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短編集

一つ目の鬼

作者: 把 多摩子

 雪に閉ざされた山奥に、一つ目の鬼の家族が住んでいました。

 両親の間に授かった子供は、四人。

 大きくて光り輝く黄色の一つ目に、青い皮膚、真っ赤な一本角がはえている鬼です。

 春から秋にかけては山をめぐり、冬に備えて食料を蓄えます。

 その中で子供達は、元気に育っていました。

 

 けれどもその年、山の食料を集める事が出来ませんでした。

 子供達が大きくなり、食料調達を見誤ったこともあったのですが、何より魚も木の実も例年より減少していたのです。

 洞窟の奥深くで、一家で丸くなって震えていました。 

 寒くて、お腹が空いて。

 両親は懸命に洞窟から出て、雪の中食料を探しました。

 木の皮を剥いで、虫を見つけては子供に食べさせました。

 湖や川には分厚い氷が張っており、魚を獲る事が出来ませんでした。

 何より凍て付く冷たさで、氷を割ったとしても数分ともたないでしょう。

 雪を必死にかきわけて、地面を懸命に掘って冬眠していたネズミを見つけて子供に食べさせました。

 多少、腹持ちが良くなった子供達は、嬉しそうに両親にお礼を言うと眠りにつきました。


「あぁどうしよう、春はまだなのに」

「ねぇ、あなた。人間を探してみましょう。危険は、伴いますが……」


 両親は、頭を捻って思案しましたが、それしか方法が見つからなかったので眠っている子供達をそのままに、そっと洞窟から出て行きました。


 やがて、鬼の子が目を醒ましました。

 洞窟の中に、冷たい空気が流れ込んでいました。

 普段は、両親が入口から入る空気を遮るように座り込んで微笑んでくれています。

 すぐに、二人がいないことに気がつきました。

 また、ご飯を取りに行ったのだろうと、丸くなって再び眠りにつきます。


 けれども、やはり次に起きても両親がいません。

 次々に起きた子供達は不安になり、子供だけで洞窟から出てみました。

 眠っている間に雪が降り積もり、両親の足跡はすっかり消えています。

 子供達は四人で手を繋ぎ、両親を捜し始めました。

 深い雪に埋もれながら、時折どこかで雪崩が起きる音を聞きながら、震えながら進みます。

 洞窟に戻って待とう、と二番目の鬼が泣き出しました。

 けれども、一番上の鬼の子は、末の子を背負って励ましながら先に進みます。

 

 やがて、煙が立ち昇っているのを見ました。

 鬼の子は、火など知りません。

 初めて見る煙に首を傾げてその方向に進むと、切り立った崖の下に村がありました。

 勿論、初めて見る人間の村でした。

「あぁ、おとーさん、おかーさん!」

 子供らは観ました、村の隅に小さな檻がありました。

 その中に両親が閉じ込められていたのです、遠くからでも綺麗な青の皮膚は一目で解ります。 

 子供らは、切り立った崖からころころと一斉に転がりました。


 その頃村の中央にある集会場では、捕まえた鬼について討論が行われていました。

「おっそろしい魔物だぎゃ! 早いとこ、殺してしまうべさ」

「んだんだ! 災いをもたらす前に急ぐべ」

「いやいや、物珍しいだ。町に行って売り払ってみたらどじゃろか?」

「んだんだ! 高く売れればその金で農具も牛も豚も買えるべさ」

 殺すべきか、売るべきか。

 そんな中で村長は、重たい腰を上げて先祖の書庫から何かを探しています。


 討論してもキリがありません、村人達は火縄銃を担いで鬼の檻へと向かいました。

 鬼の両親は、肩と足に傷を負っていました。

 村を見つけて駆け寄ってみたらば、火縄銃で打たれたのでした。

 初めての爆発するような熱さと痛みで動けなかったところを、捕獲されてしまったのです。

 鬼といえども、大きさは人間の大人と変わりません。

 ただ、容姿だけが違っていました。

 鬼の両親は涙を流しながら訴えていました、子供を置いてきたのでどうかここから出して下さいと必死に訴え続けていました。

 けれども、鬼の声は人間には届かなかったのです。

 理解が出来なかったのです。

 村人達の目の前に、檻に群がる鬼の子が飛び込んできました。


「あぁ、お前達どうしてここに!」

「おとーさん、おかーさん、何してるの? 早く帰ろうよ」

 最悪の事態でした。

 子供達は檻をなんとかしようと、懸命に揺さ振りますがびくともしません。

 人間達が周囲を取り囲み、銃を構えていました。

「あぁ、どうか、子供だけはお助けください!」

 両親の叫び声は、まるで山奥に吹く風のようでした。


「あなた、だぁれ?」

 その時でした。

 人間の少女が、鬼の子に近寄っていたのです。

 まだ、ようやく歩くことが出切る様になった子です。

 母親が悲鳴を上げて、少女を抱き抱えようとしました。

「きみは、なぁに?」

 人間の声は、鬼にも解りませんでした。

 けれども、聞いたことが無い澄んだ音が聴こえて鬼の子は首を傾げて少女を見ます。

 丁度、背丈も同じくらいでした。

 その少女には、兄弟がいましたが、どの子も鬼の子と同じくらいの背丈でした。

 

 少女の母親は、おそるおそる鬼の子と、捕らえていた鬼を見比べました。

 自分が子を護ろうとしたように、鬼も護ろうとしているのではないか……。

 そう、思えてきました。

 見れば、火縄銃の傷跡は真冬とはいえ化膿しています。

 大きな黄色い一つの目に涙を浮かべて、必死に何かを訴えている姿に、少女の母親は皆に銃を下ろすようにと伝えました。

 けれども、やはり村人は怖くて銃を下ろせません。


「皆、待てぃ!」

 ようやく、村長が年老いた身体で懸命に杖を着いてやってきます。

 片手に、何かを携えていました。

 それは、先祖が書き残した手記でした。

 村長は咳を一つすると、読み聞かせます。


 昔、この村には人間と鬼が共に暮らしていました。

 鬼は人間の何倍もの力があったので、簡単に木を切り倒してくれました。

 そのおかげで、村の土地を切り開き切り倒した木で家屋を造ることが出来ました。

 畑を耕し、近くの川から水を引くように水路を作り、また生簀も作ってくれました。

 人間は手先が器用だったので、野菜を育て収穫し、鬼と一緒に有難くそれを頂きました。

 あるとき、猟師が迷い込んできました。

 猟師は迷子になり、ようやくこの村に飛び込んだのですが、一つ目の鬼を見て悲鳴を上げると持っていた銃で鬼達を撃ち始めたのです。

 村人が止めるのも聞かず、鬼達は次々に撃たれて行きました。

 ようやく猟師から銃を取り上げましたが、ほとんどの鬼が死んでしまったのです。

 村人は、嘆き哀しみ鬼を丁重に葬ると残った鬼に告げました。

 

『この、猟師を殺したい。けれども、怒りに身を任せてもいけない。この猟師を帰すが、万が一この村の話を町でされては鬼達が危ない。だから、人間が辿り着けない深い深い山奥に非難してください』


 鬼達は、それが良策だと人間達と別れを嘆きながらも去っていきました。

 以後、鬼と人間は関わらず、それぞれ生活が始まったのです。


 村長はそこまで読み終えると、自ら檻を破壊し始めました。

 思えば両親の鬼は何もしていませんでした、両腕を広げたので攻撃されるかと思い、発砲しましたが今にしてみれば助けを求めていたのでしょう。

 鬼は、人間の話を親から聞いていました。


『困ったことがあったら山を下って人間に助けを求めなさい。あの村の人間は皆良い人よ』


 食料を、分けて欲しかっただけでした。

 集会場に鬼を招待しました、ありったけの薬草で傷を治療しました。

 子供らには、昔鬼が造った生簀で飼っていた鯉と稗を味噌で煮込んだ鍋を振舞いました。

 味噌を作るもとの大豆も、もとは昔鬼が切り開いた畑で採れたものです。

 人間達は、鬼に一斉に謝罪しました。

 鬼達は、釣られて謝罪しました。

 言葉は通じませんでしたが、顔には笑みが浮かんでいました。


 やがて、その村は大きくなりました。

 それは、その鬼達がお礼にと懸命に土地を耕してくれたので、豊かになったからです。

 暫くして鬼と人間は昔の様に会話が出来るようになっていました。


「鬼さん、今日もありがとう」

「人間さん、明日もよろしくね」

一度PCがフリーズして消えたので、書き直したら短くなりました・・・。


書き直したいです。

※期日過ぎたので慌てて投稿してみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても読みやすい文章でした。 すらすらと拝読出来ました。 童話らしい童話だと思います。 皆が仲良く出来たら、素敵ですよね。
[一言] 初めまして、アンドロマリウスと申します! ただ純粋に感動させられました。 やはり今の見た目で判断している日本を風刺しているような作品でしたね。 実に興味深いですね。 気に入ったので、…
2014/04/03 23:25 退会済み
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[一言] 見た目とか先入観で物事を判断することって多いですよね…… 特に日本人というのはそういうのが強いのかもしれません。 イジメというものの根幹の一つとして、そういうものも存在してると思います。(も…
2013/04/24 17:56 退会済み
管理
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