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緋の鬼―アケノオニ―  作者: 唯菜美
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銀の鬼 六

残酷な表現があります。


苦手な方はバックぷりぃずm(__)m

オ"ぉぉォぉぉぉっ!!


衝撃の邂逅を遮ったのは、身の毛もよだつような獣の咆哮だった。

巨体で周囲の壁を崩しながら、鬼が現れた。

鬼は鼻息も荒く、目玉をギョロギョロと動かして朱里を探していた。

鬼を見た想真は、驚愕に目を見開き、唖然とした様子で、言葉を零した。


「…鬼…」


まずい。と思う間もなく鬼の濁った黄色い瞳が想真を捕らえた。

醜い顔に驚きの表情を見せたと思うと、鬼はじわじわと口元を綻ばせにんまりと笑った。


『これハ、コレは!!我ハ運が良イ!!マだ穢れヲ知らヌ"神子"に、出会エるトハ!!』


不愉快な声を響かせ、臭い口臭を振り撒きながら喋る。いやに長い舌で唇を嘗め、瞳をらんらんと輝かせ想真に手を伸ばす。



『此-コレ-ヲ、喰ろウテやれバ、我は"神"ニ――っ!?』



気づけば、鬼の腕に刀を突き刺していた。

鬼の言葉に、頭が真っ白になった。

痛みなど忘却の彼方に消え、感じるのは身を焦がすほどの怒り。



――また、奪うのか?…また、繰り返すのか?……そんなこと…



「…させると、思う?」



睨みつけると、鬼が僅かに身じろぎ、それに合わせて刀に力を込めて振り切った。



―ぐォぉォォぉっ!!



千切れた腕が、血を撒き散らして宙を舞い、ゴトリと転がった。

傷口を押さえた指の隙間から、血が吹き出ている。


『オノレ!おノレ!ヲのレェ!小娘ッ!!異ナる鬼メっ!!』


大地に赤い水溜まりができ、辺りがまさに血の海と化しはじめた。

鬼は呻きながら、唇をめくりあげ痛みと怒りに、瞳を吊り上げて、朱里を睨みつける。

その視線を受け流して、朱里は想真をチラリと見下ろした。相変わらず、瞳を見開いたまま呆然と朱里を見つめているが、怪我をしている様子はない。

朱里は目を細めて、鬼を睨み返した。


「―今度こそ、守るっ」


鬼の傷は早くも血が止まり、傷口は肉が閉じかけている。鬼は完全に頭に血が昇ったのか、血走った目は朱里だけを見ていて、想真の存在を忘れているようだ。

都合よく、このまま忘れていてくれればいいのだが、きっとそうはいかない。

やがて思いだし、力を求めて想真を狙うだろう。

今回の任務は、"討伐"ではなく"封印"。

封印された鬼は式として使役される。つまり、死なずにある空間に封印される。

その空間には、他にも封印された鬼がいる。鬼達の間に想真の存在を知らせる訳にはいかない。


朱里は無線に向かい、小さく呟いた。


「作戦変更…この鬼は、殺す」


それだけ言うと、イヤホンを耳から乱暴に取り外して捨てた。

イヤホンから愛姫の声が聞こえていたが、今の朱里にはその声は届かない。


朱里は鬼に向かって、刀を構えて地を蹴った。

宙を舞った朱里は、鬼に向かい刀を振り下ろす。鬼が無事な手を振り上げ、それを防いだ。


――ギィィ…ィン


武器同士がぶつかり、火花が散る。

刃を滑らし身を捻り、腕に力を込め飛び跳ね、更に高く舞い上がる。


「止めてっ!!」


聞き慣れた声に、僅かに視線を逸らすと、そこには息を切らした愛姫が、心配を通り越して、苦痛の表情を浮かべている。


「作戦は、陣に追い込むだけよっ!!倒すなんて、無茶よっ!!」


無茶なのは、知っている。

でも、引けない。

視線を鬼に戻すと、朱里を追って腕を伸ばしている。

片手が無い分、その動きはぎこちなく、遅い。


刀で爪を弾き、手首を返して刀を切り返す。切れた皮膚から血が吹き出し、朱里の身にふりかかる。

「クソッ」と、愛らしい声が悪態をついている。


――…ダメだよ。そんな汚い言葉を使っちゃ。



妙に冷静な頭でそんな事を思いながら、鬼の頭まで体を舞い上がらせる。

目の前に鬼の醜い顔がある、鬼からしてみれば自分の指の長さ程しかない小さな人間が梯子も何もなく、自分の力だけでここまで昇ってきたことに、驚きを隠せないようだった。

驚愕に見開く黄色い瞳に向かって、朱里は微笑んでみせた。

そうして、振り上げた刀をその目に力いっぱい突き刺した。


――ぐオォォォぉぉっ!


鬼が苦悶の声をあげる。素早く刀を引き抜き、鬼の顔を蹴ってフワリと宙を舞い、地に降り立つ。

着地の衝撃で足にピリッと痛みが走る。顔をあげると、愛姫と想真がコチラを見ている。

すぐに鬼に視線を戻し、再び刀を構えようてするが、一瞬目を離したのがいけなかった。


鬼は痛みに悶えながらも、縋るように手を想真に伸ばしていた。

防ごうとしたが、刀を振るうには疲弊しすぎていた。

朱里の体は既に限界を超えている。


刀は間に合わない。ならば、と想真と鬼の間に身を滑り込ませる。


脇腹に鋭い痛みが走り、足元にポタポタと赤い雫が落ちた。


「朱里ぃぃぃっ!!」


愛姫の悲鳴が響いた。

鬼の爪が脇腹に突き刺さっている。両手で手を掴み、深く刺さるのを防いではいるが、それでも肉に食い込むソレに、思わず声を漏らしそうになるのを唇を噛んで堪える。


『ナンと!ナンとナントなんとっ!!自ら飛ビこんデきヲッた!!』


鬼が愉快そうに体を揺らして笑う。傷口に刺さった爪が振動で揺れ、痛みに堪えきれなかった声が漏れる。


「く…っ」


――…ダンッ


と鋭い音がして、鬼の体が弾けるように離れた。

爪が離れた傷口から血が溢れる。それを抑えて、音のした方に目をやると、愛姫が銃を構えていた。


「――朱里に、触るなっ」

「……愛、姫」


愛姫は洗い息を吐きながら、鬼に銃口を向けている。歯の間から絞り出したような、怒りを孕んだ言葉に、鬼が首を傾げている。


『―…タかガ、銃デ我に、傷を?』


不思議そうに右手に残る銃痕を眺めている鬼に、思わず口元が緩む。それは愛姫も同様で、瞳には剣呑な光りを宿しながらも、ニヤリと笑った。


「たかが銃だと思うなよ?」


鬼の右手に残った弾が、急に動きを再開した。固い皮膚に食い込み、鬼が痛みにのけ呻いた。



――ぐぁァァぁぁっ!?



愛姫は人差し指と中指を揃え、口元に当てると、追い撃ちをかけるように呟いた。


「滅っ!」

弾に刷り込まれた文字がほんのり光り、爆ぜた。

己の体内で起きた事を理解できず、鬼は衝撃に悲鳴をあげ体をのけ反らせる。

朱里は体勢の崩れた鬼の体に、渾身の一撃をおみまいした。

見事に体の中心に当たった拳には、白く長い呪符が包帯のように巻き付けられていて、通常よりも強烈な一撃に鬼の巨大な体は後方へ吹き飛んだ。


「朱里っ!?」


本来なら動くことなど出来ないだろう体で、攻撃を今までよりも強い攻撃を繰り出した朱里に、驚きの声をあげた愛姫が駆け寄ろうとするが、朱里はそれを止めた。

愛姫には、やってもらいたい事がある。

何かを悟ったように穏やかな笑みを浮かべる朱里に、愛姫が泣きそうに顔を歪ませる。

何も言わなくても、愛姫にはわかっているのだ。

朱里は最後に想真を見ると、決意を新たに鬼が消えた場所へと駆け出した。

陰で薄暗い建物の間の先は、毒々しい赤に満ちていて、この赤は夕日で染まったのか、それとも自分が染めているのか、などと自嘲めいた事を考えながら、朱里は再び手にした刀を強く握りしめた。



作者「早く続きが書きたいのに、中々進みません。何度この場面を書けばいいんだ…」

愛姫「あんたのせいだろうがっ!!」

作者「次は愛姫視点の一話をしたら、やっと話が進みます」

愛姫「まだやんのかっ!!」

朱里「…あたし、いつまで血まみれでいればいいのよ…」

想真「俺、ず〜っと役立たずのままですが…」

作者「想真、ヒーローなのにねぇ(笑)」

想真「笑えないんですけどっ!?」

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