逃避
ーあらすじー
最悪のケースを想定し、卑弥呼に身を隠してほしいと告げるケイジ。
彼女はケイジのことを信頼し、身を任せるのであった。
夜が更けてからそれは起こった。
俺は卑弥呼の部屋に待機していた。
物見櫓に配置した卑弥呼の埴輪が、遠くから松明の火がいくつも近づいてくるのを見つける。
「ケイジ、本当に来たみたい。数は、10や20どころじゃない。交渉の返事にしてはあまりにも数が多いわ。」
目を瞑り集中している彼女の額には焦りからか、鬼道による体力消耗か、汗が滲んでいるのが分かる。
「やはり『侵略』か……。」
自身の交渉が失敗してたことに、少々落胆するが、今はそれどころではない。
「それじゃあ、手筈通りに動くぞ。」
卑弥呼はコクリと頷くと、緊張からか大きく深呼吸するのであった。
☆
私は、あの名もなき集落へと部隊を引き連れ、向かっていた。
あの大和とかいう小僧め。
何とも腹立たしい。
その場で斬り殺してしまいたかったが、我々の目的を果たす為にはあいつには生きていてもらわねばならない。
卑弥呼が必要でさえなければ……どうだったかは分からんが。
私は村人たちに気づかれぬように松明を掲げて部隊の行軍を制止する。
以前から付近で確認していたことで、交代の凡その時間は掴んでいる。
その機に乗じ、村人達を捕らえ労働力に出来れば、我が『威国』はより豊かなクニを目指すことが出来る。
それを考えれば自然と笑みがこぼれるというもの。
「隊長……そろそろ。」
部下が短く、私を促す。
松明の火を前へと向け、中への進入を促そうとすると、村の中から足音が聞こえてくる。
随分と急いでいるようで、その足音の間隔はひどく狭い。
徐々にその影の正体が松明に照らされて露わになる。
そこに居たのはボロを身にまとった、薄汚い少女であった。
「止まれ。このような時間に一体どこに行くと言うのか。」
少女は私の声にビクッと肩を震わせている。
「行くあてなんて……ありません。もううんざりなんです、こんな村。」
意外な言葉に少し興味が湧いてくる。
卑弥呼の求心力でも、惹きつけられぬものがいるものなのか。
「一体、何があったというのだ?」
「卑弥呼様は素晴らしいお方です。ですが、皆それに頼りすぎてるんです!自分の手で物事を進める『威国』のやり方の方が私にはあってる!昼間の内に出ていこうとしたんですけど……物見櫓の人に停められてしまって。」
我が国に迎合しようという腹か。
であれば、何も拒む必要はない。
こんな少女でも、服を作ったり、飯の用意くらいは出来るだろう。
「それは立派な心がけだ。夜も更けている。私の部下と共にここで待機してるといい。我々は『威国』の人間だからな。」
仮にこんな少女1人、間者のような真似をしたとしても出来ることなど限られている。
完全に信用する訳ではないが快く受け入れてやることとする。
私の提案に思っても居なかったのだろう、少女は心底驚いたような顔をした。
「それはとっても助かります!……ところで、こんな時間に『威国』の皆さんは何を……?」
それは当然の疑問だろう。
彼女が不安にならぬように、私は少しだけ作戦を教えてやることにする。
「目的は、卑弥呼と大和を捕らえること。村人達も出来るだけ捕らえるつもりだが、なに取って食おうというわけではないのだ。こちらのクニで働いてほしいと考えてるだけなのだよ。」
すると少女の顔に笑顔が灯る。
「それは『威国』で皆で暮らせるということでしょうか!?なんと素晴らしいことでしょうか!」
彼女の反応に思わず笑いが出てしまう。
この村にも我がクニを適切に評価できるものがいるとは。
「そうだろう?分かるなら卑弥呼の居室を教えてくれると助かるのだがな。無駄な争いはこちらも好まんのだ。」
何度も訪れてはいるが、いつも直ぐに寄合所に詰められてしまって卑弥呼の居場所は掴めなかった。
内情を知るものが居るなら話はずっと簡単になる。
「分かりました!ご案内しますね!」
私の提案を疑う様子はない。
よほどこの村のやり方が気に食わないのであろうことが伺えた。
松明の火を消すと彼女について、村の中央へと進んでいく。
程なくして、1つの建屋が見えてくると、2つの人影が建屋から出て行くのが見える。
「チッ!勘付かれたか!お前ら!村人達は後でどうとでもなる!全員、卑弥呼と大和を追うぞ!」
私の声に気づいたのか、大和と思しき声が闇の中に響いた。
「卑弥呼様!走ってください!」
2人は私たちとは反対方向へと走っていく。
ええい、手間をかけさせやがって!
私達は二人の背を追い続け、夜の森へと入っていくのであった。
次回投稿予定 3/26 19時〜 (予約済)
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