『オールラウンダー』
━━東大陸・聖アレイク王国には、ある伝説が残されていた。
━━あらゆる武器に通じる一騎当千の武人。
━━あらゆる魔法を極めた賢者。
━━そして経済を極めた商人、その優れた三人から名を貰い称号が作られた。
聖アレイク王国には、先人の理念を忘れずに。学園を設立する名をアレイ学園。世界を揺るがす物語はここから始まった。
プロローグ
東の大陸。聖アレイク王国━━。
王城の執務室。
南大陸にある。同盟国のファレイナ公国。大使ミザイナ嬢との会談中。妹姫が、大事なぬいぐるみが無くなったと。大騒ぎしたのには、いささか、辟易しながらケレルは、冷や汗を拭い席に着いた。
「失礼した」
静かに笑むミザイナ嬢は、
「そんなこともあります」
愉しげに笑ってくれた、救いである。 彼女が、アレイ学園の卒業生であったことも一因であろう。妹姫にも、困ったものである。
「君に来てもらったのは父王から、頼まれてね」
妹は、退出せずキョトンと立ている。背後には、北大陸出身の黒髪メイドのジーナが、ケレルに目配せして、妹姫を連れ出してくれた。妹には、勿体無いくらい吉備に敏感な女官である。内心感謝しながら、表情を改めた。
「ミザイナ嬢、エドワルド公が、わざわざ来る目的は、やはり……?」
厳しく。表情を改めて、小さく首肯する。
深く。深く。ため息を吐いた。
「魔王ヒザンが殺され……。新たなる魔王が生まれたか……」
━━聖アレイ学園。
アレイとは、この国の建国した。偉大なる王の祖、祖父『聖人』の名を戴いた。
学園を開校して100年……、
聖アレイ学園には、5人の特別な人間を産み出した。その者達を……、
『オールラウンダー』と呼んだ……
━━10年前。聖アレイ学園。
━━王都カウレーン。
今年も、世界中の国々から、聖アレイ学園に入るため、子供達が集まる。
朝から、大通りは賑わい。異国情緒たっぷりの衣装が、溢れていた。アレイ学園は、広く門戸を開いていて、一般人から、貧民、貴族を分け隔てなく、就学は、12才から2年、国民ならば誰でもが学ぶ権利である。
就学の2年だが、その間に。成績優秀と認められた生徒には、さらに4年の進学を認められる制度があった。それは文武の内。一定の成績を修めた優秀な者を
『特待生』として認め。魔法の習得や。僅かながら金銭の補助が、与えられるため。勉強に必要な様々な物は、無償で貰える特典が保証された制度である。その為アレイ学園に入学した生徒は、『特待生』になる努力を惜しまない。
何故ならば卒業後、軍部での就職が、優遇れるからだ、一番人気の近衛連隊、
聖アレイ教のフロスト騎士団、さらに狭き門ながら、
王宮魔導師の道すら、開ける可能性があるから。学生の多くは、国王に感謝して、勉強に勤しむ。『特待生』制度を設けたのは、初代学園長だと言われているが……、彼が聖アレイの弟子だったからだ。
━━━王都の東、
聖アレイ教のある大通り。大聖堂のある通りは、商会が軒を並べていて、荷が集まる早朝は、苦学生の小銭稼ぎ時である。人足に混じり、学生の姿もあるのは、きつい仕事だが、金払いも良いからである。
黒髪で、眠そうな眼差し、やる気がなさそうな顔は生まれつきで、柔らかな、優しい目をしていた。
「オーラル、そいつで終いだ、ぼちぼち行かなきゃ、遅刻だぜ」
がっちりしたガタイの大きな、男達に混じり、細い身体なのだが、
「は~い、よっと」ズシリと重い。一つの塩袋でも。かなりの重量だが、軽々3つ担ぐオーラル。感心混じりの親方は、ため息混じりで、呆れ顔で見送る。
「変わらんなあいつは……」
禿げた頭を。つるりと撫で、皮肉気に苦笑していた。
「親方。ご苦労様」
「これは旦那、おはようございます!」恰幅のある。身なりの良い商人が、満面の笑みで、店から出てきた商会の主である商人は、帳簿を見ながら。荷の数を数えてたようだ。
「オーラル君が、手伝ってくれてたようですね~」
たるんだ頬を。優しく弛める。
商人にとって、時は金、オーラルに、好感を持つ商人は多い。
「しかし彼が『特待生』になるとはね……」
感慨深く、様々な気持ちで呟いていた……。商人の多くはオーラルの父と取り引きしていた。それはオーラルの父が、優秀な土竜騎士として有名だったから。と同時に彼の家庭環境を知るだけに。感無量なのだろう……。
ターミナルの街と呼ばれる交易の街には、地下に広がる広大な迷宮があり。南大陸と繋がっていて、海上以外の交易品の輸送。地下迷宮にある村、街を巡る定期便。魔物の討伐。新しい村の開拓と多岐に渡る仕事を請け負うのが、土竜騎士と呼ばれる者達。
性質上━━土竜ギルドに在籍するのだが、オーラルの父リブラは、土竜騎士として、初めて受勲したほどの冒険者だった。
地下迷宮とは、古代の民が作ったと言われているが、今は南大陸だけに繋がっていて、南大陸と交易するアレイク王国にとって。海上より安全な交易路として。使われてる。商人は交易輸送をギルドに依頼して、土竜騎士は土竜を操り、地下迷宮を走る。商人と土竜騎士は、それゆえ腕のある者に依頼する。
聖アレイク王国にとって、建国より土竜を聖獣と定めている。諸説あるが、王家の秘事とされている。
土竜騎士は、土竜と意思を通わせる訓練を。幼い頃よりしていて。特殊な笛により、意のままに操る者。土竜騎士とは、特別な職業と言われていた。
それは……、様々な地下に対する知識だけでなく、動物、魔物、魔獣の特性。生態を、深く。正しく知る知識が必要であり、様々な武器の扱いに長けなくば。勤まらない職業であるためだ、器用な人物が多いとも言われる。リブラの子オーラルも器用貧乏を、ひくたちである。
━━数年前、
オーラルの父は、何かの調査で、地下迷宮を巡り、大崩落で、行方不明になった……。
家の大黒柱を失った、ハウチューデン家は、家計を助けるため。姉が働きに出ていた。母は、孤児院の手伝い等をして、孤児院の畑で作った。野菜など分けてもらって、親子三人寄り添うように。何とか生活していた。
母には内緒で、家計の助けにと、オーラルは、学園に行く。早朝の僅かな時間で。毎日、1日も休まず荷下ろしのバイトをしている。
もう二年もだ……、慣れた人足ですら根を上げる。きつい仕事を……、一言の文句も言わず。オーラルを雇ってくれた商人に。感謝すら口にした。
━━苦労してるのに……。
優しい少年に。皆が、温かく見守っていた。
オーラルが、『特待生』に選ばれた……、それを知ったこの界隈の貧民、商人は、密かに喝采したのだ。
優しい性格のオーラルは、人足からや、孤児から人気があった。毎朝、ご飯を分けてもらえるくらいには━━、
慌ただしく服を着替え。オーラルは、店から走ってく姿を。温かな眼差しで、人足達は見送った。
━━王都の南。
広大な敷地内に。沢山の施設が作られ。学年別。クラス別の学舎が隣接しているため。毎年広大な校庭に、新入生が1000人以上集まる。そのため、校庭では、新入生が、広大な敷地の学園の地図を前に。あたふたしていた。
━━校門。
学園入り口にある。掲示板に。新入生の学舎が、張り出されてるため。大変混雑していた、理由は地図をいくら見ても。学舎は広く、場所によっては、馬車に乗らなければ、行けないクラスもある。乗り合い馬車の場所を覚えるまで、毎年迷子が沢山出る程だ。
そこで学園側としては、毎年のことである。混乱を緩和させるための処置として、学生による案内人制度を設けていた。二年生以上の生徒、主に『特待生』『院』生徒が、駆り出されている。
しかし学生にとって、悪い話ばかりではない。案内人を勤めた生徒には、個人ポイントが付くので、多くの二年生。主に一般生徒が参加していた。苦学生の多い『特待生』は特に率先して参加していたが……、
それには理由がある。主にポイントが関係している。アレイ学園には、特有の制度があって。個人ポイントによる。様々な特典と学園生活に必要な。様々な恩恵を得られるからだ。学園の個人ポイントとは、貨幣と同じ力がある。生徒はポイント稼ぎに。奔走することになる。
━━━賑やかな正門を避けて、
遠回りになるが、『特待生』の学舎のある。演舞場の裏にある。林道を、使うことにした。
「……ん?…」
……怖がるような。悲鳴がした。
急いでるのだが……、だけど苛立つ声を耳にして、仕方なく立ち止まる。
相手を萎縮させる怒気に。眉をひそめていた。
「貴様、俺様を知らないだと!、馬鹿にしてるのが?、俺様は王家に連なる。バローナ様だ、身体に教えてやる……」
大柄な少年は、ニヤニヤ嫌な笑いをしてる二人の取り巻きに、少女と見間違うほど、可愛らしい顔立ちの幼い少年を捕まえさせていた。東大陸には珍しい。黒髪の少年は、別の大陸の生徒だろか?、肌は絹のように白い。今にも泣きそうな顔をしている。一瞬目があった、動物が、すがるような目を見て、迷ったが……、
「お前達!、そこで何している」
ビッグ、三人は身を堅めた、
だが、相手がオーラル1人と分かるなり、嫌らしく笑いながら。
「先輩でしたか、こいつが、俺様の事を知らないと抜かしたので、教えてやってるとこですよ」
分かるでしょ?嫌らしい目を向け。ふてぶてしく笑う、リーダーが余裕を取り戻したから、取り巻き二人は、馴れ馴れしく。顔を近付けて来て、
「先輩……、知ってますよね?、バローナ様が、王家に連なるエトワール家の御曹子であると」
嫌らしく、粘っこい視線に辟易して、最早呆れていた。
「知らんな~そんな奴は」
「えっ……」
呆気にとられ。取り巻きがポカーンとした。そんな隙を、見逃さず。少年を引き寄せ。三人を凍り付かせた。三人が我に返る。
「おっ、お前!」
怒りを露に激昂して、大柄な少年バローナは、真っ赤になって怒鳴り散らすが、気にする必要を感じない。
「君、大丈夫かい?」
目に、涙を溜める少年を。労る眼差しで見ると、やや心配そうにチラリ三人を見たが、素直に頷いていた。
「貴様!、無視するな」
馬鹿にされたと怒り、我を忘れて、殴り掛かって来た。素早く立ち上がり。バローナの拳を、軽く受け流し、体制が崩れた瞬間。一歩踏み込み、身体を密着させ。相手の力だけで、あっさり投げ飛ばしていた。女の子のような顔の少年は、魔法を見たようにビックリして。目を丸くした。
「グヒッ……」
背中から落ちて、無様な姿をさらす。
「君のクラス分かるかい?」
「ええと……」
困った様子の新入生を。このまま置いてける空気ではない。すがるような、子犬のような目で見上げられては……、
こうなれば遅刻は仕方ないか……、半分あきらめ、手を繋ぎ、さっさと行こうとすると、
「おっお前!、この俺様に手を上げて、無事でいられると思うなよ」
唾を撒き散らして啖呵を切った。仕方なくバローナを平眼した瞬間。勢いが弱まるが、
「きっ、聞いてるのか!、俺様は王家に連なる……」
まくし立てるバローナ。取り巻きは、オロオロするばかりだ。
ただただ呆れていた……、
新入生は真っ青になって震えた、不安そうにオーラルを見上げたが、何の不安すら浮かんでない顔に。不思議そうに首を傾げた。
「そこのお前━━。バローナと言ったな?、いつでも来るといい。君が『特待生』になれるなら、戦ってあげるよ。何時でもな」
堂々と宣言され……、バローナは指差した手が、カクンと勢いを無くし。顔面蒼白……、パクパク息を吸うことすら忘れた。呆然と立ち尽くした……、アレイ学園には、厳然とした不文律が存在している。自分の正しさを武力で証明することが、正式に許されているのだ、
今回の場合。苛めていた三人は、先生に訴えても、逆に罰則を受けるのは、三人の方である。さらに『特待生』は、国を支える武官になる可能性が高く。貴族と言えども。自分に被がある今回のような場合。オーラルが正しい処置なのだ。
少年の手を引き、彼のクラス探しに、奔走したが、程なく見付かりホッとした。
「先輩!、ありがとうございました、ぼく先輩のようになります。」憧憬の眼差しに、くすぐったい気持ちになった。少年はケイタと名乗った。伴った教師を見送った。
迷子を助けたことで、迷子の仕事と認めてくれた教諭から。特別にポイントが加算された。
『遅刻にならず。助かった……』
オーラルが、ホッとした理由がある。『特待生』は、三回の遅刻で、強制退学にすると言う。厳しい学則があるからだ。
まだオーラルは、一度も遅刻はないが、退学は困る。リスクは無いに限る……、
そうなると、時間が余る。
『特待生』は特別に。案内人に出ない生徒は、新入生の歓迎会は、出なくても構わない決まりだ。それには理由はある。
「演舞場に行くか…」
何故かと言うと……。
入学式が行われた翌日から。学生による武芸大会が行われるからなのだ。『特待生』が案内人をやらない場合。必ずどの大会かに出場しなくてはならない。
オーラルも複数の大会にエントリーを済ませていた。
昨年の成績は、
体術の部。参加240人中、3位だった、
剣の部、430人中、5位だった、
大会は、入学式翌日から、4日間で行われる。年に一度の学園のお祭りである。
━━予選が始まるのは、明日からで、
剣の部、体術の部の予選が行われ、決勝は4日目の夕方に行われる。
2日目の朝、弓技大会の予選が行われ、
午後から、槍の部予選が行われる。3日目に、槍の決勝と、弓技大会結果が、発表される。
アレイ学園の入学式からの4日間は、国内外から。沢山のお客様が来られる。そのため学生にとっては、チャンスでもあるし。優秀な人材の欲しい騎士団、各国の軍部は、自分をアピール出来る。場所でもあるのだ━━
昨年オーラルは、数少ない新入生であり、一般生徒でありながら、初出場で、どちらも優勝者に負けた、だが優勝者と、互角だったのは、オーラル1人だけだった。
学園側から。入学試験で、既に『特待生』レベルにあったオーラルを。相応しいとの素直な判断であった。
「オーラル?、なんでお前がいる」
演舞台のある体育館に入るや。突然。声が掛かる。黒髪を後に束ね。凛々しい若武者のような風貌に、驚いた顔をして、タオルで汗を拭うのは、昨年オーラルを倒して、圧倒的な剣技で、2連覇中のミザイナ・アルタイルだ。
━━━ミザイナは、南大陸、ファレイナ公国出身であり、王の兄である。現騎士団長の1人娘で、貴族の令嬢なのだが……、
本人に言うと、殴られるので、注意が必要だ。
「実は……」
朝の一件を話した。
「エトワール家の……、お前、厄介なのと関わったな」
心配を吐露したミザイナに、困った顔しながら、肩をすくませ。
「何時ものことさ」
「確かにな……、例年ろくな貴族が、入学しない」ミザイナも、貴族なのだが、言わないでおこう…、
「どうだ、久しぶりに汗を流さないか?」
木刀を手に、獰猛な笑みが広がる。
「まあ……仕方ないな」
諦め気味に呟き。木刀を受け取り、演舞場に上がった。
体育館にある演舞場は、四面あり。周囲には、木偶を使って、打ち込みの訓練する。『特待生』の姿がある。今いるのは主に。剣、弓、槍の武芸大会で、上位にいる者ばかりだ。
皆が見守る中、二人は対じする。
片や、剣の試合で、無敗の女帝ミザイナ四年生。
対するは、剣、体術双方の部で、昨年上位者だったオーラル。しかも二人は、同じ部隊の隊長と副隊長で。好奇の目は集まった。
━━2時限の授業が終わり、
二人が『特待生』クラスに戻ると。
薄いピンク掛かった髪の可愛らしい少女が、二人を見つけて、笑みを深めた。
「ミザ、オー君。お帰り~」
のほほん、ほんわかふわふわ。そんな擬音が出そうな可憐なお嬢様に。一見は見える。また朗らかに可愛らしく笑う姿から、癒し系の美少女と呼ばれる。二人の友人で……、同じ部隊の仲間でもある。レイナ・フォルト、こう見えて……、
昨年の体術の部、準優勝者だ。昨年まで三連覇した先輩がいたが、卒業したため、レイナは、今年の体術の部。優勝候補筆頭だ。
彼女は、北大陸のファルバス族出身で、超人的な筋力と、拳打の盛んな一族であり、体術において、最強を誇ってる一族の生まれである。
レイナの一見穏和そうな、お嬢様な風貌に。惑わされてはいけない……、そうは見えないが、脅威の怪力の持ち主なレイナは、ミザイナを持って、天才だと言わしめさせた。体術の天才である。
一方で━━、学問に対しても聡明な少女で、まだ聖アレイク王国でも少ない、魔法医を目指していた。
「あ、ピア君、ご苦労様♪」
浅黒い肌をしたピアンザは、無言で頷いた。
案内人をしてポイント稼ぎをしたようだ、
彼は、睨むような目付きのせいで、誤解されがちだが、人付き合いが、苦手なだけで、さり気無い。気配りの出来る人物だ。視力が恐ろしく良く、弓の腕前は、学園屈指である。「オーラル、先生が呼んでる」
「ん~わかった」
口下手で、端的にしか、自分を表現出来ない。不器用なピアンザ、彼も同じ部隊の仲間で、オーラルの友人だ。答えに満足して、自分の席に戻る。
『特待生』クラス担任は、6人しかいない。宮廷魔導師のリリア・カーベン女史だ。アレイ学園でも屈指の変わり者で有名である。
リリア他、25人の教師が、自分の仕事の合間に。勤務しており、めったに来ない教師はざらだ、リリア女史は逆に、学園にいない方が珍しい人物で、学園に、住んでいると噂があったりする。本当に。宮廷魔導師?疑問に思われるのは、仕方ないことだ…、多分……。
職員室に入ろうとした。オーラルを認めて、
「こっち、こっち」生徒指導室から、顔を覗かせ。手招きする。何やら人に聞かせたくない話しかと推測した。リリア女史に従い。生徒指導室に入った。
普段から眠そうな顔、大きな目に不釣り合いな。小さな眼鏡が、鼻の頭に乗っている。
「ふわあ~オーラル~、さっき~新入生~、助けたでしょ?」
面倒そうに欠伸混じりに言う、
ああその話か……、
それよりも…、リリア女史の寝癖、後ろ頭が気になった。
「はい、何か問題がありましたか?」
気にした様子がないオーラルを。嬉しそうに微笑して、
「あれは平気、親がしゃしゃり出て来たけど、気にしないレベル、貴方に頼みたいのは、助けた方なのよね~……」
━━━リリア女史が言うには、
よりにもよってバローナと、ケイタが同じクラスだったと言う。ケイタ・イナバは、西大陸、魔導王国レバンナの出身で、神童と呼ばれた天才だ。しかも最年少の10歳と聞いて。小柄なのも納得した。
聖アレイ学園側としては、ケイタを育てるため。
最初の一年は━━。一般生徒と、一緒に勉強させようと決まっていた。それから数年の間に。『特待生』『院』生徒として、段階的に選ぶ予定だった……、
それと言うのもケイタの入学試験結果で、既に学力は……、早くも学園屈指所か『院』で通用するレベルにあるらしく。今すぐ『特待生』として選ぶことには問題がない、それどころか、ゆくゆくは……、アレイク王国の筆頭宮廷魔導師候補にと。熱望されている。来年早々『院』に、入るのは決まっていた逸材だ。
学園長もこうなっては、早いが大切な、才能を壊したくない。だから……、苦汁の決断をした。
「一年のしかも10歳で『院』にですか?……」
オーラルの懸念に。渋面を浮かべていた。呻くように嘆息して、諦めた。
「そうなのよ……」認めた上で、困ったわね~的な、リリア女史のお気楽な呟きに、思わず苦笑した。
『院』の生徒とは……、基本的な二年の就学を経た学生、更に選ばれた『特待生』として学ぶ四年間。その中から……、学問に優秀と学園側が認め。選ばれたエリート達の集まりである。
『医』生徒に選ばれた者の多くが、大変優秀な、国の研究者または、国事を司る。官僚を排出してた。最近では『院』生徒の多くが、学園内にとどまり、アレイ学園の補助教員になったり、都で私学の先生として、財を成した者もいた。いわゆる天才の集まりだ。行く行くは学者か、官僚となるべく者を。未来の宮廷魔導師を育てる機関だったが……、
『院』の研究生は、平均年齢18才以上だ、
ケイタは、まだ10歳である。
問題は、年齢と『院』に蔓延る派閥。陰湿な体質だと言われていた。初めて訪れた少年が、見も知らぬ土地で、1人だけ、『院』に、進級させるのは問題があると、学園側は考えた……。
だからまずは『特待生』に選んで。担任のリリア女史に、話が回ってきた、そんな所か……、
「では、ケイタはまず『特待生』扱いにするのですね?」
感のよいオーラルが、先回りして答えると。満足そうに頷いた。
「オーラル。貴方には『院』に入る。許可が降りてるわ、だから……」
瞬時に理解した。
……取引か……、
だが、同時に魅力的な話であるとも思う。
『院』に若くして入った経歴は、将来必ず役に立つ。金銭的に苦労してるオーラルにとって、魅力的な申し出であった。
と言うのも『院』に入る許可があれば……、毎月、僅かながら国から。支援金が支給されるからだ。だからこそ……、気負いなく。
「お断りします」
きっぱり言われて、驚くリリア女史に。一つ頷いて、
「ただ……、ケイタの面倒は、俺が、見ますよ」
続けた。息を飲んだ……リリア女史は、何も言わず。
気高い。生徒を、抱き締めていた、
「ありがとうオーラル……」
「先生……、俺は出来ることをするだけですから……」ほんのり赤くなるオーラルを、クスクス笑いながら。頬をつつくと、ニンマリ人の悪い笑みを浮かべて、
「でも『院』に、入れる許可は、出しとくね~♪」
ケイタのために『院』には通へと。暗に言うのだ。迷ったが……オーラルは、快諾した。そんな優しい生徒を見詰めて、嬉しそうに眼を細めていた。
『特待生』の学舎から、林道を抜けて北東に歩いてくと、特別研究機関『院』、別名゛始まりの学校゛はあった。
━━リリアに連れられ。『院』の施設に入ったオーラルの眼前を、すたすた歩いてく白衣姿の生徒達こそ。学園が誇る。頭脳が集まっていた。
目に入るのが。大陸全土から集められた。古い文献や、専門書が、見渡す限り壁一面に。仕舞われていて。かの『魔王の書』すらあると言うのだから驚きだ。
最初の印象から。まるで広い図書館のような造り。1階から3階まで、ぶち抜きになっていて、入り口から。奥の階段まで、沢山のテーブルが並び。それぞれが本を読んだり。調べ物をしてる中で、大人に混じり、背を小さく丸め。俯いてるケイタを見つけた。
リリア女史に目配せして、リリアが頷き。オーラルの背を叩き退出するのを見送り。それから肩をすくめながら。
ゆっくり……、ケイタの座るテーブルに近寄る。
━━しばらく黙って、わざと影を作り、反応を待ってると、
「なにか用でしょうか!」
何かに堪えるように。身を硬くして、強ばる声を発した。声には寂しさと、硬さが滲む。だからわざとつっけんどんに。
「なんで、お前がここにいる?」
「えっ……」
聞いた声に。驚いたケイタが、顔を上げた瞬間。やはり女の子に間違えられそうだな……、ぼんやりそう思ってると、
「……ぜんばい……」いきなりオーラルに抱き着いて、ワンワン泣き出した。
辺りから、迷惑そうに舌打ちする『院』生を、鋭く睨み付けた。するとオーラルの左胸にある『特待生』の校章を見て、そそくさ退散した…、
ケイタが、落ち着くまで、好きなようにさせた。しばらくして……、
「先輩……、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
落ち着たケイタは、自分の醜態を見られ。恥ずかしそうにもじもじ俯いた、本当に女の子みたいだから……、心の中で、突っ込みながら、
「俺は『特待生』だが、『院』に入る許可をもらってるんだよ~、一年のお前がなんでここに?」
すると、ケイタの顔に劇的な変化が……、顔を輝かせて、急に嬉しそうな顔をした。わざと訝しそうにするオーラルを。飼い主を見付けた。子犬のような目をするから、オーラルの方が気恥ずかしくなった。コホン咳払いし。視線を逸らしてから、まあいいか、肩を竦めていた。
「どうせお前も『特待生』なんだろ?」
「えっと……一応は」
戸惑いながら、首肯した。急に不安そうな瞳で、オーラルの顔を、伺い見るケイタに、思わず(苦笑)していた、
「俺の用は終わった、クラスに戻るなら一緒に行くか?、また迷子になられると困るからな」オーラルからそう提案すれば、目を輝かせ。
「ぜひに。」満面の笑みで答えた。さっきまで捨てられた子犬のようだったとは、同じ人物とは思えない変わりように。溜め息を吐いた。
二人で、『特待生』の教室に戻ると、リリア女史が、壇上に立っていて、魔法力学の講義してるところだった。オーラルは、まだ魔法の基礎を学んでる段階だが、魔法の素養ありって事で、
『特待生』」でありながら『院』に入る許可が下りたと。みんなには伝えられていた。
基本同じ部隊の面々は、近い机に固まっている。レイナは、まだ『院』から戻ってないようだった。丁度空いてる机は、レイナの席の後ろで、おどおどする。ケイタを連れて、ミザイナの隣に二人が座る。
「遅かったなオーラル、そっちが噂の一年で『特待生』になったやつか?」
「どっどうも……」少女にしか見えないケイタを、怪訝に見たが、フッと柔和な笑みを浮かべ、
「私はミザイナ・アルタイル四年生だ。よろしくな」
「はっ初めまして、ケイタ・イナバです」
魅力的な、ハンサムな微笑と、オーラル達は呼ぶ笑みに、すっかり魅了されたケイタが、真っ赤になっていた。
「そっちの無愛想に見えるのが、同じ部隊のピアンザ、もう1人仲間がいるが、まだ『院』から戻ってない」
驚いた顔のケイタに、オーラルは肩を竦めて見せてから。小声で、
「この二人も『院』に入る。許可が下りている」
目を丸くしていた。それもそうだろうと、密かに(苦笑)した。『特待生』クラスで所か、アレイ学園全体見回してもオーラル達の部隊は、何かと目立つ。何せ4人の内、3人が『院』に入る許可を得てるなど……、聖アレイ学園始まって以来の快挙なのだから、今日からオーラルを含め4人となり。正式にケイタが部隊に入隊すれば……、
聖アレイ学園では、クラスごと3~6人で誰もが、小隊を作り。様々な勉強、実地試験で、助け合う決まりである。新入生初日……、演舞場に迷い込んだオーラルは、ミザイナと出会っている。妙に気があって、挨拶する程度の交流はあった。何故ミザイナ部隊に入ることになったか━━、
オーラルは、一般生徒ながら武術大会に出場して、好成績を納めて。『特待生』に選ばれたと自分では思っていた。
周りからもいわゆる武道派の『特待生』そう位置付けされていることを知るのは、かなり後であるが、見所があると、ミザイナにはそう言われたのを覚えていた。ミザイナは語った。
「私には、学園に入った瞬間から、成し遂げたい夢があるのだ」
アレイ学園には、他の学園にない、変わったシステムがある。その一つがポイント制度だ。
ポイント制度には、二種類あり、
部隊ポイントと、
個人ポイントがある。━━例えば、
武術大会に出場して、もしも決勝に残ったり、運良くベスト8に残れた生徒には、個人ポイント30が入る。ポイントとは、様々な特典が得られる。学園内の貨幣代わりになる。制度である。
特典の一つに個人5ポイントで、一度の宿題免除チケット一枚と、交換出来る物がある。学力に苦労してる生徒にとって、垂涎物の特典であった。
さらにベスト4入りすれば、20ポイント加算で、この時点で個人50ポイント貰える。
これらのポイントは苦学生にとって、優しい制度にもなっていて、15ポイントで、
なんと1ヶ月、食堂無料利用パスと交換出来るのだ。
静かに…オーラルのテンションが上がったのは、当然である。優勝者には、100ポイント与えられる。さらに部隊ポイントは、個人ポイントの半分が加算される。また部隊ポイントにも様々な特典があるが、
━━ミザイナ部隊。現在のポイントは2350ポイント、ゆうに1人が、1ヶ月……、豪華客船で卒業後。使節団と共に。世界中の国々を回れる特典が与えられるのだが……、
「オーラル彼は……」
「ミザイナ俺が、スカウトしてきた。学業に関しての能力はレイナ以上だ」
「う……お前がそこまで言うか……」
物珍しそうなと言わん顔を隠さず。ケイタを値踏みする。戸惑うケイタに小声で、
「アレイ学園では、クラスごと部隊が編成されてるんだ、『特待生』クラスも同じで、様々な試験が行われる。中には、実地試験てのがあって。仲間でクリアしたりするんだわ、嫌なら別の部隊を紹介するがどうする?」
一瞬……ケイタは迷う顔をしたが、しっかり頷いて、
「お願いします!」
ミザイナを横目に、肩をすくめる。
「だそうだ、部隊長殿?」
ミザイナは、値踏みしてた眼差しを弱め、一つ頷き、
「とりあえず見習いとして、我が、部隊の入隊を赦そう、それでいいな副隊長殿?」
「あっ、ありがとうございます!」
嬉しさのあまり急に立ち上がって、大声でお礼を述べ。深々一礼していた。
「あっ」
「バカお前」
「……」顔色を変える三人を、キョトンと見ていたケイタだが、
教室が、静寂に包まれてるのを不思議そうに、首を傾げた。
「そこの四人!、週末校庭の草むしりな~」
「だは……」
頭を抱え、のたまつ三人を、ケイタは、不思議そうに見ていた。
━━翌日。
5人で朝食を済ませたあと、ミザイナ、オーラル、レイナが先に出て、応援と案内人のピアンザが、ケイタを連れて演舞場に入ったのは、予選の始まる。少し前。昼近くである。
━━会場は、既に凄まじい熱気に包まれていた。
「うわ~凄い人ですね……」
ケイタも呆気にとられた。一度に4000人が、座って見れる観客席に。沢山の人が今か今かと待っていた、観客席の下に。出場生徒の控え室があって二人が、入ると、
試合前の生徒達の闘気に、飲まれるケイタは、ピアンザの声にまで身をすくませていた。
「こっちだ」
「あっ、はい」
慌てて、ピアンザの後に続く、
「あ~ピア君だ~、こっちこっち♪」
にっこりポヤポヤ~、ほんわか、ふわふわの可愛らしいお嬢様風な少女レイナが、笑顔で出迎える隣で、颯爽と素振りするミザイナも。手を止めて朗らかに笑い、
「良くきたな二人とも!」
凛々しい微笑みに。周りの女の子達が、顔を赤らめる。その少し先には、何故かオーラルが気持ちよさそうに寝ていたが……、
「そっちは、例の草むしり君ね」クスクスからかう口調は、春の日差しのようだが、言うことはかなりキツイ。ケイタの顔がひきつる。
「はっはい、ケイタ・イナバです!」
怒られる。そう思って首を竦めた。
あの後……オーラルから、部隊について詳しく訊いたのだが、向かい入れてくれたみんなに。多大な迷惑を掛けてしまったと、猛省していた。
部隊ポイントとは、普段の行いによって、減点らされる方式である。例えば、罰則を回避するのに使うと……。
今回の武芸大会当日に罰則を受けた場合は。草むしりの罰則回避するのに。1人15ポイントが必要で、4人で、60ポイント消費してしまった……、
ミザイナの夢は、10000ポイント以上貯めて、部隊全員で、世界中を回ると言う壮大な計画だった。だがケイタが入り12500ポイントを目指すことになった。
ミザイナの夢を、皆で叶えるためとケイタは聞いて、そんな大それたことを言えるオーラル達に。感動すらした……、
100年近い、聖アレイ学園の歴史上。2300ポイント貯めた部隊はいても、部隊全員分のポイントを貯めた部隊は皆無だ。
「ああ~あれね。オー君に聞いた~よ、君。魔導王国で『魔導生』だったんでしょ?」聖アレイ学園と同じく、あちらでは、魔導に重きを置くため。優れた子供が入る学校がある。そのなかでも『魔導生』とは、将来の宮廷魔導師を約束されたも同然であった。
━━昨年、
ケイタ・イナバと言う少年は、7つある国内の魔法関連の大会で、最年少出場を認められるほどの才を魔王ヒザンに認めさせた天才である。『魔法理論大会』『魔法構築スピード大会』にて、二冠した実績は、『院』の生徒と比べても差は無いに等しい。
「夏の部隊対抗戦か、夏休み前にある。魔法討論会・予選と、本選勝ち抜いて上位に入れば、多分大丈夫だよ~」
お気楽なレイナの説明で、徐々に表情が引き締まる。
「がっ頑張ります」
「うん、今日は楽しんでね~、私もガンバ~ルからさ~」
「はっはい……」
真面目に返事するケイタに向けて。朗らかに微笑したレイナ。
ケイタは、ケイタで、大丈夫かなこの人?、心配そうにレイナを見ていたが……、
それが杞憂だと……ケイタは知らない。
━━ざわめく会場、息を飲むような。熱気に包まれ。歓声が上がっていた。
武術大会、開催が宣言されたようだ━━、
予選から白熱した戦いが、演舞場の会場で行われているが、オーラルは演舞台袖の選手控え室で、まだ寝ていた。
「予選第三試合。オーラル・ハウチューデン!、対するは、昨年の準優勝者ライヴ・クラウン」
いきなりの好カードに、歓声と、熱気が上がる。
全く起きる気配の無いオーラルに、ケイタが慌てる。
「せっ先輩、先輩」身体を揺らす。
「ん……、出番か?」
「はっ、はい」
慌てて頷くケイタの頭に、軽く手を置いて、身軽に立ち上がり、凝った肩、首を軽くほぐしてると。
「オーラル!」
仕方ないやつだ。ハンサムな笑みを浮かべたミザイナから、木刀を渡されて、きょとんとした。
「こっちか…」
ばつが悪そうに呟いた、ケイタはただ戸惑うばかりである。この時は、まだ……、自分の入った部隊の真実を、知らなかったのであった……。
━━演舞台に先に上がった。いかにも女の子受けする甘いマスクの少年は、女の子達の声援に、余裕の笑みを浮かべるや。手を振るい自分の優位を誇示していた。昨年の準優勝者ライヴ・レイナルド、父はフロスト騎士団の小隊長であり、武勇に優れた4年生である。黄色い声援が増した。
「君には、悪いが、倒させてもらうよ」ファさ前髪を、かきあげ。ポーズをとった。
「始め」の合図で、いきなりライヴが飛び出した。鋭い連撃を見舞う。
オーラルは、一歩引いて鋭い連撃を、いなしていた、ライヴの体が流れた隙を突いて、浅いが胴を払っていた、痛痒い一撃を受け舌打ちした。
「ぐっ、やるな、だが…これは防げまい」
数号の打ち合いから、急にライヴが、つばぜり合いを仕掛けてきた。力押しの戦法に。仕方なく付き合うオーラル。
「………」
対抗しないと。無防備な胴を打ち込まれ兼ねないからだ。ライヴの華奢な見た目と違い。相当鍛練を積んでいるのだろう。更に力が込められた。オーラルも対抗するため、力を込めた途端━━。
ライヴは、不敵に笑い、後方に飛んで、木刀を素早く下段に構え……、余裕の顔が、
凍り付いた…、
「……そこまで、勝者オーラル・ハウチューデン!」
体勢を崩してるはずのオーラルが、
目の前にいて……、木刀の切っ先が、ライヴの眼前にあった。
あまりの出来事に会場が、ざわめいていた。ライヴの顔は青ざめまるで信じられない物を見たと。何度も首を振るう。普通は引き技により。いつもならば体勢を崩したオーラルの木刀を。下段からの巻き上げを狙い。華麗に勝つつもりでいた。それに気付きながら、オーラルはライヴの策に乗り。体勢を崩したかに見せた。次の瞬間。身体を風車の如く回転させ、一瞬の間に体勢を建て直して。ライヴの喉元に木刀を突き付け、あっさり勝っていたように……、端から見せた内容になるが、
「腕を上げたな……」
二人の技量は、紙一重であり。昨年ならばライヴの方が僅かに技量が勝っていた。
観戦する側には、そんなこと分からないから……、優勝候補が、予選で敗退したと……、周りは騒ぐ。大波乱に会場から、違うざわめきが流れた、
さらに皆を驚かせる出来事が、起こった、会場の半分では、体術の部予選も同時に行われており、その会場から……、
「オーラル・ハウチューデン」
呼ばれた途端、ざわめきが大きくなっていた。それは……、
木刀をケイタにポイっと投げ渡し、急いで、別の舞台に向かう。
「あっあの……先輩は、いったい?」
隣のピアンザを伺うと。いかにも不機嫌そうな顔に見えて、本人にまったくそんな気は無いのだが……、ムッとして見える。ピアンザを恐々見上げ、聞く。
「見てれば、分かる」
もっともに答えを口にして。オーラルの上がった舞台に向けて、顎をしゃくる。ケイタは急ぎ、オーラルの上がった舞台に向かい。着いたと同時に、
「勝者オーラル・ハウチューデン!」
どよめきが上がった。
「またあいつだ!、去年なんて、両方の優勝者以外。負けなしだったんだぜ」
「本当?、それってめちゃくちゃ凄くないか?」なんて、話が聞こえてきて、ケイタはますますオーラルに憧憬を抱いた。
それから、レイナの試合に度肝を抜かされたり、
ミザイナの圧倒的な剣技を見て、ため息を吐いたりと。武術大会体術の部、剣の部。予選を楽しんだ。
段々この人達の実力が、ともて凄いんじゃないかと、肌で感じるようになり。みんなと同じ部隊なんだ!、自分も頑張らなくては、密かに決意したのは言うまでもない、
「準々決勝、第一試合オーラル・ハウチューデン」
先程。剣の部にて、明日の決勝進出を決めたオーラルの登場に、会場全体から、大歓声と拍手が送られ。熱気に包まれる。
「対するは、レイナ・フォルト」
美しい拳闘士、レイナの登場に。女性からの声援が華やかに増えた。レイナのファンは男女供に凄まじく。お嬢様な風貌も相まって、男子生徒の声援が圧倒的に多い。
「体術の部。準々決勝……」
明日最終日の準決勝。決勝に立つためには、ベスト4にまで、勝ち残らなければならない。
みなの感心は、昨年の準優勝者のレイナが、同じ部隊の仲間で友人との対戦に、否応なしに熱気が、最高潮となっていた、
『試合開始!』
合図と同時に。二人は飛び出す。
素早い攻防が始まった。後に……あまりの見事な攻防は、語り草となる。まるで……舞踊を見ているようだと……、
25年後……。この二人の戦いが元に。あるコンテスタが開催されるが、それは未来の話である。
5分以上続いた、二人の攻防は……、スタミナで劣る。オーラルが敗れた━━。だが、見応えある試合に。盛大な拍手が二人に送られていた。興奮冷めやらない中━━。
剣と拳闘の予選大会は、終了した。
明日は、弓の競技会と、槍の武芸大会予選が行われる。
「先輩!、お疲れ様でした」
満面の笑みで、興奮に頬を赤くしたケイタが出迎えた。
「ん~さすがに疲れたよ、明日休みたいが……」
ギロリ、ピアンザに睨まれてしまい。首を竦めた。
「明日?、え~と先輩、明日なにかあるんですか?」当然の疑問に。部隊の面々は顔を合わせて、仕方なく代表してオーラルが答えた。
「まあな。俺とピアンザは、明日の午前中に。弓の競技会予選と、俺は午後から槍の予選に出るんだよ」
「まったくこいつは……個人ポイントのためとはいえ。無茶をする」
呆れた口調のミザイナに睨まれて、頬を、かきながら、
「ぼちぼち1ヶ月分の食堂無料券の期限が、切れるからね~その分ポイント稼いどかないと♪」
軽口を言って場を和ませようとしたオーラルをジロリと睨み。
「よく言うわね……」
まったくこいつは、呆れた顔を浮かべていた。チクリと釘を刺すのも忘れない。
「3ヶ月分はまだ、余裕にあるだろに……」
ミザイナの指摘に。肩を竦めて。
「まあね~、」気楽に笑い、頭を描きながら本音をポロリ。
「後、三年はあるから~稼げる内に。沢山稼がないと、四年になるとそうもいかないしさ」
眠そうに、あくび連発しながら。さも当然のように言うオーラルを。
「全く。呆れた奴だ……」
眉をひそめながら、それでいて頼もしげに。唇を綻ばせる。「え~と、もしかして先輩は、卒業まで、ただ食いしたいから、頑張ってるとか?」
恐々、当然浮かんだ疑問を口にした。他の三人は顔を見合うが、オーラルの視線に気が付いて、了承に頷いた。レイナが、捕捉すように。にっこりぽやぽや。日溜まりのように笑いながら、
「あったり~、オー君。入学式の初日以外、1クールも使ってない強者だよ~」
さっきまでの死闘が、嘘のような、元気一杯のレイナのポワポヤ、口調に戸惑いながら、
「それは凄い!」素直に感心していた。しかしピアンザはケイタの耳元に顔を寄せて、
『ぼくとオーラルは、自分で、稼がないとならない環境なんだよ』
「えっ……」
意味深な囁きを聞いて、ケイタはただ戸惑うばかり、ピアンザは全部言ったぞと、1人納得して頷いていた。
━━翌朝。ミザイナに誘われたケイタは、学園内にある。森の中の訓練場に来ていた。
適度に開けた広場の周りには。普段部隊戦や。クラスごとに行われる。部隊訓練用の障害物等があった。
「平時は、ここで弓の訓練にも使われている」
かいつまみ簡単な説明をした。辺りを見るが、早い時間だからか、あまり観客はいない。静かな会場に。僅かだが目の肥えた仕官らしき。制服姿の将兵が見守る程度。弓の競技会に参加する生徒が、集まっていた。
ピアンザ、オーラルの二人は、黒髪と目立つので、すぐ見つかった。随分と参加人数は少ないようだ。
ミザイナ先輩に聞いたら。弓の競技大会は、4競技の中で、もっとも参加人数が少なく。僅かに40人ほどしかいないとのこと。
「ケイタ。君は今、人数が少ないから、二人は余裕で勝てると、そう思っただろうね?」
心情をずばり言い当てられて。びっくりしてると。唇を綻ばせながら、
「実は、私もそう思ってたんだよ、あれで中々。弓技の競技会は、様々な技術を必要とする。難しい競技なのだよ」
そう言い置いて、
「それに弓技だけは……、剣、体術みたいに。まぐれ勝ちはあり得ないから。参加人数も少なく。玄人ばかりが集まる」そう説明され。ゴクリ唾を飲み込んでいた。
予選は、8mの離れたところからの速射、20m離れた遠射の2競技が行われる。
的である。藁人には、人体の急所に8つの的があって、これに当てるだけの。楽に出来そうな競技だ。だが採点方法は、矢をつがえ。構え。放つスピード。的に当たった数、的に当てた場所により得点が変わる。
ただし、自分の矢を壊したら減点となる。
グループ毎に競技が行われるため。一列5人づつ並び、同時に、速射から行われた。
2つの競技を終えたグループ毎に。得点上位者2名が発表されて、二回戦に進める厳しいものだ。
ピアンザが、最初のグループにいて、1人だけ次元の違う技量に、周りが霞んで見えていた。
オーラルは第三グループで、無駄のない正確な速射で、危なげ無く得点をか重ね。遠弓も減点なく。二回戦に進出した。
二回戦は、さらに5m距離が伸び、13mある的を狙うが、白線まで走って移動してから。矢を射るのだが、一本を8クオール(8秒)以内に、矢を放たなければならない、
さらに二回戦は、3射の内、的に一本でも、当てれば、優秀なのだそうだ。
それをピアンザは三本、オーラルは二本的に当て、決勝進出となった、
決勝は、明日行われると説明された。
「時間がないから。俺は先に行くからな」
三人に言い置いて、オーラルは、慌てて走しり去った。
「相変わらず忙しなオーラルは……、ピアンザも見に行くのだろ?」
汗一つかいてない、ピアンザは
「ああ、そのつもりだ、でも先に昼にしよう……」
「そうだな、今頃レイナも起きて、食堂にいるだろうし、ついでに誘うか、ケイタもそれでいいな?」「えっと、はい……、でもいいんですか、先輩の応援は……」
チラチラ演舞場を、気にしているケイタに。二人は苦笑を隠せない。
「大丈夫さ。オーラルならな」
自信タップリにミザイナは言ってから、まるでひきづられるように。ケイタを食堂に連れ去って行った。
学園の食堂は、全部で四ヶ所あり。学舎毎の生徒で、ごった返していた。人気のある。窓際のテーブルに、ピンク掛かった髪の可愛らしい少女が1人佇む。端で見れば非常に絵になるレイナが、何故1人で陣取っているかと言えば……、テーブル中にデーン、デデ~ンと効果音がありそうな。テーブルから溢れる程。大量の皿が、テーブルに所狭しと並ぶ。あまりの量に。ピアンザが呆れ、ケイタは目を丸くした。
「ミザー、ピア君おはよ~。草むしり君もついでにおはよ~♪」
ほんわか、ポヤポヤ、朗らかに笑う、
「あっあの……ぼくはですね……」
「みんなも食べるでしょ?」
「そうだな、諦めてピアンザも食べようか……」
「だからぼくの話を……」
「ケイタも食べよう、……ん?、どうかしたか」
落ち込むケイタを、ピアンザが不思議そうに認め。首を傾げた。
「……何でもないです」
何だか悲しそうに呟いていた。
━━豪華な昼食の後、演舞場に着いた4人は、白熱の予選会を観戦した。
剣や体術の大会と違い、槍の大会は、とにかく技が多彩で、目が離せない。息も着かせない早い攻防は、見ている方は、息を詰まらせるほど、最後の試合が終わり、ベスト8が発表された。オーラルは辛くも勝利して、明日の準々決勝に、進出を決めていた。それに伴い。学園側も異例の処置を発表した。
『オーラル・ハウチューデンは、全ての競技で、ベスト8に進出するという。快挙を達成した。よって!、特別ボーナスを設定した。学園として新たに複合優出ポイント50を、個人、部隊ポイントに加算する!』
突然のボーナス宣言である。生徒はどよめいた。様々な憶測を飛ばしだした生徒達の反応を見ながら、教頭のバレンタインは、気弱そうな表情とは裏腹に。学園長のエドナ筆頭がなされたことは、学園側にも、大きなメリットがあったのも事実、些か胸中は複雑ではあるが……、効果を認めないわけにはいかない。
この数年━━弓、槍大会の出場者が減っていた。その抑制と新たなポイント導入で、話題性を求めたのだ、
『さらに、複数の競技に出た生徒には、個人5ポイントが加算される事が決まった』
一石の波紋を投げていた。
例えば今年ならば、体術の部出場だけでは、従来参加ポイントの3ポイントだけである。
━━だが、剣の部、弓の競技大会、槍の部のどれか複数にエントリー、これに参加してれば、それだけで参加複合ポイントとして、基本の3以外に、5ポイントのボーナスポイントが、付くと言う……、
オーラルならば、参加競技の3ポイント×4つで=従来の12ポイントだけが……、
ボーナスポイントまで加算されると。複合5ポイント×4つ=20ポイントが別に付くわけだ。それだけで個人37ポイント稼げたことになる。
先ほどのバレンタイン教頭の話通りなら。オーラルのように部隊の1人が、複数の大会にでて、ベスト8に入れば、今回特別ボーナス50ポイントが、部隊、個人に加算される……。これは非常大きい……、大会に参加するメリットにもなる。
今までのポイントを合わせると、個人で207ポイント稼いでいて、さらにベスト4に3つも入賞しているから。60ポイント加算され。トータル267ポイント稼いだことになる。
個人ポイントだが、大会や授業等で、貰えたポイントの半分が、部隊ポイントに加算される。しかしボーナスポイントの50はそのまま加算されるから、217ポイントの半分。108ポイントと合わせた。158ポイントが部隊ポイントに加算されたと言うことになる。
これはミザイナにとって朗報だった。ざわざわ学生の目の色が変わる。勉強の苦手な貴族にとって垂涎物。苦学生には、貴族、資産家の子息子女に。ポイントで交換した。様々な特権を売るチャンスである。
「あれ……先輩、囲まれてますね……」
学生の裏事情を知らないケイタは、キョトンとしていた。それに微苦笑しながら、
「あいつらは、貴族や資産家の子供達さ、赤点間際で苦労してる進学組で、オーラルが、手にしたポイントと交換出来る特権を。金銭で買おうとしてるんだよ」「えっ……エ゛━━!?、いっいいんですか」
驚き戸惑う新入生に、少し迷い、三人と目配せすると。ピアンザ、レイナが頷き、仕方ないな、溜め息を吐いた。
「実はな……」
槍の大会予選の閉会が告げられ、大会に参加してた、生徒が早々に外に出ていく。
━━何人か、オーラルの元に残り、交渉が上手く行って、様々な特典をゲット出来た。貴族・資産家生徒は、もう満面の笑みを浮かべてる。一方で競り負けた生徒達は、憎々し気に特典を得られた生徒を睨み付ける構図に。呆然と息を飲むケイタの目が……、驚きに見開いていた。
━━武芸大会3日目、
日差しの柔らかく、風の穏やかな午前中、弓の競技大会・決勝が行われる。弓の競技は、非常にシビヤで繊細な集中力が、問われるからである。
校庭に集まった、予選を勝ち抜いた8名は、
校庭の端に。決勝用に特別設置された的を、狙うらしい……、一見予選よりは楽だと写るが……、
実際は違う。競技者にしか分からない難しさは、周りから見えてこないので分からないが、競技をする立場に立つと。あまりの難しさに表情が変わる。風の魔法による妨害があるためだ。打ち手は、風を読むシビアな冷静さと。鋭い注意力、さらに高い忍耐力を必要とする。難易度の高い競技となる。
この競技が難しい所は、風がどちらの方向から吹くのか、まったく分からないよう。ランダムに決められていて、大変な精神力を必要とする点だ。
競技で使われる矢の数は、全部で五本、競技内容が段違いに難しくなるので、矢の数は少なくなるが。予選と同じ採点方法が使われる。即ち的に当たった数。正確性。的に刺さった矢の場所などにより。得点が変わるのは基本とのこと。最初にオーラル、ピアンザは三番手になる。
プレッシャーの掛かる。一番手に、他の生徒は息を詰めて見守った、
「オーラル・ハウチューデン、始め!」黒塗りの弓を構え、ゆっくり矢をつがえ。弓を引いた。
頬に当たる風は、向かい風、やや下に流れている。的より。右斜め上を狙う。
━━いま!
スコン、歯切れのよい音。第一射で、的に当てていた。
静かな感嘆の吐息が漏れた。
続く、第ニ射は外れ、
第三射は、真ん中を射抜いた。第四射は真ん中から外れ、
第五射は、再び真ん中を射抜いた。
次々と、競技が進められ、ピアンザの番になった、 そして……、五本全て。真ん中を射抜き、ピアンザが優勝。
オーラルは四位だった。
━━午後、演舞場では、
槍の大会・予選を勝ち抜いた。生徒達が、集まっていた。4つの演舞台の内、2つを使い、同時に、槍の部準決勝が行われたが、オーラルは、準決勝で敗退した、相手は、前年の優勝者だった。
━━明日は……、最終日。
体術の準決勝が、午前中に行われ。お昼を挟み。体術の部決勝が行われると言う。
王族も観覧しにくると言う話で、国中が盛り上がる中。多くの学生や近隣の商店から、多くの人出が校庭に集まっていて、明日の出店準備に奔走していた。
明日、明後日は、学園の休日で、明日は露店のために校庭が解放される。出店する生徒。またアルバイト予定の学生は、夕方から慌ただしい。今から明日の準備に忙しいのだ。この日ばかりは、沢山の商家も出店する。父兄や国内外から、沢山の人が、学園に足を運ぶ。
年に、一度のお祭りである。
朝から4つある校庭には、沢山の屋台が建てられていた。学舎から見たら。色とりどりの布で飾り付けした、異国情緒たっぷりな屋台や、可愛らしい小物を扱う店など、趣向こらした、様々な出店が、目には実に楽しい。中には聖アレイ教の孤児院からも、バザーが出店され。普段入ることのない、生徒の近親者が、目を細め屋台を周り。大いに楽しむ日なのだ。
お祭りを飾る。最後は剣の部決勝である、決戦は夕方からになっていた。
━━━オーラルの事情。
時間は少し戻る。
早朝━━。
日も昇らぬ朝靄の中。
姉と母を、起こさぬよう気を配り。暗い道を、聖アレイ教のある。東大通りに向かう。
王都の外門は東と南があって、荷馬車、キャラバンは東門の検疫を受けてから入る。だから門から近い大通りは、交易品等扱う問屋である。商会が並んでいて。早朝から店先に。次々と馬車が到着していた。
オーラルがお世話になってる。商会に顔を出すと、周りの店と同じく人足が集まっていた。中でも。スキンヘッドの大柄な人足頭が、厳しい顔つきで、商会の番頭さんと、話し込んでいた。 荷馬車は着いてるようだが?、疑問に思いつつ首を捻る。
「おはよう~…、ございます?」
すぐにオーラルを認め。柔和な笑みを浮かべていた。しかしすぐに番頭さんが何事かと呟き、二人は見合い、納得した。
「おお!、ちょうど良かった、急で悪いが、大切な用を頼まれてくれないか?」奥からデップリした体格の商人が出てきてそう声を掛けられた。怪訝な顔をしたオーラルの眼差しにほんのり苦笑を浮かべて、人足頭はつるりとスキンヘッドを撫でた。無論迷いはあった。オーラルは学生でしかない、
「実は…………」
今日、学園に搬入予定の品物が、まだ来てないので、様子を見てきて欲しいとのこと……、
幸い、今日は、剣の部決勝進出者は、
試合前の一時間前までに登校すればよい。休日扱いになっていた、快くオーラルが快諾すると、商人は安堵の表情を浮かべた。
「今……家で、馬に乗れる人間がいなかったから助かるよ。今日の分は、それでチャラだ」
有難い話だ。まだ来てない荷馬車を見つけるだけで、1日分の賃金が得られるのだ。そう……、簡単な仕事だと思っていたこの時は━━。
商人から、馬を借りて。見事な腕前で、誰もいない街中を、城門に向け、オーラルは馬を駆った。
外門の受付で、商会の鑑札を見せ。まだ来ていない。商会の荷馬車の事を聞いた。
「ああ確か、あの商会の荷馬車は、ターミナルから来るはずだ……、南の丘陵を迂回して、西の街道を何時もは使ってたはずだよ」
親切な門番が、詳しく説明してくれた。「ありがとうございます」
「行くなら、気をつけるんだよ、一応無いとは思うが、旧街道のあの辺りにある森は、ウオルフの群れが住み着いたと、報告があった」
「気を付けます」
門番に、礼を述べ。一路。西の街道を目指した。
交易道から少し外れた古い街道である。西の街道は、ターミナルから荷を運ぶ馬車がたまに通る。閑散とした畦道である。少し外れた途端に。灌木が生い茂り。馬車の足を遅らせる。
間もなく山に続く森の入り口が、西の街道沿いにあるのだが……、枯れた木々が、人を遠ざけるように。入り口を隠すよう重なりあっており。人通りが無いから、不気味な静寂と相まって。森に近付く旅人はまずいない。
ここ数年前から、ウオルフの群れが、山から降りて、森に住み着いて、余計……西の街道を旅人が、使わなくなったと門番が言っていた。数日前から西の街道を使わないよう。商会にはお触れが出てる筈だと言ってたのだが……。
「この轍は、まだ新しい……」
山に続く道が、何故か枯れた木々で塞がれてる。そのことに違和感を覚えた。いくら人通りがなくなったと言えど……。
「轍は……、森に向かってる?」
嫌な……、予感がした、他にそれらしき痕跡はない、轍の周りに、複数の足跡が、深くついている。
「これは……、争った後だな……」
相手は、山賊の可能性がある……、
空を見上げていた、まだ時間はあるな……、深く深く嘆息していた。
……意を決意したオーラルは、馬を、森に向け。走らていた。「俺は何をしようとしてるんだ?」
頭の中で、僅な葛藤があった……。商会の人間がどうなったか……、少しでも調べ。手に負えない場合は、門番に知らせればいいだろう……、
そう自分に言い聞かせるが。
「本当に……それでいいのだろうか?」疑問を口にした。
本来オーラルの仕事は、轍の跡を見つけた所までで十分であった……、そのまま引き返し人足頭に、事を伝えれば終わる……、
゛本当にそれだけで、いいのだろうか?゛、
疑念が渦巻いた。馬を走らせながら、悔しい気持ちが溢れてきて。ただ沸き上がる気持ちのまま……、馬を走らせていた。
きっと……、今戻ったとしても、非難する者はいないだろう……。フロスト騎士団なり、近衛連隊、ガイロン重騎士団、
それとも…
『オールラウンダー』の称号を持っている。カレイラ少将が出れば、すぐに片付く……。そんな些細な事件。そうは思った、
『だけど……、』
唇を噛み締めていた。顔見知りを、見捨てられない。ただ……、
自分の出来ることはする。それが父の教えだ。自然と手綱を握る手が、白くなっていた。
━━━鬱蒼と、道なき道を奥に進むと。やがて……、
僅かな気配と違和感を感じ。馬を止めていた。近くの灌木に繋ぎ、馬の周りに、簡単な魔法を掛ける。馬の匂い、気配を消す。簡易魔法である。嘶く馬の声すら。少し離れたら消えていた。
「よし。上手く魔法が使えた」安堵した。
━━雑木林から、少し顔を出して、辺りを伺い見ると。小さな炭焼き小屋がすぐ近くにあるのが見えた。
━━小屋の側に、荷馬車が無造作に置かれ。馬は、炭焼き小屋の側にある樹に、繋ぎ留められていた。
近くに、見張りは…いないな……、辺りの気配を伺い。観察してると、
小屋の隣に、炭を置く簡易のバラックがあって、バラックの横に。炭焼き用の薪が積まれていた。
彼処だと。当たりを付けたオーラルは、独特の擦るような歩法で、足音を消すように炭焼き小屋まで小走りで近寄り、壁に耳を当てる。
「中身は、どうだ?」
「クソ!。食べ物ばかりだ」
「ちっ、しけてやがるぜ」「あの二人…、どうする?」
「顔を見られたな。彼奴はは殺すしかないな、おい酒だ!」イガラぽい痰の絡んだ怒鳴り声が、聞こえてきた。今すぐには殺されないだろう……、酒盛りするようだし……、
だが……、街まで戻る時間がない……。
『武器がないのが痛いな……』
炭置き場のバラックまで回り込み。僅かに空けられてる。木枠だけの窓から、中を伺い。何人いるか、様子を伺うと……。 二人の男が、縛られ転がされていた。
微かに炭焼き小屋から。扉の開く音が聞こえた。素早く茂みに隠れ。小屋の方を伺うと、すぐ小屋から粗野な風貌の男二人が、小屋の裏にある小さな洞窟に向かって歩いて行くのが見えた。二人が、中に入ったのを見届け、
素早く小屋の入り口に戻り見ると、僅に隙間を発見して、小屋の中を伺う。中には山刀をテーブルに置いて、男が3人座っていた。
『多くて7人と、見るべきだな……』
素早く、考えを巡らせる。
近くに落ちてた、太い木の枝を拾い。堅さを確かめた。
小走りで、洞窟の入り口に張り付き、素早く魔法を唱える。『ミュート』の魔法を使い。木の棒を手に。待ち構えた。
すぐに2人の男が、酒瓶を抱え、出てきたが、息を殺したオーラルに気付かない。
二人が通り過ぎた瞬間━━。
後ろを歩いてた。男の頭を、打ち据え。昏倒させた。すると抱えてた瓶ごと倒れたが、物音一つしない、しかし割れた瓶が、前を歩く男の足を濡らした。訝し気な顔で、振り返り。戸惑いを浮かべ、そして……、驚愕に変わり。怒りを露にして叫んだが、どうしたことか一切声が出ないことに目を見開いたまま、棒立ちしていた。そんな隙を見逃さず。襲い掛かり素早く昏倒させていた。
……2人の男を。縛り付け洞窟の入り口に 転がした。
さらに、炭置き場小屋で酔っぱらっていた三人の男達に。眠りの魔法を掛けたら。あっさり昏倒する。
冷や汗を拭い安堵したが、時間はない。急ぎ縛り付けられた、2人をバラックから救出に成功。繋がれた馬を奪い、3人でこっそり抜け出していた。急ぐ理由がオーラルにはあった。今使える簡易魔法では。魔法の効果が直ぐに消えて。目覚めるはずだからだ。
やがて……戻らぬ仲間に、違和感を覚え。気付かれるだろう……、だが此方は馬で逃げている。追って来るのは無理だと諦めてくれれば良いが……。
二頭の馬は、森の中を駆け巡り。
遠くで怒号が聞こえたが、三人は馬を駆り。命からがら山を下りて。街道に出てからも。馬を急かせどうにか街まで逃げおおせた。
━━━日が、随分高くなり。予定より時間が少し回ったばかりだった。
城門で馬を止め。門番に、ことの次第を伝え。人足頭と商人に、言伝てを頼み。オーラルはアレイ学園に急いだ、
━━━演舞場。
息を切らして。入ってきたオーラルを、心配していた部隊の面々が出迎えた。体術の試合間近のようだった。
「先輩!遅いですよ」
ケイタ、ミザイナが手招きして、ピアンザは眉をひそめ、手にした水を渡してくれた。
「助かる……」
礼を述べて、一息に飲み干した。
「第96回、武芸大会、体術の部、準決勝を開始する」
オオオー。
絶大な人気を誇る。お嬢様な風貌のレイナが、愛想よく手を振りながら、舞台に登場する。対するは、昨年準決勝でレイナに負けた、ボルド・ホウリー、
寡黙な男で、浅黒い肌から西大陸の人間のようだと推測した。
「試合開始!!」
━━ワァアアアー、
開始と同時に、ボルドが迫り。重そうな横薙ぎの蹴りを一蹴。レイナは腕をクロスして受けると。横滑りしながら数メートル下がっていた。「なっ、なんですか今の蹴りは……」
あまりの破壊力に。ケイタの顔面は蒼白になっていた。ボルドの猛攻は続く。
息を飲む声や、悲鳴まで聞こえた。
「どう見たオーラル?」
顔を強張らせ。息を詰める。ミザイナに、ただ小さく首肯した、代わりにピアンザが呟いていた。
「レイナ……、強くなってる」
凄まじいラッシュに、周りからは、レイナの防戦一方に見えた。
━━攻防に変化が起きたのは、突然だった━━。
優勢に見えた、ボルドの動きが……、
目に見えて━━鈍くなったこと。誰しも驚き動揺した。
「いっ、いたい、どうしたんですかね?」
少女のような幼い顔立ちを、不思議そうに傾げる。
「あれは、カウンターだ」
ボソリとピアンザが答えた。
一見━━。
レイナは受けに回ってたように見えていたが、事実は違う。最初の蹴り意外は、ほんの少しずつ……、ボルトの蹴りに対して、
さらに拳打の一つ一つに、軽く拳、蹴りを置いて、自分の攻撃で、ダメージを負わせるタイミングの攻撃を。繰り出していたのだ。
「あの技は……」
「ああ……」
昨年三連覇して、卒業した彼女と同じ闘い方だ………、
今までレイナは、恐ろしいまでの腕力と、スピードで、相手を圧倒する。戦いを得意としていた。今繰り広げられるのは、それと真逆の緻密な計算と、凄まじいセンスが、問われる高級な戦いだ。それに気付いた者は、少ない……。ボルドは最後まで気付かず。力尽き、倒れていた……。
━━ドヨドヨ……、何が起こったか……、しばし会場はどよめいた。すると軍服を着た。線のほっそりした顔立ちの男が、壇上に上がり。さらなるどよめきが、大きくなっていた。
『ただいまの試合。レイナ嬢による。カウンターにより、ボルド君は、倒されました』
一瞬で、広域魔法を構築。会場内にいる。全ての人に、声を伝えた。四人は、息を飲んでいた。
「あれは……、カレイラ少将!」
誰かの叫びで、会場は興奮のルツボと化した。
「凄い、凄い!、あれが噂の……」
ケイタが頬を上気させ。興奮気味に、身を乗り出した。
「すると……、あれがケレル皇子様か……」
ミザイナは同盟国の貴族令嬢だ。会った事があるのだろうな。殿下の護衛を、カレイラ少将が、務めてるのだろう……、王族の展覧試合だとは、言われてたが……、まさか一般生徒に混じってとは、流石に呆れた顔で、皇子と『オールラウンダー』の称号を持った。我が国。最強の人物を、見つめてると、カレイラ少将と、目が会い、三人が黙礼した。するとミザイナに気が付いて、驚いた顔をしたが、愉しげな笑みを張り付ける。
「どうしたカレイラ、面白い人材でも見付けたか?」
カレイラは、笑みを振り撒きながらも、小さく苦笑を忍ばせる。表面上では笑顔のケレル皇子だが、その眼は油断なく。注意深い。その点は病弱な兄レヴル皇太子と違い、政務で表に出ることが多い為である。
ケレル殿下は、一般人に混じって、民の生活を、肌で感じる行為を好む。そう言った印象を与えたいのだ。だから民に気さくに声を掛ける。民からは分け隔てない王族と。ケレル皇子は人気がある。
「ええ……、彼処にいる彼等、かなりのレベルにいます。さっきの試合には、正直驚かされましたが……」満足そうな笑みに、嘆息して、
「もう、部下探しかカレイラ?、いくら貴様とて、一団を率いるには、今しばらく時間もいるだろう」
フッと笑みを深め、カレイラ少将は、
「さあ、それはどうですかね~」
「こいつ……」
虚を突かれたケレル皇子は、呆れを露にしたが、胸中では、カレイラなら可能か?、瞬順する。
そう思わせるだけの力と、期待させる魅力がカレイラにはあった。
「殿下、剣の部決勝まで時間があります。学園の案内をしましょうか?」
「そうだな……、こうなると、身動き出来ないからな……」体術の部。決勝までゆっくりしたかったが……、諦め混じりに、嘆息した。
満面の笑みでレイナを出迎えた4人は、早目の昼食を食べることにしていた。
剣の部決勝は夕方からで、体術決勝までも時間はあったからだ。
「あっレイナ君。……良いかな……」
バレンタイン教頭が、何やら気難しい顔をして、手招きしていた。何やら深刻そうに話をしてた。徐々にレイナの顔が、残念そうに曇る。理由は直ぐにわかることに……、
『お知らせします。体術の部決勝は、対戦者の怪我が酷く。欠場となり。レイナ・フォルト嬢の優勝とさせていただきます』
放送で知らされて。レイナはガックリと残念そうに肩を落とした。
結局……。夕方まで、時間が空いたので、5人で、屋台を回ることにした……、レイナのやけ食いに付き合わせれるかと思うと……。気が滅入るミザイナとオーラルだった。
校庭では……、噂を訊きつけた生徒、その家族が、ケレル殿下を、一目見ようと、人だかりが出来ていた。
5人は、校庭の屋台だけでなく、『院』の実験棟が、一部解放されていて、変わった催しを冷やかしながら。見て楽しんでいた。
それから校庭の一つに出た5人は、出店を見て回る毎にした。中には珍しい『院』の屋台まで出ていて、簡易マジックアイテムまで売られていた。物珍しそうに。学生がたむろしていた。
一通り屋台を巡り。レイナとピアンザは両手一杯に。大量の戦利品を抱えて。ミザイナとオーラルは渋々。レイナの持ちきれない食べ物を持たされ。急かされるように。いつも通う学生食堂の一つにやって来て、何時もの窓際のテーブルに着いた。あんぐり口を開けて、惚けてるケイタを他所に、レイナのやけ食いは凄まじい勢いで始まり。山のような焼きそばが、一瞬で、ずるずるって消えた様子を見て。思わず目を擦る。そんな何時ものこと。今さら気にすることがないミザイナ達は、「レイナ、いつの間に、あの見切りを身に付けたの?」
最初はモグモグ。レイナの。戦利品を分けてもらい大人しく食べてたが、イカ焼きで、レイナを指し。気になったこと口にした。ミザイナには珍しいことに、口にべったり、ソースが付いている。そんなことも気が付いてないようだ。
「え~多分。去年あの女に負けた時かな~?、でもあの人には、今の実力でも勝てないだろうな~」
あっけらかんと言うのだが、唸るように。懐かしい気持ちで吐息を吐いていたミザイナも。素直に頷く。レイナの言うあの人とは、昨年無敗のまま卒業した、武の女神とよばれた。ある女生徒のことだ。今の部隊全員で戦っても、あんな化け物には、そうそう勝てない……。オーラルとミザイナは今もそう思っている。
「そっ、それは確かに……」
「ミザ~これでとりあえず300ポイント貰えるね♪」
お気楽に言うが、その意味は大きい。
オーラル達三人は、ミザイナの夢を叶えるのが、目標である。
「みんなで、あの中立移動国に乗って、世界中の国々を回る」他の生徒が聞けば、鼻で笑われるだろう。学園の優秀者が、国を代表する使節団に入れるのは、精々年1人位で。優秀な生徒か、部隊長だけの特権だとされ。大変な名誉ではある。
今まで歴代のポイントホルダーの1人を、学園は毎年使節に参加させている慣例もあり。他国の王族と同席出来る。数少ない。機会だが……、
ミザイナが語った夢は、部隊長1人ではなく、部隊全員での参加をと願ったのだ。
「二月後の魔法理論会は、私とピア、オー君と草むしり君が参加するのね?」
20本はあった焼鳥の最後の一本を。アムアム噛みしめ、唇に付いたタレを舐めながら、お行儀悪くピコピコ串をふるう。
「あっあの~僕の名前は」まったくケイタの話を無視して、レイナと二人。これからポイントをどうやって得るか、二人は話し合った。
「あう……、いいですよ」
拗ねる。ケイタの頭を撫でながら、オーラルは苦笑する。
「何時ものことだ、気にするな」
ピアンザの慰めにならぬ一言に。
「はあ~、そうですよね~、でもぼく頑張ります!」
ムッとして拗ねたように答えたが。内心では健気に気合いを入れる横顔に。しみじみやっぱり女の子のようだな~、密かに思ったオーラルだった。
━━いつの間にか……夕闇が、辺りを暗くさせていた。
校庭に出てる屋台は、西大陸で使われる。提灯が掲げられていた、中にローソクが入っていて、それに火が点されると。見ごたえのある風景が広がった。この教室からみる風景も。春の風物詩である。
━━学園の校門前……、
禿げた頭をツルツルと撫でた人足頭と、朝。オーラルに助けられた若い商人。その恋人が、にこやかに談笑しながら学園にやってきていた。
「本当に良かったな……、オーラルがおめえを助け出してくれてよ……」
ずずず~っと鼻を啜る。夏にも義理の父になる人足頭に。神妙な顔で頷き、
「はい!、こうしてユキと話せるのも。あいつのお陰です!」
「うん……、それでオーラル君て、本当にここの生徒さんなの父さん?」
訝しげな娘に、苦笑しながら、大きく頷いて、
「奴は、ただ自分の出来ることしてるだけなんだがな……、なあ~」夏に、婿になる若い商人に、話を向ける。
「そうなんだ、あいつ変わった奴でさ、門番の詰所で、兵士に誉められても。何でもないと言うんだ……」
━━話は、昼前の外門前の詰所に戻る。
二人を助けた、オーラルは、門番の詰所に飛び込み。二人が、山賊に捕まってたこと━━、
二人の命が危なかったから、荷を捨て、馬で逃げて来たこと伝え。二人の保護を求めた。
「ご苦労だった……、その制服は、君はアレイ学園の生徒だろうに……」
感心する兵士達に、何でもないことのように。
「あの二人は、顔見知りで、助けられる可能性があった。だから自分の出来ること、しただけです」呆気にとられた兵士達は、直ぐに破顔一笑して、握手を求めてきた。
「俺は、これから試合があるので……」
「なっ…、君は…いや、言うまい、やれることをしたからか?」
あえて笑い含むように言われて、オーラルは照れ臭そうに、静かに頷いた。
後から知らせを受けた、人足頭は、商人と供に兵士に呼ばれ。詳しく話を聞かされ。心臓が止まるかと、血の気が失せたのだった。荷馬車に乗ってた内の1人は、人足頭の娘婿になる。若い男が乗ってたのだが……、兵はにこやかに、清々しい笑みを浮かべ。
「荷物は、戻らぬだろうが、二人は無事だ、若い学生が助けたそうだ」
「なんと……」人足頭と商人は、絶句した。
「伝言だが、『試合があるので、学園に行きます 』だそうだ、今時珍しいくらい正義感の強い少年だな」
楽しそうに笑う兵に、戸惑いながら、二人は胸を撫で下ろしていた。助けられた二人は、事情調書を取られ。終わるとすぐに帰され。今に至る。
「ふ~ん、後でお礼言わなきゃね♪」
愛する男の腕に触れ、きつい眼差しを和らげた。
━━噂のオーラルは、その頃……。
演舞場の観客席の下にある。地下控え室で、やはり寝ていた。
「先輩!、もうすぐ時間ですよ、先輩!起きて下さいよ~」
呼びに来た。審判員の先生に、恐縮して謝りつつ。オーラルの体を揺する。
「ん~あ~、眠い……。何だもう時間か?」
グッと伸びをして、ようやく目覚めたオーラルに、ホッとしていた。
「オーラル、殿下がお言葉を伸べられる。選手は、早く会場に、出ているようにとお達しではある。話は聞いてるが、寝るなよ」
茶目っ気たっぷりの笑みで、オーラルに聞こえる。微かな声で、こっそり囁いた、訝しげなケイタをよそに、
この男性教諭は……、近衛連隊所属だったけか?、アクビを噛み殺しながら、
「よっと」
立ち上がり、もう一度背伸びした。
『皆さん静粛に!、剣の部決勝は、ケレル殿下の観戦試合となります。よって殿下からお言葉である。静粛に!』
━━会場にいる。観客全てに聞こえるよう、拡散魔法を使っているようだ。
徐々に会場は、静粛に包まれ……、熱い眼差しが、観覧席にいるケレル皇子に集まる。
代々続く。アレイク王国の王族は、聖人アレイの親族であり、敬虔なアレイ教徒の信者が多い民は、王族を敬う、それは歴代の王達が皆。名君ばかりであり、皇子と言うだけでも。民の尊敬を、一身に集めるのも仕方ない……、
切れ長のブルーアイ、憂いを帯て、会場の人々を見た、にこやかに微笑する姿は、絵画から飛び出した、英雄のように美しく気高い。
ため息が、女徒達から漏れた。
『皆さん今晩は。僕は、今日と言う日を、楽しみにしてました!』
晴れやかな微笑を讃え。心からの笑みに、軽い笑いが起こる。
それに答えながら、
『若き英雄達に、盛大な拍手を持って出迎えよう、この二人を……』
一礼して、ケレル殿下が座るや、
━━4つの舞台を繋いで、毎年剣の部決勝と、体術の部決勝のみ仕様される。中央の演舞台に、審判が上がる。
間もなく剣の部。決勝が行われようとしていた。
選手の紹介が始まる。
『ミザイナ・アルタイル、ファレイナ公国、聖アレイ学園、四年生、昨年、一昨年剣の部優勝、ミザイナ部隊長』
二人の経歴が読み上げられる。
ケレル殿下の傍らに控える。カレイラ少将を見れば、微かに頷かれ、感心したように微笑を深めた。『オーラル・ハウチューデン、聖アレイク王国、二年生、昨年体術と剣の部でベスト8、本年度全ての競技において、ベスト8の栄誉を得ました』
━━おおお……ドヨドヨ……、
違う意味の驚きに、会場のみならず。カレイラ少将すら興味を持ったようだ、
『ミザイナ部隊、所属、なお本年度、武術大会においてミザイナ部隊は、槍の部以外、全て優勝しております』
おおお!、興味が、興奮となり、歓声のボルテージが上がる。
二人が、舞台場に上がり相対した。
それぞれの獲物を手に。ケレル皇子に一礼して、身構えた。
『剣の部、決勝開始!』
審判である。教諭の合図で、二人同時に、飛び出した。神速を誇るミザイナの斬撃は、まるで鍔より先の刃部分が、消えたような錯覚を、カレイラにすら与えた。左右同時に、剣が振るわれてる。そう思わせるほどの双撃。
「ほほ~う、今のをいなすか、お前はやはり面白いよオーラル!」
艶然と笑み。ミザイナのスピードが、さらに上がる。
オーラルの劣勢は、カレイラから見ても明らかで、あれほどの劣勢でありながら。よくギリギリの間合いを保ち。受け続けてると。感心するほど━━。
試合が始まり。早くも二分が過ぎても、有効な打撃は決まらず。オーラルは耐えていた。だがミザイナのスピードが落ちることはない、凄まじいスタミナだ。
「これは……まさか?」
「どうしたカレイラ」
珍しく興奮した様子のカレイラに。
「少しずつですが、彼はミザイナ嬢の神速の動きに。ついて行ってます」
僅かな実力者にしか分からぬ変化。それは見るものに凄まじい衝撃と、感動を与えるていた。ケレル殿下は気が付かれないようだ。それ故歯痒く。これ程の者が、学園に居たのかと嬉しく思った。
「ほう……、剣姫のスピードに付いてくか……」
流石は目が肥えてる。ケレル皇子も気付いたようだ。
ざわざわ……、会場では。例年にない。見応えある烈戦に。息をするのも忘れ。ただ観客は見守っていた。
端での評価では、ミザイナ優勢が、今や互角の戦いである。
いつしか二人は、立ち止まる。行き詰まる均衡。張り詰めた熱気から。一気に均衡を破る為。ミザイナが、全身に力を溜め始める。刃を潰した刀身に、剣気を宿す。
「アルタイル流……、剣技『流閃』(りゅうせん)」
突如。青い光が、オーラルの身体を貫き駆け抜けた。
「ぐっ……、今のは…」
身体を突き抜けた、凄まじい衝撃波によって、脳震盪を起こして、オーラルは崩れ落ち。気を失っていた。
「まさか……、この技を使わされるとはな…」
全身から…根こそぎ気力を失いながら、満足そうに笑う、その時腕に走る痛みに顔をしかめ、腕の痣に息を飲む。
『勝者……』
ミザイナの呟きは、大歓声に、勝者の名すら、打ち消された程だ。
稀に見る学生による名勝負に、惜しみ無い拍手が贈られた。
ケレル殿下は、満足そうに微笑む、一方で、カレイラだけが驚きに目を細めていた、
「あれは……わざと負けたのか?」
興味深そうに、オーラルを見ていた。
━━3日後……。
またいつもの生活が始まる。学生達……『特待生』には、
7月に行われる。魔法理論会に向けて、苦労する。日々の始まりで、一般生徒は、
有能な、新入生を発掘すべく。突撃部隊が各学年で編成されている。
ミザイナ部隊の面々は、レイナ、ケイタピアンザ、オーラルの4人が、魔法理論会の出場者であり、ケイタは得意分野で、鼻息も荒く。
「頑張ります!」張り切っている。
他の面々が、バックアップの為。資料集めに奔走していた。
多忙なオーラルの元に。嬉しい報せがあったのは、今朝のこと。商人から先日のお礼で、宮廷魔導師か、それに準ずる者しか入れない。王立図書館に入れる。許可を取り付けてくれたのだ。興味を持ってた、ケイタに話すと。もう大興奮で、
「是非連れてって下さい!」
目をキラキラさせていた。学園に届けを出して、オーラルはケイタを連れて、王城に入るため近衛連隊の詰所で、身体検索される厳重さに。気楽な面持ちだったケイタの顔から。血の気がひいていた。緊張してるようだ。しばらく待たされると。美しい女性が艶やかに微笑み。二人の前で立ち止まる。「貴方が、先日武芸大会剣の部で、準優勝したオーラル君ね」
「はい」気負いなく答える。自然体のオーラルを。実に面白そうに見ながら、傍らの不安丸出しの可愛らしい男の子を。目を細め見てから、微かに驚いた表情が浮かび、すぐに消していた。オーラルは気付いたが……、
敢えて指摘しないでいると……、
「へえ~」
再び微かに驚いた顔して、それから楽しそうにクスクス微笑んでいた。
━━彼女こそ、
宮廷魔導師筆頭、若くして学園長に就任した。エドナ・カルメン・オードリ、あの変人リリア女史の上司である。
「わざわざ宮廷魔導師筆頭様に、案内されるなんて……」歓喜極まった顔のケイタを、くすぐったそうに笑い、
「リリアからも頼まれたからね~、暇だったし……」
ボソリ本音を洩らした。
「えっ……」
「何でもないわ。それよりもオーラル君、無茶は、程ほどにね♪」
面白そうに笑いながらチクリ、この間の話か……、
気付いたが、敢えて素知らぬ風を装うや。悪戯はダメよ?。優しい眼差しを受けて、自分でも柄ではないと感じてたので、素直に頷いた。
「この先にあるお庭は、王族や重鎮以外入れないから、気を付けなさい」
注意してから。垂れた目尻を下げる。
「また後で、様子を見にくるからね♪」エドナ筆頭は、仕事に戻って行った。
恐らく……『特待生』
と言えど、城内の王立図書館に。足を踏み入れた学生は、皆無に近いだろう。
さらに世界中に流通する本なら。手に入らない本はないとさえ言われていて。『院』の蔵書は、過去王立図書館で破棄された、本ばかりである。蔵書のレベルが桁違い過ぎた。
「うわぁ~この本は、世界に二冊しかない精霊魔法の本じゃないですか!、こっちのは『鍵魔法全集』です」
顔を輝かせるケイタは、宝石を見る。少女のように嬉しそうである。オーラルには難し過ぎて読めない本ばかり。大切な宝物を扱うよう。震える手で一冊づつ手に取り、中身を見て次第に、本にのめり込んで行った。
迷ってたオーラルも、手近な『魔法の基礎理論』主っ筆者オール・セラと書いてある本を手に取り。ページを綴りながら。森で、初めて使った魔法を思い出す。
今使えたのは、初期の補助魔法だけだ、もう少し使える魔法を……。覚えたいとこだ……、
━━今から少し前……、
オーラル達が、王宮に入るのを。暗い眼差しをする大柄な少年。バローナ・エトワールは、忌々しそうに、舌打ちした。
「バローナさん……まずいですよ。あの二人王宮に入りましたよ……」
怖じけつく手下の同級生に、不機嫌な眼差しを向けて、鼻を鳴らした。
「生け簀かない野郎だ!、何が剣の部準優勝者だ……」腕力で、敵うはずがないではないか……、それに忌々しいが、あいつが所属してる部隊は、学園最強と言われていた。こうなると、自分たちがどうこう出来る話ではない……、
「お前たち……、今日は、あいつらの足取りを調べておけ、俺は父上に会いに行く!」
見合う、手下を残して、バローナは、怒りを込めて早足のまま雑踏に消えた。
━━━エドナ・カルメン・オードリー、彼女こそ。歴代の宮廷魔導師において、史上最年少の14歳で就任した。稀代の天才と呼ばれた女傑で、筆頭の激務をこなし。早くも10年が過ぎていた。
━━数年前ようやく。念願のアレイ学園長に就任したが、まだまだ学園長に専念は出来ない。それは……宮廷魔導師筆頭を譲れる。才能ある若者に出会えていないのが、最近の悩みである。エドナは廊下から出ると。重鎮達の待つ。中庭ロイヤルガーデンに出ていた。
今日忙しい合間に。時間を作ってまで。わざわざ二人の生徒を出迎えたのは、大切な部下から切に頼まれたからだが、もう一つの理由は、彼女のお気に入りを、一目見たかったのもあり会ったのだが……。
「思わぬ収穫だわね♪」
頬は緩み。足取りは軽くなっていた。
涼やかな風が通り抜ける庭園。人工的に作られた木々は、歴代の宮廷魔導師が、その叡知により。一年中絶対枯れない木々を造り出した。瑞々しい。緑の庭園には、
白木の皮で編まれた、涼しげな籐の椅子が、四脚用意されており。同色のテーブルの上に。白磁器のティーセット、軽食まであった、それぞれの椅子に座るのは、今年新任した。近衛連隊長セレスト・ブレア、
そして……王国最強と囁かれる。ケレル皇子の腹心、カレイラ・バレス、
我が国で、最高の名誉、『オールラウンダー』の称号を持つ、若き重鎮である。噂では……、
カレイラ師団を新たに作るべく、皇子が手を回してると聞く、
「エドナ遅かったね」
いち早く気付いたケレル殿下に、深く頭を下げていた。
「リリアに頼まれていた。生徒を出迎えてたので……」
軽く。驚きの表情を浮かべていた。
「わざわざ君がやらなくても……、誰かに任せて良かったんじゃないか?」
カレイラの申し分は、理にかなっている。
「ええ、あのリリアのお気に入りを。一目見たくて、申し訳ありません」
やはり微かに驚き、目を細めたケレルだが、少し興味を覚えて。
「君から見て、どんな印象だったんだい?」
僅かに腰をずらし。答えを待つケレル殿下に。エドナはしばし熟考して、口を開いていた。
「魔法の国から来た少年は、いずれ私の代わりを勤める程かと……」
晴れやかに、微笑していた。これには……驚きを隠せず。興味深そうな目をカレイラに向け。そっと意味ありげな眼差しを送る。眉をひそめたカレイラ。クスリ微笑をケレル殿下に向けてから、ゆったりと席に着いた。
『もう1人…、あの子……、あんな才能を見たのは、リリア以来かしらね…』
微かに、唇を歪めて、空を見上げた。
「さっそくだが……」
━━夕方。
満足そうな笑みのエドナ筆頭に見送られて、二人は城を後にした。ケイタはどうやら、筆頭に気にいられたようで、
『魔導師ギルドにも。顔を出しなさい』
と、命令されてたな~。
『ついでに、貴方もね』
悪戯ぽく笑う顔は気高く、ケイタなど真っ赤になっていた。案外お姉さんタイプに弱いのかな?。
━━数日後。
梅雨の季節になって。天気の悪い日が続く。朝からしとしと雨降る様子を。諦めながら空を見上げ。足早に林道を抜け『院』のある。研究棟に向かう、
『院』の研究棟に入るには、扉の右にある。ライオンを模したゴーレムの口に、『院』の者であることを示す。銀のサークを置くと。カチャリ。
扉の鍵が開き。僅かに扉が開く、ゴーレムの口から。サークを取りだして、扉を抜けると…、
本、独特のカビ臭い臭気、外のじめっとした鬱陶しい季節だから。余計に鼻に付いた。こう毎日雨だと。オーラルとて辟易する。
オーラルには姉がいた。今日は姉を起こしてから、家をでたのだが。まとまったお金を。姉に渡すためだった。オーラルのバイトのことは、姉だけが知っていて、姉の給金が出る日に。纏めて母に渡して貰うためである。
寝苦しい日々。姉の愚痴が増える一方なのも。半分は仕方ないのだが……、
この雨は、オーラルにとっても困る。人足のバイトが中止になるからだ。オーラルが世話になってる商家は、小麦や塩を扱う卸問屋である。どちらも水気を嫌うため。仕事の日数が減る。その分個人ポイントを切り崩さなければならない、頭の痛い話だと………。眉間に皺が寄る。
「先輩?……」
思わず素通りしたオーラルを。不思議そうに見ていたケイタが声を掛ける。考え込みながら歩いていたのに気付き、(苦笑)していた。
今はとにかく。夏の魔法討論会に向けて。様々な文献、過去の様々な魔法や。魔法陣を使った儀式について調べていた。
先日商人のお礼で、王立図書館に入ることが許されたのだが。オーラルが見付けたのは、多重式魔法が面白いと思ったのだ。もしも……複数の異なる魔法を。同時に扱えたら。また扱う結果が得られたら?……。そう考え。術式を考えていた。
ケイタは、アストラル=魂の一部を『使い魔』に移す。秘術をやるつもりらしい。もっともそうそう出来る儀式ではない。
だから簡易式で、過去に使われた方法をアレンジするだけとケイタは笑う。内容を聞いてもオーラルには、ちんぷんかんぷんだ。
得意分野で、部隊に貢献するのだと。意気込むケイタは、本来の少年らしい活発さと。神童と呼ばれた俊英さを。遺憾無く。発揮出来るようになっていた。
周りの人々←特に『院』の生徒もケイタの才能を認め始めていた……、もっとも、ある女生徒がメインだが……、ケイタは彼女の気持ちに。気付くことはしばらくない気はしたが……、
最近オーラルが『院』にいない間。カレン・ダレス=シルビア、
ダレス家の才女と言えば有名か、
ダレス家は、財務顧問を世襲制で認められる希有な一族で、一族の中で、最も優秀な人間が、ダレス家を継ぐ、シルビアは四人姉妹の次女で、才媛の多い姉妹の中でも、抜けた存在である。
言わば、ケイタと双璧をなす有名人であった。
ケイタの隣でチラリ冷めた視線をよこした彼女は、再び自分の本を読み始めていた。
何が良いのか……、解らないが、ケイタと馬が合うらしい……。変なのに、気に入られるのは、もはやケイタの才能なのか?、は解らないが、
二人で、本を読んでる姿をたまに見掛ける。
来週には、東大陸魔法理論会予選が、学園内で行われる。
シルビアも『特待生』だが、ミザイナと同学年で『院』にも在籍しており。全く『特待生』教室に来たことが無い。その為シルビアの扱いは『院』の代表として、魔法討論会・予選に参加する。
初夏←間近のジメジメした時期に、予選が、『特待生』と『院』の優秀な生徒達により行われるのだ。その中から優秀な生徒を4人選び出して。東大陸の5ヶ国合同で行われる。本選に出ることになる。
学生にとってアレイ学園の代表チームに選ばれたら。個人に100、部隊50ポイントが与えられる。一定の成績を得た参加生徒にも10ポイント与えられる。
だからオーラルは、参加ポイントだけ貰えれば良いと考えていた。後はケイタ、レイナ、ピアンザの補佐に回る考えである。
「先輩!、儀式の補佐お願いします。シルビア調整手伝って」
唐突な物言いに。戸惑いを隠せないシルビアだったが、こういった時だけ強引なケイタに手を引かれ。赤くなりながら引きずられてく。やれやれだ知らぬはケイタのみである。仕方なく自分の勉強を諦め。二人の後を追った。
━━━━王都の北。 通称。貴族街。
豪奢な屋敷が並び。雅な水路が、中央広場に集まり馬小屋の並ぶ、東側の牧草地まで水路は続く。
広大な、牧草地を有するは貴族街でも王族以外では、エトワール家のみ。エトワール家は、レゾンⅢ世の妻。レイダ王妃の兄が、家督をついだ名家であるが、女系が優秀なため、男系は小物が多く。エトワール・ブリュクヒルも例に漏れない。小物貴族と影で言われていた。
ブリュクヒルには、息子が二人いるが、どちらも腕っぷしと、悪知恵が働くが、凡庸な兄。馬鹿だが、父のために働く弟。ブリュクヒルには馬鹿ほど可愛く思えた。何れ家督をバローナに与えようかと考えていた程だ。
「なんだと!、お前をエトワール家の人間と知って、手を上げたのか……、赦せぬな…」
たるんだ頬を揺らし、目を血ばらせて、 息子を睨む。そんなことも手に負えぬのかと、この時ばかりは……、妹の3人の子供と比べ、不出来な我が子に歯噛みした。
「何者だ!、オーラルとは……」
激昂する父を、暗い光を宿した眼を輝かせ。バローナはほくそ笑む。こうして………リリア女史と。ミザイナの不安が的中することになる。
━━━予選会。翌日。凄まじい衝撃が……、ミザイナ部隊に落ちた。
なんと……、オーラルが魔法討論会・予選に通って、
全体の4位という。好成績を上げたのだ。それだけではない『院』生からは。2位のシルビアだけと言う波乱に……。
学園側も酷く慌てた。
ピアンザ3位、
レイナがなんと……6位と予選落ち。無論ケイタが1位で……、
「せっ先輩!凄いです」
憧憬の眼差しのケイタ、
自信消失のレイナ、呆れてるミザイナに、
肩を竦めるピアンザを前に、悩ましげに眉をひそめるオーラルは……、
『アチャ~、バイトが』
と頭を抱えていた。苦労人にとって、短い夏休みは、稼ぎ時である。本選の時期は夏休みになってからで……、
チ~ン。撃沈したオーラルの肩を諦めろと叩くリリア女史は、笑みを浮かべていた。
……しかし波紋は、
『院』に波及した。下級生←それもまだ1年の『特待生』に1位を取られたのである。慌てるのも仕方ない。
さらに……。二人の『特待生』が、学園長の決断で選抜された。
「リリア!貴様。何をしたのだ」
職員室とは名ばかりの自分の部屋と化してる机で、突っ伏してたら、いきなり怒鳴られた。
面倒臭そうに目を開けたリリアの目に。宮廷魔導師を示す。メダリオンが揺れていて、眠気を誘うから、再び眠ろうかと本気で悩む。相手は宮廷魔導師次席であり、アレイ学園の教頭、バレンタイン・ブロワルドが、大柄な肩を怒らせていた。
「聞いてるのかリリア!」
珍しい物を見れたと、リリアは鼻先にある。眼鏡を上げた。右目は相手のオーラを見分ける、魔法の成り済ましを見分ける面白アイテムだ。
どうやら本人らしい……。
言って聞かせて納得するかは、疑問だが、面倒になり、学園長から戻されたレポート3つを。バレンタインに突き付ける。
「なんだこれは……」
受け取った名前を見て、眉間に皺を寄せた。件の『特待生』3人のレポートだと気付いたからだ。引ったくると、それぞれのレポートに眼を落とし……、
「流石は、魔導王国の『魔導生』よね~。それから後の2人は、彼にひけをとらない優秀な生徒だと、それを見たら解るわね~次席?」愕然と、ピアンザとある特待生のレポートを読み。青くなる。
「これは……しかし…可能性はある。そうか!、こやつなかなか……」
「もう~聞いてないか……」
呆れたような顔だが、自慢の生徒がようやく片鱗を見せたと、リリアは小さく微笑していた。
リリアの最後に読んでいたレポートは。オーラルが書いた物で、全く新しい理論の魔法である。
━━タイトルは、
『2つの魔法を同時に』
誰もが一度は、試す。課題であり、深く魔法を学び。世界を知れば、夢物語と諦めてしまうのだが、オーラルはシンプルに、一つの魔法から、2つの魔法となるようにする方法を見つけ出した。それは単純故に。誰も思い付かない方法。最初にある法則を組み込んだ。異なる魔法因子を、放つ魔法に張り付けた。
それは……対極の魔法を使うのではなく。同じ系統の魔法に、ほんの少し違う効果を与える理論で。さほど難しい事ではなく。リリアもレポートにあった方法を幾つか試して、肌が粟立った。
『例えば…、炎に眠りの因子を張り付け発動すれば』
『例えば…、氷に毒の因子を張り付け発動すれば』
もはや新しい系統理論である……。
誰も……毒の魔法、麻痺、眠りの魔法のような補助魔法を、攻撃に張り付けよう等とは考えない、しかもこの手段を用いれば、鍵明け←扉が開き。危険を感じた瞬間。因子を変えればまんま扉を破壊して、攻撃出来る利点まであった。
もしくは、扉を破壊したと同時に、中にいる敵を眠らせたり、麻痺させる確率は高くなるのだ。
「リリア……すまぬ。私の勘違いであった……、善き生徒に恵まれたな」
バレンタインは温厚で、生徒からの信頼も厚い。彼が認めたのだから、3人の能力は『院』でも通用するのだろう。艶やかに笑うリリアに見とれ。なんと無く照れ臭く笑い。バレンタインは職員室を後にした。
「やれやれ、これで心おきなく。私は先生をやれるかな?」
愉しげに呟きリリアは、薄く笑う。
━━その頃。リリア期待の生徒は、相も変わらず。朝の人足のバイト終わりに、演舞場で、誰もいないなか、汗を流す。
ようやく一息ついて、水筒を手にして、座ろうとした時、チりとした、違和感を覚え……、咄嗟に背後に木刀を振るう、
カツン闇に受け止められた?、驚きに目を細めた。相手は刃物を抜いていた。カトラスと呼ばれる。船上で戦うことを目的に作られた、刺突に優れた武器だが、
武器だけ宙に浮いて……、いや違う!、暗がりに黒の衣服を全身を覆っている。闇に紛れ。暗殺を得意とする。人間のようだ……、
一瞬で判断した。注意深く見れば、黒くカトラスの刃は塗り潰されていた。薄い暗がりのある早朝。しかも1人のところを狙ってきた……。
それは……、オーラルの命を狙っての事だ。黒衣の服装をした暗殺者は、男か女かも解らない。うっすら青い目が現れた。
凄まじい殺気が、黒衣から溢れた。冷や汗が止まらない。少しも実戦経験が無い学生ならば……、殺気に飲まれ。殺されていたはずだ。シュ、切り裂く音、紙一重でかわし。抜き打ちの一撃。ドス……重い打撃音が、演舞場に響き、黒衣の体が崩れ落ちた。「……咄嗟に、空圧の魔法と、昏倒の因子を組み合わせて放てた……、危なかった……」
冷たい汗を拭い、震える手から、木刀を外した、なんとなく恐怖心から、黒衣から武器を奪い、後ろ手に縛る。足も縛ってから、カトラスの刃の匂いをかいでいた。毒が塗られてると確認して、寒気がした、黒衣からフードを奪い、自害せぬよう布を噛ませ。急ぎリリア女史を呼び出ていた。
息を切らせたオーラルから話を聞き、リリア女史は、黒衣の者を確かめ、冷笑を浮かべていた。改めて暗殺者に強い麻痺の魔法を掛けてから、動けなくしておくのも忘れない。
オーラルに、先に教室に戻るように伝えた。
「馬鹿息子に泣きつかれたか……、それにしても黒衣を動かしてまでとはね……」
危険な光を宿して、バレンタインを待つ間。この先どうするか……考えていた。
黒衣とは、アレイク王国の闇━━。
諜報機関に属する一族で、王家にだけ支えている者達の総称である。
あまり人々に知られていないが、小さな村丸ごと、黒衣の住まう村だと言う……、荒唐無稽な噂があった。リリアもあくまで噂の一つだと思っていのだが━━━。
……数日後。オーラル達選抜メンバー4人は、北西の港街ドマーニにいた。初夏の日射しに焼かれた、海風が、錆びたような香りとなっていて、異臭と言うよりも。懐かしい気持ちにさせた。
港町ドマーニは、交易の中継地として発展した町であり、大通りに沢山の商会が軒を並べている。港には、近衛連隊の本拠地がある。
アレイク聖王国の貴族院の息が、まだ根強いが、新しく新任した連隊長の手により。大改革がされ、名を上げている。可の人物。ブレア家は、この街の領主も兼任していた。4人は、これから海路で、5ヵ国の一つ。ギル・ジーダ王国に向かう。
ドマーニから海路で、早ければ7日程度、風にもよるが10日程の旅になる。明日の早朝出港の商船に乗せてもらえることになっていて、今日は宿に泊まることになった。引率者として、バレンタイン教頭が同行しているのは、先日の事があった為の処置であろう。オーラルは考えていた。宮廷魔導師の次席である。バレンタイン教頭がいることで、表立って黒衣やエトワール家の妨害は、出来まいとの考えもある。他国で事があれば、詳しく調べられる恐れがあるから。安全だとバレンタインは請け負ってくれた。
━━7日の海上の旅は、オーラルの不安を他所に。何事もなく。無事ギル・ジーダ王国に着いた。
━━ギル・ジーダ王国とは。香辛料の生産と交易が有名である。外食で食べる料理の香草や辛みのあるスパイスは、ほぼギル・ジーダ産であった。
晩餐会では、チャイと呼ばれる。甘いお茶に、ケイタは目を白黒させて、スパイスの効いた料理に、汗を流した。
各国の学生は、自分たちの部屋に戻るが、オーラルは1人。訓練所に案内を頼むと、使用人に怪訝な顔された。
オーラル達の泊まる。宿の別館からほど離れてない広場に。兵士の訓練所があって。他国の学生が来るのがよっぽど珍しいのか、奇異な視線を感じた。近くにいた兵に聞いて、訓練用の武具を借り受けた。まず準備運動をこなしてから、体術、剣、槍、を一通り形をこなしてたら、いつの間にか、見物の兵や使用人が増えていた。兵の1人に、アレイ学園の生徒のことを聞かれたので、自分が文武両道の『特待生』だと答えた。しきりに感心されたが、理解出来ずに首を傾げた。
翌日━━。
4人は、離宮に案内される。数年前まで、前国王の住まいだったらしい離宮は、白亜の美しい建物で、広々とした風を上手く引き込めるよう。考えられた小さな城と言うよりは、大きな屋敷である。
魔法討論会・本選は、3日間で行われる。
初日にレポート提出で、それぞれ個人の研鑽した魔法や。理論を書いた物を、各国の宮廷魔導師達が一堂に介して、厳正なる審査をする。
━━翌日には、自分達が作った魔法の実演になる。採点は各王宮魔導師5人による。10点減点方式である。各国の学生達は、チームとして扱い。上位3人による。総合点による順位が決められるのだが、様々な利権が絡むため。毎年混迷すると聞いていた。この数年。アレイ学園は。総合優勝から離れて久しい、やや魔法では、他国に遅れを取る印象は拭えない。
━━集まった学生達は、早速レポートを提出した。結果を待つ間。豪奢な部屋で待たされる。
「やあ~君が、噂の『オールラウンダー』候補かい?」
鼻に掛かる甘い声。金に近い。茶髪の細身の男子生徒が、オーラルに声を掛けてきた……、訝しげに眉をひそめ。首を傾げた。
「俺は、そんな大層な人間ではないよ」一見。希薄に見える笑みを浮かべるが、嫌みにならない、育ちの良さが少年から滲んでいた。それより気になったのがギル・ジーダ王国の人間が好む、サムエと呼ばれる。肩から片方だけ腕を通す服装であること。
「そうなのかい?、訓練所で、色々な武器の訓練をしてたと聞いたのでね。てっきりそうかと思ったよ。俺はギル・エバーソン、一応王家の人間だ」
ザワリ……、驚く他学園の生徒を他所に。ケイタ以外の3人。オーラル、ピアンザ、シルビアはまるで気にもしない様子に、エバーソンは笑みを深めた。
「気に入った!、お前名前は?」
急にフレンドリーになったエバーソンに戸惑いながら。出された握手に答えた。「オーラル・ハウチューデン、ただの苦学生だ」
飄々と事実など述べるオーラルに、プッと噴き出して、愉しげに笑いながら、
「けっケイタ・イナバです」
「ほう……君が、魔王の……」
「ピアンザだ」
「君も西の出かな?」
「カレン・ダレス=シルビア、シルビアでいいわ」
「ほう…ダレス家の」
四人をそれぞれ面白そうに見ていたら、コホン咳払いした女の子がいて……、
「若、皆様をあまりじろじろ見ないでください。仮にも王族なんですから。迷惑はかけぬように」
美しい顔立ちの女の子が、マナジリを上げ釘を刺しながらも。少しオーラル達をチラチラ伺う顔をしていた。自分も話の輪に入りたかったのか、ニッコリオーラルが笑うと、安堵しながらこちらに歩く様は、洗練された舞のように素早い。
「サミュか……、まあ~良いだろ。採点は時間掛かる。どうせ暇なんだからな」
「しかし若……」
拗ねたように、けっしてサムエの袖を離さない。チラチラオーラル達を見る目は、期待に満ちていた。なるほどと笑みを深めた。
「良かったらエバーソン、サミュさんとも話せないかな?」ぼくとつと不機嫌そうに見える。ピアンザが、存外に優しい気遣いの手を伸ばした。リジルは眼を丸くして、驚きながらも、ニッコリ微笑み。
「ぜひぜひ!」嬉しそうに、頷いていた。
早速ではないが、サミュに聞かれるまま、アレイ学園や国の話をしていた、また入学式に行われる。武術大会の話になると。他国の生徒も混ざり終始和やかなムードが広がる。
ほどなくして、各国の宮廷魔導師達が出てきて。結果が発表された。
個人評価総合1位
ケイタ・イナバ、
50ポイント、
個人評価総合2位
ギル・エバーソン
48ポイント
個人評価総合3位
サミュ・リジル
45ポイント
個人評価総合同率4位
オーラル・ハウチューデン
42ポイント
個人評価総合同率4位
ピアンザ・カリア
42ポイント
個人評価総合同率4位カレン・ダレス
42ポイント
ザワリ………。驚きの声が上がる。各国の関係者、参加生徒を他所に。オーラルは戸惑う。何で?自分がと、首を傾げていた。
「凄いじゃないか君達!。良ければこれから、家に来ないかい……。そのもう少し君たちの話が聞きたい。明後日の実地試験が終われば、しばらく休みなんだろ?」
悪戯っ子のような顔のエバーソンは、それはそれは魅力的な誘い文句で誘う。顔を見れば新しい楽しみを見つけたと、言わんばかりの様子である。隣のサミュも顔を高揚させて赤めていた。
「ぜひぜひ!」
「みんなで楽しめる所も案内するよ~。どうかなみんな?」少し迷ったが、四人は言葉に甘えることにした。四人の他。ドヴィア国、リドラニア公国、ラトワニア神王国の何人も意気投合して、みんなで街に出た。
エバーソンに続いて、街にでるや。
「ぼくなら街中を案内出来るよ~。任せてね♪」
と豪語する程。住人も知らない裏道から、穴場の露店まで、とても詳しく。確かに楽しめた。先に疲れたと言うケイタを。シルビアが連れ宿舎に戻ったが、オーラル、ピアンザ他数人が、エバーソンの屋敷に、お邪魔することになったのは、辺りがすっかり茜色に染まる夕方のこと……、
街の外れの高台にある。貴族街。こじんまりした邸宅は、贅はせず。古くも大切に住まわれてると。肩の力を抜ける過ごしやすい邸宅で、みんな羽を伸ばした。
「オーラル!、良かったら少し付き合えよ」
茶目っ気たっぷりにウインクして。と木刀を揺らす。
「ん~、良いね~」体格の良い。ドヴィア国のイブロが、おうように相好を崩す。身のこなしから、かなり使えるのが解る。リドラニアの色白な青年に眼をやるが、両手を上げていた。彼もかなり使えるはずだが……、顔が真っ赤で、リジルから冷やしたタオルをもらっていた。日焼けして微熱に苦しんでる感じだ。ピアンザが審判を買って出てくれた。
邸宅の裏庭、大きなヤシの木の下で、オーラル、エバーソンが、構える。
「始め」
感情の籠らぬ合図に、エバーソンがいきなり飛び込んできた、二本の短剣より長い、エドラスと呼ばれる。ナイフの曲刀による連撃は、息も尽かせぬ猛攻を可能にしていた。初めての対戦と間合いの慣れない武器相手に。最初はなす統べなく。一方的に攻め込まれるが、ミザイナ程。一撃の重さは無く。何とか防げるが、スキも少ない。
オーラルの一撃。一撃。は防がれるが、破壊力で勝るため、攻撃を受け止める度に。エバーソンは動きを止められ。決定打が見つからず。ピアンザに止められた。
続いて、イブロとエバーソンが試合した、結果、大剣の防御を活かして、イブロの勝ちとなる。
続いて、イブロとオーラルの試合となった。重い斬撃を受けるだけで、腕が軋み。木刀を落としそうになった。しかしオーラルのスピードある切り返しで、大剣を掬い上げ、辛くもイブロに勝った。
「やるな二人とも…」
息も上がる。すっかり辺りは暗くなっていた。見上げた空に。煌々とまん丸お月様が顔を出していた。しっとりした疲れに身を委ねたつつ。気持ちの良い風を感じて、三人は笑みを交わした。
そんな3人を、女の子達が、呆れた顔で見ていたなど、3人はしらないが……、
━━翌日の昼。宿舎に戻ると、ケイタが不機嫌に出迎えた。二人が戻らないから。拗ねていたようだ。これから実技試験だから、不安もあるのだろう、
━━アレイク王国。宮廷魔導師筆頭エドナの執務室。
その日の夜━━。
リリアより、報告を受けたエドナは、エドワード家を誰にも語らず訪問していた。
「これはこれはエドナ筆頭、お珍しい……」
たるんだ頬を揺らし、嫌らしい眼差しで、エドナの豊かな肢体をなめ回すように見て、弛緩させる。 「ブリュクヒル様。ご無沙汰しております。忙しい中。このように会談を設けて頂き、感謝いたします」
気持ち悪さに、吐き気に見舞われたが、表にはおくびにも出さない。
「わざわざエドナ筆頭が、来られるとは、何事ですかな?」素知らぬ顔のブリュクヒル公爵の態度に。密かに眉を潜める。
「昨日のことなのですが……」言い置いて。笑みを深め。獰猛な牙を剥き出しにした。
「我が、学園内に起きました事ですが、黒衣の者と思われる。刺客が、学生を襲いました……」
スッと表情が消えるブリュクヒル公、
「それは……大変なことだな…、して学生はどうなったのだ?」
期待に満ちた光を。脂肪で細くなっている目に宿していた。やはりこの男か……、怒鳴り散らしたい衝動を抑え。
「大事に至らず。優秀な生徒自身の手で、捕縛されました。先ほどケレル殿下の命により。ただいま調査されておりますので……。間もなく首謀者は発見され。きっと厳重に処罰されるでしょう」にこやかにしばし会談していたが、微笑むエドナとは対象的に。血の気を失った。ブリュクヒル公は上の空であった。おいとまを告げ。エドナが屋敷を後にしたと聞いた瞬間。
「………のれ…、おのれ、おのれ、おのれ!、たかが学生ごときに我が……、許さぬ。許さぬぞオーラル!」
盛大に高価なグラスを壁に叩きつけ。ワインが滴り落ち。高価な絨毯を汚した。
━━ギル・ジータ王国。
離宮にある。兵の訓練所にて。魔法討論会・本選に参加してる。学生達が集められていた。
実技試験は、広い場所が、必要になるためで。数日前から準備させられた。魔方陣の中で行われる。
魔方陣の周囲には、更に強力な結界が張り巡らされており。多少の失敗は、全てカバー出来る準備がされたのだ。ギル・ジータの宮廷魔導師が、数人。魔方陣の側に控え。万が一の不測の事態に備えている。
「では、始めてもらおう」
各国が誇る。宮廷魔導師達が、審査をするため、右側にたつと、1人ずつ魔方陣の中に呼ばれた。
開催国のギル・ジータ学園からの順番で。
エバーソンが最初に披露するようだ。
ギル・ジータ王国の魔法は、ファレイナ公国と同じく。風の魔法を得意としている。がファレイナ公国が肉体強化の補助魔法に特化してるのに。似て否なるのが、防御魔法と制御の難しい、解呪系を得意としていた点である。エバーソンも制御の難しい。解呪の術式を組み込んだ、小さな限定空間。結界を造り出した。しかも魔力は、世界に漂う。精製されてないマナを用いた。エコ魔法をだ。
魔導師にとって。魔法を封じられた時……、魔力を何らかの理由で、失った状態からでも使える魔法と言う。逆の発想である。
続いて、リジルは、付属魔法を得意としてるようで、自作のマジックアイテムを自身で使って見せた、他の2人も研鑽の見受けられた見事な魔法ばかりで、オーラルは息を詰め。好奇心一杯に見ていた。
アレイ学園の番は、最後となっていた。
シルビアが最初で。召喚魔方陣を使う魔法をやるようだ。アレイク王国には聖獣とされる生き物がいる。土竜である。初めて見る生徒が多い中。光を嫌う土竜の為。結界内に。光を遮断する魔法を使い。薄暗い空間を作っていた。まだ子供の土竜を見た瞬間。オーラルは懐かしい気持ちになってた……、
続いて。ピアンザは見た目とのギャプで、動物操作と言う、物珍しい魔法とコミカルな演目に、会場を沸かせていた。
ピアンザの優しい眼差しに頷き、
三番手にオーラルが、訓練場中央に立った、シルビアの側にはまだ送還されていない土竜を見て、首に掛けた、笛を吹くと、
「ピーュー、ピーュー」
土竜が答え。オーラルの元に飛んで来た。周りの人が青ざめる。審判の魔導師が魔法を唱えるのを制止して、オーラルは笛の音で、土竜の制御をして見せ、あのシルビアさえも驚かせた。
オーラルは左手で、複雑な魔方陣を描き、同時に笛を操りながら、魔法を唱え。上空に放つ、爆炎の魔法よりも、音に驚く土竜に向け、因子を変えた。 眠りの魔法で……、うとうと眠った土竜に。
ザワリ……、
驚き、ざわめいた。
宮廷魔導師達は、今目にした出来事に、騒然となっていた。あの生徒は確かに爆炎の魔法を使ったはずである。それが一瞬で効果が消え失せ。その魔法を眠りの魔法に切り替えた……。その事実に驚愕していた。パチリ指を鳴らすと。眠りの魔法を解いていた。
土竜は、直ぐに目覚め。きょとんとクリクリした黒目をぱちくり。首を傾げていた。
非常に頭がよい土竜は、不思議そうな目でオーラル見ていた。だから笛で合図をして、土竜を操りながら、シルビアの側に連れて戻ると、不機嫌そうに睨まれた、やり過ぎたかな?、冷や汗流しながら謝る。
興奮冷めやらぬ。各国の魔法関係者を他所に。訓練場の中央に、いつの間にかケイタがいて、
一瞬で、複雑な魔方陣を足元に作り出していた。各国の宮廷魔導師達を驚かせ度肝を抜いた。
ケイタの身体から、白霊=アストラル体 がモヤモヤと現れた。ケイタの目前で魔方陣が、時間差で動き出すや。自動召喚が始まる。現れたのは、アビシスと呼ばれる。中型の肉食猫である。戸惑いが隠せぬアビシスに、ケイタ=アストラルが触れた、ほんの一部。アビシスに入り込むのが見える。警戒していたアビシスの眼差しが、理知的な光を宿し。やがて喉を鳴らしながら、ケイタに撫でられ嬉しそうに、頭を擦り付けてきた、しばらくアビシスをかまいながら、落ち着いたところで、自分の傍らに来るよう命じれば、大人しく従い。隣に控えた。
「おおおー」
感嘆の声が漏れ。ケイタは女の子のように。照れた赤い顔をして、歓声に応える。
ケイタの勇姿をじっとりと見ていたシルビアは、頬を赤くし身をくねらせ、そっとため息などついて、艶然と微笑などしていた。目に妖しげな光が見えたが……、視線に気付いたシルビアと眼を合わせぬよう避けていた。なんとなくヤバい予感がしたのだ。総合1位は、誰の文句なく。ケイタに決まった。
「オーラル君!。少し良いかな?」
サムエを着た、ギル・ジータの宮廷魔導師の審査官から。声を掛けられた。
「まて!、此方が先だオーラル君」
確か、ドヴィア国の宮廷魔導師だったか、
「いや、我がラトワニア神国が先だ」
「リドラニア公国こそ先だ!」
すっか囲まれ。戸惑いが隠せぬオーラルを。
「先輩!凄い。さっきのあれどうやったんですか」ケイタが絡み付いて来たので、仕方なく簡単に仕組みを説明すると、眼を輝かせる。
「先輩、ケイタが絡み付いて来たので、仕方なく簡単に仕組みを説明すると、眼を輝かせる。
「先輩、あの土竜はどうやって操ってたんですか!」
鼻息荒く、女の子にしか見えない風貌のケイタに迫られ、苦笑しながら、
「父が、土竜騎士でね」
オーラルの事情を思い出したケイタは、口を閉ざした。オーラルは何でもないと肩をすくめていた。
混乱が生じそうな、空気にバレンタイン教頭が手を叩いて注目を集めていた、
「さて皆さん、オーラルの新たな系統は、レポートに纏め配布すると決まってます。価格の相談は此方で……」
「おお!誠に」
すっかり作り手のオーラルを他所に、交渉が始まっていた。
「リリア先生と、バレンタイン教頭に言われた通りだったな……」
半分呆れながら、各国の宮廷魔導師達が、白熱してるのを横目に。
「夏休みのバイト代以上になってほしいな~」
切に願うばかりだ。
明日全ての結界が発表されるが、参加した各国の生徒には。帰郷までの数日をギル・ジータで過ごすことになっていた、オーラル達はエバーソンに誘われていて、何人かと海水浴に出かけることになっていた。
ギル・ジータ北部は、広大な森である。その一部を開拓して、農園を作っていた。スパイス農園の森を抜けた先に。小さな避暑地ナグアの街はあると聞いた。
ナグアの住民の多くは農園で働き、小さな漁港で、細々漁業をするのが、主な財源である。漁港のある港から高台に、ギル・ジータ王国の貴族等が所領する。別荘がある。エバーソン家所有の別荘は、過ごしやすいログハウス風になっていて、ビーチまでは、緩やかな坂を下れば直ぐの立地にあると自慢していた。絶景の眺めは一見の価値がるとも。
翌日も忙しいバレンタイン教頭に断り。シルビアとケイタは宿舎に残ると言うので、オーラルとピアンザは、その日の夕方には、エバーソンの別荘にお邪魔していた。
━━翌朝。エバーソンと、イブロ、ピアンザ、オーラルの男4人が、重い荷物を手に。高台にある別荘から。坂道をひーこら言いながら。ビーチのある海岸に降りて行く。
「ふう~暑い」
汗だくになりながら、サムエの布で作られた。傘と呼ばれる日除けを開き、長い柄を焼ける砂に。突き刺して、日陰を作った、サムエの布を、細いロープ状にし。編み込んだ敷き物、御座と呼ばれるのを砂浜に轢くと、焼けた砂すら和らげると知って驚いた。
エバーソンは、薄手の羽織るタイプのサムエの下に。鍛え抜かれた身体をさらし、組立式のテーブルを用意していた。イブロは飲み物や食料の入った、かなりの重量の荷物を下ろして、顔が真っ赤だ、
「大丈夫かイブロ?」一息付いてる間に、竈の用意を済ませたオーラルに。一つ頷くが、エバーソンが気を利かせ。冷たい飲み物を取り出しイブロに渡した。虫歯が逃げ出しそうな。真っ白い歯をニッカリ綻ばせ。実に旨そうに冷えた飲み物を。一息に飲んでいた。
「ぷは~生き返る……」
中身は、爽やかな酸味のあるジュースと聞いて、オーラルも少し貰うと。なるほどこれは旨いと感動していた。
オーラルは1人、エバーソンの別荘にあった釣竿を準備する。さほど泳ぎは得意ではないオーラルだが、釣りはわりと得意である。大物を釣るぞ気合いを入れていると。ザッザッと砂を噛む音が聞こえてきて。
「わっ若……、おっお待たせしました」
輝くような日差しの中。純白の白い肌を。羞恥に赤くしながらも。エバーソンとは、色違いのサムエを羽織る。サミュは着痩せするボディーを、一生懸命隠そうとサムエを引っ張るが、無駄ではない?、内心で冷静に突っ込む。
「似合うぞサミュ!」
素直な、エバーソンの賛辞に、
「わっ、若……」
真っ赤に俯き。とても嬉しそうにしていた。間もなく他の女性陣がやってくると。砂浜も華やかになっていた。
「ケイタ、シルビアも来れば……まあ~無理かな」
「ああ~そうだな」ピアンザと二人。苦笑していた。
最初こそ、そわそわしてたイブロ、ラトワニアのセシルは気があったのか直ぐに意気投合。二人は海岸を歩きながら話していた。
━━お昼頃となり。それぞれが自慢の一品を出した。ピアンザは、アレイク王国名物の塩と。ギル・ジータの香辛料を使った料理をオーラルが釣り上げた魚の香草焼きで作り、かなりの好評だった。
昼食終もおわり、少し迷ってたエバーソンは、固い表情をして。
「実は。あの島」
半島の先を指していた。人の住まぬ、無人島があると呟いた。
「あの辺り、海流が激しく、競り立つ、岩盤が、槍のように、乱雑に並び、近付く船の船底に穴を開ける難所なんだ」
話す内に。徐々に決意も固まっていた。
「その島から、北に10海里行くと、古代の神殿があるんだ……」
こいつ……、みんなも気付いたようだ。エバーソンは何らかの目的があって、皆を誘ったのだと……、それに彼の魔法は、風の防御魔法がメインと聞いていた……。空気を作り出すことも可能であるとも……。
セシルは単純なところがあるのか、目を輝かせ興味を抱き。妹の泳ぎが苦手なナターシャが、気の毒なほど青ざめる。
「ふむ……このメンバーなら、行けるか」
イブロが、ニヤリ獰猛に笑う。冒険好きな質らしい。
「ねえ……オーラル、君に神殿に向かうか、任せたい!」
静かだが、深い悲しみを瞳から読み取り。オーラルは仕方ないなと頷いていた。まあ構わないだろとの了承を示せば、
「ありがたい!」
サミュと素直に喜んでいた。
━━小舟を二艘に分けて、オーラル達は出発していた。
目的の途中まで船で向かい、日が随分と低くなっていた頃。間もなく日が落ちて夕方になるだろう。そう考えていると。
重しにロープが繋がれた物を。エバーソンとイブロが海に投げ込んでいた。船が流されないようにするためのアンカーだと聞いた。エバーソンが空気の膜の魔法を全員に掛けて、先に海に飛び込む、最後尾を泳ぎが苦手なオーラル、補助を申し出てくれたピアンザが勤める。
海に飛び込み。目に入るのは、濁りの無い。スカイブルーの海で、西日に焼かれた海は、日の光により、オレンジ色に変わっていた。下を見ると見たことも無い小魚が、集団で回遊していて。あまりに幻想的な美しい光景に。緊張してた、ナターシャの顔にも、ようやく笑みが浮かんで。みんなに大丈夫よと微笑んで見せた。ようやく7人の緊張も和らいだようだ。
エバーソンが言っていた古代の神殿がある場所は、海流の早い難所で、水深もかなり深い場所にあるとのこと。
オーラルはそんな場所を何故知ってるのか?、小さな疑問を抱く。
こうして海中だから分かることがある。ギル・ジータの海岸線は、浅瀬が多く。この辺りも、さほど深くはないが、やはり……疑問が浮かぶ、エバーソンが止まり、指す先を見て、感嘆の声を飲んでいた。
巨大な渓谷が……7人の前に広がっていたのだ。
海中とは思えぬ光景に。誰もが魅入った。自慢気な顔のエバーソンの気持ちが良く分かる。指を下に下げる合図がされて、エバーソン、イブロの二人が先頭になって泳ぎ、女性3人、ピアンザ、オーラルと続く、ピアンザの肩には、折り畳み式の弓がある。念のためらしい、
苦労しながらも海中の渓谷を抜け、自然に出来たとは思えない、岩山の一つにある深い横穴を指して、入って行く━━。
急激な海流の変化が起こったが、エバーソンの魔法は、急流に阻害されることもなく。やがて緩やかな海流に侵入して、流れに身を任せながら、海中トンネルを抜けると、巨大なお椀をくり貫いたような、場所に出ていた。
ピアンザが上を指したから。見上げればみんなが上を目指し泳ぎ出していた。オーラルもピアンザに頷き。上に向かって泳ぎ出す。程なく━━。
「プハ~。はっ……、はっ、空気がある……」
久しぶりに空気を吸った気分になっていた。安堵の吐息を吐いてると。
「オーラルこっちだ!」
イブロに呼ばれ、すでにピアンザが、海中から出るとこだ。
海中から洞窟のような場所に上がり。イブロとピアンザに付いて、奥に進んで行くと……。
海中にあるとは思えない。美しい光景に息を詰めて立ち尽くす女の子達に追い付いていた。その間オーラルは小振りなリックから。携帯食のチョコレートと水を皆に振る舞う。
「おっ、ありがたい!」
イブロが満面の笑みで受け取り早速食べる。山岳地帯にあるドヴィアの民にとって、チョコレートは大変高価な物なのだとイブロは言う、アレイクではわりと安価な保存食だが……、元々薬の原料たる。カカオが手に入りにくいからだろうか?、
「イブロ宿舎に帰れば、念のため持って来たチョコの予備があるから、お土産にプレゼントするよ」
「真か!」
ガバリ、音がする勢いで肩を掴まれ揺すられた、驚いたが本当に嬉しそうな顔を見て、目を丸くしながらも頷いてやると。それはそれは嬉しそうに相好を崩していた、
「父が大好きなのだ。喜ぶ!」
案外親孝行な男だと。オーラルが感心していた。
「イブロ、オーラルこっちだ」
ピアンザに呼ばれて、さらに奥のある。海底洞窟に、入っていった。程なく、セシルが炎の擬似精霊を呼び出して、宙に浮かべた。彼女は擬似精霊使い(エレメンタラー)らしい。エレメンタラーとは、擬似精霊を産み出して、操る付属魔法の使い手の事である。
「この先に、古代の街と神殿がある」
しばらく歩いてると、人工的に造られたと分かる。広い円形状の空間に出た。
出口が、高台にあったのか……、
「これは……」
7人の眼下に広がる。見たこと作りの異国の町並みに。誰かが息を飲んでいた。
━━最も高い建物は、街の中心部にある。多分あれがエバーソンの言う神殿らしき物か……。
「これって……。古代の民の遺跡かしら?」
ナターシャの呟きを耳にして、ピアンザの目が細まった。
古代の民とは、黒の民、白の民、緑の民の三種族を指す名称である。西大陸には、黒の民が国を築いたと言われていて。魔導王国の魔王ヒザンが、古代の民の末裔と言われていた。ピアンザの耳は……いや、ピアンザはピアンザだ、小さく首を振っていた。
━━━静寂たる。古き町並み。家屋に一切の傷みすら見られず、今も。人々が暮らしてた微かな息吹きが、残ってるように思えた。だからではないが、女の子達が気味悪そうに感じて。身を震わせていた。
一応ピアンザと何軒か、家々を見て回るが、人だけがいなかった。まるで死者の街である。
「墓標かな……」
セシルがボソリ呟けば、
「セシル…」
ナターシャが姉をうらめしそうに睨む。目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな妹に。流石に悪いと思って、パタパタ慌てながら、
「ああ~大丈夫だよ。いてもお化けくらいだからさ」
「……!?」
凄い眼で睨まれてしまい、意味もなく笑うセシルに、思わずみんなが笑ってしまう。
━━街の中央に、今も生きる噴水があって。一層物悲しく。鬱蒼とした気持ちにさせた。
噴水の先は、かなり開けた場所で。一番高い神殿まで、巨大な柱が、左右に並ぶ場所を。首を傾げながら。しばらく歩いていくと。
高い塔のような建物があったが、扉は固く閉ざされていた。ピアンザは扉を前に息を飲んでいた。
閉ざされた扉には、3つの古代の民エルフが描かれていたからだ。黒の民は弓、白の民は杖、緑の民は草花を手にしていた。
「この扉は、ある程度魔力を持った者だけが、扉を開く事が出来る仕掛けさ」
試しにイブロが、扉に触れると、身体から、オーラのように魔力が見えた。
「これは……」
驚く皆に、エバーソンが笑いながら。
「一種の認識装置さ」
『院』で、似た装置が、使われているのを思い出した。 イブロが手を離せば、オーラが見えなくなり、音も無く、扉が開いた。
カビ臭い、本独特の匂いが鼻を突いた。神殿の入り口は、図書館として利用されてたのか、
見たことない言語の本が、戸棚一杯に並んでいた。試しに一冊の本を手にしたが、風化した本が、一瞬で崩れ落ちた。
よく見れば、沢山ある戸棚の本は、ほとんど朽ちていた……、
本が朽ちる……。数百年の年月が必要な時間である。それだけこの地に人が、足を踏み入れていないことを意味していたが……、やはりと確信に近い疑問が浮かぶ。
王族とは言え、エバーソンはなぜこの場所を知っていたのか?。それに……入り口の装置にしてもだ。
「この奥に。面白い物があるんだ」
そう説明したエバーソンに連れられて。神殿の地下に降りて行った。
長年蓄積した誇りとカビを合わせたような。鼻がむず痒くなる臭いが、歩く度部屋の中に充満していた。
「此処等は牢屋か」さらに下に降りて行くと、重厚な扉があって、エバーソンに続き中に入る。
「これは凄い……」巨大な水晶が、天井付近に浮かんでいた。強い魔力を感じる。辺りを見れば似た水晶が複数浮かんていて。仄かな明かりが、部屋の様子を見せていた。何となくこの巨大な水晶こそが、町を動かすための心臓ではないかと考えた、
「これは……、まだ生きている?」
生き物の発する。気配が、僅かに感じられたので、眉をひそめていた。
「感じたか…、オーラル」
エバーソンは、真剣な顔に。愁いを帯びた眼差しを浮かべていた。彼の顔には、深い悲しみがあった。
「オーラル……、中心の巨大水晶を良く見るんだ……」
エバーソンに言われるまま。オーラルは水晶を見つめていると……、
「まさか……」
ピアンザの顔色が変わる。果たして何か入ってるのかと訝しい気持ち……、ハッと息を飲んでいた、「エルフか……」
「なっ……」
あれは生きているのか、僅かな感情を感じた……、喜びの感情をだ。
『エバ、来てくれたのね』
「シレーヌ元気そうね」
『リジも。来てくれてありがとう』
嬉しそうな思念。寂しかった子供のような思念だった。
『あら……そちらは初め……!、貴男は』
視線。ピアンザを見て、とても驚いたようで、懐かしく寂寥を感しさせる。精神力の波が、全員を包む。
『私以外にも……いたのね』
嬉しそうな思念に、戸惑いが隠せぬピアンザ、そう言うことか……、オーラルは小さく嘆息していた。
「説明してくれるか、エバーソンどうやって彼女を助けるつもりなのかを?」
静かに問うと。本当に嬉しそうに笑っていた。まるで悪戯が成功したような満面の笑顔……、
『私から話すよエバ』
━━━今から8年前、
ギル・ジータで、
記録的な台風が、上陸した。街は、高波に晒され、多くの死者を出した、エバーソンとリジルは、幼なじみで、子供の頃から、一緒にいた、それが災いして、二人も海岸近くの屋敷にいたのだが……、屋敷ごと波に拐われ、遠く。遠く。街から、離れてく、
二人も幼いながら、泳ぎに長けていたが、なすすべはなかった━━。
次に目覚めると、見たこともない場所に流れ着いていた。二人は、寒さと不安に泣きながら、今日通った洞窟を抜け、街を見つけて。それはそれは喜んで走りまわった……、やがて立ち尽くしたと言う。誰もいない街、二人が来たのは、そんな街だった。
やがて……、何かに導かれたように…、神殿にたどり着いた。幼き命を助けたのは……、古代の民の少女。ただ1人残された存在だった。
少女は管理人として残され、忘れられた存在であった。
二人は、彼女の苦悩を知り、地上に戻って命の恩人の為に勉強したと言う………、
そして……、魔力が、ある程度強い者から、魔力を借りれば、水晶から、抜け出せると解った。
『問題は、魔力の供給が失われると、この空間が崩壊します。さらに管理人を逃がそうとすれば、ガーディアンが現れます………』
数百年もの年月で、身体が弱り、手足が萎えて動けないシレーヌ、さらには魔力を使い、シレーヌを助ける人数も必要になる。
「俺とイブロを誘ったのは、その為かな?、なら俺の答えは、やれるならやるだけだ」
「エバーソン!、俺も構わん!」
イブロが力強く言えば、セシルも同調した。
「いいわ、何も言わずに連れてきたのは許せないけど、手伝うよ!」
「……みんな…」
『皆さん…ありがとうございます』
そして……サミュ、
彼女が、付属魔法を学んだ理由が、様々なマジックアイテムを作り、代用する品を作り出す事が可能だったからだ、サミュ、セシル、ナターシャの三人は、それぞれ儀式に必要な、秘宝を模倣した。アイテムを身に付けさせる。これにより、黒の民、白の民、緑の民だと模倣させる力がアイテムにあるのだとか。
使えるのは一度のみ。魔力をかなり消費するので、シレーヌを連れて先に逃げるのはピアンザに任せる。
オーラルとイブロ殿を勤め、ガーディアンと戦い、時間を稼ぎ倒せずとも逃げる。算段をつける。
「若……準備、出来ました」
手持ちの携帯食料で、簡単に空腹を紛らわし。
「頼む。みんな……」
深く頭を下げる。それぞれ頷き、エバーソンの合図を待った。
「リジル!始めろ」「はい」
3人←リジル、セシル、ナターシャが、指定された位置に立つと、
『アクセスコード000管理人シレーヌコード00571、管理人強制解除、特別解除項目00137発令』
シレーヌの理解出来ない言葉と共に、3人の足元から、黒、白、緑の光が包む。『アクセスコード0122、黒の民受諾』
サミュの胸元から声がした。
『アクセスコード0123、白の民受諾』
セシルの胸元から声がした。
『アクセスコード0124、緑の民受諾』
ナターシャの胸元から声がした。
『強制解除コード受諾受諾受諾受諾受諾受諾受諾受諾受諾受諾受諾……住民に告げます。魔力の供給が失われます。新たな管理人委任、委任委任委任委任委任委任委任委任委任』
周囲からシレーヌの気配が消えていた。水晶が…光を失い、ゆっくり落下していき。地に着いた瞬間。水晶が砕けていた。シレーヌが倒れ込むや、ピアンザが飛び出し回り込み。そっと抱き止めた。
「ヤバいよ、物凄くからだが重い……」セシルがぼやき、青ざめるナターシャ、息を切らすだけに。済んでるが、顔が真っ青なサミュ、
「ん……」
金の髪が腰まで揺れた。美しい少女の瞼が痙攣する。
アイスブルーの瞳が現れ、ピアンザを認めると、美しいアルトの涼やかな声が響く。
「良かっ……」
再び。意識を失う。
『警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、警告、海底都市……ブツ、魔力の供給が…ブツブツブツブツブツ、強制コード0001、魔力保持者の保護を開始。維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持維持』
嫌な予感がした、足元が、鳴動した何度も。
「ピアンザ、洞窟まで、先に行け!」
「わかった、大丈夫?」女の子達が頷き、走り出した。
『魔力保持者6名、古代の民2名がいます。捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲捕獲』
壊れた人形のような無機質な声が、辺りに響く。
戸惑いを浮かべる。エバーソンに、
「ピアンザは黒の民だ、多分な…」
驚愕していたが、なるほどと安堵の笑みが浮かぶ、
「そうか、なら楽しみが増えたな」
と。ほくそ笑む。
「来るぞ!」
イブロが、幅広のナイフを構えた、オーラルが持ってた物で。
凄まじい轟音を轟かせ。地面が、爆発していた。エバーソンの風魔法の加護で、怪我らしい怪我はないが……
「面白い……」ゴクリ、イブロの喉が鳴る。
現れたガーディアンの身長は、優にイブロの二倍、メタリカルな光沢あるボディーだけでは、解らないがおそらく、ゴーレムの一種だろうが…、とにかく動きが俊敏だ、
「行くぞ!」
気を吐いて、イブロ、エバーソンが飛び出した。炎の矢ファイヤーアローに、付属の因子を張り付け、放つ、炎の矢は凄まじい数となり。ガーディアンの全体を満遍なく、矢の雨を降らせていた。防御している為かな隙に。二人は魔法を唱えた、エバーソンは加速、イブロは爆発の魔法を放つ、
「因子を放つ」
魔力が、集まり、イブロ、エバーソンの武器に、炎の付属が付けられる。
「おそらくミスリル金属。二人とも炎で熱するんだ」
「そうか!了解だ」
「訳は解らんが、任せろ」
エバーソンはオーラルの考えに気付いたようだ。それぞれの武器を手に、斬りかかる、
━━どれくらい斬り、炎の魔法を当てたか……、イブロのナイフの刃はぼろぼろで、エバーソンの武器の一つは折れていた。ゴーレムの表面が徐々に、真っ赤くなっていた。
「オーラル今だ!」
エバーソンの合図で、二人が飛び下がる。氷の息吹に、爆発の因子を張り付けた、
「クッ…………」
凄まじい水蒸気が、発生した、
「大爆笑する!逃げるぞ」
オーラルの切羽詰まった声で、慌てる3人が、部屋を出た瞬間、因子が発動した…、水蒸気により、高熱で熱せられた金属であるゴーレムは、急激に冷やされ。膨張する力とぶつかり合い。内側から膨れ上がり……、
神殿…処か、街を揺らす大爆発が起こる。
「コホコホ…なんて凄まじい爆発だ、何も聞こえん」
「つつ……」
煤で、真っ黒になってる。エバーソンが顔を歪めた。
「助かった…」
冷や汗を拭うオーラルに、2人が、
「殺す気か!」
叫ぶ、きょとんと首を傾げ、
「あれ、俺のせいかな?」
眉をひそめる。
「若!」
爆発に驚き、戻って来たらしいサミュ、
「ん……」鳴動が、激しくなっていた、ヤバいな、顔を見合せた。
「急ぐぞ、多分ここも崩れ落ちる!」
頷き合い、再び走り出した。
洞窟に着いた頃には、鳴動はちょっとした地震となっていた、立ってられないほどで、いつ洞窟が、崩れ落ちるか解らない今、4人が洞窟を抜け戻るのを見て、蒼白のセシルが、呆然と立ち尽くしていた。
4人が無事だと分かり。安堵のあまり。泣き出していたが、そんな優しい姉にナターシャが、優しく抱きしめたが、ますますわんわん泣いていた。緊張の糸か切れたのだろうが……、意味が解らない4人は、ただおろおろするばかり。
「入り口が、崩落して、出られないの……」
ピアンザが落ち着き払い、説明した、
「くそ……ここまで、生き延びたのに……悔しそうに唸る」そんな悔しさを全面し出すイブロを前に……、蒼白に唇を噛むエバーソンは、
「済まない……」
血を吐くように、項垂れた。
ちょっとしたことで、破綻しそうな危険な予兆すら予感させる。精神状態だとオーラルは感じた。
「ん……、ここは?」
優しい光を宿した、アイスブルーの瞳が、パチリと開き。辺りをキョロキョロ見回して、首を傾げた。鳴動は地鳴りのように、木霊していたが、彼女が目覚めると、鳴動が弱まったように感じた。
ピアンザから、かいつまみ話を聞き終えると、シレーヌは眉をひそめ、何かを思い出すように、首を傾げた。
「あっ、そうだわ……確かこの先に、脱出ポットがありました!」聞きなれない名前だが、脱出する手段があるのだと予感した。いちるの望みが生まれたのだ。
自力で歩くまで、なんとか回復した、シレーヌの案内によって、隠された仕掛けを作動させるや、下に下りる階段が現れた。みんな不安を抱えながら、下までどうにか降りて行くと。見たことない船があった。ミレーヌに言われるまま。全員が乗り込むと、かなり狭いが……、シレーヌが、船のコンソールの前に立ち、なにやら操作すると、船は生き返った。
『海底都市…の崩壊を確認しました、各員、席に着いてください』
「間も無く、出発しますから、皆さんは席に着いて、シートベルトしてくださいね」言われるまま、席に着いて、椅子に付いてる。平べったい布の先に金属が、付いた物を、膝の外側にある。金属の穴に入れるとカチリ音がした。
『緊急発射5秒前……4、3、2、1……発射』
椅子に押し付けるような、負荷を全身に感じ。周囲の海中を映す映像は、凄まじいスピードで次々と変わる……、やがて……。
━━━ざっぷん。船が海上に浮き上がり。助かった。
「そうでしたか……貴方は、間違い無く黒の民ですわ」
ピアンザとシレーヌの声が聞こえてきた。
「気が付いたか、オーラル?」
心配そうな、ピアンザに、手を上げて答えた。
「何とかね」微笑を浮かべていた。辺りを見ると、目覚めたのはオーラルだけらしい。
「腹減った……、エバーソンの奢りで、食べ放題かな?」
囁くような呟きに、悪夢を見てる様子の、エバーソンの眉根が寄り。呻き声が漏れた。代わりにイブロの顔から、満面の笑みが浮かんでいた。それでも寝ていると言うから……。二人は対照的ではあるが、器用な真似をしていた。
「まあ~、クスクス」
シレーヌが声をたて笑う。まだ終わりではないだろうが、この時の達成感を、みんなが一生忘れない。そんな予感がした。
━━余談だが、泥のように寝ていて。皆は知らないが、
翌朝。街ではちょっとした、騒ぎになっていた。季節違いの豊漁で、小さな漁港は賑わう………。
古代の民の街が消え、魚を遠ざける。魔法が消えたからだとは誰も知らない━━。
10年後━━━。
━━聖アレイク王国…。庭園。
宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバは、ケレル殿下に呼ばれ、急ぎロイヤルガーデンに向かっていた。容姿こそ大人びているが、女性のような顔立ちは健在である。
先に来ていた、近衛連隊長セレスト・ブレア、
重騎士団長ギルバート・ガロン、
陸戦師団長カレイラ・バレス、
フロスト騎士団長ブラレール・ロワイ、アレイ教大司教エレーナ・シタイン。
そうそうたる重鎮の中に、
財務大臣カレン・ダレス=シルビアの姿もある。ダレス家は世襲制である。公務では、カレン・ダレス名を名乗っている。
久しぶりに会う妻の元気そうな顔に。小さく微笑むと。シルビアの冷たい容貌もふわりと和らいで見えた。
「久しいな。宮廷魔導師筆頭殿」
研究者として名を馳せるケイタは、あまり研究所から出ないので有名である。次席のエドナ・カルメンのように、学園に入り浸る。魔導師は珍しいと言えたが、
「お久しぶりです。ケレル殿下」
優雅に一礼するケイタは、研究者とは言え、アレイ学園の卒業生、それなりに体は鍛えているようで、細身だが無駄のない筋肉を付けていた。
ケイタ夫妻には、双子の子供が生まれたと聞くが、それぞれ魔法と財務に、片鱗を見せてると言う、「魔王について……旧友である。筆頭殿の意見が聞きたい」
カレイラ・バレスは現在、時期国王となるケレル殿下の懐刀であり、5人しかいない。『オールラウンダー』の称号を持つ稀有な人物である。鋭い眼差しをケイタに向けた。
きたか……、重い溜め息を吐いた…。
あれから10年……、
先輩で、兄のように慕う人物を思い出した……、まだ街にいる。そう聞いていた……。
そしてケイタは決断する。自分の国を滅ぼし国王になった、親友のことを…魔王ピアンザのことを。
エピローグ
━━━10年前。
アレイ学園。職員室。教頭バレンタイン次席から、報告書が上げられていた。筆頭エドナ・カルメン・オードリは、バレンタイン次席に、リリアからの報告書を見せ。顔を青ざめさせていた。手にした書類の認めて、頭を垂れていた。自分の無力さにエドナは唇を噛んでいた。
その書類には、こうあった。
『オーラル・ハウチューデンを退学処分とする』
と……。
元々同じ物語を。ショートと別々にしていたのを合わせます。