閑話娘が生まれましたが何か?
━━南大陸ファレイナ公国━━
冬の肌寒さ、日が沈む速さと同じで、物悲しい気持ちにさせる日々……。
身重のミザイナは、夫ジンベイの手を借りて、玉座に座る。
━━中央大陸事件終息から。半年……、
事件の爪痕は残ったが……、隣国ローレンの再建が進み。ようやく平和な日々が訪れた。
「陛下、明日ピアンザ様とシレーヌ王妃、リムル皇女が着かれるそうです」
「そう……ご苦労様。ところでルルフ、貴女が弟子を取ったそうね」
クスリ笑みを向けると、ばつが悪そうに照れ笑いしながら、
「あの事件で、私は弱いって気が付きました、それでも私の経験は、伝えてくべきだとエフィと決めたんです」
「そう……」エフィとルルフの二人は、夫ジンベイの弟子で、八剣将に登り詰めた、ファレイナ有数の剣士である。
二人をこうまで変えたのは、
皮肉なことに。四英雄と呼ばれたオーラル達ではなく、彼の信頼する。軽薄な軍人カール・シタインだった、そうは見えないが、彼の母はミザイナも何度かお会いした、エレーナ大司教の実子である。
軽薄な見た目、実際かなりの軽薄なのだが、ファレイナ公国の代名詞でもある。同じ補助魔法の使い手であり、レイピアと言う刺突を得意とする細剣の使い手、彼の同僚で、友人のケイタ・イナバの義娘、エル・フィアンの二人が、中央大陸事件の折に。長く逗留していた、
二人は、カールに好意を持ってたようだが、可愛らしいエルの一途な気持ちに負けたようだ……、
エルは『瞬く扉』の調整に、度々我が国に訪れ。二人と友人関係を気付いてると耳にしている。良くも悪くも人は成長して行く。
━━当時は思いもしなかった、みんな一国を担う人間になるとはな……、
人の縁とはなんとも不思議だと、感じずにはいられない。あのオーラルが国を興すとは……、
「そうか……頑張るのだぞ?」
「はい」
柔らかく。それでいて芯の通った、自信溢れる。いい顔をしている。ルルフが退席して、幾つか案件をこなし、夫に促され。自室で休むことになった、
夫の煎れてくれた。桜の塩漬け湯を堪能して、痛む腰をマッサージしてくれる。済まないと思いつつ。ジンベイの優しさに甘えてしまう。幸せだと感じる時間である。
その夜━━腰を、剣のみねで、力一杯叩くような痛みに、目覚めた。
「ジンベイ!」
あまりの痛みに不覚にも産まれて初めて、泣きわめき、夫にすがった。
おろおろする夫を蹴散らして、侍女達が現れ。慣れた物で、さっさとお産の準備がなされた。痛みに泣き叫ぶミザイナに、
「ミザイナ様。お子様が、お母さんに会いたいと頑張っております、貴女が頑張らないでどうしますか?」
「うっぐ……、頑張る……」
ジンベイが優しく手を握ってくれ、悪いと思いつつ、叫び声をあげながら、爪を立てた、
「力を抜いて!、ハッハッフ~、この呼吸を繰り返して、合図したら力んでください」
「ハッハッフ~、ハッハッフ~」
何も考えれず。言われるまま従った。痛みは酷く。自分は死んでしまうのではないか、このまま産まれないのではないか、不安に苛まれる。 「ミザイナ大丈夫……」
ぼくとつと優しさしい眼差しで見詰められて、ホッコリ……胸が熱くなる。
「今です。力んで!」
「ふっ……ぐっ。ああああああ!」
「息を吐いて、もう一度行きます。力んで」
「ふっ……ぐっあああああああああ━━━」骨も折れよと渾身の力で、夫の手を握る。
「頭が見えて来ました、もうすぐお子様に会えます。さあ頑張って、力んで」
「ふっ……、ぐっあああああああああ!」
何かが抜けた……、
『オンギャ!、オンギャ!』
元気な鳴き声が響く。
「ミザイナ様!おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」
湯あみされ。綺麗になった我が子を受け取り、
胸に抱いた瞬間━━━。涙が流れた。
「ミザイナ……、僕を父親にさせてくれありがとう……」
ジンベイの優しい言葉に、再び涙が溢れた。
翌日━━、出産終えたと聞いた、ピアンザだが、授乳が終わるの待って、久しぶりの対面に、お互い気恥ずかし気持ちになる。
「おめでとうミザイナ」「ありがとうピアンザ」
長い、本当に長い間しみじみ言葉を探す旧友二人。
「あなた……」白銀の美しい髪の女性、彼女がピアンザの妻シレーヌであろう、ミザイナを気遣う優しい眼差しに気付いた、
「ああ済まない、妻のシレーヌ、子の……」
「リムルです!」
奥方に似た、美しい女の子が、元気に答えた。
「よく来てくれました。バタバタしてますが、ゆるりして下さいませ」
「ありがとうございますミザイナ様」
柔らかく微笑み、
「よろしければ、抱かせて頂けますか?」
小さな口で、欠伸する愛らしい様子に。目が釘付けである。
「ええ喜んで」同じ女性、気苦労が分かるのか、話が弾む。
「ジンベイ殿、男同志良かったら、訓練所でも視察しませんか?」
お互い口下手なのは理解している。女性の話題は、苦手とする二人は、抜ける口実に都合が良かった、
「そう言えば……、オーラル様のところ。来年お産まれになるそうですわ」
「そのようだ、クルミを連れては行けないだろうが……」
「可愛らしお名前ですね」
話は長くなりそうだと、早々に退散した。夫達の様子に苦笑を浮かべ。
「殿方は、長話嫌いますから」
「確かに……、私も苦手な筈だったのだがな」
「そこは女同士と言うことで、何でも相談下さい」さばさばした性格の女性のようで。話してるのは気が楽だ。芯の強さは自分に似た感じがある。
「ミザイナ様、オーラル様の奥様。リーラ様とお会いになされば、仲良くなれますわ。彼女は本当にミザイナ様に似てますから」
「わっ私にか?」
戸惑いが隠せない、
「それはもう。気の強さまで」
「へっ……」
クスクスからかうような笑みを見て、思わず笑っていた、
「済まない、気を使わせた……」
シレーヌの気遣いに、今ようやく気がついた、
「あら気が付かれちゃいましたわ、本当はリーラ様、とても素敵な女性なんですよ」
途端、大人の女性の喋り方が一変。雰囲気まで可愛らしい女性になって、
「こんなに直ぐに見破られるなんて、リーラ様以来かしら」
艶やかに笑む姿が、あまりに可愛らしくて、つい笑みを浮かべた、
「良かった!、ようやく笑って下さいました」
「あっ……」
本当だ……、自分では笑えてると思ってたが、
「良かったらクルミ様のこと、少し見てますから、ゆっくりお休み下さい」
「………ありがとう、助かる」
肩の力を抜いて、ようやく眠る事が出来た。
━━ピアンザ来日した日から半年……。
何かと忙しい中。クルミと毎日過ごせる時間は少ないが、初めて寝返りうてた日は、手放しで娘は天才だと思い、最初に名前呼ばれる日を夫婦で、楽しみにしていた。
「クルミ……数日会えないが、私はお前を愛してる」頬に口付けすると、キャキャキャ喜んでいた、
栗色のクルミの髪は、私とジンベイの色が混じった色で。愛しく撫でる傍ら、久しぶりの友と、シレーヌの言ってた、素敵な女性とやらに会うのが楽しみで、口元が綻ぶ。シレーヌと出会い。子育ては無理をしなくてよいと知り。
あの日から、自然と母となれた気がしていた、ハッと思いだした、夫は言ってた……、成る程……、目を細め。愛しい我が子を見詰め。
「クルミ……、私を母にしてくれて、ありがとう……」
心からそう言える自信があった。
……快晴の空、
子を生み育てるのは、大変だが、悪くない日々である。




