君の名を 弍
キャラが暴走しまくった…
「やっぱり!運命で結ばれてるんだぁぁっ!!」
そう声高に叫んで、ガッツポーズをしている想真に、目の前の二人の内一人は冷めた目、一人はコイツ頭おかしいんじゃないの?という目を向けていた。
想真は愛しい彼女を探すため、早朝から登校して校内を片っ端から探そうとしていたが、寮母から呼び出され共同生活とはなんたるかを懇々と諭され、始業チャイムが鳴る10分前にやっと解放された所だった。
今朝の捜索は諦めた想真が教室に着くと、そこには彼女が居た。
そうして冒頭に戻る。周囲には珍妙な者を見る目で見られているが、本人はいっこうに気にする様子はない。
「行こう、朱里。変態に構ったら変態になる」
そう言うと愛姫は朱里の袖を引いて席へ向かう。
その後ろに想真は慌てて付いてきた。
「待って!名前をっ」
追い縋り朱里の腕を取ろうとした想真の言葉と行動は、腹部あたりで起きた衝撃によって遮られた。
ビリビリと痛む腕には、小さな拳がめりこんでいる。
咄嗟に防いだ白く綺麗な拳は愛姫のもので、防いでいなければ見事に鳩尾にヒットしていたであろう。
「チッ」
盛大な舌打ちが愛姫の口から漏れる。
いつのまにか朱里と想真の間に割って入り、自分よりも背の高い相手の鳩尾を、全力で殴った彼女は、愛らしい顔で想真を睨みつけた。
「何、私のモノに触ろうとしてんのよ」
「モノじゃない」
想真の整った眉がピクリとつりあがる。
「は?誰が、お前のモノ?」
「モノじゃない」
約十五センチの身長差をものともせず、愛姫は見上げながら見下すという器用な芸当をこなす。
「頭だけじゃなく、耳も悪いの?私のっつってんのよ。下がれ駄犬」
「……」
「顔が可愛ければ何でも許されると思うなよ?彼女と俺は運命で結ばれてるんだ。」
「んなもん、アンタのナニと一緒にちょん切ってやるわよ。」
絶世の美男美女は火花を散らして互いを見つめ合う。
論争の原因となってる朱里は、最初こそモノ発言に抗議していたが、ため息を一つついて諦めた。
一触即発の二人を置いて、自分の席に着くと、肘をついて窓の外をボンヤリと眺めた。
「…何あれ?」
呆れ気味の声が降ってきて、顔を上げるとジャージ姿の月之宮誠-ツキノミヤマコト-が、朱里の前の席に腰を下ろすところだった。
「…誠、制服は?」
「制服嫌いだも〜ん。理事長には許可もらってるからいいの」
よくないだろう。それを許可する理事長も理事長だ。口には出さないが、心の中で突っ込んでおく。
「うわぁ〜美男美女が台なし」
頬を引き攣らせる誠の視線を追って、愛姫の方へ顔を向けると、確かにせっかくの美貌も掠れる程に、殺気立って互いを睨み合う二人がいた。
周囲でその様子を眺める生徒の何人かは、その様子を写メに納めている。
写真からはあの殺気は伝わらないのだろうか?だとしたら至近距離で睨み合う二人は、キス直前の恋人同士のように見えるのではないだろうか。
そんな事を考えてたら、胸がチクリと痛んだ。
「!」
「朱里?顔赤いよ?」
「な、んでもないっ」
思わず上擦った声に、更に頬を染めてしまい、頬杖をついたまま横を向き手で口元を隠した。
「……かっ」
喉が詰まったような、奇妙な声に視線だけ誠にやると、感極まったように両手で頬を覆い瞳をキラキラさせる誠がいた。
「?」
「かわいいっ!!」
「うわっ」
ガバリと頭を抱えこまれると、スリスリとほお擦りされる。
「そ〜んな、綺麗な顔で照れるなんて反則だよっ!あぁ〜転校生が王子様なんて噂に来てみたけど、やっぱりアカが一番だよ〜」
「ちょ誠っ!痛いっ放せっ!」
机越しに抱きしめられているせいで、お腹に机がガンガン当たって痛い。そう訴えると誠はニヤリと悪そうな顔をして笑った。
「照れた理由教えてくれたら放してあげる〜」
――言えるかっ!!
言える訳がない。ヤキモチを焼いてしまった事に照れた、など。
「「何してんだテメエッ!!」」
いつの間にやら側に来た愛姫と想真が、鬼の形相で誠を朱里が引きはがす。
「誠ぉ〜?」
「やだ、ヒメったら可愛いお顔が台なしっ」
「うっさい!変態っサッサと自分の巣に帰れっ」
「フフッ言われなくても帰るよ。じゃぁねアカっさっきの続きはあ・と・で」
「二度と来るなっ!!」
語尾にハートマークがついた言葉、朱里の頬が引き攣る。
誠のことだから、スグに忘れてくれるだろう。助かったと安堵の息を吐いたのもつかの間
「大丈夫かっ!?何もされてない!?」
目の前に迫った心配そうな想真の顔に、頭が真っ白になりそうになる。上昇する体温を根性で押さえ込み、心を無にして無感情な瞳を、想真に向ける。
「触んないで」
出来るかぎり冷気を纏わせ言葉を吐くと、ピシリと音が聞こえるくらいあからさまに想真が固まった。
「ほら、放れなさい変態」
フフンとどこか勝ち誇った愛姫が固まった想真を朱里から引きはがして、見せ付けるように朱里を後ろから抱きしめた。
「だいじょうぶ?」
さっきとは打って変わって柔らかい表情で心配そうに朱里の顔を覗きこむ愛姫に、ニコリと微笑みかける。
「大丈夫。ちょっと机がぶつかって痛かっただけだから」
その様子を、生徒達は食い入るように見つめた。
普段は見れない愛姫も目を離せない要因の一つだが、朱里も負けず劣らずの美形だ。
百七十センチと女性にしては高い身長に、切れ長の灰色の瞳にストレートの漆黒の髪。普段は無表情な事が多いが、愛姫や誠のように親しい者の前でだけ見せる表情は秀麗で、気のせいかどこか色気を孕んでいる。
どちらかと言えば、男寄りの美形のため、女生徒からのラブコールも絶えない。
想真が王子様だとするなら、朱里は姫を守る騎士のようだった。
男前な朱里と美少女の愛姫がくっついている姿は、それだけで青臭い教室の空気を、一気に薔薇が散る華やかな空間に変える。
「はいはーい。チビこそ放れろ」
そんな空気を一刀両断したのは、いつの間にか金縛りから解けた想真だった。
「邪魔すんな変態」
柔らかい空気が一転して、冷気が下りる。そんな愛姫をサラっと無視して想真は机に手をつき、彼女をまっすぐ見つめた。
「昨日は急にゴメン」
「……」
あまりに真剣な眼差しに、目を逸らす事が出来ない。
「でも、俺キミが好きなんだ」
「……っ」
覚えていなくてもいい。もう一度、最初から始めよう。そんな思いを込めて、朱里を見つめた。
澄んだ瞳に見つめられ、朱里の頬が赤く染まる。そんな朱里を愛おしく思い、想真は彼女の左手に自分の左手を重ねた。
赤い糸が重なり合い、二人の視界から周囲は消えた。まるで、この世に二人だけになったような感覚に、朱里は戦いた。
そんな朱里を安心させるように、想真が微笑んだ。
ゾワリと腹の底から何かがはい上がって来る。
歓喜か、恐怖か。
思わずしがみつくように、想真の手を握りしめた。
一方で、想真も灰色の瞳に捕われていた。重なった手にどこか怯えて見える彼女に、愛おしさが込み上がる。きっと、記憶になくても魂が覚えているんだろう。怯えなくてもいいよ。と、フワリと微笑む。
重ねた手が一瞬奮えたかと思うと、ギュッと握られた。
瞬間、想真の中で愛おしさが爆発した。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
愛姫の悲鳴が響き、二人きりの世界が崩壊した。
周囲のざわめきが流れ込む。朱里が、何をそんなに騒ぐのかと眉をひそめると、妙に視界に圧迫感があることに気づいた
先程までの込み上げて来る感情が冷め始め、戻ってきた感覚が目の前の想真を捕らえ、唇に触れる柔らかいものを認識した時、朱里の思考が完全に停止した。
「何してんのよっ!!痴漢っ!!変態っ!!」
ベリッと愛姫に引きはがされて、離れた唇が寂しい。名残惜しげに朱里を見ると、驚愕の表情で固まっていた。
赤くなっていないことにガッカリし、青くなっていないことにホッとした。
「見んなっ!!」
愛姫の怒り狂う様子に、猫が威嚇するを思い出した。
朱里の唇をやや乱暴に拭ってから、放心状態の彼女の肩を揺らす。
「朱里っ!朱里ぃっ!」
「……ショック療法でもういっか…」
「するかぁっ!!!」
作者「想真が勝手に暴走しやがりました」
想真「勝手にってなんだ、勝手にって」
作者「完全に勝手に、だよ!誰がキスしろなんて言った!」
想真「作者<イナミ>」
作者「呼び捨てにしてんじゃねぇっ!つか言ってねぇぇしっ!だから拳を握ってこっちを見ないで愛姫チャン!」
愛姫「作り手なら変態を抹消できるよね?」
作者「物語が終わっちゃうのでできません」
愛姫「役立たず」
作者「…てかさぁ、誠も予定では登場はまだ先だったのに勝手に出てきたんだよねぇ〜」
誠「出るタイミングは自分で決めるっつ〜の。型にはまるのは嫌いだよ」
作者「…ハッ!だから制服着てないのかっ!!」
朱里「…今気づいたの?」
愛姫「馬鹿じゃないの?」
誠「馬鹿っしょ」
想真「もっと朱里との絡みぷりぃず」
作者「一人関係ないっ!!つか、もっと作者に敬意をはらってよっ!!」
佐渡「なら、それ相応の態度をとれよ」