運命の赤い糸 壱
爽やかな風が、開け放たれた窓から廊下を吹き抜ける中、神楽想真-カグラソウマ-は緊張に震える体を落ち着かせるため、大きく深呼吸をした。
――やっとだ。
長年の夢が叶う予感に、左手を胸の前で強く握りしめた。ジッと小指の付け根を見つめると、意を決して目の前のドアを開けようと手を伸ばす。
ガラリ、と想真の手が触れる前に扉が開いた。驚いて顔をあげると、目の前に一人の少女が立っていた。
漆黒のストレートの髪は腰あたりまであり、サラリと風に揺れる。白い肌に切れ長の灰色の瞳。
互いに驚いた表情で見つめ合う。
一瞬が永遠にも思えたその時、想真は魂が歓喜に震えるのを感じた。
頬が緩み思わず彼女に手をのばす。
「…やっと、逢えたっ」
震える声で呟き、彼女の手を取ろうとした。
―パンッ、と渇いた小さな音が異様に大きく聞こえた。実際には音もならない位に、軽くと払われただけなのに。
「…え?」
――払われた?
払われた手を思わずマジマジと見つめてしまう。
追い打ちをかけるように、澄んだ声が聞こえた。
「何、アナタ。いきなり人の手握ろうとしないでよ」
自分の手から視線を引きはがし、目の前の彼女を凝視する。
綺麗な顔は無感動で、むしろ整った眉をひそめて不信な視線を向けている。
「つか、邪魔」
グイッと肩を押され、一歩足を下げると彼女は長い髪をなびかせて、目の前を通り過ぎて行った。
「……え」
視線を彼女から剥がせず、彼女の後ろ姿を見つめ続けた。
少女の姿が角を曲がり消えても、体を動かすことが出来ず、脳みそをフル回転させて現状を確認する。
――『何、アンタ』?『ジャマ』?え、え、え…
ドアからヒョコリと男が顔を出す。廊下の先を見つめたまま固まる想真に声をかけた。
「何を職員室の前で固まってるんだ?お前、転校生の神夜想真だろ?サッサと入れ〜」
――『ジャマ』『ナニアンタ』え、つまり…………………覚えて、ない?
以前固まり続ける想真に顔をしかめ、男は少年の顔を覗き込んだ。
「お〜い、生きてるかぁ〜?…ん?」
男は想真が何かブツブツと呟いてるのに気づき、よく聞き取ろうと耳を口元に寄せた瞬間に、想真はハッと覚醒した。
「え"ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」
それはそれはよく通る声が、校内に響いた。
想真「…え、俺こんなキャラなの?」
作者「いや、私も予想外ですよ」
想真「は?」
作者「な〜んか、君思い通りに動いてくれないよね?」
想真「知るかっ!」