第一幕 ― 青
黒塗りの巨大な鉄門が――
軋む音とともに閉ざされた。
二度と開かれることはないと宣告するかのような、重く、決定的な響き。
黒いスーツに身を包んだ校長たちが、まるで陪審団のように横一列に並び、
目の前の二十二歳の青年へ向けて静かに拍手を送る。
――だが、その顔に歓迎の色は一切なかった。
青年は無関心にショルダーバッグへ手を差し入れる。
彼の視線を奪っていたのは別のものだった。
淡い色をした欧風の校舎。
窓硝子を通り抜けて流れ込む黄金の光。
それが過剰なほど美しく、
彼の瞳のレンズへ砕け散る。
喉の奥で、かすかな笑い。
目の前の校長たちが硬い声で告げる言葉など、
まるで聞こえていないかのように。
「――君の本名は、決して誰にも知られてはならない。」
この学園は長い伝統と名声を守り続けてきた。
ゆえに――
ブルー。
それが臨時講師として与えられた、君の番号だ。
「理解したな。」
✦ ✦ ✦
胸元で揺れるネームタグ。
Joanne――整った活字。
一度では読み切れないほど長い姓。
British / 14
カードが胸に触れるたび、
かすかな音が呼吸に合わせて鳴る。
「はぁ……はぁ……」
黒のスーツと赤いネクタイは太陽光を吸い込み、
肌を焼くほど熱い。
こんな日差しは知らない。
こめかみを汗が伝う。
――ここがどこかも、まだ分からないのに。
「Where… am I—!?」
(ここは……どこなんだ……!)
鐘が二度鳴った。
ゴーン、ゴーン。
ジョアンはベンチから跳ねるように顔を上げ、
揺れる鐘楼を見つめる。
だがすぐ気づく。
音の正体など重要ではない。
目の前で起きていることの方が――
生徒たちが、降りてくる。
群れで。
次々に。
まるで波のように。
すべての視線が彼へ向けられ、
そして影のように通り過ぎていく。
その瞳が問いかける言葉は、ただ一つ。
――誰だ?
なぜここにいる?
ジョアンは居場所を探して歩く。
だが立つべき場所が分からない。
迷い足で動くほど、
視線は増えていく。
タイ語。英語。
重なり合う問い。
聞き取れない。
理解できない。
汗がさらに流れる。
言葉。視線。触れられる感触。
――逃げたい。
――倒れそうだ。
その瞬間。
白い服の男が一人、歩み寄った。
手にはカメラとノート。
誰よりも背が高い。
彼はジョアンの前に立ち、
周囲の生徒を一瞥してから、
穏やかな声で言った。
「はいはい――きちんと整列しようか。」
生徒たちは状況を悟り、散っていく。
ざわめきは潮が引くように静まった。
残ったのは、
その教師とジョアンだけ。
並んで国旗へ向かって立つ。
彼は露骨に助けたわけではない。
だが状況は、確かに収まっていた。
「ここで先生と立っていればいい。
誰も君を捕まえたりしないよ。」
柔らかな表情。
そして――
そのかすかな微笑みは、一瞬で消えた。
ジョアンはあの日を忘れない。
ブルー先生は質問をしなかった。
異物を見る目もしなかった。
ただそこに立っていた。
朝の光の影とちょうど重なる位置に。
そしてジョアンを、
その影の中へ立たせた。
後になって彼は理解する。
あの何気ない言葉は、
単なる優しさではなかった。
――教師自身もまた、
この学園の中に居場所を持たない人間だったのだ。
だから二人は、
どこか似ていた。
あの朝のジョアンも。
そして――
「溶け込め」と教えられたことで、
今日の彼はどこにでも立てるほど強くなった。
……
拍手。
歓迎ではない。
儀式だ。
判決文を誰も読み上げないまま、
目の前の人間が裁かれていると宣告するための。
再び拍手が鳴る。
今度は――
誰一人、彼を見ていなかった。
「生徒たちに、君のような教師を知られるわけにはいかないからな。」




