国王ですが何か?
遂にその時が起こる。
━━失われた大陸。中央大陸が、世界に現れた。
闇色に染まる不気味な何かに包まれた大陸。魔物。モンスターが世界に溢れて、次々に異変が報告された。そして……アレイク王国に、多大な混乱をもたらせた聖騎士ナタク。
プロローグ
世界の中心と呼ばれる海には、巨大な穴が、存在すると言う。
遥か昔━━━。
中央大陸があったと言われる。巨大な穴は、
巨大な口を開け。常に海水が、流れ落ちる。
海水は何処までも流れ落ちる様は、まるで滝のように壮大で、世界で一番美しい光景と言われていた。地下迷宮の人気スポットになっていて、底は存在しないと。ただ闇に落ち続けると言われていた。人々はその海を、デスホールと呼ぶ。
20年前━━、
そして100年以上昔。
大地震があったと、言われている━━。
7日7晩………、
大地は、鳴動を続け。世界各地に。多大な被害をもたらした。
━━当時……大恐慌が起こったと言われていた。
━━その日の早朝。夜明け前のこと……。
小さな地震が、何時までも終わらず。不快に思い、眼りを覚ましたは━━、
あまりに静まる。静寂の中だった……、
魔王ピアンザは、異常な魔力を、足元に感じて、眠気が霧散した。
「ついに……、はじまったか……」
すぐさま重鎮達を、呼び出すため……、廊下に出た途端。大地が、激しく揺れ。立ってるのもままらなくなっていた。
「あなた!」
息を飲むシレーヌ。異変を感じ、妻の見てる方……、
城の外。かなり上空を見ていた。そして見たのは……、
暗雲たちこめる。不気味な、闇の塊である。
「なんだあれは……」我が眼を疑った、
僅か数瞬の瞬きする間に。空は不気味な暗雲に包まれてくのだ。どうにかテラスに出れば、町を一望でき。見渡す限り美しい海が広がっている筈が、海はどす黒く。闇色に染まって行くではないか、
「我が目の前で……、これは一体……」
見る間に、空が暗雲で覆われ。光を喰らうように太陽の光が遮られ。まるで夜に時間が戻るようであった。
「大丈夫か?」
シレーヌがバランスを崩したので、ピアンザが素早く。妻の身体を支えていた。
二人は見る間に変わり果てる世界を、呆然と見ていた……。
━━━中央大陸………、
「馬鹿な……、早すぎる」
━━世界の中心……デスホールがある辺り、ゆっくり、巨大な大陸が、海中から……、まるで浮き上がるように……、浮上していた。
━━異常な光景だった……、
━━━━世界各地で、観測された、様々な異変が、次々に報告された。
━━北大陸、絶滅したと言われた、ケンタウルスが、中央にある草原の裂目から。次々と現れ出し。人々を襲い、命を失う者の報告を受ける。
━━……一方で、
竜の山から、女の鳴き声がすると、近隣の村から知らされ。村出身の竜騎士見習いが、物見に出たと言うが……、
翌日……、若い竜の死骸と、下半身を喰われた、見習いが発見された、傷は、鋭く、猛禽類に啄まれたような痕を残して……、異常事態を重く見た、レオールの宰相レイナは、『竜騎士』と呼ばれる。救国の英雄リブラに、至急調べるよう頼んだ。
━━南大陸。軍国ローレン、
バーロナ将軍の眼前。信じられぬ光景に、我が身の無力さを嘆く……。
「助けて……」
悲鳴を上げる女、
「お母さん」
子供達が、我が国の民が……、目の前で、生きたまま喰われる悪夢。自分の無力にただ。歯噛みしていた、手の大剣ははこぼれ酷く。はぐれワームの体液で、既に切れ味が落ち。剣を振るうも、打撃の鈍器でしかなかった。
「地下に巣くってた、ミミズどもが……なぜ地上に現れた?」
血を吐く呟き。始まりはほんの少し前だった……。朝から小さな地震が、何度も起こり。不気味に思って外に出た。すると世界は暗雲に包まれ。不気味な暗闇が、空に現れた。
━━突然。大地が大きく揺れ。家々を崩し混乱が始まった。大地が悲鳴を上げぽっかり穴が空いた。そう思った瞬間。無数の魔物。はぐれワームと呼ばれる。巨大なミミズが、街中に溢れた。
急な事態に全て後手に回るバーロナは、精鋭部隊を率いて、10以上のはぐれワームを既に狩っていた。だがワームの数は減るどころか増える一方であった、
「なっ、なんだこれは……!」
崩れ落ちる建物………。食欲旺盛なワームは、家を。石畳を……。人を関係なく喰らう、悪夢である。
「ふふふ……ついに始まったね」
「ふふふ……始まったね」バーロナの側に、双子の青年が何時の間にか現れた。
「お前たちは……」
一度アルマンの屋敷で、顔を合わせたことがある。
「まっまさか………」
この双子のせいでは?、あまりにあり得る可能性、怒りが込み上がる。
「ふふふ……僕達なら、そんなことしないよ」
「ふふふ……だって、つまらないじゃないか」
バーロナを見る眼差しは、珍しく苛立ってるように思えた。
「困るよな………」
「困るよね………」
「「この国は、わりと気に入ってるんだよ」ね」
双子のどちらかしゃべってるか、解らないが、敵ではないと、直感した。
「お前は、この辺りの人間を避難させろ」
「ちょっと大きいの使うからね」精悍だが、気弱に映る双子の眼。鋭い光が宿る。バーロナは、この場を、異端児たる双子に任せるか、不安を覚えたが……、住人の避難誘導を指揮するため、走り出した、
━━━元リドラニア、現聖帝の国、
聖騎士ナタクは、聖王の剣の力で、現れし一軍を率いて━━、闇の領域が、この国だけを覆うように、準備してた……、それが項をそうした、
安堵と100年以上前の約束。
━━自分たちが出来なかった。決着の時を、ようやく迎える事が出来る喜びに。身を震わせた。
「我が、騎士団の誉れとせん!」
1人で、王国であり、一軍で、聖王の剣の力を。解き放つ。
西大陸に聖帝の国サウザントはあった、無敵を誇り……白銀の鎧を纏う。獅子が竜を狩る紋章を掲げ。あまりの強さ故に。聖騎士団は恐れられていたと言う……。
白銀に輝く。1000の騎馬兵。
槍を身構える。1000の歩兵。
無限の矢を放つ。1000の弓兵は、整然と白銀の城の城門前に整列して。号令を静かに待った━━。
ナタクは、リドラニア城から溢れでた闇の柱を目に、目を細めた……中から現れた闇の軍勢を前に、ほくそ笑んだ。
━━━ラトワニア神国、
ナターシャ女王の元。大陸全土の異変が……、次々と報告された。
海の交易の街からは、海は黒ずみ、異臭を放ち、魚が浮いているとの報告を始め━━。元リドラニア公国で起こった、異常………、
「本当なの……、本当に現れた…、オー君の言ってた、最悪のシナリオ……」
オーラルが、ラトワニアに、秘密りに訪問した時に語られた……。
本当の理由。
ラトワニアに伝わる。古代の書物の閲覧。聖騎士ナタクが、リドラニアに居を構えた。真実を調べるためだった……、
ナターシャにとってもピアンザは旧友であるが、オーラルに指摘されるまで、考えもしなかった事実。世界を求め各国を暗躍したその理由を知る為であった。
「予想より早かったけど……、準備は整っていますわオーラル」
ナターシャ女王は、凛と表情を引き締め。緊張孕む。一同に命じた……、聖騎士ナタクの救援に向かうと……、
━━━ギル・ジータ王国━━、
エバーソン国王は、直ちに、新たに建造した。新造船。海中船を使って、直ちに調査を命じた。この船こそオーラルが密かに、闇の魔力で汚染された海中であろうと、人々を輸送出来るよう。提案した聖なる船である。
あまりに馬鹿げた方法で作られた船は、ラトワニア神国の神官を密かに招き。聖別された特別な金属だけで作られていた。いまだ試作含め。まだ二艘しか作られていない、「サミュ頼んだよ……」
眼鏡を押し上げ、サミュ・リジルは、緊張で強張る。表情を引き締めた。
「陛下……、どうか御無事で……」
覚悟を決めて。優秀な魔法使い数名と護衛10名含めた。16名の調査隊を結成していた。みな死を覚悟しての行軍になる。自分が……側にいなくて、エバーソンが大丈夫か?、それだけが心配である。
「きっと俺達は、大丈夫だ……」
「……はい」
長年二人は、苦楽を共にしてきた言わば戦友。信頼を込めて、笑顔で見送った。
━━━アレイク王国。重鎮が集まる。会議室。
世界各地、大陸全土から、異変が次々と報告され、人々は騒然となった。
「陛下、救援要請が……」同盟国ファレイナ公国から、急使が訪れ。アレイク王国に救援が求められた。レゾン王は、このような急変に対象出来ず。返答に困窮していた、
━━他国より。窮状はましだが……、この先がまるで見えぬ。
「陛下。オーラル様が帰還なさいました」
「おおそうか!、至急報告をせよと、オーラルを呼べ」
「はっ!」
オーラルこそ。我が国の精神的主柱であり、民が混乱せず。平静を保ち。レゾン王が政務に打ち込めるのもあやつのお陰である。
━━もう数日前になる。
━━近隣の港街に。異変と同時に。海岸線に魔物の群れが現れた。急を有する案件であり、オーラルが出陣してたのだ、
「オーラルよ大義であった。港に被害がなく。町の住民は、安堵しておる。戻ったばかりのそなたを急に呼び出し。あい済まぬが、既に聞き及ぶであろう……、ファレイナ公国からの救援。如何すればよい?」
次々と不穏な、報告がなされ、心労がたたってのことだろう、連日不眠不休での公務。疲労を化粧で誤魔化す苦肉の策。王妃様の優しさか……、
「陛下、それならば好都合ではありませぬか」
「好都合とな?」
「はっ、先だってフロスト騎士団内に、新しく作りました、土竜騎士団、彼等を遣わせましょう」
一年前━━。
アレイク王国を襲った。聖騎士ナタクの襲撃。あまりに多くの命が失われた。国内の改革が余儀なくされその一環が、土竜騎士の待遇改善である。
彼等は、馬の扱いに長け。魔法の腕も一流、長年地下迷宮で魔物と戦っていた。経験豊富な冒険者である。壊滅的だったフロスト騎士団の補佐として引退してた土竜騎士を登用した。それに伴い。国内で土竜の育成に着手して、少ないが土竜の数も増えていた。半年前オーラルに言われ、少数ながら、功を上げた者達を集め。土竜騎士団を併設したのである。
「今は、急を有します。彼等は優秀な冒険者、いざとなればミザイナ女王陛下、ジンベイ国王を逃がす。算段を考え行えましょう」
土竜騎士の有用性は、レゾン王も耳にしている。確かに、今はその提案、有用と言える。
「あいわかった、ファレイナ公国には、土竜騎士団を派遣する。使者にそう伝えようぞ」
先月ついに准将となったオーラルは、リーラ司祭と正式に婚約した。大地の女神アレを信望するアレイ教徒は、婚姻に寛容である。
だが……オーラルの父が、土竜騎士だった為。父の仕事の影響で、母は司祭を辞してたが、
オーラルの昇進に伴い。司祭に、返り咲きを果たしていた。母ララは現在エレーナ大司教の補佐をしている。
「それはそうとオーラル。先程ギル・ジータ王国から、黒衣を通じ情報が寄せられた。彼の国は、特別な船を所有しておるそうな、そこで南大陸に、海路意外の手段持つ我が国に、急を報せるよう様々な情勢が寄せられた。ケイタ筆頭以下、宮廷魔導師連中が、連日調べておる。オーラルよそなたは後人を、オーダイに任せ、至急で済まぬが第1師団を率いて、ラトワニア神国に向かって欲しい、頼めるか?」
ファレイナ公国の問題が、解決した以上、同盟国である。ラトワニア神国の救援要請に、答えねばならない……、
連日の魔物襲撃騒ぎの鎮静化に寝る間を惜しんでの行軍続き、疲れが溜まってたが、泣き言は言えない、
それに………、まだ本当の災厄は、始まってすらいないのだ。静な眼差しを闇に包まれた中央大陸のある方に向け、流石に、見えはしないか……。
「承知しました」
深く一礼して、オーラルはおいとまを告げて、第1師団の駐屯地に向かった。
━━第1師団駐屯地に、馬で戻ったオーラルは、既に補給を済ませ、昼食を取っていた四人の少尉を見付けて、トレイを手に同席したオーラルに、辺りは騒然となるなか、驚く四人に笑顔を向ける。
「みんなご苦労様。明日一番に。ラトワニア神国の救援に向かう事が、正式に決まった」
元リトラニア公国の将兵だったユウト、ロマイヤ両名の顔は、複雑である。
「キブロス分隊は、ドヴィアの救援に、向かうよう申し付ける」
がたり……、驚くキブロスに笑顔を向けて、
「イブロは得難い武将です。住民の退去も考えください、その場合は、ギル・ジータ王国まで、護衛も兼ねるように」
「しっ、しかし……」
オーラルの申し出は、ありがたいが……、現在、アレイク王国の将兵であるキブロスが、そのような勝手をしてよいのか……、オーラルは的確に、キブロスの心情を汲み取りながら、苦笑を浮かべ、
「何か、誤解があるようですねキブロス、俺は、あなた個人のために、これを決定。計画したことでは無いのです。前々からこのような事態が、起きた場合に備え、イブロ、エバーソン国王二人の友と、話し合った結果です。今頃イブロは、住民をまとめ城にある。秘密の抜け道から、近くの山林に潜んでる筈です。キブロス貴方なら、解りますよね?」
オーラルの優しい視線に、貫かれた思いである。心揺さぶる。こじつけをわざと用意してくれたオーラルの優しさ、それ以上にそのような話し合いがなされてたとは、舌を巻いた。
オーラルは敢えて口にしなかったが、連日の異常を報せる報告の中に、ドヴィア国のも混じってた。
━━小国のドヴィアは、食料の多くを輸入に頼ってた。羊飼いが主な産業で、チーズ、毛糸、ワイン等輸出して、外貨を稼いでいた。
━━ドヴィア国の情勢が、知られるに時間が掛かったのは、情報収集に散ってた黒衣の報告が遅れ。商隊がドヴィアに近付けなかった為であった。オーラルはかなり危険な状態であると、わかってはいるが、同盟国のアレイク王国に救援を求められない以上、どうするか国内でも意見が別れていた。
そこでオーラルに一任されてたのだが……、ラトワニア神国の救援に向かうよう、王命である。「流石、最強の運を持つ戦士、良いときに我が国にいる」
これも天の采配だろう、
「無事でいろよイブロ……」
オーラルは、顔を引き締めていた。
━━第1師団、執務室、
アロ補佐官含め、エル、カール中佐、ジン、ロート中尉等、第1師団の主な面々と会議を行う、夕べ遅くまで起きてたかエルは、座ったまま、船を漕いでた。
みんな連日の軍務で、疲れてるようだが、目に強い光があるようで、頼もしく思い、小さく笑んだ。
「まだ本当の災厄は起こってない。よってそれに備えて軍の一部を編成し直す。みんな心得よ。まずエル率いる魔法師団を第5分隊に編入する。代わり、第4分隊は、ドヴィア国の救援に向かうことになった、エルの補佐官にジンが、カールは、第1、第2分隊の統括を、ロートには第3分隊の統括を任せる」
それぞれが自分の役割に、身を引き締めるなか、ジンだけが小さくガッツポーズして、皆から笑いを取る。オーラルは静かに表情を引き締め、大丈夫だと感じ小さく頷いた。
━━━翌未明、第1師団が、ラトワニアに向け。救援に出発する頃……、
新設された土竜騎士団24名。フロスト騎士26名は、南大陸、ファレイナ公国救援に向け出発していた。
━━━南大陸、ファレイナ公国、
領土内全て、それどころか大陸全土が、暗雲たちこめ。本来初夏の陽気なのだが、突如彪が降り注ぎ、家屋に、大きな穴を開けた。
━━そうかと思えば、夕方には目を開けれないほどの烈風が起こり、転倒する事故や、木々を倒し。隣接した、家屋をも倒壊させていた。
誰もが不安を覚えた。ミザイナ女王は、国内での調査をエドワルド公爵に依頼、念のため同盟国であるアレイク王国に、救援を求める使者をたてていた。
━夕刻過ぎ━━、
アレイク王国から、新設された土竜騎士とフロスト騎士の分隊を派遣すると一報が入る。
「いささか少ないな……」
眉を潜めたミザイナだが、使者によると土竜馬車24両もの派遣と知り、成る程と得心した。最悪を考えれば、地下迷宮に逃げ込めるよう。配慮したと憶測できた、
「おそらくオーラル辺りの考えか……」
保険程度の救援要請だったが小さく嬉しそうに微笑む。予想の上をいかれるのは、嬉しい誤算であった。
━━中央大陸が、空に現れてから。世界各地で、魔物の凶暴化が、報じられて、各国は、戦争処ではなくなり、自国の自衛に余念がない。
━━西大陸、パレストア帝国、
内乱が激化していたところでの。異変である。城内の地下には、封印された。冥界に沈む。中央大陸への扉があるため強大な力を持った。魔神と呼ばれる魔物がこちらの世界に現れ。大陸各地で、暴れ回ってると急報が入る。
魔王ピアンザは、連日の会議と対応に苦心して、激務の疲労で顔色を無くしながら、搦め手を用いた、策でどうにか、
魔神の討伐を行っていた、
さらに高まる。アビス界からの魔気━━、
城内に歪みを作り、危険な状態であった………、
新しく、六将となった、トロン・バーン騎士団長、同じくリーロン・カレス、ランバスター・ラロバイン将軍率いる。魔王軍討伐隊は、各地で暴れる。強大な力で、人間を襲う、魔神の討伐に奔走していた。
闇ギルドの長となった、ミューア・サリアンが、城内、城下で、起こる。異変に対処すべく、多忙を極めていた。
そもそもミューアが長を勤める闇ギルドとは、元六将が1人、ダレーク・アートが作った。暗殺者を育てる機関であった。しかしダレークは、王妃シレーヌ、王女リムルの護衛とし追従、全権を若き暗殺の天才ミューアに譲っていた。
━━昨日のこと、どんな船であろうと。航行不能な筈の港に。見たこともない船が現れたと聞き、何者かとピアンザが問えば、
「ギル・ジータ王国の使者と……」
「何だと?」
詳しく聞けば、ギル・ジータ王国には、この事態に備え。特別の船が用意されていたと言うのだ……、
「なんと……、そのような船が」
絶句したピアンザとて製法を聞けば、海中船の有用性は理解出来た。お陰でこの異常事態でも。比較的安全に、航行出来たことも━━。
「それで、ピアンザ様━━」旧友であり。ギル・ジータ王国の宰相となったサミュの提案を聞き。息を飲んで━━。
そして━━。
妻子を東大陸のギル・ジータ王国に、身を寄せる事が決まった。
━━その少し前……。ピアンザは内密に、サミュ・リジルから。全てを聞かされていた。オーラル・ハウチューデン……、
「我が友よ……」
国王連名による。親書を目にして、静かに涙した。
「オーラル様から、後は、任せろだそうです。あの人はアマアマで。とても優しいですよね。私としては、貴方がしたこと……赦すことは出来ません、でもね……シレーヌは、私達の友人ですから」
あれから何年たったのかしら……、眼鏡を押し上げながら吐息を吐いていると、
「サミュ……?」
「ええ~!。もしかしてシレーヌちゃん」
成長して美しくなっていたが、あの日の面影を残した旧友を目に、懐かしく眼を細めていた。
「………」
シレーヌは、場も憚らず。嗚咽を殺してサミュに抱き着いた。
「かあさま……」
心配そうにリムルが、母のドレスの裾を掴んで、見上げていた。そんな妻の姿見れば、辛い気持ちを圧していたのだと思えば、ピアンザは涙を拭い、晴れ晴れとした顔で、「我が、パレストア帝国は、此度の異変終息まで、全ての国々と協力を惜しまん」
ピアンザの名言に、重鎮達の顔から、安堵の笑みが浮かんぶ、
━━サミュ・リジル達調査隊は、海中船を用いてデスホール。海中内の調査他、北大陸のレオール、西大陸のパレストア帝国に赴いていた。
あくまでも一時期と区切り、異変に対処するまで同盟を呼び掛ける役目を担う為である。それはギル・ジータが中立国だからこそ出来た役目であった。
それが……、数年前━━。ただ1人生き長らえ。オーラルから国内の再生を密かに手伝ってもらい、どうせなら我が国の重鎮に迎えたいとの誘いを、オーラルは断っていた。その代わり密かに頼まれたことがある。サミュ・リジルは嘆息を漏らしながら、
『こんな日が、本当に来るなんて……』
嬉しさと同時に、オーラルの底知れぬ力量に。ただ身震いした。
「彼が、敵でなくて本当に良かった……」
これ程の苦難、だけど……、サミュは確信した。
『彼ならば、きっと━━』
━━━北大陸、竜の峰、
リブラは配下の竜騎士、レダ・アソート、プラ・カードラを連れ、竜の山にある。竜の巣に来ていた。
三人が目にしたのは、怯えた竜が固まり、リブラ達に訴え掛けるように鳴く姿であった。
「リブラさん……、何かに見られてる気がします」
流石のレダも普段見せる。わんぱく小僧のような強気が、成りを潜めていた。
リブラ達、三人は竜の峰に入って、沢山の竜の死骸を見てきていた。強靭な竜鱗を引き裂く傷痕から悪臭が……、漂い。白濁した目は、薄く膜を被り、口からダラリ飛びだした舌は、紫色に変色していた、まるで猛毒でも飲んで死んだようだ……。
リブラは竜鱗を引き裂き、猛毒を与えるモンスターに、一つだけ……、心当たりがあった。女のような鳴き声を上げる一方で。嗄れた老人の声で呪いを呟き。強靭な爪は、竜鱗すら切り裂く、さらに、猛毒の蠍の尻尾を持ったモンスター……、
「キメラ……」
ただキメラが、一体だけでこのようにはなるまい、キメラは闇の魔法、死者を操る呪いが使えた筈だ。すると………、ハッと顔を強ばらせ、気付いた。
「レダ、プラ、お前たちは、急ぎ竜を逃がせ!」
慌てるリブラに、二人は神妙に頷き、竜と契約者だけが自分の竜と話す力を得る。他の竜は、竜の契約者を仲間と認識するため、竜騎士の言うことを聞いてくれるのだが……、凄まじい寒気を感じて、リブラは大地と風の防壁を張った。
「あれはいったい……」
顔色を無くしたプラが、慌てて口を押さえていた。凄まじい悪臭。毒のブレスにより、リブラの張った防壁の周りにあった、岩が溶解していた。
「ドラゴンゾンビ!」
竜達が、怯え鳴き、若い竜の一頭が、羽ばたき、逃げ出した。
そして━━断末魔の悲鳴が、竜の巣に響き渡り、残された竜はうち震えた。グチャリ、ドラゴンゾンビの眼前に竜は落ちた。まだ息のある若い竜を、悪意ある光を宿した、ドラゴンゾンビが喰らう、
「うっ……、おえっ……」
凄惨な光景に、レダが吐いていた、このままでは、何れ皆が若い竜のような運命を辿る。リブラは竜の巣の入り口。
人間が入る洞窟とは別に。竜が洞窟に入る。入り口があるのだが……、目を細め見上げると、微かに見てとれた。獅子の身体の魔獣キメラが岩影にいるのも━━。
「ちっ、厄介な場所に隠れおるか」
ここから死角になっていて、キメラを直接狙うのは不可能に近い、狡猾なキメラらしい戦い方である。
ずんずん、獰猛な唸り声を漏らし。死した竜は、竜王に並ぶ知ある竜、古竜だったのだろう。
リブラは、静かに黙祷を捧げ青み掛かった、金属とは思えぬ不思議な剣を手にしていた。
これは竜王の竜鱗で作られた特別な剣である。使い方で竜のブレスすら斬れる力を秘めていた。リブラが展開した魔法の壁は、あれだけの毒ブレスをそう何度も防げそうもない。毒の力があまりにも強く。少しでも吸い込めば命に関わる。このままでは持たない━━。
ならば……、
飛び出したリブラを認め。悪意で、淀んだ金の瞳を細めて、すうっと死した喉が脹らみ。漆黒のブレスを吐き出した、
「リブラさん!」
レダの悲痛な叫び。リブラは魔力を剣に流し込めて。と同時に風の魔法を使い。加速しながら、溜めを作り、一刀両断。ブレスを切り裂いていた。さらに歩を進ませ。隙間を縫うように。竜の死角に滑り込み。
「さらばだ……。知ある竜王よ」
リブラは悲しみ、怒りすら滲ませ。凄まじい破壊力を秘めた斬撃を放つ━━━、
邪悪な呪いごと、かりそめの命すら、一刀両断と……竜を、切り倒していた。
「きゃははは、ドラゴンゾンビやられてやんの」
甲高く、耳障りな声が、辺りに響いていた。バサバサ蝙蝠の翼を羽ばたかせ、現れたのは老婆の顔を歪ませ陰湿な笑みをかたどる姿。間違いなく合成魔獣キメラと呼ばれる。邪悪な生物。
「おまえ人間の癖に、強いみたいだから、わたしのお人形になりなよ。きゃははは、きゃははは、みんなしんじゃえ、きゃははは、きゃははは」
キメラが、歯の無い、老婆の口を開いて、呪いを紡ぎだした。すると周囲に満ちた。生ある者に嫌悪感を与える。凄まじい邪悪な魔力を集め。その力で呪文を唱えた。『闇の光』が放たれるや、リブラを狙う。
「リブラさん!」
プラの悲鳴から、まともに食らったかに見えた。ギュリン何か切ったような清みきった音がして、青み掛かった閃光に、闇の光は真っ正面から斬られて、魔法はリブラの左右に剃れた。
「きゃははは、嘘みたい、ならこれはどうかしら?」
キメラは、コウモリの翼を広げ、宙に浮き、再び呪文を唱え放つ。地の魔法だろう、リブラの周囲に魔力の光が見えた。
「ちっ」
素早く。竜鱗の剣を正眼に構え。足元から、無数に伸びる。岩の槍を、手元を見せず。一瞬で切り裂き、土塊に戻していた。
「きゃはははは、ムカつくよ人間が、だから早くシニなよ!」
キメラは、獅子の爪を振りかぶり、滑空しながら、リブラをなで打った。直前にかわされたと知ると。自慢の蠍の尻尾を、鞭のように使い、リブラの足を払う。リブラは咄嗟に、竜鱗の剣で、尻尾を弾きながら。鋭い毒の針を、紙一重でかわして、どうにか跳び下がっていた。
キメラがリブラに気をとられてる隙に、プラが弓を組み立て、
「リブラさん!」
キメラに向け矢を放つ。援護してくれたお陰で、僅かに息を整える間が得られた。キメラは鬱陶しそうに、爪と尻尾で、矢を落とすのに気を取られてる。
よし今だ!。素早く魔力を練り上げ一気に高めた。魔力の流れを感じ。
「きゃははは、人間何をするつもりだ」
憎悪の目で、怒りを露にしたキメラ。だが遅い━━。
「我は求める。契約者リブラ・ハウチューデンの名に答えよ。大地の竜よ。汝の名は、暴君!」
手を地に着け、魔力を解き放った━━。
━━━リブラの手を中心に、魔法陣が浮かぶ、素早く、魔法陣から離れた瞬間━━、
特徴的な鼻から、魔方陣からつきだして、ついで可愛らしい円らな片目の巨体の土竜が現れた。
「きゃはははは、土竜!?」
キメラの爪の攻撃どころか、毒を一切受け付けない、岩のような皮膚をもつ土竜は、見た目と違い、俊敏に動き、キメラが驚き身を硬くした瞬間。ピョンピョン飛んで、一本が、シャベル程もある爪で、キメラを叩き落とした。
女のような悲鳴を上げるキメラ、尖った岩くれの上に、叩き落とされ、頭蓋を穿う、
ビクン……、
悲鳴が消えた瞬間、身体を震わせ、やがて動かなくなった。
「リブラさん!無事ですか」
レダが慌てながら、リブラの無事を確認して、安堵した。すると邪悪な気配が消えたのに気が付いた。竜達が安心したか、リブラに擦り寄って出てきたのだ。それにつられて幼竜が、可愛らしくきょとんと顔を出た。
徐々に……辺りに漂う、悪意が薄まり、どうにか竜の巣は、守れたようだと安堵した。
━━━東大陸。元リドラニア公国。
王城跡……。
地震が起こって間もなく。東大陸に隠された、もうひとつの封印の扉があった。それは━━アビス世界に沈められた(中央大陸)の入り口であったのだが……、
中央大陸が現れたのはことにより無理やり封印が開き始めたのだ。その為中央大陸にいた数多の魔物、妖魔、怪物が次々と地上に現れていた。
「魔物の軍勢を蹴散らせ!」ただ1人で一軍、ただ1人の王の命に。白銀に輝く、騎馬兵が、一団となり魔物の軍勢に攻め込んで行った。
ナタクは毅然と唇を笑ませた、これこそナタクが求めた決戦の地である。
━━ナタクは、東大陸をラグラドとギラムの二人に内密に旅をした。そして赤の書に書かれた。秘事を読みとき。東大陸で起こる全ての異変を、赤の魔法で各地に楔を打ち込んだ。それが眼前に広がる光景だ。
「構え、放て」
銀光が、雨の如く、群雲のように空を埋め尽くす魔物が、矢に貫かれ、地に次々落ちて行く。血の匂いにつられ、数多の魔物が、喰らいに集まる様は蟻のようであった。
「整列!」騎兵が、うち漏らした、魔物が、みるみる城を覆い隠す勢いだが、闇の力が強ければ強いほど、光輝く━━。
それが太陽神アセイドラが鍛えた。『聖王の剣』の力である。
聖騎士団とは、1人の王の為に存在する。
そして堅牢な城であり。敵を侵略する。最強の軍であるが、それ故王が、城にいるときこそ、最強である。
「砲門開け!」
城の四方、城門の下には、強大な敵を迎え撃つ。特別な砲門がしまわれていた。全8門の砲が、それぞれ王を守るため開いた。狙いは空に集まっている。大型の魔獣の群れ。鋭く睨み。
「てい!」
号令一線。
魔法の砲弾が、次々と放たれ、次々と魔物を燃やし。雷で感電させ、凍らせ、風の刃で刻み、毒の霧で魔物を殺し、殲滅して行く。
城内では、守備兵500が、常に開いてる。城門の入り口。内部に配置した。
「構え。放て!」
城門の上に並ぶ、守備兵500が、備え付けの弩弓を巻き上げ、城門に殺到する。魔物に、銀のクイを、弩弓で放つ、大地に穴を空けながら。巨大なミノタウルス、サイクロプスを縫い付ける。
たった一つの小さな城に、恐れをなして、魔物の軍勢は、ラドラニアの地から逃げようとするが、リドラニア公国に張り巡らした楔と、ラトワニア神国が行っていた、奉る俸神の儀式により。この地は隔離されていた。
力ある何体かの魔物が、結界に力任せの一撃を与えるが、そうは抜けること敵わない。それに……、結界を抜けた先には、ラトワニア神国、アレイク王国の軍勢に、次々と討伐されていった。
「流石……、我が唯一認めた男、聖騎士オーラルよ……」
ナタクは満足そうに微笑しながら、抜き打ちの構え━━、やや前進に構え、抜刀、
満身創痍の魔物が、弾幕から抜け出しナタクに迫ったが、両断され大地に落下。自身の重さと倍加された、重力に押し付けられ、肉片と化した。
━━━ラトワニア神国軍は数万はいると思われる。魔物の群れにおののいた。
「なんと言うことだ!、あのナタクが、これだけの魔物とたった1人で、戦っていると言うのか……」太陽神アセードラの大僧正ルメージは、疲れきった顔をしていた。
身体は二回り小さく痩せ、老人特有のしみが顔に浮かぶが、歯を食い縛り、ナターシャ女王の見言葉が、真実であったと此処にいたり。愕然と理解した。 ナターシャ女王は言った。
『ナタクを助けるのです』
『馬鹿な……』
一度は一笑したが、
「太陽神アセイドラよ。我が前に現れし邪悪な敵を、討ち滅ぼす力を貸し与えたまえ……」
もう何度目になるか、結界に迫る魔物だけを、聖なる魔法で撃退した。
「皆よいな!、何としてもこの地で納めねばならぬ」
『はっ!』
声高に気を引き締めるのは、12神の侍祭、司祭達で、疲労と恐怖で血の気を失いかけていた。このままでは不味い……、ギリギリ歯を食い縛り。今にも膝を着きそうになっていた。
「皆よ!、今こそ━━。顔を上げ、祈りを捧げよ」
蒼神セイラーンの大僧正コウザリアは、恐怖で震えながらも声高に皆を叱咤した。ハッと顔を上げた皆に一つ頷いて。震える手でスタッフを持ち上げ。それでも真っ直ぐ戦場を睨み。毅然と背を伸ばしていた。
「我が神、蒼神セイラーンよ」
祈りを捧げる。
━━あの魔王が六将が1人ナタクの為に、祈りを捧げるのだ。
「お主……」
その姿にルメージは、衝撃を受けていた。今まで自分は何をしていた?、自身の保身ばかり考えて、金と地位を得る手段ばかり考えていた。己の不甲斐なさを━━━。
静かに恥じ入り、ルメージは表情を引き締めて立ち上がり。自らの意思で歩き出した。コウザリアの隣に並び膝を着いて、太陽神アセードラに、ナタクの為に祈りを捧げた。
戸惑い、驚き、見合う、2つの神殿関係者は、お互いの目にある輝きに頷き合い、手を取り合い、二人の大僧正の後ろで、神に奇跡を祈った。
━━その輪が、徐々に広がり、いつの間にか……。12神殿全ての信者が手を取り合い、無心に、神々に祈った。
━━ギル・ジータ王国、ドヴィア国境に近い地に。
第1師団は陣地を敷いていた。その陣形は中央の魔法分隊を守るように。頭上から見ると円形であった。すると突然西側から清廉な強い魔力を感じて、第5分隊の配置確認していた。エル少佐は目を細めて空を伺い。従うジン・ゲルマンに、
「間もなく、大きな、奇跡が起こります。それにより結界が消える可能性が高いです。オーラルに至急知らせて」
「了解です。エル少佐」
直ちに、ジンは兵士数人を捕まえ。前線のカール中佐と本陣のオーラル准将に伝令を持たせ。走らせる。
━━ジンは少女が女性として、突然美しくなる日があるように。愁いを秘めた眼差しを静かに受け、優しく見詰め頷くと。
「ジン、世話を掛けます」
気遣いが素直に嬉しく。前衛にいる。愛する人を、思い浮かべ、小さく嘆息した。
前衛━━━、カール・シタイン中佐は、オーラルの副官として、ロート・ハレス中尉、リマ・ロナベル第1分隊長、ユウト・アルピス第2分隊長を交え。配置と結界が消えてから、どうするかを、説明していた。
「オーラルの話では~、時間は分からぬが必ず。ラトワニア神国側が、神の奇跡を起こす。そうなれば……、魔物の大半は消え去る。しかし同時に結界も消滅する可能性が高い」
軽薄な口調で、何でも無いことのようにカールは言うが、内容はかなり切羽詰まっていた。
「そうなればラトワニア側か、我が軍のいる。この場所に魔物が殺到するよう、細工がしてあるそうだ」
ゴクリ……、妙齢の女性仕官リマ・ロナベルが、手をあげる。
「リマ君~どうしたんだい?」
顔から血の気が失せた顔をしてるリマに。カールは軽く促した。
「その……少佐は、どれくらいの数と、予想してますか?」
初めての戦である。リマが不安を隠せないのも仕方ないことだ。
「ほんの3、4千体だろ」何でもないように、言われて、戦経験のあったリマとユウトは青ざめながら見合う、不安は隠せないようだ。それも仕方ないと嘆息しながら。ロートを見れば肩を竦めていた。だから軽薄な微笑浮かべ安心させるように。
「まあ~それくらいなら、俺とロートの二人で、なんとかなるさ~、でもね~オーラルは、先を考えて第1師団の訓練と考えて、この戦いを選んだって言ったら、信じるか?」
「はあ?」
容量得ない。人をからかうようなカールの物言いに、一瞬訝しみ、リマが眉をしかめて口を開き掛けた瞬間。
「中佐、来ました」
ロートが槍を手に、鋭く睨む先を見て、リマは震えた。真っ赤な血のような目、牙は大きく、大剣のような歯が並び、3首をそれぞれ動かしながら、カール達を認め、涎を落とした。
毛皮は漆黒。巨大な狼であるが、3つ首がそれぞれ、炎、雷、氷のブレスをチロチロさせる化け物は……、
「ケルベロス!」
地獄の番犬と呼ばれる。危険な魔物である。
兵士は総毛立ち。いきなり目の前に現れた強大な魔物に気圧されて……、兵達が浮き足立つ。
「まあ~仕方ないけどね~」
いきなりこれは荷が重いか、ロートと目配せしてから、カールはすたすた身構えもせず。気楽そうにケルベロスに近付いてく、
「ちゅ、中佐……」
浮き足つリマ、ユウトを他所に、カールは素早く補助魔法で、筋力、スピードを強化、魔剣と呼ばれる魔力を帯びたレイピアを抜き、軽薄な笑みを浮かべながら刺突の構えを取る。
ケルベロスとしては、馬鹿な人間を喰らおうと、無造作に噛みついて来た。
「はっ!」
空気を切り裂くバシュって音がしたかと思えば、ケルベロスの頭が一つ粉砕されて、あまりのことに衝撃とショックで、ケルベロスは棒立ちになっていた。
「ふん!」
ロートがいつの間にかケルベロスの脇に周り込み。気合い一閃。
「なっ何あれ……」
数百もの槍を放った?、眼の錯覚━━、そうとしか思えない現象が起こった。二人が見守るなか僅か数秒で、ケルベロスは肉塊と化し、リマ達は呆然と立ち尽くした。
「古参の第1分隊員なら、此くらいはできるさ~」
何事もないようにカールは微笑して二人に告げた。
ロートは一つ頷いて、さっさと槍の手入れをしていた。
「本気なんだ……」ごくりリマは肩の力を抜いて、力なく呟いた。
━━それからも単発的に魔物が、現れたが、ケルベロス程の魔獣ではなく。リマ、ユウト率いる。第1、第2分隊でも何とかなって、少しならず自信を与えた。
「オーラル准将閣下。エル・フィアン少尉より伝令です」
「聞こう」
本陣の大きな天幕で、各部隊からの情報を元にオーラルは、地図に陣営を書いていた。
「はっ!、間もなく奇跡が起こるとのこと」
伝令を聞き。素早く天幕から外に出て、森を挟んだ西側に目を向けていた。
「確かに……」
魔力の高まりが、目で視認出来るほど発光が始まっていた。いつ奇跡が起きても可笑しくない。
「神が降りる……」
目を細めた。
━━それは突然だった。
元リドラニア城があった巨大な穴、その上空にある。暗雲が……、
まるでそこだけ切り取ったように。穴を開けて、太陽が顔を出したのだ……、
そして━━太陽は神々しく輝き。
まるで━━光を膨張させるように、徐々に熱を集めて……、
━━瞬く間に。分厚い雲を蒸発させていく━━。
凄まじい高熱を発して、膨大な光が、大地に降り注いだ。
誰しも。あまりの眩しさに、手で顔を庇いながら━━━。
聖なる光の柱が、大地を焼く様を見た聖職者は後に語る。巨大な鉄槌を落とす神の姿を見たと。
━━また遥か西大陸からも光の閃光は見えたと言われた
神の奇跡は━━。神の奇跡は、広大な大地を焦土と化したのだ。
━━あまりに凄まじい神の奇跡を目にして、誰しも言葉を失っていた。
『聖王の剣』の力に、守られてるナタクは、
その目でしかと見た━━。
太陽神アセードラが、巨大な鉄槌を放つ姿を━━。
「始まる。ついに始まるのだ……、赤の民の復讐が……」
━━デスホール上空、暗黒色の球体に包まれ浮かぶ中央大陸は、
アビス界の魔気を纏い。大気を汚染して、生物を殺してた……
かつて………、
栄華を誇った、中央大陸には、赤の民の都があった………。
古代の民とは……、神々が最初に創った自らの分身と言われていた。祖神と呼ばれる四柱の神々。
太陽神アセードラが、赤の民を造り、
蒼神セイラーンは、黒の民を造り、
緑神ロレンブラは、緑の民を造り、
海神プラトーンは、白の民を造った、
━━古代の民にはそれぞれ役割が与えられたと言う。神々の長であった、太陽神アセードラは、赤の民に。この世界の統治を命じた。
赤の民の王は、世界を統治するため。中央大陸に巨大な都市を造りあげ。四つの民は、神々の命を果たすため動き始めた。
白の民は、新たに生まれた命を大陸全土に放っていた。彼等の命は、新たな命の生態と管理であった。やがて自分たちに似せた人間を、労働力として、他の大陸。海底、空に都市を建設した。
100年━━長き時で、増えた人間に、4つの大陸の統治を任せた━━。
白の民は、海中都市に移り住み。人間の管理と、産み出された生命のいく末を見る。
黒の民は西大陸で、国を起こした。
緑の民は、人間の国に、隠れ住みその力で。人間から崇められていた。
赤の民は、統治者として、新たな都を築き。巨大な城を建造した。そして数年に一度。人間のリーダー達を招き。赤の王に報告を行う会談を開いた。
赤の民とは生まれつき魔力が高く。強力な魔法使いであった、生まれた瞬間から階級が、定められていた種族である。
数百年の歳月………、
当初従順であった人間は、300年の月日で、変質して行った……、自我と、白の民は名付けたが……、人間の荒廃は目にあまる。人間は勝手に国を作り出して、国同士で、争うようになっていった……、苦悩した赤の民の王は、中央大陸に、再び人間のリーダー達を呼び出した。
だが……、
あろうことか逆らい、赤の民を襲った。このよう性質に嫌気がさした赤の王は、人間に罰を与えるべく、天変地異を引き起こし、多くの人間を減らした……、
そう……、この時。赤の民は、狂いだしたのやもしれない、破壊活動が、引き金となり、少しでも逆らう人間を、殺すのを躊躇わなくなっていった……、
━━━歪みは、意見を述べる。白の民をも嫌悪した赤の民は、禁を犯した、あろうことか白の民の女王を人間に殺させたのである。騒然とした白の民は、黒の民に助けを求めた、黒の民の王は、魔王と呼ばれた知恵者であり、
緑の民の力……、神との交信能力を使い。眠りについてた神々に、伺いをたてることにした。
そして……、我が子と言える。白の女王を、殺された海王神プラトーンは怒り。中央大陸を、地下に落とした、これにより中央大陸は失われ、巨大な穴を残すのみとなった。
だがいかに自分が、作り出してた赤の民が、悪かったとしても、太陽神アセードラは、海王神プラトーンを恨み、怨差の言葉が、地に、落ちた、太陽神の怨差に、闇が生まれた。誰にも気付かれず。少しずつ中央大陸に、広がっていた。
赤の民は、神々の仕打ちを怨み、地下に、迷宮を造り出して、広大な空間を築いた。さらに力ある土竜を作り出して、いつしか裏切った、他の古代の民を殺すために、力を蓄えることにしたのだ。そこで魔物と呼ばれる。邪悪な生物を生み出して、世界中に放った、
世界は混乱した、赤の民と、魔物の軍勢に、恐怖したのだ。
眠りから覚めた神々は、蒼神セイラーンが、二柱の仲を取り持ち、赤の民の暴走を諌めるように進言した、アセードラは自分の過ちを認め。海王神プラトーンに、許しをこうて、二柱の神は、手を取ると新たなる神が生まれた……、幼い狂乱の女神の笑みに、驚く。蒼神セイラーンは二柱の神の上に、手を置くと、大地の女神アレが生まれた。緑神ロレンブラが、追従して三柱の神の上に手を置くと、双子の女神、泉と森の女神が生まれた、八柱の神々は、力を合わせ、中央大陸を、新しく生まれた闇に落とした。
そして……、闇を閉じた、
今から420年前……。悠久の時。神々ですら、赤の民のことを忘れ去っていた。
大地の鳴動……、感じたこともない。闇の力、中央大陸のあった大穴から、吹き出した世界は、闇に覆われ。死者の神アレビス、闇の女神カーレルが現臨していた。
世界に戻った赤の民だが、変わり果てた姿であり魔神を引き連れていた。現れた、神々は戦き、供に戦うことを人間や古代の民に命じた。
闇の軍勢。神々の軍勢は、大陸全土にて、戦いを始めた。
戦いは激しくなり多くの命を失うが、新たな神が生まれ炎、風、月、光の神々を参戦させた。
壮大な神々の戦が続き、多くの血が流れ、神々ですら滅んだ━━、
━━苦悩した太陽神アセードラは、三柱の始まりの神々と共に、自身の力を与えた武器を作り出して、古代の民達に与えた。
今から220年前、死者の神アレビスを封じることに成功した、蒼神セイラーンだが、多くの力を失い、世界に留まる事が出来なくなった。黒の民の長魔王に後を託した。
魔王は、アビスと名付けた、闇の世界とこの世界を隔てる力を緑神ロレンブラに頼み。同じく世界に留まる力を失ったロレンブラは、四大陸に残した扉の監視を魔王に頼み消え失せた。
海王神プラトーンは、闇の女神カーレルを殺したが力を使い果たし、白の幼い女王に世界の監視を頼み消え失せた。
太陽神アセードラは残された若い神々に、後を託し再び眠りについた。
━━今から140年前。地下迷宮に、僅かに残った赤の民の街で、赤の民と人間のハーフの少年が、元気に育ち、やがて旅に出る。
地上に出た少年は、色んな国を見ては、無意味に争う人間の姿を見ては悲しんでいた。ある時……東大陸で、白の民と人間のハーフである。少年と、出会った━━━、
白の民と人間のハーフの少年。名をアレクと言い、赤の民と人間のハーフの少年は、ナタクと言った……、
━━━第4分隊率いるキブロスは、歩く先から。不安に胆を押し潰されそうになっていた、いくら急いても進軍の足は変わらない。どうしてもドヴィア国境を迂回する遠回りゆえに余計そう感じてしまうのだ。数日後にようやく領内に入って。少しだけ気持ちが柔んだ。
ドヴィア領は、大小2つの国境の町を抜けた山間の窪地にある。
━━小さな城を、囲むように、街は作られており、西側にある、山間の川から、生活用水として引き入れて、水が町を巡るような造りである。そのため地下には用水路が通っており。秘密の通路が点在していた。
用水路の中に松明の明かりが揺れていた。ややくたびれた様子だがイブロは、無事に民を避難させていた。
「団長!、国王一家、セシル様、セレナ様は無事、抜け穴から森に逃げ込みました」
「そうかご苦労!、疲れてるところ済まんが、怪我人の輸送を手伝って貰えるか?」
「ハッ了解しました」
ようやく嬉しい報告を受け。虫歯も逃げ出すような歯を煌めかせた。
━━異変は、川から起こる………。
世界中の空が、厚い雲に覆われた日から、徐々に可笑しくなり始めた。
川の水は濁り、異臭を放ち始めた。山から大量の動物やモンスターの死骸が流れてきたのは、間もなくのことである。
━━王は直ちに調査隊を選別して向かわせると同時に、各国と連絡すべく、魔法使いに依頼したが、何らかの力で、遮断されてると聞き、腰を浮かした。
━━イブロはその時思い出す。以前よりオーラルから聞かされた異変について、聞かされていたこと思い出していた。
何かあった場合、どうにもならなければ、隣国ギル・ジータ王国を頼れと……、
「陛下……、お話が」
父と幼なじみの国王は、イブロの悩む顔を見て何かあると察して、直ぐ様人払いして、二人で話す機会を与えてくれた。
「実は……」
イブロは隠さず。ラトワニア神国でオーラルと会ってたこと。内密に注意を受けてたことを伝えた━━、
「魔王の真実なる狙い?、それがこの異変と関係あると申すか?」
「恐らくは……、それから最悪ギル・ジータを頼れと……、既に話は済ませてあると言われました……、今の今まですっかり忘れており。陛下の耳に、入れるのが遅れました」
神妙な表情で深く一礼していた。相も変わらず生真面目なイブロを。苦笑しながらそれは仕方あるまい、1人ごちる。ふっと今は国を離れたイブロの父で、幼馴染みの悪友キブロスの顔が思い浮かぶ、最強の運を持った戦士か……。ゾクリ……、その考えに及び、
まさか……。
有り得るだろうか?自問自答する。
「失礼します、陛下、大変です!」
古参の兵士が、血相変えて、入って来た。
二人は見合い、兵士の報告を聞き、血の気を失った。
「何だと川から、アンデットじゃと!」
同時に、見合い、二人は顔をしかめた━━、
町の水源である。山間の川の上流には、リドラニアに通じる古い坑道があるのだ。アンデットはそこに集まり、残ってた可能性がある。
「申し上げます!、アンデットに、恐れをなして、恐慌したゴブリンの群れが、街中で、暴れております」
「なんと………」
言葉を失い、腰を浮かせる国王に、陣頭指揮をするためおいとまを告げて、現場に急いだ。
━━まさに地獄絵図。アンデットに襲われる街の住人。守ろうと剣を持つ住人を、ゴブリンが襲い、街中で略奪を始める始末。
「ドヴィア騎士団諸君!、我らが、民を守り、魔物を駆逐する」
「おう!」イブロを先頭に、怒涛の駆逐作業が、行われる。
その頃……、
アンデットが、巣くい、闊歩してた、古い坑道では━━。
鳴動が、長く続いたため。坑道の最奥は崩れ。大きな穴を穿った………、あまりに大きな穴は地下迷宮まで届き。中から不気味な破砕音が、響き渡る。
そして巨大な、黒い岩のような肌、岩をも砕く、ドリルのように校内に、びっしり生えた牙を、貪欲に開けて、はぐれワームの中でもさらに貪欲なキングワームは、新鮮な肉の匂いを感知した、
グアアアア!、
長き時を眠りに費やし。貪欲な食と言う単純な欲望に。身をくねらせ。世界を食い尽くす勢いで、岩盤を食い破りながら、坑道を抜け。ドヴィア国の城下に、迫りつつあった……、
イブロの指揮の元。ゴブリンとアンデットの討伐を終えて、ようやく一息ついてた騎士団に。急報が入ったのは間もなくのこと━━、坑道近くにある。高台の見張り台からの報告に絶句した。
「……なっ……」
愕然と顔を青ざめさせ。歯を食い縛り、顔を引き締めて、
「直ちに王族、民を避難させる!」
他に、手段がない……。イブロは苦渋の決断をした。
━━直ちに。避難を報せる鐘楼が、街中に鳴らされて。民は訳も解らず。少量の荷物手に外に出て集まる。顔には不安を隠しきれない民を、騎士団が先導して、下水道に下ろす。
イブロは、騎士団の勇者を集め、門を堅く閉ざし。自身は城門に上がり、森を破壊しながら迫る。巨大なワームの姿を目視した。
「デカイ……」
その巨体は、古き森の巨木を雄に超えていた。馬車等ひと飲みに出来る程である━━。
王に許しを得て。秘蔵の巻き式石弓を引っ張り出したが、通用するか疑問を覚えながら、少なくとも時間を稼がねばならない。イブロは、不安を殺し笑みすら浮かべ、配下の兵を一瞥し。白い歯を煌めかせながら嘯く、
「あれを倒したら、王に、酒をたかるぞ」不敵に笑い。生き抜くと決意してるイブロに、異常事態に飲まれかけてた将兵は、思わず笑い。
「高い酒がいいですな~」
古参の副官は、イブロの軽口に追従した。
「俺は、活躍を話して、今度こそ……」
鼻息荒く、若い将兵には、意中の相手がいるのか、顔を赤くしていた。
「オーラル生きて、お前の元に……」
友たるオーラルの最悪のシナリオ━━。
━━半年前になるか、ギル・ジータ国王に招かれ。訪問したことがある。その時。特殊な船を建造する。エバーソンと手傷を負ったオーラルから、最悪のシナリオについて、聞かされていた。
あのオーラルが、血迷ったかと、怪訝に思って、仕方なく了承した。国王にはああ言ったが、ラトワニアの地でと言うことに固く口止めされていた。
「それが本当に役にたつ日が、本当に来るとはな……」
自嘲気味に、嘆息しながら、迫る。巨大なワームを見下ろして、
「滑車を巻き上げろ!!」
恐らく城門はもたない。城門に上がった将兵は弓兵ばかりで、火矢を使うため、篝火が、等間隔に兵の間に置かれ、弓兵は、矢じりに巻き付かれた布を油坪に浸して、固唾をのんで、号令を待った。
「火付け」
後僅かで、森を抜ける。矢が届く範囲に入る。
「構え!」
副官の号令。矢をつがえ。弓を引く。
息が、詰まる。緊張感………。
「てい!」弧を描き、白煙の軌跡を見詰め、イブロは眼を細める。
━━━━━あまりに変わり果てた街を見て……、キブロスは、言葉を失っていた。
国を民を守る。堅牢な城門は崩れ落ち……。
街中破壊された様は。巨人が暴れたかのようである。舗装された通りの石畳が抉られ大穴を開け、街の中央までそれが続き。壊れた巻き上げ式の石弓の周囲には、べったりと何らかの血肉が散乱して、凄まじい悪臭を放つため顔をしかめていた。
「これほどとは……、まさか既に……」
現実を見て、愕然と立ち尽くした……、どうにかキブロスは配下に捜索を命じた。自信二個小隊を従え、気が急きながら、心当たりあるありとあらゆる場所探し回った。
「なぜだ……、なぜ死体が無いのだ?」
だがようと死体。生存者すら見付からず。焦りばかりが増長していた。
━━やがて探索は、国の中央に及び。前国王の銅像がある。広間に来て、言葉を失った。
「なっ、なんじゃこの化け物は……」
見たことも聞いたこともない。砦ほどはある巨大なワームが……、
頭を大剣で割られ、絶命していた。
あまりの巨体ゆえ、辺りの石畳はメクレ上がり。近くにある商家は、押し潰され、あまりの光景ゆえにゴクリ……、唾を飲みこんでいた。
改めて、災害の酷さに、胆を冷やした。
「ん?、あの剣は…………」
柄に見覚えがあった。
「あれは確か……セシルが、愚息に……」
プレゼントした物だと気付いて。ハッと我に返った。ここに来てキブロスはオーラルの言葉を思い出していた。
「下水じゃ!、下水の入り口を探せ」
部下にようやくらしい姿を見せ。いつの間にか、不安と迷いはなくなっていた。
程なく破壊された、家屋の下にあった、無事な下水道入り口を発見して、第4分隊は、探索に奔走してる頃━━。
━━━アレイク王国。沿岸の街。
先だって魔物の襲撃があった港町では━━、
魔物の遺骸の処理のため。オーダイ准将率いたガイロン重騎士団による回収作業が、行われていた。未だ海面には、無数の魔物の死骸が、波間にたゆむ……。厳しい顔をして、ヴァレ・オーダイ将軍は、くすんだ色の弓を袈裟懸けに、無造作に引っ掛け。配下の作業を見ていた、漁師の使う船を徴収して、魔物の死骸を引き上げさせたあと。念のため魔法使いや学者に、魔物の死骸を調べさせたのだが……、
困ったことに魔物の死骸は、時間か経つと。人間に有害な毒を吐き出すことが分かった。さらに怪我を負った兵は魔物の毒による感染症が、問題になっていて。放置するには危険と。集めた魔物の死骸は、魔法の結界内で焼くことを決定していた。
「やれやれ、忙しくなりそうじゃの~」
ぼやきながらも双眼は、暗い暗雲に包まれた大陸を見ていた。
「ん?、あれは……」
眉をしかめ鋭く目を細めていた。
暗雲に包まれた巨大な大陸から、無数の黒い影が、飛び立つのを見ていた。その距離町から50~70ノワール(キロ)は離れていたが、その姿……、翼を生やした、人間のようなフォルムの、何か……、
「面倒じゃな、一つ落としとくかの~」
嘆息して、肩に掛けていた弓を手に。素早く弓を引き絞ると、矢をつがえていないのに。不思議なことに、放つと矢が、現れた。
「問題あるまい………」この弓の力に、距離は関係ないのだから……、
━━風切り音の後、時間差で、一体を撃ち落としたオーダイは、
「よしよし。とりあえず拾っておくか」
海にひょいと踏み出して、平地と変わらぬ速さで、走り出していた。
みるみる町から離れて疾走するオーダイの足元は、一切海の波に。触れることなく。僅かに、宙を浮いていた。
オーダイに魔法は使えない。宙を浮いたり。気配を消す方法は、袈裟懸けにした弓が、教えてくれた弓の力である。
この不思議な弓を手にしたのは、オーダイがまだ10代の若かりし頃。まだ駆け出しの猟師だった時である。
━━あの日は、朝から体調が優れず。妙な夢を見て、若さから、甘く見たオーダイは、山に入って行った……、
山の天気は、変わりやすく、春先の季節だが、その年━━。寒波が、妙に長く続いた。
「こいつは参った……」突如降りだした雨に、体温が徐々に奪われ……。頭がくらくら。意識が朦朧として、足を滑らせた━━。
「くっ……」
何とか岩に手がかかり一瞬落下が止まるも。全く身体に力が入らず。
その時……はっきりと死を意識した瞬間。意識を失っていた━━━、
━━次に目覚めた、オーダイは、不思議な場所で、眼を覚ました………、
見たことも。聞いたこともない。それは幻想的な風景で、森は極彩色な木々に溢れたそれは美しい場所だった。
木々は色鮮やかな葉を繁らせ。豊かな土壌からか、見たこともない実を、たわわに実らせているではないか。重みで、頭を垂れさせていた、
「………んぐ……」
甘く香しい香りに。無性に喉の渇きを覚えた。迷いつつ一つもいで。むさぶるように。果物を食べに食べた……。
━━フッと我に返ると……、不思議なことに気が付いた。あれほど全身が澱んだような疲労感が、一切消え失せていた。それどころか……身体の内から、力が沸いてくるようである。
「ん?」
誰かに呼ばれた気がして、オーダイがそちらを見ると、一羽の小鳥が、極彩色の翼を、小刻みに動かして、滑空してしながら、オーダイと目があった。小さく頭を傾け。不思議そうな。眼差しをオーダイに向けていた。
「お前か?」
「チチチチ」
まるで、返事したようなタイミングで小鳥は囀ずった。思わず楽しい気持ちが沸き上がり。微笑していた。
「チチチチ?、チチチチ」
人間くさい仕草の小鳥を見てると、あれ?と疑問が浮かぶ。
「微かだが……、お前の伝えたいことが、わかる気がする。俺はオーダイ、猟師を生業にしてる」
「チチチチ、チチチチ?」
何となく、小鳥は、不安そうにしてる気がして、
「クスクスそんな小さくて綺麗な君を、狙ったりしないよ」
「チチチチ、チチチチ♪」
安堵した小鳥は、オーダイの肩に降りて羽を休めてくれた。何だか嬉しくなり気安く手を差し出しすと。手の平に乗っては首を傾げる。まるでどうしたんだい?。心配された気がした。
「俺は多分……。この上。崖から落ちたんだと思う……」
「チチチチ?、チチチチ」やはり、この小鳥は……、オーダイの言葉を理解してるか、自分がおかしくなったかのどちらかだ……、しばし考えるように、首を傾げてたオーダイに苛立ってか、
「チチチチ!」
再び手より飛び立ち。滑空しなから、まるで促すように、オーダイの前を、飛び回りながら、 少し先に進んでは、オーダイの方を見て、首を傾げる。
「もしかして?……、この森を、案内してくれるのかい?」
ここは━━━不思議な場所だった………、
長年この山の麓にある。集落に住んでいるが、こんな沢山の果物が実る森があるなんて、噂すら聞いたことがない。何処までも続く見たこともない木々………、考えただけで途方にくれた。夢を見たか?、頬をつねるが、
「痛い………」
「チチチチ♪」
`正解だよ~´
そう言われた気がして、クスリ思わず笑みが浮かび、重い腰を上げた。
━━小鳥に誘導されるまま。森を歩くことしばらくして、開けた場所に出た。
「ほう………、これは……」
感嘆の吐息を漏らした。一枚の絵画ですら。これ程美しい風景画はあるまい。もっとも学のない自分が、この先絵画など見る機会などあるまいが………、
南大陸で、春に咲くと言われる桜にとても似た。ピンク色の大振りな花を枝に咲かせ。緩やかな優しい風に枝が揺れる。ふわり花弁がゆらゆら風に弄ばれながら、住み渡る空を映した、美しい泉を見付けた。
小さな泉の前に。女神像が、設置されていて、女神は一本の美しい弓を、抱えていた。
「光の女神レイザ様?」
オーダイの呟きに、驚いた小鳥は、滑空しながら、知ってるの?とばかりに、首を傾げる。
「ああ……、昨夜夢を見てね……」
気恥ずかしく思いながら。昨夜見た夢を語る。
━━オーダイは前日から風邪を拗らせ。高熱を出し寝込んでいた……、あれが恥ずかしながら、夢であるか、それとも幻想であるか、未だに判断出来ていない。
━━朦朧とした意識の中、流れる白銀の髪をなびかせ。戦装飾に身を包ませる。戦乙女と呼ばれる。光の女神レイザが、オーダイの枕元に現れ。
『オーダイ……ソナタには類い稀な優れた能力がある。我が子を救ってくれたソナタに……、我と同じ千里を見る目と、優れた武器を与えよう……』
と告げられたのだ。そんな夢を見ては……、無理もしたくる。照れ臭そうに笑うオーダイに、呆れたようひと鳴きして、女神レイザの像に降り立ち。小鳥は、
「チチチチ」
喉が乾いてるなら、今の内に……、そう言われた気がして、有り難く美しい泉から。両手で水を掬い。冷たい水を一口。
「美味い……、四肢に、染み渡るようだ……」
女神レイザに、感謝の言葉を祈る。
ドサリ。
重い音がして、傍らの女神レイザの像を見ると、足元に弓が落ちていた。
「これは一体?」
どうしたことかと、弓を拾いつつ、女神像を見上げたオーダイはギョッと目を剥いた。石像の女神が一つ頷き、
『ソナタが助けた我が子が認めた、この武器を与える』
昨夜聞いた。女神レイザの声が聞こえた。
「夢か?、幻を見たのか……」
『チチチチ』
頭の中。突如小鳥の鳴き声がした……、大丈夫と言われてる気がして、オーダイは立ち上がり、辺りをキョロキョロ見渡したが、小鳥は消えていた。急に心配になった……、あいつはとても小さいのだ。
「おーい!、小鳥や何処にいるのだ」
短い間とはいえ、オーダイを気遣い。泉まで案内してくれた、小さな友人を探す。
『チチチチ、チチチチ!』
`ここだよ。´
そう言われた気がして、手にした弓を見ると……、中央に美しい銀の弓のポインターに小鳥が、翼を広げてる精緻な装飾品を、驚きの眼で見つめた。目には青い宝石が、淡く光を発していた、間違いない……、
「お前なのか?」
『チチチチ♪』
小鳥の歌うような、優しい鳴き声に。オーダイはストンと理解した。数日前……、この山の森を散策している時だった。古い大蜘蛛の巣に捕らわれてた。小鳥を助けたことを思い出したのだ。小さく笑みを浮かべ、
「俺と一緒に行こうね」小鳥の嬉しそうな、鳴き声が、オーダイの頭に響いた。
━━━目覚めたオーダイは、辺りを見回し。今のが夢かと首を傾げた。見上げればどうやら崖から落ちたが、そこがたまたま木々の吹きだまりだったようで、沢山の葉がクッションになって助かったようだ……。
「夢か?、」
立ち上がろうとして、右手に何か握ってると気が付いた。
「この弓は……」
━━不思議な体験と、美しい銀弓を手にしてから……、オーダイの運命は一変した。
森や山に入ると今までは何か起こるか、直感で察知する能力に長けていた。その能力で危険なモンスターを倒したのは一度や二度ではなかった。
しかしあれから……、森や山にいるだけで自分が欲しい獲物、薬の材料が、何処にあるのかが探さなくても分かるようになっていた……。
オーダイが少年から青年になる頃には、山をどんなスピードで駆け巡り。崩れやすい山肌すら身軽に走り抜ける敏捷性と強靭な肉体を得ていたオーダイは、数年後には……自分の身体より大きな獲物を狩り、魔獣すら倒してしまう凄腕の猟師と知られるようになっていた。
その頃にはオーダイの凄まじい腕前は、近隣の集落、村、町まで、知られて、噂が広がっていた……、
オーダイはその年、一つ下の気立ての良い女性と結婚していて、翌年近隣の開拓村に越していた。レゾン王が王位を継いだ年であった。
━━それこそがオーダイの新たな転機であった。
若い夫婦が移り住んだ翌年。開拓村の近隣まで、レゾン王が、視察に訪れた時のこと━━。
なぜこんな時期に。辺境にある集落を巡り、わざわざレゾン王が視察に訪れたか……、それも僅か数名の近衛兵を護衛にして……、
……無論当時のオーダイは知るよしもなかった。
腕の良かったオーダイは人柄もよく。村の顔役となっていて、僅か一年とせずに開拓村は、沢山の住人が移住してきていた。
それもオーダイ他沢山の腕のよい猟師が村に移住していて、畑を荒らすモンスターの驚異を無くしていたことが大きく。豊かな広大な土地を開拓した村は、沢山の食料を作り出す畑を作るため人手を求めた。一方で豊かな生活を求めて、移住する若者が増えたことで。瞬く間に発展していく開拓村。噂を聞いたレゾン王は、どのような経緯で発展してるのか、興味をいた。
後日僅かな護衛と供にレゾン王は、開拓村を訪問して、村長から詳しい話を聞くため家を尋ねていた。
「ほ~う乱獲を禁じたとな?」
予想外な説明を、訝しげに思うていた。オーダイ達猟師達は、危険なモンスターを駆逐する一方で、動物を狩り過ぎないよう制限していること。人間と共存出来る環境を整えたことと説明を受けたが、いまいち実感が持てない。
「済まないが……」
猟師達が、普段行う仕事を実際見たいとおっしゃられた。ならばと……、森や山を熟知し。腕前からもオーダイ以外あるまいと、村長に頼まれ。王を山と森に案内することになった……。
「陛下……、何分と学のない身ですが、私で分かることなら、何でもお聞き下さい」
「うむ、そなたの仕事を見たいが、良いかな?」「はっ、そんなことならば……」
その日の内に。レゾン王はオーダイの飾らなくも、然り気無い細やかな気遣いに感銘を受け。
「オーダイよ!、我が客として、一度王宮に遊びに来るがよい、いいな?」
都を訪れるよう申し付けた。
「はあ~、ありがとうございます」
多分冗談だろうと、安請け合いしたのだが……。
━━数日後。レゾン王から、正式に招かれ馬車まで遣わされたので、戸惑いながら妻と王都カウレーンに向か向かうことになった。
美しい町並み、美しく着飾る女性達、活気ある大きな通り。見るもの全て圧倒されていた。
さらに見たこともない巨大な城を前に。場違いだと首を振っていた。不安そうな顔の妻を連れ。城の兵に案内されるまま、王と謁見が許された。
さらに王は、歓待して、恐縮するオーダイを夕食に誘い、レゾン王自らホストを勤める熱の入れようで、国の重鎮、有力貴族にまで、オーダイを紹介していた。こうなると皆。王の悪ふざけと噂したのであった。
夕食会が終わり。僅かな側近。重鎮を残し。その場にオーダイを同席させ。突然王は言った。
「のう~オーダイ。世の側近にならぬか?」突然の申し出。酒の席でもあり。重鎮達は、冗談とひとしきり笑いが起こる。王はしたり顔で、一同を見ながら、
「世は、本気である」
「おっ王よ。いささか興が、過ぎまするぞ!」
王の友人であり、新任の准将となった、ギルバート・ガイロンが、たしなめるも辺りは。ざわざわ驚きと不振な目が、オーダイにまで向けられてしまい、座り心地の悪い思いをした。困惑を隠せないオーダイに、王は優しい眼差しを送りながら、改めて一同を見渡し。皆に語りかけた。
「先だって、我が視察に出たのは知っておるな?」
一部の重鎮達に知らせてあるが、レゾン王とエトワール家のレイダ嬢の婚約が、発表されて間もない頃であり。エトワール家の権力が、増すことを懸念した貴族連中が、レゾン王の暗殺を画策してると、黒衣の調べで、明らかになっていた。
そこで……、何者が暗殺を企てるのか、調べるため罠を張ることになった。それが視察の目的であった。王の護衛とは別に、黒衣の中でも手練れが護衛を張らせその時を待ったが……、
━━不思議と、一度として暗殺者が、現れない………、
これはおかしいと、不信に思い。注意深く、村人ですら疑って見ていた。すると1人おかしな行動をするオーダイに気付いた━━、
そもそもが可笑しかったのだ。どれ程凄腕の猟師とは言え。矢筒すら持ち歩かず。王の前に見事な牡鹿。猪。鳥。兎を持ちかえって来たことが、
オーダイが、ほんの僅かな時間。森の横道に入っては、獲物や森の恵みを手に戻る。それは別段不思議な事ではないと、重鎮は首を傾げていた。
オーダイは王の意味ありげな眼差しに。ようやく思い出していた。
「あれは、やはり王を守る者達だったか……」
微かな呟きゆえ。誰の耳にも入らなかったが、王はさらに続けた。
あの数日の間。王に殺気を放つ、複数の人間に気が付いていた。村長に世話を頼まれた以上。捨て置くにはいかない。だから仕方なく森に入った僅かな時で、排斥していたのだが……、苦笑を滲ませるオーダイをしてやったり。楽しそうに目を細め見ていた。
「世は見ていた、一度。弓を構える姿を……、その方の弓は、特別な力をもつ。魔法の弓であるな?」
思量深いレゾン王の思惑に、肩を竦めていた。
「やはりな……、そうでなければ。あの数日のこと納得できぬ」
レゾン王の呟きに、ようやく理解したオーダイを。其ほどの人物かと、笑みを深めていた。
「よって我は、オーダイの功績に応え。側近にすると決めたのだ」
どうだと言わんばかりの王に。
「陛下……、別段その者が、功績を上げたとも思えませぬが?」
ギルバート・ガイロン大佐は、意味が分からず困惑を浮かべていた。
「では聞くがギルバート、何故暗殺者が現れなかったか、わかったのか?」
そのように問われても。わからぬゆえ。
「理由を。お聞かせ下さい陛下」
一同に代わり、説明を求めた。それこそがレゾン王の狙いであった。皆に納得させるには正しく。オーダイの力量を知らせる必要があった。
「世を狙う暗殺者は、確かにいたのだギルバートよ。あの視察の数日間にな……」
ザワリ……、驚愕を顕にしていた。
「あの数日の間━━世を狙う暗殺者は、全て、そこにおるオーダイが、排除していた。驚くことに黒衣ですら、一切気付くことはなかっと言ったら?。獲物を取るほんの僅かな時で。そのようなこと出来る者はいるのか?、世はそれほどの者をオーダイ以外知らぬ」王の言わんとした内容を理解して、軍席にいるものは、ハッと青ざめる。そのようなこと可能なのかと……、
「世は、黒衣に命じ、オーダイが、森に入った場所から、調べさせた、そうさな……ざっと10ワノール(キロ)離れた場所で、暗殺者急所をは射抜かれ、絶命していた」ざわり、今度こそ騒然となる重鎮。王は、あの日を忘れぬ。黒衣が報告したのは━━、
「黒衣は106名の死骸を見付けた」
皆事の重大さに気付いた。レゾン王は思い出すと。身震いしたのだ、其ほどの人物が、野に埋もれていた事実に。
「よって世は、オーダイをただ1人の護衛として、登用する」もはや言葉を無くした重鎮を一瞥して、小気味良く笑う、悪戯を成功した子供のように、したり顔でオーダイを見れば、苦虫噛み潰した顔をしていた。だから片眼を瞑り諦めろと口パクしていた━━━。
波間に漂う。魔物━━。「ふむ……奇っ怪な」
と言うより人に近い死骸をひょいと掴み上げ。オーダイは、陸地に向かって再び走り出す。
「面倒じゃな……」
仕方なさそうに、聖弓と呼ばれた遺物を袈裟懸けにして、嘆息を漏らしていた。
━━その日よりオーダイは、王の護衛として、重鎮に祭り上げられた。
時に世界会議に付いて行き。生まれて初めて海を見た時は、それは驚き、舐めた海水がしょっぱくて、些細な発見が楽しかった物だ。何より驚いたのは、この世に移動する国などがあったことで。王に付いて、城のように巨大な船に乗って広大な見渡す限り海と言う姿に感動していた。王の護衛となり数年毎。各国王が集まる世界会議がまだ行われていた頃の話である。
━━当時は、血気盛んなレゾン王と前魔王ヒザンが口論となり、配下同士での決闘と相成った。
当時レバンナの筆頭魔法使いになったゼノンと。まだ無名だったオーダイの決闘は意外な結果を生むことになった。
━━当初馬鹿にしてたゼノンは魔法の矢を当て付けのように放つ、しかしオーダイの精緻射撃で、自分に当たる矢をだけ撃ち落とし舌を巻いていた。あの気難しいと評判の魔王ヒザンさえ、オーダイを絶賛して、
『我が子に!、弓を習わせる』
とまで言わしめたのは有名な話だ、魔法使いに弓だけで挑み、引き分けた裁量には、凄まじいとさえ各国の重鎮に言わしめた。
あの出来事がきっかけで、世界会議が行われる年には、優秀な生徒同士を、競わせる毎になったのは……、
ゼノンとオーダイの勝負が、余興として気に入ったのか、船が沈む9年前が最後となったが……、アレイク王国最強の守護者オーダイの名は、知らぬ者はいない。余談だが……、ゼノンとの決闘では、愛用の弓を用いていなかったと言うことだ。
━━━オーダイ准将が持ち込んだ、魔物の死骸は、即日。宮廷魔導師筆頭ケイタに届けられ、調べられることになった。
港側にあった漁協所有の大きな小屋に、ケイタ筆頭含め。戦士養成学校と学園長を兼任する。エドナ・カルメン・オードリー、院長リリア・カーベン、副院長バレンタイン。エルが前線にいるため。主な宮廷魔導師達が一同に会する中。遺骸が運び込まれていた。
さらに医療に詳しく。司祭に返り咲いたララ・ハウチューデン、来春義娘になる。リーラ・エスベリア侍司祭が同席して、解剖が行われた。
「臓器は、殆ど退化してますが……、人間に比較的近い。生物だったようです」義娘リーラの判断に、追従して、ララ司祭は、一部を指して、
「心臓とは違う、特殊な器官があります。恐らく。此を傷付けなくば、死なない魔物だと思われます」
絶命した魔物だが、普通のメスでは傷一つ付けることが出来なかった、そこで……、
以前オーラルが持っていた聖剣に魔力を流して、用いたことがあると話を聞いたケイタは、
独自の理論で魔力を剣に付属させる。魔力剣を試作品で幾つか作り、オーラルに試すよう渡していた。ケイタは護身用に残してた魔剣を使って、ようやく解剖出来たのであった。
「頑強な肉体は、通常の武器は、通じないか……」
強力な魔法。あるいは魔力剣、オーラルが持つ聖なる武器か……、厄介なことになる。そう結論を出した。
「それはそうとオーダイ殿が見たのは、形式的に魔人と名付けよう。話ではこの魔物は、7体も見たのだな?」
ケイタはバレンタインに聞くと、戦士と言えば、納得したくなる体躯。長身であるためやや上に視線を向けると、皺を刻んだ目元を細めて。
「はい、そのように聞いております」
見た目から頑固そうな印象を受けるが、生徒から好かれる公平な先生でもある。
傍らの同僚で、伴侶リリア・カーベンは、眼鏡を外して、身重の身体を、気だるそうに、鼻を鳴らしていた。
「厄介ね~、これだけじゃ解らないけど。うちの国で、まともにこいつと戦えるの限られるわね」
身重でなければ、国内屈指の使い手である。リリア、エドナ、ケイタの三人。少なくても魔導師では、この三人だろうか?、
「兄は、オーラルから、試作品の魔力剣をもらっていました」
フロスト騎士団内では、戦士長クラスか、
「土竜騎士団がいないのは痛いわね」
……ララの呟きに、ケイタは仕方ないな。嘆息しながら。
「国王一家の護衛にいる。あの二人と街のお菓子職人してますが、ブルー・ファミイユ少佐を戻すとオーラルが言ってましたわ」
「流石オーラル、最悪の事態を考えてか?」ケイタが、苦笑気味に、答えるとリーラは曖昧に笑い。ララは呆れた顔をした。フッとリリアが微笑して、
「如才無さすぎるのも問題ですが、あの子がこの国にいること、私は感謝してるわ」
恩師の言葉に。二人は誇らしい気持ちでになる。
「お母さん、お疲れでは無いですか?」
連日の解剖作業を。気にしての事だ。
「ありがとう、まだ大丈夫よ。これだけは皆の為にも。調べ尽くさないとね」
優しく微笑む義母に。リーラは然り気無く寄り添う。控え目で頑固な所もあるが、可愛らしい性格のリーラをララはとても気に入っていた。
本来エレーナ大司教の代役は、ララだけで、行うつもりだったが……、我が子オーラルの身を案じてる。リーラを連れて。王都から離れ、沿岸の街まで連れてきていた。何かしてれば、気が紛れるとの配慮からだ。
それに……、
自分に何かあったとしても。この人たちならと打算もあった。オーラルを見守って来てくれた人達………、言わば恩人で、ララとしては、感謝すら感じていた。
最近体調優れないエレーナ大司教の代役を頼まれた時。2つ返事で、受けたのは言うまでもない。検死を終えた魔物の遺骸は、魔法の高炉で、燃やし灰する。さらに壷に封印して、神殿に保管していた。
ケイタの分析では、魔人の遺骸はそのまま放置すると、人間に害を及ぼす。猛毒の魔気を放つようになる。厄介な存在である。しかも明らかな知能ある。それは今まで検視した結果。魔物には何者かが、弄った痕跡を見付けていた。
「これが赤の民なのでしょうか?」
オーラルが危惧した存在。様々な文献を漁ったが、王家の文献に僅かに残されていた程度。しかも数行だけである。ケイタの呟きに、答えられる者はいない……、
━━━闇。大陸中を覆う魔気、アビスに落ちた大陸では、魔力が変質して、魔素と言う物質となり、強力な闇の魔力となって、大気には魔気が蝕んでいた。
━━闇の女神カーレルを、心棒する。変わり果てた民達は、醜悪な、爬虫類のような造形をして、髪を失い、口を開けば、ノコギリの肉食獣のような牙が並び、灰色の皮膚は、魔素で、焼け爛れ。悪臭を放ち、嗄れた言語を使う。
『ビスタスが殺られたと?』
古き、神殿のような建造物。眠りについてる闇の女神カーレルの神殿内。『まさか……、神の遺物を使いし者か?』
神官の宮司のように、魔物の毛皮を身に纏う魔人は、
遥か昔━━━、
太陽神アセードラの大司教の任にいた。赤の民が長の一人であった。赤の民は、生まれ落ちた瞬間。魔力の強さにより。
階級が定めらる。それゆえ双子の兄を大司教だった男は妬んでいた。
━━あの日アビスに墜ち、魔人となった後ですら、兄と兄を選んだ人間の女を恨み妬む……。
そう━━レイアスの策謀に荷担した。元赤の民達は、姿と同じく、醜悪な心を抱き、神が愛した豊かな生命を、変質させる欲望を抱く。
━━そしてついに赤の民の長達であった。7神官の助力を得て、兄王を、排斥、実権を握った━━。
欲望のまま生きた大司教は、一夜限りの王となって、贅の限りを尽くした。
━━増長した大司教は、神を罵り、呪うような言葉を吐き出し笑う……、
それゆえ闇に墜とされ、変質してさえなお。欲望のまま魔人の王となっていた━━、
━━━未だ……、
中央大陸を纏う、神々の結界に阻まれ。外界に出られず。歯痒く思っていた。ようやく7神官である。力ある魔人を、送り出した矢先。まさか一人が倒されようとは、
『神は、我々を赦さぬか……』
怨差を呟き、瞳を恨みを宿し暗く光らせ。忌々しそうに舌を鳴らした。魔人の王の名をレイアスと言い。
━━遥か昔。赤の民の王を妬み。人間を唆して、反乱を画策。それが失敗したら、白の女王を暗殺したのも。レイアスであった……、
レイアスと双子兄王プロキシスは、1人の人間の女を愛してしまった。しかし……人間の女は、兄を選んだ……、兄が王だから……、兄はいつもいつも……、大切な物を奪う……、
レイアスは思った。赤の民の階級が、女は兄を選んだと。兄を選んだ全てが……、神々すらを赦せなかった。
だからレイアスは、墜ちたのである。
『この世界を必ずや……、必ず破壊してやる』
椅子に使用していた。サイクロプスの骨を力で砕きながら、魔人の王は、慟哭した。
━━━膨大な光が……、
徐々に薄れ……、
大地に、クレータを穿った━━神の奇跡。
中央大陸とつながっていた。もう一つの扉。扉と言うより狸穴ごと消し差った……、
大物が何体か、結界を抜け出したようである。怒号が、ナタクの元まで聞こえてきた。
「アレク……、今度こそ、そちらに行くよ……」自分と同じような境遇だったアレクは、最後まで、人間の世界を愛していた……、まるで彼奴の母、白の女王のように……、
「アレクと初めて会った日は……」素晴らしい光輝くような。そんな天気の良い。そんな日だった……。
ナタクは忘れない。初めてピアンザの妻シレーヌ王妃を見た時……、アレイク王国のミレーヌ王女の存在を知り、一目見た瞬間理解していた……、
「願いは叶った……、母様……、アレク……、ま……た……」
二人を見て、酷く懐かしかった━━━。
━━━二人の見目は違う、でも白の女王の血を受け継いでるのは直ぐに判った……。二人は間違いなく、白の女王の子孫だと……、ナタクは地下迷宮の旅を得て、アレクと出会い。白の女王の元で暮らした。まるで本当の母のように慕った。アレクとは幼馴染みとして、本当の兄弟のように育った。ナタクは知らなかった。ハーフが住む隔離地区で物心ついて間もなく母は死んでいた。だから自分が、赤の王の子息であること。知らずに育っていた。父が秘かに白の女王に計らい、ナタクの事を頼んでいたのだ。
━━それを知ったのが、120年前の異変の時だ……。
魔物が、凶暴になり、海中都市をも襲われ、あわやの時。白の女王が、その身を犠牲にしなければ、アレクとナタクは殺されていただろう……、
━━遥か昔の話だ……、
戦場を見渡したナタクは、眼を細めた。アレクが造りだした国の民と。共に戦う日が来ようとは……、不思議な感覚である。大地を埋め尽くした、
魔物の群れは、数を減らしてゆく。満足そうに、剣を手放した、
「これまでのようだ……、アレク……」
力を使いすぎていた……、最早聖王の剣を、維持する力すら、失い掛ける。
やがて……、静寂が訪れていた。
歓声が上がる。ナタクは、満足そうに微笑しながら……、その長き生を、終わらせた。
オーラルが駆けつけた時、沢山の人に見送られ。ナタクは微笑しながら、絶命していた。傍らに添えられた白銀の剣が、ナタクの墓碑のように、突き立っていた。
戦乱を呼び。
━━数多の死と混乱を招きながら、聖騎士と呼ばれたナタク、今こそ苛烈な男のため静かに冥福を祈り……、後を聖職者に任せ。オーラルは前を見守る。
「本当の災厄に備えなければならない」決然と歯を食い縛り。後ろを振り返らず。ナターシャ女王のいる陣営に向かった。
━━━西大陸。パレストア帝国。
先程無事に、妻と娘が、ギル・ジータ王国に到着したと伝え聞いたピアンザは安堵する間もなく。訃報が届く。ナタク・レブロ死亡、魔王ピアンザは頭をたれた。
「ん?」
足元から、急激に魔力の減退を感じとり、
「まさか……」
何か異変があったか?。「まさか侵入者か?」
感知した。恐らく敵は封印の扉に向かっていると……。
地下施設は迷宮となっていた。緑の民以外ピアンザと一部の重鎮だけが、入ること許された秘密の扉を抜け。足早に向かっていた。
━━ピアンザが、封印の扉に向かってる頃……。
緑の民達、封印の扉を守る守護者達は、異形の魔物の猛攻を受け壊滅的損害を受けていた。
魔物は僅か1体、油断したとは言え……。
擬似的だが、神の力を模倣する緑の民が、たった1体の魔物を恐れず。迎え撃ったことで被害が拡大した。
魔物はドラゴンに似た爬虫類の皮膚。リザードマンに近い風貌。背にコウモリのような翼があり、獣の毛皮を羽織る様は異形の民。骨で造られたシュミッターと呼ばれる。三日月のような片刃の武器まで使いこなしていた。刃は刄こぼれ一つなく、緑の民の血に濡れていた。
『開け、死にたくなくば……』
腐臭のような、すえた香りを吐き出して、聞き取り難い。がらがらな肉声を発した。緑の民の若者は、悪臭に、顔しかめながら、鋭い眼差しを向け、
「殺せ。裏切り者!」
ピクリ異形の魔物は、身を震わせ、若者を落としていた………、肩に怪我をしていたが、若者はまだ戦うだけの力を有する特殊な目を受け継いでいた。それは相手の真実を見る神の目である━━。
主に相手の姿を、正しく見る力。異形となった者の真実を目は伝えていた。相手は異形となったが元は人間━━正確には……古代の民である。
若者の力もつ目は、単純だが、強力である。相手がいかに姿を変えようと、強大な力を持っていようと関係ない。見た目など無意味。ただ相手の本質を正しくさらけ出させ。呪いを無に期せる。
━━例えば魔法なら。構成されたエネルギー物質を消せば、魔法を無かった毎に出来る。
魔物ならば原始の姿に……、人間ならば失った記憶を相手に見せたり。まさに奇跡……。『神の目』と呼ばれる力を若い青年は持っていた……。
若者の兄は、元六将が1人。緑眼の騎士ギラムと呼ばれていた。若者は尊敬する兄に代わり緑の民を束ねる。若きリーダーである青年の名を。
「7神官ナタス。それが貴様━━、裏切り者の真の名だ」
ロドラ・アグレド、兄に代わり六将の任に着いていた。兄の魔眼ほど使い勝手は良くないが、アグレドは優秀な軍師である。神の目の力は、さほど強い力ではないが、魔人を動揺させていた。
束の間の時を稼ぎ出していた。アグレドの合図で、隙を探してた仲間は、素早く配置に着いていた。横目で確認しながら、魔人から距離をとって、神の目の力で、赤の民だった頃を思い出させる。過去眼の力を解いた。
『わっ、我は……』
動揺を隠せないようだ。想像以上の効果に、眉を潜めたが、同情は出来ない。アグレドの合図で、神罰の槍を模倣した力を持った少女が、神の槍を放ち、魔人の右足を貫いて縫い付けた。突然の痛みに混乱してる魔人。魔法を得意とする仲間が、魔法の蔦で魔人を絡め取った。
『我は……』
身動きすら出来なくなった魔人に、神炎を模倣した仲間の手によって、全身を焼かれながら、
『我は……』
静かに涙していた、灰になるまで、炎は消えない。それが神炎の力である。
「アグレド!無事か?」
ピアンザは息を切らせ、一同を見回し目を剥いた………既に死んでる。若者達を目にして、唇を噛み締めていた。
「陛下……、此方を」
優しいピアンザの性格を理解してるアグレドは、鋭い眼差しで、今は魔王であることを望んだ。 僅か数瞬の邂逅を見せたが、役割を心得る。
「皆ご苦労であった、死した者を丁重に頼む」
魔王ピアンザ自ら頭を下げる姿。やりきれない思いを抱いてた若者達も、決意をあらたに次に進む事が出来る。アグレドは満足そうに頷き、灰になった魔人の側までピアンザを連れ。魔人の武器を指差していた、
「これは?、何の骨だ……」
神炎の奇跡は、全てを焼き尽くす。その筈である━━。
何の骨から作られたか解らぬが、模倣であれ神の力が及ばぬ武器等……、煤一つ、焦げ一つ見当たらない。禍々しい力を感じる。
「あまりに危険だ……」
ピアンザは、魔王の杖に秘められし本来の力を使う、
魔王の杖の台座に、鎖に繋がれた、数匹の魔獣がいる。守るのは宝物庫で、様々な武器、文献が保管されている。
「この武器は世に出してはならない……」
魔王の決断に同調する。神の目は、おぞましい武器の成り立ちを垣間見たからである。
この時の決断が、再び混乱を招く結果になろうとは……、魔王ピアンザとて、思いもよらなかった……。今少し━━先の話である。
南大陸━━国境の街ローン。
軍国ローレンの主都が、ワームの大群の襲撃で陥落。各地で被害が、報告される。
━━デーア・オルトスが心血注ぎ、産み出した魔神と恐れられたアイアンゴーレムが活躍。徐々に、ワームの駆逐が進み、各国の情報がようやく報告されだしたのは、主都陥落から一月あまり……。各地の情勢が、バローナの耳に届いたのだ。
隣国ファレイナでは、様々な災害を受け、かなりの被害が出たと聞く。
南大陸最大の国華の国ダナイでは、王族含め多くの人民が、命を失った。
主都陥落から、半月が過ぎた頃……、狂気の双子は姿を消していて、参謀のアルマン家の当主アルマン・ソゲルは、イライラと怒鳴る姿を見ることが増えた。
「このままでは、南大陸は終わる……。」
唇を噛みしめ。バローナは一つの決断をした、叔母レイダ王妃に助けを求めようと……、ついてはオーラルに助力と口添えを決意した。
バローナにはレイダ王妃と。密かに連絡が取れる手段があった。魔法の手紙と言うアイテムだ、現在の状況を、克明に書き出して、封筒に入れ、ワードを唱えれば、中の手紙だけ、対になる封筒に送られる仕組みだ。
━━眼下に広がる。難民のテント……、食料の不安もあった、バローナは苦悩に、顔を歪めた。
━━━第4分隊を率いる。キブロスは、ようやく下水道から、裏山にある。避難所を見つけ出し。息子のイブロ、孫を抱く義娘の姿にを目にして、ようやく安堵した。
「親父ようやく来たな、助かる」
頭を下げるバカ息子に、一つ鼻を啜りながら、
「生きていて何よりだ、えらくやられたな……」街の惨状を思い出して、胸を痛めた。それに……上半身に包帯が巻かれる痛々しい姿のイブロ、包帯からうっすら血が滲み。怪我の重さを計り知る。
第1師団所属の分隊には、数名の癒しの魔法が使える兵士が同行していた。後は彼等に手当てを任せた。
「じいじい!?」
しがみついてきた孫を抱き上げ。安堵の涙を流した。
多くの負傷者を出し。巨大はぐれワームの襲来だが……、死者は、街の惨状を考えれば、少ないと言えた。
5日後━━。
第4分隊の護衛で、ギル・ジータ王国に着いたのは夜にである。
キブロスの知るギル・ジータ王国とは、国土の半分が、広大な森と森の中にある畑である。しかしこの半年の間に。多くの木々を切り出して、沢山のコテージが作られているが、民のためではなかった。国王の行為に異論は出たが、財政は安定して、生活にゆとりがあった民は、王の娯楽に付き合う程度の面持ちであったのだが……、
……半月前になるか、突然西大陸から。魔王の妻とご息女が、逗留する事が知らされて、民の多くは戸惑う、中立国となったギル・ジータ王国は、まさかリドラニアの二の舞になるのではないか?、不安に思った、さらに数日後━━、
隣国ドヴィアの住民全てが、避難してきて大騒ぎとなり、それ処では無くなった。
国王ギル・エバーソンは、民に向け。
『世界中で、異変があり。多くの死者を出してる、世界では唯一中立国である我が国は、平和になるまでの間。北のレオール連合、西のパルストア帝国と同盟を組んだ』
さらに隣国のラトワニア神国、アレイク王国は承知してる胸を発表。民の度肝を抜き騒然とさせた。
アレイク王国━━王宮。自室で、仮眠していたレイダ王妃はフッと目が覚めて。胸騒ぎがして、鏡台の下にある。封筒を確認した。久しぶりに甥からの連絡が、入ったようで、安堵した。兄が死に、二人の息子を失い、その上甥まで死んだら……、二度と起き上がれなくなるだろう……。泣きそうな顔の娘の寝顔を見てから、仮眠していたレイダ王妃は、甥からの手紙に目を通し、驚き目を見張る。
「まさかオーラル准将と会ってたなんて……」
心臓が締め付けられるほど、苦悩に顔を歪めさせていた。
気が重いが……、
会ってうまく話すしかあるまい。小さく小さく、嘆息していた、そう言えば……、
「娘の護衛に、オーラル准将の同僚がいたわ」
レイダ王妃は、意を決め、オーラル准将と密かに連絡取るべく動き出した。
━━午前の公務を終えたミレーヌ皇女は、お昼もそこそこに、疲れから仮眠を取られていた。
民は怯えていた……、世界中から様々な噂を聞いては、不安に嘆く。
ミレーヌ皇女は、多忙な父王に代わり連日。人々の前に顔を出しては、勇気を与えるため演説をする。
ミラ・バウスタンは、ミレーヌ皇女の護衛として、元第1分隊の配下10名と、任務に着いていた。顔見知りの侍女ジーナと王妃に慰められながら、姫様が眠りについたのがつい先程、それが急遽。王妃に呼ばれたのだミラでなくとも訝しむ。
王妃様の部屋は、こじんまりとした、薄い紫を貴重した上品な色彩を織りみ、同色のカーテンが光を美しく見せるため。とても落ち着ける部屋であった。しかしミラは落ち着かない、ついレイダは微笑してしまい。自らのお手で、お茶を振る舞われては、余計に居心地が悪い。だからクスリとつい笑み。王妃はカップを傾け唇を湿らせていた。
「至急オーラル准将と連絡が取りたいの、お願い出来るかしら?」
王妃の頼みであれば、秘密りに連絡を取る方法はある。それなら王妃にも可能なはずである。ミラの顔に浮かぶ表情で、全てを察した王妃は、一瞬迷い。娘の護衛である。彼女ならば……、信頼出来ると。諦めに似た気持ちで、全て話す毎に決めたのだ。
ミラは王妃の話を聞いて驚き、戸惑い。憤る。顔に出やすいミラの性格は、長く権力の世界に身を置いてる。レイダ王妃にとって新鮮である。瞬巡したミラだが、王妃の苦悩は、少なからず理解出来た。
「解りました……、今夜にも連絡を、取ってみます」
━━━夜半。ラトワニア神国。
数万とも言われた魔物の群れを撃退した。ラトワニア神国、アレイク王国連合の勝利を祝う宴が終まだ続いていたが、
先においとまして。用意された部屋に休んでた時だ。良く知った気配を感じて、招かれるまま。人気の無い離れにある庭園に足を向けていた。
━━仄かな魔力を感じたのは、庭園の水源。小さな泉で、中を覗き込めばやっぱり……、見覚えのあるミラ先輩が、緊張気味に、水に浮いていた。
『良かった、気付いてくれて……』
安堵の吐息を吐いていた。そもそもミラには、ほとんど魔力が無く。勉強も苦手だが、
エルとカールに付き合って勉強するうちに。水鏡の魔法だけは使えるようになった。使いどころの少ない魔法だけど、清い水があれば何処でも通話出来る。便利な魔法である。
「どうしましたミラ先輩?、こんな時間に」
兵に向かない先輩を、第1師団から。皇女の護衛にしたのは、彼女が黒衣の生まれであり。集団戦に向かないこと。理解しての人事だった。
『実はさ……』
困った顔しながら、訳を聞いた。成る程……、バローナが……、
「わかった、今からそちらに行く。ミラ先輩……以前。渡した輝石お持ちですか?」
魔法のポインターである輝石は、奥の手で最悪の場合何人か、逃がすため、王宮のミラの自室に置くよう、頼んであった。
『えっ?、今これるの?』
驚きながら、あたふたするミラ、輝石は、ケイタが開発した、簡易の移動魔法アイテムで、人数はまとめて送れないが、今なら誰にも見られず、1人で秘密りに渡ることは可能だ、帰りは大変になるが仕方ない……、
「一方通行なんだよね……、急を要するみたいだし仕方ない」
諦めた表情で、嘆息した。
「輝石の周りに。物は置かないいで下さい」
『うっうん……』
「下がって」
水鏡から、ミラが消えたのを見計らい、オーラルは帰還の呪文を唱えた。瞬く間にオーラルは光となって、ミラの自室に送還され現れた。
「プチ凄いな、その魔法……」最近は魔法に興味を抱き、勉強するようになったミラは、暇を見付けて、図書館通いしてると、エルから聞いてた。
「先輩、王妃様と会わせてください」
オーラルが急かせるには理由がある。早く用を済ませて、アレイク王国から、再びラトワニア神国に戻らなければならない。しかも……明日の昼までに、
アレイクから、ラトワニアまで、どんなに急いでも3日は掛かるのにだ、
━━ミラの声で、目を覚ましたレイダ王妃は、まさか彼女が、オーラル准将と一緒だったのに驚きを隠せない。今頃ラトワニア神国で、宴が行われてる最中なはずである。戸惑う王妃を他所に、急かすオーラルに請われるまま。バローナの現状を記した手紙を見せた。しばし熟考しながら。考えをまとめ吐息を吐いた。
「━━成る程。ことは簡単です王妃。ファレイナ公国ミザイナ女王に頼むのです。派遣してる土竜騎士団の助力をと、彼等なら、ワームの生態を知り尽くしてます」
ハッと虚を、突かれた思いである。
「追従してる。フロスト騎士団には、癒しの奇跡が行える者がいたはず。ミザイナなら訳を知れば手を差し伸べてくれましょう」
王妃は、目に涙を湛え。
「遺恨がありますのに………、感謝いたしますオーラル准将」
晴れやかな笑みに、オーラルは小さく笑い、肩を竦めた。王妃はすぐに手紙を認め。封筒に仕舞う。封筒に掛けられた魔法により、手紙だけが消え。ほどなく返事が届いた。王妃は手紙を抱き、安堵の表情を浮かべた。
それから慌ただしく、おいとまを告げたオーラルに、王妃は戸惑いながら聞けば、
「昼から、12大僧正を交えて。会議がありますので」
これからラトワニア神国まで戻るとか、
「そんなときに……」
呆気に取られながら、思わず笑ってしまった。
━━翌朝。叔母上から、連絡を受けて、オーラルの解決案に、成る程と膝を叩いていた。至急ファレイナ公国のミザイナ女王に、親書を書かねば、
「誰か、グレビーを呼んでくれ」
「はっ、直ちに」
グレビー・アスナル、元ダーレンの国境将軍の要職にいた人物で、軍務において、バローナの右腕である。誠意を見せるには彼が使者として、良いだろうとの判断である。混乱した情勢で、バローナが動けば、民に要らぬ混乱を与えかねない。嘆息しながら、
「いつか……許されるなら。オーラルと、酒を酌み交わしたいものだ」
過去━━━自分たちが、したことは、赦される事ではない……、叔母上の口添えがあろうと、切り捨てられても、文句は言えない……、遺恨を捨て去り手を差し伸べることが、自分に出来るか?
「敵わない訳だ………」
革命王と呼ばれたバローナは、生涯賢王と名高い。オーラルの善き友であったと記されていた。
━━━翌朝。
事態を重く見た、ミザイナ女王は、バローナ将軍の要請を快諾。土竜騎士団の分隊長ボルト・ホウリーに、隣国ローレンの窮状を説明して、助力を乞う。
「陛下?、もしやオーラル辺りの入れ知恵ですかい」
学園で、同じ『特待生』だった気安さから、ボルトの軽口に、公務であることも忘れ。懐かしそうに笑う、
「多分な、軍国のバローナ将軍は、かのエトワール家の悪名高い、子息だ」ああ~納得した顔で、ボルトも嫌な思いをした覚えがある。
「行ってくれるかボルト?」
ミザイナが学年は上だったが、ボルトと同級のよしみ。面倒みのよい人物だったと記憶していた、
「仕方ないですな」了承したのである。
そうと決まれば、優秀な冒険者である。直ちに行動した、ミザイナ女王に、支援物質として、土竜騎士が持ち込んだ、食料他、様々な物質をそのまま使うと断り。ターミナルから、馬車を10台借り受けて、即日国境の街ローンに向け出発した。
ファレイナ公国から、ターミナルの街は近く。それ故救援に向かうことが容易だったのだ。
使者を送り翌日の昼に、救援が来たこと。バローナは驚きよりも、ミザイナ女王の優しさに感謝した。
━━ボルト・ホウリーは、部隊を討伐部隊と救護施設部隊に分けた。
同日の昼。ボルト率いる土竜騎士団は、荷をおろし軽くなった馬車を4台に分け分乗して、ワームの討伐に向かった。
━━国境の街ローンから、討伐が進んでない、西側から回り込んで、主都までの道のり、散発的にワームを見つけては、討伐を繰り返し。
ようやく都に着いたのは、国境の町から出発して7日後である。
途中デーア・オルトス率いる。アイアンゴーレム部隊と合流して、討伐したワームは30を越えていた。
歴戦の土竜騎士と、アイアンゴーレムの無尽蔵な破壊力は、次々とワームの群れを狩った。
しかしこれだけの群れは、土竜騎士と言えど見たことも、聞いたことすらない、ボルトはワームの油で、切れ味の落ちた組立式の槍を仕舞い、別の一本を組み立てる。ワームの身体は、岩盤をくり貫く強靭な歯を回転させるように、地下を進む訳だが、ワームの身体は、通常武器もわりあい簡単に傷を付けられる。だが……ワームの体液は、油分の塊である。地下迷宮のランタンはワームの体液を加工して、使われる程に。それゆえ鉄製の武器は、体液で直ぐに切れ味が落ちる。アイアンゴーレムも徐々に動きがおかしくなっていた。そこでボルトから聞いたデーアは、秘術を用いて、瓦礫からストーンゴーレムを作り出して、ワーム討伐に活躍したのである。土竜騎士が、ワームを狩るとき、鉄製の武器ではなく、石を加工した武器を好む、石の武器では切れ味自体鈍いが、鉄製の武器と違い油で直ぐに切れ味が落ちることはない、重さで断つ武器でなく、重さで貫く武器、槍が有効であった、知識なくば群れのワームを狩れない、さらに魔法を使うのも注意が必要で、可燃魔法は使えない。氷の魔法は、油分の塊であるワームに通用しない、よって土竜騎士は、地の魔法、風の魔法を得意としていた、大地の槍『スパイク』の魔法で、隠れてたワーム3匹を貫いた、生命力の強いワームは、干からびるまで暴れるから、ワームの頭にダメージ与え殺すしか無いのだ。
ワームの身体にいくらダメージを与えようと、直ぐに死なないので、大変な作業を強いられるが、歴戦の土竜騎士なら、どれだけの群れであろうと、きちんと準備してれば、狩ることは可能である。
バローナが、救護を求め、10日程で、ワームは狩り尽くされ、人々に安息を与えてる頃━━。
━━元ダーレンの都、街外れにあった、古き塔がある。……遥かなる悠久なる昔━━、
赤の王が、生物の研究所として、造らせた施設の一つ。元々塔とは研究者の住まいであった。
現在塔こと魔法使いの塔には、筆頭含め、僅かな幹部は、開かずの扉の存在を知っていた。街に現れたワームの大群。魔法使いは退治に駆り出され、無人となっていた魔導師の塔。異形の魔人が、地下の施設に向かう。
魔人は7神官が1人、古代の民であった時。この塔の建設を請け負った者。首飾りの認証カードを、読み込みリーダに通して、暗証番号を打ち込む、長く封じられた、主なき、生物研究所の扉は、電子音を鳴らし開いた。
封じられた奥の扉、神の力を断片とは言え使える緑の民。彼等を実験台に使い。生物兵器を造り出していた、
━━それが……人造神、狂気のまま造り出した三体は、1000年の月日を生き抜き、神の水に包まれたゆむ姿に、魔人は狂気に笑う。
エピローグ
━━━六将が1人。ナタクの葬儀が、密かに行われた。
その頃12ある神殿の、大僧正達が集められ。ナタクが所有していた、神の遺物をどうするべきか、話し合いが行われる。ことは重要な秘事……、されど此度の討伐により。今ならば12神殿の皆が、手を携える事が可能である。
太陽神アセードラの遺物である。渦中のルメージ大僧正の発言に、注目が集まる。以前とは見違えた容姿に、驚く大僧正の面々、ルメージは憑きものが落ちたように、悟りを拓いた眼差しを、一同に向け厳かに口を開く。
「神託があった……」
ざわざわ……、どよめく。
驚くのも無理はない、神は、奇跡を使わす者を選ぶとき。稀に見言葉を遣わす。神託とは、高位の僧侶が、神に試練を与える時。歴史に関与する時。節目に降りる事があるが、
ここ100年、神託が降りた記録はない、
「して……ルメージ大僧正、どのような神託なのですか?」
先だって、共に戦った蒼神セイラーンのコウザリア大僧正の問いに、1つ頷き、
「我は、オーラル・ハウチューデンをただ1人を王と認めると……」ざわざわどよめきが上がる。
オーラル・ハウチューデン准将とは、同盟国の重鎮であり幾度となく、ラトワニア神国を救い、さらには同盟国のドヴィア国を、密かに救っていたことを知らされたばかりである。もはや救国の英雄ではなく。東大陸有数の英雄であるが……、
「しかしそれでは……」緑神ロレンブラの大僧正バイアンが、難色を示した、それもそのはず。オーラルはロレンブラの遺物である。『聖騎士の剣』を持っているのだから、
「バイアン大僧正、そなたの懸念、もっともだ」
ルメージ大僧正は、一拍おいて、控えるリーヌ司祭に目配せをした、何か有るのか?、戸惑いながらルメージを見つめる一同に、諦めた顔をしていた。
「実は……」
━━━数日前。ギル・ジータ王国、港、
サミュ・リジル宰相を、安堵した面持ちで、出迎えたエバーソン国王は、続いて、幼子を連れて、美しく成長した。旧友に驚き、戸惑いと嬉しさを内包した複雑な顔をしながら、久しぶりの再会に、二人は抱擁した。可愛らし少女は、きょとんと首を傾げていた。
「さあリルム様」
皇女リルムは、サミュの手をおずおず掴み、しきりに桟橋の暗がりを気にしては、手を振っていた、その様子からエバーソンは、僅かな異変に気付いたが、殺気は感じない、おそらく護衛に付いてるのだと、小さく嘆息して、表情を隠し、もう1人の重要人物。緑の髪、瞼から右頬にかけて、道化のように星が描かれてるが、刀傷がうっすら見受けられる。緑眼の騎士と呼ばれた、六将だった青年に眼を向けた。
みる影もなく痩せこけ、生気を失ったように無気力、同行したパルストア帝国兵に、抱えられるように、運ばれる姿。眉をひそめる他ない。
「オーラル……、本当に大丈夫なのか?」
珍しく不安を覚えた、先ほど物見の兵が、ドヴイア国民を護衛する。アレイク将兵の姿を捉えている。
「彼等には酷だが、時間は限られてる」
エバーソンは、暗雲に包まれ。浮かぶ中央大陸を睨んでたが、視線を感じて、旧友の娘リムルと眼があった、思わず笑みを向けると、少し警戒心を解いたリムルが、
「ん~」
手を差し出してきた、思わず笑みを深め。幼い手を握っていた。
その姿を見たシレーネは、胸が一杯になって、様々な思いが込み上がる。嗚咽を我慢するシレーヌに、サミュが優しく肩を抱くと、堪えられず泣いていた。
「彼の名は━━」
ルメージ大僧正の言葉に、驚きよりも、驚愕が浮かぶ、無理もない、ルメージとて、神託を受けた日に、我が耳を疑ったのだ、オーラルの口から出た名に。
「聖王の剣は、俺が受け継ぐことになります」
まさかその事を、話したく訪ねた時だ、何のてらいもなく言うのだ、ルメージは驚愕した。
「何故それを……」ルメージ大僧正に首を傾げながら、
「ナタクが亡くなった日から、聖騎士の剣が、抜けなくなりました」
オーラルは困ったように、肩を竦めていた。
「そのようなこと私に……」
以前のルメージならは、あらゆる手段を使って、騙しとるくらいはしたはずだ、そんな自分を、恥じ入りながら、真摯な眼差しを向ける。
「明日にも新しい持ち主が、この国の守護者として来ます。 彼の名は━━」
ルメージ大僧正とて、オーラルから出た名前に、驚愕したのだ、もはや仕方ない。
「緑眼の騎士ギラム━━彼が、聖騎士の剣に選ばれた者━━」
オーラルは、にこやかに告げたのだ。
苛烈な死を遂げたナタク、
全てが後手に回る魔王ピアンザ、しかし彼に旧友が手を差しのべる。
一方━━、中央大陸から。不可思議な影が飛び立つ。また同じ物語か別の物語で背徳の魔王でした。




