銀の鬼 弍
残酷な表現があります。
血がドバドバ出てます。
苦手な方は、バックぷりぃず。
やっと戦闘シーンを書けましたっ!
あと、ストック切れたので、これからはスローペースになると思いますm(._.)m
一週間以上は空けないようにしますので、何卒お付き合い下さいませ。
路地裏に入った瞬間、何か身体中に絡み付いた気がした。だがその感覚も一瞬で消える。というより想真は、そんな事にも気にとめない程必死だった。
夢中で声のする方へと駆け抜ける。夜でもないのに闇に包まれた狭い空間が、焦燥感を募らせる。
路地裏を抜けた先には、少しだけ開けた空間があった。右側に更に開けた場に通じる道がある。
荒い息に肩を揺らして、ソチラに顔を向けようとした瞬間。何か大きなモノが視界を真横に通り過ぎ、壁に激突した。
石造りの壁が崩れる程の衝撃と同時に、雷鳴のような破壊音が響く。
崩壊した壁から立ち上がる粉っぽい煙に、視界を奪われその場に唖然と立ち尽くす想真の不明瞭な視覚が、壁に激突した何かを捕らえる。
パラパラと元は壁だった欠片を落としながら立ち上がったナニカは、鈍く光る銀色の髪をしていた。
「………!?」
「…大丈夫…このまま桔界に追い込むよ」
「………!」
ラジオのノイズのような耳障りな音の後、聞こえた声に想真の心臓がドクリドクリと騒ぎだす。
風が吹いて、曇っていた視界を鮮明に映し出す。ガラガラと地面に転がる残骸を避けながら、現れた彼女は、左手で脇腹を押さえ、右手には血濡れた刀を持っている。
痛むのか、足取りが乱れ体が傾いだ。
呆然としながらも支えようとして踏み出した足が壁の残骸に当たり、コツン。とその場にそぐわぬ小さな異音を立てた。俯いていた彼女が、勢いよく顔を上げる。
絡まった視線に、彼女の瞳が大きく見開いた。
首まで覆うノースリーブの上に、タイトなパンツ。手には上腕あたりまでの長い手袋をつけている。
色は黒。
全身黒で染められた服装は彼女を闇に溶かしこんでいると同時に、目立たせてもいる。
いつも見る彼女の黒い髪は、黒すら霞む美しい銀色。
ソレと呼応するように、彼女の瞳も、月を溶かしたような輝く銀。
見開かれた瞳の月は、潤んで揺れ、水面を連想させた。
「ど……して……」
彼女の唇が奮え、何がを呟いた。
オ"ぉぉォぉぉぉっ!!
どのくらい経ったのか、想真には永遠にも、一瞬にも感じられた。突然、鋭い咆哮が響き、巨大な何がが現れた。
三メートルはある巨体は、人間のソレではなく、千切れた布を身体にぶら下げている。
肌は赤黒く、醜悪な顔は歪み、額にいびつな角が生えている。獣じみた呼吸音と、陰の中で黄色く輝いている瞳が、何かを探してさ迷う。分厚い唇から収まりきらない牙が、更に顔を歪ませていた。
近くにそびえ立つ、異形の存在に、想真の喉が引き攣る。
恐怖よりも衝撃が勝り、頭が真っ白になる。
「…鬼…」
その声に、さ迷っていた黄色い濁った瞳が、想真を捕らえる。
一瞬、歪んだ顔に驚きのような表情を見せた後、化け物は口をニタリと歪ませ笑った。
『これハ、こレはコレは!!我ハ運が良イ!!マだ穢れヲ知らヌ"神子"に、出会エるトハ!!』
唾を飛ばしながら、喋るその声に、腹の底から不快感がせりあがる。
化け物が大口を開けると、上下の牙の間を、ぬるりとした唾液が縦に伸びた。
化け物が想真に向かって、巨大な手を伸ばす。
『此-コレ-ヲ、喰ろウテやれバ、我は"神"ニ――っ!?』
言葉の途中で、化け物の手が衝撃に揺れた。
「…させると、思うか?」
険呑な色を瞳に宿らせ、いつの間にか想真と化け物の間に立った彼女が、怒りもあらわに呟く。
彼女に握られた刀の先が、想真に伸ばされた丸太のように巨大な腕に深々と突き刺さっていた。
―ぐォぉォォぉっ!!
獣の咆哮と共に、刀が振り抜かれ、深紅の血が辺りに飛び散った。
ゴトリ。と血と共に、巨大な何かが想真の側に落ちる。
恐る恐るソチラに目をやると、ついさっきまで化け物に付いていた左腕が、切り口から血を滴らせて転がっていた。
『オノレ!おノレ!ヲのレェ!小娘ッ!!異ナる鬼メっ!!』
右手で傷口を押さえるも、隙間から吹き出す血に、周囲が空と同様の赤に染まる。
呻きながら悶える化け物は、怒りに満ちた瞳を彼女に向ける。
彼女はチラリと想真を見ると、再び化け物へと視線を戻す。
「―今度こそ、守るっ」
そう言うと、地を蹴って化け物に向かって駆け出した。煌めく刀と化け物の爪が交わる。
想真は、ただ呆然とソレを見つめていた。
――何が、どうなってるんだ。…何故、なぜ……
「止めてっ!!」
思考は、聞き慣れた声に遮られた。
ゆっくりと声のした方を見ると、息を切らした少女がいた。
栗色の柔らかい髪を一つにまとめ、彼女と同じく黒一色の服装をしている。違いと言えば、彼女はパンツで少女はスカート。そして彼女の身軽な格好に対し、腰に腕に小物を入れるポーチがついている。
大きな瞳を更に見開き、化け物と刃を交わす彼女を見る。
「作戦は、陣に追い込むだけよっ!!倒すなんて、無茶よっ!!」
そんな少女の声は聞こえていないのか、彼女は化け物の爪を器用に躱しながら刀を振るう。
「クソッ」少女が悪態をついて周囲を見渡し、その瞳に想真を映した。
驚愕に目を見開き、震える唇を開いた。
「…っ、な、んで、アンタがっ、アンタがココにいるのよっ!!」
喋りながら、少女はすべて理解した。呟くようだった声は、徐々に大きくなり、最後の方は怒鳴り声に近かった。
呆然とした視線を返す想真に苛立ち、可愛らしい顔を歪める。
――ぐオォォォぉぉっ!
獣の咆哮に、二人は彼女へと視線を戻した。
戦況は、彼女の方が有利らしく、化け物は片目を押さえ悶えていた。
肩で息をし疲弊してはいるものの、大きな傷の無い彼女に、二人は安堵の息を漏らした。
ほんの一瞬の出来事だった。
化け物の瞳が煌めき、一瞬だけ気の抜いた想真を見逃さずに、腕を伸ばした。
彼女も気を抜いた訳ではなかったが、疲れた体が反応を遅らせ、化け物の腕を弾くことが出来なかった。
目の前に迫る巨大な手を、見つめ返すことしか出来ない想真の前に、何かが滑り込んできた。
見えたのは、銀の髪。
踏ん張る彼女の足元に、赤い赤い液体が、落ちる。
「朱里ぃぃぃっ!!」




