決意
ーあらすじー
『威国』の男との交渉を上手く進めることが出来たケイジ。
しかし、やり方に問題があったのではと指摘されてしまう。
俺が卑弥呼のいる建屋に入ろうとした途端、前と同じように風が吹き声が聞こえる。
『姉さんを……助けて』
今回は、以前よりもハッキリと聞こえた。
これは……大和の声だ。
何度も人と話していて嫌というほど聞いているから間違いない。
しかし、助けて……とは、どういうことだろうか?
疑問は尽きないが、扉に手をかける。
キィ……と小さく軋む音を立てて開くと、彼女は机に向かい何か作業しているように見えた。
集中しているのか俺が入ってきたことには全く気づいていない様子だ。
後ろからそっと覗いてみると、なにやらどんぐりに傷をつけて器用に顔を描いているようだった。
「おぉ、上手いもんだなぁ。」
俺が声をかけると彼女の肩がビクッと跳ね上がるのがわかった。
「やまっ――じゃなくてっ、ケイジ!いつから居たのっ!?」
「今さっき。それ、顔だよな。呪術的な意味合いがあるって聞いたことあるけど。」
「えっ!?いや……あ、あぁっ、そうそう!鬼道で使うのよねー!」
明らかに動揺している。
もしかしてただの趣味だったりするのか?
まぁ聞かれたくないようだし、ここまでにして報告に移る。
「とりあえず、なんとか丸く収まりそうだ。最初は随分と高圧的でこちらをバカにする態度だったが、丁寧に話したら一度持ち帰って考えるそうだ。」
相手のプライドを折ってしまった可能性についてはわざわざ言う必要もない。
卑弥呼を無駄に不安にさせてしまうかもしれないからな。
「ほら!やっぱり上手くいったじゃない!」
得意げな顔でそう言うと、鼻がどんどんと上を向く。
「……鼻高々をここまで文字通り実行するやつは初めて見たよ。で、『威国』ってここからどれくらい離れてるんだ?」
「正確には分からないけど、そんなに遠くはないはずよ。最初は毎回水路で船を使って来てたみたいだけど、ここ最近はしょっちゅう交渉に来てるから、多分、近くに遠征場所でも作ってるんじゃないかしら。」
卑弥呼は腕組みしながら視線を宙に飛ばすと、直近の記憶を手繰り寄せているようだった。
「それなら、近いうちに動きがあるかもしれないな。」
顎に手を当てながら、今後の動きを思案する。
向こうが取ってくる可能性は『侵略』か『協力』。
――もしも、俺のしたことには何の意味もなく、歴史通りに事が進むなら。
先程の大和の声が脳裏を掠める。
……向こうが選ぶのは、侵略の可能性も捨てきれない。
協力では、母体がこちらになってしまう可能性がある。
向こうの豪族はそれを避けたいはずだ。
「……卑弥呼。今から、俺の言うことに従ってくれるか。」
「まぁ、ケイジの言うことなら聞いてもいいよ。」
彼女は二つ返事で了承してくれた。
まだ内容も聞いてないというのに。
「俺がお前を騙してるとか、何か悪いことを企んでるとか考えないのか?」
もしも俺がこんな事を言われたらまず何かを企んでいることを考えてしまう。
人の裏を勘ぐるのは悪い癖だと思いつつも、それが功を奏してきたことも多い。
「だって、ケイジに従う方がずっと楽しいって私の直感が言ってるんだもん。それに、私を騙してケイジに何の得があるの?」
「――ッ。」
俺の方を見て心底わからないと言った風に目をパチパチとさせる卑弥呼の様子に俺は思わず笑いがこぼれる。
直感なんて不確かなもので俺を信用してるのか、この子は。
俺の正体を悟ったきっかけも直感だった。
彼女に見えている世界は恐らく俺とは全く違うんだろう。
その事実を改めて認識する。
「じゃ、単刀直入に言うぞ。最悪のケースを想定して身を隠してほしい。」
「さいあくのけぇす?」
不思議そうに聞き返す彼女の様子に、言葉選びを誤ったと思い、詳細も合わせて説明しなおす。
「そうだ。つまり『威国』が『襲撃』を選んだ場合、一番最悪なのは、卑弥呼が連れ去られてしまうことだ。俺の予想では、恐らく『威国』は今後もどんどんと大きくなっていく、その最重要人物として卑弥呼を欲しがってる可能性があるんだ。」
俺の言葉に、真剣に耳を傾けてくれる彼女。
その様子は才女と呼ぶにふさわしい雰囲気を纏っていた。
「……指導者としての飾りの王様を欲しがっている?」
流石にこの時代に最大のクニを動かしたと言われる人物だけあって頭の回転が速いのか、直感も恐らくこの頭の良さから無意識的に様々な情報を集めてしまうところに由来するのだろう。
「その通り。そして飾りの王様は、不要になれば、処分される。それが卑弥呼、俺の知る歴史上の貴方の最期だ。」
「……私の、最期。」
彼女はもう少しショックを受けるかもと思ったが、俺の言葉を一つ一つしっかりと確かめるように熟考しているように見える。
「だけど、俺は、そんな最期にしたくない。」
俺がその言葉を口にした途端、脳内のザラザラとした感触が蘇る。
でも、今度は少し違った。
その感触の先にあったのは、あの回廊のような場所で見た『断絶』という名の絵。
孤立無援のような最期を迎えることへの暗示のようにも見える。
「――イジ!ケイジ!」
卑弥呼の呼びかけにハッとする。
「す、すまん。少し、疲れてるのかもしれない。」
心配そうに俺の手を握る彼女。
小さな手のひらは、温もりと少しばかりの震えを感じる。
「少し、少しだけね……怖くなっちゃって。鬼道やってるとね、神様の世界を知れるから、死後の世界とかもあるんじゃないかなぁ、って思えるようになるの。だから、自分の最期って別に怖くないって思ってたんだよ。」
彼女の手に力が籠る。
「でも、今は……少しだけ、怖い。」
無言で彼女の手を握り返す。
彼女の視線は握り返された手から、俺の顔へと移っていく。
「君を守る、なんて無責任な事は言えないけど、側にいるくらいならきっと出来る。」
その言葉に彼女は潤む瞳を細めて笑う。
何がなんでも、彼女を捕らえさせるわけにはいかない。
俺は歴史に立ち向かう決意を固めた。
次回投稿 3/25 19時〜(予約済)
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