大佐ですが何か?
ついに一軍を率いることになったオーラル、多くの将兵を失ったアレイク王国のため。苦労人は奇策を次々に打ち立て、逆境を切り開く。
プロローグ
━━━ケレル殿下暗殺━━。
━━━カレイラ准将戦死━━。
次々と凶報。
訃報が……。
黒衣の長ノルカの元に、届いたのは、
未明のこと━━、
妹レイカは、ターミナルの街で、王女を見守る。任についていたため、黒衣の小頭が、いないスキを突かれた……、
黒衣の一族。始まって以来の大失態である……。ノルカは、相手が誰か、すぐに突き止め、黒衣の手練れを連れ、
追撃を開始したが……、
━━状況は芳しくない……、
小頭のレイカが、いなくても、ケレル殿下には、多数の手練れの護衛を、付けていたのだ、護衛もろとも誰に気付かれることなく……、
「くっ……」奴は消えた、闇と呼ばれる。暗殺者によって……、
血の滲むほど、唇を咬み、うっすら血を滴らせながら、王に、報告に戻る他ない虚無感━━━。
配下から、カレイラ准将の死体の側に、吸血鬼を、殺した聖剣が、刃こぼれ一つなく、突き刺さっていたのを回収していた。せめてオーラルに届けねば……、この国の要は、あの男と……、
「逃げられたようだな…」
気配が、突然生まれた、現れたのは、弓を肩に掛ける。初老の男である。
「ヴァレ・オーダイ……」
慌てる配下を、手で制した、ノルカもよく知った男だからだ。
こんな時……王の傍らを離れたのは、何故か?、問う眼差しのノルカ、オーダイが、苦々しい顔をして、肩を竦める。
「殿下が殺されるまで、鷲も気付かなんだ」
陛下は、黒衣の力では無理だと判断されたか、
わかっている……。オーダイは、陛下の意向を読み取り……、自分たちの無力を、勝ち気なノルカは、許はせなかった、刺々しくなるのを承知で、
「陛下は?…」
面白そうにノルカの反応を見ながら、吐息を吐く自然体。憎たらしい程。落ち着いてる。
「カレイラが、陛下の護衛を作っていた、鷲の小倅がおるわい」
あの者達か……、兵に向かないが、何れも。ずば抜けた、技能を持っていた……。カレイラは、特殊技能をもつ兵達を集め、王族の護衛部隊を、作るつもりだったかもしれない……。今となっては解らないが、
「あやつらが、突如、戻ったからの~鷲が、城におるより、おまえさんに。手を貸す方が、有意義じゃろ?」
「あう……」
痛いところ突かれた、正論だった……、皇子の暗殺者を、例え見付けたとして?、ノルカと同等の手練れが、殺されたのだノルカの腕で、勝てるか、疑問である。
「さてさて、ギルバートの小倅は、良いとして、荒れるかもしれんな……」
言わんとしてることが分かる。その事は、ノルカが一番痛感していて。歯噛みする。
力ある。重鎮が減り、跡継ぎのケレル殿下を失った今……、最早ミレーヌ王女しかいないのだ……、
貴族達は、自分たちの子を……、姫の婿にと、足場堅めに動き出したと聞いている。混乱が予想される最中。明日にも戻られる王女が、国内の混乱に拍車を掛ける。優しい姫が、憐れに思えた、貴族がどう動く?、荒れるのは、目に見えていた。
さらに……、聖騎士。あれほどの力を見た以上……、魔王と、内通する貴族が、出かねない……、
最大の問題は……、貴族達の息が、濃厚な、近衛連隊のみ……無事であったこと……、何かあった場合、過ぎた権力に、溺れる者が、現れるに違いない。
━━━最早………。
ノルカ達黒衣が、動いて、どうこう出来る。問題ではない……、ノルカには、手が出せない、政治的問題である。国王は、貴族の増長が起きぬよう。手を打ったようだが……、最大の懸念である。
━━━カレイラ師団、駐屯地、第1分隊舎、
ジン・ゲルマン中尉、ロート・ハレス中尉は、押し出されるように、階級が上げられた、先のリドラニア公国との戦で、功績を上げたからと。表向きは……そうなっているが、
オーラル・ハウチューデン、大佐就任が決定され、帰還しだい、オーラル師団が、再編成される運びである。異例の事だが、ラドワニア神国の救国の英雄オーラルの名を、大々的に押し出す。苦し紛れ。政治的配慮なされた人事であった、さらに……、人員不足が、問題となった、元カレイラ師団、ガイロン重騎士団には━━━━、
戦士学校に入ったばかりの新人が、配属される。━━━先行きは暗反たるもの………。明日、
オーラル一行が、ターミナルの街に、戻る予定である。
一方で、留守を預かり無事だった、アロ補佐官は、オーラル大佐補佐として慰留する事が、決定していた………、
━━━再び、中継の街を抜け、急に、肌寒くなってきた一行。女性陣は、途中買い求めた、厚手のコートを羽織る。肌寒さが緩和され、クエナは数日前に、見た自然の脅威の光景を、思い出した……、
「あいつどうしてるかな……」
以前友人のミリアと休日を過ごした時出会った、男性がいた、オーラルやミリアに迷惑かけたけど……、意気投合して、密かに付き合っている思い人の顔が浮かぶ、この旅で不思議な、亜人に触れ、はぐれワームに襲われ。
様々な経験を経て、クエナは自分の気持ちに気付いていた、真面目で、不器用な自分と似た……、小さく思いを吐露した。
「会いたいな……」
旅は、驚きの連続であった、実り多い旅も間もなく終わる。辺りの景色が、水晶混じりの鍾乳石柱に変わり、
やがて……、
大洞入り口、
ターミナルに、上がる。坂に差し掛かかる。凄まじいスピードで、土竜は急坂を、かけ上がり…………、
ターミナルの街……、駅舎に到着する━━。
オーラルがギルドで、手続きを済ませ、交易品として、余分な砂糖、銅を含む、小麦の乾燥した物、織物の品を、ギルドの仲介を依頼して、売り上げは、オリベ老の厩舎に振り込みを頼んだ、
「Jr.お疲れ様、また頼むよ」
労を労い、駅舎の厩務員に、途中で手に入れた、はぐれワームの肉を分けた。Jr.にも与えるよう頼み。その間、一同は先に、上の街に上がった、
━━━オーラルの帰還を、聞き。オリベ老、厩務員数人。見習いを引き連れ、さらに常駐してた、ドワーフの職人までが、やって来て、挨拶も早々に、新しい連結車両の点検をはじめた。
「お前さん、大変なことになっとる。上の街に急げ!、王宮から迎えが、きちょる。この新しい連結車両のことは、また聞く」
オリベ老にせっつかれ、渋々。自分の荷を手に、上の街に上がった、
…………沢山の人々が集まる中。沈鬱な、民の顔。重い空気が澱のように深く沈む。嫌な……予感がした、住人に見守られた姫達を見つけ……。血の気を失い真っ青な顔をしたミレーヌ姫が、オーラル見つけ、信頼の色を見せた。
「オーラル大佐、ご苦労様でした!」
大佐?聞き違いかと……、首を傾げたら。若い仕官は、緊張した面持ちで、命令書と、分厚い報告書を渡された。
怪訝な顔のオーラルに、仕官は青白い顔をして、一歩下がる。
━━オーラルは最初の一文を見てまさに、我が目を疑っていた……、
カレイラ准将戦死……、ケレル殿下暗殺、
信じられない……、カレイラ准将には、あの剣を、わざわざ渡していたのに……、
「姫様……」侍女を務める。ジーナに支えられ。一瞬こちらに視線が送られたので、小さく頷き返した、近衛連隊が、急遽迎えに来た理由が分かる。
貴族の政治的介入である。それ以上に━━、
次代の女王となる姫を。守る必要があると判断されたのだろう、
一度セレスト千騎長とお会いしてるが、貴族らしくない武人であった。
ミレーヌ姫と侍女ジーナが馬車に乗り込み。走り去るのを見送ってから、はたと気付いた………、
姫様は、オーラル達も乗って来た馬車で、帰ったと言う事実に……。
と、言うことは……、馬を借りて、帰るしかないのだが……、
「ちょっと待った!私は、馬に乗れないのよ」慌てるミラ。仕方なく、クエナが、ミラを前に乗せて行くことに。同じく馬に乗れないエルをカールが、オーラルは、自然とリーラ侍祭を前に乗せ、王都に急いだ、
━━━元リドラニア公国、現聖帝の国……、
白銀色に、染められる城、一切。人の気配なく、王座に座るは……、聖帝を殺したとされる。聖騎士ナタク、聖騎士団を1人で倒したと言われていた、しかし………聖騎士団は、未だに存在していた……、
ナタクは実に、つまらなそうな眼差しを、眼前の空間を見ながら嘆息していた、
「いつまでそうしている?、幻影の魔女ラグラドよ」
ナタクは何もない、眼前やや先の虚空を、正確に見ていた、舌打ちが聞こえてきて、忌々しそうに現れたのは、悪意を瞳に宿す。美しい少女が何も無い空間に突如現れた、
━━驚くこともない、6将に名を連ねる。幻影の魔女と呼ばれる少女は、特技な力を内に飼っているのだから……、
「お前の伴侶はどうした?」
ラグラドの傍ら、常に少女を守る影のように、ラグラドの傍らにいて少女の心を守ってた。緑眼の青年がいるのだが……、
「ランバスターの所よ…………」
一瞬……寂しげな顔をしたが、直ぐ持ち前の負けん気と、悪意に蝕まれた心が、瞳に現れ宿す。ナタクを忌み。嫌うラグラドは、不機嫌そうに睨み付けた、
「ふむ……」
ランバスタ・ラロバイン、将軍と呼ばれる。6将の中で唯一の人間だが、勇猛さ、魔王への忠誠心、ナタクも一目置く、稀代の勇将である。
なるほど…あの緑眼の騎士は、この少女の傍らにあるより、1人戦場を駆ける方が、あの眼の能力を使い用があるか。
お互いの存在が……、本来の能力を阻害していると、二人は気付いていないようだが……、
「お前は、帝都にいる筈だ?、何をしに来た」
一瞬……、
不安定な表情をした、ラグラドだったが……、忌々しそうに、舌打ちした、
「お前が、リドラニアの禁呪を持っている。そうだな?」
邪悪な欲望と、僅かな不安……、ナタクの眼は、ラグラドの心の動きを、正確に見ていた、『狂ったか………』
少女の中に住んでいる。生き物……、魔王よ……良いのだな……?、狂喜の女神ルグワイト解き放って……、少女の中で、狂喜の女神が、蛇体をくねらせ。歓喜に、恍惚とナタクに懇願する。
「力を寄越せ……、あの男を殺せる力を…」
ラグラドの心を守る。緑眼の騎士はいない……、この場にいない、いっそ邪魔な少女を殺すべきであるが……、優しき魔王は、許さぬだろう……、それに、あの者の力が、いまだ足りぬと、感じたか……。
「良かろう……、お前に━━禁忌の書をくれてやる。好きに使うがいい」
ナタクが、手を翳すと。ラグラドの眼前に、一冊の本が浮かぶ、
「あっ……ああ……、これが……」歓喜と狂喜が同時に内包する。恍惚の顔で、禁忌の書に手が触れた刹那、心の砕けた音を、ナタクだけが聞いていた……、
━━人は、その心を良心と呼ぶ……、
「蛇神になるか、先祖返りよ」
ラグラドの下半身は、虹色に輝く、蛇体をくねらせる幻影を、見ていた、
━━━北大陸、西の平原、ランバスタ・ラロバイン将軍率いる。
魔王軍5万、本陣に、左右15000づつの歩兵が、陣形を組み合わせた、鶴翼の陣形である。対するレオール連合は、少数の部隊を先端に集め、少し離れ、一軍45000が集団で、固まる。一点突破から、魔王軍の本陣を急襲する算段であろうか、
━━━北大陸に、元々国と言う概念は存在しない、16ある部族が、それぞれの地域で、独自のコミュニティを作るだけで、各部族に王はいない、習わしで、強者や長老に選ばれた者が族長になる決まりである。
━━━レイナ・フォルト宰相は………、
北大陸。最大勢力を誇る。ファルバス族の族長の娘でしかなかった━━、アレイ学園に在籍していたが、父からお見合いを申し付けられ。一度帰郷するも。魔王ピアンザの狙いにいち早く気付き、父である族長を説き伏せたが、父は聞く耳を持たず。一笑に伏した、だからレイナは力を得る為。父である族長を倒して、ファルバス族の皆に。自身が族長に相応しいと見せ付けた。
レイナは族長になるや、次々と、他族長と面会を求めた、時に話を聞かせる手段として、各部族の勇者と、一騎討ちで倒し、話の解る族長とは対話で、利益で動く族長には、部族が一時的でも統一することで、莫大な利益を得ることをちらつかせた。
連日の説得。実力行使により瞬く間に各部族の戦士・勇者達から信用を得ていった。
遂に16部族を纏めあげて、族長会議を開くまでに至った。そして提案した魔王軍を北大陸から閉め出す間だけ。レイナに戦士達を指揮する権限を。族長の名に近い約束すると……。あくまでも一時的と族長達に認めさせ。これを期に族長達が話し合いの場をもたらせ。ある取り決めをさせた。それが元老院制度。族長議会である。こうして16部族は一時的にではあるが、連合国としての様相を作った、
魔王軍の船団が、接岸する10日前のことだった━━、
魔王軍としては、沢山ある部族を一つ一つ。攻めて行けばよい。それだけの戦になる筈だった━━━、
あれから一年あまりもの時間を、無為に、費やして……、ようやく西の平原に陣営を築くまでに至った。
聞いてるのか不安になったが、ランバスタは精悍な顔立ちをやや曇らせ、長きに渡る激戦、数々の煮え湯を飲まされ続けられて。ギラムと見た目はさほど歳は変わらぬ筈が……20は、老けたように見受けられた、
━━ギラムの心は散々であった……。この大陸に思い人はいない、何時も近くにいた彼女がいない……、無茶をしなければ良いが……、ラグラドの顔を思い浮かべ、胸騒ぎが治まらない……、
━━ランバスタの説明は聞いていた、が……、首を微かに振りながら、心配ばかりを考える。
しかしそれは杞憂だと言い聞かせる。今は目の前を見なければならない。「分かった……、遊撃3000を率いて、土竜を操るその男を足止めすれば良いのだな?」
「うむ!奴は、心算凄まじい、くれぐれも油断するな」
何度も念を押され、流石に苦笑浮かべた。
━━レオール連合陣営、レイナは、一騎当千を誇る。16部族の勇者100名を選び、
百騎長・千騎長とし。細かい策を指示していた、
この一年余りの出来事は、レイナを連合国に参加した皆に、部族の垣根を取り払い。自分たち族長と同等以上の信頼を与えていた。
「よ~。レイナちゃん、元気かな~。みんなご苦労さんだね」
実に、軽口が似合うシニカルな笑みを見て、
「リブラ将軍は、相変わらずですな~、もしかして土竜舎で寝てました?」
勇者の一人が軽口に答えた。
「ん?どうして………」百騎長の1人が、癖のある髪に付いてる。茶色い藁屑を指した。
「おっと~こいつはいかん。せっかくの男前が、台無しだ」
おどける仕草がやけに似合うと、小さく嘆息していた、この顔を見ると、大切な友人の顔とだぶり。切なくなるのだ、彼はリブラと名乗ったが、本名か解らないし……。一見。怪しいばかりの男なのだが……、
何処か━━憎めない。魅力があるのだ、
それに……、左腕に着けてる赤い手甲……、年季の入ったくすんだ赤だが、北大陸で、忘れ去られた。土竜乗り、土竜騎士の証であった。
━━おそらくだが……、リブラは世界の大穴、デスホールに落ちたか、何らかの事故にあったのではないかと、推測されている。名前以外の全てを失うほどの怪我を頭に受けたからだ、忙しさに忘れそうになるが、今のレオールがあるのも全てはリブラとの出会いがあったからである。
━━今から一年前……。リブラと初めて出会ったのは、北大陸の南にある。ターミナルの村だった、
当時のターミナルは僅かに。土竜使いやファームを営む田舎で、住人のほとんどが定期便の御者で生計を立てていた。
そもそも━━北大陸には、他の大陸にいない地上を走る土竜が存在しいて、馬が少ない北大陸では土竜馬車の定期便が各部族の都を繋いで、大陸中を走っていた。
━━ある日のこと。レイナはターミナルの村に。やたら腕利きだが、記憶を失った、土竜騎士が、行き倒れていたと聞いて、レイナは少し興味を抱き彼を調べた。
━━━当時のレオール連合は、魔王軍の船団を、何とか撃退した、3日後のことであった。当初……リブラのことをスパイではないかとか、様々な憶測があったが……、
レイナはターミナルの村長に会って話をした、するとリブラを見つけた経緯があまりに奇妙で、不可解。あくまでも臆測として、何らかの事故により失われた北大陸と。東大陸間の迷宮に迷い込んで、北大陸まで来てしまったのでは無いか?、と考えた。
レイナにはアレイク王国に、多少知り合いがいる。後で調べようとしたのだが……、魔王軍の猛攻、馴れぬ政治に苦心する日々。言い訳だが忙しさのあまり忘れてしまっていた。
そもそも北大陸に住まう人々にとって、数百年も昔に地下迷宮は失われていたので、北大陸にも地下迷宮があったなど、誰も信じてはいなかった、何せ土竜とは地上を走る物だとそう思っていたからだ。
しかしアレイ学園に留学してるとき。噂で地下を走る土竜の存在がいると初めて知った。リブラと相棒の土竜暴君に出会うまでは……、その事すっかり忘れていた。
彼が唯一思い出したのは、相棒の名前だけだった、困惑したが部族会の命で、レイナはリブラを見張る目的で、都に連れ帰ったのだが……、
彼は幾度もレイナを救い。北大陸まで救うことになるとは、
その時━━考えもしなかった……。
━━半年前……。
「野生の竜を、手なずけたそうですね?」
唇をすがめ、不機嫌になるのが自分でも止められない。彼は元来そうした性格なのか、はすぐにフラりいなくなるので、今回も何時ものこと……、そう思っていた。
そしたらあの……狂暴な竜の住む山、竜の峰に入り込み、竜王と呼ばれる。青い鱗の巨大な竜を従え。戻った時ほど……、レイナは驚いたことはなかった、
レイナが、ターミナルの村から、リブラを都に連れ帰った当初。シニカルに笑い。適当な性格のリブラは嫌われ、警戒されていた。
……何時からだろう……、16部族の長から、尊敬され将軍と呼ばれるようになったのは……、
竜王をの心を掴み。勇者達を一蹴するや長老達はリブラを尊敬含め『竜の騎士』と呼んでいた。本人は、興味なさそうだし気付いてさえいないかも……、とてつもないことをしてるのにだ……、
━━━遥か昔、北大陸にも国があった、
レオールとは……16部族の長が、認めた、唯一無二の王に与えられた。称号で、別名を『竜を統べる連合の王』(レオール)と呼ばれた王がいたと言う、
二週間前……、再びリブラはフラリと居なくなり4頭の野生の若い竜を、従えて戻った時。父である。前族長から聞いた話だ……。
ファルバスは王の一族だと。その時初めて知った。
━━父は長達の増長に。苦労させられていた、日に日に自分たちの待遇を良くするよう求めた。色々と思うことはあったが、レイナに内緒で、リブラに竜の話をしていた。一時的に手を組んで、頭に据えられたレイナだが、所詮は族長達から。一時的に権限を与えられたに過ぎない。このまま魔王軍に攻め続けられたら。内部からいつ破綻してもおかしくない状況。薄氷の上にレオールは乗っかっていた。
レイナはファルバスの族長と言う立場はあるが、勇者である。それは何度も1人で戦い。傷付き、泣きそうになる気持ちを押さえ込み。ようやく部族会。長老達に認められたのは……、二度目の魔王軍上陸を防げたことと、
「別動隊がいるな~ありゃ」
「へっ、あんた戦略とか分かる人なの?」
リブラに言われるも信じなかったばかりに、一度は町の1つが占拠される失態を演じた。
「今日は曇りか、なら行けるか?」「きゅーい!」
リブラと相棒暴君の参戦による。劇的な逆転劇に。皆は魅了されたからであろう……、
その頃からリブラは皆に受け入れられた。
「色々考えたが、この戦争が終わるまで俺が手を貸すことにした」
にかりシニカルに宣言されて、
「本気ですか?」
自分のことあるのに……、何だか初めて信頼出来る仲間を得た気がした。でも……彼の凄まじい先見性と。戦場での指揮能力。相手の意表を突く奇抜なアイデア。驚くような奇襲を幾度も成功させ。英雄と密かに皆が称賛した。
魔王軍を退けること100戦無敗。民から尊敬を込めて将軍と呼ばれるようになった。そんなリブラが一目置くレイナは……、
自然と全族長からも、一目置かれるようになり、結果━━宰相の地位に見合う権限を得るようになった。
「リブラさん!、準備出来てます」
「レダか、準備とは?」頬に、引っ掻き傷をこさえたロバス族の若者で、リブラを尊敬するあまり、従者を買ってでていた。
「きひっ……、内緒です~レイナさん」
見たまんま、ガキ大将のような面立ちを、悪戯っ子のように輝かせ、楽しそうに笑うが、リブラを見る眼差しはキラキラしていて素直な子供のように笑う、
ムムム……、ミミズを額に、飼い出したレイナ、肩を叩き立ち去り際、
「まあ~楽しみにしてなよ~」朗らかに笑いながら、理由も告げず。立ち去るのだ、憮然と、リブラの背を睨む。
「こう言う所は、オー君のが優しいのに……」
諦めたように肩を竦めていた……。それからジーナからの密書に眼を落として……、沈鬱な、顔を見せたが……、今は目の前のこと、集中しなくては……、
相手は、常勝ランバスタ将軍だけではない━━━、
……眼の良い斥候が、緑眼緑髪の青年が、ランバスタ将軍の傍らにいたと。報告してきていた、ほぼ間違いなく……、緑眼の騎士だろう……、
リドラニア公国が落ちて、曲がりなりに……、魔王軍の拠点が、東大陸に出来たのだ……、目の上の瘤である。レオール連合に、戦力を割いてきた、そう考えれば、緑眼の騎士が現れた理由が解る。
━━━東大陸、聖アレイク王国……、
ケレル殿下病死と発表され。国民は荼毘に伏した……、
人々は……、深い悲しみに暮れる━━。
それも……仕方ないのだ、王太子レヴル殿下に続き、聖アレイク王国の後継者が、二人も病死とはと……、葬列の馬車に逐わす。ミレーヌ姫を思い。涙した、
馬車から僅かに覗くミレーヌ姫の愛らしい面差しは、悲しみにくれ、泣き腫らした眼は、赤い。
━━最後の希望と。
民に呼ばれるミレーヌ姫━━、
ファレイナ公国の女王との謁見に赴いたミレーヌ姫は、内乱騒ぎに巻き込まれたと言う……、ミレーヌ姫が、エトワール公爵を単身諌め。ミザイナ女王との凝りをほぐして、平定した手腕が、広く。民に知らされている。
″我等が、皇女陛下は、実に聡明だと……、″
あの『オールラウンダー』オーラル・ハウチューデンが、異例の大佐就任が、早々民に伝えられていた中……。姫様の武勇は、民の不安を少しでも、軽減させる効果を生んでいた━━、
全て、オーラルの一計である。
━━━ケレル殿下の葬列を、王都の民は、最期を、見送ろうと、集まっていた。
━━━警護にあたるのは、近衛連隊長セレスト・ブレア千騎長が率いた近衛連隊である。
セレストは貴族の名家ブレアの出ながら、槍の腕と武名が有名で、貴族には珍しく厳格な人物。
馬上より部下並びに、怪しい者がいないか眼を光らせ。集まった民の顔を見渡す━━━。
「うむ……」
悲しみはあるが、オーラルの流した噂が、項をそうして、希望を見出だしたように明るい、
悲しみに暮れるミレーヌ姫を、慰める言葉が囁かれ、姫を信望する様子に、少しならず。感心した、
「レヴァの勘も。あながち、正しかったか?」
1人ごちりながら、皇女の乗る馬車を警護する。オーラル達を、見やり。馬首を先に向け。暗雲広がる空を見上げた。
━━━王城……、西側通路、
「これはこれはケイタ筆頭……」王宮図書館の前で、わざわざケイタが出てくるのを待っていたのか?、眉を寄せ。二人の貴族を見ていた。明らかに意図を、感じたケイタだが……、一切表に出さず笑みを蓄えた。
「これはグラノフ伯爵、ベルナルド男爵」
ようやく顔と、名前を思いだしたケイタは、二人に一礼する。
確か……グラノフ・ノベラ、ノベラ家は、聖人アレクの側近をしていた家系で、フロスト騎士団前団長をしていた、
もう1人は、ベルナルド・ピオテーレ元近衛小隊長、息子のレヴァ・ピオテーレが、王の護衛に選ばれ、男爵になった人物である。
「少し……、お時間よろしいですかな?」意味ありげな、グラノフに促され、断る理由もなく、了承するしかない。
再び、図書館に入るなり、ベルナルドが、扉の施錠を施した、中の会話が漏れぬよう、魔法で防音する。念の入りようである。いささか早まったかと。ケイタが、後悔してると、
「ケイタ筆頭は、オーラル大佐と、親友だそうですな?」
ゴクリ、グラノフ伯爵が、ケイタに抱き付かん勢いで、
「何卒!我が娘にと思いまして」
「えっ……、え″━━━」
驚愕するケイタ、
「たっ確かに、オーラル先輩とは、友達ですが………」
しかも……義娘まで、世話になってるし。
「おお!それは是非に!、お話だけでも聞いて貰えるようお願いしましたぞ」無理やり約束させられ、ようやく解放されたのは、夜中である。
それから連日連夜━━。
貴族方の訪問に、苦悩したケイタは、妻に泣き付いた、流石にシルビアはケイタに同情したが、貴族達の諭さに、呆れた、一方で、財務のトップとして、仕方ないなと肩を竦めた。
━━━現在国内の警備を担当する。フロスト騎士団、侵略に対して、国の守りとなるガイロン重騎士団、新しく新設されたが、国の片翼を担う筈だったカレイラ師団、国の守りは……壊滅状態だった、
曲がりに……、国内が瓦解しないのは、皇女の外交的勇名と、もう1人の『オールラウンダー』オーラルが、カレイラ師団を受け継ぎ、第1師団の団長に就任してからであろうか……、
━━オーラルが城に呼ばれた日━━。
全ては、重鎮、貴族に衝撃を与えたのだ、
━━皇女帰還━━、
半日遅れで間もなく。オーラル達護衛が、城に入った………、
しかし早々にオーラルだけは、王に呼ばれ。登城していた………、
━━王座の間、急を知らされたアレイク王国を担う、重鎮、有力貴族が集まる重苦しい空気の中。オーラルは会議に出席させられていた……、
「長旅、ご苦労であったオーラルよ、今は、一大事ゆえ、全てを省く。よいな?」
国王直々の申し出に、場違いな場所に迷い込んだ若僧を、物色するような目で、様々な人間が見ていた。その為オーラルの傍らにいたアロは気の毒なほど血の気を失い。紙よりも白い顔をして、身を縮めた。
「これを見てくれ……」近衛兵がターミナルの街で、手渡してきた内容の所載が、より詳しく記された書類を渡された。
しばらく紙を捲る音が響いて、
「……成る程……」
多大な兵と人命が失われたこと、重鎮の中核を担う、カレイラ・パレス戦死。ギルバート・ガイロン、ブラレール・ロワイ両名の重傷……。何があったとして、これでは対応出来ないのが現状である。
「そちにも聞く。よき考えあれば、申すがよい」わざわざ国王が、発言を求めたのは、オーラルの見識・知識・判断力を見たいが為であろう、国王の考えを読み。
「では1つ……、直ちに黒衣の者を使って、姫様の勇名を、噂話として流布を」
意外な提案に、虚を突かれた国王だが、内務を勤める重鎮達は成る程と、感心したように、唸る。
「それから、一計があります。失われた各軍の人員を増やし、ある程度の力量のある者を、集める妙手が……」
流石は『オールラウンダー』意外と優れた、先見性を秘めてるようだと、明るい話題に口元を綻ばせた王は。表情を引き締め。鋭い眼差しをオーラルに向けていた。
「そのような妙手、本当にあると申すのだな?」眼を細め、問うような眼差しの陛下に。一つ頷き、
……ある提案を述べ、
重鎮、貴族処か。国王をも絶句させた━━、
無論保守派の貴族、重鎮から反論が出たが、
その度に、意外な解決案を提示して、反論した者は、オーラルの言葉に引き込まれて、最後には、口煩い有力貴族まで、たらし込んでしまった。
━━あの場に、夫のケイタはいなかった、
シルビアは財務のトップとして、参加し……、あの時の手腕に、舌を巻くしかない。
「異論が無いようである。オーラルの意見を採用する」
王の採決は、絶対である。全てをオーラルに一任した、最初こそ、不安を口にする重鎮はいた……、まだ若いオーラルに任せて良いのかと……、過去形になるのは、
━━数日後……、
第1師団、ガイロン重騎士団、フロスト騎士団の人員が、確保されたと報告が上がったから……。実績は示され。並み居る重鎮、貴族が、思わず唸る。
これ程目に見える形で、手腕を、見せられては、政治家と呼ばれた、一癖ある。貴族達ですら。オーラルに。一目置かざる得なかった、
「やれやれね。まさかあんな手を使うとは……」
オーラルが行ったのは━━、
実は、簡単なことだ、国が一つ無くなり、行き場を失った、戦士、職を失った者。年齢、性別に関係なく、第1師団は募集すると名言した。
オーラルが、貴族、重鎮に一目置かれた理由は、国王や並みいる重鎮に、様々な案件に。即座な回答を示して、その場で認めさせた点にある。
━━今まで、自国の人間を登用して、強国にあったアレイク王国だが━━、先の戦で、神話は崩れた。失った命はあまりにも多く、育たぬ若き芽に、頼るのではない……、
もうひとつの方法━━。
━━それは……、
連日。噂を知った、数多の人々が押し寄せ。第1師団を窓口に、アレイク王国は、国を失って、行き場を失った人々に、仕事と住まい、さらには国民として認めると……、大陸中に広げたのである。
━━━数日で、十分だった、数万もの志願兵が、集まり、治安に必要な人員を確保する一方………、
オーラルは、戦士だけでなく、師団の人員を管理する。管理運営を新たにする。経理部隊を軍部内に作り出して、責任者にアロ補佐官が就任した。最初は懐疑的な貴族会だったが、後々理由が解るようになり、理解を示したのである。
オーラルはさらに、国王に願い、今までこれといって放って置かれた形の元土竜騎士だった者達を、わざわざ呼び集めた。これをフロスト騎士団の人員に加えた。
当初なぜ?と、論争が上がったが、フロスト騎士団に編入され。数ヶ月の結果を見て、最早感心する他ない━━━。
━━━オーラルは、土竜騎士達の生活困窮な窮状を、民に正しく伝えた。フロスト騎士団のサポート役をさせることで、戸惑う民に少しずつ浸透させていた。さらにカール・シタインをフロスト騎士団と土竜ギルドの橋渡し役を一任していた、
生まれて初めての重責を背負うカールだが、持ち前の明るさと物怖じしない性格は、土竜ギルドとフロスト騎士のしこりを、解すに向いてるからとの判断で任せた、
無論様々な理由で、フロスト騎士団の現在責任者である。エレーナ大司教は困惑していた……、
しかし……。母である大司教を認めさせたのは、他でもないカールだった。
「オーラルは……、何故フロスト騎士団に?」
ギルドを通じて呼び集めた。引退した元土竜騎士達を前に、困惑してるエレーナ大司教に、
「母さん、聞いて欲しい……」
カールから、自分が目にした、土竜騎士の役割、改めてオーラルから聞き、自分の眼で見てきた、現状を、カールは憂いを込めて、母であり。アレイ教のトップを説得するべく。説得を試みた。
あまりにも見違えた我が子の姿。当初戸惑うばかりだったが、耳を傾ける内に……、我が身の浅はかさを知った、そして……エレーナ大司教は、成長した我が子の姿に涙を拭った。
━━━地下迷宮の小さな村や集落に住む。多くの土竜騎士者の人数は、レゾン王やエレーナ大司教が考えるより、実は多い……、
土竜とは、長年家族として、土竜騎士と共に生きる。なかには、子を成し、土竜が旅立ったため、地上での暮らしを求める者も多い、しかし現状では、ターミナル以外の街で、暮らすに、土竜騎士の身分と暮らしを正しく、理解していない者が、多いのが現状である。
土竜とて生き物だ、病や怪我が元で、死ぬことはかなりの確率であることだ、土竜を失った者達は、ターミナルの地上の街や、地下迷宮で生きる他、今のところ道はない、何せ、土竜騎士と言う仕事は、特殊過ぎた。
━━ターミナル意外の街では、異質扱いされてるから。与えられる仕事は限られる。そうなると収入が限られ、苦労してる者が多い……、オリベ老や厩務員から、聞いてたのを思い出したオーラルは、カールに話した、
「母さん、オーラルから言われて、納得したのが……」
土竜騎士の多くは、得てして、馬の扱いが上手く。戦士として優秀。魔法も使えると、
「まあまあ、それは……」
エレーナ大司教は驚きながらも、土竜騎士受け入れを快く了承した。
━━やはり軋轢は起こったが、カールが粘り強く両者の架け橋となり、少しずつ土竜騎士団として認知され。重宝されて行った。
━━クエナ・ガイロン少佐を、ガイロン重騎士団とのパイプ役に抜擢、元リドラニア公国騎士だった、志願兵が、数百人もいたので、ガイロン重騎士団に入団させることが決まった………、
元重騎士団ジタン・ロナベル教官の復職を、父ギルバート将軍に認めさせ、ジタン・ロナベルを、ガイロン重騎士団補佐官として取り立てた。
まさか自分が……、ギルバート閣下直々にお声を掛けられて、張り切るジタン教官の伝法で、容赦ない怒鳴り声は、新旧ガイロン重騎士を震え上がらせていると、
「全く頭が痛いわ」とクエナは嘆いていた。
オーラルは連日国王に請われ。城に詰めていた━━━、
国内外で起こる。様々な問題を、国王に意見を求められ。視点の違う意見を述べ、面白い解釈や解決策を考えついては、皆を驚かせ、いつしかオーラルは国政に無くてはならない存在と認識されていた。
そんな重責にあるオーラルを。貴族達が放って置くことはない……、いずれ国を担う准将の地位が与えられるのは、誰が見ても明らか、さすがに経験が少ない治世のこと、学ばせるつもりでいた国王にとって、嬉しい誤算である。
「ギルバート具合はどうだ?」
「これは陛下……、このような場所まで、有り難き幸せ」
ベッドから降りようとするギルバート・ガイロンを止め、ガイロン家に仕える。執事に眼差しを送ると、心得る執事は、
「お茶をお持ちします」
おいとまを告げ、辞する。しばし待ち、護衛のレヴァ・ピオテーレ、ヴァレ・カルバンの両名に、部屋の外で、控えるよう伝えた。
「だいぶ良いようだなギルバート……」安心した旧友の顔を見て、国王と重鎮の仮面を取り払い、
「済まないレゾ……、弱いな俺は……」
唇を噛み締める友の髪に。白い物が混じる頭を下げる━━━。
公私とも苦労を重ねた友の月日を、寂しく思いながら、そっと肩に手を乗せた。
「だが、拾い物もあった、そうだろギルバート?」
「確かに……」
微苦笑したギルバート、友が思い浮かべたのは、娘のクエナ少佐であろう……、王が耳にした限り、よくやっている━━━。
「あれは厳しい状況下。よくやってると思います……」
ギルバートの娘を思う気持ちも解る。
「そちに一つ断りを願いたくてな……」
「ヴァレ・オーダイ殿の就任ですな」「うむ………、流石に昇進させたばかりのオーラルを、准将に就任させるは、軋轢を生む、あの者はカレイラと違い、皆に好かれるが、時期尚早と考える。しかし軍部の将軍職が、空席では、体裁が悪いでな……」
名誉職であるが、ヴァレ・オーダイは准将の地位にある。実績も申し分なく。戦略的慧眼は有名だ、
「あの者が、首を縦に振りますかな?」
最大の懸念がそれである。良くも、悪くも息子のカルバンと違い、気分屋である。これには国王も苦笑を漏らしながら、
「実は、それが悩みでな……、オーラルにも良い考えがないか聞いたのだ……」
一瞬……、国王の顔に、困惑があり、迷いながら、口にした解決法に……、ギルバートは場所も忘れ、「マジですか?」
らしくない。昔の言葉使いが戻る。
━━その頃。クエナは、父に呼ばれ、部屋の前まで行くと、
「あっ…………」
「あっ……」
お互い、顔を赤くする。傍らの同僚レヴァに脇をつつかれ、益々赤面する二人。
ヴァレ・カルバンは、咳払いしながら、扉をノックした。クエナは嬉しそうに微笑していた。
━━━クエナが入室するさい、二人が交わす眼差しに気付き、ギルバートと国王は、胸中で唸る『マジですか……』学生時代、驚いた時に、使った言い回しである。二人は視線を合わせ頷きあう。
━━━ギルバート・ガイロン将軍の体調回復に、時間が必要と判断した、レゾン王は、ガイロン重騎士団将軍の職を辞させ、神の手。または王の弓と呼ばれる。『聖弓』ヴァレ・オーダイ准将を後任に着かせたと公式に、発表された。
━━なお就任が発表される前日、クエナ・ガイロン、ヴァレ・カルバンの婚礼がなされ。、知るものは、僅かな重鎮のみである。
クエナの晴れ姿に、寂しさと、嬉しさを浮かべ、眉間に皺を寄せる新婦の父ギルバート・ガイロンと、仏頂面ながら、クエナを息子の嫁に出来たが、今の地位に、憮然としてるオーダイは、眼を合わせていた。
似通った苦笑いを見て、諦めと、嘆息しながら。してやられたオーラルの姿を見つけ、お互い共通の話題を見つけて。
いつしか……酒まで酌み交わせていた。晴れの舞台の新郎新婦そっちのけである。
クエナの親友で、オーラルの姉ミリアと、姉弟の母ララに。着付けを手伝ってもらっていたクエナが戻って来て、父の醜態に赤面する。
ギルバート・ガイロンの妻は、早くに亡くなっていた……、
今まで━━━仕事を理由に、数ある再婚話を一笑にし。話を断り続け再婚せず。男手1人で、
育ててきた━━。
そのせいか……、クエナは不器用な女の子と育ち、ギルバートは密かに、らしくないと悩んだものだ……、
しみじみ涙ながら、美しく着飾ったクエナを目に呟けば、
「分かる!、解るぞ」
王の護衛に就任した、翌年妻に先立たれ。男手一つで息子を育てたオーダイも似た境遇だった、いつしか意気投合。昔話を肴に、盛り上がっていた……、徐々にそれが、娘や息子を持つ父親達まで混ざり込み大騒ぎである。
「も~うお父様たら」
恥ずかしいやら、懐かしいやら複雑な顔のクエナとカルバンは、幸せそうに笑いあった。
━━そんな親達の中に、レゾン王がいたのは内緒の話である。
━━━北大陸、魔王軍、陣幕。
人間が、戦う以上━━、休息と食事が必要である。
戦前━━、
早朝未明、日も登らぬ朝靄の中。焚き火の煙がいく筋。空に登って行く。昨日は、日が落ちるまで、一進一退の攻防に、多くの将兵が疲弊していた。
その中で、同じく表情が優れないのが、六将が1人。緑眼の騎士ギラムであった。満を持しての参戦、ようやく分厚い壁を破るかに見えたのもつかの間、巨大な竜に襲われ、混乱した魔王軍は、海岸近くまで下がるしかなかったのだ。
「まさか……竜まで操るとは………」
噂はあった。あくまでも噂と甘く見ていた。肩を負傷したギラムは、敵なから、感嘆たる思いを呟きだした。
「あの者は、力こそ違えど、ピアンザ様、ナタク殿に匹敵する奥深さを我は感じている」
こうまで見事にやられれば、ギラムとて納得した。何故ギラムをランバスタの援軍に送ったのか、今なら魔王の思惑に、気が付いた、ギラムの眼の力を使えと、ピアンザは言ってるのだ……、相手はそれほどの力があると━━。迷いはある。眼の力を使えば、竜と乗り手は殺せる……。だが……、力を失いギラムはしばらく動けなくなるリスクを伴う。
「ランバスタ……、次に、竜が現れたら、瞳の力を使う」
「やはり……、仕方あるまい、時間の心配もあるからの………」
武人であるランバスタの顔に。残念そうな面差しが浮かんだ。ギラムにも理解出来た。
しかし……、
ギラムには懸念もあった。以前オーラル・ハウチューデンに邪眼を使ったが、通用しなかった経緯があった。もしや土竜騎士には通用しない力だったら……、
ギラムの眼の力は2つ、石化ドレイン……、
相手を石のように硬直させて、生命力を奪う力であるもう一つが、魔力喰い……、
やるしかない……決意を決めた。
━━昨夜なにかと忙しく明け方にようやく眠れたレイナだが、リブラの急な呼び出しに起こされて、不機嫌そうな顔を隠さないまま。竜の寝床と呼ばれる洞穴を。降りていく。
やがて広い空間に出たレイナは、竜達に囲まれていたリブラを見つけ。目をしばたかせた。すると……一際目立つ竜に近寄り。真っ直ぐ見つめあっていたかと思えば、
「そうか……、あれは古代の民に間違いないか、あの目……」
青い鱗の竜は、頭をリブラに向け、金の眼を細める。
「やはりな……、するとあんたたちでは、分が悪いな…………」
不思議な気持ちを、レイナは覚えた。まるで……話してる?、
「おはよう~レイナ、ブライムもおはようだとさ」
「ブライム?、その竜の名前なのか」
そうだと言わんばかりに、竜の喉が、地鳴りのように響いた。
レイナがいるのは、本陣から少し離れて、竜の峰に近い、小山━━、
土竜が掘った、洞穴を、借りの住まいにして、竜の厩舎にしていた。
以前から……、リブラと竜の様子が、まるで話してるようだと聞いていた……、今になって気になって、聞いてみた。
「話せるよ~、それが契約に必要だからな」
何でもないことのように言われて、肩透かしを食らった気がした。にかりシニカルに笑うと、やはりな……オーラルに似ていた。最近思い出すことがあるのが、オーラルの父が行方不明であること。まさか……っていう思い、でも……て思う気持ち。半信半疑であった。
『案外本物かもしれない……、』
もしもリブラがオーラルの……、それが本物だとして……、リブラはどう見てもオーラルより僅かに。年上としか見えない年齢である。
全く理由が解らない以上……、オーラルにはまだ知らせるべきではない、そう結論付ける。
━━本音を言えば、オーラルに仄かな思いを懐いてたレイナだ、オーラルに似て、今まで自分を守ってくれた相手である。武人と名を馳せる。レイナとて女の子なのだから、言い訳を、口内で呟いていた。
━━━翌日の戦。なんとリブラが、馬を駆って現れた、虚を突かれたギラムの遊撃隊は、見事な技術、剣技、魔法の腕も凄まじく。ギラムの思惑が外されてしまい、仕方ない退却を余儀なくされた……。しかし狡猾な戦略の前についに孤立させられ。リブラの手で、ギラムは瞳の力を解放する間もなく、昏倒捕縛されていた。
リブラは直ちに命じた。魔王軍側にギラム捕縛を知らせたのだ。
動揺した魔王軍は、見る間に戦線が崩壊。一度戦線が崩れたら、もはや立て直す要素が無さすぎた。
「退却する!」
即断即決、ランバスタ将軍の英断に、魔王軍の将兵は、安堵した、
━━退却して行く魔王軍。レオール連合の将兵は、歓喜の雄叫びを上げた。
━━━虜囚となったギラムは、眼を隠され、自身の力を知る者が、居たことを痛感する。
「ラグラド……」
愛する。少女の名を呟いていた、
━━━ケレル殿下の葬儀が、滞りなく終えて。5日が過ぎたある日のこと、
━━再び、聖騎士団現わる。一報に、アレイク王国が派遣したのは……、僅か二名、『聖弓』ヴァレ・オウダイ准将。
『オールラウンダー』の称号を持つ。第1師団長オーラル・ハウチューデン大佐だけである。
━━━2対3001。馬鹿げた戦略をたてたのは、ガイロン重騎士団新任の准将と、第1師団の大佐。連名による策と呼べない愚策に王は呆れたが、他に手が無いと、説得され、許したのはまた国王であった━━。
白銀に輝く長剣を手に、ただ1人、軍勢を待ち構える。オーラルを見て、ナタクは、猛る笑みを深めた、「さすが……、我が認めた者よ、全軍!攻め称えよ」
ただ1人で一国、
ただ1人で軍勢、
ただ1人の王である。
『聖王の剣』に認められたナタクの命に答え。
騎馬兵1000が、突撃の陣形を築き、ただ1人のオーラルに向け、雪崩れ込む。
荒れ地を埋めるが如く白銀を輝かせ。ドウッと馬がかけ上がる。
国境に面した戦地は、冬間近であり乾燥時期に入っていた。辺り一面枯れ葉、ひび割れた大地は、騎兵の上げる砂煙を上げ。迫り来る。追従する歩兵、弓兵のスピードは、通常では考えられぬスピードで走る。
━━オーラルは静かに、迫り来る一軍を、平眼して、白銀の長剣を正眼に構え。素早く魔力を流し込み収束させ白銀に輝かせた。
「八ッ!?」
気合いを込めるや白銀の輝きが強くなる。
オーラルは、刀身を逆さにして、大地に突き刺すと、魔方陣を起動させた。
大規模魔方陣『大地の流動』複雑に絡み合った魔方陣の紋様が、魔力を帯びて浮かび上がり、
オーラルから前方10ワノール(キロメートル)の四方を泥濘に変えていた。
「なんと!、これ程の魔方陣を、1人で発動するか、オーラルよ」
肌が、泡立つほどの衝撃を受けたナタクの眼前、突如騎馬兵の前進が、遅まり。止まる。追従した歩兵も同様に、弓兵が一斉に矢を放つが、オーラルの前に展開した。風の防壁を越える力はなく。やがて騎士団は動きを止めていた、魔力を失う程、消耗したか…………、
「気付いたか、弱点に……」
敵対しながら、慧眼に、ナタクは感心していた。「だが……、まだ確かめたい、そなたが、我等の求める者か」
鋭い殺気が、魔方陣を展開する。オーラルまで届いた。
「ぬう。凄まじい圧力だ」
肌が痺れる程の殺気を感じて、魔方陣の起動を終えた聖剣を引き抜き、身構えた、
「なんと……」
呆れるオーラルが見たのは……、泥沼と化した、沼地を、足が沈む前に、次の一歩を進み。物ともしないナタクの実力に総毛立つ。
━━みるみるオーラルとの距離を縮め。肉迫して、ナタクは腰ために構える。抜刀の構え、
そのままの体勢を崩さず。平地を走るかのようにスピードを上げる様は、駿馬を凌駕する。抜刀。
交差した刹那。白銀の火花が散り。遅れて金属音が、後から野に響き渡る。
「ちっ…………」
手に鈍い痛みを覚えて、ナタクは飛び離れた、驚く毎に。ナタクの腕には、極細の二本の矢が突きたっていた、驚きに眼を見張る、
「ふん!」
僅かに、感じた気配を、切り裂いた、澄んだ金属音、足元に落ちた、極細の矢を、興味深く、観察した。
「ほう……、此を放つか?」髪の毛より僅かに太い程度の鉄の矢である、改めて聖騎士団を見て、感嘆の声を漏らしていた、
ナタクは眼を細め。視力を極限まで上げて、
「ここから1ワノール(1キロメートル)先の木陰から……」
おそらく騎士団は、魔力を失った訳ではない、魔力を、全身に流す役割の魔法回路だけこの極細の矢で、正確に射抜かれてしまい、活動停止させられたのだと、ようやく理解した。
「これ程の強者……、まさか…………」
ナタクとて忘れていたわけではなかった、あの男が、出てくるとは予想外である。
「仕方あるまい……、今日は、我れの敗けを認めよう……」王である。ナタクの命に答え。聖騎士団は、極細の矢だけ残して、幻の如く消え失せる。ナタクは、背を見ずに。
逃走を図る。出遅れたオーラル。だがオーダイは、僅かな動きすら見逃さず。ナタクの動きに合わせ。正確に、背を狙う魅技は、まさに神業、神速で、無数の極細の矢を放っていた。、
「ふん、奥の手を使わされるか、良かろう」
ナタクは一度も振り返ることなく。矢を、落としていた……、聖騎士ナタクは未だに何かを隠し持っている。戦慄をもって、吐息をついた。
━━━オーラルの予測通り、ナタクの持つ剣が、文献にある『聖王の剣』ならば、聖騎士団を作り出したのは、リドワニア公国に現れた白銀の城こそ、魔力の源であろう。
何故━━最初に、遠回りしてまで、王都を目指さず。東の城塞都市ベゼルに向かったか、ガイロン重騎士団、カレイラ師団壊滅させたのに、王都まで来なかったのか……、それなら理由が解る。ナタクは、今回も聖王の剣を、手にしていない、理由は一つ、聖王の剣は、大地のマナを取り込み、剣の主の為の力となる。そう伝承には書いてあった、━━さらに文献には、強固な城や兵を与えるとある。ならば聖騎士団とは、剣の魔力で、具現化された、人形に過ぎない。
遥か昔……、中央大陸があった頃……、太陽神アセードラが、中央大陸の若者に。与えた剣がある。あくまでも昔話。神話であるが、実在したとは……、
オーラルが気付いた、弱点。何故剣は、城でなければならなかったのか、何故騎士団を、わざわざ作り出していたのか、何故半日以上したら、退却したのか……、1人で軍、強力だからこそ、限定的に力はある━━。
騎士団の魔力供給源が、城なら、騎士団に必要な魔力を与える。中継地が必要になる。それがナタク、王でなければならない理由。王こそ騎士団の守る存在、王こそが、魔力の中継地であるため。だからナタクは動かない……、いや動けない、手にした白銀の剣は、中継地であるための触媒。最後こそ自ら動いたが、オーラルが昔見た、聖帝の傍らにいた聖騎士ナタク、彼はオーラルが持つ剣を腰に差していた、当時魔王ヒザンの強大な魔法を、剣で切り払い、受け流したのをオーラルは思い出していた、
「逃げたか……仕留めたかったが、奥を隠してるな………」
音や、気配がなく、いつの間に、オーダイが、隣にいて流石に驚いた。
「聖騎士団の弱点が解りましたので、よしとします。ではオーダイ准将は、国王陛下に」
「やれやれカレイラとちごうて、人使い荒いの~」
呆れ顔のオーダイは、仕方なしと、弓を肩に掛け、手をヒラヒラさせながら了承してくれる。人が良いのだ、突如オーダイの気配が消えた、目の前にいるのに姿が捉えられない、あっけにとられるオーラルを残して、微かに走り去る。気配を感じながら、オーラルは肩をすくめていた。
前方の泥地は、魔方陣の魔力供給源である長剣から、魔力を消した途端。魔方陣は消えた、だが……辺りは泥のまま、今の気候なら、直ぐ元の土地になるだろう……、
改めて聖剣を見たが、刀身に曇り、刃こぼれ一つない……、オーラルは小さく嘆息して、得体の知れない不安を、感じずにはいられない。
━━━西大陸、パルストア帝国。
ランバスタ将軍から急報が入った、ギラムが捕まったと報告を受けて、ゼノン宰相以下、重鎮を招集したのは夕刻である。
広間に集まるのは、六将以外の面々。ゼノン宰相以下。新たに加わった顔もある。西大陸に残る反抗勢力討伐で、名を上げた。ランバスタ将軍の副官リーロン・カレス、元々商国の傭兵の出である。
ゼノン宰相の傍らにいるのは、今季より魔法学校長となったゼーダ・ソロン、隣が財務のトップハーミュア・ローレイ、商国セロンで有数の商家ローレイの長である。国内の防衛を任せてある。トロン・バーン騎士団長、右隣にミューア・サリアン、暗殺を生業にしてた、サリアン家の当主を、ピアンザがスカウトした、忙しい6人をわざわざ集めたは、ギラムが捕まり、レオール連合と、ギラムの身を、交渉することになるため、しばし膠着することが予想された。
そこで北大陸の遠征を一旦取り止め。ランバスタ将軍の率いた、主力を戻すことにした。そこでこの期に。大陸に巣くう反抗勢力討伐に、乗り出そうと、
以前からトロン騎士団長からの要請を、ピアンザは正式に採用する腹づもりである。
その為に多忙な重鎮を集めたのは、準備や様々な、内政を確認するための会議である。
ゼノン宰相が、一堂を一瞥して、ピアンザの顔を伺い、促した。
「ギラムの身柄交渉は、ハーミュア財務官におまかせ致します」
切れ長の面差しを歪め。仕方なさそうに了承する。
「続きまして、トロン騎士団長からの要請を、ランバスタ将軍帰還前より始めて頂きます。その胸ミューア了承を」
「あいよ~♪」
豊かな胸を強調する。胸元を開けた服をわざわざ着て男を挑発する。アイスブルーの切れ長の眼は、魔王ピアンザだけに向けられていて。一切表情が変わらぬピアンザに、少女のように不貞腐れた。「これじゃないのか……」
口ごもるように呟く。呆れ顔の一堂。まるで気にも止めず。ミューアは、いかに魔王ピアンザの注意を引こうか余念がない、
会議を終えて、一堂退出した後。魔王は外に眼差しを向ける。
「ラグラド……」
浅黒い肌に、精悍な顔を引き締め。最初から……この場にいた、ラグラド……幻影の魔女の力を、押さえていた……、うっすらと何もない空間に浮かび。ラグラドに似た美しい女が、享楽的に微笑していた。
━━もしもラグラドの力をピアンザが、押さえていなければ、あの場で、命を失った者が、いたはずである。
━━古代神の一柱。狂喜の女神ルグワイトは、
緑の民を作られた神だとも言われていた。
その為かは分からぬが、緑の民には他の古代の民にはない。不思議な力を備えていた、
六将ギラムは魔眼の力が、彼は自分の力を呪われた力だと思っていた。
緑の民の多くは呪われた力だと言う者が多い。
その理由として、自身の力に溺れ。自殺する者が増えていたからだ……、
そこで魔王ピアンザは、地下にある冥界の扉の守り人に、緑の民の若者を使って、封印の力を増していた。
「どうして……どうして……、どして……、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……」
暗い眼差し……、何も写さない鏡のような瞳、感情がどこか、欠落したような表情で、ただ同じ問いを繰り返す。
「ギラムは生きている」
事実だけを告げ、様子を伺う、
「そう……いないの、探してるのにいないの……ピアンザ、ギラムに会いたい」
ギラムの名を口にしたときだけ、普通の少女のように見えていた。結果を正しく理解してたのに……、胸に痛みが走る。彼女は、もう人間には戻れない……、リドアニア王のように……、
南大陸にいる。双子のように………、
だが━━もう………時間はない……、
父が、命をとして、扉を内側から閉じた、だが……、
ピアンザは、調べうる限り、アビスに、落ちた神々について調べた。
━━束の間父が、対峙した異形の怪物達。遥か昔。中央大陸に住んでいた、人間の成れの果てである。
遥か昔。中央大陸に暮らして。栄華を誇っていた、古代の一族がいた。
赤の民である。今は禁忌とされ、リドワニア公国の書庫に、仕舞われていた呪いの書、真実を知るものは、僅か、
千年以上もの昔……、
神世の時代━━。
世界を総ていた種族がいた。
古代の民である。古代の民とは本来4つの種族がいた。
最も神々の血を強く受けついた赤の民。
見識と知識の優れた白の民。
神々の能力を受け継いで生まれる緑の民。
脆弱だが優れた才を持つ優しき黒の民。
それぞれが都市を築き、中央大陸にて、平和な時を過ごしていた………、
━━━数百年前……、神々の優れた血は、我が身にあると、赤の民は不遜に自身の力に溺れた……、
他の大陸から人間を狩り集め。不当に巨大な都市を造り出すための犠牲にしたのだ。
それを他の古代の民を統べる長が、
何度も諌めたが、人間狩りを止めようとはしなかった……、神々は増長した赤の民に怒り。中央大陸ごと冥界に落とされた……
………その時作られたのが、世界中心にある穴、デスホールである。
赤の民は神々を呪った……、
世界を、他の古代の民を……、怒り、妬み、憎しみ、光すらない暗闇を呪った、やがて呪詛は、力を持ち、闇の神々を産み出した、それが死者の神アレビス、闇の女神カーレルである。
アビスに墜ちた、赤の民は、二柱の神々を崇めた、
「我らに力を……」
強い神々の血が、ニ柱の神々に力を与えた。
赤の民はアビス界の亡者となり、永遠の時を、呪詛を唱え、扉が開く時を………、待っていた、
100年前……、20年前と同じく大崩落と呼ばれる大地震が、
7日7晩続いたとされた時があった━━。人々は大崩落と呼ぶ現象により世界中に魔物が、溢れたと言う
━━真実は、アビス界の扉を開き、神々に選ばれた四人の冒険者、
1人は赤の民と人間のハーフだった、あらゆる事が出来た少年。
1人は緑の民。弓が得意な少女。
1人は白の民の騎士、
1人は黒の民の魔法使い、
四人の冒険者が世界を救ったとされるが、それを知る最後の1人は、
この世界の番人となっていた……、ピアンザの父前魔王ヒザン、そして……、
……早く見付けなければ、後1人……。候補者を、アビスに落ちた、神々から、この世界を守る。神々の武器を手にした者を……。魔王から受け継いだ、白銀の杖。杖の台座には、鎖に繋がれた獣がいた。恐ろしく精巧な作りの杖である。さらに台座の中央赤い宝石が嵌め込まれており、強い魔力を秘めてると一目でわかった。
━━かつて四人は、それぞれ魔王、聖王、聖騎士、聖弓と名が残っている。神々が与えた聖なる遺物……。弓のありかが未だ解らない……、
いつ……アビスの扉が開くか……、
世界は、強くなければならない……。北大陸に弓はなかった、が、面白い力を持った人間が現れた。竜と話をして、古土竜となった、土竜に愛された騎士……竜騎士、魔王の文献に、四人の冒険者と共に、戦った者がいた。彼は竜騎士と呼ばれていた、偶然ではあるまい。「ねえラグラド、ギラムのために、オーラルを殺してくれないか?」
囁く……、狂喜の女神ルグワイトに、魅いられた少女は、欲望に忠実な快楽の女神となった。
先祖返りたるラグラドの瞳には、狂喜が宿り艶やかさを内包して、恍惚と微笑していた………、
『オーラル……聖騎士の剣を使え……、もし……もしも………』
憐れな少女を前にピアンザは、胸に広がる苦痛に顔を歪めながら、冷徹に……、少女だった者を送り出した、消えぬ痛みを抱えながら……、
━━━東大陸、ラトワニア神国から、
西に広がる平原、山岳地帯に囲まれたほぼ中央にドヴィア国はある。戦士の国と知られるドヴィアは、国とは名ばかりの大きな街程度の国土と、民が王族と近所付き合いするほど。結束が固く。仲間意識が強い国。
それがドヴィア魂と呼ばれる。心意気である。
先のラトワニア神国で起きた事件。義に動いたイブロの行動を、みな誉め称える者はいたが、悪口を言う者はいない、義には義を、信には勇を、苦しむ家族には手をが、ドヴィアの美学とされていたからだ。
━━城下にある。やや大きな家屋の一室。
無精髭を生やした。初老の男は、長く、患っていた苦しみが、
嘘のように消えていた……、部屋の主は、
随分と力を失った身体、皺が増えた手を、日に翳しながら、キブロス・レダ元騎士団長は、晴れやかに微笑していた。長く身体を横たえたベッドから降りて、その足で井戸に向かい。衰えてはいるが、力を入れてもあの息が止まるような苦痛が襲って来なかった。勇気付けられたキブロスは、滑車を引いて水を汲んだ。
「うむ」
年蓄えた無精髭を、綺麗に剃り、白いものが混じった、髪を後ろに束ねた。
「また、こうして動けるようになるとは……」
イブロの奴の友人、二人に感謝した。視線を感じて、目が合うと、
「じぃじぃ!」
扉をそっと開けて、じっと様子を伺っていたのか、孫娘が期待する眼差しで、キブロスを見上げていた。愛らしい顔立ちは、嫁さんに似て、物怖じしない性格はあれに似たらしい、可愛い孫娘に眼を細め手招きすると、もじもじ恥ずかしそうに、艶やかな色彩の着物を着て、小首をちょこん傾げ立っていた。
「おお~セレナ良く似おうておるぞ」
つい最近まで、可愛い孫娘と、遊んでやることも、動くことすら苦しみが伴っていた、それを理解してたのか……、どこか遠慮がちだった孫娘は、こうして動くことが出来るようになって。毎日じぃじぃと呼びに来てくれる至福。目尻を下げた。
━━今日は、秋祭りが、行われる。夫婦そろって忙しく、手伝いの者が、気を利かせ、南大陸で高価とされる紬の織物で、作られた反物を、ドヴィアでは着物として、特別な行事に、身に着ける風習がある。セレナは来月で3つになる。
神殿に詣で、病もせず。不幸から守られるよう、3つになったおなごは、詣でるのが、秋祭りの後とされている。
だが━━━近年不安定な情勢では、南大陸と交易すら難しく、財政とてけして豊かではないドヴィアの民は、苦労を強いられていた。それなのに……二人の子を思う心に、答えた友がいたのだ。
オーラル……、あやつが、いつも口にしとる名前を、覚えてしまったな……。いつか義を返さねば、老体に鞭打ち、キブロスは孫を抱き上げ、相好を崩した。
━━夕闇で、沢山の灯りが灯る。
ざわめき、愉しげな笑いが、人々の顔にある。孫を連れ。ゆっくり楽しんだ、
━━━その夜。イブロが慌ただしく、帰宅して、熟睡してたキブロスまで叩き起こす始末、孫と1日遊び惚け、使ってなかった筋肉が、悲鳴を上げていた。
「どうしたイブロ?」
煩わしく思いながら、渋々眼を開ける。すると真っ青な顔をするイブロが、泣きつかんばかりに、立ち尽くしていた。
「親父……俺はどうしたらいい?」
今までにない、切実な感情を声に聞き、何かあったと直感する。
イブロを宥めながら、ようやく話を聞き出して、
思わず唸る。
『まさか……聖帝が、生きておったか……』
イブロから、あらましを聞き出して、リドラニア公国で起こった事件、アレイク王国で起こった事件を繋げれば、それしかあるまい……、キブロスは熟考して、膝を叩き、ある決意を固めた。
「イブロよわしは決めたぞ、俺はアレイク王国に行く!」
「なっ……」
呆気にとられる我が子、イブロに向かって、不敵に笑う、
「義を、返さねばな~イブロよ?」
ハッと息を飲むと、項垂れるイブロの肩を叩き、キブロスは、決意を固めていた。
翌日━━日も昇らぬ内に。国を後にした。
━━ただ宛もなく。アレイク王国に来たキブロスは、小さな酒場で、年齢に関係なく、将兵を募集すると聞き及び。これ幸と名乗りを上げた訳だが……、
名前を記入する時。はたと迷いに思う……、思わず。亡き妻の名、エイビスを記入して、キブロス・エイビスとした、元ドヴィア騎士と書いたが、消そうとしたら、あっさり事務担当の顔色の悪い男に取られ、あっさり合格の印鑑が押された。
「まあいいか……」
肩をすくめ、言われるまま制服が与えられ、ちょっとした訓練場に案内された、
訓練場にはキブロスと同じように集められたたくさんの人がいて、見ると真ん中に若い男が木刀手に立っていた。どうやら試験官らしいな、にやり不敵に笑みを浮かべ、手頃な槌を選び、列に並ぶ、
「次!元ドヴィア騎士団所属キブロス・エイビス」
名を呼ばれ、槌を片手で扱い、肩に担ぎ、斜に構え。合図を待った。
試験官の若い男は、一瞬驚いた顔をしたが、静かに微笑して、ドヴィア騎士がする。正式な儀礼を見事にされ、キブロスは驚きと同時に、
『こいつ……気付いてやがる……』
感心しながら舌を巻いた、さっきから見てると、わざと……相手に打たせ、力を引き出して、引き分けに持ち込むと言う、離れ業をこなしている。
かれこれ100名以上相手にして、まるで疲れた様子がない。かなりの実力者だと直感してたが……、『ただ者じゃないな……、俺をかなりの使い手と見抜きやがった』
身を引き締め、キブロスは、合図と同時に、遠心力を用いた、凄まじいキブロス最大の必殺技(雷鳴)を仕掛けた。鎚の重さ、柄の長さを巧みに扱い、地鳴がしたような凄まじい破砕音が、キブロスの周囲を包み。空気すら撃ち抜く、衝撃の雷雨を振り落とし続ける。豪技に、どよめきが上がる。
「ご苦労様でした、体力が、まだ戻られて無いようですね。キブロスさん」
優勢は、僅か数分いなされただけで、敢えなく崩れ去る。
「ぜーはー……」
肩を揺らし全身で、喘ぐように息をしながら、息意味ありげな若い男の眼差しに、鋭く睨む。羞恥だ……、愕然とした。
『ここまで衰えたかと……』
完敗である。この若者は、キブロスの弱点、体力不足を突いただけだ……。自身の甘さに歯噛みした。
「ぐっ………」
全身の筋肉が、悲鳴を上げる我が身に、
「忌々しいわい」愚痴る。流石にこの体たらくでは、合格を取り消されるか……、意気消沈するキブロスを、意味ありげに見詰めていた、若い男は、
「キブロスさん、後進の指導と、俺の補佐をお願いします」
しょげるキブロスは、我が耳を疑って、顔を上げた。
━━いつの間にか、先程の顔色の悪い男が来ていて、準騎士を意味する校章を渡され戸惑っていると、
「キブロス・エイビスさん、貴方をアレイク王国第1師団、少尉に任じます」
ザワリ、辺りが驚きの声が上がる。
「ようこそ俺の師団に」
━━負けた以上の衝撃を受けていた。
「まさか……、本人が、面接をしてるとは……、」呆れると同時に、こいつは信頼出来ると納得できた。
『まんざら倅の眼も、捨てたもんじゃねえな』
キブロスの他、三人のかなりの腕と、経験を積んだ者が選ばれ。少尉に任じられ話題となる。
選ばれた━━中年の戦士二人と妙齢の女性。キブロスの四人は、顔色の悪いアロ補佐官に連れられ馬車に乗る。
「ご苦労様です。私はアロ補佐官と申します。主に、第1師団の運営を任されてまして、皆さんにはそれぞれ、分隊をお任せするよう。オーラル大佐からの命です」
ざわり……、いきなりのこと、驚きの声があがる。
「良いかしら」
妙齢の女性が手を上げた、
「なんでしょうリマ・ロナベルさん」驚いたことに、全員の顔と名前を覚えてるのか?、
「それは私に、見もしない、部下をどう扱うか、任せると言うことで、良いのかしら?」
他二人も、そこが聞きたかったようで、困惑の表情だったが、静観する気になったようだ。
「構いません。まず大佐が、貴方達を選んだ理由……、どんな形であれ、こちらの意図を、理解出来るだけの優れた。認識力と力量、隊長としての判断力が、優れてるとわかってのことです」
まじまじアロ補佐官を、唸るように睨み付け、
『実に。あっさり言ってくれるわい。ほんの僅かな時間だぞ?』
いささかわざとらしさを覚えて、訝しむ一同の視線を感じて、一度咳払いをする。
「勿論。大佐の考えでは、でありますが、あの方の直感は、外れた事がありません、ですが補佐官としてあえて、大佐の気持ちに。一言足すならば、今さらアレイク国のやり方を押し付ける気と。意味はありませんから、ですね」青白い顔色のアロは、シニカルに笑いながら、困惑気味の一同を見ていた、実に楽しそうに笑いやがる……、あながち間違いとは言えぬ。が……、「そんなこと言って良いのかしら」
同じことに、気付いた妙齢の女性悪リマが、戯ぽく、アロと名乗った補佐官に、わざと顔を近付けるが、アロは、一切表情を変えず。それどころか嬉しそうな顔すらして、
「構いません、貴女が、わざわざ他の三人の為に、聞きたいことは、こちらに書いてあります」
四冊の書類には、それぞれの名前が書かれていて、それぞれ困惑気味に、受け取り、ページをめくった……。
「なんと………」
我が目を疑う。そこには確かにアロ補佐官が、言ってた……。質問したかった答えが書いてある。「これは……」
キブロスは、思わず笑っていた、
━━なにせ……、こんな一文を見ては………、
゛キブロス将軍の義に感謝いたします。゛
笑わずにはいられない。ふと他の三人を見れば、驚きの色を、隠せずにいた。
「皆さんよろしいですな?」
これが……アレイク王国が誇る『オールラウンダー』か……、一同が納得した所を見計らい。馬車に、揺られそれぞれの分隊兵と顔合わせするまで、ページをめくる音は続いた。
━━━元カレイラ師団敷地内。第1師団の大食堂……、元は第1分隊の隊舎だったが、
オーラル大佐が食堂を敷地内に開き、新しい住人の雇用と、職場を与えた。キブロス他三人の少尉は驚いた。駐屯地には様々な施設が運営されていたからだ。
師団運営はひとえに。団長の勤めであった。毎年師団には、国から一年分の将兵の給金と運営費が定められて、必要経費が送られるが、どの師団でも財政は厳しいのが現状である。
まずオーラルは、広大な使われていない師団の敷地に目をつけた。
街の若い職人をスカウトして、敷地内に様々な工房を建てさせ。国内で不足してる武器、鎧。備品の制作を任せ造らせた。
二ヶ月とせず第1師団工房製品として、相場の1割安くて売り出した所、人気となって売れ始めた。なので将兵には、これらの工房の品を、3割安く格安での販売をしたところ。たちまち良質な製品は噂になり、将兵は高価で中々手に入らない、良質な武器が買えると喜ばれた。一方職人は武器が売れたら、新たな仕入れを行うそれも大量に買われれから、安く仕入れられる。こうした流れが、緩やかにだが、第1師団の財政が潤い始めた。
オーラル大佐は、次に増えた将兵の為。新しい隊舎を作る一方で、三ヶ所の隊舎を食堂にして解放した。将兵や第1師団で働く者に、食事を格安で提供することで、分隊で固まって食事をしていたのだが、違う部署の人員と顔を会わせる機会を増やして、部署や部隊を越えた交流の場所にしたのだ。
この改革の最大の利点。それは外出で時間を無駄にすることが消えたこと。些細な事案での会議が、食事を取りながら可能になって、情報共有が楽になった━━。
そうした無駄を省くことで、不要な出費を押さえることも忘れない。
師団の財政が豊かになって三ヶ月━━、
商人達がこぞって新しい取り引き先に、第1師団を選ぶ者が増えた。近々交易所を領内に設けるとまで話が出るほどで……、
第1師団をモデルケースに。シルビア=カレン・ダレスは、ガイロン重騎士団でもオーラルのやりを早速方導入したと聞く、
それからも沢山の将兵が増え続け、オーラル大佐の采配で、僅か3ヶ月の短期間で、以前の三倍を数える。将兵を第1師団は抱えたが、
━━━無論問題もあった。
━━元第1分隊食堂、
訓練を終えた将兵に混じり。職人の姿を見掛けた。奥にある将校が座るテーブルに。新任の少尉四人は、前任の少佐四人が様々な理由で、第1師団を離れたため。
現在第1師団25000を、少尉四人が、まとめることになって………、正直大変である。
「正直……、厳しくないかしら……」
士官の中で、唯一の女性リマ・ロナベルは、やつれた顔をしかめた。
「それなんだが、なんでも古参の中尉が、いるらしいな」
さしものキブロスとて、上に立った仕事は慣れていても、若い将兵に混じり身体を鍛えたら、疲れが抜けない。年を感じながら、古参の兵から、聞いた話をする。
「それは聞いた、オーラル大佐のお使いで、出てるそうだ」
元リドラニア公国の海兵だった、ユウト・アルピス、
「早く戻って欲しいものだ……」
同じく元リドラニア公国兵だったロマイヤ・ナレストは、ふてぶてしく笑い会う。まだまだ元気そうで羨ましいと嘆息しながら、食堂にいる皆の顔は明るい。ここにいる多くの将兵は、国を失い、土地を終われ、不安を抱えてやって来た者ばかり、ユウトとロマイヤは、妻帯者で、それぞれ年頃の子供を抱えている。オーラル大佐の口利きで、アレイ学園入学が叶ったと喜んでいた。
「オーラル大佐とオーダイ准将が、あのナタクを撃退したらしいな」
「なんでも……、たった二人で3000もの敵兵を撃退しとか……」
若い戦士養成学校から、編入させられた青年の呟きに、同僚が興奮しながら追従した。四人の少尉は、理由を知るだけに、素直に喜べない……、兵力を見れば、確かに以前の三倍だが、今の現状はかなり厳しい……。第1師団に在籍しているほとんどの兵士が、戦で役にたつかは微妙な線である。
そもそもオーラル大佐は、登用を進める上で、有能で一線で戦える小隊長クラスを。壊滅的な国の守りの要である。ガイロン重騎士団、国内の治安にあたる。フロスト騎士団に優先的に。振り分けている。
4つ第1師団には未熟で、戦で役にたたない者ばかりが集められてるのが現状、さらに将校がいないのでなし崩し的に、多忙な大佐に代わり。四人の少尉が鍛えなければならない立場にいた。
『知らないのは、若い将兵ばかりか』
まだまだ問題は山積みだと嘆息しながら、香辛料の効いた、鳥モモをがぶり、
「旨い……」
鳥の油まで、舐めとり、リマに睨まれたが、こればかりは、止められない。
━━━。一方……多忙の筈のオーラルは、ジン・ゲルマン、ロート・ハーレス中尉の両名を連れ。密かに使者となり、ラトワニア神国の王宮を訪れていた。「大変な時なのに、わざわざオー君ありがとうですわ♪」
非公式での謁見を望み。オーラルがナターシャを押し留めた。これには理由が2つある。
オーラルが、今も王の傍らにいると、思わせかった。もう一つが今でなければ、オーラルが自由に動けないタイミングであったため。訪問は秘密にされていた。
━━数日前……のこと。
北大陸━━レオール連合……。レイナ宰相から急使が届いた。オーラルはギル・ジータ国王と特別なパイプがあり、ギル・ジータ王国は、北大陸間に独自の航路を密かに設けていた。
レイナ宰相から、
′魔王軍を退け、六将が1人、緑眼のギラムを捕らえた′
一報が入る。
オーラルは、深夜……、黒衣の長ノルカを呼び出して、密かに情報を知らせた。すると……。不機嫌な顔をしたノルカに、「黒衣に、貸しを作りたかったので……」
わざわざ神経を、逆撫でする一言を添える。案の定……。憮然と怒りを露にしたノルカだが、ふっと……思い悩むように。止まる。
「ミラのことありがとう……」
思い出したかのように、不機嫌ながら、素直に礼を口にした。
「珍しいですね」苦笑漏らしながら思ってた以上に。らしくないノルカ、かなりの重症らしい……、だから余計からかう気のオーラルの顔を見て、たじろいだ。
「うっく…………」
何やら馬鹿馬鹿しくなり、ノルカは理不尽さに、怒りを覚えオーラルを眼で、射殺せるなら殺したいと、雄弁に語ってた。………が、諦めたように、小さく吐息を吐く。
「わざわざあたしを、煽る癖に……。どうして自分の為に使わない?」
理由は……、わかってる。こいつがカレイラや他の腐った貴族と、違うことは……、優しいのだ、馬鹿なほど……、
「そんな凄い情報……教えたのは、黒衣の有用制を、国王に認識させるためよね?」だから乗ってあげる。拗ねた演技をしながら、ずばりオーラルの考えを素直に汲み取り伝えた。そしたら驚かれ、優しく笑われた、少し傷付き鼻を鳴らしそっぽを向き、
━━内心感謝した……、
不手際続きの黒衣を、切り捨てようとする動きが、確かにあった……。こんな微妙な状況下。北大陸の重要な情報を持ち帰ったら……。黒衣は密かに北大陸と繋ぎがあると認識が生まれる。黒衣の有用制を示す。大役になるだろう……、
『こいつの事だ、他に理由はあるはず……でも……』
不貞腐れたように、虚んだ眼差で、オーラルを睨む、
「今回は借りておく、オーラル……」悔しい気持ちと嬉しさ、安堵が重なり、声が固くなるノルカを、優しく微笑しながら、
「ミラ先輩。これでお姉ちゃんに会えるて、喜んでましたしね」
わざわざ執務部屋の窓から飛び、枝に手を掛ける瞬間を狙い、風の魔法で、言葉を伝えた。
「あっ……」
動揺して、枝をつかみ損ねた。
━━がさがさドサリ、音がした。
「クッ……」
怨めしげな、瞳を闇の中で。見た気がした。しおらしいノルカではからかいがいがない。素知らぬ顔で、オーラルは窓を閉める。暫く閉められた窓を睨み。涙眼のノルカは、舌を出して、悔しそうに地団駄踏みながら、その場を去った。
翌日━━━王命を受け、信頼がおける。二人の部下を連れ。ラトワニア神国に訪れていた。
オーラルはある提案をして。驚きと思い悩む美しい顔を伺いながら、ナターシャ女王の答えを待った。
「上手く……私で、出来るか、不安ですが……、ナタクの脅威を軽減出来るのは確かです……、可能なのですか?」
不可能なことは言わないオーラルだけど、事が事だけに、すぐに返事は出来ない。
「まだ……今なら可能です。その為にフロスト騎士団は、土竜騎士を受け入れたんですから」
「なるほど……、資金力が必要だと?」
オーラルが非公式の会談に、こだわった理由を思いいたる。あくまで四人いる。大僧正から発言させるための布石━━、ナターシャは、四人の大僧正を、導く役目……、成る程……、
『私のため……ですね?』
オーラルは静かに、微笑して、幾つかの情報と、レオール連合宰相レイナとの連絡の仕方を伝えた。
「その様な航路が……」用意周到さに、呆れを通り越して、感心すら浮かべていた。
「それほど大切なこと、私に話して、宜しいのですか?」
意地悪く、困らせたくて口にする。何時ものやる気が見えない、顔を困らせながら、
「ナターシャは、大切な仲間だからね」
裏表の無い優しい笑み。
『もう仕方ないんだから…、』
チクリ痛む胸に、手をやりながら、オーラルがやって来たのを知り、隣室で二人の少女がやきもきしてる様を想像した。
……小さくクスクス微笑しながら、
『オー君優しいんだから……』胸中で、礼を述べていた。
━━━━━━。
ナタクの『聖王の剣』は、一度聖騎士団を進軍させると、6~7日。魔力を貯める必要がある。魔王はラトワニア神国を狙わない……、狙えない理由が、存在する。
今はと言うべきだが、ナタクの武器が、太陽神の作った物だからだ。ラトワニア神国は、太陽神の加護が強い国、
神殿の地下には、聖遺物があり、同じ聖なる力を相殺する可能性が高い、何故ナタクが、リトワニアを聖王の剣の土地としたのか……、それならば理由も解る。東大陸の土地は、ラトワニア神国に眠る太陽神や、様々な神々の力が、東大陸を、聖なる土地に変えていたとしたら?、だからナタクは今まで動かなかった……、いや動けなかった。
たがしかし……リトワニア王は、禁術を用いて、吸血鬼となり、闇の死者がリトワニアを支配してたこと、これにより限定的ながら、闇の地域が生まれた。太陽神は浄化を教義に掲げていた。闇を浄化する目的を限定的に『聖王の剣』に与えられる。それで聖騎士団を発現出来たのではないかとオーラルは考えていた。━━他の土地ならば、制限は存在しないが、東大陸だから、制限が存在すると……、それが発現時間。そして太陽神が作った遺物は、地属性、カレイラ師団の生き残りより、火玉、氷雪、雷矢の攻撃魔法が、通じなかったが、僅かながら風の魔法で、動きが阻害されたと言う。それで気付いた、全ては黒衣の者が、集めた情報だ。
━━翌日……。
ナターシャ女王の命で、12人の大僧正が呼び出された。何でも聖騎士ナタク率いる。聖騎士団を封じる方法があるとか……。
オーラルは結果を見ることなく、二人の部下を連れ、ギル・ジータ王国に向かう、
━━━━元第1分隊、食堂、
日課になった、四人での昼食、愚痴とも言えぬ。会話だが、苦労話に事欠かさない。
リマ・ロナベルは今年29になる。浅黒い肌、キツメの目元、ショートにした髪から、男勝りな印象を与える。頑固な父のせいで、本人まで、頑固で、自分勝手な性格と誤解さるるが、リマは細かい気遣いと、寛容さを持ち合わせた、優しい女性なのだが……、さっぱりした性格が、災いして、好きな相手から友達扱いされ、意気消沈していた……、そんな折り。父が、かつて配属されてたガイロン重騎士団の補佐官に抜擢され。昔のように、忙しい父を見てたら………、何だか女だからって諦めた騎士の道を、もう一度目指したくなったのだ。
父のジタン・ロナベルは、不機嫌だったが、第1師団の少尉になったと告げると、驚いた顔して、苦笑気味に。
「相変わらずだなオーラルは……」懐かしそうに眼を細めた、父の教え子だったと知ったのは、つい最近である。父がガイロン重騎士団の補佐官になるよう、後押しをしたのも大佐らしい。大変だが若い部下達と訓練する日々は、充実していた。ふっと先ほどの会話を思い出した……、
「古参の将兵から聞いたのだが、中尉二人は、何でもラトワニア神国に、秘密利に、訪れてたそうだな?」
ユウト少尉が言えば、
「あれから半年……、聖騎士団が、来なかった理由が、大佐の命で、動いてた、二人の中尉の働きらしいね」
相槌をうつ。二人の生まれがリドラニアであり、気があったのか、友人関係らしい、子供同士も仲良くしてると、先日聞かされたばかりだが、
「そうなのか?」キブロスが初老とは思えない、勢いで肉の塊を虫歯が逃げ出しそうな、歯で噛みきりながら、指の脂を舐めとり、訪ねる。
「そうらしい。何でも聖騎士団には、弱点があるらしく、それを突くには、ラドワニア神国の力が必要だったらしい……、どうしたかまでは、秘密にされてるがな」
リマから飲み物を貰い、礼をのべながら、
「中尉殿達は、いつ戻られるのかな?」
キブロスの願いともつかぬ呟きに、ユウトは喜色満面で、
「もう戻られ。隊舎にいらっしゃるそうだ」
「ほほう!、ようやくか」
先頃。魔王軍が、北大陸の進軍を諦め。兵を引かせ。西大陸の内乱鎮圧に動いたと。噂があったきり動きがない。聖騎士団をどうやって、ラトワニア神国が防いでるか、知りたい所だ………、
「アロ補佐官から、後程我々に話があるそうだ。午後の訓練が、終わったら、指令室に来るよう言われてる」
なるほど、食事が、終わってたユウトが、わざわざ四人が集まるまで、待ってた理由が分かり、納得する。
「さて、先に戻るよ」
話は終わりとユウトが、食堂を後にした。
━━━第1師団、執務室、ジン・ゲルマン、ロート・ハレスから、
レオール連合のレイナ宰相から正式の同盟が、なされたと報告を受ける。「ご苦労様。ジンは第1、第2分隊中隊長を、ロートは第3、第4分隊の中隊長を申し付けます。大変だろうが、カールとエルが戻るまで、頼むね」エルが近々師団に戻ると聞いて、俄然やる気を見せるジン。彼は凶相のため誤解されがちだが、子供好き、動物好きの面倒見の良い男で、剣の腕はかなりの実力である。ロートは、不器用を絵に書いたような、無口な武人だ、ちょっとした気遣いができ。面倒見が良く。下に好かれる。槍の達人である。
「面倒…………」
嘆息しながら、一刀に切って捨てたロートに、
「まあ~エル隊長が、戻るまで、頑張ろうぜ」
ご機嫌な、同僚に。冷たい眼差しを送りつつ。
「承知」
諦めたように、首肯した。
「ジンの下に、第1分隊長ユウト少尉、第2分隊長ロマイヤ少尉、ロートの下に、第3分隊長リマ少尉、第4分隊キブロス少尉が付く。第5分隊は魔法使いが編成されるため、エルが隊長を勤める。まだ先の話になるが」
肩を竦めおどけるオーラルを、眉をひそめロートは、眼で心配そうな光を宿す。
「肩、具合?」
ロートの心配が伝わり、苦笑しながら、肩に触れた。半年前に受けた怪我を思い出した。
「癒しのを受けてる。完治はしたが、傷は残った」
右袖を捲ると、ヤスリで削り取ったような傷が、露になる。息を飲むロート、沈鬱な……顔をしたジン。
そう……あれは半年前。
オーラル達が、ギル・ジータ国境に差し掛かった時だ。空から虹色に輝く、蛇体をくねらせた。美しい女が、襲いかかる。咄嗟にジンを庇ったために受けた傷だ。緑掛かった髪、鋭い爪、狂乱に笑うが、虚ろな目で、ガラス玉を覗き込むような。無邪気な狂喜を瞳に宿した女……、
「ラグラドか………」
「クフフフ………、見付けた、私の獲物……」
えぐり取られた肩を。補助魔法で止血して、傷を塞いだ。流れ出た分の血まで回復出来ないが、どうにか闘える……。
ヌラリ……、剃刀のような爪に付いた。血と肉片を口にして、恍惚に微笑していた。
「美味しい……、さあオーラル、貴様の血を捧げよ」
ザワリ肌が粟立つ程の狂喜の香り。あまりにも美しい裸体を強く抱きたいと思った。あの柔らかな胸に顔を埋めて……。ラグラドの魅惑的な目を見た瞬間。自身の心を貫かれていた、このまま何もかも捨てて、ラグラドのしたいようにさせる。何とも逆らぬ魅力を感じた……、
フッと傍らの二人の様子が目に入る。ロートは自身の膝にナイフを突き立て、痛みで、ラグラドの誘惑から、脱するに至たった、ジンはと言うと、青白い顔をしたのは、自身の不覚を恥じてのこと、二人を信じ護衛として、連れて来てくれたオーラルに対して……、
「うぉおおおお!、化け物風情が」
激昂したことなどなかった。だが……許せない。 片刃の剣を抜いて、烈火の勢いから、連撃で攻め立てるが、長い蛇体に、傷すら付けられず。あわやの場面で、ロートの槍が、助けとなる。一瞬二人の目が合うと、相手の考えが分かり。凄惨な覚悟を決めていた。
決死の覚悟を決めた二人の考えを読んでオーラルは、どうにか魅惑の力から抜け出して、素早く、集中力を高め魔力を収束させて放つ。
「霧よ……」
ラグラドはおそらく。ラーミアと呼ばれる。半身半蛇の先祖返りだったのだろう……。
緑の民は古くから崇められた狂喜の女神が、半身半蛇の姿だったと言われていた……、
ラーミアは水属性、本来は視覚魔法など通用しない、だが幻影魔法が得意なラグラドだが、狂喜に取り付かれたラグラドは、視界を塞がれ半狂乱に爪を振りまくる。いくら剃刀のような爪とはいえ、剣より範囲が広い分。霧を吹き飛ばす。避けるのは容易である。素早く二人は、オーラルの背後に下がるのを気配で感じて、
「因子を解き放つ……」細かい粒子となってる。水の現象の霧は、地熱を与えられて爆発的な勢いで、暗雲を上空に作り出していた。
「何処だ!何処にいるオーラル!」
狂喜に彩られ、焦りと怒りが内包する叫び。眼を瞑り一瞬……躊躇った。唇を噛みしめたオーラルは、
「雷よ。敵を撃て、豪雷」
━━天空を切り裂く、
光━━━、
つんざく雷鳴が、落ちた衝撃……音。びりびり肌が感電したかのような、凄まじい爆発が起こり、霧が消し飛んだ後。消え去った際に見えたのは……、蛇身の半分が炭化し、息も絶え絶えのラグラドが地に沈んでいた。オーラルは静かに、聖剣と呼ぶ。白銀の長剣を引き抜いて、ラグラドの首を落としていた。
少女の最後は……、ギラム……と動いたのを見逃さず。内包する怒りに、震えた。
「何故だ……、ピアンザ……」
視界が塞がれる程の凄まじい豪雨が降り注ぐなか……、オーラルは哀しげな顔で立ち尽くした。
程なく……落雷被害の視察に、ギル・ジータ兵が来たところで、保護を求めた。
━━━数日ギル・エバーソン国王の別邸で、疲れを癒しオーラルは、自分が渡航することを断念して、二人に任せることにしたのだ。
二人は北大陸に渡り、レオールに半年近く滞在していた。随分と腕を上げたようである。
二人が辞した所で、ヴァレ・オーダイ准将の気配が現れ。
「お構いなく」
と言うが、お茶を飲みに来たのが分かってたので。苦笑を浮かべた。ソファーにどかりと座ると。茶目っ気たっぷりな眼差しを向けつつ。オーラルがオーダイのために新しいお茶と。砂糖がしの準備をすれば、嬉しそうに眼を細めた。
「お前さんも色々苦労しとるようじゃな、先ほど言っとった、女神とはあれか?」
探るのではなく、興味深い光を瞳に称え。オーダイに見詰められては……、苦笑しながら首肯した。
「ほほ~う。六将のラグラドを倒しておったとはの~、何故王に言わない?」
興味と自分の仕事が減る機械をわざわざ見逃さないぞ?、雄弁に顔から読み取れた。
「オーダイ准将……、あくまでも俺個人の考えだと、聞き逃していただくと嬉しいのですが」
前置きして、オーダイには、魔王の狙いが変わって来てることについて話した。聖騎士団の秘密や……、ラトワニア神国の策略にナタクがあえてハマッた理由など。
「……わざと…。動乱を先導しているか……」
新しいお茶を足して、唇を湿らせながら、言葉を噛みしめ咀嚼しながら、味を吟味するように、熟考する。
「要するに。魔王には、他の目的があるから、今は動いてないのか?」
「あくまでも俺個人の意見です。神の遺物を持つナタク、神の先祖返りだったラグラド、レオールに捕まったギラムは、邪眼の使い手。軍国ローレンの影の支配者グラベル、グレム、ケレル殿下暗殺、ギル・ジータ王国の王族暗殺を為した無音のダーク、ランバスタ将軍程の人物を有しながら、何故それだけの力を、一つの大陸、一つの国に向けないのか……不思議でした」
オーラルの見解を聞くうちに、オーダイの胸中にも疑問点が多々浮かぶ。
「確かにそうだが……」オーラルは手にした白銀の長剣を抜いて見せた。「これは………」
剣の台座には、半身は美しい少女の姿をして、半身は蛇身、オーラル達が先ほど話した女神に似ている。「剣から、力を感じませんか?」
言われてみれば確かに……、以前ナタクと立ち会った時はこれ程の……。「女神の力を、剣が取り込んだ……、お前は……」
その先を言うことが憚れた。魔王はまさか剣の力を解放させるためだけに……、六将を贄にしたと。
「裏に何か隠している」オーラルが先ほど言ってた。意味を理解した。
「オーダイ殿、魔王は……。ピアンザは、何かを恐れています。この世界すら、破壊しかねない何かを………」
オーダイは得体のしれない不安を覚えた……、
━━━元リドラニア、現聖帝の国、
白銀に輝く、城がある。一切の人の気配が失われた玉座に座るナタクは、遥か昔。赤の民が書いたとされる。叡知の書と呼ばれた本がある。後に、人間が禁術とした数々が、書かれた書を呼び出していた。
一旦はラグラドに与えたが、ラグラドの気配が、世界から消え、ナタクの手に戻った、『赤の書』とは、赤の民の血を受け継ぎし者を、主と認める。意思ある書である。
━━ナタクはその昔……。
『聖騎士の剣』を手に、世界を救った四人の冒険者の1人だった……、
ナタクの生い立ちは特殊であった。赤の民と人間のハーフとして産まれた。その幼少期は過酷であった……。
「あれからもう500年が過ぎたのだな……」
同じ赤の民からは迫害されていたナタクは、母を早くして早々に。地下にあった赤の民の街から旅に出た。後に……父は、同じ赤の民に、殺されたと聞いていた。
━━後に出会った。白の民と人間のハーフだったアレクとは『聖王の剣』を手に、共に戦った日々を昨日のように思い出す。
「あの男は……、昔のお前に似ている……。魔力の質や全てが、オーラルは狂喜の女神を討ち果たし俺には出来なかった『聖騎士の剣』を解放させた。数百年前……、我々が出来なかった事が、可能であるかな?」
囁くような呟きに、意思ある書は……、
遥かな昔━━。
ナタクの友で、『聖王の剣』の主だった者……、聖人アレイことアレクは、アイツ等に裏切られ書に封印になることになった……、書は、静かに明滅を繰り返した。
━━━━半年前。ラトワニア神国━━━、
女王ナターシャに呼び出された12の大僧正は、怪訝な顔をしていた、
━━それはそうだろう、リドラニア公国の地域を、崇め癒せなどと言われたら、女王が可笑しくなったと思われても仕方がない。しかもそれだけの儀式をしたら……、ラトワニア神国の財政をなげうつと言われてるような物だ。
「あの女王陛下よろしいか?、此度呼ばれたのは、あの聖騎士を名乗るナタクと聖騎士団を封じる策があると聞いたのです。それであやつらをどうにか出来るのですかな?」
太陽神アセードラ大僧正ルメージは、小馬鹿にした顔をする。
女と侮られてることをナターシャは認識していたが、一転にこやかに微笑み切り返した。
「おや?、ルメージ大僧正は、聖騎士団の力の秘密、知りませんでしたか?」
実に不思議そうに言われたので、この女何を言い出すのだ。不機嫌な様子で、
「それは知りませぬが、女王は、知ってると?」忌々しく思いながら、表面的には、有力者らしく振る舞う、
「おかしいですわルメージ大僧正?、聖騎士団の力は、太陽神アセードラの神の遺物なのに知らないとは……」
困った顔を装いながら、胸中で舌をだしていた。「なっアセードラの遺物?」
ざわめきが広まり。顔を見合わせる大僧正達は、驚きの表情をする。
「ばっばかな、ナタクが、アセードラの遺物を使ってると言うのか?」自分で言って、フッと、疑念が浮かぶ、
「アセードラの神書、第3章2説、神は青年に、一振りの剣を与えた、青年は剣を手に、王であると認められた」
空で、美しいソプラノ女王の朗読にしばし清聴した程だ。段々ルメージ大僧正から、余裕が失われたのは、誰の目に明らかである。
「第4章1説、青年は、ありとあらゆる能力がずば抜け、1人で一軍、剣を使えば、1000の騎兵、槍を使えば、1000の歩兵、弓を使えば、1000の弓兵になる」
最早血の気を失い。蒼白になる。ざわめきは感嘆と女王の叡知を、垣間見たため。一つは……、神の遺物を、ナタクが使えること……、
「彼を聖王……、白銀の神々の騎士団が、守りし我が子なり」
最早立ってることすら叶わず。座り込む。
「まっ……、まさか、ナタクは」
女王に懇願しそうな様子で、もはや気の毒とすら、呟い。
「青年とは、本人では無いでしょうが、その一族と考えるべきですわね」段々女王が、リドラニア公国の地域を敬うと、言った本当の理由に気付いた。
「我が、アセードラ信教は……、陛下のお言葉に従います……」
力なく……、ルメージ大僧正は確約したのである。
ラトワニア神国からリドラニア公国に連なる。国境付近に。12神殿の際議場が建設された……、
本来は一年に一度各神殿の持ち回りで行われる。祭儀だが、
━━今年のみ、神殿外で、行われると発表された……。
しかも例年にない。12神殿合同に行われると……、神々の信者は異例なことだが、祭儀場に集まり連日行列が作られてると言う。
数日後━━、混乱を予想していた大僧正達の思惑と違い。国内では、例年にない嬉しい悲鳴が上がる。
━━一方で、食料不足が懸念されたが、
女王が新たな交易国として、ギル・ジータ王国と国交を開き、事なきを得ていた。
この半年の間に女王ナターシャ様は、見事な采配により今まで王家を、形骸化視してきた大僧正達から、絶大な権力を失わせ始めていた………、
「オー君怪我したらしいけど、大丈夫かしら?」心配そうに、美しい顔に影を落とした。
━━━アレイク王国、王都カウレーン。王城━━。エルは王立図書館から出て、西の回廊を通り、北の搭に向かう。今日宮廷魔導師の塔に来たエル・フィアン少佐は、義父に呼ばれて久しぶりに、ケイタと顔を会わせていた。
「エル急いて済まないが、行こうか」
二人はアレイ学園に赴きエルの後輩達である。『院』の若い魔法使いを束ねる。
リリア・カーベン院長、バレンタイン副院長と会合を重ねるためだ。
そもそも魔導師を軍属にする考えは、カレイラ准将とケイタの夢から始まっていた。しかし今度はカレイラが集めた未熟な魔法使いではなく、優秀な魔法使いのみを組み込んだ、100余りの小隊を旅団に組み込む予定だ……。しかし武力に難がある優秀な魔法使いのため。古参の第1分隊将兵に加えて、新たに4000近い新兵が、エルの部隊に編成されるその準備の為である。
━━先日になるが、
オーラルとジン、ロート達がわざわざエルを訪ねて来て、さんざん気遣う優しい思念が、どれ程嬉しかったか……、
今でこそエルは、多くの仲間に受け入れられたが……、義父や義弟妹達、優しくて厳しい義母、みんなに心配かけたくなくて、1人でいることが、当たり前だった……、
「あの馬鹿……、何してるのかな?」
最初は、補助魔法教えてあげるつもりだった。本当に軽い気持ちで、何時からかな……、あいつの背中ばかり見てた。
「クエナの結婚式以来、顔見てないな……」小さく嘆息した。何をしてるんだか……、エルは、執務室に入る。
エピローグ
……時を同じくして、
王都カウレーンの東にある大通り、大聖堂、内部にある。図書館にカール・シタインの姿があった。今までこうした努力と無縁だったカール。今では時間を見付けては、知識を増やしていた。
「義兄さん、頑張ってるわね♪」
いつの間に来てたのかと、驚きながら義妹の賛辞に、照れ臭そうに、赤くなる。
「もうすぐ昼だよ。母様が、呼んでこいって」
クスクス楽しそうに笑う義妹は、最近明るくなった。どうやらオーラルと付き合い始めたらしい。まあ~彼奴なら、心配はないな、やる気が見えない顔をしてるが、頼れる相棒の顔を思い浮かべると、優しい気持ちになった。
「綺麗になったなリーラ」
「なっ……」
真っ赤になりながら、恥ずかしがったリーラに肩を叩かれて、鈍い痛みに顔をしかめながらも、カールは朗らかに笑えた。
そう……とても平和だった日々は━━━、
突然━━━。
終わりを告げた、今でも思う。あの日がとても幸せで、だから母、義妹、エル……、
━━━世界が簡単に━━、
壊れたなんて、未だ。信じられない。
俺は……カール・シタイン、僅かに生き残った。アレイク王国の将軍だ、
魔王ピアンザの隠していた何か、オーラルは、オーダイは異変を感じていた……、また同じ物語か別の物語で背徳の魔王でした。




