表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第一章 ― 駒(こま)

彼らは互いに話し合いを始めた。

生徒会と校長の間での会話だ。


ついさっき自己紹介を終えたばかりの僕は、その場に取り残されるようにして待たされていた。


目の前のテーブルでは、それぞれの顔が白い布の幕で覆われている。

まるで法廷に立つ前から、すでに判決が下されているかのようだった。


「オホン……つまり、ジョアンさん。あなたの交換留学生としての事情は、もう隠し続けることができません。」


「予期せぬ出来事が起きてしまいましたので。」


「私たちは、あなたの情報をすべての者に共有する必要があるかもしれません。生徒や教師を含めて……」


「あなたの“問題のある背景”についても。」


それを聞いた瞬間、僕はわずかに顔を上げた。


まるで心臓が、少しずつ締め付けられていくみたいだった。


「ま、待ってください……!!」


「さもなければ――」


そのとき、見知らぬ声が僕の震える声を遮るように割り込んできた。


「あなたと、もう一人の教師はこの件について完全に沈黙を守ること。」


「外部へ漏らすことは、決して許されません。」


「その代わりに、あなたと私たち双方が得る“結果”があります。」


「――交換です。」


「あなたにはバディ教師を付けます。本来なら、交換留学生に最初から用意されるべきものですから。」


……


心臓が、小さな手でぎゅっと握りつぶされていくようだった。

呼吸する余裕さえなくなるほどに。


それは、彼らの汚れた提案のせいではない。


――ブルー先生の代わりに、別の誰かが来るからだ。


だから僕は、礼儀正しく、丁寧な声で答えた。

提案は受け入れるけれど――


彼の代わりを、誰にもさせないという意思を込めて。


「僕には……すでにブルー先生がいます。」


「他の生徒たちも、みんな優しくて……僕を受け入れてくれています。」


だが、その言葉が怒りを呼び起こすとは思いもしなかった。


「ただの外国人の子どもが、親のいない哀れさを利用してこのインターナショナルスクールに通っているだけだろう!!」


「私たちは一銭も受け取っていないんだ!」


「君には、もう何かを言う権利なんてない――!!」


はぁ……はぁ……はぁ……


息が荒くなる。


涙がこぼれないよう、必死に自分を落ち着かせようとした。


それでも、結局は流れてしまった。

彼らの要求を受け入れるときには。


「我々の言う通りにしなさい。」


「さもなくば、この学校を出て――放浪者になるがいい。」


最後の声は、さっきよりも柔らかかった。


……それとも、


それは僕たちが勝手に作り上げた、偽物の優しさだったのだろうか。


その夜。

学生寮の共同部屋で、僕が何に泣いているのか誰も知らなかった。


翌朝、みんなにはこう言った。


「ホームシックで……騒がしくしてごめんなさい。」


それから数日後。


見知らぬ教師が現れた。


真っ白なスーツ。

穏やかな表情。

そして、完璧な礼儀。


彼は、僕の隣で昼食をとっていたブルー先生の方へ向き――


僕を話題の中心にして、会話を切り出した。


“I know you won’t leave… not without him.”


そのときの僕は、まだ知らなかった。


彼が本当に僕たちを助けようとして来たのか、

それとも、自分の利益のためだったのか。


けれど結果として――


ブルー先生まで巻き込んでしまった。


そして翌朝。


学生寮で、一通の手紙が僕の手に届いた。


それを読んだとき、ようやく気づいた。


僕はずっと――


ただの駒だったのだと。


自分の意志すら持たない、盤上の駒。


けれど、もしも。


もし、僕にほんの少しでも意志があったなら――


誰かが、僕を大切な存在として見てくれる人がいたなら。


たとえその駒が、勝利へ導くものではなかったとしても。


それでも――


「嘘はつくな。」


「もし嘘をついたら……先生は分かるんですか?」


ジョアンは、わずかに目を伏せた。


ブルー先生の青い袖が動き、彼の手がそっと彼女の顔に触れる。


長い間、ひとりで背負ってきた表情。


大きくて重たい手のひらが、片方の頬に静かに触れる。


かすかに、海の匂いがした。


涙は流れなかった。


押し当てるように探しても、涙は見つからない。


けれどその一瞬、

青い服の教師は、ふと思った。


まるで――


自分はずっと前から、彼女を知っていたかのようだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ