第二章 ― 親友
激しい足音が廊下を打ち鳴らす。
燃え立つような手が扉という扉を次々と開け放ち、何かを探している。
その一部始終を――後方から追っていたジョアンのカメラが記録していた。
見つけた。
標的を。
目の前に現れたブルー教師の襟首を、彼は掴み上げた。咆哮は廊下に響き渡る――だが声とは裏腹に、その態度はなお抑制され、なお冷静だった。
「どういう意味だ、それは!?」
襟を掴まれた若い教師は、顔色ひとつ変えず、平坦な声で答える。
「……もう気づいたみたいだね」
その静けさを見た瞬間、ブルーの手が震えた。
握力が強まり、相手を壁へ押しつける。
「まだ落ち着いていられるのか……!! 説明しろって言ってるだろ!!」
――どさり。
若い教師の膝が床に落ちた。
目の下の濃い影が、まるで視界そのものを曇らせているかのようだった。
それでも彼は、ついに真実を口にする。
――回り続ける映像の中で。
RECORD:/Cam 01
「もう察しているだろうけど、この学校は生徒を二つの側に分けている。問題か、不平等か――理由はあるのかもしれない。だが、あそこまで極端な階級制度を作るのは、“名声こそ絶対”なんて馬鹿げた権威を崇拝していなければ不可能だ」
「……お前」ブルーが低く言う。
「どうしてあの日、俺に名前をつけた。どうして生徒たちに“ブルー”として俺を知らせた。そんな必要、俺にはなかったはずだ」
「向こう側の連中にも、“家”を与えたかったからさ。――たとえ一つだけでも」
カメラは跪く教師を映し続ける。
だが次の瞬間、焦点は別の人物へ移る。
顔を上げ、涙をこぼすもう一人の若い教師。
「どうやら僕たち、親友みたいだね〜」
その場でブルーは、二人に真実を明かした。
第二学期の終わりまで――彼には期限がある。
教師として、映画学が他教科と同等の価値を持つと証明できなければ、
彼は異動になる。
✦ ✦ ✦
月曜の朝。ざわめきに満ちた教室。
そして、思索に沈んでいくジョアン。
ブルーの映画の授業は、他のどの科目よりもはるかに能力を要求した。
人間の目は同じ構造をしている。
だが、フレームの中のすべてを捉えられる者は――写真家でさえ、ほんのわずかしかいない。
例外はただ一種。
異様な集中力と高い知性を持ち、ひとつの対象に取り憑かれたように没入できる者。
枯れかけた葉一枚でも。
雨を避けて飛ぶ蝶一匹でも。
そういう人間は、それを見つめながら――終わりのない映像を思考の中に展開させる。
「先生……何を見てるんですか」
「ジョアン……」
昼休みの食堂を、二人は並んで歩く。
「ショシル先生の話……本当に驚きました。学校があそこまでして生徒を分けるなんて、あり得るんですか」
「ショシル先生は、“なぜ分けるのか”までは言ってなかっただろ」
同じ色の木の机が並ぶ食堂。
二人は腰を下ろし、パンの箱をいくつも広げ、冷えた果汁瓶を手元に置く。今日の昼食はブルーの奢りだった。自分のクラスの生徒が来れば、さらに買い足すつもりでいる。
食事の時間は穏やかに過ぎていった。
そこにいる全員の心が満たされていた。
――そのとき。
一人の人物が、彼らの前に立った。
背後の陽光を遮る影。
カラン。
スプーンが落ちる音。
そして、子どもたちの声が一斉に消えた。
「ブルー先生」
……
「やっと会えましたね。――本物に」




