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八甲田山転生 ~現代知識で雪中行軍を生き抜く。犠牲者は、出さない~  作者: 露李鈴
第七章 1902年1月28日(六日目)

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第五十三話 第八師団連合部隊、帰還セリ!

 一月二十九日、午前八時。


 青森歩兵第五連隊営舎、その正門。


 あたりには重苦しい沈黙と、

 凍りついたような諦めが漂っていた。



 数日前から続く未曾有の大寒波――


 屯営に残された将兵や、

 家族たちの間でも、


 行軍隊二百十名の『全滅』は、

 もはや、誰の目にも明らかだった。



 青森の兵営から救援隊を田茂木野へ向けたものの、

 得られた情報は「消息不明」のみ。


 兵営内では、すでに、

 合同葬儀の準備すら囁かれ始めていた――



――――――――――


 青森営舎の正門に立つ衛兵が、

 雪の地平線の向こうに「何か」を見た。


「……あれは、三神少尉の救援隊か……?」


 衛兵は目を細める。


「……にしては人数が……多い……?」


 人影が、一つ。


 二つ。


 ……十。


 ……二十。


 衛兵は、目を疑った。


 吹雪の幕を割って現れたのは――

 地面を揺るがすような巨大な「黒い塊の列」だった。



「ほ、報告ッ! 正門前方に、大規模な隊列を確認!」


 衛兵の叫びが営舎内に響き渡る。


 本部から飛び出してきた週番司令や、

 将校たちが双眼鏡を覗き込む。



 誰もが絶句した――



「……あれは……百、二百……いや、それ以上はいるぞ!?」


 兵営からの救助隊でもない。

 数日前、青森営舎を出た第五連隊にしても多すぎる。


「……あの軍旗、なんだ……『五』だけじゃない……」


「……『三十一』だと……っ!?」


「……弘前の軍旗っ!? どういうことだ!?」



――――――――――


 謎の人影は、ゆっくりと大きくなり。

 その営門を左右に叩き開けた。


 雪煙を突き破り、

 足並みを揃えて入ってきたのは――


 本来なら、決して並び立つことのなかった、

 第五連隊・第三十一連隊の連合部隊。



 先頭を歩くのは、寒さに顔を真っ赤に上気させた、

 弘前隊の案内人でもある「七勇士」。


 その後ろには、

 凛とした表情で軍刀を握る福島泰蔵フクシマ タイゾウ大尉。


 そして、第三十一連隊の精鋭たち。


 さらに、その後ろからは、

 負傷者を乗せたそりを鉄壁の陣で守りながら、


 一糸乱れぬ規律を維持した青森第五連隊の本隊。


 それら多くの兵たちが、

 整然と正門を越えて練兵場に流れこんでくる。



「な、なにが……どうなっている!?」


 生存者がいる、そう、

 田茂木野からの先触れは届いていた。


 だが、目のまえの光景は想像を絶するものだった。


 営舎から出迎えた連隊本部の将校たちは、

 もはや、目のまえで何が起きているのか把握もできず。


 口を半開きにして立ち尽くしていた。



「……神成か? 神成文吉カンナリ ブンキチなのか……っ!?」


「なぜ、弘前隊と一緒にいる!?」


 青森本部の連隊長が、

 雪と霜に覆われた神成大尉の元へ駆け寄り、詰め寄った。


 ここ数日の情報が一切入ってこなかった本部にとって、

 この光景は、もはや『奇跡』という言葉でしか説明がつかなかった。



 神成大尉は、

 八甲田の嵐を越えてきた眼光で、


 連隊長を見つめ、腹の底から、咆哮する。



「報告いたします!!」


 その声は、絶望に沈んでいた青森営舎全体を震わせる。


「歩兵第五連隊、雪中行軍隊……二百十名!」


 一拍。


「歩兵第三十一連隊、福島隊……三十七名!」


 一拍。


「随行、案内人……八名!」


 深く、息を吸う。


「計、二百五十五名」



「一人の落伍者もなく――」


 その言葉は青森営舎の空気を割った。


「ただいま、帰着いたしました!!」


 次の瞬間、神成大尉が背筋を伸ばして敬礼をする。


 瞬間、後ろの統合連隊の全員が、一糸乱れぬ敬礼をみせた。



――――――――――


「……ぜ、全員だと……?」


「二百……いや、この人数で、全員生きてるのか……っ!?」


 連隊長の言葉を最期に、訪れる、一瞬の静寂。


 そして、一拍……。


 二拍……。



「うおおおおおおおおっ!!」


 青森営舎は、爆発したような歓喜に包まれた。



「生きてる! 本当に生きてるぞーッ!!」


 心身ともにボロボロな、

 第五、第三十一連隊の将校たちは、


 迎えに来た営舎の仲間たちと、

 互いに抱き合い、人目も憚らずに号泣していた。


 もう、理屈など、どうでもよかった――


 目の前に、二百五十五名が生きて立っている。

 それが全てだった。



「……ふう、随分と騒がしいのう……」


 そりから自力で降りる山口鋠少佐に、

 営舎の軍医たちが、慌てて駆け寄る。


「少佐、ご無事で……! しかし、一体どうやって……!?」


「……小林少尉だ」


 山口少佐は、誇らしげに俺を指差した。


「彼の描いた地図が、彼の築いた拠点が、

 そして、彼が繋いだ弘前隊との絆が……我ら第八師団を一つにした」


 山口少佐の目には涙がこみあげていた。


「我々は勝ったぞ……。

 八甲田という死神に、打ち勝ったのだ!」



――――――――――


 そんな熱狂の中、

 俺は背後の八甲田の山並みを仰ぎ見た。



 見てるか、小林守コバヤシ マモル――


 守れなかった名を背負い、

 俺は、ここまで来た。


 あの山に刻まれるはずだった惨劇を、

 ここで、食い止めた。



 みんなで、帰ってきたぞ――


 兵たちの歓声は、その日、遅くまで、

 八甲田の空を震わせていた。


八甲田山転生、ここまでの雪中行軍に御一緒くださり、

誠にありがとうございます。


第五連隊、そして、第三十一連隊。

両隊そろって無事に青森営舎への帰営を果たせました。


「ここまで積み重ねてきたものが、ようやく、ひとつの形になった――」


そんな思いで、この帰還のシーンを書いております。


最後の帰路は、連合部隊結成の勢いと、その高揚感を損なわぬよう、

あえて短めにまとめてみました。

そこに「みんなで帰ってきた」という実感が、

少しでも届いてたら嬉しい限りです。



■ 「3月27日に完結」:残すところ、明日、明後日の二日間。


最後の帰営後のエピソードを経て、本作は、いよいよ完結を迎えます。


そして、27日の最終日のみ、

特別に21時、22時の「一挙、二話更新」にて、その最後を飾ります。

最後の時まで、皆さまと御一緒できましたら幸いです。


ここまで、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
文章に引き込まれハラハラドキドキ読んでいました。 無事に帰還でき良かったです。 八甲田の話しが終わったあと同じ主人公で続編があるならぜひ読みたいです。 日露戦争は八甲田から無事に帰還した経験があるので…
無謀な陸軍の教訓は?
この世界線の【遭難始末】ではなく、【戦闘詳報】を読んでみたいな。 冬季作戦における値千金の情報山盛りだろうからね。
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