きい女。その男は私が先に目を付けたの。手を離してくれるかしら?」
声はするが、姿は見えない。三人は辺りをキョロキョロ。大剣が眼前に出され。仰け反るフレアを、下から上目線で睨むのは。栗色のちんまい女の子で、顔を真っ赤にして、自分でも分からない怒りを顕にしていた。
「誰?」姉妹は怪訝な顔をしていた、するとフフンと鼻を鳴らして。せせら笑いクルミは、
「私を知らないとは、何処の田舎者かしら」
せせら笑い返され。姉妹の眼差しがきつくなる。フレアが剣呑な目をすがめ。シアンは姉の背後で身構えた。いつでも支援出来るように。スタッフを手にしていた、ヤバい空気に気付いて……、周りにいた生徒は避難を開始。たまたま近くにいた教師は、我が身の不幸を嘆き。涙したと言う。シンクも逃げ出したかったが、フレアの豊かな胸に顔を押し付けられ。身動きがとれない。真っ赤になって固まっていると、
「そこ!、神聖な学舎で何をやっている」
大音声が大気すら震わせ耳だを打った、対じしてた三人は耳を押さえ。あっけにとられていた。現れたのは長身の女性で、キリリと眉をしかめた赤髪、そばかすがチャームポイントの。いかにも生真面目な印象である。つかつか近付いて来て、フレアからシンを救いだして、うろんな人間を見るような、不信感を漂わせる女性に、顔をひきつらせていた。
「一年!、名前は」鋭い声に、ピンと背筋を伸ばして、
「シンク・ハウチューデンです」
驚いたように目をまるくして、女性はうろんな顔から、驚いた顔を経由で、優しく目を細めて。小さく笑うと、
「君がオーラル殿の子息か、私はフィア・ガイロン、母と貴方の父は同僚だった」
ガイロン……、ハッと二人も顔を強ばらせていた。英雄で名高いオーダイ元将軍の孫に当たるフィアは、あのガイロン重騎士団長クエナ・ガイロンの娘である。夫は近衛連隊隊長のヴァレ・カルバン、あのヴァレ・オーダイ将軍の子息である。
「浮わついた生徒の痴話喧嘩かと、止めに来たんだが……、オーラル殿の子息ならば、心配無かろう、一度興味あれば『学年戦争』を見にくると良い」
朗らかに笑い。颯爽と立ち去っていた、
辺りはホッとした空気に包まれ。いつの間にか、クルミが消えていて、疲れたように三人は笑いあう。
「また明日ねシン」シアンは小さく手を振りながら、何か言いたそうなフレアの手を引っ張って行く。二人を見送ってて、ハタッと思い出した。
「手紙渡すの忘れた……」
頭を抱えたシンクであった、
━━学園敷地内の西には、巨大な建物が隣接している。
『学年戦争』の舞台である。その建物の四方に、それぞれの陣地が築かれ。陣地毎に、旗が立てられている。旗の色と紋様で疑似国が決められていて。
一年生は黄色の旗に鎧が、
二年生は赤の旗に槍が、
三年生は黒の旗に兜が、
四年生は白の旗に城が描かれている。
『学年戦争』から、一年間の間。部隊所属の生徒による。ランキング戦が、半年毎の期間行われる。年二回のランキング戦で、総合優勝した部隊長には、翌年の『学年戦争』で、将軍の栄誉と学園卒業後に望めば、近衛連隊入隊の学科試験免除が与えられるため。『学年戦争』は加熱の一途を辿る。何故『学年戦争』なのか問われた、学園長エドナ・カルメン・オードリーは、
「経験は強みだが、それを撃ち破る力こそ。未来には必要ではなくって~」
豪語する。齢60を越えて、妖艶に笑う美女に。
「本音は?」
大男の教頭バレンタインは、魔導師と言うより戦士のように、鍛え上げられた肉体の上に、ぼくとつと気弱そうな顔を乗せていて、不安そうに問うと、エドナはニヤリ意味深に微笑み。
「楽しいからに決まってるわ♪」高笑いするエドナに。気持ちをゲンナリさせていた。
「失礼します。あっお父さん~やっぱりいた」
「おっリーザ……」
「あはっ、リーザ♪久しぶりだね」
高笑いしてたエドナは、急に目尻を下げて、可愛い孫娘を見るように、優しい笑みをリーザに向けた、
「エドナ母様。ご無沙汰してます!」
嬉しそうに笑みを深め。リーザは艶やかに笑うと。やっぱり似ていた……、彼女の母リリアに。ゆっくり瞼を閉じれば、鮮明に思い出す。
バレンタインの妻リリアが、命懸けで産んた大切な子であり。エドナにとっても我が子同然で、残念ながらリリアは娘を産んで、数年とたたず他界したが……、
あの出来事は……、エドナにとって、身を切られる思いだった……、かけがえのない部下であり、自分の後継者と望んでいただけに。かなり堪えた、リーザがいたことで、かなり救われた。朴念人のバレンタインでは、子供を抱えて、育てることもままならず。エドナはリーザを養女として迎えている。
「どうしたのかしらリーザ?」
あっ、思い出したように、
「母様に言われて、今年の『総合武術大会』の予選『魔法比べ』の予選見てきました♪」
義娘の興奮した様子から、良いものを見れたと、手に取るように解る。
「あの子良いです!。母様の言った通り。友達になりたいな♪」
嬉しそうにはしゃぐ義娘に、口元を意味深に綻ばせ。バレンタインを青ざめさせた。
「楽しくなりそうね♪」
入学式2日目━━。
『学年戦争』開始の宣言が行われ。2日間の戦いの火蓋が、切って落とされる。
仮想国の将軍が発表された。
一年将軍に選ばれたのは、フィア・ガイロン、あのオーダイ将軍の孫で、母はガイロン重騎士団長、父は近衛連隊長である。
二年リルム・アオザ・パレストア、父は魔王ピアンザ。
三年エドワルド・シャイナ、父はファレイナ公国のエドワルド公爵。
四年エドワルド・コルト、シャイナの兄で、未来のエドワルド公爵である。いずれ劣らぬ猛者に。話題は欠かさない。中でもリルム・アオザ・パルストアであろうか……、銀の髪は、日に当たると白銀のように美しく。抜けるような白い肌、憂いを称えた黒の瞳。美し過ぎると評判な女生徒で、ずば抜けた弓の腕と、沈着冷静な戦況を見る先見性は、学園一と名高く。元将軍オーダイの弟子としても知られていた。
「お嬢。『総合武術大会』の予選結果。『魔法比べ』予選結果。お持ちしました」
スラリとした女性が、声を掛けていた、特徴的なのが緑かかった髪と瞳、綺麗と言うよりはハンサムなと表現出来る女性は、恭しくリルムに報告書を手渡す。
「ご苦労様エルマ」 ただ1人。リルムが信頼する友である。
「ギラム叔父様は、元気ですの?」パラパラと報告書を捲るリルムは、何気なく聞いていた、
エルマの父は、ラトワニア神国で要職にあり。英雄と知られたギラム・ブライドで、母はラグ・エマ、二年前に他界していた。
「はい……、心配性で」
些か苦笑を強め。肩を竦めた。母ラグはギラムに内緒で、エルマを産んでいた、密かにギル・ジータ王国の孤児院に預けていたのは、自分の中にあった狂喜で、娘を殺してしまうのではないか……、不安だったと後にかたっている。
狂喜の女神ルグワイトの魂を失い。平静を取り戻した元六将ラグラドは、父といつも一緒だった、
リルムとは一時期ギル・ジータ王国に身を寄せてた時期があって。その時からの付き合いになる。二人は何時も一緒で、ある日母に紹介したら、
「貴女は……」
エルマを優しく抱き締め。良かったと涙したのに驚いた。それまで孤児として、孤立していたエルマは、シレーヌ王妃に引き取られた。二人は姉妹のように数年をギル・ジータで過ごしていた。
それと言うのも長い眠りに着いてたエルマの母ラグは、再び目覚め。父ギラムが結婚して……、
エルマはラトワニア神国に移り住み。その間手紙で、お互いの近況を知っらせていた、リルムがアレイ学園に入学すると聞いたエルマは、ラトワニア神学校の『院』に在籍していたが、転校生として、わざわざ歳を誤魔化して転入したのも。リルムの側にいるためである。
「あら……」
手を止めて、珍しく頬を緩めるリルムに、おやっと首を傾げていた。
「オーラル叔父様の子息。シンクがようやく来ましたわ♪」 嬉しそうに笑うのだ。オーラルはリルムの父と母の友であり。何度もプロキシスに来日したリルムを。自分の子供のように扱ってくれた、優しくも厳しい人物で、リルムは初めて……、分け隔てなく自分を扱ってくれた、オーラル叔父様をとても気に入っていた、それだけでもリルムには嬉しいのだけど……。シンクは幼馴染みと言うより。異性としてとても魅力的な人なのである。
ようやくこの日が来た!、密かに期待していた日がついに……。
「スカウトしますか?」学年戦争期間の補助枠は、同学年から選ばなくても良いシステムで、『学年戦争』の面白い所で、それゆえに戦略が問われるのだ、
すなわち部隊は、傭兵をストック出来る。どの学年の部隊もみな……、優秀な補助は喉から手が出るほど欲しい所だ。
「シンクなら、スカウト争いに巻き込まれる気がしますわね……」
美しい眉ねを、思案気に寄せて、
「静観しましょう♪」
「宜しいのですか?」
困った顔をしてるエルマに、クスリ小さく笑いながら、
「それが楽しいのよ♪。それに……、あまり私達と戦力差があるとつまらなくなるわ」
小さく嘆息して、お嬢らしいと諦めた。
『学年戦争』での決着方法は、王である旗を失うか、壊されるか、または将軍が操る旗機が倒されたら負けとなる。初日二国が消えた時点で終わりとなり。時間が残っても翌日に持ち越されるルールで、その間倒された兵は復帰出来る。その為必要なのは重要な諜報活動。必然なのが情報戦。次に傭兵である。傭兵は期間内ならば、何度でも交代可能である点。さらに傭兵はいくら倒されても、相手のポイントに加算されないこと、いかに優秀な傭兵を集めるかに掛かってるのだ、
傭兵側にもメリット、デメリットが存在する。メリットは勝った側に一度でも。参加していれば、学園ポイントが加算される。が、一度でも傭兵として参加した学生は、違う国の参加資格を失い。ポイントが稼げなくなるデメリットがある。いわゆる無駄骨になりかねない。そこで金持ち(高ポイントホルダー)がいる部隊は、優勢となる。いわゆる買収と報酬である。仮想国はポイント稼ぎに、賭け屋を運営するので。小さなポイントも集まれば、多額になる。その為初戦の勝敗が大切になってくる。
初戦とは、相手の手の内を見るための一騎討ち。主に傭兵が出るのだが、賭けの対象であり。ポイントを稼ぐ最初の機会でもある。将軍の力量を測る。駆け引きも見ものなのだ、
四方にある。仮想国の上部が、観客席になっていて、魔法投影魔導兵の額に。クリスタルが埋め込められていて、クリスタルを媒体に。四方の観客席上部にある。魔法の鏡に、戦いの場面が、写し出される仕組みは。観戦したことが無い生徒にとっても。凄まじい臨場感を与え。安い入場料ゆえに。観戦者は多い。シンクも初めて目にした『学年戦争』舞台を思わずみ入り。我知らず。手に汗握った。
「隣、良いかしら?」
柔らかな赤髪と、小さな眼鏡が印象的な、女生徒に、声を掛けられた、いつの間にか、周りの席は一杯で、シンクは快く。奥に詰めた、
「ありがとう♪、私はリーザ・カーベン一年生よ」
「初めまして、シンク・ハウチューデン同じ一年生です」
リーザの服の左胸に『特待生』を示す。校章を見て、ちょっと驚いた、彼女をクラスで見たことが無かったからだ、「ああ~私は『院』に在籍してるから、クラスには居ないのよ」
視線に気付いてリーザが小さく笑った、成る程と一つ頷いたが同時に唸る。一年で『院』に在籍してると言うのは、とても珍しい事だからだ。
どよめきが上がった、初手の一騎討ちに、将機を意味する。マント着けた機体が現れたからだ。
「フィアやっぱりやるんだ……」
リーザは小声で呟き、困った顔を魔法投影に向けていた、
相手は三年の傭兵……、
一騎討ちが開始された、フィアの機体は巨大なポールアックスを片手で扱い。相手を動揺させた、三年の傭兵機体は、細身の剣である。傭兵機体は、旗機に比べるとかなり劣る。一年生ながら重騎士の訓練を積んだ。フィアに勝てる筈もなく、初戦を快勝。大判狂わせを演出した、大穴が飛び出して、頭を抱える生徒の中で、シンクに一年生勝利のチケットを。ひらひらさせて。片目を瞑る。オッズは10倍の高配当。素直にシンクは笑いながら、
「おめでとうございます」
にこやかに言われて、予想外な反応に、手が止まる。
「ええ~と……、ありがとう」
困ったように微苦笑しながら、
「シンクは、学年戦争に興味あるの?」
「シンでいいですよ。少しはあります」
安堵の吐息をついて、
「ねえ。傭兵やらない?」
「はい……?」言われてる意味が解らず。戸惑いを浮かべるシンクに。リーザは不敵に笑いながら、
「学年戦争に、嵐を起こさない?」
と魅力的に誘う。キラキラした目で……、
「少し話さない?」
「はっ、はあ……」
戸惑うシンクを連れ出して、朝から出てる。屋台のドリンク片手に、会場から出た二人は、林道を抜けて、学園内の小さな公園に出た、
「リーザさっきの話。どういう事かな……」
「ん~、本当は内緒なんだけどね。まだ正式に発表されてないけど、学年戦争の午後から中立国。傭兵ギルドが出来るの」
何故そんな情報を知ってるのか?、疑問が浮かび。訝し気な眼差しのシンクに。悪戯ぽく笑いながら、種明かししてくれた。「私が、学園側から特別に選ばれた、傭兵ギルドのマスター役だからよ」
成る程。それならば解る……、怪訝な面持ちは消えない。それはそうだろうなと納得して、説明することにした。
「学園側としては、このまま『学年戦争』を無計画に続けてると。政治の介入や、利害を得るために卑怯な手段に出る。愚かな学生が増えては、本末転倒なのよ」
リーザのあまりに真剣であるが辛辣な言葉に、虚を突かれた。
「母……、学園側としては、なるべく学舎として、さらに学園側だけで、学園を運営出来る機能を作りたいの。そこで現在行われる。スカウトの抑制と、不正ポイントが出ないように、監視目的の中立国を作り出した、それが、私の傭兵ギルドよ」前置きして、楽しげにシンクの反応を見てから、
「勿論。今までの各部隊が行う、スカウトも有効だけど。ある程度優秀な人材では、傭兵ギルドには敵わないと思い知ることになるわ」
片目を瞑り。お茶目にクスリ笑うリーザ。挑むような、伺うような目を見て、困った……。魅力的な話ではあるが……、
「因みにフレア、シアン姉妹、クルミ・アルタイルが在籍してるわよ」
驚いた顔のシンクに。ニッコリ魅力的に笑う、嘆息するしか無かった、断る理由が最早無かったからだ、
「解りました」
━━━午後。
突然学園側から公表された、新たな試み。中立国傭兵ギルドの設立に、仮想4ヶ国は激震した、傭兵ギルド国に在籍する傭兵は、僅か6名だけだ、ターフビジョンに映された名を見て、誰もが絶句。俗に言うS級傭兵ばかり。
傭兵国のギルドマスターはリーザ・カーベン、彼女は学園長の養女で、一年生でありながら『院』に在籍してる。天才である。
次にレイラ・バレス。彼女こそ『オールラウンダー』カレイラ・バレスの妹で、兄カレイラが死んだ翌年━━。産まれた腹違いの妹である。兄に似て器用な女性で、あらゆる武器、武芸に通じ。非力な女性ながらの戦い方を熟知した、有能な戦士だった、
ファレイナ公国剣姫、昨年『総合武術大会』優勝したクルミ・アルタイル、
姉の財務の天災フレア=カレン・ダレス
妹の魔法の天災シアン・イナバ、
救国の英雄オーラル・ハウチューデンの子で、今年の『魔法比べ』決勝進出『総合武術大会』準決勝進出したシンク・ハウチューデンと目が痛くなりそうな面々に、血の気を失う。早くも傭兵集めに、ポイントを散財していた、仮想国の2 3 4年生は困り果てていた、初手の予想外な敗退で、収入が無かった以上。中立国の傭兵を雇うことは出来ないのだ、
穴を演出して、多額の資金を得た一年生将軍フィア・ガイロンは、早速スカウトを仮想中立国、傭兵ギルドに使いを出した。
そして……、一年生の二人を雇うことにした、割安の一年生シンク、レイラの二人が使う、傭兵機体は、通常機体に劣るが、三年の傭兵部隊30機が、二機を迎え撃つ、
━━僅か少し前。魔導兵のシンクロ準備作業の為。棺桶のような小さな箱に入る。シンを呼び止めたのが、
「まさかこんな形で、再び会うとはな、シンク・ハウチューデン」
生真面目な顔を、艶やかな笑みに彩らせ、フィアは楽しげに目を細めた、
「頼んだぞ、一年生が優勝したことがないのだ、こんな好機は見逃せない、資金で劣る三年を狙え」
金の髪を束ね。ほっそりした面差しのレイラ・バレスと二人。無言で頷いた、
緑の中立を表した機体を囲むように、数で上回る傭兵部隊が、突っ込んで来た。槍を手に、シンは先頭を走る機体を、僅か一振りで、ニ体撃破、砂煙の下から、レイラ・バレスの機体が、滑り込むように現れ。意表を突かれた傭兵機体。三体撃破。動揺した傭兵部隊に、槍を棒のように使い。走り抜ける間際。足を引っ掛けて行くシンク。一度バランスを崩した機体は、操作に慣れてない学生と言うのもあり。お互いの邪魔をして動けなくなる。そこをレイラが細身の剣で、止めを刺して行く、
僅か数分で……、数でうわまる三年傭兵部隊を壊滅させたのだ、どよめきが上がった、リーザも同じで、ここまで一方的になるとは、考えもしなかった。リーザは知らなかったが、シンクは本国で、魔導兵の扱いに慣れていた、レイラはレイラで、第1師団の訓練施設で、経験済みだ、二人は歴戦の戦士なら理解出来る。僅かな動きで、相手の考えが読め。そして動いていた、神速のように見える二人の動き、だが━━、
二人にとって、当たり前の事をしたに過ぎない。無言だからこそ。二人は確かな意思の疎通を感じた、そして……、
三年の国が滅ぼされたのは、僅か一時間後であった……、動揺した4年生は、一年生に攻め込んだ、しかしその隙を見逃す程。リルム・アオザは甘くない、ほとんどの兵を出した為。手薄になっていた、エドワルド・コルトはあっさり討たれ。4年生は敗退。夕方を待たず。本日の『学年戦争』は終わった。
明日は最終決戦である。
ざわめきを背に。レイラ・バレスは束ねてた髪をほぐしながら、隣で伸びをするシンクと見合い、小さく笑い合う。軽く手を打ち合わせ、会話もなく。レイラは立ち去った。
夕方……。
伯母の出店に行くと、足をプラプラさせてつまらなそうなリナが、箱に座っていた、
「リナ、お兄ちゃん来たよ」
父の声に、パッと顔を輝かせ。一目散に走って、シンクに抱き付いた、
「すっかり、シン君になついたな」
お客にお釣りを渡して、仕方ないなと嘆息して、夫婦は小さく笑い合う。オーダーメイドの注文が立て続けに入って、学園側から、出店まで頼まれて、本当に忙しい時期である。シンクが入学してくれて、かなり助かっていた、優しい性格のシンクは、何時でもリナの相手をしてくれるから、本当の兄のようになつくのも仕方ない、
「本当の兄妹のようだな……」
柔和な笑みを深める夫に寄り添い。ミリアも優しい笑みで頷いた。
翌朝━━━。
シンクは何時もの癖で、お金を確かめてから。家を出た、南の学園通りを歩いてると、
「シン」
呼び止められた、
「……リルムちゃん?」
それはそれは懐かしい顔だった、美しく育った幼なじみとの再会━━。
……懐かしさと。切ない気持ちになって、眠気は霧散した。
彼女の友人と紹介されたエルマと、三人は、学園に登校して。彼女の案内で、二年生のから使える。ラウンジに入り、改めてハンサムと表現がぴったりくる。背の高いスラリとした女生徒エルマと、軽く挨拶を交わした。
「シン今日は、対決よね♪。久しぶりに貴方と戦えるの。楽しみにしてるから」
エルマの入れた紅茶を一口啜り。鋭い眼差しを細めて、嬉しくて堪らないと笑うのだ。豪雪に咲く。雪氷華彼女の本性である。やはりこうなったか……、諦めに似た顔をした、リルムとは本当に仲が良くて。何時も二人で遊んでた、それが変わったのはシンクが8歳になった頃━━。
本当はリルムが、3つ上なのに……、あの事件から歳を偽り。そうまでしてシンを待ってたとしたら……、全ては自分のせいである。
━━━あれは4年前……。
━━シンが、8歳の誕生日を迎えた日。父との約束だった、念願の魔導兵のリンクを許された日のこと……。リルムもわざわざ祝いに駆け付けてくれて、二人は喜んだ。リルムの母は、数少ない光の民であり。古代白の民と呼ばれる民だ、父は闇の民の魔王……。古代の黒の民との混血で、……幼少期は、苦しんでいた……、
大人になれば判るが……、子供はそんなこと言われても、自分たちの価値観を押し通す。
また━━リルムの容姿は、あまりに美しく。嫉妬を買った……。
そんなリルムが安心して、気兼ねなく過ごせたのが━━、
━━中央大陸。輝きの都プロキシスだった、リルムは嬉しそうにはしゃぎ、一緒に魔導兵リンクを学び訓練した。昔から……リルムは、弓の才がずば抜けて凄かった、シンクの弓は、リルムから学んだ物だ。そんな幸せを壊した者がいた、元赤の民である。
二人を亡き者にしようと襲われた……、二人は闘った、命を掛けて……、シンクは右腕と左足を失った……、リルムを庇ったせいで……、アワや殺される所を父に助け出され……。
二人は命が助かった。しかし……、シンクの失った手足は、闇の呪いで汚され、二度と繋げる事は出来ず。失ったままになったと知った……。リルムは泣きじゃくった、
『私のせい!、ごめんなさい、ごめんなさい……シンク』
シンクはそんなこと……、どうでも良かった、リルムが無事だった、それだけで十分だった……、私の大切なシンの思いを聞いて………、
リルムは変わった、強くなると決めた、自分が愛した者を守るために……。自らが強くなることを課したのだ。そっとシンの右腕に。優しく触れながら。
「シン私が勝ったら、結婚なさい」
「リルム僕が勝ったら、僕の妻になりなよ」
真っ青になったエルマは、慌てて周りを伺い、安堵した、だからではないが……訳も解らず赤くなった、それは二人の合い言葉。
幼い日の約束……。いつか二人が、自分たちを許せたら、一緒になろうと。二人は誓っていた。
「覚悟なさい」
「そっちこそ」
二人は見合い。同時にクスクス笑い合うと、シンクは立ち上がり。振り返ることなくラウンジを後にした。歩き去っていた、
訳も解らず赤い顔のエルマは、どうしたものかと迷いを見せながら、リルムに従う。
「お嬢……、さっきの……」
聞くのを止めた、だってリルムが、あまりに可愛らしく笑う姿を見たら……、彼女の気持ちが、理解出来た……、
━━4年前……、
リルムを許してくれたシンク。だからこそリルムは父に願った、シンと同じ時間で、一緒に過ごし。学ぶ時間が欲しいと……、迷う父、母がそっとリルムの肩に触れながら、優しく笑う、
『彼の為ね?』
『はい……』
私のシンクが新しい技術で、義手。義足を手にして、訓練を開始した、彼を支えることに躊躇いは無かった、
『私は、シンにふさわしい女になりたいの!』
毅然といい放つリルムに、父は困った顔を崩さずオロオロするのだ、母がからかいながら笑う。
『二年の眠りに付く毎になるけど、我慢出来る?、シンクに会えなくなるわよ』
迷った……、シンてば、凄くもてるから、ほっとくと他の子に……。半泣きのリルムはそれでも。
『はい』
力強く頷いていた。だから……、リルムは嬉しくて仕方ない、大切な人が、変わらなかったから……、
「不安は消えたわ。後は、勝ち取るだけよエルマ」
勝ち気に笑うリルムに、戸惑ったが、エルマは小さく頷いていた。
━━『学年戦争』二日目。最終日。
例年に無い。一、二年生の決戦に。予想の難しさに唸る生徒達。無論オッズは割れて、僅かにリルム・アオザ・パラストア率いる二年生が、有利との下馬評だ、
━━朝。学園側から、傭兵ギルドの詳しい取説が、パンフレットで配られた。ルールを見ながら、にわかダフ屋まで現れている。
傭兵ギルドの決まり。一国で中立国傭兵を雇うことが出来るのは、二名まで。
1名200ポイントの契約料が発生する。
傭兵ギルドの兵士は、勝敗に関係なく契約時に。報酬を貰う。
傭兵ギルドの参加者同時募集。
参加の有無に関係なく。ポイントは公平に分配される。参加可能者はどの項目でも1つS級を取ってるか、または試験の成績で全てA、またはAAであること、恐ろしく厳しい内容に、青ざめる生徒が続出したのは言うまでもない。
そもそも今までの傭兵報酬が、およそ1人頭15~30ポイントが相場だ、だが傭兵ギルドの傭兵がいかに高額か、それをを理解したが、一方では……、昨日傭兵ギルドの実力を見てもいた、
だから仮想各国も理解した、今までのような戦略では、勝てなくなると。もはや戦々恐々した、そして……もう1つの可能性と戦いを見ることになる。
昨日と同じように、一年仮想国に雇われた、傭兵ギルド二機が猛然と進撃を開始する。二年仮想国には昨日まで傭兵が少なかった、しかし有能な学生が多く。拮抗するだろうとの予想だ、
━━緑の機体が二年生国の陣地内に現れ。ターフビジョンに映されたるや。観覧席の生徒は騒然となった。
二機を前に、小さな機体が立ちはだかったからだ……。
巨大な大剣を片手で構え立つ機体が、そう傭兵ギルド同士の戦い……、レイラ・バレスが躊躇を見せた、シンクが槍を構え合図を送る。レイラはシンクの考えを読んで、1人で攻め込みに走る。正直……クルミ相手に、1人で敵うか解らないが、恐らくリルムの考えは、シンクの足止めである。槍を風車のように回転させながら、クルミの攻撃を待った、息詰まる緊張感。先に痺れを切らしたのは、クルミである。隙がまるで見えない以上は。母譲りの戦いのセンスと思い切りのよさ。父譲りのパワーだけで、剣姫となったクルミは、同年代に負けた事がなかった、だから甘く考えていた。所詮は私に劣ると、母には何度も、口を酸っぱく言われてたが、クルミを負かす強者などいない……。
魔導兵の利点は、操縦者の能力がダイレクトに、機体に反映される点。『学年戦争』とは言え。使われる機体は、軍の物に劣らない。瞬歩で、一息でシンに迫り。轟音一閃。横殴りの大剣が、唸りをあげで大剣がシンクに迫り。凄まじい砂煙を上げたため。シンクの機体をぶっ飛ばしたかに見えた、だが……膝を着いたのは、なんとクルミの方だった。愕然と驚きに頭が真っ白になったクルミ、単調だが強力な破壊力も。所詮当たらなければ無意味。風車のように回転させる槍は意味もなく回していたわけではない。単純なスピードならクルミのが上、当たれば一撃で終わる。そんな状況など、シンクに取って日常茶飯事。父は手足を失ったシンクを甘やかさなかった、今はそれを有り難く感じて、我を取り戻す前に、クルミの機体を討ち取って、レイラの後を追った。
仮想傭兵ギルド。施設の棺桶が開いた。茫然自失のクルミは、訳も判らず震えた、自分が何故負けたか、理解出来なかったのだ、歓声が上がった……、
レイラが討ち取られたのだ、クルミと戦っていたほんの僅かな間に……、レイラは油断した訳ではなかった。対峙した瞬間、リルムの強力な矢で、頭を破壊された、まさに驚愕の出来事であった。シンクが駆け付けた時。リルムを守るのが、僅か6体の機体しかいないこと、旗を守るにしては、予想外の少なさに……、シンクは嫌な予感を覚えた。凄まじい歓声が上がった、
『学年戦争優勝は二年生!』
大歓声に、会場が揺れていた。シンクは理解した、リルムの旗機は肩を竦めていた。やられた……、リルムは最初から、戦略的搦め手を選んでいたのだ、シンクにわざわざ朝会ったのも……。わざと決着を付けると言ったのも。恐らくは……、
━━プシュ……。棺桶が 開き意識が戻った、悔しげに唇を噛み締めていたが。小さく嘆息すると、徐々に悔しいあまり不敵に笑っていた。
「次は負けない……」
━━━クルミは不思議な気持ちを抱いき、『学年戦争』の結末を見ていた、
「……まさか、シンクが負けるとは……」
衝撃を受けていた。自分にまがりになり勝ったのに……、こんなことで負けてしまう、この時初めて、母の言った事が理解出来た。
『個で、勝てない出来事があることを知るのですクルミ』
クルミの母は、南大陸。ファレイナ公国の女王で、強く、美しい母にクルミは憧れていた、母のような洗練された剣技を、クルミも学ぼうと必死だった、でも……、
生まれつき戦いの勘が、ずば抜けていて、思い切りの良さと合わさり。力と素早さだけで、僅か6歳の時クルミは、15歳以下の部で、圧勝していた……、
それから間もなく。同年代との試合は危険と判断され。大人の試合に出るよう言い渡され。クルミは最年少の剣士に選ばれた、それ以来……。クルミは1人だった、まるで腫れ物に触れるように。同年代の子供達から遠慮された。クルミの方も自分の力が、簡単に友達を傷付ける怖さから、遠慮するようになり……、クルミはいつも1人だった、不安を抱えるクルミは、自分を強く見せる為。気弱な自分を殺して、演じていた。
辛く。悲しく。恐怖心を抱えながら、静かに泣いた、
「負けない、絶対負けないから……」
強引に涙を拭って、クルミは晴れ晴れした顔をして、帰路に着いた。
4日目……。『総合武術大会』準決勝。
晴天に恵まれたその日の午前中。8組16名による。準決勝が行われる。
第1試合のシンクは、昨年準優勝者との好カード、観客は多く。ミリア伯母さんとリナが、観戦席に来ていた、
「ニイ!頑張って」
可愛らしい声援に。場も華やぎ、
『始め!』
開始された。一度に四ヶ所で同時に試合が始まり。シンクの相手は、双剣の使い手らしく。一気に懐に入り込み。近距離からの連撃は凄まじい。紙一重で腕を払う一撃をかわしても。クルリ右足を支点に。背を向けた位置から、斬撃が繰り出される。息も尽かせぬ猛攻に、シンクは防戦一方である。
相手が上体を流して、隙が出来た瞬間、足を払い。たたらを踏ませ。距離を取る。相手も三年生で、場数を踏んでいた、僅かな遅滞だけで、体制を整え、猛然と打ち掛かる。シンクは剣を左手に持ち変えていた。今まで全ての試合は、制限のある義腕を用いて戦ってたが、相手は本気を出すに。十分だと敬意を表した。再び一方的になる。そんな予感は……、甲高い金属音で、打ち砕く。
演舞場に、根元から切られた双剣の刃先だけ転がっていた、真っ青になる三年生の喉元、剣を突き付ける。
「参った……」『勝者!シンク・ハウチューデン』
どよめきが上がった、歓声に答えながら、控室に戻る途中。クルミが仁王立ちで、下から上目線で、鋭く睨み。そっと小さく笑いながら、演舞場に上がった、クルミと戦うには、後二度勝たなければならない。
予定では……決勝は。国王夫婦が訪れ。夕方から行われる。『魔法比べ』決勝の後になる。
━━準決勝二回戦。伸びやかな肢体を、ピッタリした。黒革の服装に包む女生徒は。黒髪で、目元の黒子が何とも印象的である。黒髪は東大陸で珍しいが、父から黒衣の一族には珍しくないと聞いていた。
「ヒナエ・バウスタン!」体術を得意としてるようだ、シンクも武器を持たず。舞台に上がった、するとそれをみていたのか嬉しそうに彼女は笑う。一般生徒のようだが……、
『始め!』
号令が掛かると、突然鋭く呼吸を吐いて、蛇の威嚇音のように響き渡る。ヤバい……、
ゾクリとした寒気を感じて、咄嗟に脱力して、後方に飛んだ━━刹那。
爆発的な加速で、ヒナエがシンクに迫り。鋭く踏み込んだ右足が、特別に加工された石舞台を、踏み砕き、身体を開いて、拳が放たれた。咄嗟にありったけの魔力を腹部に集め。身体を強化していた……、
「グッ……、ガハッ……」
どうにか一撃を防いだが。彼女は嬉しそうに破顔しながら、ニ撃目がシンクの下から顔面に向かって、放たれた。シンクは拳をしっかり見ながら、紙一重でかわし。大きく隙の出来た彼女に、体当たりを見舞う。
「グッ……」
意表を突かれた、ヒナエは演舞場を転がりながら、滑った、膝を着いて、痛みに顔を歪め、目は驚きに開かれ。高揚した笑みに彩られた。おぉお!、歓声が上がる。膝を着かないが、シンクとてダメージがあり膝が笑う。追撃までは不可能だった……、癒しの奇跡を願い。ようやく動けるようになるまで、僅かな時間が必然だった、
ヒナエは再び蛇の威嚇音のような、呼吸法を開始した、あれはヤバい……、足が動いた瞬間、瞬歩を使っていた、まるで瞬間移動したかのように。見えた筈だ、瞬きした僅かな間。シンクが現れたと認識して、身構える前に。ヒナエは腕を捕られ。逃げる間もなく、背から演舞場に叩きつけられ。息が止まった、眼前にあった拳を見て、
「参りました……」ヒナエは素直に敗けを認めた。再び上がる大歓声に、ドット冷や汗を拭いながら、シンクはヒナエに手を貸した、
「危なかった……、奥の手使わされたの初めてだよ」
素直にヒナエの力量を称えると、クスリはにかみ。
「残念。勝てると思ったのに~。また対戦して下さるかしら?」
悪戯ぽく、蠱惑的に笑うと泣き黒子が、魅力的で、赤くなるシンクは、小さく頷いていた。
「またねシン!」ウインク一つ残して、ヒナエは大歓声に答えながら、舞台を後にした、
「あんな娘がいるのか……」
回復が、後僅かに遅かったら、シンクは負けていた、
━━準決勝三回戦。今までの相手の中で、運だけで勝ち上がったのか、実力は一枚落ちる。一般生徒からの参加者で、シンクはあっさり勝ち上がった。
シンクの戦う姿をこっそり見ていた、フレア、シアン姉妹は、ホッと吐息を吐いて、
「手紙のこと聞けますわね。お姉様」
「そうね。夕方まで時間あるから、お昼でも……、何よシアン?」
袖口が引っ張られ、怪訝にシアンを見ると、不機嫌そうな顔をしてる妹に気が付いた、
「あれは?……」白銀に輝く、美しい女生徒が、みんなの注目を集めていた。いるだけで幻想的な美しさのリルムに、度肝を抜いた生徒や家族は、何事が起こったのか、注目が集まる。
「ニイ!抱っこ」
我関せず。マイペースな姪を抱き上げるシンクを、艶やかな笑みを浮かべて、
「シンおめでとう!」
「ありがとうリルムちゃん♪」
シンクが嬉しそうに答え。優しい眼差しみをリルムに向けるではないか、フレアは我知らず内に。手近にあった妹の腕を力一杯を握っていた、
「痛いです!、おっお姉様」
顔を真っ赤にして、痛がるシアンに構わず。不機嫌になった顔をする。
「行きますわよ!」ポイといきなり捨てられ。涙目のシアンは、シンクと噂のリルムが談笑する様子に、なるほどと納得していた。
「初めまして、リルム・アオザ・パレストア、リルムと呼んで下さいね」
伯母さんと姪のリナを紹介すると、緊張したリルムに、ミリアは柔らかく笑い。
「オーラルから聞いてるわ、よろしくね。この子は私の娘のリナ。リナご挨拶は?」
ニッコリ天真爛漫に、満面の笑みを浮かべて、
「リナです!」
元気にお返事してから、目を輝かせ。
「お姉ちゃん抱っこ!」
リルムにあっさりなついた、最初不安だったリルムは、ちょっと恥ずかしそうに微笑む。リナを恐々抱き上げると、
「お姉ちゃん大好き♪」抱き付かれて、不覚にも目に涙が浮かぶ。
「そちらの子もおいでよ」
少し離れた場所にいたエルマは、驚いた顔をして赤くなったが、ミリアの言葉に甘えた、
「二人共。好き嫌いあるかい?」
二人は意味が分からず見合い、同時に首を振る。パンパン手を叩いて、
「シンクお客様が来るから、あんたも手伝いな。リルムはリナの相手を頼むね。そっちの……」
呆気にとられてたエルマは、慌てて、
「失礼しました私は、ロドラ・エルマと申します。エルマとお呼び下さい」
男装の麗人。そう表現がぴったりくるエルマのハンサムな笑みに。シンク達を奇異に見ていた女生徒が、揃って顔を赤らめた。
「あんた料理得意そうだね。手伝いな」
「はっ、ハイ」
二人を交えたシンクは、賑やかな昼御飯を楽しんだ。
夕方━━。
美しく着飾った。赤のドレスのフレア=カレン・ダレス。
白のドレスを着た、シアン・イナバ、対照的な二人だが、鏡に写したようにソックリで、双子と解る。林道を抜けた野外会場に、屋台が沢山店を出していた。
━━会場を中心に。盛大な歓声が上がる。程なく現れた、次期国王夫妻。
レヴァ・ピオーテレ、ミレーヌ女王。幼い皇女フレーナ様に向けられた物であった、国王夫妻は皆に手を振りながら、貴賓席に着いた。
━━魔法の光が会場の特殊結界に集められ。見るからに緊張してる。学園の教頭である。バレンタインを照らされた、バレンタインは素早く風の魔法を用いて、
『魔法比べ決勝を宣言する!』
大歓声が上がる。否応なしに、ボルテージが上がるのも仕方がない。
━━今宵集まった多くの人々は、英雄の凱旋……。
あの英雄王オーラル・ハウチューデンの子息。その勇姿を聞いて、集まっていた人々だ、
……中には幼き日に。オーラル夫婦に。命を助けられた子供達が、大人になり……、幼子を連れて感謝の笑みを深めていた。またある者は、オーラルと共に苦楽を供にした兵士が、 様々な想いを込めて、英雄の凱旋を待った……、
我が国。アレイク王国の人々は、忘れない。彼の優しさを……、
『今宵。我が国が誇る。姉妹が再び……、美しき美技を演じます。フレア=カレン・ダレス嬢』
バレンタインに代わり。エドナ校長が、艶やかなドレス姿で現れた。自分で光の魔法を巧みに使い。舞台袖に控える。フレアを映し出した。大歓声に答えながら、コンテスト会場に入る。
人でが凄まじく。見れない人々の為に。学年戦争で使われた施設を解放して、魔法投影魔法の鏡で観覧する人々の歓声が、僅に遅れて聞こえて来た。
『闇夜に映える。魔法の申し子。シアン・イナバ嬢』
白のミニで、伸びやかな足をさらしながら、光に映し出される姿は、姉が腰まで赤髪を伸ばすのとは対照的に、赤みのある髪を。肩口でバッサリ切り揃えて。活発差をアピールしていた。姉妹は対照的だからこそ━━、並ぶと美しさは。より映えた。
『いま1人……、コンテストポイントで、今年度の決勝者に選ばれたのは………、シンク・ハウチューデン、若き勇者の登場です』
万感の想いが、紹介に含まれていた。敢えて何も語らず。勇者と表現した。国王夫妻も笑みを称え。目を細める。光に照らされたシンクは、黒に基調にされた、ホーマルスーツの衣服を着ていた。土竜騎士の正装である。
本当は……正装を用意してなかった……、忙しい合間に、伯母が、父も着た祖父の正装を、シンクに合わせ。直してくれてたのだ。二人に比べれば派手さに劣るが、三人が並ぶと、かえって二人を引き立てる役にたっていた。
━━この時シンクは二人を引き立てる影に徹した。
すると陰影が上手くシンクをお嬢様に仕えた執事のように見えるではないか、一枚の絵画のように、日が沈む会場に写り込み人々の目に。印象を残した。
━━演目の順番は、得点の低い順。シンクからで、姉妹が舞台から降りた瞬間。召喚魔法を使って、トリトン族と呼ばれる。地下迷宮・中継の街に住む。亜人を呼び出した、
姿は亀に似てるが、可愛らしい風貌に、女生徒から歓声が上がる。
シンクは突然会場から降りたフレアに向かって、深々一礼して、ダンスを申し込む。赤くなるフレアだが、仕方なさそうに、シンクの手を取りながら。
「音楽は、どうするのかしら?」
問うように聞くと、パチン指を鳴らせば、いつの間に……と呆れるほど様々な魔方陣が、起動していた、大小様々な魔方陣の一つ一つから、氷の魔法で、楽器が創られ。トリトルン族はにこやかに楽器を手に、演奏を始めた、さらに小さな子供のトリトン族は、独特のダンス。背の甲良を使って、ツルリと回転させながら、シンクが魔方陣で、次々と作り出した、氷のアトラクションを愉しげに回る。光の魔法でライトアップさせ。それはそれは楽しい時間を演出していた、盛大な拍手に応え。トリトン族に礼を述べて、藻塩を召喚の代償に渡すと、嬉しそうに満面の笑みを浮かべたトリトン族と挨拶を交わし。みんなを送還していた、
「シンてば、もし私が断ったら……、どうするつもりだったのかしら?」
満更でもない顔で、姉が愚痴るが、シアンは笑みを深めていた、
次にシアンの番で、シンクと代わり。会場の中央に上がった、シアンは光を身に受けながら、スタッフを構え。
ユラリ……、
動き出した瞬間━━。シアン達は、会場の四方に走り出した。どよめきが上がる。魔法を使ったように見えなかっだのだ……、しかし会場には四人のシアンがいて。それぞれ勝手に動いてるではないか、
「なんだこの魔法は……」
四人はそれぞれ炎。風。雷。氷。の魔法の使い手のようで、対立していて、戦い始めた……。時に激しく。時に手を携え。四人のシアンは、艶やかに魔法の華を夜空に咲かせた。
『魔法比べ』とは、本来はこうした戦いが支流であった……、王道だけに、実力がはっきりした戦いから、魅せる戦いに変わったコンテストを描く物語━━。
人々は、一瞬でシアンの描く世界に引き込まれていった……。
最後にシアンは集まって和解すると。まるで今までのことが夢だったように。1人となって、一礼していた、
一瞬の静寂━━。
地割れかと……、錯覚するほどの大歓声。人々の感情は正直だ、フレアはシアンを見る眼差しを、険しくした。双子の姉妹でだからこそ。二人は生まれ落ちた瞬間からライバルである。
━━二人には、愛する義姉がいた、優しく気弱な姉エル……。忙しい両親に替わって。何時も二人の面倒を見てくれた、優しくて、悲しみを背負った姉━━。
二人の大切で大好き姉エルの苦悩を、間近で見てきたのだ。姉には特別な力があった。気弱な姉を気味悪がり。忌避した沢山の大人……、姉は健気にも義理の両親に。心配掛けたくなかった、暗く泣きだしたい顔を隠して。今のフレア達の歳には、もう軍に所属していた。
それは姉が本当の天才で、最年少で宮廷魔導師になったからだ。敬愛する父の為にだった……、いつも辛さを隠してた姉……、二人は気が付いていたのに、何も出来ず歯痒い思いをしていた。
そんな姉が変わった、軍に所属するよう父から頼まれてから。一年もしない頃だった。
あの頃のこと今でも思い出す。最初は……、軍に移っても。堪える姉の姿をただ見ていて。胸を痛めてた二人だったのだが、久しぶりに実家に帰宅した姉の顔は、笑顔だった、不安も辛そうな顔すら消えて、本当に嬉しかった、あの人……、オーラル・ハウチューデンとの出会いが、義姉を変えたと知ったのだ、
二人は、一度だけ父に連れられ。大佐となったオーラルが指揮する。第1師団を訪れた事があった、その頃の二人は、魔法の素質があって、皆にちやほやされて天狗だった、だからちょっとした悪戯をするのが楽しかった……、二人は機会を見つけて、オーラルに悪戯を仕掛けた。
今思うと稚拙で、考えなしな行動に、恥ずかしく思うが、あの人だけは、二人の才能を誉めてくれた。
『面白い魔法の使い方だね!、いずれ魔法を魅せることに。使う日がくる筈だ』
と声高に言って、戸惑う父と、真っ赤になって怒ってた兵士は、呆気に取られた。そして魅せる魔法を、姉妹と父と兵士の前で、オーラルが一度だけ見せてくれた……、氷の妖精を造り出して、二人の周囲を華麗に飛び回る。幻想的な姿を……、シンクが演目でやった時は……、懐かさのあまり、泣きそうになっていた、
それは……。幼き日に、初めて会ったけど……、二人を認めてくれた優しい約束。
『二人が、もしも魅せる魔法使いに、なったら、俺の子に、見せ付けて欲しい。オーラルの一番弟子は私達だとね……』
英雄と呼ばれる人の。からかうような笑い顔は、とても眩しくて姉妹は、優し過ぎる英雄と呼ばれた人に……、まさしく。二人は魅せられたのだ。
最初は、顔をしかめる程の失敗だらけだった……、しかし二人はいつしか、コンテスターと呼ばれるようになっていた、
『最後の演技者こそ。ミス……コンテスター、フレア=カレン・ダレス』
エドナ校長から、ウインクが送られた、この人は……。
クスリ笑みが浮かぶ。
━━今でこそ。コンテストは学園側、それどころかアレイク王国公認だが……、
始まりは惨憺たる有り様で、妹は魔法の天災と陰口を叩かれた、
周りの教師達は、二人を自分達の枠組みに押し込むため、無理やり考えを押し付けてきた、それに反発した二人は、何度折れそうになったか……、
そんな時。姉妹を救ったのが、もう1人の師と仰ぐ。エドナとの出会い……、
あまりに強烈な印象の彼女との出会いが無ければ、今の二人はいなかった、
『ケイタの子にしては、面白いわね~♪』からかう顔で、やたら扇情的なエドナに反発した。それからも毎日のようにちょっかいかけてくるエドナ学園長を、煙かたがったが姉妹だが、その頃から周りの反応が変わり始めたのが、その頃である。『エドナさんが誉めてたのよ♪。頑張ってるようね貴女達』『母さん?、ありがとう……』
珍しく上機嫌の母。面食らう姉妹に。そっと父が種明かししてくれた、
『母さんにとって、エドナさんはライバルだからな~』
父は苦笑気味に語る。母が王宮の重鎮からは、怖がられてるとは耳にしている。そんな母と対立しながら、対等だと認めさせてる人は、今まで四人だけである。オーラル・ハウチューデン、元第一師団大佐アロ・ジムス補佐官。そして……エドナ学園長だけ。
『あの人が居なければ、父さんや今のオーラルは存在しなかったよ、未だに頭が上がらないんだ』
何とも言えない顔で、頭を掻いていた父、もう1人は母の友人であり、父にとっては姉のような人だった。
『中でもミリアさんは、もっと怖いが……』
父が珍しく身震いしながら、苦笑していた、因みに、信じられなかった姉妹は一度だけ、小間物屋を見に行った事があって……、
今貴賓席にいらっしゃる。時期国王が、噂のミリアさんに睨まれ。真っ青になって平謝りする光景に。二人は絶句した。王妃様は姉のようなミリアになつき。夫にアッカンベーとかしてるし。唖然としたが、周りの職人は慣れた光景なのか、
『またやってるのか、国王夫妻は……』
呆れ顔だが、好意的に微笑していた、何時もの光景らしい……。それから二人が見たのは、国の重鎮と呼ばれる人が、信頼の笑みを浮かべ、一介の小間物屋に、顔を出す光景は、異常だった、
『あんた達。こんなとこで何してるの?』
呆れ顔の母に見つかって、焦る姉妹を、仕方なさそうに見て、小さく笑い。
『丁度良いわ。ミリアさんに紹介するから来なさい』
『はっ、はい』
二人は、不安になったが、仕方なく。素直に母の後に続いた。こじんまりした店だが、可愛らしい装飾と。落ち着いた佇まいに、二人の不安は一瞬で消え失せていた。目をキラキラさせて、様々な可愛らしい装飾品や、精緻な武具、ドレスに息を飲んでいた、
『いらっしゃいシルビアさん』
奥から、幼児を抱いた女性。ミリアが朗らかに笑いながら現れた。
『あっ……』
二人は、雷に撃たれたように、立ち尽くした。彼女が笑うと似ていた……、あの人に……、凍り付く二人を優しく見て、柔らかく笑いながら、
『始めまして、貴女達が、シルビアさんの自慢の双子ね』
ハッとして、母を見ると、赤い顔をして、珍しく咳払いなんかして、誤魔化す姿に。何だが嬉しくなって、二人は、ミリアさんがあっという間に大好きになっていた。それから彼女がオーラル先生の姉と知り。時間があると母に内緒で、二人はミリアさんの元に通っている。
そしてフレアは、会場に上がった。彼女こそ舞台の上では、支配者となる。あらゆる魔法……。あらゆる局面。あらゆる出来事。全てを演出する。それは希代の財務官である。彼女の本質、それ故魅せるのだ。
一夜の舞台。すべては彼女の為に用意され。今宵存在する。そう錯覚させた………、まるで女王のように艶やか、精緻な演技、影を操る魔法は。世界でただ1人フレアだけの魔法、失われていた幻影魔法の万華鏡を使い、
……様々な絵を、舞台にて、生み出していた……。
まさに一夜の夢……。
静寂が、フレアを包み込んだ。爆発的な拍手が、彼女を称えた、多大なる賛辞、コンテスターの女王は、艶やかに笑う。
控え室の前。フレアを待っていたシンクに、
「手紙は、持って来たわね?」
柔らかく問うように笑うフレアと。勝ち気なシアンに、素直にシンクは、フレアに二通の手紙を差し出した、ちょっと戸惑うフレアに。
「父からも。二人に手紙を預かっててね」
緊張が二人の顔に浮かぶ。震える手で手紙を受け取ったフレアに。
「僕は『総合武術大会』決勝に出るので、失礼しますね」
足早に立ち去るシンク。ハッと顔を上げて。
「ミリアさんに!、明日顔を出すと伝えて!」
ちょっと驚いたが、優しく笑い、シンクは走り去った。
「お姉様?」緊張が伝わったようだ、一つ頷き、手紙を開いた。
゛二人の弟子へ。
フレア=カレン・ダレス様、
シアン・イナバ様。我が国にて、公演を依頼する。つきましては。付き添いにシルビアを伴い。夏休みにでも来てほしい。二人を何時も気にかけていた、姉さんから聞いてるよ。頑張ったね。二人を誇りに思う。オーラル・ハウチューデン゛
シアンがそっと涙を拭い、二人は手を取り合い、嬉し涙を流した。
手早く着替えたシンは、『総合武術大会』決勝が行われる。演舞場の控え室にいた。入学式最後のメインイベントは、シンクとクルミの対戦だ、緊張してないと言えば嘘になる。
「ニイ!」リナを抱えたオリバーさんが、笑みを浮かべ、控え室に入ってきた。
「伯父さん、あれ?伯母さんは」
仕事を終えたのかな?、何時もの作業着ではない。
「ん、王妃様に呼ばれて、衣装直しの手伝いに出ている」
本来伯母さんの仕事では無いが、フレア、シアン姉妹に懇願され。二人のドレスを仕立てたのは、伯母さんらしい、
「オーラルも器用だったが、うちのは特別だな」
のろける伯父さんに、思わず声を出して笑っていた。いつの間にか緊張が解れ。肩の力が抜けていた。
改めて決勝会場である。演舞場を見ると、沢山の人が集まっていて。熱気がごった返していた、間もなく国王夫妻が会場に入られ。王妃様の後ろに控える侍女の中に、伯母さんの姿を見たときは流石に驚き、目を丸くした、
「さあシンク。準備はいいかね?」
バレンタイン教頭に、急ぐよ急かされ。舞台に上がった。
『本日のメインイベントを開催します』 風の魔法によるアナウンスが。会場に流れ。ざわめきが消えた、熱気籠る場内。賭けが許されるようになり。オッズが発表された。僅かにシンク優勢、『学年戦争』での活躍が評価されての事だ、だがシンクは過信しない。あの時と状況が違い過ぎた、ゆるり反対側に立つクルミに、一切の力みがない。泰然自若の自然体を感じて。最初から全力の左手で戦う事を決意した。
『昨年一年生ながら、全て一撃での完勝。撃鉄の剣豪』
自身の身長はありそうな鉄の塊。刃がないから、棍棒のような大剣を片手で、一振り。轟音が風を生み出して、シンの髪を揺らす。凄まじい力を、あの小さな身体は秘めている。それだけで、クルミの恐ろしさを感じた、
『対するは、本年度の全てに参加。『魔法比べ』(コンテスト)3位、と躍進。若き新星シンク・ハウチューデン』
シンクは、得意の棒を獲物に選んでいた。意外そうな顔のクルミに向けて、左手で軽快に棒を操って見せる。二人を残して、バレンタインが舞台から降りて、二人は国王夫妻に一礼した、直ちに武器を構え。相対する。『始め!』
開始の合図で、烈火のスピードで飛び出したのはシンク。一瞬でクルミに迫り。足を払う。
「舐めるな!」
ガキ凄まじい打撃音。受けたクルミの方が、
「グッ……」
凄まじい力を逃がせず。後ろに滑った、驚きのあまり目を剥いたクルミは、眼前に迫るシンクに慌てながら、受けに回る。『学年戦争』の時と逆の展開。まさか自分と真っ向から打ち合い。受けるだけで精一杯になるなど………。初めての経験である。クルミの方が僅かに力量は上だと、みんな誤解させられたことに。今更ながら気付いた、確かに……、剣の力量ならばクルミの方が上だ、しかし『総合武術大会』である。クルミに勝る武器があるなら、シンクは迷わず使う。変幻自在の棒は、何本もあるように錯覚させる。凄まじい技。クルミは何時しか考えるのをやめて、ただひたすら、自分の力を最大限に引き出することに専念していた、
無心……、学んだ技術を駆使して、大剣の利点。盾として、受けに徹した、突然の攻防の変化に、我知らず。シンクは笑みを浮かべ。最早最大の技で、敬意を表す決意をした、
攻撃が突如止み。疲れで、肩で息をしていたクルミは、棒の中心を肩幅に持ち。凄まじい魔力が集まるのを感じた、ゴクリ唾を飲み、冷たい汗が頬を滴る。歯を食い縛り。悲鳴を上げる。身体にむち打ち。ありったけの力を、反撃のため。溜め込む。僅かな勝機があるとしたら、ここでしかない……。シンクの大技がどんなものであれ……、
「受けきって見せる!」
一歩だけ。前に足を動かしたクルミは、一切の動きを見逃さぬよう瞬きを、意思の力で止めた、それが失敗だったと……、最後まで気付かなかったのがクルミの敗因であった、
「無拍子」
背後から聞こえた声に、
「えっ……」
凄まじい打撃が、後から身体を貫いて。意識を失ったクルミを、慌ててバレンタインが確かめ。手を交差する。大歓声が上がった、シンクは歓声に答えながら、手を振り返す。シンクの棒術は、父が作ったオリジナルである。父は世界中の国にある。あらゆる武芸に通じている。だからこそ弱点も理解していた。ファレイナ公国剣士が強いのは、強さを表す魔力に敏感であるからだ。その為自分を過信する。見た物を素直に、額目通りの物だと感じる。虚と実。それが技を極めた。達人で有るほど。目を曇らせる。実を虚にして、虚を実に使う。虚像こそシンクの学んだ技術だ、クルミが全体を見る冷静な目を持ってたら、初撃はかわせた可能性がある。そうなればシンクは、虚を捨て、実の技を使うだけである。
翌朝━━━、
着替えたシンクは、お金を確認してから、職人通りを欠伸混じりに歩き、南側にある。学園に通う途中の屋台で、揚げパンを二個買って、早速一口冷たいお茶で流す。至福の時間である。様々な視線を感じたが、気にする必要は無いだろう、敵意は感じない。もう一つ食べようと手を伸ばしたら、ヒョイ取られた。
「あっ……」
一気に半分食べられた。
「朝から、甘い物かシン」
不機嫌そうに鼻を鳴らしたのは、クルミで、
「先輩酷いよ……」
悲しげな顔で見られて、うっとたじろいだが、仕方なく半分差し出すと嬉しそうに、笑顔になるのだから、起伏の激しさに、拍子抜けした、わざとらしく咳払いして、
「暇なら一緒に、汗を流さないか?」
ほんのり赤くなるクルミ。ちょっと……、かなり不安になるが、下から上目遣いで、答えを待った。
「良いですよ」あっさり了承され、安堵のあまり、可愛らしく小さくガッツポーズしていた、
「行くぞシン!」
急かすクルミに引きずられ。登校するシンクを見かける事が増えたと言う。
エピローグ
━━学園長室。鼻歌混じりにエドナ・カルメン・オードリーはご機嫌である。
「遂に。学年ランキングの改革が出来るわね。これもシンクが入学してくれたお陰ね♪」
蠱惑的に、小指をプックリした唇に当てると、月末の試験終わりから始まる。イベントに意識を向けた。学年ランキングとは、『学年戦争』から年。二回ある。魔導兵を操る訓練に用いた、数ヵ月にもおよぶ学年の部隊内での個人戦で、総合優勝した学生には、卒業後、近衛連隊の入隊試験免除が特典として与えられる。
エドナは新たに創った、傭兵ギルドの参加を、学年ランキングにも画策していた、嵐を作り出すつもりなのだ……、
「本当に。面白い家系ね。ハウチュウデン家って」
静かに、その時を待った……、
シンクの怒涛のように起こる苦労話はこうして、始まりを向かえます。また同じ物語か違う物語で、背徳の魔王でした。




