交渉
ーあらすじー
交渉が苦手だというケイジ。
卑弥呼に任された『威国』との交渉の場に、伽牟羅と共に臨むのであった。
俺達が中へと入ると、シンプルな板張りの床にいくつものゴザが置かれており、室内は思ったよりも開放的な印象を受ける。
そこに二人、神経質そうな痩躯の男と、オロオロした物腰の柔らかそうな爺さんがいた。
痩躯の男はどこか不機嫌そうに顎髭を撫でていた。
「私を待たせるとは随分といいご身分のようですなぁ。ただの難民集団のゴマすり男の分際で。」
一言目から中々煽ってくれるものだ。
匿名掲示板『NO NAME』でもこういった奴はごまんといた。
我慢だ、俺。
「大和!待っていたぞ、さぁ、ほら、後は頼むぞ!」
爺さんは、もはや限界だと言った様子で俺にバトンタッチするようだ。
恐らく卑弥呼が言ってた爺さんだろうが、何とも頼りない気弱そうな人だ。
「大変失礼いたしました。卑弥呼様のお言葉を預かってまいりましたので、是非今一度、詳しいお話をさせていただければと。」
とにかく向こうが出してきてる条件を確認しなければ戦うこともできない。
俺は彼の目の前のゴザに向かい合って座る。
まずは様子見といったところだ。
「んー?そちらの彼に話していたんですがまだ伺っていないのですかー?ではいったい卑弥呼様とやらはどんなお言葉を用意されたんですかねぇ。」
男は意地の悪い笑顔を浮かべ、飽きもせずに顎髭を撫でている。
「他のクニを打倒する為に力を貸して欲しいというのは聞いております。ですが、念の為、貴方様の口から今一度、伺いたかったのです。」
わざとらしいため息をつくと、彼は肩肘を膝につけこちらを値踏みするように見つめてくる。
「……まぁいいでしょう。こちらからの要求はシンプルだ。我々『威国』への絶対的な服従。」
予想通り、余りにも規模のデカい要求だ。
「それについては良い答えを返すことは出来ませんね。……回りくどいのはやめましょう。本命の要求を出していただきたい。」
俺の言葉に威国の男は、小細工は通用しないと感じたのか、自嘲気味に笑うと口を開く。
「卑弥呼と大和、君達が欲しい。」
俺の脳内でパズルのピースが埋まっていく。
邪馬台国にしては規模の小さい集落。
そして卑弥呼と大和の身柄の要求。
卑弥呼は王としてもっと大々的にクニを治めていた。
……威国は恐らく、後の邪馬台国なんだ。
「……もし断れば、どうされるおつもりですか?」
「それも事前に話したはずだが?」
男は最早、自身が有利に事を運んでいると信じて疑っていない様子だった。
「武力行使ですか。ですが、そんなやり方でついていくものがいるとでも?」
「ついてくるさ。ついてこなければ死ぬだけなのだからな。」
彼は大きく高笑いしはじめる。
なるほど、昔らしい脳筋的な思考だ。
「……少し私が話す時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
ピタリと高笑いを止めた彼は、スッと冷静な顔になる。
「話してみよ。」
「ありがとうございます。では、貴方がたのその作戦は全て失敗に終わると断言させていただきましょう。」
俺の言葉に威国の男の眉根がピクリと上がる。
「……なに?」
「まず威国への絶対服従ですが、これはまず不可能でしょう。この村の人々は服従を望まなかったから別な村から逃げてきた。であれば、威国に服従することを誓わせたところでいずれ黙って威国を出ることになるでしょう。」
半分、嘘だ。
服従を望まなかったからかどうかは俺は知らない。
だが、他国から逃れてきたなら可能性として考えられるのは
①飯にありつけなかった
②追い出された
③支配されるのが嫌で逃げた
大方この辺りだろう。
なら間違ったことは言っていないはずだ。
「はっ、その為の卑弥呼という求心力だろう。彼女がいれば、ここの村人はついてくるのではないかな?彼女に心酔しているのだろう?」
痛い所を突いてくる。
村の人々が心酔してるのは、間違いないだろう。
でなければお告げの度にあんなに集まったりするわけがない。
「ではもしその卑弥呼様が亡くなるようなことがあったらどうします?自らの立場を嘆き、村人を解放したい一心で自ら命を……そうでなくとも逃げ出して一人で生きていくことを決めてしまうかも。そうなれば、村の人々はやはり同じように逃げ出すでしょうね。」
俺の言葉に、今度は威国の男の急所をついたのか向こうの顔色が少し悪くなる。
「しかし!そんなのはもしもの話だろう!卑弥呼の自由を奪えばいいだけの話だ!」
「彼女の自由を奪うような事をしたらそれこそ本末転倒では?鬼道を使って、未来を予見し、民の心を掴むのが彼女の強み。それを活かせなくなるし、卑弥呼様に心酔するような村人達が黙っているでしょうか?先程、卑弥呼に求心力があると言ったのは貴方です。それがそのまま反乱の火種になるのですよ?」
俺の言葉に最早、男の顔色は真っ赤になってしまっている。
「それよりも、対等な関係で行きましょう。私達は卑弥呼のお告げを威国の為に使いましょう。その対価として貴方達は我々の露払いをする。どうですか?」
俺の提案に、男の顔色が少し戻っていく。
「我々とお前らが対等な関係だと?ふざけているのか?」
「ふざけてなどいませんよ?貴方達、威国のやり方では不満を持つ人々も多いのでは?そういった民をうまく扱う術を手に入れられるかもしれないんですよ?」
男はしばし黙り込み考え始める。
「……少し、持ち帰って考えさせろ。私一人では、決めかねる。」
最初の小馬鹿にしたような態度は何処へやら、彼は真面目に俺の提案を視野に入れたように見えた。
「分かりました。よいお返事をお待ちしております。」
立ち上がると、足早に帰っていった。
「……ふぅ。つ、疲れた。」
思った以上にうまくやれた、かな。
だけど、あんな形でよかったのかなぁ。
「お見事でした、大和様。」
伽牟羅が後ろから声をかけてくる。
「いや、行き当たりばったりで穴を突っついただけだ。向こうが冷静になったらもしかしたら別な角度で提案してくる可能性もある。」
挙動不審な爺さんが、ブルブル震えながら口にする。
「でも、次断ったら武力行使って言ってたよぉ……大和くん、あのやり方はまずかったんじゃない……?」
相手のプライドは確かにへし折ってしまったかもしれないが、何も断ったわけじゃない。
過去にやってた交渉の数々を思い出す。
その度に俺は禍根を残し、相手を泣かせてきた。
また胃がキリキリと痛みだす。
だから交渉は苦手なんだ。
「……大丈夫ですよ。相手もバカじゃない。『侵略』と『協力』、どっちがいいかは明白だったはずです。」
爺さんの言葉に一抹の不安を抱えるも俺はそう口にする。
それは、自分に言い聞かせる言葉でもあった。
「それでは俺は、事の顛末を卑弥呼様に報告してきますので、これで。」
痛む腹部をさすりながら、足早に彼女の元に向かうのだった。
次回投稿 3/24 19時〜(予約済)
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