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疑問

ーあらすじー

ケイジが建屋の外の声の主の元へ行くと、隣村の宣戦布告ともとれる宣言をされたと慌てふためいていた。

卑弥呼とそれについて話した結果、ケイジは交渉人として指名されてしまった。

胃が痛い。


俺は昔から、交渉事は苦手だった。

なにせ子供の頃から一度だって上手くいった試しがない。


遊具の遊ぶ順番決めやサッカーのゴールキーパー、鬼ごっこの鬼を誰かやるか……大人になってからは、仕事の分配に関してだって、丸く収まった試しがない。


相手の顔を思い出すだけで、胃がキリキリとしてくる。


そんな俺の気持ちをよそにスヤスヤと眠っていた卑弥呼が、突如パチッと目を覚ますと飛び起きる。


「ただいまっ!聞いてきたよ!」


太陽のように眩しく笑う彼女の顔が、今の俺にとっては毒以外の何物でもなかった。溶ける。


「で?神様はなんて言ってた?」


彼女はニマニマと破顔している。嫌な予感しかしない。


「好きにすれば良いんだって!」


神様の無責任な言葉を、まるで素敵な贈り物のように投げかける彼女に俺の怒りはぶつける先を失って霧散した。


「……まともな神様じゃねぇのは、とりあえず分かった。で?どうせ、俺は『大和』なんだから、矢面に立たなきゃいけないのは決定だろ?」


俺のまともじゃない、という言葉に一瞬、眉根がピクリと動いたように見えた。


「そんな事言ってたらバチが当たるよ?」


子どもを諭すようにそう告げた彼女も、思うところがあるのかそれほど咎めてはこなかった。


「貴方が出ていくのが決定なのはその通り。どのみち、私の言葉は大和を通さなきゃいけないから。多分、向こうは色々無茶な要求をしてくると思う。」


「向こうの狙いはその要求を通すことじゃなくて、その後の本命を通すこと……だな?」


交渉の基本だ。

通常通るかどうか怪しい要求も、事前に無茶な要求をすることで心理的にハードルが下がる。


「そう。今までの報告を聞く限り、向こうの豪族はかなり野心的なの。自分の支配下に人を置くこと自体を求めるイヤなヤツよ。」


豪族……この時代の指導者層。

水田を巡って争ってたのは知ってるが、支配欲を持つものは昔から居たってことか。


「この寄り合いの規模や、資源。設備についてはおじいさん達や、大和の補佐に確認してくれれば、何も分からずに言いくるめられるってことはないと思う。」


交渉において、情報は命だ。

向かいながら確認していく必要があるな。


「それじゃあ、頼んだわよ。……えぇと、なんて呼べば?」


ここまで色々話したのに、自分のことについては何一つ話してないことにようやく気づく。


「あー……ケイジ。ヨヌマケイジ。」


自分の名前を明かすことに一瞬躊躇ったが、あれだけ未来の話をして、今更隠すのもバカらしいと思い素直に名乗る。


「いってらっしゃい、ケイジ!頑張って!」


思っても見なかった言葉に少し照れくさくなった俺は、振り返らずに建屋を出ていった。




少し建付けの悪そうな音を立てながら扉を閉めると、先程の村人が誰かと話しているのが目に入る。


歳は卑弥呼とそう変わらなそうな若者だったが、目つきが鋭く如何にも『デキる男』といった風体だ。


俺の存在に気づいたのか、軽く手を挙げながら近づいてきた。


「大和様。遅れまして申し訳ございません。少々、向こうの方を落ち着ける為に手間取りました。この伽牟羅、一生の不覚でございます……。」


伽牟羅と名乗ったその男は、俯きつつ謝罪の言葉を口にするが、その立ち振る舞いには一切の乱れがなく落ち着いた様子だ。


「それで、卑弥呼様はなんと?」


……回答に困る。

まさかバカ正直に好きにしろとは、口にする理由にはいかないだろう。


「ま、まさか……この村はもう終わりだとか言われたんじゃ……!」


俺が考えあぐねていると、村人の方が勝手に悪い方に捉えてまたアワアワしだす。


「いや、安心してほしい。卑弥呼様からは策を授かってきた。しかし、それは誰にも口外せずに交渉の場へと持ち込むようにとのことだ。今は告げられぬことを許してほしい。」


咄嗟に出た嘘にしては中々それらしいだろう。

俺の言葉に、村人は目を輝かせる。


「では大和様!早速、参りましょう!あちらの寄合所でお待ちですから!」


彼は俺の手を取ると、普段の農作業などで鍛えられているのか相当な力で腕を引かれる。


「か、伽牟羅!今の村の情報を再確認したい!行きながら説明してくれ!」


「分かりました。規模でいうと、500組程度の世帯が住んでいます。内訳としては大人が約1500人、内老人が500人で――。」


俺は引っ張られるせいで痛む腕を我慢しながら、村の情報を頭に叩き込む。


「ん?待て、随分少なくないか?」


卑弥呼といえば邪馬台国だ。

それなら本来は7万世帯は居るとされていたはずだ。


それに卑弥呼の場所も柵のある外縁から比較的すぐに見つかった。

通常、環濠集落の重要施設は中心部にあるとされている。


あまりにも狭すぎる。


「いえ、少しずつ迷い人を受け入れてますからむしろ昔に比べればずいぶん増えたかと。」


どういうことだ。

……ここは、邪馬台国では……ない?


混乱する俺を待ってくれるわけもなく、無情にも寄り合いの前へとたどり着いてしまった。


「大和様。」


伽牟羅の声でハッと我に返る。


「相手は威国を名乗る今一番勢いのあるクニでございます。緊張なされるのも無理はありませんが、何かあっても必ず私が御守りします。安心なされますよう。」


俺の様子を、会議への緊張と受け取ったのか、彼の言葉の隅々にまで和らげようとする配慮を感じる。


俺は、パチパチと両手で顔を叩く。


疑問は一度、置いておく。

混乱したままでは、相手に付け入る隙を作りかねない。


「……ありがとう、伽牟羅。よし……行くぞ。」


気持ちを切り替え、寄合所の扉を開いた。


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