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緋の鬼―アケノオニ―  作者: 唯菜美
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君の名を 壱

銀色の髪が、頬を掠める。

灰色の瞳から、溢れた雫が降り注ぐ。


とめどなく涙を流す彼女に、「大丈夫」とは言えない。

もう、長くないのは分かってる。


伝えたい言葉は、千ほどあるのに。


泣かないで、愛しい人。


このまま迎える最期が、嫌で。


君との絆を手放したくなくて。


最期の力で、糸を結んだ。

俺の我が儘で君を縛りつけた。


怨まれてもいい。


憎んでもいい。


再び逢いたい。


『来世で、逢おう』


遠ざかる意識。


彼女の涙。



もう、何度目だろう?


幼い頃から繰り返される夢。


誓ったんだ。


次に逢ったら、放さないって。


今度は、俺が守るって。


『何アンタ?ジャマ』



「ジャマァァァァッ!?」


ガバッと起き上がったベッドの中、想真は荒い息を吐きながら暫し呆然としていた。

ジットリかいた汗が頬を伝い、手でソレを拭う。

「…夢か」

恋い焦がれた人に、赤い糸で結ばれた人に『邪魔』と言われる夢。思い出すだけで、悲しくなる。

「…って、夢じゃないっ!!」

昨日起きた出来事に悶絶し、ベッドに突っ伏した。

夕べからこのやり取りの繰り返しである。

昨日は彼女に逢ってからの想真の記憶は曖昧だった。

頭にゲンコツを食らった時と、とんでもない美少女に、親の敵を見るような目で睨まれた時は、流石に目が覚めたが、ソレも一瞬の事で、いくつか授業を受け、昼食を女子に囲まれて終え、学校が終わった後はあてがわれた寮の部屋に戻って、僅かな気力で部屋着に着替えてそのまま寝た…が目覚めては悶絶しながら寝て、また目覚めてはの繰り返しだった。

今は早朝の四時。

空は明るくなり始め、閉め忘れた窓から、山の澄んだ空気が流れ込んできた。

身体を風がなで、想真はブルッと体を震わせた。

初夏とはいえ、山奥の朝ははまだ多少冷える。汗でべたついた身体を震わせながら、風呂でも入るか。とのそのそ動き出した。


各部屋に装備されたシャワールームは、簡素なものでバスタブはない。風呂は寮の一角に温泉があるので、夜は皆ソコヘ向かう。教師陣も同じ風呂を使うため、正に裸の付き合いになる。

一緒に入りたくなかったり、すぐに身体を洗いたかったりする者は、部屋にあるシャワーを使う。

寮部屋は、基本的に二人一部屋なのだが、人数が割り切らなかったため転校生の想真は必然的に一人部屋となった。だが、他の生徒からの羨ましがる声は無い。

はみ出て一人部屋になった者は、一年間は一人を満喫出来るが、新入生が入ってきたら同じくはみ出た後輩との共同生活がついて来る。

新入生の側も、最初こそ先輩との同室だが、先輩が卒業すれば一人で部屋を使える。

なので、一人を謳歌する者をやっかむ声は皆無なのだ。

ちなみに想真は、特にこだわりはなく誰とでも上手くやれるだろうから〜と簡単にその条件を呑んだ。


いつもより熱めのシャワーを浴びて、少し冷静になった想真は昨日の事を、じっくり考えてみた。

幼い頃から見る夢。

夢はやがて記憶と繋がり、自分の前世だと確信を持てたのは十歳の時。それまでも、ぼんやりとは気づいていたが、子供の空想かと疑う時もあったから。

普通は見えない小指の運命の赤い糸。想真にはソレがしっかり見えた。糸はニメートル程先でぼやけて消えているけれど、この先には夢の彼女がいるのだと、見えない糸の先にずっと恋い焦がれ、想いを馳せていた。

ソレは前世の想真である神夜-カグヤ-が、文字通り最期の力を振り絞って結んだ呪。あの時の事を、想真はしっかりと覚えている。

前世で何があったか、自分は何で彼女は何か。

辛く、悲しい記憶だった。

でも、それは過去の事だ。

現世では、多少の問題はあれごくごく普通の生を得た。彼女も同様に、同じ時に生を得れた筈だ。

過去の悲劇は、繰り返さない。

今度こそ、幸せにっ…と思っていたのに、まさか彼女に前世の記憶が無いとは。

想真は重いため息を吐き出した。

チラリと小指を見る。赤い糸はキラキラと輝き、確かにある。そして昨日出会った時、いつもはぼやけて消える赤い糸が、ハッキリと彼女に繋がっていたのだ。


――やっと、二人で幸せになれると思ったのになぁ


ポスリと背後のベッドに倒れこみ、朝日で明るく染まる天井を見上げた。


――…また、出会った頃に逆戻り、か…


出会った頃というのは、前世の二人が出会った頃の事だ。銀色の髪の少女は、戸惑いながらも神夜の手を取ったのだ。

想真は左手を顔の前に持ってきて、じぃっと見つめた。赤い糸がユラユラと揺れる。

想真はフと眉を寄せた。

「ん?出会った頃?」

暫く考えた後、勢いよく身を起こす。そして左手をギュッと握りしめ、ハハッと笑みを零す。

「そうか…そうだよっ!出逢ったんだ!彼女にっ!」

何を落ち込む事があるのか、想真はちゃんと運命の人に出会ったのだ。記憶が無いのがなんだっ!何を落ち込む事がある?

そもそも、想真が命を賭けて呪を施したのは、その運命のまま結ばれるためではなかったのに、あまりの衝撃に単純な事を忘れていた。

想真は晴れ晴れした気持ちで立ち上がると、制服に手を伸ばした。

さっきまでとは打って変わって、学校が待ち遠しい。彼女に会ったら、昨日の事を詫びて改めて名乗ろう。

前世なんて、覚えてなくていいじゃないか。

それでもいい。

もう一度、彼女といられるならば。

そういえば、彼女は何クラスだろう、と考えて想真は気づいてしまった。

彼女のクラスどころか、名前すら知らない事に。


「し・しまったぁぁぁぁぁぁっ!!」



早朝五時。

悪夢のためとは言え、夜中に数度の絶叫に加え、今朝の叫び。

想真は教師だけでなく、寮母のブラックリストにも名を連ねることになる。


愛姫「ただの開き直りじゃねぇかぁぁっ!!」

佐渡「…すげぇプラス思考だなぁ、コイツ」

作者「まさか、こんな考え方するなんて思ってなかったわ〜」

想真「いやぁ〜照れるなぁ(笑)」


「「「褒めてねぇよっ」」」

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